平成30年度人権啓発指導者養成研修会 採録コラム

東京会場 講義4 平成30年10月18日(木)

  「海外にルーツを持つ子ども・生活者〜現状と課題〜」

著者 特定非営利活動法人青少年自立援助センター定住外国人支援事業部責任者
田中 宝紀
寄稿日(掲載日) 2019/07/10


【2010年度に事業部を新設し、事業を開始】

 皆さん、こんにちは。NPO法人青少年自立援助センター定住外国人支援事業部の田中と申します。

 私は普段、海外にルーツを持つ子どもや生活者のサポートをしています。そのような現場から見えてくる実態なども含めて、現状と課題を中心にお伝えできればと思います。

 当法人は2010(平成22)年から海外にルーツを持つ子どもと若い人たちのための専門的な日本語教育の支援事業を運営しています。スクールを運営する傍ら、海外にルーツを持つ子どもたちのこと、外国人保護者のこと、今、政府のほうで盛んに推進している外国人の労働者の受け入れ等について、ヤフーニュースやウェブメディアなどで情報発信もしています。

 当法人は1990(平成2)年にNPO法人化されました。もともとはひきこもりやニートといった若年無業者の方々の自立就労支援を柱として活動をして来た団体です。拠点を置いている福生市は米軍の横田基地がある関係もありまして、以前から外国人の住民の割合が比較的高い地方公共団体なのです。海外にルーツを持つ子どもたちがとても多く、また課題を抱えていることもありまして、2010(平成22)年度から私が担当している定住外国人支援事業部を立ち上げて、教育支援事業と自立就労支援事業を行ってきました。主に日本語教育、学習支援、就学や進学の支援などをしていますが、それ以外に、働きたいという若者のために自立就労系のセミナーなども行っています。

【外国にルーツを持つ子どもとは】

 さて、皆さん、こちらをご覧いただければと思います。これは、私たちが過去にサポートをしてきた子どもたちです。この6人の子どもたちには、ある共通点があります。それは、外国にルーツのある子どもたちで、日本語学習中という共通点です。実は、この子たちはみんな日本国籍を持っています。日本人です。

Aさんは17歳。日本人男性とフィリピン人女性の間に生まれました。フィリピンで生まれて、16年間フィリピンで育ちました。2017(平成29)年に初めて来日した当時は日本語が全く話せませんでしたが、今は日本語もペラペラになり、高校生活をエンジョイしています。

B君は11歳。バングラデシュ国籍です。バングラデシュ男性とブラジル人女性の間に生まれました。生まれてからずっと日本で育って、1回も海外に出たことがありません。バングラデシュ人のお父さんとブラジル人のお母さんは日本で出会ったので、二人の共通言語は日本語です。B君の母語も日本語になります。B君は、日本語以外は全く話せません。

私は日本国籍を持っています。ハーフコリアンの父と朝鮮籍の母との間に生まれました。日本で生まれて、日本で育ちました。16歳で初めてフィリピンに行きまして、それ以降、フィリピンと日本を100回以上往復しています。ちなみに、アイデンティティは完全に日本人です。日本語母語を喋りますが、第二言語はフィリピンの民族語であるビサヤ語です。

 このように、日本に暮らす人々は非常に多様化していると感じるこの頃です。

 私たちが普段サポートをする海外にルーツを持つ人の中には、今、見ていただいたように日本国籍を持つ青少年も含まれています。時には、難民二世の子どもや、無国籍状態にある子どもとも出会うことがあります。国籍を問わず、両親またはそのどちらか一方が外国出身者である子ども、あるいは若者、あるいは生活者のことを、海外にルーツを持つ人々と呼んでいます。

【YSCグローバル・スクールに通う子ども・若者たち】

 日常、私は、このような子どもたちのサポート活動を中心に取り組んでおりまして、年間約100人以上の子どもたちと出会っています。B君のように日本生まれ、日本育ちの子どももいれば、「つい先日、日本に来ました」という新規来日の子どももいます。

 東京都の23区外全域、全市町村から受け入れ実績がありますし、千葉県や神奈川県から、通所に片道2時間以上かけてやって来る若者もいます。これは、こうした子どもたち、若者たちを専門的に支援する場所が無いということの表れでもあります。

 今はオンラインで、遠隔地教育という形で私たちのスクールの日本語教育や学習支援プログラムを配信する試みも始めました。日本語教育を担う人材が少ないからです。特に地方ではなかなか見つかりません。このオンライン遠隔地教育はスカイプ英会話の要領です。2016(平成28)年11月にサービス・インしたのですけれども、約30人が全国各地から学んでいます。中には時差を調整してインドネシアから学習に参加してくれた子どももいました。

 私は、これまでに30以上の国の子どもたちと出会ってきました。主に中国、フィリピン、ネパール、ペルーの子どもが多いのですけれども、それ以外にロシア、最近はケニアの方が増えてきており、ガーナ、ジャマイカ、アメリカ、イラン、パキスタン等々の地域の子どもたちも集まってきています。毎年新たに100人ぐらいの子どもたちをサポートしているのですが、概ね20%から30%ぐらいは困窮家庭、一人親世帯の子どもたちです。特にフィリピンにルーツを持つご家庭は、フィリピン人のシングルマザーが一生懸命子育てをしているというケースが多いです。こうした経済的に苦しいご家庭に対しては、一般の方々から寄付をいただいて奨学金を内部で組み立てまして、無料で日本語の授業が受けられるよう配慮をしています。

【日本語学校×フリースクール×塾】

 朝から晩まで授業が組まれていて、1日3交代です。日本語学校、あるいはフリースクール代わりに通ってくる子どももいれば、放課後、学校が終わった後に塾代わりに通ってくるような子どもたちもいるので、毎日てんやわんやの状況です。

 それ以外にも、キャリア教育などにも取り組んでいます。日本で自立していくためのサポートが展開されていく予定なのですけれども、なかなか自ら日本語で情報を得て判断して決断することが難しいので、様々な情報提供や体験やスキルの獲得機会などを設けたりしています。

【教育における課題】

 彼らの教育における課題からまず見ていきたいと思います。

 文部科学省の「日本語指導が必要な児童生徒の受け入れ状況等に関する調査(平成28年度)の結果について」http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/29/06/1386753.htmによると、全国の公立の小・中・高、中等教育特別支援学校等に在籍をしている日本語指導が必要な児童・生徒の数は、この10年で約1.6倍の4万3,947人になりました。日本国籍を持っている日本人の子どもにも日本語が分からない子どもが増えているというデータになります。これは、日本語指導が必要だという状況を表した調査で、海外にルーツを持つ子ども全員がカバーされているわけではありません。外国籍の子どもであれば、8万人ぐらいになるのですけれども、そのうちの半分弱ぐらいは日本語指導が必要な状態ではないかと思います。

 さらに、公立の小学校、中学校限定ですが、2万9,566校の中で日本語指導が必要な子どもが在籍している学校が全体の26%あります。横浜のある小学校は、児童全体の半数以上が外国にルーツを持っているそうで、運動会も6言語ぐらいでアナウンスされるということでした。

【国による関連施策の整理】

 今年度までの国による関連施策もいろいろありますし、次年度に向けて、さらに一層の取り組みが推進されていくわけですが、地方公共団体によって格差が非常に大きいです。日本語の支援をやっていると回答があったところでも、200時間ぐらいの支援をするところもあれば、6時間ぐらいしか支援をしていないところもあります。

 支援者の方も、有償、無償のボランティアが担うことが多いです。学校の半数以上が外国にルーツを持つ子どもがいるような学校では、日本語担当の教員がいたり、子どもの母語を話せるバイリンガル支援者がいたり、通訳によるサポートを受けられるところもありますが、日本語指導といっても、結局、通訳をしているだけという状態で終わってしまうところもあるようです。学校によって支援の内容にも大きなばらつきが見られるのです。

【外国人集住地域と散在地域】

 外国人の方が多く住んでいる地域のことを外国人集住地域と呼び、外国人の割合が低い地域のことを、外国人散在地域と呼ぶことが多いです。外国人集住地域の場合は、読んで字のごとく、外国人人口割合が高い。特定の団地や地域などに外国人が集まって住んでいて、近くの学校は半数以上が外国にルーツを持つ子どもということもあります。そのような地方公共団体の首長さんたちが集まって外国人集住都市会議を毎年開催しています。このような地方公共団体は、外国人の問題に取り組まざるを得ない状況にあり、また、比較的に都市部にあるため人材や予算といったリソースを集中投下しやすいです。

 一方、外国人散在地域は、外国人人口の割合が低く、海外にルーツを持つ子どもがほとんどいない、あるいは、いてもごくわずかですので、消極的な取組のところが多いです。たった一人の日本語が分からない子どものために、予算や支援人材をどこまで割くことができるのかということです。地域に支援をしてくれる人材が見つからないところもあります。

 日本語指導が必要な子どもを取り巻く現状は、やはり、そういう子どもたちが増加をしているということ、そして多様化をしているということです。そして、集住化が進む一方で、これまで外国にルーツを持つ子どもがほとんどいなかった地域でも、その姿が見られるようになってきたという面もあります。この10年で1.6倍増えているのです。本当の意味での実態把握はとても難しいところです。

【無支援状態10,000人】

 公立学校に在籍している日本語が分からない子どもたちが4万3,000人いる中で、学校で何の支援も受けていない子どもが1万人以上いることも同じ調査から分かっています。学校で日本語支援が受けられない理由の最たるものが日本語を指導する人材がいないということです。ボランティアの負担が大きい。あるいは、ボランティアが頑張ってきたのだけれども、ボランティアの高齢化で続けられないという声もよく聞かれます。

 学校のほうでサポート体制を整備していくことも推進されていますが、果たして、実際に外国にルーツを持つ子どもたちが入学して来た時に、ぱっとサポートができるかというと難しいものがあります。地域間格差というのは非常に大きなもので、この辺りが解消されない限り、外国人の子どもの「教育を受ける権利」はなかなか保障されないと考えています。

【外国人の子どもの教育と権利】

 次に、いわゆる外国籍の子どもの教育と権利についてお話します。外国籍の子どもの場合、義務教育の対象外になっていますが、子どもの権利条約を日本は批准していますので、教育を受ける権利は認められ、日本人の子どもと同様に無償で受け入れをしています。

 ただし、日本語ができるようになってから学校へ来てくださいと言われる事例があります。私たちの周辺でも大変多く見られます。例えば、10歳で来日したインドネシアにルーツを持つ子どもです。ご両親ともにインドネシア国籍です。お父さんは日本語ができますが、お母さんは話せません。教育委員会の窓口で子どもの就学手続きをしようとしたところ、もちろん、子どもは来日直後で日本語が分からないのですが、教育委員会の担当者は、受け入れるのは学校なので、まず学校に確認しますと言いました。学校は支援の仕組みがありません。日本語がわからない状態で、ただ机の前に座っているだけではかわいそうだから、今の時点では受け入れをすることができませんと伝えて来ました。教育委員会の担当者からは、「学校は日本語ができないと受け入れられません。日本語をどこかで勉強してから、もう一度来てください」と伝えました。しかし、地域には支援団体も支援者も無く、日本語を学びたくても学べないのです。この子どもは長らく不就学の状態で放置されることになってしまいました。

 現在も、こうしたことがたくさん起こっています。

【このような場合は?】

 保護者も子どもも日本国籍の場合、保護者に就学義務があります。保護者が外国籍で、子どもが外国籍の場合は保護者に就学義務はありません。では、保護者が外国籍だけれども、子どもが日本国籍の時、あるいは、子どもは外国籍だけれども保護者が日本国籍の場合、これは義務教育の範囲に入るのでしょうか?

 多様化が進む中で、これまでの枠組みでは扱い切れないようなケースが増えていると思います。そろそろ変わり目かと感じています。

【いじめ・差別】

 海外にルーツを持つ子どもたちが、学校に行けたとしても安心して過ごせるかというと難しい部分もあります。これまで私たちがサポートしてきた子どもたちは600名以上になりますが、そのうちのほとんどの子どもたちがいじめや差別を経験しています。

「国に帰れよ」、「肌の色が汚い」、「うつる」、「頭が悪いんだから日本語ができないんだろう」と言われた子どももいます。こうした言葉が子どもたちから出るということは、やはり大人の影響がとても大きいと思います。

 このようなことが、日本語の壁以外にも大きく子どもたちの前に立ちはだかっています。保護者の中には、「外国人である自分が、言葉の壁や差別がある中で子育てをするのはとても大変だ」とおっしゃる方もとても多いです。

 子どものいじめや日本語のこと、自分が子どものために用意すべきことを用意できないことなど、子育てでとても苦労をされています。言葉が分からない社会の中で、子どもの教育をしっかりこなしていくのは非常に難しい。そのために自信を喪失してしまう。あるいは子どもが親御さんを尊敬できなくなってしまうといったこともあります。

 子どもたちは日本語が分からないことで多くの困難を抱えます。友達ができない、勉強についていけない。中国にルーツのある、ある女の子は、中国で非常に優秀な成績を修めていたらしいのです。日本にやって来て、初めて学校で受けた試験で全部0点だった。それにものすごくショックを受けて、「私は、本当はばかじゃないんだ」と私たちの前で大泣きをしたことがありました。できるはずのことができないという、一時的に力を奪われる状態の子どもたちもたくさんいます。

 日本語が分からない状態でついていけないということは、日本語ができるようになった時点では、もう大きく逃している単元があって、高校進学を諦めてしまうこともあります。一説には、高校進学率が60~70%に留まるだろうとも言われています。

 朝日新聞の報道にもありましたが、せっかく頑張って高校に進学をしても、日本語の壁があり、中途退学率も9%以上に昇っているそうです。日本人の子どもの高校中退率が2%弱ということを考えると非常に高い割合だと思います。言葉が分からないのにじっと机に向かって座っているのは、とても苦しいことでしょう。不登校に陥る子どもも少なくないですし、全く友達ができないことで、孤独感、孤立感に苛まれることもあります。出身国に戻ったとしても、完全にはそこの国の人にはなりきれないというアイデンティティの揺らぎを抱えることもあります。

 日本語の壁と同時に、子どもたちの場合は母語の壁もあります。日本で、日本語環境の中でずっと小さいうちから育っていくと、母語が年齢相応に育たない場合もあるのです。実は、第二言語としての日本語力は、母語が伸びた力のところまでしか伸びないということが言われています。例えば、6歳で来日をして母語が6歳の時点で止まっていると、日本語の力も、10歳、11歳になっても、そこまでは伸びないということです。日本語も母語も中途半端なダブルリミテッドという状態、あるいは母語を完全に喪失してしまって、日本語しか分からないのにも関わらず、日本語の力が小学校1、2年生レベルで留まってしまう、シングルリミテッドと呼ばれるような状態も現場では数多く目にすることがあります。

 母語の柱が無いと抽象的な概念を育てることが難しくて、例えば、XをYに代入する、光や力といった目に見えないものを学ぶ、そのようなことが困難になります。そして、何を聞いても「いいっす。まあ、いいっす。別にいいっす」という感じで、考えることを放棄するような態度になる子どもたちもいます。

 また、外国人の親御さんが日本語をあまり得意でない場合、親子の間で複雑な会話を交わすことができない場合もあります。中には、親子間の共通言語を失っているご家庭もあります。このように意思疎通がほぼできないような場合、親御さんのことを尊敬できなくなって、家を飛び出してしまう子どももいます。

 今後、ますます外国人の数が増加していくと思いますが、しっかり受け皿をつくり、適切な教育機会を提供していかないと、このような子どもたちが日本の社会の中で成長し、例えば、満足に就労できずに生活保護を受給する、正規の職に就けなくて職を転々とする、10代で妊娠・出産をするなど、貧困を再生産していくことにも繋がっていくと思います。

 今、子どもたちをしっかり育てていくという視点がとても大切だと思います。それは、子どもたちの学ぶ権利を守るということにとどまりません。私たち日本社会が彼らを大切にしていくことは、今後、彼らに日本社会の中でしっかりと活躍をしてもらうための未来への投資ということができるのではないでしょうか。

【自立・就労における課題】

 外国人が働くことになった時に、いくつか抱える課題があります。最近、技能実習生に関する問題や、いわゆる偽装留学生のオーバーワークの問題を報道で見聞きするようになりました。私も、ある時、コンビニでバイトを始めた留学生から、「恵方巻を10本売らなくてはいけないとノルマを課せられたけれど、全然売れないから、先生、買いにきてほしい」という電話をもらったことがあります。それが不当なことだということを彼らは分かりません。日本で初めて仕事をする留学生もいるので、自分が置かれた環境がホワイトなのかブラックなのか判断できないこともあります。

 次に、外国人が働く上で困ることをいろいろ挙げてみました。海外にルーツを持つ若者で、日本で生まれ育った人の事例です。日本語しか話せないのですが、名前がカタカナで、国籍も外国籍であるため、面接の時に何度も確認されるらしいのです。「本当に日本語できるの? じゃあ、書いてみて」と。履歴書もきちんと日本語で書いているのですけれども、面接会場で本当に日本語が書けるか試されるということでした。

 他に、宗教への対応ができないからという理由で断られたという人もいます。働きたくとも、面接でつまずいてしまうことが多いのです。仕方なく外国人コミュニティの紹介で不安定な日雇いを渡り歩くという若者も少なくありません。

 高校中退率が9%という中で、中退後の15、16歳ぐらいの子どもたちが、しっかり就労するためのサポートが無くて困っています。本人たちだけで何とかしようとして、紹介、紹介で、時には危険な仕事を渡り歩くようなこともあります。

実際に働いてみて、給与面で日本人と差があるケースもあります。勤務時間も長時間労働をさせられるという話も聞いたりします。社会保障も保険に入れてもらえないこともあります。離職の一番の理由は人間関係です。しっかりコミュニケーションが取れればいいのですけれども、日本語の力が不十分な中で、日本人上司にばかにされたといって泣いてやってきた子もいます。彼女から聞いた話だと、日本人上司が罵倒したような感じになってしまうのですが、日本人上司が彼女に対して言ったことを考えると、どちらかと言うと、愛情を持って育成しようとしたのではないかと感じたケースもありました。

 その辺りが、海外にルーツを持つ人が働く上での難しい点でもありますので、お互いの歩み寄りがこれから必要なのかなと思う部分です。

 一方で、昨今の人手不足で、非常に就労の間口は広がっているという感じがします。今までは工場のラインの仕事がメインだった子たちも、コンビニやファストフード、いずれにせよ非正規ですが、サービス業への道が開けてきました。その中で頑張って社員になるというステップアップをする子どもたちもいますし、親の経済的な環境が安定し始めて専門学校に進むことができて、ついこの間、美容師になりましたという報告をしてくれた若者もいます。今は過渡期にあるので、試行錯誤をしながらお互いにどうやったら気持ち良く働くことができるかということを考えていくことが重要だと思っています。

【教育と就労とセーフティネット】

 教育や就労に関しては様々な施策が次年度、各省庁から新設、あるいは拡充されていく状況ですけれども、今、最も不足しているのはセーフティー ネットだと思います。

 例えば、教育面で言えば、学校内での日本語指導体制が充実される方向になったり、不就学、あるいは未就学児の就学の支援や高校進学のガイダンスが多言語で行われたり、少しずつ良くなっている部分があります。高校に入った後の支援もこれから始まります。また、保護者の就労の裾野の拡大で、専門学校、大学への進学の道が開ける海外ルーツの若者も増えてくるのではないかと感じています。

 ただし、中途退学をしり、就労したのだけれども病気になって働けなくなってしまった時に、下支えするセーフティー ネットがないことが、今、一番危惧するところです。

 例えば、日本人の若年無業者の場合ですと、厚生労働省系の事業で、地域若者サポートステーションが全国に約数十か所あるため、ニート状態に陥ったとしても、そこでキャリアカウンセリングや、働くための、あるいは、働き続けるためのサポート受けられます。しかし、海外にルーツを持つ若者の場合、あるいは外国人の労働者の場合、働けなくなった時に、情報が届かないばかりか、若年無業者の支援の窓口自体が外国人に対応できていない状況です。あるいは、生活保護の受給がしづらい、技能実習生は働けなくなったら帰国しなければならないなど、外国人は、何かあって活躍できなくなればすぐに転落をしてしまうのです。やり直せるようなチャンスは非常に乏しいと感じています。

 できれば、中途退学をしても学び直しができる、あるいは、働けなくなっても何等かの支援で外れたレールから元に戻れることが望まれます。

【生活面での課題】

 生活面での課題は、言語のハードルが一番大きいかと思います。台風や地震などの災害時は外国人観光客を含め、日本語が分からない人が弱者になりやすいです。例えば、阪神淡路大震災や東日本大震災のときも、日本語のアナウンスも英語のアナウンスも分からなくて、適切な避難行動が取れずに亡くなったという外国人もいらっしゃいました。また、避難所で配られたおにぎりが、ハラル対応をしているのかどうかが分からず手が出せなかった、外国人だから避難所に入ってはいけないのではないかと思って公園で寝泊まりをしたというような話を聞いたこともありました。やはり、命に関わるような事態の場合は、ある程度多言語で情報を提供する必要があるのではないかと思います。

 子どもだけではなく、留学生も含めて教育機会へのアクセスは限定的な状況です。何か必要な資格を取る際にも言葉の壁があってなかなか取れないたま、職業上のステップアップ、キャリアアップが難しいという状況ですから、リーマンショックの時もそうでしたね。たくさんの日系人の方が派遣切りに遭って、非常に困窮したという状況もありました。何かあった時、真っ先に雇用を失ってしまうことになりかねない。雇用上の立場が非常に弱いいことや、安心、安全に過ごせないというのが、外国人生活者の一番の不安かと思います。

【情報提供の在り方を考える】

 いま見てまいりましたように、特に言葉の面、情報の面での課題が大きいと思います。そこで情報提供のあり方ということで、一つご紹介をしたいと思います。

 「やさしい日本語」というものです。外国人にも通じやすい日本語ということなのです。防災や地方公共団体からの情報提供だけではなく、普段のコミュニケーションにもしっかり活用できる非常に有用なツールだと思っています。

 私たちも支援活動をする中で、数十カ国の母語の子どもたちをサポートしているのですが、基本的には、全てやさしい日本語でコミュニケーションを取っています。よほど重要な資料や、親御さんに見せるような書類に関しては多言語化をしていますが、日常的なコミュニケーションはやさしい日本語を共通言語にしています。やさしい日本語ができるようになると、地域の方々が外国人と交流しやすくなるというメリットも出てきまして、外国人は日本語を学ぶ機会が増えます。

【やさしい日本語とは・・・】

 最後に、やさしい日本語のご紹介をして終わりたいと思います。これは、日本語も英語も分からない外国人の方々に必要な情報を分かりやすく提供することを目的として開発されたものです。

 「高台へ避難してください」という放送は「高いところへ逃げてください」と言い換えることで、ぐんと分かりやすくなったと思いませんか。これであれば、小学校の低学年の子どもでもぱっと理解することができますし、外国人だけではなく、例えば、言語の認知に障害のある方や小さい子どもを含め、みんなにとってやさしい日本語であると言えるでしょう。

【やさしい日本語のメリット】

 メリットとしては、コストが掛からない。そして、コツさえ掴めば、誰にでも取り組むことができます。また、防災だけでなく、生活のあらゆる場面に応用できます。

 外国人労働者の方々も増えて、共生社会になっていく以上、日本語を学んでいる途中の人たちに対して、私たちができることはしていくべきだと思います。

 今、「やさしい日本語」を活用される地方公共団体が非常に増えています。愛知県は、「やさしい日本語の手引き」 https://www.pref.aichi.jp/soshiki/tabunka/0000059054.html を作成しました。いろいろな事例が入っています。無料ダウンロードができるので、是非、皆さんも見てみてください。

 今、NHKでも「NEWS WEB EASY」https://www3.nhk.or.jp/news/easy/ で、やさしい日本語の情報提供を行っています。やさしい日本語を使ったツーリズムを推進しようと、「やさしい日本語ツーリズム研究会」https://yasashii-nihongo-tourism.jp/ を立ち上げているところもあります。

 やさしい日本語が喋れるようになると、外国人の方とのコミュニケーションに対する意識的なハードルもだいぶ下がってきますので、地域の中での交流、多文化共生等を含めて役に立つのかなと思います。ぜひ、皆さんも始めていただければと思います。