平成30年度人権啓発指導者養成研修会 採録コラム

福岡会場 講義5 平成30年11月7日(水)

  「高齢者虐待の現状と防止のために出来ること」

著者 淑徳大学副学長 淑徳大学総合福祉学部社会福祉学科教授
山口 光治
寄稿日(掲載日) 2019/07/10


【はじめに】

 私は高齢者虐待防止に長年取り組んでまいりました。大学を出てから特別養護老人ホームの介護職員をしていましたが、今で言えばネグレクト(世話の放棄、放任)ですね、そういうことが30年ほど前の施設の中でも起きていました。しかしその当時は、お年寄りも家族も、お世話をしてもらっているという気持ちが強く、施設を訴えるということはありませんでした。

 私が特別養護老人ホームで仕事をしていた頃は、入所施設を利用者が自分で選ぶのではなく、措置制度と言って、市町村の権限で入所する施設を決めていた時代なのです。その後社会福祉の基礎構造改革が議論され、2000(平成12)年4月から介護保険制度が始まり、契約による介護サービスの利用、対等な関係でサービスを利用するというふうに変わって来ました。

 誰しも年老いていきます。いつまでも自分の力で暮らしたいと思う気持ちはあるのですが、現実にはそれは難しいことです。私も他人の手を煩わせて、介護を受けるときが、きっといつか来るのだろうなと考えることがあります。そのときに、福祉や介護サービスが質が良いものであってほしいと思いますから、今できることをやっておこうと、虐待防止に取り組んでいるところです。

【高齢者虐待防止法制】

 まず、日本では家族による虐待や暴力に関する法律がいくつあるかご存じですか?

 高齢者虐待防止法(正式名称:高齢者に対する虐待の防止、高齢者の養護者 に対する支援等に関する法律)、児童虐待防止法(正式名称:児童虐待の防止等に関する法律)、DV防止法(正式名称:配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律)、障害者虐待防止法(正式名称:障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律)ですね。我が国では、きちんと法律は整備されています。法律が整備されているということは、そこには放置できない問題が存在しているということでもあります。
 虐待には様々なものがありますが、どの虐待に対しても、防止だけでは足りません。被害者も加害者も、その人らしい生活ができるように支援していくということが虐待を防ぐ上で重要なことなのです。

 

 高齢者虐待防止法は、高齢者への虐待を防ぐとともに、虐待をしてしまう養護者に対しての支援を行うという法律です。これが2006(平成18)年に成立しました。

この法律では、「高齢者」とは 65 歳以上の者と定義されています。また、高齢者虐待を①養護者による高齢者虐待と、②養介護施設従事者等による高齢者虐待に分けて次のように定義しています。

 養護者とは、「高齢者を現に養護する者であって養介護施設従事者等以外のもの」 とされており、高齢者の世話をしている家族、親族、同居人等が該当すると考えられます。養介護施設従事者等とは、老人福祉法及び介護保険法に規定する「養介護施設」又は「養介護事業」の業務に従事する職員などのことです。

 悪徳商法、特殊詐欺などの高齢者を狙った人権問題も金銭の搾取、つまり経済的な虐待に当たりますが、高齢者虐待防止法は、訪問販売員などの第三者を対象にしたものではありませんから、悪徳商法、特殊詐欺などの事案は刑法等を活用することになります。

 高齢者虐待防止法の目的は虐待をまず防止すること。そして養護者に対する支援があります。しかし、高齢者の安全確保が第一です。それが十分になされない状態で養護者に対応すると、高齢者がさらに危険な状況に陥る恐れがありますので、まず高齢者の安全を確保することが大切です。市町村には高齢者虐待担当部署がありますので、事案によっては是非連携して当たってほしいと思います。この法律は処罰法ではありません。被害を受けている高齢者を救済することが第一の目的です。

【法を運用するために】

 高齢者の福祉や介護に係る、あるいは医療に係る人たちには、早期発見の努力義務や、気がついたら市町村、あるいは地域包括支援センターに通報する努力義務が課されています。しかし、多くの場合通報されずに見過ごされています。特に介護施設の中で起きている虐待の場合、同僚を通報することになるので、なかなか言えないのですね。そこをどうあぶり出すのかが重要になってくるところです

 また、高齢者虐待に気づいた国民にも通報義務があります。これはDVや児童虐待と同じです。しかし、どこへ通報するのか非常に分かりにくい。市町村の担当者か、地域包括支援センターへと言われますが、一般の人にはよく分からないですね。児童虐待の場合は189(イチハヤク)に電話をかけることになっています。

 高齢者虐待、障害者虐待、DVも短縮番号で通報できるようになるといいのではないかと思います。台湾はどのような虐待も同じ短縮番号にかければつながるようになっています。市民からの通報で素早く対応して、命を救う必要があるからです。

 また、市民の通報を受けて、市町村の担当者が虐待の疑われる家に訪ねていくときに、警察署長に援助要請をして、警察官に一緒に行ってもらうこともできます。例えば、養護者である息子から市町村の担当者が暴力をふるわれることもありますので、警察官に同行してもらうのです。

 地方公共団体の中には、高齢者虐待防止ネットワークを作って、そこに行政、警察、それから弁護士、社会福祉士などが入って議論し、協力して虐待対応に当たっている所もあります。

 虐待は高齢者の人権を侵害する行為です。ですから決して見て見ぬふりをしないでいただきたいと思います。

国及び地方公共団体の責務等

国及び地方公共団体は、高齢者虐待の防止、高齢者虐待を受けた高齢者の迅速かつ 適切な保護及び適切な養護者に対する支援を行うため、以下の責務が規定されています。

○国及び地方公共団体は、関係省庁相互間その他関係機関及び民間団体の間の連携の強化、民間団体の支援その他必要な体制の整備に努めること(第 3 条第 1 項)。

○国及び地方公共団体は、支援が専門的知識に基づき適切に行われるよう、これらの職務 に携わる専門的な人材の確保及び資質の向上を図るため、関係機関の職員の研修等必要 な措置を講ずるよう努めること(第 3 条第 2 項)。

○国及び地方公共団体は、高齢者虐待に係る通報義務、人権侵犯事件に係る救済制度等に ついて必要な広報その他の啓発活動を行うこと(第 3 条第 3 項)。

 

国民の責務

国民は、高齢者虐待の防止、養護者に対する支援等の重要性に関する理解を深める とともに、国又は地方公共団体が講ずる高齢者虐待の防止、養護者に対する支援等の ための施策に協力するよう努めなければなりません(第 4 条)。

 

保健・医療・福祉関係者の責務

高齢者の福祉に業務上又は職務上関係のある者は、高齢者虐待を発見しやすい立場 にあることを自覚し、高齢者虐待の早期発見に努めなければなりません。また、国及び地方公共団体が講ずる高齢者虐待の防止のための啓発活動及び高齢者虐待を受けた高齢者の保護のための施策に協力するよう努める必要があります(第 5 条)。

【高齢者虐待はどのようなこと?】

高齢者虐待の内容と具体例を挙げてみました。

「高齢者虐待の例」 区分

内容と具体例

ⅰ 身体的虐待

暴力的行為などで、身体にあざ、痛みを与える行為や、外部との接触を意図的、 継続的に遮断する行為。

【具体的な例】

   ・平手打ちをする、つねる、殴る、蹴る、無理矢理食事を口に入れる、やけど

・ 打撲させる

・ベッドに縛り付けたり、意図的に薬を過剰に服用させたりして、身体拘束、抑制をする/等

 ⅱ 介護・世話の 放棄・放任

意図的であるか、結果的であるかを問わず、介護や生活の世話を行っている家族が、その提供を放棄または放任し、高齢者の

生活環境や、高齢者自身の身体・精神的状態を悪化させていること。

【具体的な例】

・入浴しておらず異臭がする、髪が伸び放題だったり、皮膚が汚れている

・水分や食事を十分に与えられていないことで、空腹状態が長時間にわたって続いたり、脱水症状や栄養失調の状態にある

・室内にごみを放置するなど、劣悪な住環境の中で生活させる

・高齢者本人が必要とする介護・医療サービスを、相応の理由なく制限したり使わせない

・同居人による高齢者虐待と同様の行為を放置すること/等

ⅲ 心理的虐待

脅しや侮辱などの言語や威圧的な態度、無視、嫌がらせ等によって精神的、情緒 的苦痛を与えること。

【具体的な例】

・排泄の失敗を嘲笑したり、それを人前で話すなどにより高齢者に恥をかかせる

・怒鳴る、ののしる、悪口を言う

・侮辱を込めて、子供のように扱う

・高齢者が話しかけているのを意図的に無視する/等

ⅳ 性的虐待

本人との間で合意が形成されていない、あらゆる形態の性的な行為またはその強要。

   【具体的な例】

・排泄の失敗に対して懲罰的に下半身を裸にして放置する

・キス、性器への接触、セックスを強要する/等

ⅴ 経済的虐待

 本人の合意なしに財産や金銭を使用し、本人の希望する金銭の使用を理由無く制限すること。

 【具体的な例】

・日常生活に必要な金銭を渡さない/使わせない

・本人の自宅等を本人に無断で売却する

・年金や預貯金を本人の意思・利益に反して使用する/等

(参考)「家庭内における高齢者虐待に関する調査」(平成 15 年度)、財団法人医療経済研究機構

 

 

【どのくらい起きているのか?】

 厚生労働省が毎年、高齢者虐待に関する調査を行っています。これからご紹介するのは、平成 28 年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律に基づく対応状況等に関する調査」の結果です。2018年 3 月 9 日に公表されたものです。

 本調査結果によると、養介護施設従事者等による虐待については、相談・通報件数は 1,723 件、虐待判断件数は 452 件に、養護者による虐待については、相談・通報件数は 27,940 件、虐待判断件数は 16,384 件となっています。

 高齢者虐待の相談・通報窓口、事実確認、適切な措置等は自治体が担うこととなっていますが、養護者による虐待を通報した人の中で一番多いのは介護支援専門員で29.5%でした。介護支援専門員は、ケアプラン、介護の計画を立てるために、ご家庭に入って話を聞いたりしますので気づきやすいのです。

 次いで警察の21.1%。警察庁には、家庭内の問題で対応に困った案件について指示、指導する部門が出来ました。警察は、警察に通報が入る、あるいは110番が入ると現場に行って、これは虐待事案だとなると、自治体、市町村に連絡票を送るという方法をとっています。警察は、以前に比べとても素早い対応をとるようになってきています。

 また、高齢者本人からの通報も7.6%あります。

 虐待の種類では、身体的虐待が一番多くて67.9%。次いで心理的虐待41.3%。その次が介護の放棄19.6%。経済的虐待は18.1%です。

 虐待を受けた高齢者は女性が77.3%。認知症の高齢者が被害を受けやすいです。認知症に伴う、周りの人が戸惑う、困る行動というものがあるわけです。例えば不潔行為。「なんだかこの部屋に入ると臭いなあ」と思うと、引き出しの中にうんちが置いてあるわけです。我々が見ると便なのですが、本人は「お団子を作って並べて置いた」と、そこには意味があるのですね。その意味を理解するということが必要なのですが、大概は感情的になって、「何やってるの!!」と怒鳴ってしまう。

 また、愛知県であったように、妻が介護疲れでうとうとした隙に夫が外に出て、近くの駅のホームから鍵が開いていた階段を降りて電車にはねられたという事件がありました。JR東海は息子と母親に対して損害賠償を請求しました。最高裁まで行きましたけれど、最終的に認知症の方を社会全体で支えていく仕組みが十分でないということで、全面的に家族が責任を負うということではない結果になりましたけども、本当に認知症の方の介護の難しさを実感しました。

 昼夜勘違いして、夜中に起き出して家中動き回るといった行動があると、叩かれたり虐待を受けやすい。認知症の高齢者が悪いわけではありません。しかし、その行動が虐待を誘発してしまうということが起きています。

 もう一つ、養介護施設従事者による虐待は、1,723件の相談・通報で、判断事例が452件ということになっています。この中には、一つの施設で複数の方が被害を受けていたということもありました。私はこの数字は非常に少ないと思っています。これだけ、施設や従事者が増えているのに、通報される件数が少な過ぎます。残念ながら、もっと数多くの虐待が起きている可能性はあると思うのです。しかし、同僚のことをなかなか相談・通報はできないのでしょう。他の職員が気づかなければ、面会に来た家族か、ボランティアさんか、実習生か…。そのくらいしか虐待に気づく人はいないのではないでしょうか。

 訪問介護でも同じです。一人暮らしの高齢者であれば、ヘルパーさんが一人でそのお宅に行って介護をして帰ってくるので、誰も他人が見ていないわけです。ですから虐待が起きていたとしてもなかなか表面には出て来ないのではないかと思います。

【虐待をどう捉えるか】

 虐待というのは、「高齢者に向けられる言動として放置できないもの」と捉えていただきたいと思います。寒空なのに外に追い出されて、おじいさんが家に入れてもらえないようだ。あるいは怒鳴り声が近所の家から聞こえてくる。そういったことを知っていても、「人の家のことに関わらないほうがいい」、「ご近所づきあいがやりにくくなるから」と考える方がいらっしゃいますが、やはり心配だったら民生委員さんに相談してほしいのです。民生委員さんは市や地域包括支援センターの方に連絡する。一般の方たちは、虐待か否かの判断はしなくてもいいですから、事実を伝えていただければと思います。

【「ご近所場面」チェックリスト】

 私たちは、元気な高齢者に虐待予防講座を開いています。ここでご紹介するのは講座の中で使用している事例です。自分自身が高齢者になったときの問題として考えましょう。あなたがA子さんやB夫さんだったら、このような場面に立ったときに、どうしてほしいのか。決める権利と決める力はあなた自身にあるのです。

場面1:A子さん70歳、認知症のケースです。長女は専業主婦、長女の夫は会社員。3人で暮らしています。

状況1 A子さんがいうことを聞かないとき、家族は躾と思って叩いています。

状況2 家族が外出するとき、一人で留守番をするのが危険なので、A子さんの部屋にいつも鍵を掛けています。

状況3 A子さんが家族から大声で怒鳴られています。

状況4 家族は、A子さんが同じ事を何度も聞くので、取り合わないことにしています。

 

場面2:自営業の長男夫婦と孫2人と同居しているB夫さん、80歳です。脳卒中の後遺症で、麻痺があって一人では歩けません。しかし、意思はしっかりしています。

状況5 B夫さんの一日の食事は、朝枕元に置かれたコンビニのおにぎりだけです。

状況6 B夫さんは熱があるのに、医療機関にかかれません。

状況7 B夫さんは家族が年金を管理していて、自分で使えるお金がありません。

状況8 B夫さんに断りなく、B夫さん名義の家を長男が担保に入れて、借金をしています。

【「もしもシート」】

もう一つ、「もしもシート」というものをご紹介します。これは、「もし、年をとってこういう状況になったら、あなたはどうしますか」ということを、元気なうちに考えてもらおうというものです。

これは、まず、自分で考えた後、グループで報告し合い、いろいろな考えがあるということに気づいていただくためにワークショップで使っているものです。元気なうちに、今後、もしかしたら起こるかもしれないことを考えてもらうというのは虐待予防になると思います。

 1番 「もし、体が不自由になり世話が必要になったとしたら、あなたは自分の考えと家族の考えの

どちらを尊重しますか?」

 2番 「もし、病気や怪我で介護が必要になったとしたら、あなたは誰に介護してもらうつもりですか?」

 3番 「もし、物忘れがひどくなったら、自分の年金、預金通帳、実印などの管理を、あなたは誰に頼み

ますか?」

4番 「もし友人から、徘徊が激しい認知症の妻の介護に疲れてしまったと相談されたら、あなたはどのようにアドバイスをしますか?」

5番 「もし友人から、母の介護をしているので一人で外出ができずにイライラし、つい手をあげてしまうと相談をされたら、あなたはどのようにアドバイスをしますか?」

【自分らしく暮らすために】

自分らしく暮らすために、虐待予防のポイントを6点挙げています。

1 「体が不自由になっても、自分の意思を持ち、自立した生活を目指しましょう!」

2 「日頃から家族や近隣とのコミュニケーションをよくしておきましょう!」

3 「介護が必要になったら、助けられ上手になりましょう!」

4 「お金や財産は自分の意思に基づいて管理しましょう!

それが困難になる前に、成年後見人に託しましょう!」

 5 「困ったら信頼できる人に相談しましょう!」

6 「専門的に相談にのってくれる窓口を知っておきましょう!」

【なぜ養護者は虐待をしてしまうのだろうか?】

私たちは今、「なぜ養護者は虐待をしてしまうのか?」という研究に取り組んでいるところです。虐待には原因があります。その原因は一つとは限りません。経済的な問題を抱えているところに介護の負担が重なってくることもあります。あるいは過去の親子関係、あるいは夫婦関係の中での様々な問題が影響することもあります。しかし、同じような状況に置かれている人でも、虐待をする人としない人がいます。なぜ虐待をしてしまう人がいるのかということが非常に大きな疑問になるわけです。

【H28年度全国調査結果より】

 国が公表した「平成 28 年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果(添付資料)」では、虐待の発生要因で最も回答が多い要因は「虐待者の介護疲れ・介護ストレス」の 27.4%、「虐待者の障害・疾病」の 21.3%、「家庭における経済的困窮(経済的問題)」の 14.8%、「被虐待者の認知症の症状」の 12.7%、「虐待者の性格や人格(に基づく言動)」の 12.0%、「被虐待者と虐待者の虐待発生までの人間関係」の 10.4%、の順でした。

 虐待の発生要因(複数回答)

要因

件数

割合(%)

虐待者の介護疲れ・介護ストレス

1,241

27.4

虐待者の障害・疾病

964

21.3

経済的困窮(経済的問題)

670

14.8

被虐待者の認知症の症状

576

12.7

虐待者の性格や人格(に基づく言動)

543

12.0

被虐待者と虐待者の虐待発生までの人間関係

472

10.4

虐待者の知識や情報の不足

366

8.1

虐待者の精神状態が安定していない

297

6.6

虐待者の飲酒の影響

284

6.3

被虐待者の精神障害(疑い含む)、高次脳機能障害、知的障害、認知機能の低下

234

5.2

被虐待者本人の性格や人格(に基づく言動)

178

3.9

家庭における養護者の他家族(虐待者以外)との関係の悪さほか家族関係の問題

165

3.6

虐待者の介護力の低下や不足

117

2.6

虐待者の理解力の不足や低下

113

2.5

被虐待者のその他の身体的自立度の低さ

82

1.8

被虐待者側のその他の要因

53

1.2

家庭に関するその他の要因

47

1.0

虐待者の孤立・補助介護者の不在等

42

0.9

(虐待者以外の)配偶者や家族・親族の無関心、無理解、非協力

34

0.8

虐待者側のその他の要因

27

0.6

被虐待者への排泄介助の困難さ

22

0.5

虐待者の外部サービス利用への抵抗感

20

0.4

虐待者のギャンブル依存

16

0.4

ケアサービスの不足・ミスマッチ等のマネジメントの問題

12

0.3

家庭内の経済的利害関係(財産、相続)

8

0.2

被虐待者が外部サービスの利用に抵抗感がある

6

0.1

虐待者に対する「介護は家族がすべき」といった周囲の声、世間体に対するストレスやプレッシャー

0

0

その他ケアマネジメントや制度関係の問題

0

0

 

【高齢者虐待要因の構造的理解】

東京都保健福祉局の図が分かりやすいと思います。

http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/zaishien/gyakutai/understand/haikei/

養護者による虐待で一番多いのが息子からの虐待で40.5%です。次は夫の21.5%。その次が娘の17.0%。

それぞれが持つ課題もあります。介護疲れ、虐待をする人のメンタルな問題、疾病などが影響していることもあります。

また、虐待者と高齢者との人間関係が大きく影響しています。例えば、過去の夫婦間の問題が影響する、あるいは息子、娘の育て方が影響する場合もあります。例えば、親が介護を受けるようになって、子どもと立場が逆転して虐待を受けるような場合です。その他、経済的な問題や社会環境の影響で虐待が起きている場合もあります。

【養護者のタイプと支援】

首都圏の三自治体にご協力をいただいて、高齢者虐待の事例を分析しまとめたのが、「在宅高齢者虐待の虐待者と被虐待者の関係性に焦点をあてた介入実践モデルに関する研究」です。養護者はなぜ虐待をしてしまうのか理由を5つに整理しました。単独で起きるとは限りません。重なって起きることもあります。

このように虐待をする養護者のタイプを把握した上で、タイプに合わせた支援をしていこうと現場で取り組んでいるところです。

  • 権力と支配型

養護者が高齢者の行動を支配、コントロールするために、意図的であるかどうかに係らず、暴力や虐待行為を日常的に用いている虐待。

【特徴】

突発的な出来事ではなく、積もり積もった怒りやフラストレーション の爆発でもない、日常的にパターン化した行動の一部分である。

  • ストレス衝動型

ストレス衝動型とは、高齢者と養護者の置かれたその時の状況によって、誰にでも衝動的、突発的に起こり得る虐待をいう。

【特徴】

養護者が介護疲れや介護負担、不安等の生活上の様々なストレスを抱 え、気持ちに余裕がなくなり、衝動的に虐待行為をしてしまう。また、 介護を他者に任せられない場合もある。

  • メンタル特性型

メンタル特性型とは、養護者自身に知的、発達、精神などの特性があることによって引き起こされる虐待をいう。

【特徴】

生活スキルがない、他者との共感性の乏しさがある、こだわりが強く 融通が利かない、認知のゆがみがある、情緒的不安定さがある等により 虐待行為に至ってしまう。

  • 現状否認型

現状否認型とは、高齢者が老いていくことや認知症などによって変わっていく現実を養護者が受け入れられない、あるいは受け入れよう、理解しようとせずに現状を否認することによって起こる虐待を

いう。

【特徴】

高齢者の現実として出来ることと出来ないことを見極めることができず、受け入れることができない。 ●承認欲求型

承認欲求型とは、高齢者よりも養護者自身が他者から認められ、褒められたいために介護や世話をするなかで起きる虐待をいう。

【特徴】

一見しっかりとした介護や世話をしているように見えるが、養護者は 褒められたい思いが強いので、高齢者への介護や世話を手段として用いている。

【「エンパワメント」とは】

 最後にエンパワメントについて触れたいと思います。エンパワメントとは、人間が本来持っている様々な力を、本人とともに、外的抑圧をなくし、内的抑圧を低減していくことで取り戻していく過程や活動のことを言います。

例えば、高齢者に対して加わっている暴力、抑圧、支配などの否定的な力に対して、援助者は高齢者の抵抗する力を信じ、彼らの自立性・社会性を保持できるように支援していくといったことです。また、高齢者自身が内にもつ権利意識や発言力、行動力、可能性などを社会の中で発揮できるように、側面から支持していくことなどです。

高齢者を周りの人たちが暖かく見守り、「嫌なことされたら嫌だと言っていいんだよ、困ったら私に相談してください」という関係を身近な地域の中で育んでいくことが大切だと思います。専門家と住民が一緒になって、そんな地域をつくれればいいですね。

【虐待防止で大切なこと】

 すべての人に「人権」=「生きる力」があります。人が生まれながらに持つ権利、「安心・自信・自由」を大切にすることが虐待防止につながります。

自らを信じる自信、自己肯定感、自己効力感が高まっていくということが生きる力につながっていきます。やはり居場所がある、味方がいる、そして、誇りを持つことが自尊感情を高めることにつながるのではないかと思います。

 どうぞ、皆さんそれぞれの地域で、一人一人が生き生きと生活できる地域作りを住民とともに進めていただけたらと思います。