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人権に関するデータベース

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地方公共団体関係資料

福岡県人権教育・啓発基本指針
情報の種類 地方公共団体関係資料
タイトル 福岡県人権教育・啓発基本指針
時期 2003/06/01
主体名 福岡県
関連URL http://www.city.kainan.lg.jp/
【 内容 】

福岡県人権教育・啓発基本指針
福岡県
人権が尊重される
心豊かな社会の実現に向けて
21世紀は、全人類の幸福が実現する時代にしたいという全世界の人々の願望
を込めて、「人権の世紀」と言われています。
1948 年(昭和23 年)の「世界人権宣言」以来、国際連合を中心に、人権の尊
重が平和の基礎であるという共通認識の下、人権が尊重される社会の確立に向け
たさまざまな取組が進められてきました。
わが国では、基本的人権の享有を保障する日本国憲法の下で、人権に関する諸
制度の整備や諸条約への加入など、人権に関する諸施策が推進されてきました。
本県におきましても、これまで、人権に配慮した行政を推進するとともに、県
民一人ひとりの人権意識を高揚するための教育・啓発に努めてきました。
しかしながら、依然として、社会生活のさまざまな局面において同和問題をは
じめとした人権問題が存在し、また、情報化や国際化など社会経済状況の変化を
背景として、新たな人権問題も生じております。
人権を尊重することは、個人の個性と能力を十分に発揮できる社会づくりの基
礎的条件であります。
このため、本県の実情を踏まえ、県民一人ひとりが自分自身の課題として、人
権を尊重することの重要性を正しく認識し、他人の人権にも十分に配慮した行動
がとれるよう、今後の教育・啓発を進めるうえでの基本的方向を示す「福岡県人
権教育・啓発基本指針」を策定しました。
この基本指針策定に当たっては、福岡県人権施策推進懇話会委員の皆さまや人
権問題に関係する団体の皆さまから、貴重なご提言・ご意見をいただきましたこ
とに深く感謝申し上げます。
今後は、この基本指針に基づいて、国及び市町村や関係機関・団体等と連携を
図り、偏見や差別のない、人権が尊重される心豊かな社会の実現に向けて、取り
組んでまいりますので、県民の皆さまのさらなるご理解とご協力を心からお願い
申し上げます。
平成15年6月
福岡県知事麻生渡
目次
第1章はじめに‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥1
1 基本指針策定の趣旨‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥1
2 基本指針の性格‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥2
第2章人権を取り巻く状況‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥3
1 国際的な潮流‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥3
2 我が国における取組‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥3
3 本県における取組‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥4
第3章人権教育・啓発の推進‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥5
1 人権教育‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥5
(1) 学校教育における人権教育‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥5
(2) 社会教育における人権教育‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥9
2 人権啓発‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥12
(1) 県民に対する人権啓発‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥12
(2) 企業における人権啓発‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥16
3 特定職業従事者に対する研修‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥18
4 総合的かつ効果的推進‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥19
第4章分野別施策の推進‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥20
1 同和問題‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥20
2 女性‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥25
3 子ども‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥29
4 高齢者‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥33
5 障害者‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥38
6 外国人‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥43
7 HIV感染者・ハンセン病患者等‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥47
8 その他の人権課題‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥51
第5章推進体制等‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥52
1 県の推進体制‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥52
2 国及び市町村との連携‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥52
3 関係団体等との連携‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥52
4 基本指針の見直し‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥52
施策体系‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥53
用語解説‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥55
資料‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥61
○ 世界人権宣言‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥63
○ 日本国憲法(抄) ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥67
○ 人権教育及び人権啓発の推進に関する法律‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥70
○ 人権教育・啓発に関する基本計画‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥72
○ 福岡県人権施策推進懇話会設置要綱‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥100
○ 福岡県人権施策推進懇話会委員名簿‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥101
○ 福岡県人権教育・啓発施策策定会議設置要綱‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥102
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第1章はじめに
1 基本指針策定の趣旨
福岡県人権教育・啓発基本指針(以下「基本指針」という。)は,2000年(平成12年)
12月に公布・施行された「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」第5条の規定に
基づき,地方公共団体の責務として,本県の実情に即した人権教育・啓発に関する施策
を推進するために策定したものです。
本県ではこれまでも,日本国憲法で保障されている基本的人権を尊重し,豊かな人権
感覚を身に付けることを通して,共生社会の実現と人権文化の構築に向けた人権施策の

総合的推進を図ってきました。
しかしながら,依然として,学校,地域,家庭,職域など社会生活の様々な局面にお
いて,同和問題をはじめ,女性,子ども,高齢者,障害者等に対する偏見や差別が存在
しています。
さらに,高齢化,国際化,高度情報化などを背景として新たな人権問題が発生してお
り,人権意識の高揚は,豊かな県民生活を実現するための極めて重要な課題となってい
ます。
世界的に人権の尊重を共通の行動基準として,人権が保障される国際社会を目指した
取組が進められる中,本県が更にアジアの国々や地域との共生を図り,活気あふれるは
つらつとした県づくりを推進するためには,県民一人一人が自他をかけがえのない存在
として尊重し,自己の個性や創造性の伸長を図りつつ,社会参加や自己実現を可能にす
る社会的な環境や条件の整備が求められております。
その中心となる人権教育・啓発は,あらゆる人々の英知を結集して,一人一人の人権
尊重の精神の確立とすべての人々の共生に向けて,粘り強くかつ創造的に展開していく
ことが必要です。
このため,本指針及び今後策定する実施計画により,様々な人権問題の解決と,人権
が尊重される社会の実現を目指し,人権教育・啓発に関する施策をより総合的かつ効果
的に推進します。
また,本指針に基づく人権教育・啓発に関する施策の実施状況を点検・評価し,その
結果を以後の施策に適正に反映させるなど,実効ある施策の推進を図ります。
- 2 -
2 基本指針の性格
本指針は,次の性格を有するものです。
(1) 国の「人権教育・啓発に関する基本計画」及び「人権教育のための国連10年福岡県
行動計画」の趣旨を踏まえ,人権教育・啓発を総合的かつ計画的に推進するために策
定するものであること。
(2) 「人権教育のための国連10年福岡県行動計画」の最終年である2004年(平成16年)
以降は,当該計画を引き継ぎ,本県における人権が尊重される社会の実現を目指すた
めの人権教育・啓発の在り方を示すものであること。
(3) 2001年(平成13年)に実施した「福岡県人権・同和問題県民意識調査」(以下「県
民意識調査」という。)等により明らかとなっている本県の実態に基づき,学校,地
域,家庭,職域その他様々な場を通して,県民がそれぞれのライフサイクルに応じて,
人権尊重の理念に対する理解を深め,これを体得できるよう,中長期的な展望の下に
策定するものであること。
(4) 1969年(昭和44年)の「同和対策事業特別措置法」施行以来,同和問題についての
正しい理解と認識を深めるために進めてきた同和教育・啓発の成果とこれまでの手法
への評価を踏まえ,様々な人権問題の解決を図るための人権教育・啓発として創造
的・発展的に再構築するものであること。
(5) 人権が尊重される社会づくりの担い手は県民であるとの理念の下に,本県における
人権教育・啓発の基本的な方針を示すものであり,行政機関,企業,民間団体等がそ
れぞれの役割を踏まえた上で,連携・協働し,実効ある人権教育・啓発を推進するも
のであること。
- 3 -
第2章人権を取り巻く状況
1 国際的な潮流
20世紀における急速な科学技術の進歩は,人類社会に豊かさと快適さをもたらした反
面,二度にわたる世界大戦は,かつてない規模で人々の生活を破壊し,多くの人命を奪
うとともに,人類社会の未来に大きな脅威を与えることとなりました。
この反省から,1948年(昭和23年)第3回国連総会において「世界人権宣言」が採択
され,「人類社会のすべての構成員の固有の尊厳と平等で譲ることのできない権利とを
承認することは,世界における自由,正義及び平和の基礎である」として「すべての人
間は,生れながらにして自由であり,かつ,尊厳と権利とについて平等である。人間は,
理性と良心とを授けられており,互いに同胞の精神をもって行動しなければならない」
と全世界に表明しました。
この意義は大きく,その後,宣言の理念は,1965年(昭和40年)「あらゆる形態の人

種差別の撤廃に関する国際条約」(人種差別撤廃条約),1966年(昭和41年)「経済的,

社会的及び文化的権利に関する国際規約」(社会権規約),「市民的及び政治的権利に関

する国際規約」(自由権規約),1979年(昭和54年)「女子に対するあらゆる形態の差別

の撤廃に関する条約」(女子差別撤廃条約),1989年(平成元年)「児童の権利に関する

条約」(子どもの権利条約)などの採択や,1968年(昭和43年)「国際人権年」をはじ
めとする様々な国際年の設定を通して,具現化が進められてきました。
しかしながら,東西冷戦構造崩壊後の今日も,人種,民族,宗教等の対立に起因する
地域紛争,また,テロや迫害により尊い人命が奪われ,人権が侵害される情況が続いて
いることから,1993年(平成5年)ウィーンにおいて世界人権会議が開催され,「ウィー

ン宣言及び行動計画」が採択されました。翌1994年(平成6年)の第49回国連総会はこ
うした経過を踏まえ,「世界人権宣言」の意義を再確認するとともに,1995年(平成7
年)から2004年(平成16年)までの10年間を「人権教育のための国連10年」とすること
を決議し,具体的なプログラムとしての行動計画を示しました。
2 我が国における取組
我が国では,すべての国民に基本的人権の享有を保障する日本国憲法の下で,国際人
権規約をはじめとする人権関係条約を批准・加入し,人権が尊重される社会の形成に向
けた取組を進めてきました。1995年(平成7年)には,「人権教育のための国連10年」
が決議されたことを受けて,内閣総理大臣を本部長とする「人権教育のための国連10年
推進本部」を設置し,1997年(平成9年)「人権教育のための国連10年に関する国内行
動計画」を策定しました。
また,国の附属機関である地域改善対策協議会(以下「地対協」という。)は,1996
年(平成8年)に行った意見具申において,「世界の平和を願う我が国が,世界各国と
の連携・協力の下に,あらゆる差別の解消を目指す国際社会の重要な一員として,その
役割を積極的に果たしていくことは,「人権の世紀」である21世紀に向けた我が国の枢
要な責務というべきである。」と述べた上で,我が国固有の人権問題である同和問題の
- 4 -
解決に向けた今後の主要な課題は,教育,就労,産業等の面でなお存在している格差の
是正等のほか,「差別意識の解消に向けた教育及び啓発の推進」と「人権侵害による被
害の救済等の対応の充実強化」であるとしました。地対協が指摘したこの事項に関して,
今後の具体的な方策を検討するために,1997年(平成9年)「人権擁護施策推進法」に
基づく人権擁護推進審議会が法務省に設置されました。
1999年(平成11年)人権擁護推進審議会は,「人権教育・啓発の基本的な在り方につ
いて」の答申を法務大臣,文部大臣(現文部科学大臣)及び総務庁長官(現総務大臣)
に対して行い,2000年(平成12年)には「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」
が施行されました。同法には,国及び地方公共団体は人権教育及び人権啓発に関する施
策を策定し,実施する責務とともに,これを総合的かつ計画的に推進するために,国は
基本的な計画を策定することが規定され,2002年(平成14年)3月同法に基づく国の基
本計画が示されました。
3 本県における取組
本県は,1997年(平成9年)行政運営を総合的,計画的に実施するため「ふくおか新

世紀計画」を策定しました。同計画は「人権を尊重することは,個人の個性と能力を十
分に発揮できる社会づくりの基礎的条件であり,世界共通の課題であるとともに豊かな
県民生活を実現するための重要な課題である。」との認識の下に,「人権に配慮した行
政を推進するとともに,あらゆる機会をとらえて,県民一人一人の人権意識を高揚する
ための教育・啓発を進め,偏見や差別の解消を図る。」ことを明記しています。
「ふくおか新世紀計画」が示した人権が尊重される社会の確立に向けた取組は,1993
年(平成5年)「福岡県高齢化社会行動計画」をはじめとして,1995年(平成7年)「福
岡県障害者福祉長期計画」,1997年(平成9年)「福岡県児童育成計画」,2002年(平成
14年)「福岡県男女共同参画計画」などの個別計画を通して具現化するものであり,こ
の核となるのが「人権教育のための国連10年福岡県行動計画」です。この県行動計画は,
1997年(平成9年)に国内行動計画が策定されたことを踏まえ,本県の実情に合った人
権教育・啓発を推進するために,知事を本部長とする「福岡県人権教育のための国連10
年推進本部」を設置の上,1998年(平成10年)に策定したものです。
現在,この県行動計画の理念である人権という普遍的な文化を構築するために,これ
までの同和教育や啓発活動の中で積み上げられてきた成果と手法への評価を踏まえ,学
校,地域,家庭,職域などあらゆる場を通した人権教育・啓発の取組を進めています。
また,公務員,教職員,警察職員,福祉関係者など,特に人権への配慮が必要とされ
る職業に従事する者はもちろんのこと,社会のあらゆる階層の人々を対象にした人権教
育・啓発を推進しています。
さらに,基本的人権にかかわる課題は,同和問題,女性,子ども,高齢者,障害者等
多岐にわたっていることから,個別人権課題の取組との整合性を図りながら,効果的な
施策の推進に努めています。
- 5 -
第3章人権教育・啓発の推進
人権教育,人権啓発については,「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」の第2
条において,「人権教育とは,人権尊重の精神の涵養を目的とする教育活動をいい,人権
啓発とは,国民の間に人権尊重の理念を普及させ,及びそれに対する国民の理解を深める
ことを目的とする広報その他の啓発活動(人権教育を除く。)をいう。」と規定されてい
ます。
この規定から,人権教育とは,基本的人権尊重の精神が正しく身に付くよう,学校教育
及び社会教育において行われる教育活動であり,人権啓発とは,広く県民の間に,人権尊
重思想の普及高揚を図ることを目的として行われる研修・情報提供・広報活動等で人権教
育を除いたものであると整理することができます。
また,人権教育・啓発の推進に当たっては,様々な人権問題の固有の課題を踏まえた上
で,その根底にある共通の構造を見極め,総合的・有機的な内容や手法についての研究開
発を行う必要があります。
1 人権教育
(1) 学校教育における人権教育
ア現状と課題
本県では,「人権教育のための国連10年福岡県行動計画」に基づき,基本的人権
尊重の精神の育成に向けた取組を,就学前教育から小・中・高等学校教育を通して,
様々な教育活動の中で積極的に推進しています。
また,人権教育の国際的な潮流や,少子・高齢化,国際化,情報化,科学技術の
進展等に伴い,より一層人権が尊重される社会を形成する必要があることから,同
和問題をはじめとする女性,子ども,高齢者,障害者,外国人,HIV感染者,ハ
ンセン病患者・元患者等様々な人権問題に関する学習を進めています。とりわけ,
生命尊重,自己認識,協調協働,労働観,科学的認識,国際理解の6つの指導目標
を設定し,様々な人権問題について学習する同和教育副読本「かがやき」を活用し
た人権教育を進めています。
さらに,総合的な学習の時間を中心として,自ら学び自ら考える力や豊かな人間
性を培うために,国際理解,情報,環境,福祉・健康などの課題についての横断的・
総合的な学習活動にも取り組んでいます。
各学校におけるこれらの取組は,児童生徒の人権問題に関する認識を深めるとと
もに,人権を尊重する意識の形成に大きく寄与しています。「県民意識調査」では,
人権・同和問題についての知識や情報は,「学校の授業で得た」という回答が急増
し,人権・同和問題の理解を深めるのに役立ったものとしては,「学校での同和教
育」と回答した割合が最も高くなっており,今後とも,学校教育における人権教育
のより一層の充実が求められています(図1,図2)。
しかしながら,学校においては,同和問題や障害者に関する問題等を中心に差別
事象が発生したり,いじめの問題,規範意識や社会性が身に付いていない子どもの
- 6 -
問題等が存在しています。
さらに,指導する立場の教職員自身に人権尊重の理念が十分に認識されていない
という問題もあります。
このような現状から,今後とも,学校の教育活動全体を通して,児童生徒が,共
生の心を身に付けるとともに,自分らしさや能力を十分に発揮し,人権問題を主体
的に解決していく力を身に付けることができるよう指導を更に深め充実することが
重要な課題となっています。
また,歴史的経緯や様々な理由による差別のために教育権が十分に保障されてい
なかった人々の実態を踏まえ,教育権を保障することそのものが人権であるという
認識に立ち,一人一人の学力と進路の保障に努める必要があります。
図1 「差別」をうけている地区があることを初めて知らされたときの知識の提供者
資料:2001年福岡県人権・同和問題県民意識調査
図2 「人権・同和問題」の理解を深めるのに役立ったもの
資料:2001年福岡県人権・同和問題県民意識調査
17.3
2.6
1.8
3.6
4.5
0.7
9.6
22.0
4.4
3.7
5.6
2.8
2.2
0.9
6.7
1.8
10.0
父母から
父母以外の家族から
家族以外の親類から
近所の人から
職場の人から
学校の先生から
 ( 個人的に)
学校の友だちから
学校の授業で
「同和地区」が近くに
     あったから
「同和地区」について
  の集会や研修会で
テレビ、ラジオ、
 新聞、本などで
県や市町村の広報紙や
     冊子などで
まわりのフンイキで、
     ひとりでに
その他
おぼえていない
「同和地区」のことは
      知らない
回答なし
22.0
10.2
15.4
23.9
20.9 21.1
27.9
2.9
21.5
10.2
講演会・研修会
居住地域での  
懇談会・学習会
新聞
テレビ、ラジオ
映画、ビデオ、
   スライド
広報紙( 誌) 、   
パンフレット、冊子
学校での  
「同和教育」
その他
特にない
回答なし
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イ施策の基本方向
学校教育においては,幼稚園,小・中・高等学校が,それぞれの実態に応じて,
人権尊重の精神の育成を基盤に据えた教育目標を設定し,その実現を目指した教育
活動を展開する中で,幼児児童生徒が人権に関する知識や態度,実践力を身に付け
ることができるよう努めます。
(ア) 就学前における教育の推進
乳幼児期は,生涯にわたる人間形成の基礎が培われる極めて大切な時期であり,
この時期に人権尊重の精神の芽生えを育むことが重要であることを踏まえ,各々
の幼児の家庭・地域環境,生活条件等の状況やその背景を十分に把握し,調和の
とれた全人的発達の基礎を築くことができるよう支援します。
(イ) 小・中・高等学校における教育の推進
児童生徒の発達段階に即し,各教科,道徳,特別活動,総合的な学習の時間等
のそれぞれの特質に応じて,学校教育活動全体を通して同和問題をはじめとする
様々な人権問題について理解を促し,一人一人を大切にした教育を推進します。
a 校内推進体制の確立
全ての教育活動を通して,人権尊重の精神の育成に努めるとともに,人権に
配慮した教育指導を行うために,校長を中心とする人権教育推進のための校内
推進体制の確立を図ります。
b 教材集等の充実
科学的・合理的なものの見方・考え方を育て,不合理な差別・人権侵害を排
除していくための効果的な学習教材等の情報収集や調査研究を行い,人権教育
教材集等を作成します。
c 人権を尊重した教育活動の展開
人権尊重の精神を育成していくためには,「児童の権利に関する条約」の趣
旨を踏まえて,一人一人の人権を尊重した教育活動を展開することが重要です。
特に,自他の人権を大切にするための知識や態度,実践力を育成するという
観点から,規範意識を培うとともに,子どもの抱える心の問題を解決し,安心
して楽しく学ぶことのできる学校づくりを推進します。
d 家庭・地域との連携
社会性や豊かな人間性を育むために,自然体験や社会体験,ボランティア活
動,文化・芸術体験等の活動を推進するとともに,地域の人材や公民館・図書
館等の社会教育施設,隣保館などの人権に関する諸施設の利用及び地域の伝統
的文化や行事等の積極的な活用が図られるよう,家庭・地域と連携した創意工
夫ある学校づくりを推進します。
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e 教職員研修の充実
学校教育における取組が有効に機能するためには,教職員が人権の理念に対
する認識と人権感覚を高める必要があることから,子どもへの愛情や教育への
使命感,実践的な指導力を高めるための研修の充実を図ります。
特に,人権教育の充実を図るために,経験年数や職務に応じた研修を,系統
的・計画的に実施することを通して,教職員の人権に関する認識や指導力の向
上に努めます。
(ウ) 大学等における教育の推進
大学等における人権教育については,自主的な取組が期待されるところであり,
その主体性を十分尊重しながら,人権教育に関する取組を促していきます。
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(2) 社会教育における人権教育
ア現状と課題
本県の社会教育においても,「人権教育のための国連10年福岡県行動計画」に基
づき,充実した人権教育が推進されるよう,資料や冊子,人権教育指導者育成研修
プログラム等の作成・配布,あるいは,人権教育・啓発担当者(以下「担当者」と
いう。)の研修や指導者の養成等を行い,市町村教育委員会に対する支援のための
施策を実施してきました。
また,各市町村においては,それぞれの実態に応じて,地域住民に対する学習会
や行政区懇談会,公民館等の社会教育施設での講座,市民団体・PTA等における
研修会等が,生涯学習の視点に立って実施されてきました。
特に,人権問題については,同和問題や女性,子ども,高齢者,障害者,外国人
等に関する問題をテーマに据えて,内容や方法についても体験活動や体験的参加型
の手法を取り入れるなど,創意工夫した教育活動が推進されています。その結果,
県民の人権問題に対する認識は,着実に高まりつつあると言えます。
「県民意識調査」では,「人権・同和問題」関係の集会に何度も参加したり,数
多く広報誌の記事やパンフレット・冊子等を見たという人ほど,人権・同和問題を
解決しなければならないと考える人の割合が高くなっており,差別をなくすために
は,教育・啓発を積極的に推進すべきだと回答しています(表1)。
しかしながら一方では,依然として,「集会や講演会,研修会などに一度も参加
したことがない」,「そっとしておけば差別は自然になくなる」等の回答もあり,
これまでの人権教育の在り方を見直し,一層の工夫・改善を図ることが必要です(図
3,図4)。
また,日本社会は伝統的に集団との「同質性」が重視され,集団と異なる文化,
習慣,立場,行動を「異質」なものとして容易に受け入れないという精神的風土が
根強く存在し,一部に非科学的な因習や慣習にとらわれる側面があります。このた
め,県民の間には,現実の社会に生起する様々な事象に対して,確固たる人権意識
が形成されていないことや,非科学的な風習に対しても世間一般の考えに同調する
傾向があることも課題として指摘されています。
さらに,価値観の多様化や個人の権利意識の高まりによって,人権問題に対する
社会的な関心が高まりを見せている反面,社会の進展に伴いインターネット上の電
子掲示板やホームページへの差別的情報の掲示等新たな人権問題も発生している現
状があります。
このようなことから,今後の社会教育における人権教育は,子どもから高齢者ま
でを対象に,多様な学習機会や場を提供しながら,広く人々の間に多元的文化,多
様性を容認する共生の心を醸成するとともに,一人一人が相互の人権を尊重する社
会の実現を図ることが必要です。
- 10 -
表1 同和問題について自分にできることは真剣に取り組みたい
そう思うそうは思わどちらとも回答なし計
ないいえない
33.7 8.1 36.9 21.3 100.0
何回となく参加した
57.2 7.1 24.3 11.4 100.0
集1~2回は参加した
会37.2 7.5 36.2 19.1 100.0
等参加せず,知らなか
った,不明28.4 8.6 39.3 23.7 100.0
いつも読んでいる
62.7 6.5 17.4 13.4 100.0
広読んだことはある
報35.2 7.2 39.6 18.0 100.0
紙読んだことはない,
不明21.5 10.3 39.0 29.2 100.0
読んだことがある
冊41.6 6.7 33.7 18.0 100.0
子読んだことがない,
不明22.9 10.1 41.3 25.7 100.0
資料:2001年福岡県人権・同和問題県民意識調査
図3 「人権・同和問題」関係の図4 「部落差別」をなくすために特に重要と
集会等への参加状況思う方法について
資料:2001年福岡県人権・同和問題
県民意識調査
資料:2001年福岡県人権・同和問題県民意識調査
12 .4
16. 0
31 .9
23. 4
40. 6
16.5
17. 4
20.9
26. 6
2.4
10.9
9.2
「同和地区」の生活環境を改善・
           整備する
仕事を保障し、教育水準を高め、
      生活の向上をはかる
「地区」の人びとが、自分の生活
  に責任をもつように努力する
「差別」に負けずに積極的に
  「行政」等に働きかけていく
人権を大切にする教育・啓発活動
         等を積極的に
基本的人権を守る国民的運動を
        拡大・強化する
「差別」をしたりするものなどを
        法律で処罰する
「同和地区」の人びとが、かたま
    って住まないようにする
そっとしておけば自然になくなる
その他
よくわからない
回答なし
回答なし
13.8
集会などが行
われているこ
とを知らな
かった 5.6
参加したこと
はない
43.8
何回となく
参加した
10.5
1~2回は
参加した
26.2
- 11 -
イ施策の基本方向
社会教育においては,家庭や地域などあらゆる場で生涯学習のための各種施策を
実施することを通して,県民が人権尊重の理念に対する理解を深め,これを体得す
ることができるよう,地域の実態に応じた様々な人権に関する学習の充実を図って
いくことが必要です。
その際,単に人権問題を知識として学ぶだけでなく,日常生活において態度や行
動に現れるような人権感覚の涵養や,一人一人が肯定的な自己認識力を高め,社会
の中で自己実現を図ろうとする意欲や自信を持つことができるよう努めます。
(ア) 家庭教育に対する支援
家庭教育は,幼児期から豊かな情操や思いやり,生命を大切にする心,善悪の
判断など人間形成の基礎を育む上で重要な役割を果たすことを踏まえ,子どもた
ちに対して,肯定的な自己認識力の育成を図るとともに,日常生活のあらゆる場
面をとらえて,偏見を持たず差別をしないことなどを体得させることが必要です。
このため,家庭教育に関する学習機会や情報の提供を図るとともに,子育ての
在り方に関する資料や冊子等の作成などを通して,家庭教育の支援に努めます。
(イ) 学習プログラムの開発・提供
学習内容が,主催者からの一方的なものにならないように,体験的参加型学習

や参加者自らが主体的に学習内容を構築していく参画型学習等の手法を取り入れ

るなど,多様な学習活動を創意工夫し,参加者のニーズに応じて,知識・態度・
実践力を総合的にとらえ伸ばすことができるよう,効果的な学習プログラムの開
発・提供に努めます。
(ウ) 教材・資料等の充実
人権問題に対する感性や人権への配慮が態度や行動に現れる人権感覚を育むた
めに,人権教育を促進するための資料や冊子等の内容を充実させるとともに,視
聴覚教材等の有効活用を図ります。
(エ) 担当者・指導者の育成
県民が科学的なものの見方・考え方,合理的な生活態度を身に付け,人権問題
を自らの課題として主体的に解決していくためには,市町村の担当者や地域にお
いて人権教育を先頭に立って推進していく指導者の役割が重要であることから,
その育成及び資質の向上に努めます。
(オ) 学習機会の充実及び学校教育と社会教育の連携
公民館等の社会教育施設を中心として,地域の実情に応じた人権に関する多様
な学習機会の充実を図るとともに,学校教育と社会教育との有機的な連携・協力
体制の下で,人権を尊重するまちづくりが推進されるよう支援します。
- 12 -
2 人権啓発
(1) 県民に対する人権啓発
ア現状と課題
国においては,現在,(財)人権教育啓発推進センターを中心として,人権教育・
啓発情報誌「アイユ」をはじめとする様々なパンフレット,冊子の作成や各種の啓
発ビデオ等を制作するとともに,全国各地で人権フェスティバルを開催するなど啓
発活動に努めています。
本県では,1996年(平成8年)福岡県総合福祉センター,福岡県女性総合センター
(2003年度から福岡県男女共同参画センターに名称変更)(愛称「あすばる」),福
岡県人権啓発情報センター(愛称「ヒューマン・アルカディア」)の3つの施設か
ら成るクロバープラザを開設以来,各施設のそれぞれの機能を生かしながら,地域
福祉の向上,男女共同参画社会の形成や人権意識の高揚を目指して取り組んでいま
す。
特に,福岡県人権啓発情報センターでは,県民の人権啓発の拠点施設として,「同
和問題からあらゆる国内外の人権問題へ」をテーマに,同和問題を中心とした人権
問題に関する歴史や生活文化を紹介した常設展示室を開設するとともに,本県の特
徴的な人権問題や国際的な人権問題等をテーマとして特別展示を適宜開催していま
す。
また,「人権週間」や「同和問題啓発強調月間」を中心に,街頭啓発,講演会,
* *
啓発映画のテレビ放映,新聞広報等を通して,同和問題をはじめとする女性や子ど
も,高齢者,障害者,外国人,HIV感染者,ハンセン病患者・元患者など,様々
な人権問題の啓発に努めています。
しかしながら,近年においても,企業活動に伴う深刻な差別事象や学校及び地域
における差別発言など,心ない差別事象が後を絶たない状況にあります。
また,「県民意識調査」の結果を見ても,現実の社会の中で生起している様々な
事象について,「何が差別であるか」についての各人の判断基準は,かなり曖昧で
あり,県民の人権意識は揺れ動いていることが明らかになっています(図5)。
さらに,「人権を侵害された経験」についての設問では,4割弱の県民が,「何等
かの人権侵害を受けた経験がある」と回答しています(図6)。
これまで,本県は,国や市町村との連携を図りながら,人権が尊重される社会の
確立に向けて,人権啓発の取組を進めてきましたが,依然として基本的人権にかか
わる様々な課題が残されています。
- 13 -
図5 「差別」について
資料:2001年福岡県人権・同和問題県民意識調査
図6 人権を侵害された経験について
資料:2001年福岡県人権・同和問題県民意識調査
34.1
15.2
4.0
17.7
2.2
26.6
31.0
25.3
38.0
34.0
5.3
5.6
4.1
4.9
60.0 3.8
39.4
66.6
48.2
外国人と借家  34.0
通学区域と住宅 
性別と管理職登用
親類の犯罪と結婚
母子家庭と就職 
「差別」だと思う
「差別」とは
いえないと思う
いちがいには
いえない回答なし
19.8
7.2
13.9
7.7
10.1
6.4
2.2
45.0
16.4
あらぬ噂や悪口による、
   名誉・信用などの侵害
公的機関や企業などによる
        不当な扱い
地域などの暴力・脅迫・
   無理じい・仲間はずれ
信条などによる不平等や  
不利益な扱いなどの差別待遇
プライバシーの侵害
セクシュアル・ハラスメント
その他
人権を侵害されたことはない
回答なし
- 14 -
イ施策の基本方向
「県民意識調査」における「同和問題と自分とのかかわりについて」の設問では,
「この問題の解決に努力すべき」などの積極的な回答が4割弱を占めています(図7)。
しかしながら,「よく考えていない」「なりゆきにまかせるより仕方がない」な
どの回答も依然として多く,同和問題に限らず,様々な人権問題を当事者の問題か
ら自分の問題としてとらえることのできる啓発が重要です。
このため,「どう人間らしく生きるか」という自己実現の課題であると同時に,
誰もが心豊かに暮らせるまちづくりの課題であるとの視点に立った啓発活動を推進
します。
(ア) 県民に対する啓発活動の強化
県や市町村では,集会や地域懇談会の開催とともに,広報誌や冊子等広く配布
するなど人権啓発に努めています。こうした啓発活動への接触状況と問題解決へ
の熱意や姿勢について,「県民意識調査」の結果を見てみると,本県が実施した
これまでの県民意識調査結果と同様に,啓発活動への接触の頻度が高いほど,問
題解決に向けて積極的であるなどはっきりとした相関関係が認められています
(表1)。
今後とも,人権尊重の理念に対する理解を深め,これを体得することができる
よう,内容や手法に創意工夫を凝らしながら,啓発活動の一層の充実に努めます。
(イ) きめ細かな啓発活動の推進
「県民意識調査」の結果からも明らかなように,日本人の精神的風土の中には,
「ひのえうま」の生まれということで,結婚することを嫌がる風習などの非科学
的なものの見方,考え方も一部には根強く残っており,1965年(昭和40年)の同

和対策審議会答申が指摘しているように,差別を温存する土壌ともなっています
(図8)。人権という文化が,県民の精神的風土として育まれるよう,日常生起す
る身近な問題をテーマとしながら,相応した啓発手法・媒体を活用して,きめ細
かな啓発活動を推進します。
(ウ) 地域に密着した啓発活動の支援
1999年(平成11年)の人権擁護推進審議会答申にも述べられているように,隣

保館は人権意識の普及高揚を図る上で大きな役割を果たしてきました。人権が尊
重される社会づくりの担い手は県民であることから,隣保館が,地域に密着した

コミュニティーセンターとして,各種の自治組織,文化・福祉等の活動に関する
組織と連携を図りながら,人権啓発のより一層の推進が図られるよう支援します。
(エ) 福岡県人権啓発情報センターの充実・強化
県民啓発の拠点施設として,福岡県人権啓発情報センターを開設以来,様々な
事業を展開してきました。今後とも,県民に親しまれる施設として一層の周知と
事業の充実に努めます。
- 15 -
(オ) 市町村,関係団体との役割分担と連携
人権啓発を効果的に推進するために,県,市町村や関係団体がその役割と分担
を明確にし,連携を図りながら整合性のある啓発活動を推進します。
図7 「同和問題」と自分とのかかわりについての意見
資料:2001年福岡県人権・同和問題県民意識調査
図8 風習について
資料:2001年福岡県人権・同和問題県民意識調査
7.0
31.4
13.8
1.5 2.1
17.8
10.0
16.5
問題解決について、自分
 のできる限りの協力を
     したいと思う
国民の一人としてこの問題
  の解決に努力すべきだ
自分ではどうしようもない
 から、なりゆきにまかせ
    るより仕方がない
自分とは直接関係のない 
      ことだと思う
その他
よく考えていない
「同和問題」のことは知ら
   ないのでわからない
回答なし
2 .7
23 .6
26 .1
27 .8
28 .4
37 .7
19 .9
18 .2
15 .4
52 .7
35.4
39 .9
68 .5
9 .4
13 .2
8 .8
9 .1
8 .0
8 .9
48 .9
45 .2
10 .7
27 .1
14 .5
家の建築と方角   
結婚披露宴の掲示  
家柄・血筋と結婚  
結婚と身元調査   
「大安」と結婚式  
「ひのえうま」と結婚
当然のこと
と思う
自分だけ反対
しても仕方が
ない
間違っているし、なくして
いかなければならない回答なし
- 16 -
(2) 企業における人権啓発
ア現状と課題
企業は社会的存在である以上,社会性・公共性を有し,顧客・従業員・株主・地
域住民・社会一般等に対し,各種の社会的責任を負っています。
昭和30年代から社会問題化してきた公害は,大切な自然や環境を破壊し,人間の
健康や生命を脅かすものであり,企業の社会的責任が厳しく問われました。
また,1975年(昭和50年)に発覚した「部落地名総鑑」事件を契機として,同和

問題解決のための企業の社会的責任が強く叫ばれるようになり,「企業内同和問題
研修推進員制度」(現在,「公正採用選考人権啓発推進員制度」と改称)が設けられ

ました。
さらに,1999年(平成11年)には,職業安定法の改正に伴い,同法に基づく「労

働者の募集に関する指針」が示され,社会的差別の原因となる求職者等の個人情報
の収集禁止や新規高等学校卒業予定者の全国高等学校統一用紙の使用等が明記され
ました。
今日,企業における公正な採用選考及び人権・同和問題に関する研修は,「公正
採用選考人権啓発推進員」(以下「推進員」という。)を中心に取り組まれています。
国及び県においては,企業が社会的責任を自覚し,「推進員」が人権啓発活動を
円滑に推進できるよう,事業者や事業者団体を対象とする研修会の開催や啓発冊子
「企業と人権-公正な採用選考-」の作成,配布に努めるとともに,企業内研修の
際の講師のあっせん,啓発ビデオ等教材の提供を行いその支援に努めています。
また,仕事と子育ての両立を支援し,職場における男女共同参画を促進するほか,
高齢者・障害者等の雇用の場の確保など人権に配慮した施策の推進に努めています。
しかしながら,依然として,本人の適性と能力に基づかない不適切な採用選考が
見受けられるなど,就職における機会均等の確保は不十分な状況であり,また,近
年の雇用情勢は,高齢者・障害者等の就業の確保についても厳しい状況にあります。
企業内においても,賃金や昇進など男女の均等な待遇の確保の問題やセクシュア
ル・ハラスメントの問題が発生しており,また,企業活動に伴う深刻な差別事象も
発生しています。
1999年(平成11年)の人権擁護推進審議会答申でも指摘されているように「企業
等の事業所は,その社会的責任を自覚し,公正な採用を促進するとともに,公正な
配置昇進などの事業所内における人権の尊重を確保する」ことが引き続き重要な課
題となっています。
- 17 -
イ施策の基本方向
企業が社会的責任を更に自覚し,人権を大切にする企業づくりや人権尊重の意識
の高い職場づくりが進むよう、事業者や事業者団体に対する啓発に努めます。
(ア) 企業啓発の推進
「企業は,単に公正な競争を通じて利潤を追求するという経済的主体ではなく,
広く社会にとって有用な存在でなければならない。」((社)日本経済団体連合会
「企業行動憲章」)ものです。

企業は,その社会的責任を自覚し,人権に配慮した企業活動が求められていま
す。
このため,事業者やそこで働く人々の人権意識を深めるとともに,このことが
企業活動に反映されるよう,企業内で取り組まれる啓発活動に,情報や教材の提
供,研修講師等のあっせんを行うほか,研修担当者の資質向上のための研修を計
画的・継続的に実施します。
(イ) 人権尊重の企業づくり
企業で働く一人一人が希望にあふれ,その能力を発揮して生き生きとして働け
る職場を実現するためには,企業で働くすべての人の人権が尊重されることが必
要です。
このため,人権が尊重される職場づくりに向けた主体的,自主的な取組が行わ
れるよう,事業者や事業者団体に対して,様々な機会をとらえて啓発に努めます。
(ウ) 公正な採用選考の実現
公正な採用選考が実施されるためには,応募者本人の有する適性・能力を引き
出し,これを有効に発揮させるという観点に立つことが必要です。
このため,職業安定法に基づく「労働者の募集に関する指針」や国,県,学校
及び事業者団体等で構成する福岡県高等学校卒業者就職問題連絡協議会における
公正な採用選考に当たっての「申合せ」の周知徹底に努めます。
また,企業内の取組の中心となる「推進員」の設置を促進し,事業者や人事担
当責任者等に対する実効ある研修の推進等,就職の機会均等を確保するため,関
係行政機関が相互に連携・協力して啓発に努めます。
- 18 -
3 特定職業従事者に対する研修
人権教育・啓発の推進に当たっては,社会のあらゆる人々を対象に,あらゆる場,あ
らゆる機会を通して実施していく必要がありますが,公務員,教職員,警察職員,福祉
関係者,医療関係者,マスメディア関係者等,人権にかかわりの深い特定の職業に従事
する者に対しては,人権尊重の精神を涵養するための研修を重点的に実施していくこと
が不可欠です。
これら特定職業従事者に対する研修については,その職務の性質上,特に人権への配
慮が必要とされ,住民から信頼されることが何よりも重要であることから,これまでも
各職場や関係機関等において様々に実施されてきましたが,今後とも,一層の充実を図
ります。
その際,職種・職務に応じた研修を計画的・体系的に実施するとともに,内容や手法
についても,既存の効果的な方策を有効に活用しながら,人権尊重の理念についての認
識を高め,きめ細かな人権感覚を養うとともに,人権への配慮が現れるような実践力を
身に付けるように努めます。
また,各職場や関係機関等による研修が充実したものとなるよう,情報の提供や講師
の紹介等についても,積極的な支援を進めます。
- 19 -
4 総合的かつ効果的推進
(1) 教材や資料等の整備・開発及び提供
人権教育・啓発の推進に当たっては,新たに生起する人権課題も含めた個別の人権
課題に関するものをはじめ,人権問題の歴史や施策及び人権問題相互の関連も含めた
総合的かつ体系的な観点から推進することが必要です。
このため,人権問題に興味・関心・共感を呼び起こすとともに,日常生活において
人権への配慮がその態度や行動に現れるような教材や資料の整備・開発に努めます。
また,その提供に当たっては,県民一人一人が自らのニーズにあった情報を容易に
入手できるように環境の整備・充実に努めるとともに,冊子,リーフレット及びマス
メディア等を通して効果的に行います。
(2) 内容・手法に関する調査・研究
学校,自治体,企業をはじめ民間団体等においては,これまでに様々な人権教育・
啓発に取り組んできており多くの実績があります。
内容においては,国際的な人権の潮流,差別の現実,人権問題と自分とのかかわり,
差別をなくす取組をはじめ,日常生活や地域に根ざしたもの等広範囲にわたっていま
す。
手法においては,広報誌,冊子をはじめマスメディアやビデオ等を媒体としたもの
や,講演形式だけでなく体験的参加型学習等があげられます。
これらの内容・手法は,対象者や地域の実情を反映したものであるとともに,実践
を通してその効果等が検証されていることから,今後の内容・手法を創意工夫してい
くための参考となるものです。
今後は,既存の効果的な内容・手法の調査・研究に取り組むとともに,対象者及び
地域の実情や目的に応じたより効果の期待できる新たな内容・手法に関する調査・研
究を行い,実効性のある研修プログラム等の作成・普及を進めます。
さらに,効果的指導の在り方を目指した研究指定校事業や啓発活動研究会等市町村
に対する支援事業等を通して研究・開発を進め,その成果の普及に努めます。
(3) 担当者等の育成
人権教育・啓発を総合的かつ効果的に推進するためには,市町村における教育・啓
発を計画的・系統的に推進する担当者の育成を図る必要があります。
また,あらゆる人々を対象に,あらゆる場における人権教育・啓発を実効あるもの
にするためには,対象者や地域の実情を踏まえ,地域に密着した人権教育・啓発を推
進する人材の育成を図る必要があります。
このため,担当者等の資質の向上を目指す様々な研修会等を実施するとともに,研
究団体等とも連携を図りながら,日常生活の中で主体的に人権問題の解決に取り組む
人材の育成に努めます。
- 20 -
第4章分野別施策の推進
(1) 現状と課題
ア現状
同和問題は,我が国固有の人権問題であり,日本国憲法が保障する基本的人権に
かかわる重大な社会問題です。
国は,1965年(昭和40年)の同和対策審議会答申を受けて,1969年(昭和44年)
に同和対策事業特別措置法を施行し,以後,二度にわたり制定された特別措置法に
基づき,約33年間,同和問題解決に向けて関係施策を推進してきました。
本県は,特に,全国最多の同和地区が散在するとともに,全国有数規模の旧産炭
地域が併せて存在するという歴史的・社会的事情があることから,同和問題の解決
を県政の重要な課題と位置付け,国や市町村と一体となって,特別措置法に基づく
特別対策のほか,本県独自の施策を実施することにより,総合的な同和対策の積極
的な推進に努めてきました。その結果,生活環境の改善をはじめとする物的な基盤
整備は着実な成果が見られるところです。
一方,差別意識の解消に向けた教育及び啓発も様々な創意工夫の下に推進してき
ましたが,依然として差別事象は後を絶たず,いまだ差別意識の解消に至っていま
せん。
イこれまでの取組
県民啓発の取組としては,従前から実施してきた「人権週間」の事業に加え,
1981年(昭和56年)からは本県独自の取組として,毎年7月を「同和問題啓発強調
月間」と定め,街頭啓発や講演会など市町村と一体となって各種啓発事業を実施し
てきました。
1996年(平成8年)には,啓発の拠点施設として「福岡県人権啓発情報センター」
を設置し,同和問題に関する常設展や様々な人権課題に関する特別展を開催すると
ともに,啓発冊子の作成,人権啓発ラジオ番組の放送等を行い県民啓発のより一層
の推進に努めてきました。
また,市町村が推進している同和問題に関する啓発事業をより充実強化すること
を目的として,1974年(昭和49年)に同和問題啓発事業費補助金制度を創設しまし
た。1983年(昭和58年)からは同和問題啓発活動研究会を,1989年(平成元年)か
らは同和問題啓発広報コンクールを実施し,市町村担当職員の相互交流や啓発広報
技術の向上を図ってきました。
さらに,1993年(平成5年)からは「同和問題をはじめとする人権問題に係る啓
発・研修講師団講師あっせん事業」を創設し,国,市町村,企業,地域等の求めに
応じて講師をあっせんしてきました。
1995年(平成7年)には,「福岡県部落差別事象の発生の防止に関する条例」を
制定し,結婚及び就職に際しての部落差別事象の発生防止に努めてきました。
- 21 -
同和教育の取組としては,同和問題解決における教育の重要性を認識しつつ,
1970年(昭和45年)に「福岡県同和教育基本方針」,1997年(平成9年)に「今後
の同和教育推進について-指針-」等の基本的な方針等を定め,これに基づき,資
料等の作成・配布,映画教材等の制作,副読本「かがやき」の作成及び人権教育指
導者育成研修プログラムの発行等の様々な施策を推進してきました。
特に,学校教育では,小・中・高等学校の12年間を通して,学力と進路の保障及
び人権尊重の精神の育成を図るため,全教科・全領域において,児童生徒の発達段
階や地域の実態を踏まえた系統的・発展的な同和教育を実践するとともに,教育内
容の工夫・改善を図ってきました。
また,社会教育では,市町村との連携等を通して,多様な学習機会の提供,自主
的な学習活動を促進する学習内容の工夫・改善等に努め,同和問題を自らの課題と
して解決する意志と実践力を育てる取組を進めてきました。
企業啓発の取組としては,1996年(平成8年)の「福岡県同和対策雇用促進協議
会」の提言や「同和地区住民の雇用推進連絡協議会」の意見を踏まえ,事業者が同
和問題についての理解と認識を深めるよう啓発を行い,差別のない公正な採用選考
の実現を図るとともに,企業における主体的取組の促進に努めてきました。
ウ課題
このように同和問題の早期解決に向けて教育・啓発を積極的に推進してきました
が,いまだに結婚問題を中心とした差別事象や企業活動に伴う差別事象が発生する
とともに,近年では,インターネットを使った悪質な差別事象も発生しています。
「県民意識調査」の結果においても,県民の同和問題に対する認識と理解は全般
的には進展しており,差別意識は徐々に解消に向けて進んでいますが,その一方で,
同和問題についての無関心層や無理解層が依然として見られる状況にあります(図
9)。
同和問題は独立して存在する問題ではなく,我が国の人権問題全体に深くかかわ
る問題です。
このため,今後の同和教育・啓発の取組に当たっては,1996年(平成8年)地対
協意見具申にも述べられているように,これまでの取組の成果とこの問題の固有の
経緯等を十分に踏まえつつ,同和問題を人権問題の重要な柱ととらえ,すべての人
の基本的人権を尊重する人権教育・啓発に再構築して積極的に推進することが必要
です。
さらに,同和問題に関する差別意識の解消を阻害し,新たな差別意識を生んでい
る「えせ同和行為」の根絶に向けて取り組む必要があります。

- 22 -
図9 「同和問題」についての意見
資料:2001年福岡県人権・同和問題県民意識調査
33.7
9.8
45.1
38.7
10.7
12.6
9.4
49.6
8.1
50.2
8.0
32.1
25.1
21.2
30.8
20.3
36.9
20.3
27.8
16.5
16.6
16.5
20.7
19.9
21.3
19.7
19.1
12.8
47.6
49.7
39.2
10.2
特に意識することはないが、  
        結婚だけは別だ
「部落差別」をするような人は 
     人間として失格である
特別な対策をすること自体が  
          「差別」だ
署名運動などに積極的に参加する
自分だけが反対しても仕方がない
自分のできることは真剣に   
         取り組みたい
一部の人の問題で自分とは   
          関係がない
「差別」を受けた話に怒りを感じる
そう思うそうは思わないどちらともいえない回答なし
- 23 -
(2) 施策の基本方向
ア同和問題啓発の推進
国及び市町村と緊密な連携の下,県民一人一人が同和問題についての正しい理解
と認識を深め,同和問題に自主的に取り組むことができるよう啓発活動に積極的に
取り組みます。
(ア) 県民に対する啓発活動の充実強化
県民一人一人が,同和問題についての正しい理解と認識を深め,差別の解消に
主体的に取り組むことができるよう,同和問題啓発強調月間(7月)や人権週間
(12月4日~10日)を中心に,一層工夫した講演会の開催やマスメディアを活用
した啓発活動を行います。
また,福岡県人権啓発情報センターにおいて,同和問題をはじめとする人権問
題に関する啓発に必要な資料及び情報提供の充実・強化に努めるとともに,啓発
事業を一層推進し,県民の人権意識の高揚を図ります。
さらに,結婚及び就職に際しての差別事象発生防止のため,「福岡県部落差別
事象の発生の防止に関する条例」の周知に努めます。
(イ) 地域における啓発研修の支援
市町村,企業や地域団体等が行う同和問題をはじめとする様々な人権問題に関
する啓発及び研修に対応できるよう,講師あっせん事業の充実を図り,県民啓発
研修を推進します。
また,市町村啓発担当職員の資質向上や啓発広報の技術向上を図り,地域に根
ざしたきめ細かな啓発事業を,より一層充実できるように,市町村への支援を行
います。
さらに,隣保館が,地域社会全体の中で,福祉の向上や人権啓発の住民交流の
拠点となるコミュニティセンターとして,更なる人権啓発活動を推進できるよう,
隣保館職員の資質向上のための各種研修の実施等隣保館への支援に努めます。
(ウ) 企業における啓発の推進
企業において,積極的に啓発活動が行われるよう,関係行政機関が連携して,
事業者や事業者団体に対する啓発指導を図るとともに,公正採用選考人権啓発推
進員等の制度を活用して,指導者の養成と資質の向上を図ります。
また,啓発資料の作成,提供等を通して,企業における啓発活動が充実するよ
う支援に努めます。
(エ) えせ同和行為の排除
同和問題解決の大きな阻害要因となっているえせ同和行為に対処するため,同
和問題についての正しい理解を深める啓発に努めるとともに,その排除に当たっ
ては,関係機関と連携の強化を図ります。
- 24 -
イ同和教育の推進
同和問題の解決は,教育における重要な課題であることを認識するとともに,県
民の教育・啓発に対する期待や願いに応えるために,これまでに培われてきた同和
教育の成果を踏まえつつ,引き続き諸施策の総合的かつ計画的な推進を図ります。
また,施策の推進に当たっては,学校教育と社会教育が連携・融合し,学校・地
域・家庭が一体となり,各種事業・研修会等を効果的に行うとともに,それらの取
組を通して同和問題に対する科学的認識に基づく確かな人権意識を培い,差別事象
の解消と県民一人一人が個性や能力を生かし,自己実現を図ることができる社会の
実現を目指した取組を積極的に推進します。
(ア) 学校教育
児童生徒の人権意識の高揚を目指して,就学前・小・中・高等学校の連携の下,
全教科・全領域における計画的・効果的な人権・同和教育を進めます。その際,
副読本「かがやき」等の有効活用を行うとともに内容の充実を図ります。
また,校長を中心とする校内推進組織を確立し,人権・同和教育担当者を設置
するとともに,教職員の人権・同和問題に対する正しい認識を培う研修の充実を
図り,児童生徒への効果的な指導が行われるよう指導力の向上に努めます。
さらに,学校・地域・家庭が一体となって学力と進学意欲等の向上を目指し,
基礎学力の確保,肯定的な自己認識力の形成,家庭・地域の教育力の向上等に取
り組むとともに,効果的指導の在り方を目指した研究指定校事業等を推進するこ
とを通して,態度や実践力が身に付くように,学習内容及び方法の工夫・改善を
行います。
(イ) 社会教育
教育の出発点となる家庭教育の重要性を認識し,乳幼児期における人権問題に
対する土台づくり及び児童生徒に対する正しい人権認識を形成するために,保護
者に対する学習機会や情報の提供を行います。
また,効果的な学習を進めるために,知識のみならず感性や態度・行動に現れ
るよう体験活動を重視した学習プログラムの開発や学習方法の工夫・改善等を進
めるとともに,教育資料やビデオフィルム,ホームページ等を通して,的確な情
報提供に努めます。
市町村に対しては,人権・同和教育の推進を図るために担当者等の研修会を実
施し,指導者の育成を計画的・効果的に行い,人権尊重のまちづくりへの支援を
行います。
また,これまで行われてきた同和地区及びその周辺地域の住民に対する教育活
動の成果を損なうことなく,地域における計画的・効果的な教育活動が行われる
よう支援に努めます。
- 25 -
(1) 現状と課題
ア現状
女性の人権尊重・地位向上を目指した本格的な動きは,1975年(昭和50年)の「国
際婦人年」に始まり,「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」や
数次の世界女性会議等の国際会議と連動して進められ,現在の男女共同参画社会の
形成に向けた動きへとつながってきました。
国においては,1994年(平成6年)に「男女共同参画推進本部」が設置され,
1996年(平成8年)に「男女共同参画2000年プラン」が策定されました。

1999年(平成11年)には「男女共同参画社会基本法」が制定され,2000年(平成
12年)には,この法律に基づく「男女共同参画基本計画」が策定されました。

また,2001年(平成13年)には,男女共同参画会議,内閣府男女共同参画局が設
置されるなど,推進体制が強化され,男女共同参画社会の形成に向けた取組が総合
的・計画的に推進されてきました。
さらに,個別の課題に対応するため,「男女雇用機会均等法」,「育児・介護休業
法」や「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」が制定されるな
ど法律や制度の整備が図られています。
しかし,女性に対する暴力や男女の役割に関する固定的な考え方が残っている等,
男女の事実上の平等は達成されておらず,依然として多くの課題が残されています。
イこれまでの取組
本県では,1978年(昭和53年)に「福岡県婦人関係推進会議」,「福岡県婦人問
題懇話会」を設置し,早くから女性問題解決に向けた取組を進めてきました。1980
年(昭和55年)には,「婦人問題を解決するための福岡県行動計画」を策定し,以
後3次にわたり計画を策定し,女性の人権尊重や地位向上及び男女共同参画社会づ
くりに努めてきました。1996年(平成8年)には,男女共同参画推進の中核的機能
を持つ施設として,福岡県女性総合センター(2003年度から福岡県男女共同参画セ
ンターに名称変更)を設置し,情報の収集・提供,調査・研究の実施,相談の充実,
研修講座の充実を図るとともに,女性の交流拠点として,民間レベルでの男女共同
参画の推進にも寄与してきました。
2001年(平成13年)に県をあげて男女共同参画を総合的,計画的に推進すること
を目的とする「福岡県男女共同参画推進条例」を制定,2002年(平成14年)には,
法律と条例に基づく初めての法定計画である「福岡県男女共同参画計画」を策定し,

2005年度(平成17年度)までに県において実施すべき事項を体系化し,今後の方向
性を示しています。
- 26 -
ウ課題
本県の審議会等における女性の登用は,全国でもトップレベルにあります。しか
し,市町村審議会等の参画状況には地域差があり,女性の参画に向けた県内全域で
の取組が求められています。
また,1999年(平成11年)の男女共同参画社会に向けての意識調査では,家庭生
活,職場,地域活動・社会活動,政治の分野において,「平等,どちらかといえば
平等」と答えた人よりも「男性の方が優遇されている,どちらかといえば優遇され
ている」と答えた人が男女とも多くなっている等,男女平等が達成されたとは言い
難い状況にあります(図10)。
雇用の場においては,男女の固定的な役割分担の存在と女性が育児・介護等の大
半を担う現実が大きな要因となって,昇級・昇格,役職への登用等に男女間の格差
が見られること等,仕事と家庭の両立支援策の拡充が求められています。
農山漁村においては,地域のリーダーとして活躍したり,事業を主体的に運営す
る女性が増えてきていますが,固定的性別役割分担に基づく慣行や習慣が残ってお
り,方針決定の場等への参画はまだ不十分です。経営のパートナーとしての能力発
揮を促進するためにも女性の就業条件等の整備や意識改革がなお求められていま
す。
さらに,人権意識の高まりにより,配偶者からの暴力やセクシュアル・ハラスメ
ント等,女性に対する暴力による人権侵害が顕在化しており,「配偶者からの暴力
の防止及び被害者の保護に関する法律」等に基づく新たな取組が緊急の課題になっ
ています。
このような状況に対し,「福岡県男女共同参画推進条例」や「福岡県男女共同参
画計画」に基づき,男女が性別によって差別されることなく,その人権が尊重され
る男女共同参画社会の実現に向けた人権教育・啓発に取り組む必要があります。
図10 男女の地位の平等感
資料:1999年福岡県「男女共同参画社会に向けての意識調査」
5.7
5.5
14.7
15.5
37 .4
34 .0
30.8
2.1 28.8
1.5 8.8
14.1
平成6年
平成11年










































































0 .0
1 .1
(職場で)
5.6
7.0
24.5
2 3.1
4 2.1
3 7.9
21.3
4.1 21.2
2.6 3.5
6 .7
平成6年
平成11年










































































0 .0
0 .4
(家庭生活で)
5.2
4.9
29.7
25.0
35.0
32.7
15.1
16.7
1.0
0.8
19.8
平成6年12.2
平成11年0.0
1.7
(地域活動・社会生活の場で
3 .7
3.3
58 .1
51.8
12.1
12.8
3 .7
5.2
0.9
0.8
25.9
平成6年20 .2
平成11年0.0
13
(学校教育の場で
- 27 -
(2) 施策の基本方向
ア男女共同参画社会を実現するための環境づくり
女性の人権が尊重される社会を実現するためには,男女が社会の対等な構成員と
して,自らの意思によって社会のあらゆる分野における活動に参画する機会が確保
され,男女が均等に政治的,経済的,社会的及び文化的利益を享受することができ,
かつ,共に責任を担う男女共同参画の推進が必要です。
このため,政策・方針決定過程への女性の参画を図るとともに,男女平等や男女
共同参画推進の意識を醸成する啓発活動を行います。
また,子どもたちが将来,性別にかかわりなく対等な立場で社会や家庭を担って
いくために必要な教育の充実を図ります。
(ア) 政策・方針決定過程への女性の参画の推進
政策・方針決定過程への女性の参画を進めるため,審議会等の女性委員の登用
を推進するとともに,女性の能力発揮のための取組を推進します。
(イ) 男女共同参画に関する啓発の実施
福岡県男女共同参画推進条例で規定する「男女共同参画の日」を定着させる等,

広がりをもった啓発活動を行います。
また,福岡県男女共同参画センターが実施する啓発活動・事業の充実を図りま
す。
(ウ) 男女共同参画教育の充実
「男女共同参画教育指導の手引」等を活用した教育活動を推進するとともに,
教職員に対する研修を実施します。
イ女性の人権が尊重される社会づくり
福岡県男女共同参画推進条例は,男女が性別によって差別されることなく,その
人権が尊重されることを基本理念の一つとしています。近年大きな社会問題となっ
ている女性への暴力,特に配偶者からの暴力について,被害者の人権を尊重しなが
ら,法律等に基づいた適切な対応を図ります。
また,様々な情報を発信するメディアについては,女性の人権を確保するため,
自主的な取組の促進を図ります。
(ア) 女性に対する暴力の防止
女性に対する暴力防止に関する理解の促進を図り,社会的認知を広げるための
啓発を推進するとともに,関係機関等の連携強化を図りながら,配偶者からの暴
力防止対策及び被害者保護対策を推進します。
また,被害者からの相談に適切に対応できるように相談業務の充実強化を図り
ます。
- 28 -
(イ) 女性の人権に係る啓発活動の推進
メディアの発信する情報の社会的影響に鑑み,メディアにおける人権の尊重に
ついて,男女共同参画の視点から検討を行い,自主的な取組を促進します。
ウ職場・家庭・地域における男女共同参画の推進
女性があらゆる分野において男性と対等に参画するためには,職場における均等
な機会と待遇の確保や家庭・地域における活動を男女が共に担える環境づくりが必
要です。
このため,事業者団体等と連携した取組の推進,仕事と家庭の両立支援の取組,
地域における女性の参画等を推進します。
(ア) 職場における男女共同参画推進
事業者団体等と連携し,職場において女性が能力を発揮できるよう,職場環境
の整備促進を図るとともに,男女共同参画職場づくりに取り組む先進的な企業の
事例を収集し,他企業への普及を図ります。
(イ) 男女が共に育児を担う環境づくり
男女が仕事と家庭の責任を担い,育児等ができるよう男女の育児協力の啓発等
を行うとともに,仕事と家庭の両立を支援するための環境づくりを推進します。
(ウ) 女性の再就職支援
育児等による退職後,再就職を希望する女性の就業機会の拡大を図るため,企
業や労働市場のニーズを踏まえ,ライフプランに応じた適切な支援を行います。
(エ) 農山漁村における男女共同参画社会づくりの推進
農山漁村女性が,男性と共に積極的に参画できる社会を実現するため,女性が
農林水産業経営や地域の方針決定の場へ参加するための環境づくりを支援しま
す。
- 29 -
(1) 現状と課題
ア現状
子どもは,人格を持った一人の人間として,尊重されなければなりません。子ど
も一人一人が基本的人権の権利主体であることを理解し,その人権尊重や保護に向
けて取り組んでいくことが必要です。
国は,日本国憲法の精神に則り,1947年(昭和22年)に「児童福祉法」を制定,
1951年(昭和26年)には,「児童憲章」を制定し,子どもの人権尊重とその心身に

わたる福祉の保障及び増進に関する関係諸施策を進めてきました。
また,1994年(平成6年)には「児童の権利に関する条約」を批准し,子どもの
最善の利益を優先させるという条約の精神に沿って,1998年(平成10年)に児童福
祉法を改正,1999年(平成11年)には,「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処
罰及び児童の保護等に関する法律」を制定,さらに,2000年(平成12年)には,被
虐待児の早期救済などを目指す「児童虐待の防止等に関する法律」を制定しました。
このように,子どもの人権擁護の動きが本格化している一方,依然として子ども
の人権を侵害する事象は後を絶たず,児童虐待,いじめや体罰など多くの深刻な問
題が生じています。
また,シンナーや覚せい剤等の薬物乱用の低年齢化,有害情報の氾濫や性の商品
化といった問題など,子どもの心身をむしばむ憂うべき社会現象も見られます。
イこれまでの取組
本県では,1983年(昭和58年)に,広範で総合的な取組を行うために設置した「福
岡県青少年健全育成対策推進本部」の下で,1995年(平成7年)「福岡県青少年健
全育成条例」を制定し,この条例を適正に運用するとともに,1992年(平成4年)
「福岡県青少年健全育成総合計画」や1997年(平成9年)「福岡県児童育成計画」
* *
等に基づいて,子どもが健やかにたくましく育まれる環境づくりに努めてきました。
また,急増する児童虐待に対応するため,2000年(平成12年)に庁内組織として
「福岡県児童虐待防止対策協議会」を,2001年(平成13年)には県内の福祉・医療
や教育等の関係機関・団体で構成する「福岡県児童虐待防止中央連絡会議」を設置
するとともに県内14ブロックに「福岡県児童虐待防止地域連絡会議」を設置し,児
童虐待防止ネットワークを構築するなど,児童虐待の防止施策の推進を図ってきま
した。
さらに,学校においては,いじめや体罰の問題をはじめとした児童生徒の人権を
侵害する行為を根絶し,人権尊重の精神の高揚を図る教育活動を推進してきました。
特に,いじめや不登校を生まない学校づくりを目指して,子ども達の人間関係能
力を育成する教育活動を実践的に促進するとともに,教育相談ネットワークを構築

し,心に悩みを持つ子ども達の相談環境の整備等に努めてきました。
- 30 -
ウ課題
近年,少子化や核家族化,都市化の進行により,家庭や地域における子育て機能
の低下や地域とのつながりの希薄化といった問題など,子どもや家庭を取り巻く環
境は大きく変化しています。
このような中で,子どもに豊かな人間性,正義感や公正さを重んじる心,他人を
思いやる心,人権を尊重する心などを培うことが求められています。
また,子どもは,大人から庇護されるばかりでなく,大人と同じように権利の主
体であって,自ら考え,行動しながら人格を形成していく存在であり,その成長発
達を見守るのが保護者はもとより大人の責任です。
このため,子育ての支援体制の整備,地域ぐるみで子どもを育てる家庭や地域の
教育力の向上など子どもが健やかに育まれる環境づくりを通して,人権意識の高揚
と人権教育の推進を図っていく必要があります。
- 31 -
(2) 施策の基本方向
ア子どもの人権が尊重される社会づくり
大人が,次代を担う子どもの人権を尊重し,健やかに育成することの大切さを改
めて認識することが必要です。
このため,「児童の権利に関する条約」の趣旨を,大人一人一人が理解を深める
よう,様々な広報媒体等を活用し,広報・啓発を行います。
また,いじめの問題や非行問題の解決に向けて,家庭や地域の教育の在り方を見
直すために県民が皆で考える集いを開催します。
さらに,学校においては,いじめや体罰の問題をはじめとした児童生徒の人権を
侵害する行為を根絶し,人権尊重の精神の育成を図る取組を行います。
イ子育て支援
子どもや子育てに関する不安・悩みの解消や,子育ての負担の軽減などに努め,
子どもが健やかに育つことができる環境を整備します。
(ア) 健やかな育成支援
子育てに対する不安や悩み,いじめ,不登校,虐待等様々な問題についての相
談機関の広報に努めるとともに,相談に携わる者に対して研修を実施することに
より,相談事業の充実を図ります。
特に,児童虐待については未然防止,早期発見・早期対応が重要であるため,
児童にかかわる各関係機関・団体との連携の強化を図り,児童や家庭に対する相
談・支援体制の整備を行います。
(イ) 保育の充実
仕事と子育ての両立を支援するとともに,子育ての負担感を緩和し,安心して
子育てができるような環境整備を促進するため,延長保育,一時保育,地域の子
育て支援等により,保護者の多様なニーズに応える保育サービスの充実を図りま
す。
また,人権を大切にする心を育てる保育を行うためには,保育所職員自身の人
権感覚を豊かにすることが必要であることから,引き続き職員研修の充実を図り
ます。
ウ心豊かに育つ環境づくり
子どもの人権を尊重するために,研修を通して教職員や子ども会などの地域の指
導者に対する人権意識の涵養に努めるとともに,子ども自身が,次代の担い手とし
ての責任を自覚して主体的な生き方ができるように,学校,地域,家庭が連携して,
子ども達の「豊かな心と生きる力」を育む,きめ細かな教育を推進します。
- 32 -
(ア) 人権教育・心の教育等の推進
学校の教育活動を通して児童生徒の人権意識の高揚と定着を図るとともに,学
校,地域,家庭等が連携して,生命の大切さ,正義感や倫理観,他人への思いや
りなど子どもの豊かな心を育むため,ボランティア活動などの社会体験や自然体
験,高齢者との交流等様々な体験の機会を通して心の教育を推進します。
(イ) 積極的な生徒指導の推進
学校教育においては,「いじめや体罰は絶対に認められない」という基本方針
の下に,校長・教頭等の生徒指導関係研修会及び新規採用教員研修会等において,
一人一人の子どもに対する理解を深め,人権教育を推進するためのきめ細かな指
導を行うことの重要性及び体罰禁止の周知徹底を図ります。
また,夏休み等の長期休業日における生徒指導についても,児童生徒の安全確
保や健全育成を図り,児童生徒の実情に即したきめ細かな指導を徹底します。
(ウ) 社会環境の整備
子どもたちを取り巻く環境については,露骨な性描写,暴力,残虐シーン等の
有害情報が氾濫し,深刻な事態となっています。
このような状況に対処するため,福岡県青少年健全育成条例に基づき,子ども
たちを取り巻く有害環境の浄化に努めます。
また,シンナーや覚せい剤等の薬物乱用による子どもの健康被害を未然に防止
するため,学校及び地域において薬物乱用防止のための啓発を推進します。
- 33 -
(1) 現状と課題
ア現状
世界各国で高齢化が進む中,1982年(昭和57年)に初めての高齢者に関する国連
の世界会議がウィーンで開催されました。1991年(平成3年)には,高齢者の自立,
参加,ケア,自己実現及び尊厳を実現することを目指した「高齢者のための国連原

則」が採択され,1999年(平成11年)を「国際高齢者年」とするなど,国連は,世
界各国の高齢者問題に関する積極的な取組を呼び掛けてきました。
我が国においては,1970年代半ば頃までは施設ケアに重点が置かれていましたが,
それ以降は在宅福祉への認識が高まり,1989年(平成元年)に在宅福祉対策や施設
福祉対策などの主要な7つの柱を立てた「高齢者保健福祉推進10カ年戦略」(ゴー
ルドプラン)が,1994年(平成6年)にはゴールドプランの内容を見直した「新ゴー
ルドプラン」が策定されました。
また,1995年(平成7年)には,国が講じるべき施策が規定された「高齢社会対
策基本法」が制定され,高齢者施策の基盤整備が図られてきましたが,高齢者介護
が普遍的な課題となり,1997年(平成9年)に高齢者の介護を社会全体で支える新
たな仕組みとして「介護保険法」が制定され,2000年(平成12年)から施行されま
した。
さらに,全国の自治体が策定した「介護保険事業計画」を基に,1999年(平成11
年)には高齢者保健福祉施策の一層の推進を図る「ゴールドプラン21」が策定され
ました。
本県では,高齢化は国とほぼ同様の傾向で進行しており,2002年(平成14年)4
月1日現在,65歳以上の高齢者は約90万5千人,高齢化率は18.0%となっています。
今後,2015年には4人に1人,2050年には約3人に1人が65歳以上の高齢者となるこ
とが予測されています。
このように急速に高齢化が進展する中,就労の意志・能力があるにもかかわらず,
高齢のみをもって就労の機会が確保されず,結果として社会参加や自己実現の権利
が十分に保障されないといった問題があります。
また,高齢により心身機能が衰え,介護が必要となった場合に,人格やプライバ
シーを無視された処遇を受けたり,身体を拘束されるなど高齢者の「人間としての
尊厳」が脅かされる状況があります。
さらに,一人暮らしや高齢夫婦世帯が増加する中で,高齢者を対象とした悪徳商
法による被害が増加するとともに,判断能力が十分でない痴呆性高齢者の財産管理
の問題も生じているのが現状です。
- 34 -
イこれまでの取組
本県では,1994年(平成6年)に県民すべてが健やかで心豊かな生活を送ること
ができる活力ある高齢社会の実現に向けた「高齢者保健福祉計画」や「第二次福岡

県高齢社会行動計画」(すこやかライフ推進プランⅡ)を策定し,保健福祉サービ
スの目標を定め,総合的にサービスを提供できる体制づくりに努めてきました。
1998年(平成10年)には,「福祉のまちづくり条例」を制定し,建物や道路,公
園などにバリアフリーのまちづくりを推進してきました。
また,介護保険制度が創設されるなど,社会福祉制度の枠組みが大きく変わる中,
2000年(平成12年)には,従来の高齢者保健福祉計画を見直し,高齢者に係る広範
にわたる施策を視野に入れた総合的な計画である「第2次高齢者保健福祉計画」を

策定し,介護サービスを利用することができる社会基盤の整備や介護予防,生きが
いづくりなどの施策の推進に努めてきました。
ウ課題
人生80年時代を迎え,すべての人々がはつらつとして長生きして良かったと実感
できる活力ある社会を築くためには,個人の自立や家庭の役割を支援し,県民の活
力を増進するとともに,自助,共助及び公助の適切な役割分担の下に,高齢社会に
おける県民生活の安定向上を図る必要があります。
また,他世代に比べて自由時間が多く,まだ健康で働きたい,これまで培った知
識,経験を活かして社会参加したい,あるいは学習活動を通して知識を広げたいと
いう高齢者も多いことから,就業の場の提供や生きがいをもって生活できる環境づ
くりが重要な課題となっています。
さらに,基本的人権の主体として,高齢者が可能な限り自立した快適な生活が送
れるよう,高齢者に対する身体的・精神的虐待や財産権の侵害など様々な問題から
高齢者を保護するための施策の推進とともに一層の人権教育・啓発に取り組む必要
があります。
- 35 -
(2) 施策の基本方向
ア高齢者の生きがい対策の推進
高齢者は,職場や家庭での場面において社会的な役割が希薄になることがありま
す。
このため,社会的役割を担い,生きがいをもって生活できるよう,これまでに培
った知識や技術,経験を活かした就業,ボランティア活動などの社会参加を促進し
ます。
(ア) 雇用・就業機会の確保
高齢者の意欲,能力に応じた多様な雇用,就業機会の確保のために,シルバー
人材センターの支援,高齢者の派遣事業等を推進します。
(イ) 社会参加の促進
高齢者の生きがいづくりの推進母体としての役割を担う福岡県明るい長寿社会
づくり推進センターにおける事業を推進するとともに,生きがい,健康づくり,
仲間づくりを目的とするスポーツ・文化祭の開催や高齢者生きがい活動,老人ク
ラブ活動の支援に努めます。
(ウ) 生涯学習の推進
高齢者の社会参加,生きがいづくりとして,高齢者が地域で活用できる知識・
技能の修得を促進するとともに,講師等として地域で活動する機会,場の整備に
努めます。
イサービスを利用しやすい環境づくり
介護保険制度の実施に伴い,サービスを提供する事業者として多様な民間事業者
の参入が図られるとともに,サービスの内容も多様化しています。
介護や支援の必要な高齢者が必要かつ適切なサービスを利用するために,相談体
制の充実,情報の提供体制の整備を図るとともに,高齢者が人としての尊厳を保ち
ながら,様々なサービスを利用できる環境づくりを推進します。
(ア) 保健・医療・福祉相談体制の充実
高齢者の総合相談窓口である高齢者総合相談センター(シルバー110番)にお
いて悩みごとに総合的に対応するとともに,保健福祉環境事務所,市町村,在宅
介護支援センター等の緊密な連携を図り,保健・医療・福祉などの相談支援体制
の充実に努めます。
(イ) 苦情相談の対応
福祉サービスに関する苦情解決制度により,利用者からの苦情の公平かつ円滑

な解決を図り,高齢者の人権を擁護します。
- 36 -
(ウ) 介護保険施設等における身体的拘束廃止の推進
高齢者の人権を擁護し,より質の高いケアを目指すため,介護保険施設等にお
ける身体拘束の廃止の取組を推進します。
ウ地域生活支援体制の整備
高齢者が住み慣れた地域で安心して生活できる社会を築くことが重要な課題とな
っており,世代間交流事業や福祉のまちづくりの推進,ボランティア活動等の促進
など,高齢者を地域全体で支える地域生活支援体制の整備を図ります。
(ア) 啓発活動・福祉教育の推進
高齢者福祉に対する理解と関心を深めるため,老人の日を中心とした「老人週

間」(9月15日~21日)の行事を実施するなど広く県民の敬老意識の高揚を図り
ます。
また,学校教育において,各教科,道徳,特別活動,総合的な学習の時間を通
して,高齢者に対する尊敬,感謝の心を育むとともに,介護・福祉体験や高齢者
との交流事業を進めるなど福祉教育を推進します。
(イ) 福祉のまちづくりの推進
高齢者等をはじめとするすべての県民の自立や社会参加を促進する安全で快適
な生活環境づくりのため,「福岡県福祉のまちづくり条例」に基づき,公共的建
築物,公共交通機関,歩行空間等のバリアフリー化を促進し,高齢者が安全かつ

円滑に移動できるまちづくりを推進します。
(ウ) 地域福祉活動等の促進
一人暮らし高齢者や要介護者の増加に伴い,地域で活躍するボランティアや民
生委員等の役割が重視されていることから,県民がボランティアに参加しやすい
よう,情報提供,養成研修の実施,民生・児童委員等の研修の充実を図ります。
また,老人クラブや郵便局等の関係機関・団体等との連携・協力を図りながら,
一人暮らし高齢者等の見守り,安否確認を行う等,地域で高齢者を支える体制の
整備を図ります。
(エ) 高齢消費者の安全対策の推進
高齢者が消費者トラブルに巻き込まれるおそれが増大する中,人権侵害を及ぼ
す悪質商法などから高齢者を保護するため,福岡県消費生活センターでの相談や
高齢者のための講座を実施するとともに,「消費者保護連絡会議」において警察
や消費生活センター等との連携を図るほか,市町村の消費行政担当者及び消費生
活相談員の研修等を実施します。
- 37 -
エ痴呆性高齢者施策の推進
高齢化の進行に伴い,今後更に痴呆性高齢者の増加が予測されます。
このため,痴呆介護の知識,技術を高めるとともに,相談体制の充実,痴呆性高
齢者の安全対策や権利擁護といった視点からの施策を推進します。
(ア) 痴呆介護に関する研修の充実
痴呆性高齢者の介護に係る施設の職員やホームヘルパー等の介護職員に対し
て,基礎知識,介護技術とともに,人権問題等についての研修も実施し,高齢者
の人権に配慮した介護が行われるよう人材の養成・確保に努めます。
(イ) 福祉サービス利用援助事業の推進
判断能力が十分でない痴呆性高齢者などが地域で安心して自立した生活を送る
ことができるよう,「成年後見制度」との連携を図りながら,福祉サービス手続

の援助や日常的な金銭管理を行う福祉サービス利用援助事業(地域福祉権利擁護
事業)を促進し,高齢者の権利擁護の取組を進めます。
- 38 -
(1) 現状と課題
ア現状
障害者の人権尊重の気運は,1971年(昭和46年)国連総会における「精神薄弱者
の権利に関する宣言」とこれに続く,1975年(昭和50年)の「障害者の権利宣言」
を契機に高まり,1981年(昭和56年)には,障害者の完全参加と平等をテーマとす
る「国際障害者年」が設定されました。
また,こうした取組を継続するために,1982年(昭和57年)国連総会は,翌年か
らの10年間を「障害者のための国連10年」と定めるとともに,引き続き「アジア太
平洋障害者の10年」(1993~2002年)などの取組を通して,障害者の人権の確立,
自立と社会参加の実現に努めてきました。
このような潮流の中で,我が国においても1993年(平成5年)に「心身障害者対
策基本法」を「障害者基本法」へと改正し,障害者の「自立とあらゆる分野におけ
る参加促進」という基本理念を示すとともに,これまで「医療と保護」の対象であ
った精神障害者に対し,福祉的視点から社会復帰を支援していくこととしました。
同年,「障害者対策に関する新長期計画」を策定し,1993年以降の10年間におけ

る施策の基本的方向と具体的方策を明らかにしました。1995年(平成7年)にこの
新長期計画の重点施策実施計画として「障害者プラン~ノーマライゼーション7か

年戦略~」を策定し,障害者施策の総合的,計画的推進を図っています。
障害者が,障害のない人と同等に生活し活動する社会を目指すという,ノーマラ
イゼーションの理念については,啓発・広報により県民の間に浸透しつつあります
が,今なお,障害者に対する偏見や差別意識は根強く残っており,自立と社会参加
を阻む様々な心理的,物理的障壁が依然として存在しています。
イこれまでの取組
本県では,1995年(平成7年)にノーマライゼーションの理念の下に,障害者も
社会を構成する一員として,社会・経済・文化などあらゆる分野における「完全参
加と平等」の実現を目標に掲げた「福岡県障害者福祉長期計画」を策定しました。

1999年(平成11年)には,長期計画の具体的実施計画である「ふくおか障害者プ

ラン」(平成11~15年)を策定し,障害者の生活を支える基幹的な事業の具体的な数
値目標を設定して,障害者福祉基盤の整備を図ることとしました。
このプランに基づき,在宅福祉サービスの充実,福祉施設の整備促進,地域にお
ける生活支援体制の充実,教育相談体制の整備・充実,就業機会や雇用の場の確保,
法定雇用率の達成促進,職業訓練の実施,共同作業所の運営支援など社会参加を促

進する環境づくり,さらには障害者との交流を促進する各種イベントの実施や障害
者の人権問題等幅広く理解を深めるための広報啓発活動に取り組んできました。
また,1998年(平成10年)に「福祉のまちづくり条例」を制定,建物や道路,公
園などのバリアフリー化を推進し,障害者や高齢者等が参加できる地域づくりを進
めてきました。
- 39 -
ウ課題
これまでの施策の推進により,障害者に対する県民の理解や認識は着実に深まり
つつあります。地域における生活支援体制の整備も進み,障害者の自立と社会参加
を可能とする環境も徐々に整いつつあります。
これに伴い,障害者自身が自らの意思と能力を発揮して,地域の中で生活し,か
つ積極的に社会へ参加したいとの意欲が高まっています。
しかしながら,身体障害者や知的障害者に対して,学校,地域,職域における「嫌
がらせ」や「いじめ」などの人権侵害事象の発生が見られるとともに,精神障害者
に対しても,病気に対する無理解や偏見が社会復帰を阻んでいます。
障害者の自立と社会参加を実現するには,障害者の人権が尊重されるよう,正し
い理解のための県民啓発や地域における生活支援体制の整備,就業機会の確保,障
害児教育の充実,権利擁護システムの整備など引き続き取組が必要な多くの課題が
あります。
また,近年,高機能自閉症,アスペルガー症候群,学習障害(LD),高次脳機能
* * * *
障害などこれまで「障害」として認識されなかった問題に対しても,新たな対策が
求められています。
- 40 -
(2) 施策の基本方向
ア正しい理解と認識のための県民啓発の推進
ノーマライゼーションの理念は,県民の間に着実に広がりを見せています。しか
しながら,一方では障害者に対する偏見や差別意識が残されており,特に精神障害
者に対する無理解や偏見は根強く,社会復帰を阻む大きな障壁となっています。
このため,「障害者週間」(12月3日~9日)など様々な行事を通して正しい理解

を深めるとともに,障害者の人権が尊重されるよう県民啓発活動を推進します。
イ自立と社会参加の促進
障害者基本法の理念である障害者の自立とあらゆる分野の活動への参加を促進す
るための環境づくりを進めます。
また,障害者が住み慣れた地域で安心して生活できるよう相談支援体制の整備,
障害者スポーツの振興,各種レクリエーション・文化活動への参加促進などに取り
組みます。
(ア) 地域における生活支援
地域での生活を支えるため,療育指導,相談援助,各種福祉サービスの情報提
供・調整など障害者の地域生活の支援を進めます。
また,身体障害者や知的障害者の相談員制度の充実を図り,身近な地域におけ
る相談支援体制の整備に努めます。
(イ) スポーツ・レクリエーション,文化・芸術活動の振興
障害者のスポーツ大会の開催や各種レクリエーション活動への参加促進,文
化・芸術活動の支援などにより,障害者の社会参加に積極的に取り組みます。
(ウ) 社会復帰の支援
精神障害者は,病気に対する無理解や偏見から社会復帰は厳しい現状にありま
す。
このため,正しい理解のための県民啓発に努めるとともに,デイケアの実施,
職親制度の活用など精神障害者の社会復帰に向けた支援に取り組みます。
ウ職業的自立の促進
障害者が働く意欲を持ちながら,就業機会の確保が進まない状況を改善し,意欲
に応じた職業的自立を図れるよう,必要な職業能力開発を行うとともに,雇用・就
業機会の確保に向けた支援を行います。
- 41 -
(ア) 職業能力開発の推進
福岡障害者職業能力開発校において,障害者が職業に必要な知識や技能を計画
的に習得し,障害者の職業の安定と自立を図るとともに,経済及び社会の発展に
寄与する人材を養成するための職業能力開発の充実に努めます。
また,障害者週間に訓練状況を公開し,障害者への一層の理解が深まるよう努
めます。
(イ) 障害者の就業機会や雇用の場の確保
障害者の意欲や能力に応じて,就業機会や雇用の場を確保し,職業的自立を図
れるよう,企業の理解と協力を求め,法定雇用率の達成を促進するとともに,障
害者に対する職域開発及び職場定着に向けた支援を行います。
エ障害児教育の充実
障害のある子どもの自立と社会参加の推進を図るため,一人一人の教育的なニー
ズを把握し,障害の種類,程度に応じたきめ細かな教育を行います。
また,交流教育の推進や障害のある子どもの地域活動の支援を行い,障害のある
子どもとその教育についての理解の促進を図ります。
(ア) 「生きる力」の育成
特殊教育諸学校において,障害のある子どもが自己のもつ能力や可能性を最大
限に伸ばし,自立して社会参加するための基礎となる「生きる力」を培うために,
一人一人の教育的ニーズに基づいた基礎的・基本的な指導内容を明確にし,主体
的に学ぶ力を継続的・発展的・組織的に育成する指導体制を整えるなど,個に応
じた教育を一層推進します。
(イ) 進路指導の充実
障害のある子どもの職業生活や社会生活への円滑な移行のため,職業教育の充
実を図るとともに,特殊教育諸学校就業促進協議会等を通じ,労働・福祉関係機
関や企業との連携強化を図り,進路指導の充実に努めます。
(ウ) 相談体制の充実
各教育事務所に設置した特殊教育を担当する専門の教員や児童生徒指導相談員
による教育相談を実施するとともに,教育,医療,福祉,労働関係機関等との連
携のとれた教育相談を実施し,保護者や子どもに適切な支援を行う相談体制のよ
り一層の充実に努めます。
(エ) 交流教育の推進
障害のある子どもの経験を広め,社会性を養い,好ましい人間関係を育てると
ともに,障害のない子どもや地域社会の人たちに,障害のある子どもやその教育
についての正しい理解を促進するため,特殊教育諸学校において,学校間交流や
地域社会との交流を計画的,積極的に推進します。
- 42 -
(オ) ボランティア等の育成
障害のある子どもが地域の行事等に参画できるよう,障害のある子どもについ
ての理解や支援の在り方等についての講習会を開催し,地域における指導員やボ
ランティアの育成を図ります。
(カ) 障害児についての理解の促進
障害のある子どもや支援の在り方等に関する啓発リーフレットを幼児教育機関
や教育相談機関,その他教育・福祉関係機関に配布し,適正な就学や障害児教育
に対する正しい理解の促進に努めます。
オ地域生活支援体制等の整備
障害者の人権擁護のため,啓発広報の推進とともに,地域における生活支援と権
利保障のシステムの整備に努めます。
(ア) 地域福祉権利擁護事業の推進
判断能力が十分でない知的障害者,精神障害者などが地域で安心して自立して
生活できるよう,各種の相談に応じ,サービス利用援助などを行う福祉サービス
利用援助事業に取り組みます。
(イ) サービス利用者の苦情解決システムの整備
福祉施設の入所者が安心してサービスを利用できる環境づくりのため,施設に
第三者委員,県社会福祉協議会に運営適正化委員会を設置するなどサービス利用
者の苦情に対して解決の仕組みの整備を進めます。
(ウ) 「障害者110番」の充実
障害者本人や家族からの様々な相談に対応するため「障害者110番」を設置し,
一般相談のほか弁護士や医師などによる専門的相談の充実を図ります。
- 43 -
(1) 現状と課題
ア現状
本県は,我が国とアジアの国や地域との交流の結節地域(クロスロード)として,
古くから朝鮮半島や中国大陸との人,モノ,文化の交流が盛んに行われています。
さらに,近年の著しいグローバル化,ボーダレス化の進展に伴い,仕事あるいは
研修や勉学のために多数の外国人が訪れ,また,生活しており,今後とも,本県に
在住する外国人が増加していくことが予想されています。
本県における外国人登録者数は,2001年(平成13年)12月末で118か国,40,434
人(全国第13位)となっており,その過半数は,歴史的な経緯から日本に居住する
こととなった在日韓国・朝鮮人の人々が占めています。
人権擁護推進審議会が2001年(平成13年)に行った答申では,外国人に対する人
権課題として,就労に際しての差別問題,入居・入店拒否問題,在日韓国・朝鮮人
児童生徒への暴力や嫌がらせ,差別発言があると指摘しています。
本県においても,外国人の増加に伴い,言葉,文化,生活習慣等の違いから,地
域住民との相互理解の不足による誤解やトラブルが発生しています。
また,在日韓国・朝鮮人児童生徒に対するいやがらせ等も発生しています。
イこれまでの取組
民族,文化や価値観などの異なる人々が,同じ地域で生活することは,互いを知
り,互いを学ぶことによって,新しい文化や豊かで活力のある社会を生み出す源泉
となります。
このため,本県では1997年(平成9年)に「福岡県国際化推進プラン」を,2002年
(平成14年)3月には,同プランを見直して「ふくおか国際化推進プラン」を策定

し,日本人と外国人が共に暮らす,世界に開かれた地域づくりを目指してきました。
また,庁内に国際化問題に取り組むための「福岡県国際交流行政連絡会議」を設
置し,1996年(平成8年)には,同連絡会議の下に「外国人県民問題対策部会」を
設け,在日韓国・朝鮮人問題を含め在住外国人対策を具体的に検討してきました。
1998年(平成10年)には,県内在住外国人から広く意見を求めるため,外国人を
主要メンバーとした「福岡県の国際化を共に考える懇話会」を発足させ,2年後の
2000年(平成12年)に出された報告書を踏まえ,取組を進めてきました。
さらに,1998年(平成10年)には,「人権教育のための国連10年福岡県行動計
画」を踏まえ,「学校教育における在日外国人の人権に関する指導上の指針」を策

定し,在日韓国・朝鮮人をはじめとする外国人と日本人が共に生き,多元的文化や
多様性を容認できるように,外国人問題に関する人権教育を推進してきました。
- 44 -
ウ課題
外国人と日本人が,住民として共に生きる開かれた地域社会を実現するため,お
互いに,多様な価値観を持ち,異なった歴史や文化に対する認識を深め,尊重する
とともに,広く県民の間に多元的文化や多様性を容認する心を育むことが必要です。
加えて,在日韓国・朝鮮人に対する偏見や差別意識の克服には,歴史的経緯を正
しく理解することが必要です。
このため,今後とも,人権教育や国際理解教育の推進を図り,偏見や差別の解消
に向けた啓発に取り組む必要があります。
- 45 -
(2) 施策の基本方向
ア国際理解のための啓発の推進
開かれた地域社会を目指すためには,異なる文化や価値観の違いを認め,お互い
の人権を尊重することが必要です。
このため,講演会をはじめ交流イベントの開催や国際交流協会等における外国人
との交流活動等を通して,相互理解を促進します。
イ住みやすい環境づくり
在住外国人が年々増加する中で,外国人にも配慮した環境づくりが求められてい
ます。地域に暮らす外国人の人権を擁護するために,市町村や国際交流協会,関係
機関との連携によって,総合的な取組を推進します。
(ア) 相談体制の充実
(財)福岡県国際交流センターや国際交流協会等において実施している相談業務
について,より専門的な分野の相談にも対応できるよう関係機関との連携・強化
を図ります。
また,相談窓口の周知を図るため,チラシを作成し,市町村や入国管理局など
関係機関へ配布します。
(イ) 住居の確保
外国人の民間住宅への円滑な入居を図るため,家主に対して理解と協力を求め
るとともに,外国人に対しては日本の契約慣行や生活習慣についての理解を促進
します。
また,外国人が地域において共同生活を営むに当たり,他の入居者との間でト
ラブルが生じないよう,共同生活に関するルール等を周知するため,英語,中国
語,ハングルによる「住まいのしおり」を作成し,必要な情報の提供に努めます。
(ウ) 外国人労働者の相談等支援体制の充実
福岡県労働福祉事務所において外国人労働者の就労におけるトラブル等の労働
相談を実施するとともに,必要に応じ通訳の配置を行うなど適切に対応します。
また,労働相談だけでは解決できない場合にはあっせんを行い,解決の促進を
図ります。
さらに,労働基準法をはじめとする労働関係法規や県内の相談窓口を紹介した
ホームページやハンドブックにより,外国人労働者への周知に努めます。
(エ) 保健・医療・福祉施策の推進
外国人に対する保健・医療・福祉施策に関する情報提供に努めるとともに,国
民健康保険制度への外国人の加入を促進します。
また,日本語の習得が十分でない外国人に対して,多言語によるガイドブック
やホームページにより,外国語が通じる医療機関や薬局の情報を提供します。
- 46 -
ウ国際理解教育の推進
学校はもとより,地域や家庭においても,人権教育・国際理解教育の更なる充実
が求められています。
このため,学校,地域,家庭が連携・協力しながら,人権教育を推進するととも
に,外国人に対する偏見や差別意識を解消し,多元的文化や多様性を尊重するため
の国際理解教育を推進します。
(ア) 学校教育
学校教育においては,「学校教育における在日外国人の人権に関する指導上の
指針」や「福岡県教育行政の目標と主要施策」等を踏まえ,人権尊重の精神を高

めるため,児童生徒が人権を大切にするための知識,態度,実践力を総合的に育
成するとともに,家庭・地域と連携した人権教育の充実に努めます。
また,国際化の進展に伴い,次代を担う児童生徒が国際社会の一員としての自
覚を持ち,これまでの歴史や文化・習慣の違いを理解しながら,互いの人権を尊
重し,認め合って共に生きていく意識と態度を培うため,時代の変化に対応し,
国際的な視野に立って行動することができる人材を育成する国際理解教育を推進
します。
(イ) 社会教育
社会教育においても,「福岡県教育行政の目標と主要施策」や「第二次福岡県

生涯学習推進構想」等を踏まえ,県民一人一人が人権問題についての正しい理解
と認識を深める人権教育を推進します。
また,県民が主体となった国際交流活動の実施や,啓発資料の作成・配布など,
様々な機会や場を通して国際理解教育を推進するとともに,世界各国の歴史や多
様な文化を理解するための学習機会の提供・拡充に努めます。
- 47 -
(1) 現状と課題
ア現状
HIV感染者とは,HIV(ヒト免疫不全ウイルス)の感染が確認されているが,
エイズを発症していない状態の人をいい,HIVによって引き起こされる免疫不全
症候群のことを特にエイズと呼んでいます。
HIV感染症/エイズについての知識がある程度普及した現在においても,依然
として,自分には無関係な一部の人の病気という意識が根強く残っており,予防行
動が適切になされず感染者の増加を招いたり,感染者への偏見や差別を助長する一
因ともなっています。
1988年(昭和63年)WHO(世界保健機構)は,毎年12月1日を「世界エイズ
デー」と定め,HIV感染症/エイズのまん延防止と患者・感染者への偏見と差別
の解消を図る啓発活動の実施を提唱しました。
我が国においては,1999年(平成11年)にHIV感染症/エイズをはじめとして,
それまでの感染症の予防に関する施策を抜本的に見直し,「感染症の予防及び感染
症の患者に対する医療に関する法律」(感染症法)が施行され,患者等の人権に配
慮した予防及び医療に関する総合的な施策が推進されることとなりました。
本県においても,HIV感染者・エイズ患者に対する偏見や差別の解消を図るた
め,県民を対象とした啓発活動を実施しています。
また,学校においては,児童生徒にHIV感染症/エイズの疾病概念,感染経路
及び予防方法を正しく理解させ,予防する力を身に付けさせるとともに,いたずら
な不安や偏見・差別を払拭させることを目標として,エイズ教育を実施しています。
しかし,現在なお,HIV感染症/エイズに対する偏見や差別が残っています。
ハンセン病は,らい菌による感染症ですが,らい菌に感染しただけでは発病する
可能性は極めて低く,発病した場合であっても,現在では治療法が確立しています。
従来,我が国においては,発病した患者の外見上の特徴から特殊な病気として扱
われ,古くから施設入所を強制する隔離政策が採られてきました。
この隔離政策は,昭和30年代に至ってハンセン病に対するそれまでの認識の誤り
が明白となった後も,引き続き維持され,1996年(平成8年)に「らい予防法の廃
止に関する法律」が施行され,ようやく終結することになりました。
このような状況の下,2001年(平成13年)にハンセン病患者・元患者に対する国
の損害賠償責任を認める熊本地裁判決が下されましたが,このことが大きな契機と
なって,ハンセン病問題の重大性が改めて国民に明らかにされ,国によるハンセン
病患者・元患者に対する補償や名誉回復及び福祉増進等の措置が図られることとな
りました。
しかし,療養所入所者の多くは,これまでの長期間にわたる隔離などにより,家
族や親族などとの関係を絶たれ,また,社会における偏見・差別や入所者自身の高
齢化等により,病気が完治した後も療養所に残らざるを得ないなど,社会復帰が困
難な状況にあります。
- 48 -
イこれまでの取組
本県においては,1994年(平成6年)「福岡県エイズ診療体制整備計画」を作成

し,エイズ医療体制の方向付けを行い,1996年(平成8年)には,「福岡県エイズ
患者・HIV感染者診療体制整備要綱」を策定し,7か所のエイズ治療拠点病院を
核として,医療体制の整備・充実を図ってきました。
また,県民を対象としたHIV感染症/エイズに関するパンフレットの作成・配
布やテレビ等の広報媒体の活用により,正しい知識の普及啓発を進め,HIV感染
者等に対する偏見や差別の解消に努めてきました。
さらに,福岡県保健福祉環境事務所において,無料匿名でHIV抗体検査を実施
するとともに,関係職員に対するカウンセリング技術等の研修を実施し,相談・検
査体制の充実を図ってきました。
学校におけるエイズ教育については,体育・保健体育の授業だけではなく,関連
教科や道徳,学級活動(ホームルーム活動)等,教育活動全体を通じ,発達段階に
応じて実施する必要があることから,教員の指導力を向上させるために,各種研修
会を実施してきました。
ハンセン病については,従来からハンセン病の正しい知識の普及啓発を行ってき
ましたが,2001年(平成13年)5月の熊本地裁判決や同年6月の「ハンセン病療養所
入所者等に対する補償金の支給等に関する法律」の施行を踏まえ,ハンセン病に対
する偏見や差別を一日も早く解消していくため,新聞,テレビ等の広報媒体,リー
フレット及び講演会等による啓発に努めてきました。
ウ課題
本県においては,2002年(平成14年)12月末までに報告されたHIV感染者及び
エイズ患者の数は98人ですが,中でも,若い年齢層で増加しています。
このため,特に21世紀を担う青少年に対して,HIV感染症/エイズに関する問
題だけでなく,性一般に関する正しい知識や理解を含め,適切に行動できるような
啓発などの予防対策や教育を推進していくとともに,HIV感染者・エイズ患者へ
の偏見や差別の解消に向けて啓発に取り組む必要があります。
また,ハンセン病療養所の入所者は,いまだに多くの人が生活や医療への不安や
偏見・差別へのおそれ等から,療養所での生活を続けています。
このため,社会復帰を希望する人が安心して生活できる環境の整備に努めるとと
もに,偏見や差別の解消に向けて,普及啓発や広報活動に一層取り組む必要があり
ます。
- 49 -
(2) 施策の基本方向
ア教育・啓発活動の推進
HIV感染者・エイズ患者及びハンセン病患者・元患者などへの偏見や差別を解
消するため,2001年(平成13年)策定の「福岡県感染症予防計画」に基づき,県民

への正しい知識の普及啓発に努めるとともに,学校・地域・家庭が一体となった教
育・啓発活動の推進に努めます。
(ア) HIV感染症/エイズに関する啓発の推進
HIV感染症/エイズについては,性感染症とともに若年層での増加が見られ
ることから,性感染症予防を含め,具体的な知識や情報の提供とともに,互いの
健康への配慮や人権の尊重など総合的な視点から啓発に努めます。
(イ) 学校におけるエイズ教育の充実
学校におけるエイズ教育を充実させるため,公立小・中学校教員を対象とした
健康教育研修会及び公立小・中・高等学校の保健主事を対象とした研修会等の内
容を充実させ,教員の指導力向上に努めます。
(ウ) ハンセン病に関する啓発の推進
ハンセン病については,患者・元患者に対する偏見と差別が一日も早く解消さ
れるよう,新聞,テレビ等の広報媒体による啓発を行うとともに,様々な機会を
とらえ,リーフレットや展示用パネル等を利用し,ハンセン病に対する正しい知
識の普及啓発に努めます。
(エ) 関係機関との連携
法務局及び市町村等関係行政機関,関係民間団体,(財)福岡県人権啓発情報セ
ンターと連携して,今後とも,ハンセン病が正しく理解されるよう啓発に努めま
す。
イ患者等の人権に配慮した相談・支援体制等の整備
患者等のプライバシーの保護を図るとともに,患者等の人権に配慮した相談体制
等の整備に努めます。
(ア) プライバシーの保護
患者等のプライバシーの保護を図るため,関係職員に対する研修を通じ,その
徹底を図るとともに,エイズ診療についての研修を実施する等により,医療機関
に対する適切な指導に努めます。
(イ) HIV感染症/エイズに関する相談・支援
福岡県保健福祉環境事務所等においてHIV感染症/エイズに関する相談に適
切に対応していきます。
また,HIV感染者・エイズ患者に対しては,安心して医療を受けられる体制
の整備やカウンセラー等による相談対応などにより,社会生活への支援に努めま
す。
- 50 -
(ウ) ハンセン病に関する相談・支援
ハンセン病に関する相談については,(財)藤楓協会福岡県支部,ハンセン病療
養所及び法務局等関係機関と連携して適切に対応します。
また,ハンセン病療養所の入所者の社会復帰に際し,必要に応じ(財)藤楓協会
福岡県支部等関係機関と連携し,支援に努めます。
- 51 -
前述の人権課題のほかにも,次にあげるような人権課題が存在しており,様々な機
会を通して人権教育・啓発を推進します。
(1) 犯罪被害者等
犯罪被害者やその家族は,直接的な被害とともに,それに付随する精神的,経済
的被害等を受けているだけでなく,様々なストレスに苦しんでいる状況があります。
このような中,「犯罪被害者等の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関
する法律」や「犯罪被害者等給付金の支給等に関する法律」など犯罪被害者等の支
援,救済を図るための法的整備も進められてきました。
今後とも,関係法を有効に活用しながら,犯罪被害者やその家族の立場やニーズ
を踏まえた支援策を講じるとともに,司法,行政,民間団体との連携,協力の下に,
その心情に配慮した啓発活動の推進に努めます。
(2) インターネット等による人権侵害
近年の高度情報化社会を背景として,インターネットの匿名性を悪用し,イン
ターネット上の電子掲示板やホームページに人権を侵害する情報の書き込みが増加
しています。
このため,「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開
示に関する法律」(プロバイダ責任法)の周知に努めるとともに,利用者一人一人
が,情報モラルを守り,人権を侵害するような情報をインターネット上に掲載しな
いよう,関係機関と連携しながらIT講習会等を通して必要な教育・啓発を行いま
す。
また,携帯電話のメール等を使った誹謗中傷等による人権侵害も発生しており,
情報の収集・発信における個人の責任や情報モラルについての理解を促進させるた
めの教育・啓発に努めます。
(3) その他
以上のような課題のほかにも,アイヌの人々に対する偏見や差別をはじめ,刑を
終えて出所した人やその家族に対する地域社会の偏見や差別が社会復帰を困難にし
ている問題があります。
また,同性愛者等いわゆる性的マイノリティに対する周囲の無理解が社会生活を
制限している問題や,ホームレスに対するいやがらせや集団暴行等,人権に関する
新たな問題も生じています。
このため,それぞれが抱える課題に応じた施策と人権教育・啓発の推進を行うこ
とが必要です。
- 52 -
第5章推進体制等
1 県の推進体制
本指針に基づく人権教育・啓発の推進に当たっては,各人権課題を所掌する部局に止
まることなく,全庁的に総合的,計画的な取組が必要であることから,「福岡県人権教
育・啓発施策策定会議」において適切な進行管理に努めます。
2 国及び市町村との連携
本指針に基づく人権教育・啓発の効果的な推進を図るために,国及び市町村の役割と
分担を踏まえつつ,緊密な連携と協力の下に取り組みます。
特に,県民に最も身近な市町村において,地域に密着したテーマにより行われる人権
教育・啓発は,より大きな効果が期待されることから,先進事例の紹介や啓発情報の提
供,啓発事業の支援等,一層の連携強化に努めます。
3 関係団体等との連携
今日,人権問題がますます複雑・多様化する中で,人権教育・啓発を総合的に推進す
るためには,各実施主体が担うべき役割を踏まえた上で,相互に有機的な連携を図るこ
とが大切です。
このため,行政機関,企業,民間団体等が連携・協働し,実効ある人権教育・啓発の
推進に努めます。
4 基本指針の見直し
今後の人権問題を取り巻く国際的な動向や我が国の状況,また,社会環境の変化等に
的確に対応するために,各人権分野の有識者からなる「福岡県人権施策推進懇話会」に
提言を求め,必要に応じた見直しを行います。
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福岡県人権教育・啓発基本指針施策体系
学校教育における人権教育
・就学前における教育の推進
人・小・中・高等学校における教育の推進
・大学等における教育の推進
人権教育

社会教育における人権教育
・家庭教育に対する支援
・学習プログラムの開発・提供
教・教材・資料等の充実
・担当者・指導者の育成
・学習機会の充実及び学校教育と社会教育の連携

県民に対する人権啓発
・・県民に対する啓発活動の強化
・きめ細かな啓発活動の推進
・地域に密着した啓発活動の支援
啓・福岡県人権啓発情報センターの充実・強化
・市町村,関係団体との役割分担と連携
人権啓発

企業における人権啓発
・企業啓発の推進
・人権尊重の企業づくり
の・公正な採用選考の実現
特定職業従事者に対する研修

・教材や資料等の整備・開発及び提供
進総合的かつ効果的推進・内容・手法に関する調査・研究
・担当者等の育成
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同和問題・同和問題啓発の推進
・同和教育の推進

女性・男女共同参画社会を実現するための環境づくり
・女性の人権が尊重される社会づくり
・職場・家庭・地域における男女共同参画の推進

子ども・子どもの人権が尊重される社会づくり
・子育て支援
・心豊かに育つ環境づくり

高齢者・高齢者の生きがい対策の推進
・サービスを利用しやすい環境づくり
・地域生活支援体制の整備
・痴呆性高齢者施策の推進

障害者・正しい理解と認識のための県民啓発の推進
・自立と社会参加の促進
・職業的自立の促進
策・障害児教育の充実
・地域生活支援体制等の整備
外国人・国際理解のための啓発の推進
の・住みやすい環境づくり
・国際理解教育の推進
HIV感染者・・教育・啓発活動の推進
推ハンセン病患者等・患者等の人権に配慮した相談・支援体制等の整備
・犯罪被害者等
その他の人権課題・インターネット等による人権侵害
進・その他
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用語解説
ア行
○ アスペルガー症候群
共感性の欠如や人への接し方が不器用で臨機応変さに欠ける等の症状が見られ,発症率は
200人に1人といわれている障害
○ あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約(人種差別撤廃条約)
あらゆる形態の人種差別を撤廃する政策及びすべての人種間の理解を促進する政策を,あ
らゆる適切な手段により遅滞なく遂行すること等を内容とした条約で,1965年(昭和40年)
に第20回国連総会で採択され,我が国は1995年(平成7年)に締結
○ ウィーン宣言及び行動計画
人権の国際的な普遍性や貧困を克服する権利,発展の権利が人権の不可分の部分であるこ
とを確認し,国連活動における人権活動の強化策として,人権高等弁務官の設置等を決めた
もので,1993年(平成5年)にウィーンで開催された第2回世界人権会議で採択
○ えせ同和行為
「同和問題はこわい問題である。」との誤った意識を悪用して,なんらかの利権を得るた
め,同和問題を口実にして企業・行政機関等に対する「ゆすり」「たかり」等の行為
カ行
○ 学習障害(LD)
全般的な知的発達に遅れはないが,聞く,話す,読む,書く,計算する又は推論する能力
のうち特定のものの習得等に著しい困難を示す様々な状態
○ 学校教育における在日外国人の人権に関する指導上の指針
学校における在日韓国・朝鮮人をはじめとする在日外国人の人権に関する教育指導におい
て,「基本的人権の尊重に徹した教育の推進」,「多様な文化を尊重し,共生の心を醸成する
教育の推進」及び「教職員研修の充実と全教育活動を通した指導の推進」を中心とする取組
を行うことを示した指針で,1998年(平成10年)に県が策定
○ 企業行動憲章
(社)日本経済団体連合会が,会員企業に対し,法令遵守の徹底,消費者ユーザーの信頼
獲得,経営トップが果たすべき役割と責任の明確化等について1991年(平成3年)に制定し
た憲章
○ 教育相談ネットワーク
いじめや不登校などの児童生徒の心の問題の解決するために,学校や児童相談所等の専門
機関等が連携を強化し,それぞれの専門性を生かして支援するためのネットワーク
○ 苦情解決制度
福祉サービスを提供する経営者が,自ら苦情解決を行うために第三者委員を設置し苦情解
決に当たるほか,県社会福祉協議会に公正・中立な運営適正化委員会を設け,福祉サービス
の利用者からのサービスに関する苦情について,必要な調査,指導,助言,あっせんを行う
制度
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○ 経済的,社会的及び文化的権利に関する国際規約(社会権規約)
世界人権宣言の内容をより詳細に,労働の権利や社会保障に対する権利等の経済的,社会
的及び文化的権利について規定した条約で,1966年(昭和41年)に第21回国連総会で採択さ
れ,我が国は1979年(昭和54年)に締結
○ 高機能自閉症
脳の障害に起因する発達障害で,言葉の発達が遅れたり,人との関わり方がわからないな
どの社会性障害である自閉症のうち,知的障害を伴わない状態
○ 高次脳機能障害
頭部外傷や脳血管障害等により脳の一部が損傷を受けたため,言語や記憶など知的な機能
に障害が生じている状態
○ 公正採用選考人権啓発推進員制度
就職の機会均等を確保し,雇用の確保を図るために,企業内の適正な採用選考システムの
確立等に関し,中心的役割を果たすために設置された制度
○ 高齢者のための国連原則
高齢者の「自立」,「参加」,「ケア」,「自己実現」,「尊厳」の実現を目指して,1991年(平
成3年)に第46回国連総会において採択された原則
サ行
○ 参画型学習
学習者が自ら,研修会の企画運営,地域活動及びまちづくりの計画立案等の決定段階に参
加・参画することを通して,意欲的・主体的に課題の解決に向かうとともに,自己が役に立
っているという気持を高めることを目指す学習方法
○ 市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)
世界人権宣言の内容を,生命に対する権利や身体の自由に対する権利等の市民的及び政治
的権利についてより詳細に規定した条約で,1966年(昭和41年)に第21回国連総会で採択さ
れ,我が国は1979年(昭和54年)に締結
○ 児童憲章
すべての児童の幸福を図るため,児童の立場から,子どもの権利を確認し,日本国憲法の
精神に従い12の条文構成からなる,1951年(昭和26年)の子どもの日に制定された憲章
○ 障害者週間
障害者自らの自立及び社会参加への意欲と,国民の障害者問題に対する理解と認識をより
一層高めるための運動を展開する12月3日から9日までの1週間
○ 障害者対策に関する新長期計画
ノーマライゼーションの理念に基づき,障害者の完全参加と平等の目標に向けて,1993年
(平成5年)に国が策定し,同年から10年間にわたる施策の基本的方向と具体的な方策を明
らかにした計画
○ 障害者プラン~ノーマライゼーション7か年戦略~
1995年(平成7年)に策定された「障害者対策に関する新長期計画」の重点施策実施計画
○ 女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約(女子差別撤廃条約)
すべての人間は,そもそも生まれながらにして自由かつ平等であることから,男子も女子
も個人として等しく尊重されるべきであるとした条約で,1979年(昭和54年)に第34回国連
総会で採択され,我が国は1985年(昭和60年)に締結
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○ 児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)
世界の多くの児童(児童については18歳未満のすべての者と定義)が,今日なお,飢え,
貧困等の困難な状況に置かれている状況にかんがみ,世界的な観点から児童の人権の尊重,
保護の促進を目指した条約で,1989年(平成元年)の第44回国連総会で採択され,我が国は
1994年(平成6年)に締結
○ 人権週間
国連が世界人権宣言採択を記念して,採択日の12月10日を「人権デー」と定めたのを受け
て,我が国で定められた12月10日を最終日とする1週間
○ 人権文化
あらゆる人々が自己のみならず他の人々の尊厳について学び,相互理解を深めることによ
り,人権を尊重することが日常生活において定着・習慣化される状態
○ 人権擁護推進審議会答申
1997年(平成9年)3月施行の人権擁護施策推進法に基づき設置された審議会が提出した,
「人権尊重の理念に関する国民相互の理解を深めるための教育及び啓発に関する施策の総合
的な推進に関する基本的事項について」及び「人権が侵害された場合における被害者の救済
に関する施策の充実に関する基本的事項について」の2つの諮問に対する答申
○ 成年後見制度
精神上の障害によって判断能力が十分ではない痴呆性高齢者,知的障害者及び精神障害者
などを保護するため,家庭裁判所の審判に基づき成年後見人,保佐人,補助人などから援助
を受ける制度
タ行
○ 体験的参加型学習
学習者の経験や感じ方を土台とし,共に作業等をすることを通して,参加者の思いや目的
意識を発展させながら,自らの力を自覚しつつ,学習者がお互いに学び合い,社会的行動力
と意欲を高めようとする学習方法
○ 第2次高齢者保健福祉計画
老人福祉法第20条の9,老人保健法第46条の19及び介護保険法第118条に基づき,活力ある
高齢社会の実現に向けて,高齢者が安心して介護サービスを利用することができる社会基盤
の整備や介護予防,生きがいづくりなど,総合的な保健福祉サービス供給体制の整備を,広
域的な見地から推進するために2000年(平成12年)に策定した,2000年度(平成12年度)か
ら2004年度(平成16年度)までの5か年を期間とする県の計画
○ 第二次福岡県高齢社会行動計画(すこやかライフ推進プランⅡ)
高齢者に対する保健・医療・福祉対策を推進するとともに,高齢化社会に対応した,より
幅広い総合的な施策を推進するために1994年(平成6年)に策定した,1994年度(平成6年度)
から1999年度(平成11年度)までの6か年を期間とする県の行動計画
○ 第二次福岡県生涯学習推進構想
1996年(平成8年)策定の「福岡県生涯学習推進構想」の理念を継承しつつ,青少年の健
全育成,高度情報化,高齢化などの現代的課題への対応や,生涯学習機関・団体のネットワー
ク化の推進についての新たな視点を加え,今後の本県の生涯学習推進の考え方と,これを実
現するための基本的施策の方向性を明らかにしたもので,2002年(平成14年)に策定
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○ 男女共同参画2000年プラン
1996年(平成8年)7月に男女共同参画審議会が答申した「男女共同参画ビジョン」を踏ま
えて,男女共同参画推進本部が同年12月に策定した,2000年度(平成12年度)末までを期間
とした男女共同参画社会の形成の促進に係る国内行動計画
○ 男女共同参画基本計画
1999年(平成11年)に制定された男女共同参画社会基本法に基づき,2000年(平成12年)
に策定された,2005年度(平成17年度)末までを計画期間とした,男女共同参画2000年プラ
ンに代わる新たな国内行動計画
○ 男女共同参画の日
県民及び事業者が男女共同参画について広く理解を深め,男女共同参画に関する取組への
意欲を高めるため,福岡県男女共同参画推進条例によって設けられた日で,11月の第4土曜

○ 同和対策審議会答申
1961年(昭和36年)に発足した同和対策審議会が,1965年(昭和40年)に提出した総理大
臣の諮問「同和地区に関する社会的及び経済的諸問題を解決するための基本的方策」に対す
る答申
○ 同和問題啓発強調月間
同和問題の真の解決を目指して,県・市町村はもとより県民挙げての差別をなくす運動を
展開するため,本県において1981年(昭和56年)に設定した7月の1か月間
ハ行
○ バリアフリー
障害者や高齢者などが建物や市街地において,支障なく利用や行動を行える状況
○ 福岡県エイズ診療体制整備計画
エイズ患者等が安心して医療が受けられるよう,地域の医療機関の連携システムの核とな
る拠点病院を確保し,福岡県のエイズ医療体制の整備を図るために1994年(平成6年)に策
定された計画
○ 福岡県感染症予防計画
感染症の予防に関する施策を抜本的に見直し,総合的な施策の推進を図るため,1999年(平
成11年)に施行された「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」に基づ
き,2001年(平成13年)に策定された,本県における感染症の予防の総合的な推進を図るた
めの基本的指針を定めた計画
○ 福岡県教育行政の目標と主要施策
教育の基本目標を達成するため,国や県の施策の動向に併せて毎年度策定する教育行政の
主要施策
○ 福岡県障害者福祉長期計画
障害者の主体性,自主性,自由という人間本来の生き方の回復と獲得を目指す「リハビリ
テーション」の理念,障害のある人が障害のない人と同等に生活し,活動する社会を目指す
ノーマライゼーションの理念の下,1995年(平成7年)に策定した計画
○ ふくおか障害者プラン
障害者の生活を支える基幹的な事業について,数値目標を設定することにより施策の推進
を図るため,1999年(平成11年)に策定した「福岡県障害者福祉長期計画」の重点施策実施
計画
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○ 福岡県児童育成計画
21世紀を担う子どもたちが健やかに生まれ育つための環境づくりを推進するため,国の「エ
ンゼルプラン」を踏まえて,1997年(平成9年)に策定した1997年度(平成9年度)から概ね
10年間の計画
○ ふくおか新世紀計画
個性豊かで創造的活力に満ちた新時代のふくおかを築き,豊かな県民生活を実現するため
に,1997年(平成9年)に策定した21世紀初頭の県が目指すべき方向性を示した長期計画
○ 福岡県青少年健全育成総合計画
福岡県の青少年健全育成のための広範多岐にわたる青少年関連施策を体系づけ,施策推進
の基本方針を明らかにした1992年(平成4年)に策定した総合的な計画
○ 福岡県男女共同参画計画
男女共同参画社会基本法,福岡県男女共同参画推進条例に基づき,2000年(平成12年)に
策定された,福岡県の男女共同参画推進に係る2001年度(平成13年度)から2005年度(17年
度)までの5年間を期間とする計画
○ ふくおか国際化推進プラン
アジア,地域活性化,国際理解を策定の視点として「アジアの交流拠点の実現と国際的な
地域づくり」を基本目標とした福岡県の国際化の方向を明らかにした,2002年(平成14年)
に策定された計画
○ 部落地名総鑑事件
1975年(昭和50年)に発覚し,1985年(昭和60年)までに9種類約220冊をこえる差別図書
が,「人事極秘,部落地名総鑑」等の書名で企業等に販売された事件
○ 法定雇用率(障害者雇用率)
「障害者の雇用の促進等に関する法律」の第10条に基づき,各事業主がその雇用する労働
者数に応じて設定されている障害者の雇用率
ラ行
○ 隣保館
生活上の各種相談や人権課題解決のための各種事業を行い,福祉の向上や人権啓発を行っ
ている住民交流の拠点施設
○ 老人週間
国民の間に広く老人の福祉についての関心と理解を深めるとともに,老人に対し自らの生
活の向上に努める意欲を促すことを目的として,2002年(平成14年)の老人福祉法の改正に
より定められたもので,9月15日(老人の日)から21日までの1週間
○ 労働者の募集に関する指針
職業安定法第48条の規定に基づき,1999年(平成11年)に公表された「職業紹介事業者,
労働者の募集を行う者,募集受託者,労働者供給事業者等が均等待遇,労働条件等の明示,
求職者等の個人情報の取扱い,職業紹介事業者の責務,募集内容の的確な表示等に関して適
切に対処するための指針」の略称
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資料
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63

世界人権宣言
1948年12月10日
第3回国際連合総会採択
前文
人類社会のすべての構成員の固有の尊厳と平等で譲ることのできない権利とを承認することは,
世界における自由,正義及び平和の基礎であるので,
人権の無視及び軽侮が,人類の良心を踏みにじった野蛮行為をもたらし,言論及び信仰の自由
が受けられ,恐怖及び欠乏のない世界の到来が,一般の人々の最高の願望として宣言されたので,
人間が専制と圧迫とに対する最後の手段として反逆に訴えることがないようにするためには,
法の支配によって人権を保護することが肝要であるので,
諸国間の友好関係の発展を促進することが,肝要であるので,
国際連合の諸国民は,国連憲章において基本的人権,人間の尊厳及び価値並びに男女の同権に
ついての信念を再確認し,かつ,一層大きな自由のうちで社会的進歩と生活水準の向上とを促進
することを決意したので,
加盟国は,国際連合と協力して,人権及び基本的自由の普遍的な尊重及び遵守の促進を達成す
ることを誓約したので,
これらの権利及び自由に対する共通の理解は,この誓約を完全にするためにもっとも重要であ
るので,
よって,ここに,国連総会は,
社会の各個人及び各機関が,この世界人権宣言を常に念頭に置きながら,加盟国自身の人民の
間にも,また,加盟国の管轄下にある地域の人民の間にも,これらの権利と自由との尊重を指導
及び教育によって促進すること並びにそれらの普遍的かつ効果的な承認と遵守とを国内的及び国
際的な漸進的措置によって確保することに努力するように,すべての人民とすべての国とが達成
すべき共通の基準として,
この世界人権宣言を公布する。
第1条
すべての人間は,生まれながらにして自由であり,かつ,尊厳と権利について平等である。人
間は,理性と良心とを授けられており,互いに同胞の精神をもって行動しなければならない。
第2条
1 すべて人は,人種,皮膚の色,性,言語,宗教,政治上その他の意見,国民的若しくは社会
的出身,財産,門地その他の地位又はこれに類するいかなる事由による差別をも受けることな
く,この宣言に掲げるすべての権利と自由とを享有することができる。
2 さらに,個人の属する国又は地域が独立国であると,信託統治地域であると,非自治地域で
あると,又は他のなんらかの主権制限の下にあるとを問わず,その国又は地域の政治上,管轄
上又は国際上の地位に基づくいかなる差別もしてはならない。
第3条
すべて人は,生命,自由及び身体の安全に対する権利を有する。
64

第4条
何人も,奴隷にされ,又は苦役に服することはない。奴隷制度及び奴隷売買は,いかなる形に
おいても禁止する。
第5条
何人も,拷問又は残虐な,非人道的な若しくは屈辱的な取扱若しくは刑罰を受けることはない。
第6条
すべて人は,いかなる場所においても,法の下において,人として認められる権利を有する。
第7条
すべての人は,法の下において平等であり,また,いかなる差別もなしに法の平等な保護を受
ける権利を有する。すべての人は,この宣言に違反するいかなる差別に対しても,また,そのよ
うな差別をそそのかすいかなる行為に対しても,平等な保護を受ける権利を有する。
第8条
すべて人は,憲法又は法律によって与えられた基本的権利を侵害する行為に対し,権限を有す
る国内裁判所による効果的な救済を受ける権利を有する。
第9条
何人も,ほしいままに逮捕,拘禁,又は追放されることはない。
第10条
すべて人は,自己の権利及び義務並びに自己に対する刑事責任が決定されるに当って,独立の
公平な裁判所による公正な公開の審理を受けることについて完全に平等の権利を有する。
第11条
1 犯罪の訴追を受けた者は,すべて,自己の弁護に必要なすべての保障を与えられた公開の裁
判において法律に従って有罪の立証があるまでは,無罪と推定される権利を有する。
2 何人も,実行の時に国内法又は国際法により犯罪を構成しなかった作為又は不作為のために
有罪とされることはない。また,犯罪が行われた時に適用される刑罰より重い刑罰を科せられ
ない。
第12条
何人も,自己の私事,家族,家庭若しくは通信に対して,ほしいままに干渉され,又は名誉及
び信用に対して攻撃を受けることはない。人はすべて,このような干渉又は攻撃に対して法の
保護を受ける権利を有する。
第13条
1 すべて人は,各国の境界内において自由に移転及び居住する権利を有する。
2 すべて人は,自国その他いずれの国をも立ち去り,及び自国に帰る権利を有する。
第14条
1 すべて人は,迫害を免れるため,他国に避難することを求め,かつ,避難する権利を有する。
2 この権利は,もっぱら非政治犯罪又は国際連合の目的及び原則に反する行為を原因とする訴
追の場合には,援用することはできない。
第15条
1 すべて人は,国籍をもつ権利を有する。
2 何人も,ほしいままにその国籍を奪われ,又はその国籍を変更する権利を否認されることは
ない。
65

第16条
1 成年の男女は,人種,国籍又は宗教によるいかなる制限をも受けることなく,婚姻し,かつ
家庭をつくる権利を有する。成年の男女は,婚姻中及びその解消に際し,婚姻に関し平等の権
利を有する。
2 婚姻は,両当事者の自由かつ完全な合意によってのみ成立する。
3 家族は,社会の自然かつ基礎的な集団単位であって,社会及び国の保護を受ける権利を有す
る。
第17条
1 すべて人は,単独で又は他の者と共同して財産を所有する権利を有する。
2 何人も,ほしいままに自己の財産を奪われることはない。
第18条
すべて人は,思想,良心及び宗教の自由に対する権利を有する。この権利は,宗教又は信念を
変更する自由並びに単独で又は他の者と共同して,公的に又は私的に,布教,行事,礼拝及び儀
式によって宗教又は信念を表明する自由を含む。
第19条
すべて人は,意見及び表現の自由に対する権利を有する。この権利は,干渉を受けることなく
自己の意見をもつ自由並びにあらゆる手段により,また,国境を越えると否とにかかわりなく,
情報及び思想を求め,受け,及び伝える自由を含む。
第20条
1 すべての人は,平和的集会及び結社の自由に対する権利を有する。
2 何人も,結社に属することを強制されない。
第21条
1 すべての人は,直接に又は自由に選出された代表者を通じて,自国の政治に参与する権利を
有する。
2 すべて人は,自国においてひとしく公務につく権利を有する。
3 人民の意思は,統治の権力の基礎とならなければならない。この意思は,定期のかつ真正な
選挙によって表明されなければならない。この選挙は,平等の普通選挙によるものでなければ
ならず,また,秘密投票又はこれと同等の自由が保障される投票手続によって行なわなければ
ならない。
第22条
すべて人は,社会の一員として,社会保障を受ける権利を有し,かつ,国家的努力及び国際的
協力により,また,各国の組織及び資源に応じて,自己の尊厳と自己の人格の自由な発展とに欠
くことのできない経済的,社会的及び文化的権利を実現する権利を有する。
第23条
1 すべて人は,勤労し,職業を自由に選択し,公正かつ有利な勤労条件を確保し,及び失業に
対する保護を受ける権利を有する。
2 すべて人は,いかなる差別をも受けることなく,同等の勤労に対し同等の報酬を受ける権利
を有する。
3 勤労する者は,すべて,自己及び家族に対して人間の尊厳にふさわしい生活を保障する公正
かつ有利な報酬を受け, かつ,必要な場合には,他の社会的保護手段によって補充を受ける
ことができる。
66

すべて人は,自己の利益を保護するために労働組合を組織し,及びこれに参加する権利を有
する。
第24条
すべて人は,労働時間の合理的な制限及び定期的な有給休暇を含む休息及び余暇をもつ権利を
有する。
第25条
1 すべて人は,衣食住,医療及び必要な社会的施設等により,自己及び家族の健康及び福祉に
十分な生活水準を保持する権利並びに失業,疾病,心身障害,配偶者の死亡,老齢その他不可
抗力による生活不能の場合は,保障を受ける権利を有する。
2 母と子とは,特別の保護及び援助を受ける権利を有する。すべての児童は,嫡出であると否
とを問わず,同じ社会的保護を受ける。
第26条
1 すべて人は,教育を受ける権利を有する。教育は少なくとも初等の及び基礎的の段階におい
ては,無償でなければならない。初等教育は,義務的でなければならない。技術教育及び職業
教育は,一般に利用できるものでなければならず,また,高等教育は,能力に応じ,すべての
者にひとしく開放されていなければならない。
2 教育は,人格の完全な発展並びに人権及び基本的自由の尊重の強化を目的としなければなら
ない。教育は,すべての国又は人種的若しくは宗教的集団の相互間の理解,寛容及び友好関係
を増進し,かつ,平和の維持のため国際連合の活動を促進するものでなければならない。
3 親は,子に与える教育の種類を選択する優先的権利を有する。
第27条
1 すべて人は,自由に社会の文化生活に参加し,芸術を鑑賞し,及び科学の進歩とその恩恵と
にあずかる権利を有する。
2 すべて人は,その創作した科学的,文学的又は美術的作品から生ずる精神的及び物質的利益
を保護される権利を有する。
第28条
すべて人は,この宣言に掲げる権利及び自由が完全に実現される社会的及び国際的秩序に対す
る権利を有する。
第29条
1 すべて人は,その人格の自由かつ完全な発展がその中にあってのみ可能である社会に対して
義務を負う。
2 すべて人は,自己の権利及び自由を行使するに当っては,他人の権利及び自由の正当な承認
及び尊重を保障すること並びに民主的社会における道徳,公の秩序及び一般の福祉の正当な要
求を満たすことをもっぱら目的として,法律によって定められた制限にのみ服する。
3 これらの権利及び自由は,いかなる場合にも,国際連合の目的及び原則に反して行使しては
ならない。
第30条
この宣言のいかなる規定も,いずれかの国,集団又は個人に対して,この宣言に掲げる権利及
び自由の破壊を目的とする活動に従事し,又はそのような目的を有する行為を行う権利を認める
ものと解釈してはならない。
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日本国憲法(抄)
昭和21年11月3日公布
昭和22年5月3日施行
日本国民は,正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し,われらとわれらの子孫の
ために,諸国民との協和による成果と,わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し,政
府の行為によつて再び戦争の惨禍が起こることのないやうにすることを決意し,ここに主権が国
民に存することを宣言し,この憲法を確定する。そもそも国政は,国民の厳粛な信託によるもの
であつて,その権威は国民に由来し,その権力は国民の代表者がこれを行使し,その福利は国民
がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり,この憲法は,かかる原理に基くものである。
われらは,これに反する一切の憲法,法令及び詔勅を排除する。
日本国民は,恒久の平和を念願し,人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するので
あつて,平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して,われらの安全と生存を保持しようと決意
した。われらは,平和を維持し,専制と隷従,圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めて
ゐる国際社会において,名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは,全世界の国民が,ひとしく
恐怖と欠乏から免かれ,平和のうちに生存する権利を有することを確認する。
われらは,いづれの国家も,自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて,
政治道徳の法則は,普遍的なものであり,この法則に従ふことは,自国の主権を維持し,他国と
対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。
日本国民は,国家の名誉にかけ,全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。
第3章国民の権利及び義務
第10条日本国民たる要件は,法律でこれを定める。
第11条国民は,すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的
人権は,侵すことのできない永久の権利として,現在及び将来の国民に与へられる。
第12条この憲法が国民に保障する自由及び権利は,国民の不断の努力によつて,これを保持し
なければならない。又,国民は,これを濫用してはならないのであつて,常に公共の福祉のた
めにこれを利用する責任を負ふ。
第13条すべて国民は,個人として尊重される。生命,自由及び幸福追求に対する国民の権利に
ついては,公共の福祉に反しない限り,立法その他の国政の上で,最大の尊重を必要とする。
第14条すべて国民は,法の下に平等であつて,人種,信条,性別,社会的身分又は門地により,
政治的,経済的又は社会的関係において,差別されない。
2 華族その他の貴族の制度は,これを認めない。
3 栄誉,勲章その他の栄典の授与は,いかなる特権も伴はない。栄典の授与は,現にこれを有
し,又は将来これを受ける者の一代に限り,その効力を有する。
第15条公務員を選定し,及びこれを罷免することは,国民固有の権利である。
2 すべて公務員は,全体の奉仕者であつて,一部の奉仕者ではない。
3 公務員の選挙については,成年者による普通選挙を保障する。
4 すべて選挙における投票の秘密は,これを侵してはならない。選挙人は,その選択に関し公
的にも私的にも責任を問はれない。
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第16条何人も,損害の救済,公務員の罷免,法律,命令又は規則の制定,廃止又は改正その他
の事項に関し,平穏に請願する権利を有し,何人も,かかる請願をしたためにいかなる差別待
遇も受けない。
第17条何人も,公務員の不法行為により,損害を受けたときは,法律の定めるところにより,
国又は公共団体に,その賠償を求めることができる。
第18条何人も,いかなる奴隷的拘束も受けない。又,犯罪に因る処罰の場合を除いては,その
意に反する苦役に服させられない。
第19条思想及び良心の自由は,これを侵してはならない。
第20条信教の自由は,何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も,国から特権を受
け,又は政治上の権力を行使してはならない。
2 何人も,宗教上の行為,祝典,儀式又は行事に参加することを強制されない。
3 国及びその機関は,宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。
第21条集会,結社及び言論,出版その他一切の表現の自由は,これを保障する。
2 検閲は,これをしてはならない。通信の秘密は,これを侵してはならない。
第22条何人も,公共の福祉に反しない限り,居住,移転及び職業選択の自由を有する。
2 何人も,外国に移住し,又は国籍を離脱する自由を侵されない。
第23条学問の自由は,これを保障する。
第24条婚姻は,両性の合意のみに基いて成立し,夫婦が同等の権利を有することを基本として,
相互の協力により,維持されなければならない。
2 配偶者の選択,財産権,相続,住居の選定,離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項
に関しては,法律は,個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して,制定されなければならない。
第25条すべて国民は,健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
2 国は,すべての生活部面について,社会福祉,社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努め
なければならない。
第26条すべて国民は,法律の定めるところにより,その能力に応じて,ひとしく教育を受ける
権利を有する。
2 すべて国民は,法律の定めるところにより,その保護する子女に普通教育を受けさせる義務
を負ふ。義務教育は,これを無償とする。
第27条すべて国民は,勤労の権利を有し,義務を負ふ。
2 賃金,就業時間,休息その他の勤労条件に関する基準は,法律でこれを定める。
3 児童は,これを酷使してはならない。
第28条勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は,これを保障する。
第29条財産権は,これを侵してはならない。
2 財産権の内容は,公共の福祉に適合するやうに,法律でこれを定める。
3 私有財産は,正当な補償の下に,これを公共のために用ひることができる。
第30条国民は,法律の定めるところにより,納税の義務を負ふ。
第31条何人も,法律の定める手続によらなければ,その生命若しくは自由を奪はれ,又はその
他の刑罰を科せられない。
第32条何人も,裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。
第33条何人も,現行犯として逮捕される場合を除いては,権限を有する司法官憲が発し,且つ
理由となつてゐる犯罪を明示する令状によらなければ,逮捕されない。
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第34条何人も,理由を直ちに告げられ,且つ,直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなけれ
ば,抑留又は拘禁されない。又,何人も,正当な理由がなければ,拘禁されず,要求があれば,
その理由は,直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。
第35条何人も,その住居,書類及び所持品について,侵入,捜索及び押収を受けることのない
権利は,第三十三条の場合を除いては,正当な理由に基いて発せられ,且つ捜索する場所及び
押収する物を明示する令状がなければ,侵されない。
2 捜索又は押収は,権限を有する司法官憲が発する各別の令状により,これを行ふ。
第36条公務員による拷問及び残虐な刑罰は,絶対にこれを禁止する。
第37条すべて刑事事件においては,被告人は,公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を
有する。
2 刑事被告人は,すべての証人に対して審問する機会を充分に与へられ,又,公費で自己のた
めに強制的手続により証人を求める権利を有する。
3 刑事被告人は,いかなる場合にも,資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が
自らこれを依頼することができないときは,国でこれを附する。
第38条何人も,自己に不利益な供述を強要されない。
2 強制,拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は,こ
れを証拠とすることができない。
3 何人も,自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には,有罪とされ,又は刑罰を
科せられない。
第39条何人も,実行の時に適法であつた行為又は既に無罪とされた行為については,刑事上の
責任を問はれない。又,同一の犯罪について,重ねて刑事上の責任を問はれない。
第40条何人も,抑留又は拘禁された後,無罪の裁判を受けたときは,法律の定めるところによ
り,国にその補償を求めることができる。
第10章最高法規
第97条この憲法が日本国民に保障する基本的人権は,人類の多年にわたる自由獲得の努力の成
果であつて,これらの権利は,過去幾多の試練に堪へ,現在及び将来の国民に対し,侵すこと
のできない永久の権利として信託されたものである。
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人権教育及び人権啓発の推進に関する法律
平成12年11月29日制定
平成12年12月6日施行
(目的)
第1条この法律は,人権の尊重の緊要性に関する認識の高まり,社会的身分,門地,人種,信
条又は性別による不当な差別の発生等の人権侵害の現状その他人権の擁護に関する内外の情勢
にかんがみ,人権教育及び人権啓発に関する施策の推進について,国,地方公共団体及び国民
の責務を明らかにするとともに,必要な措置を定め,もって人権の擁護に資することを目的と
する。
(定義)
第2条この法律において,人権教育とは,人権尊重の精神の涵養を目的とする教育活動をいい,
人権啓発とは,国民の間に人権尊重の理念を普及させ,及びそれに対する国民の理解を深める
ことを目的とする広報その他の啓発活動(人権教育を除く。)をいう。
(基本理念)
第3条国及び地方公共団体が行う人権教育及び人権啓発は,学校,地域,家庭,職域その他の
様々な場を通じて,国民が,その発達段階に応じ,人権尊重の理念に対する理解を深め,これ
を体得することができるよう,多様な機会の提供,効果的な手法の採用,国民の自主性の尊重
及び実施機関の中立性の確保を旨として行われなければならない。
(国の責務)
第4条国は,前条に定める人権教育及び人権啓発の基本理念(以下「基本理念」という。)に
のっとり,人権教育及び人権啓発に関する施策を策定し,及び実施する責務を有する。
(地方公共団体の責務)
第5条地方公共団体は,基本理念にのっとり,国との連携を図りつつ,その地域の実情を踏ま
え,人権教育及び人権啓発に関する施策を策定し,及び実施する責務を有する。
(国民の責務)
第6条国民は,人権尊重の精神の涵養に努めるとともに,人権が尊重される社会の実現に寄与
するよう努めなければならない。
(基本計画の策定)
第7条国は,人権教育及び人権啓発に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため,人権
教育及び人権啓発に関する基本的な計画を策定しなければならない。
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(年次報告)
第8条政府は,毎年,国会に,政府が講じた人権教育及び人権啓発に関する施策についての報
告を提出しなければならない。
(財政上の措置)
第9条国は,人権教育及び人権啓発に関する施策を実施する地方公共団体に対し,当該施策に
係る事業の委託その他の方法により,財政上の措置を講ずることができる。
附則
(施行期日)
第1条この法律は,公布の日から施行する。ただし,第8条の規定は,この法律の施行の日の
属する年度の翌年度以後に講じる人権教育及び人権啓発に関する施策について適用する。
(見直し)
第2条この法律は,この法律の施行の日から3年以内に,人権擁護施策推進法(平成8年法律第
120号)第3条第2項に基づく人権が侵害された場合における被害者の救済に関する施策の充実
に関する基本的事項についての人権擁護推進審議会の調査審議の結果をも踏まえ,見直しを行
うものとする。
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人権教育・啓発に関する基本計画
(平成14年3月15日閣議決定)
第1章はじめに
人権教育・啓発に関する基本計画(以下「基本計画」という。)は,人権教育及び人権啓発の
推進に関する法律(平成12年法律第147号,同年12月6日公布・施行。(以下「人権教育・啓発推
進法」という。)第7条の規定に基づき,人権教育及び人権啓発(以下「人権教育・啓発」とい
う。)に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため,策定するものである。
我が国では,すべての国民に基本的人権の享有を保障する日本国憲法の下で,人権に関する諸
制度の整備や人権に関する諸条約への加入など,これまで人権に関する各般の施策が講じられて
きたが,今日においても,生命・身体の安全にかかわる事象や,社会的身分,門地,人種,民族,
信条,性別,障害等による不当な差別その他の人権侵害がなお存在している。また,我が国社会
の国際化,情報化,高齢化等の進展に伴って,人権に関する新たな課題も生じてきている。
すべての人々の人権が尊重され,相互に共存し得る平和で豊かな社会を実現するためには,国
民一人一人の人権尊重の精神の涵養を図ることが不可欠であり,そのために行われる人権教育・
啓発の重要性については,これをどんなに強調してもし過ぎることはない。政府は,本基本計画
に基づき,人権が共存する人権尊重社会の早期実現に向け,人権教育・啓発を総合的かつ計画的
に推進していくこととする。
1 人権教育・啓発推進法制定までの経緯
人権教育・啓発の推進に関する近時の動きとしては,まず「人権教育のための国連10年」に
関する取組を挙げることができる。すなわち,平成6年(1994年)12月の国連総会において,
平成7年(1995年)から平成16年(2004年)までの10年間を「人権教育のための国連10年」と
する決議が採択されたことを受けて,政府は,平成7年12月15日の閣議決定により,内閣総理
大臣を本部長とする人権教育のための国連10年推進本部を設置し,平成9年7月4日,「人権教
育のための国連10年」に関する国内行動計画(以下「国連10年国内行動計画」という。)を策
定・公表した。
また,平成8年12月には,人権擁護施策推進法が5年間の時限立法として制定され(平成8年
法律第120号,平成9年3月25日施行),人権教育・啓発に関する施策等を推進すべき国の責務
が定められるとともに,これらの施策の総合的な推進に関する基本的事項等について調査審議
するため,法務省に人権擁護推進審議会が設置された。
同審議会は,法務大臣,文部大臣(現文部科学大臣)及び総務庁長官(現総務大臣)の諮問
に基づき,「人権尊重の理念に関する国民相互の理解を深めるための教育及び啓発に関する施
策の総合的な推進に関する基本的事項」について,2年余の調査審議を経た後,平成11年7月29
日,上記関係各大臣に対し答申を行った。
政府は,これら国連10年国内行動計画や人権擁護推進審議会の答申等を踏まえて,人権教
育・啓発を総合的に推進するための諸施策を実施してきたところであるが,そのより一層の推
進を図るためには,人権教育・啓発に関する理念や国,地方公共団体,国民の責務を明らかに
するとともに,基本計画の策定や年次報告等,所要の措置を法定することが不可欠であるとし
て,平成12年11月,議員立法により法案が提出され,人権教育・啓発推進法として制定される
運びとなった。
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2 基本計画の策定方針と構成
(1) 基本計画の策定方針
人権教育・啓発推進法は,基本理念として,「国及び地方公共団体が行う人権教育及び人
権啓発は,学校,地域,家庭,職域その他の様々な場を通じて,国民が,その発達段階に応
じ,人権尊重の理念に対する理解を深め,これを体得することができるよう,多様な機会の
提供,効果的な手法の採用,国民の自主性の尊重及び実施機関の中立性の確保を旨として行
われなければならない。」(第3条)と規定し,基本計画については,「国は,人権教育及
び人権啓発に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため,人権教育及び人権啓発に関
する基本的な計画を策定しなければならない。」(第7条)と規定している。
人権教育・啓発の推進に当たっては,国連10年国内行動計画や人権擁護推進審議会の人権
教育・啓発に関する答申などがその拠り所となるが,これまでの人権教育・啓発に関する様
々な検討や提言の趣旨,人権教育・啓発推進法制定に当たっての両議院における審議及び附
帯決議,人権分野における国際的潮流などを踏まえて,基本計画は,以下の方針の下に策定
することとした。
① 広く国民の一人一人が人権尊重の理念に対する理解を深め,これを体得していく必要が
あり,そのためにはねばり強い取組が不可欠であるとの観点から,中・長期的な展望の下
に策定する。
② 国連10年国内行動計画を踏まえ,より充実した内容のものとする。
③ 人権擁護推進審議会の人権教育・啓発に関する答申を踏まえ,「人権教育・啓発の基本
的な在り方」及び「人権教育・啓発の総合的かつ効果的な推進を図るための方策」につい
て検討を加える。
④ 基本計画の策定に当たっては,行政の中立性に配慮するとともに,地方公共団体や民間
団体等関係各方面から幅広く意見を聴取する。
(2) 基本計画の構成
基本計画は,人権教育・啓発の総合的かつ計画的な推進に関する施策の大綱として,まず,
第1章「はじめに」において,人権教育・啓発推進法制定までの経緯と計画の策定方針及び
その構成を明らかにするとともに,第2章「人権教育・啓発の現状」及び第3章「人権教育・
啓発の基本的在り方」において,我が国における人権教育・啓発の現状とその基本的な在り
方について言及した後,第4章「人権教育・啓発の推進方策」において,人権教育・啓発を
総合的かつ計画的に推進するための方策について提示することとし,その具体的な内容とし
ては,人権一般の普遍的な視点からの取組のほか,各人権課題に対する取組及び人権にかか
わりの深い特定の職業に従事する者に対する研修等の問題について検討を加えるとともに,
人権教育・啓発の総合的かつ効果的な推進のための体制等についてその進むべき方向性等を
盛り込んでいる。そして,最後に,第5章「計画の推進」において,計画の着実かつ効果的
な推進を図るための体制やフォローアップ等について記述している。
人権教育・啓発の総合的かつ計画的な推進を図るに当たっては,国の取組にとどまらず,地方
公共団体や公益法人・民間団体等の取組も重要である。このため,政府においては,これら団体
等との連携をより一層深めつつ,本基本計画に掲げた取組を着実に推進することとする。
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第2章人権教育・啓発の現状
1 人権を取り巻く情勢
我が国においては,基本的人権の尊重を基本原理の一つとする日本国憲法の下で,国政の全
般にわたり,人権に関する諸制度の整備や諸施策の推進が図られてきている。それは,我が国
憲法のみならず,戦後,国際連合において作成され現在我が国が締結している人権諸条約など
の国際準則にも則って行われている。他方,国内外から,これらの諸制度や諸施策に対する人
権の視点からの批判的な意見や,公権力と国民との関係及び国民相互の関係において様々な人
権問題が存在する旨の指摘がされている。
現在及び将来にわたって人権擁護を推進していく上で,特に,女性,子ども,高齢者,障害
者,同和問題,アイヌの人々,外国人,HIV感染者やハンセン病患者等をめぐる様々な人権
問題は重要課題となっており,国連10年国内行動計画においても,人権教育・啓発の推進に当
たっては,これらの重要課題に関して,「それぞれの固有の問題点についてのアプローチとと
もに,法の下の平等,個人の尊重という普遍的な視点からのアプローチにも留意する」ことと
されている。また,近年,犯罪被害者及びその家族の人権問題に対する社会的関心が大きな高
まりを見せており,刑事手続等における犯罪被害者等への配慮といった問題に加え,マスメデ
ィアの犯罪被害者等に関する報道によるプライバシー侵害,名誉毀損,過剰な取材による私生
活の平穏の侵害等の問題が生じている。マスメディアによる犯罪の報道に関しては少年事件等
の被疑者及びその家族についても同様の人権問題が指摘されており,その他新たにインターネ
ット上の電子掲示板やホームページへの差別的情報の掲示等による人権問題も生じている。
このように様々な人権問題が生じている背景としては,人々の中に見られる同質性・均一性
を重視しがちな性向や非合理的な因習的意識の存在等が挙げられているが,国際化,情報化,
高齢化,少子化等の社会の急激な変化なども,その要因になっていると考えられる。また,よ
り根本的には,人権尊重の理念についての正しい理解やこれを実践する態度が未だ国民の中に
十分に定着していないことが挙げられ,このために,「自分の権利を主張して他人の権利に配
慮しない」ばかりでなく,「自らの有する権利を十分に理解しておらず,正当な権利を主張で
きない」,「物事を合理的に判断して行動する心構えや習慣が身に付いておらず,差別意識や
偏見にとらわれた言動をする」といった問題点も指摘されている。
人権教育・啓発に関しては,これまでも各方面で様々な努力が払われてきているが,このよ
うな人権を取り巻く諸情勢を踏まえ,より積極的な取組が必要となっている。
2 人権教育の現状
(1) 人権教育の意義・目的
人権教育とは,「人権尊重の精神の涵養を目的とする教育活動」を意味し(人権教育・啓
発推進法第2条),「国民が,その発達段階に応じ,人権尊重の理念に対する理解を深め,
これを体得することができるよう」にすることを旨としており(同法第3条),日本国憲法
及び教育基本法並びに国際人権規約,児童の権利に関する条約等の精神に則り,基本的人権
の尊重の精神が正しく身に付くよう,地域の実情を踏まえつつ,学校教育及び社会教育を通
じて推進される。
学校教育については,それぞれの学校種の教育目的や目標の実現を目指して,自ら学び自
ら考える力や豊かな人間性などを培う教育活動を組織的・計画的に実施するものであり,こ
うした学校の教育活動全体を通じ,幼児児童生徒,学生の発達段階に応じて,人権尊重の意
識を高める教育を行っていくこととなる。
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また,社会教育については,生涯学習の視点に立って,学校外において,青少年のみなら
ず,幼児から高齢者に至るそれぞれのライフサイクルにおける多様な教育活動を展開してい
くことを通じて,人権尊重の意識を高める教育を行っていくこととなる。
こうした学校教育及び社会教育における人権教育によって,人々が,自らの権利を行使す
ることの意義,他者に対して公正・公平であり,その人権を尊重することの必要性,様々な
課題などについて学び,人間尊重の精神を生活の中に生かしていくことが求められている。
(2) 人権教育の実施主体
人権教育の実施主体としては,学校,社会教育施設,教育委員会などのほか,社会教育関
係団体,民間団体,公益法人などが挙げられる。
学校教育及び社会教育における人権教育に関係する機関としては,国レベルでは文部科学
省,都道府県レベルでは各都道府県教育委員会及び私立学校を所管する都道府県知事部局,
市町村レベルでは各市町村教育委員会等がある。そして,実際に,学校教育については,国
や各都道府県・市町村が設置者となっている各国公立学校や学校法人によって設置される私
立学校において,また,社会教育については,各市町村等が設置する公民館等の社会教育施
設などにおいて,それぞれ人権教育が具体的に推進されることとなる。
(3) 人権教育の現状
ア学校教育
学校教育においては,幼児児童生徒,学生の発達段階に応じながら,学校教育活動全体
を通じて人権尊重の意識を高め,一人一人を大切にした教育の充実を図っている。
最近では,教育内容の基準である幼稚園教育要領,小・中・高等学校及び盲・聾・養護
学校の学習指導要領等を改訂し,「生きる力」(自ら学び自ら考える力,豊かな人間性な
ど)の育成を目指し,それぞれの教育の一層の充実を図っている。
幼稚園においては,他の幼児とのかかわりの中で他人の存在に気付き,相手を尊重する
気持ちをもって行動できるようにすることや友達とのかかわりを深め,思いやりをもつよ
うにすることなどを幼稚園教育要領に示しており,子どもたちに人権尊重の精神の芽生え
をはぐくむよう,遊びを中心とした生活を通して指導している。
なお,保育所においては,幼稚園教育要領との整合性を図りつつ策定された保育所保育
指針に基づいて保育が実施されている。
小学校・中学校及び高等学校においては,児童生徒の発達段階に即し,各教科,道徳,
特別活動等のそれぞれの特質に応じて学校の教育活動全体を通じて人権尊重の意識を高め
る教育が行われている。例えば,社会科においては,日本国憲法を学習する中で人間の尊
厳や基本的人権の保障などについて理解を深めることとされ,また,道徳においては,
「だれに対しても差別することや偏見をもつことなく公正,公平にし,正義の実現に努め
る」,「公徳心をもって法やきまりを守り,自他の権利を大切にし進んで義務を果たす」
よう指導することとされている。さらに,平成14年度以降に完全実施される新しい学習指
導要領においては,「人間尊重の精神と生命に対する畏敬の念」を具体的な生活の中に生
かすことが強調されたほか,指導上の配慮事項として,多様な人々との交流の機会を設け
ることが示されている。加えて,平成13年7月には学校教育法が改正され,小・中・高等
学校及び盲・聾・養護学校においてボランティア活動など社会奉仕体験活動,自然体験活
動の充実に努めることとされたところであり,人権教育の観点からも各学校の取組の促進
が望まれる。
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盲・聾・養護学校では,障害者の自立と社会参加を目指して,小・中・高等学校等に準
ずる教育を行うとともに,障害に基づく種々の困難を克服するための指導を行っており,
今般の学習指導要領等の改訂では,一人一人の障害の状態等に応じた一層きめ細かな指導
の充実が図られている。また,盲・聾・養護学校や特殊学級では,子どもたちの社会性や
豊かな人間性をはぐくむとともに,社会における障害者に対する正しい理解認識を深める
ために,障害のある児童生徒と障害のない児童生徒や地域社会の人々とが共に活動を行う
交流教育などの実践的な取組が行われており,新しい学習指導要領等ではその充実が図ら
れている。
大学等における人権教育については,例えば法学一般,憲法などの法学の授業に関連し
て実施されている。また,教養教育に関する科目等として,人権教育に関する科目が開設
されている大学もある。
以上,学校教育については,教育活動全体を通じて,人権教育が推進されているが,知
的理解にとどまり,人権感覚が十分身に付いていないなど指導方法の問題,教職員に人権
尊重の理念について十分な認識が必ずしもいきわたっていない等の問題も指摘されている
ところである。
イ社会教育
社会教育においては,すべての教育の出発点である家庭教育を支援するため,家庭教育
に関する親への学習機会の提供や,家庭でのしつけの在り方などを分かりやすく解説した
家庭教育手帳・家庭教育ノートを乳幼児や小学生等を持つ親に配布するなどの取組が行わ
れている。この家庭教育手帳・家庭教育ノートには「親自身が偏見を持たず,差別をしな
い,許さないということを,子どもたちに示していくことが大切である」ことなどが盛り
込まれている。
また,生涯の各時期に応じ,各人の自発的学習意思に基づき,人権に関する学習ができ
るよう,公民館等の社会教育施設を中心に学級・講座の開設や交流活動など,人権に関す
る多様な学習機会が提供されている。さらに,社会教育指導者のための人権教育に関する
手引の作成などが行われている。そのほか,社会教育主事等の社会教育指導者を対象に様
々な形で研修が行われ,指導者の資質の向上が図られている。
加えて,平成13年7月には,社会教育法が改正され,青少年にボランティア活動など社
会奉仕体験活動,自然体験活動等の機会を提供する事業の実施及びその奨励が教育委員会
の事務として明記されたところであり,人権尊重の心を養う観点からも各教育委員会にお
ける取組の促進が望まれる。
このように,生涯学習の振興のための各種施策を通じて人権教育が推進されているが,
知識伝達型の講義形式の学習に偏りがちであることなどの課題が指摘されている。
3 人権啓発の現状
(1) 人権啓発の意義・目的
人権啓発とは,「国民の間に人権尊重の理念を普及させ,及びそれに対する国民の理解を
深めることを目的とする広報その他の啓発活動(人権教育を除く。)」を意味し(人権教
育・啓発推進法第2条),「国民が,その発達段階に応じ,人権尊重の理念に対する理解を
深め,これを体得することができるよう」にすることを旨としている(同法第3条)。すな
わち,広く国民の間に,人権尊重思想の普及高揚を図ることを目的に行われる研修,情報提
供,広報活動等で人権教育を除いたものであるが,その目的とするところは,国民の一人一
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人が人権を尊重することの重要性を正しく認識し,これを前提として他人の人権にも十分に
配慮した行動がとれるようにすることにある。換言すれば,「人権とは何か」,「人権の尊
重とはどういうことか」,「人権を侵害された場合に,これを排除し,救済するための制度
がどのようになっているか」等について正しい認識を持つとともに,それらの認識が日常生
活の中で,その態度面,行動面等において確実に根付くようにすることが人権啓発の目的で
ある。
(2) 人権啓発の実施主体
人権擁護事務として人権啓発を担当する国の機関としては,法務省人権擁護局及びその下
部機関である法務局及び地方法務局の人権擁護部門のほか,法務大臣が委嘱する民間のボラ
ンティアとして人権擁護委員制度が設けられ,これら法務省に置かれた人権擁護機関が一体
となって人権啓発活動を行っている。また,法務省以外の関係各府省庁においても,その所
掌事務との関連で,人権にかかわる各種の啓発活動を行っているほか,地方公共団体や公益
法人,民間団体,企業等においても,人権にかかわる様々な活動が展開されている。
なお,法務省の人権擁護機関については,人権擁護推進審議会の人権救済制度の在り方に
関する答申(平成13年5月25日)及び人権擁護委員制度の改革に関する答申(平成13年12月2
1日)を踏まえ,人権委員会の設置等,新たな制度の構築に向けた検討が進められていると
ころである。
(3) 人権啓発の現状
ア国の人権擁護機関の啓発活動
国は,前記のとおり,関係各府省庁が,その所掌事務との関連で,人権にかかわる各種
の啓発活動を行っている。特に,人権擁護事務として人権啓発を担当する法務省の人権擁
護機関は,広く一般国民を対象に,人権尊重思想の普及高揚等のために様々な啓発活動を
展開している。すなわち,毎年啓発活動の重点目標を定め,人権週間や人権擁護委員の日
など節目となる機会をとらえて全国的な取組を展開しているほか,中学生を対象とする人
権作文コンテストや小学生を主たる対象とする人権の花運動,イベント的要素を取り入れ
明るく楽しい雰囲気の中でより多くの人々に人権問題を考えてもらう人権啓発フェスティ
バル,各地のイベント等の行事への参加など,年間を通して様々な啓発活動を実施してい
る。具体的な啓発手法としては,人権一般や個別の人権課題に応じて作成する啓発冊子・
リーフレット・パンフレット・啓発ポスター等の配布,その時々の社会の人権状況に合わ
せた講演会・座談会・討論会・シンポジウム等の開催,映画会・演劇会等の開催,テレ
ビ・ラジオ・有線放送等マスメディアを活用した啓発活動など,多種多様な手法を用いる
とともに,それぞれに創意工夫を凝らしている。また,従来,国や多くの地方公共団体が
各別に啓発活動を行うことが多く,その間の連携協力が必ずしも十分とは言えなかった状
況にかんがみ,人権啓発のより一層効果的な推進を図るとの観点から,都道府県や市町村
を含めた多様な啓発主体が連携協力するための横断的なネットワークを形成して,人権啓
発活動ネットワーク事業も展開している。さらに,以上の一般的な啓発活動のほか,人権
相談や人権侵犯事件の調査・処理の過程を通じて,関係者に人権尊重思想を普及するなど
の個別啓発も行っている。
このように,法務省の人権擁護機関は人権啓発に関する様々な活動を展開しているとこ
ろであるが,昨今,その内容・手法が必ずしも国民の興味・関心・共感を呼び起こすもの
になっていない,啓発活動の実施に当たってのマスメディアの効果的な活用が十分とは言
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えない,法務省の人権擁護機関の存在及び活動内容に対する国民の周知度が十分でない,
その実施体制や担当職員の専門性も十分でない等の問題点が指摘されている。
イ地方公共団体の啓発活動
地方公共団体は,都道府県及び市町村のいずれにおいても,それぞれの地域の実情に応
じ,啓発行事の開催,啓発資料等の作成・配布,啓発手法等に関する調査・研究,研修会
の開催など様々な啓発活動を行っており,その内容は,まさに地域の実情等に応じて多種
多様である。特に,都道府県においては,市町村を包括する広域的な立場や市町村行政を
補完する立場から,それぞれの地域の実情に応じ,市町村を先導する事業,市町村では困
難な事業,市町村の取組を支援する事業などが展開されている。また,市町村においては,
住民に最も身近にあって住民の日常生活に必要な様々な行政を担当する立場から,地域に
密着したきめ細かい多様な人権啓発活動が様々な機会を通して展開されている。
ウ民間団体,企業の啓発活動
民間団体においても,人権全般あるいは個々の人権課題を対象として,広報,調査・研
究,研修等,人権啓発上有意義な様々な取組が行われているほか,国,地方公共団体が主
催する講演会,各種イベントへの参加など,人権にかかわる様々な活動を展開していると
ころであり,今後とも人権啓発の実施主体として重要な一翼を担っていくことが期待され
る。
また,企業においては,その取組に濃淡はあるものの,個々の企業の実情や方針等に応
じて,自主的な人権啓発活動が行われている。例えば,従業員に対して行う人権に関する
各種研修のほか,より積極的なものとしては,人権啓発を推進するための組織の設置や人
権に関する指針の制定,あるいは従業員に対する人権標語の募集などが行われている例も
ある。
第3章人権教育・啓発の基本的在り方
1 人権尊重の理念
人権とは,人間の尊厳に基づいて各人が持っている固有の権利であり,社会を構成するすべ
ての人々が個人としての生存と自由を確保し,社会において幸福な生活を営むために欠かすこ
とのできない権利である。
すべての人々が人権を享有し,平和で豊かな社会を実現するためには,人権が国民相互の間
において共に尊重されることが必要であるが,そのためには,各人の人権が調和的に行使され
ること,すなわち「人権の共存」が達成されることが重要である。そして,人権が共存する人
権尊重社会を実現するためには,すべての個人が,相互に人権の意義及びその尊重と共存の重
要性について,理性及び感性の両面から理解を深めるとともに,自分の権利の行使に伴う責任
を自覚し,自分の人権と同様に他人の人権をも尊重することが求められる。
したがって,人権尊重の理念は,人権擁護推進審議会が人権教育・啓発に関する答申におい
て指摘しているように,「自分の人権のみならず他人の人権についても正しく理解し,その権
利の行使に伴う責任を自覚して,人権を相互に尊重し合うこと,すなわち,人権共存の考え
方」として理解すべきである。
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2 人権教育・啓発の基本的在り方
人権教育・啓発は,人権尊重社会の実現を目指して,日本国憲法や教育基本法などの国内法,
人権関係の国際条約などに即して推進していくべきものである。その基本的な在り方としては,
人権教育・啓発推進法が規定する基本理念(第3条)を踏まえると,次のような点を挙げるこ
とができる。
(1) 実施主体間の連携と国民に対する多様な機会の提供
人権教育・啓発にかかわる活動は,様々な実施主体によって行われているが,今日,人権
問題がますます複雑・多様化する傾向にある中で,これをより一層効果的かつ総合的に推進
し,多様な学習機会を提供していくためには,これら人権教育・啓発の各実施主体がその担
うべき役割を踏まえた上で,相互に有機的な連携協力関係を強化することが重要である。
また,国民に対する人権教育・啓発は,国民の一人一人の生涯の中で,家庭,学校,地域
社会,職域などあらゆる場と機会を通して実施されることにより効果を上げるものと考えら
れ,その観点からも,人権教育・啓発の各実施主体は相互に十分な連携をとり,その総合的
な推進に努めることが望まれる。
(2) 発達段階等を踏まえた効果的な方法
人権教育・啓発は,幼児から高齢者に至る幅広い層を対象とするものであり,その活動を
効果的に推進していくためには,人権教育・啓発の対象者の発達段階を踏まえ,地域の実情
等に応じて,ねばり強くこれを実施する必要がある。
特に,人権の意義や重要性が知識として確実に身に付き,人権問題を直感的にとらえる感
性や日常生活において人権への配慮がその態度や行動に現れるような人権感覚が十分に身に
付くようにしていくことが極めて重要である。そのためには,人権教育・啓発の対象者の発
達段階に応じながら,その対象者の家庭,学校,地域社会,職域などにおける日常生活の経
験などを具体的に取り上げるなど,創意工夫を凝らしていく必要がある。その際,人格が形
成される早い時期から,人権尊重の精神の芽生えが感性としてはぐくまれるように配慮すべ
きである。また,子どもを対象とする人権教育・啓発活動の実施に当たっては,子どもが発
達途上であることに十分留意することが望まれる。
また,人権教育・啓発の手法については,「法の下の平等」,「個人の尊重」といった人
権一般の普遍的な視点からのアプローチと,具体的な人権課題に即した個別的な視点からの
アプローチとがあり,この両者があいまって人権尊重についての理解が深まっていくものと
考えられる。すなわち,法の下の平等,個人の尊重といった普遍的な視点から人権尊重の理
念を国民に訴えかけることも重要であるが,真に国民の理解や共感を得るためには,これと
併せて,具体的な人権課題に即し,国民に親しみやすく分かりやすいテーマや表現を用いる
など,様々な創意工夫が求められる。他方,個別的な視点からのアプローチに当たっては,
地域の実情等を踏まえるとともに,人権課題に関して正しく理解し,物事を合理的に判断す
る精神を身に付けるよう働きかける必要がある。その際,様々な人権課題に関してこれまで
取り組まれてきた活動の成果と手法への評価を踏まえる必要がある。
なお,人権教育・啓発の推進に当たって,外来語を安易に使用することは,正しい理解の
普及を妨げる場合もあるので,官公庁はこの点に留意して適切に対応することが望ましい。
(3) 国民の自主性の尊重と教育・啓発における中立性の確保
人権教育・啓発は,国民の一人一人の心の在り方に密接にかかわる問題でもあることから,
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その自主性を尊重し,押し付けにならないように十分留意する必要がある。そもそも,人権
は,基本的に人間は自由であるということから出発するものであって,人権教育・啓発にか
かわる活動を行う場合にも,それが国民に対する強制となっては本末転倒であり,真の意味
における国民の理解を得ることはできない。国民の間に人権問題や人権教育・啓発の在り方
について多種多様な意見があることを踏まえ,異なる意見に対する寛容の精神に立って,自
由な意見交換ができる環境づくりに努めることが求められる。
また,人権教育・啓発がその効果を十分に発揮するためには,その内容はもとより,実施
の方法等においても,国民から,幅広く理解と共感を得られるものであることが必要である。
「人権」を理由に掲げて自らの不当な意見や行為を正当化したり,異論を封じたりする「人
権万能主義」とでも言うべき一部の風潮,人権問題を口実とした不当な利益等の要求行為,
人権上問題のあるような行為をしたとされる者に対する行き過ぎた追及行為などは,いずれ
も好ましいものとは言えない。
このような点を踏まえると,人権教育・啓発を担当する行政は,特定の団体等から不当な
影響を受けることなく,主体性や中立性を確保することが厳に求められる。人権教育・啓発
にかかわる活動の実施に当たっては,政治運動や社会運動との関係を明確に区別し,それら
の運動そのものも教育・啓発であるということがないよう,十分に留意しなければならない。
第4章人権教育・啓発の推進方策
人権教育・啓発に関しては,国連10年国内行動計画や人権擁護推進審議会の人権教育・啓発に
関する答申を踏まえて,関係各府省庁において様々な取組が実施されているところである。それ
らの取組は,国内外の諸情勢の動向等も踏まえながら,今後とも,積極的かつ着実に推進される
べきものであることは言うまでもない。
そこで,ここでは,第3章に記述した人権教育・啓発の基本的な在り方を踏まえつつ,国連10
年国内行動計画に基づく取組の強化及び人権擁護推進審議会の答申で提言された人権教育・啓発
の総合的かつ効果的な推進のための諸方策の実施が重要であるとの認識に立って,人権一般の普
遍的な視点からの取組,各人権課題に対する取組及び人権にかかわりの深い特定の職業に従事す
る者に対する研修等の問題に関して推進すべき施策の方向性を提示するとともに,人権教育・啓
発の効果的な推進を図るための体制等について述べることとする。
1 人権一般の普遍的な視点からの取組
(1) 人権教育
人権教育は,生涯学習の視点に立って,幼児期からの発達段階を踏まえ,地域の実情等に
応じて,学校教育と社会教育とが相互に連携を図りつつ,これを実施する必要がある。
ア学校教育
学校教育においては,それぞれの学校種の教育目的や目標の実現を目指した教育活動が
展開される中で,幼児児童生徒,学生が,社会生活を営む上で必要な知識・技能,態度な
どを確実に身に付けることを通じて,人権尊重の精神の涵養が図られるようにしていく必
要がある。
初等中等教育については,新しい学習指導要領等に基づき,自ら学び,自ら考える力や
豊かな人間性等の「生きる力」をはぐくんでいく。さらに,高等教育については,こうし
た「生きる力」を基盤として,知的,道徳的及び応用的能力を展開させていく。
こうした基本的な認識に立って,以下のような施策を推進していく。
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第一に,学校における指導方法の改善を図るため,効果的な教育実践や学習教材などに
ついて情報収集や調査研究を行い,その成果を学校等に提供していく。また,心に響く道
徳教育を推進するため,地域の人材の配置,指導資料の作成などの支援策を講じていく。
第二に,社会教育との連携を図りつつ,社会性や豊かな人間性をはぐくむため多様な体
験活動の機会の充実を図っていく。学校教育法の改正の趣旨等を踏まえ,ボランティア活
動など社会奉仕体験活動,自然体験活動を始め,勤労生産活動,職業体験活動,芸術文化
体験活動,高齢者や障害者等との交流などを積極的に推進するため,モデルとなる地域や
学校を設け,その先駆的な取組を全国のすべての学校に普及・展開していく。
第三に,子どもたちに人権尊重の精神を涵養していくためにも,各学校が,人権に配慮
した教育指導や学校運営に努める。特に,校内暴力やいじめなどが憂慮すべき状況にある
中,規範意識を培い,こうした行為が許されないという指導を徹底するなど子どもたちが
安心して楽しく学ぶことのできる環境を確保する。
第四に,高等教育については,大学等の主体的判断により,法学教育など様々な分野に
おいて,人権教育に関する取組に一層配慮がなされるよう促していく。
第五に,養成・採用・研修を通じて学校教育の担い手である教職員の資質向上を図り,
人権尊重の理念について十分な認識を持ち,子どもへの愛情や教育への使命感,教科等の
実践的な指導力を持った人材を確保していく。その際,教職員自身が様々な体験を通じて
視野を広げるような機会の充実を図っていく。また,教職員自身が学校の場等において子
どもの人権を侵害するような行為を行うことは断じてあってはならず,そのような行為が
行われることのないよう厳しい指導・対応を行っていく。さらに,個に応じたきめ細かな
指導が一層可能となるよう,教職員配置の改善を進めていく。
イ社会教育
社会教育においては,すべての人々の人権が真に尊重される社会の実現を目指し,人権
を現代的課題の一つとして取り上げた生涯学習審議会の答申や,家庭教育支援のための機
能の充実や,多様な体験活動の促進等について提言した様々な審議会の答申等を踏まえ,
生涯学習の振興のための各種施策を通じて,人権に関する学習の一層の充実を図っていく
必要がある。その際,人権に関する学習においては,単に人権問題を知識として学ぶだけ
ではなく,日常生活において態度や行動に現れるような人権感覚の涵養が求められる。
第一に,幼児期から豊かな情操や思いやり,生命を大切にする心,善悪の判断など人間
形成の基礎をはぐくむ上で重要な役割を果たし,すべての教育の出発点である家庭教育の
充実を図る。特に,親自身が偏見を持たず差別をしないことなどを日常生活を通じて自ら
の姿をもって子どもに示していくことが重要であることから,親子共に人権感覚が身に付
くような家庭教育に関する親の学習機会の充実や情報の提供を図るとともに,父親の家庭
教育参加の促進,子育てに不安や悩みを抱える親等への相談体制の整備等を図る。
第二に,公民館等の社会教育施設を中心として,地域の実情に応じた人権に関する多様
な学習機会の充実を図っていく。そのため,広く人々の人権問題についての理解の促進を
図るため,人権に関する学習機会の提供や交流事業の実施,教材の作成等の取組を促進す
る。また,学校教育との連携を図りつつ,青少年の社会性や思いやりの心など豊かな人間
性をはぐくむため,ボランティア活動など社会奉仕体験活動・自然体験活動を始めとする
多様な体験活動や高齢者,障害者等との交流の機会の充実を図る。さらに,初等中等教育
を修了した青年や成人のボランティア活動など社会奉仕活動を充実するための環境の整備
を図っていく。
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第三に,学習意欲を高めるような参加体験型の学習プログラムの開発を図るとともに,
広く関係機関にその成果を普及し,特に,日常生活の中で人権上問題のあるような出来事
に接した際に,直感的にその出来事がおかしいと思う感性や,日常生活の中で人権尊重を
基本においた行動が無意識のうちにその態度や行動に現れるような人権感覚を育成する学
習プログラムを,市町村における実践的な人権に関する学習活動の成果を踏まえながら開
発し提供していくことが重要である。そのために,身近な課題を取り上げたり,様々な人
とのふれあい体験を通して自然に人権感覚が身に付くような活動を仕組んだり,学習意欲
を高める手法を創意工夫するなど指導方法に関する研究開発を行い,その成果を全国に普
及していく。
第四に,地域社会において人権教育を先頭に立って推進していく指導者の養成及び,そ
の資質の向上を図り,社会教育における指導体制の充実を図っていく。そのために指導者
研修会の内容,方法について,体験的・実践的手法を取り入れるなどの創意工夫を図る。
(2) 人権啓発
人権啓発は,その内容はもとより実施の方法においても,国民から幅広く理解と共感が得
られるものであることが肝要であり,人権一般にかかわる取組に関して検討する場合にも,
その視点からの配慮が欠かせない。
ア内容
啓発の内容に関して言えば,国民の理解と共感を得るという視点から,人権をめぐる今
日の社会情勢を踏まえた啓発が重要であり,そのような啓発として,特に以下のものを挙
げることができる。
ⅰ 人権に関する基本的な知識の習得
総理府(現内閣府)の世論調査(平成9年実施)の結果によれば,基本的人権が侵す
ことのできない永久の権利として憲法で保障されていることについての周知度が低下傾
向にあるが,この点にも象徴されるように,国民の人権に関する基本的な知識の習得が
十分でないことが窺われる。そこで,憲法を始めとした人権にかかわる国内法令や国際
条約の周知など,人権に関する基本的な知識の習得を目的とした啓発を推進する必要が
ある。
ⅱ 生命の尊さ
近年,小学生などの弱者を被害者とする残忍な事件が頻発し,社会的耳目を集めてい
るが,これらに限らず,いじめや児童虐待,ストーカー行為,電車等の交通機関内にお
けるトラブルや近隣関係をめぐるトラブルに起因する事件等々,日常生活のあらゆる場
面において,ささいなことから簡単に人が殺傷される事件が後を絶たない。その背景と
して,人の生命を尊重する意識が薄れてきていることが指摘されており,改めて生命の
尊さ・大切さや,自己がかけがえのない存在であると同時に他人もかけがえのない存在
であること,他人との共生・共感の大切さを真に実感できるような啓発を推進する必要
がある。
ⅲ 個性の尊重
世間体や他人の思惑を過度に気にする一般的な風潮や我が国社会における根強い横並
び意識の存在等が,安易な事なかれ主義に流れたり,人々の目を真の問題点から背けさ
せる要因となっており,そのことにより,各種差別の解消が妨げられている側面がある。
そこで,これらの風潮や意識の是正を図ることが重要であるが,そのためには,互いの
人権を尊重し合うということの意味が,各人の異なる個性を前提とする価値基準である
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ことを国民に訴えかける啓発を推進する必要がある。
イ方法
啓発の方法に関し,国民の理解と共感を得るという視点から留意すべき主な点としては,
以下のものを挙げることができる。
ⅰ 対象者の発達段階に応じた啓発
一般的に言えば,対象者の理解度に合わせて適切な人権啓発を行うことが肝要であり,
そのためには,対象者の発達段階に応じて,その対象者の家庭,学校,地域社会,職域
などにおける日常生活の経験などを人権尊重の観点から具体的に取り上げ,自分の課題
として考えてもらうなど,手法に創意工夫を凝らしていく必要がある。また,対象者の
発達段階に応じた手法の選択ということも重要であり,例えば,幼児児童に対する人権
啓発としては「他人の痛みが分かる」,「他人の気持ちを理解し,行動できる」など,
他人を思いやる心をはぐくみ,子どもの情操をより豊かにすることを目的として,子ど
もが人権に関する作文を書くことを通して自らの課題として理解を深めたり,自ら人権
に関する標語を考えたりするなどの啓発手法が効果的である。そして,ある程度理解力
が備わった青少年期には,ボランティア活動など社会奉仕体験活動等を通じて,高齢者
や障害のある人などと直接触れ合い,そうした交流の中で人権感覚を培っていくことが
期待される。
ⅱ 具体的な事例を活用した啓発
人権啓発の効果を高めるためには,具体的な事例を取り上げ,その問題を前提として
自由に議論することも,啓発を受ける人の心に迫りやすいという点では効果がある。例
えば,人権上大きな社会問題となった事例に関して,人権擁護に当たる機関が,タイミ
ング良く,人権尊重の視点から具体的な呼びかけを行うことなどは,広く国民が人権尊
重についての正しい知識・感性を錬磨する上で,大きな効果を期待できる。特に,その
具体的な事例が自分の居住する地域と関連が深いものである場合には,地域住民が人権
尊重の理念について,より身近に感じ,その理解を深めることにつながるので,その意
味でも,具体的な事例を挙げて,地域に密着した啓発を行うことは効果的である。
なお,過去の具体的な事例を取り上げるに当たっては,そこで得られた教訓を踏まえ
て,将来,類似の問題が発生した場合にどう対応すべきかとの観点から啓発を行うこと
も有意義である。その場合,人権を侵害された被害者は心に深い傷を負っているという
ことにも十分配慮し,被害者の立場に立った啓発を心掛ける必要がある。
ⅲ 参加型・体験型の啓発
各種の人権啓発冊子等の作成・配布や講演会・研修会の実施,人権啓発映画・啓発ビ
デオの放映等,啓発主体が国民に向けて行う啓発は,人権に関する知識や情報を伝える
という観点からは一定の効果があるが,国民の一人一人が人権感覚や感性を体得すると
いう観点からすると,このような受身型の啓発には限界がある。そこで,啓発を受ける
国民が主体的・能動的に参加できるような啓発手法(例えば,各種のワークショップや
車椅子体験研修等)にも着目し,これらの採用を積極的に検討・推進すべきである。
2 各人権課題に対する取組
人権教育・啓発に当たっては,普遍的な視点からの取組のほか,各人権課題に対する取組を
推進し,それらに関する知識や理解を深め,さらには課題の解決に向けた実践的な態度を培っ
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ていくことが望まれる。その際,地域の実情,対象者の発達段階等や実施主体の特性などを踏
まえつつ,適切な取組を進めていくことが必要である。
(1) 女性
日本国憲法は,法の下の平等について規定し,政治的,経済的又は社会的関係における性
差別を禁止する(第14条)とともに,家族関係における男女平等について明文の規定を置い
ている(第24条)。しかし,現実には,従来の固定的な性別役割分担意識が依然として根強
く残っていることから,社会生活の様々な場面において女性が不利益を受けることが少なか
らずある。また,夫・パートナーからの暴力,性犯罪,売買春,セクシュアル・ハラスメン
ト,ストーカー行為等,女性に対する暴力事案等が社会的に問題となるなど,真に男女共同
参画社会が実現されているとは言い難い状況にある。
女性の地位向上は,我が国のみならず世界各国に共通した問題意識となっており,国際連
合を中心とした国際的な動向をみると,1975年(昭和50年)を「国際婦人年」と定め,これ
に続く1976年から1985年までの10年間を「国連婦人の10年」として位置付け,この間に,女
性の問題に関する認識を深めるための活動が各国に奨励されている。また,1979年に女子差
別撤廃条約が採択(1981年発効,我が国の批准1985年)され,1993年には女性に対する暴力
の撤廃に関する宣言が採択されたほか,世界各地で女性会議等の国際会議開催されるなど,
女性の地位向上に向けた様々な取組が国際的な規模で行われている。
我が国においても,従来から,こうした国際的な動向にも配慮しながら,男女共同参画社
会の形成の促進に向けた様々な取組が総理府(現内閣府)を中心に展開されてきた。特に,
平成11年6月には,男女共同参画社会の形成の促進を総合的かつ計画的に推進することを目
的とする「男女共同参画社会基本法(平成11年法律第78号)が制定され,平成12年12月には,
同法に基づいた初めての計画である「男女共同参画基本計画」が策定されている。また,平
成13年1月の中央省庁等改革に際し,内閣府に男女共同参画会議及び男女共同参画局が設置
され,男女共同参画社会の形成の促進に関する推進体制が充実・強化された。
なお,女性に対する暴力の関係では,「ストーカー行為等の規制等に関する法律」(平成
12年法律第81号)や「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律(平成13年法
律第31号)の制定等,立法的な措置がとられている。
こうした動向等を踏まえ,以下の取組を積極的に推進することとする。
① 政策・方針決定過程への女性の参画を拡大していくため,国が率先垂範して取組を進め
るとともに,地方公共団体,企業,各種機関・団体等のあらゆる分野へ広く女性の参画促
進を呼びかけ,その取組を支援する。(全府省庁)
② 男女共同参画の視点に立って様々な社会制度・慣行の見直しを行うとともに,これらを
支えてきた人々の意識の改革を図るため,国民的広がりを持った広報・啓発活動を積極的
に展開する。また,女性の権利に関係の深い国内法令や,女子差別撤廃条約,女性2000年
会議の「成果文書」等の国際文書の内容の周知に努める。(全府省庁)
③ 女性に対する偏見や差別意識を解消し,固定的な性別役割分担意識を払拭することを目
指して,人権尊重思想の普及高揚を図るための啓発活動を充実・強化する。(法務省)
④ 性別に基づく固定的な役割分担意識を是正し,人権尊重を基盤とした男女平等観の形成
を促進するため,家庭,学校,地域など社会のあらゆる分野において男女平等を推進する
教育・学習の充実を図る。また,女性の生涯にわたる学習機会の充実,社会参画の促進の
ための施策を充実させる。(文部科学省)
⑤ 雇用における男女の均等な機会と待遇の確保等のため啓発等を行うとともに,働くこと
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を中心に女性の社会参画を積極的に支援するための事業を「女性と仕事の未来館」におい
て実施する。(厚生労働省,文部科学省)
⑥ 農山漁村の女性が,男性とともに積極的に参画できる社会を実現するため,家庭及び地
域社会において農山漁村の女性の地位向上・方針決定への参画促進のための啓発等を実施
する。(農林水産省)
⑦ 国の行政機関の策定する広報・出版物等において性にとらわれない表現を促進するとと
もに,メディアにおける女性の人権の尊重を確保するため,メディアの自主的取組を促し
つつ,メディアの特性や技術革新に対応した実効ある対策を進める。(内閣府ほか関係省
庁)
⑧ 夫・パートナーからの暴力,性犯罪,売買春,セクシュアル・ハラスメント,ストーカ
ー行為等女性に対するあらゆる暴力を根絶するための基盤整備を行うとともに,暴力の形
態に応じた幅広い取組を総合的に推進する。(内閣府)
⑨ 夫・パートナーからの暴力,性犯罪,売買春,ストーカー行為等女性に対するあらゆる
暴力の根絶に向けて,厳正な取締りはもとより,被害女性の人権を守る観点から,事情聴
取等を被害者の希望に応じた性別の警察官が行えるようにするなど,必要な体制を整備す
るとともに,事情聴取,相談等に携わる職員の教育訓練を充実する。(警察庁)
⑩ 夫・パートナーからの暴力,性犯罪,売買春,セクシュアル・ハラスメント,ストーカ
ー行為等に関する事案が発生した場合には,人権侵犯事件としての調査・処理や人権相談
の対応など当該事案に応じた適切な解決を図るとともに,関係者に対し女性の人権の重要
性について正しい認識と理解を深めるための啓発活動を実施する。(法務省)
⑪ 女性の人権問題の解決を図るため,法務局・地方法務局の常設人権相談所において人権
相談に積極的に取り組むとともに,平成12年に全国に設置した電話相談「女性の人権ホッ
トライン」を始めとする人権相談体制を充実させる。なお,女性からの人権相談に対して
は女性の人権擁護委員や職員が対応するなど相談しやすい体制づくりに努めるほか,必要
に応じて関係機関と密接な連携協力を図るものとする。(法務省)
⑫ 我が国が主導的な役割を果たした結果国連婦人開発基金(UNIFEM)内に設置され
た「女性に対する暴力撤廃のための信託基金」等,女性の人権擁護にかかわる国際的取組
に対して協力する。(外務省)
(2) 子ども
子どもの人権の尊重とその心身にわたる福祉の保障及び増進などに関しては,既に日本国
憲法を始め,児童福祉法や児童憲章,教育基本法などにおいてその基本原理ないし理念が示
され,また,国際的にも児童の権利に関する条約等において権利保障の基準が明らかにされ,
「児童の最善の利益」の考慮など各種の権利が宣言されている。
しかし,子どもたちを取り巻く環境は,我が国においても懸念すべき状況にある。例えば,
少年非行は,現在,戦後第4の多発期にあり,質的にも凶悪化や粗暴化の傾向が指摘されて
いる。一方で,実親等による子に対する虐待が深刻な様相を呈しているほか,犯罪による被
害を受ける少年の数が増加している。児童買春・児童ポルノ,薬物乱用など子どもの健康や
福祉を害する犯罪も多発している。さらに,学校をめぐっては,校内暴力やいじめ,不登校
等の問題が依然として憂慮すべき状況にある。
このような状況を踏まえ,「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等
に関する法律」(平成11年法律第52号),「児童虐待の防止等に関する法律」(平成12年法
律第82号)の制定など個別立法による対応も進められている。さらに,家庭や地域社会にお
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ける子育てや学校における教育の在り方を見直していくと同時に,大人社会における利己的
な風潮や,金銭を始めとする物質的な価値を優先する考え方などを問い直していくことが必
要である。大人たちが,未来を担う子どもたち一人一人の人格を尊重し,健全に育てていく
ことの大切さを改めて認識し,自らの責任を果たしていくことが求められている。
こうした認識に立って,子どもの人権に関係の深い様々な国内の法令や国際条約の趣旨に
沿って,政府のみならず,地方公共団体,地域社会,学校,家庭,民間企業・団体や情報メ
ディア等,社会全体が一体となって相互に連携を図りながら,子どもの人権の尊重及び保護
に向け,以下の取組を積極的に推進することとする。
① 子どもを単に保護・指導の対象としてのみとらえるのではなく,基本的人権の享有主体
として最大限に尊重されるような社会の実現を目指して,人権尊重思想の普及高揚を図る
ための啓発活動を充実・強化する。(法務省)
② 学校教育及び社会教育を通じて,憲法及び教育基本法の精神に則り,人権尊重の意識を
高める教育の一層の推進に努める。学校教育については,人権教育の充実に向けた指導方
法の研究を推進するとともに,幼児児童生徒の人権に十分に配慮し,一人一人を大切にし
た教育指導や学校運営が行われるように努める。その際,自他の権利を大切にすることと
ともに,社会の中で果たすべき義務や自己責任についての指導に努めていく。社会教育に
おいては,子どもの人権の重要性について正しい認識と理解を深めるため,公民館等にお
ける各種学級・講座等による学習機会の充実に努める。(文部科学省)
③ 学校教育法及び社会教育法の改正(平成13年7月)の趣旨等を踏まえ,子どもの社会性
や豊かな人間性をはぐくむ観点から,全小・中・高等学校等において,ボランティア活動
など社会奉仕体験活動,自然体験活動等の体験活動を積極的に推進する。(文部科学省)
④ 校内暴力やいじめ,不登校などの問題の解決に向け,スクールカウンセラーの配置など
教育相談体制の充実を始めとする取組を推進する。また,問題行動を起こす児童生徒につ
いては,暴力やいじめは許されないという指導を徹底し,必要に応じて出席停止制度の適
切な運用を図るとともに,学校・教育委員会・関係機関からなるサポートチームを組織し
て個々の児童生徒の援助に当たるなど,地域ぐるみの支援体制を整備していく。(文部科
学省)
⑤ 親に対する家庭教育についての学習機会や情報の提供,子育てに関する相談体制の整備
など家庭教育を支援する取組の充実に努める。(文部科学省)
⑥ 児童虐待など,児童の健全育成上重大な問題について,児童相談所,学校,警察等の関
係機関が連携を強化し,総合的な取組を推進するとともに,啓発活動を推進する。(厚生
労働省,文部科学省,警察庁)
⑦ 児童買春・児童ポルノ,児童売買といった児童の商業的性的搾取の問題が国際社会の共
通の課題となっていることから,児童の権利に関する条約の広報等を通じ,積極的にこの
問題に対する理解の促進に取り組む。(外務省)
⑧ 犯罪等の被害に遭った少年に対し,カウンセリング等による支援を行うとともに,少年
の福祉を害する犯罪の取締りを推進し,被害少年の救出・保護を図る。(警察庁)
⑨ 保育所保育指針における「人権を大切にする心を育てる」ため,この指針を参考として
児童の心身の発達,家庭や地域の実情に応じた適切な保育を実施する。また,保育士や子
どもにかかわる指導員等に対する人権教育・啓発の推進を図る。(厚生労働省)
⑩ 児童虐待や体罰等の事案が発生した場合には,人権侵犯事件としての調査・処理や人権
相談の対応など当該事案に応じた適切な解決を図るとともに,関係者に対し子どもの人権
の重要性について正しい認識と理解を深めるための啓発活動を実施する。(法務省)
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⑪ 教職員について,養成・採用・研修を通じ,人権尊重意識を高めるなど資質向上を図る
とともに,個に応じたきめ細かな指導が一層可能となるよう,教職員配置の改善を進めて
いく。教職員による子どもの人権を侵害する行為が行われることのないよう厳しい指導・
対応を行う。(文部科学省)
⑫ 子どもの人権問題の解決を図るため,「子どもの人権専門委員」制度を充実・強化する
ほか,法務局・地方法務局の常設人権相談所において人権相談に積極的に取り組むととも
に,「子どもの人権110番」による電話相談を始めとする人権相談体制を充実させる。
なお,相談に当たっては,関係機関と密接な連携協力を図るものとする。(法務省)
(3) 高齢者
人口の高齢化は,世界的な規模で急速に進んでいる。我が国においては,2015年には4人
に1人が65歳以上という本格的な高齢社会が到来すると予測されているが,これは世界に類
を見ない急速な高齢化の体験であることから,我が国の社会・経済の構造や国民の意識はこ
れに追いついておらず,早急な対応が喫緊の課題となっている。
高齢化対策に関する国際的な動きをみると,1982年にウィーンで開催された国連主催によ
る初めての世界会議において「高齢化に関する国際行動計画」が,また,1991年の第46回国
連総会において「高齢者のための国連原則」がそれぞれ採択され,翌年1992年の第47回国連
総会においては,これらの国際行動計画や国連原則をより一層広めることを促すとともに,
各国において高齢化社会の到来に備えた各種の取組が行われることを期待して,1999年(平
成11年)を「国際高齢者年」とする決議が採択された。
我が国においては,昭和61年6月に閣議決定された「長寿社会対策大綱」に基づき,長寿
社会に向けた総合的な対策の推進を図ってきたが,平成7年12月に高齢社会対策基本法が施
行されたことから,以後,同法に基づく高齢社会対策大綱(平成8年7月閣議決定)を基本と
して,国際的な動向も踏まえながら,各種の対策が講じられてきた。平成13年12月には,引
き続きより一層の対策を推進するため,新しい高齢社会対策大綱が閣議決定されたところで
ある。
高齢者の人権にかかわる問題としては,高齢者に対する身体的・精神的な虐待やその有す
る財産権の侵害のほか,社会参加の困難性などが指摘されているが,こうした動向等を踏ま
え,高齢者が安心して自立した生活を送れるよう支援するとともに,高齢者が社会を構成す
る重要な一員として各種の活動に積極的に参加できるよう,以下の取組を積極的に推進する
こととする。
① 高齢者の人権についての国民の認識と理解を深めるとともに,高齢者も社会の重要な一
員として生き生きと暮らせる社会の実現を目指して,人権尊重思想の普及高揚を図るため
の啓発活動を充実・強化する。(法務省)
② 「敬老の日」「老人の日」「老人週間」の行事を通じ,広く国民が高齢者の福祉につい
て関心と理解を深める。(厚生労働省)
③ 学校教育においては,高齢化の進展を踏まえ,各教科,道徳,特別活動,総合的な学習
の時間といった学校教育活動全体を通じて,高齢者に対する尊敬や感謝の心を育てるとと
もに,高齢社会に関する基礎的理解や介護・福祉の問題などの課題に関する理解を深めさ
せる教育を推進する。(文部科学省)
④ 高齢者の学習機会の体系的整備並びに高齢者の持つ優れた知識・経験等を生かして社会
参加してもらうための条件整備を促進する。(厚生労働省,文部科学省)
⑤ 高齢者と他の世代との相互理解や連帯感を深めるため,世代間交流の機会を充実させる。
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(内閣府,厚生労働省,文部科学省)
⑥ 高齢者が社会で活躍できるよう,ボランティア活動など高齢者の社会参加を促進する。
(内閣府,厚生労働省,文部科学省)
⑦ 高齢者が長年にわたり培ってきた知識,経験等を活用して働き続けることができる社会
を実現するため,定年の引き上げ等による65歳までの安定した雇用の確保,再就職の援助,
多様な就業機会の確保のための啓発活動に取り組む。(厚生労働省)
⑧ 高齢化が急速に進行している農山漁村において,高齢者が農業生産活動,地域社会活動
等において生涯現役を目指し,安心して住み続けられるよう支援する。(農林水産省)
⑨ 高齢者に関しては,介護者等による肉体的虐待,心理的虐待,経済的虐待(財産侵害)
等の問題があるが,そのような事案が発生した場合には,人権侵犯事件としての調査・処
理や人権相談の対応など当該事案に応じた適切な解決を図るとともに,関係者に対し高齢
者の人権の重要性について正しい認識と理解を深めるための啓発活動を実施する。(法務
省)
⑩ 高齢者の人権問題の解決を図るため,法務局・地方法務局の常設人権相談所において人
権相談に積極的に取り組むとともに,高齢者が利用しやすい人権相談体制を充実させる。
なお,相談に当たっては,関係機関と密接な連携協力を図るものとする。(法務省)
(4) 障害者
障害者基本法第3条第2項は,「すべて障害者は,社会を構成する一員として社会,経済,
文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会を与えられるものとする」と規定しているが,
現実には,障害のある人々は様々な物理的又は社会的障壁のために不利益を被ることが多く,
その自立と社会参加が阻まれている状況にある。また,障害者への偏見や差別意識が生じる
背景には,障害の発生原因や症状についての理解不足がかかわっている場合もある。
障害者問題に関する国際的な動向をみると,国際連合では,1971年に「知的障害者の権利
宣言」,1975年に「障害者の権利宣言」がそれぞれ採択され,障害者の基本的人権と障害者
問題について,ノーマライゼーションの理念に基づく指針が示されたのを始めとして,1976
年の第31回総会においては,1981年(昭和56年)を国際障害者年とする決議が採択されると
ともに,その際併せて採択された「国際障害者年行動計画」が1979年に承認されている。ま
た,1983年から1992年までの10年間を「国連・障害者の十年」とする宣言が採択され,各国
に対し障害者福祉の増進が奨励されたが,「国連・障害者の十年」の終了後は,国連アジア
太平洋経済社会委員会(ESCAP)において,1993年から2002年までの10年間を「アジア
太平洋障害者の十年」とする決議が採択され,更に継続して障害者問題に取り組むこととさ
れている。
我が国においても,このような国際的な動向と合わせ,各種の取組を展開している。まず,
昭和57年3月に「障害者対策に関する長期計画」が策定されるとともに,同年4月には内閣総
理大臣を本部長とする障害者対策推進本部(平成8年1月,障害者施策推進本部に改称)が設
置され,障害者の雇用促進や社会的な施設,設備等の充実が図られることとなったが,平成
5年3月には同長期計画を改めた「障害者対策に関する新長期計画」が策定され,また,平成
7年12月には新長期計画の最終年次に合わせて,平成8年度から平成14年度までの7カ年を計
画期間とする「障害者プラン」を策定することで,長期的視点に立った障害者施策のより一
層の推進が図られている。
こうした動向等を踏まえ,以下の取組を積極的に推進することとする。
① 障害者の自立と社会参加をより一層推進し,障害者の「完全参加と平等」の目標に向け
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て「ノーマライゼーション」の理念を実現するための啓発・広報活動を推進する(障害者
の日及び週間を中心とする啓発・広報活動等)。(内閣府)
② 障害者に対する偏見や差別意識を解消し,ノーマライゼーションの理念を定着させるこ
とにより,障害者の自立と完全参加を可能とする社会の実現を目指して,人権尊重思想の
普及高揚を図るための啓発活動を充実・強化する。(法務省)
③ 障害者の自立と社会参加を目指し,盲・聾・養護学校や特殊学級等における教育の充実
を図るとともに,障害のある子どもに対する理解と認識を促進するため,小・中学校等や
地域における交流教育の実施,小・中学校の教職員等のための指導資料の作成・配布,並
びに学校教育関係者及び保護者等に対する啓発事業を推進する。さらに,各教科,道徳,
特別活動,総合的な学習の時間といった学校教育活動全体を通じて,障害者に対する理解,
社会的支援や介助・福祉の問題などの課題に関する理解を深めさせる教育を推進する。
(文部科学省)
④ 障害者の職業的自立意欲の喚起及び障害者の雇用問題に関する国民の理解を促進するた
め,障害者雇用促進月間を設定し,全国障害者雇用促進大会を開催するなど障害者雇用促
進運動を展開する。また,障害者の職業能力の向上を図るとともに,社会の理解と認識を
高めるため,身体障害者技能競技大会を開催する。(厚生労働省)
⑤ 精神障害者に対する差別,偏見の是正のため,ノーマライゼーションの理念の普及・啓
発活動を推進し,精神障害者の人権擁護のため,精神保健指定医,精神保健福祉相談員等
に対する研修を実施する。(厚生労働省)
⑥ 障害者に関しては,雇用差別,財産侵害,施設における劣悪な処遇や虐待等の問題があ
るが,そのような事案が発生した場合には,人権侵犯事件としての調査・処理や人権相談
の対応など当該事案に応じた適切な解決を図るとともに,関係者に対し障害者の人権の重
要性について正しい認識と理解を深めるための啓発活動を実施する。(法務省)
⑦ 障害者の人権問題の解決を図るため,法務局・地方法務局の常設人権相談所において人
権相談に積極的に取り組むとともに,障害者が利用しやすい人権相談体制を充実させる。
なお,相談に当たっては,関係機関と密接な連携協力を図るものとする。(法務省)
⑧ 国連総会で採択された「障害者に関する世界行動計画」の目的実現のためのプロジェク
トを積極的に支援するため,「国連障害者基金」に対して協力する。(外務省)
(5) 同和問題
同和問題は,我が国固有の重大な人権問題であり,その早期解消を図ることは国民的課題
でもある。そのため,政府は,これまで各種の取組を展開してきており,特に戦後は,3本
の特別立法に基づいて様々な施策を講じてきた。その結果,同和地区の劣悪な生活環境の改
善を始めとする物的な基盤整備は着実に成果を上げ,ハード面における一般地区との格差は
大きく改善されてきており,物的な環境の劣悪さが差別を再生産するというような状況も改
善の方向に進み,差別意識の解消に向けた教育及び啓発も様々な創意工夫の下に推進されて
きた。
これらの施策等によって,同和問題に関する国民の差別意識は「着実に解消に向けて進ん
でいる」が,「地域により程度の差はあるものの依然として根深く存在している」(平成11
年7月29日人権擁護推進審議会答申)ことから,現在でも結婚問題を中心とする差別事象が
見られるほか,教育,就職,産業等の面での問題等がある。また,同和問題に対する国民の
理解を妨げる「えせ同和行為」も依然として横行しているなど,深刻な状況にある。
地域改善対策特定事業については,平成14年3月の地対財特法の失効に伴いすべて終了し,
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今後の施策ニーズには,他の地域と同様に,地域の状況や事業の必要性に応じ所要の施策が
講じられる。したがって,今後はその中で対応が図られることとなるが,同和問題の解消を
図るための人権教育・啓発については,平成8年5月の地域改善対策協議会の意見具申の趣旨
に留意し,これまでの同和問題に関する教育・啓発活動の中で積み上げられてきた成果等を
踏まえ,同和問題を重要な人権問題の一つとしてとらえ,以下の取組を積極的に推進するこ
ととする。
① 同和問題に関する差別意識については,「同和問題の早期解決に向けた今後の方策につ
いて(平成8年7月26日閣議決定)」に基づき,人権教育・啓発の事業を推進することに
より,その解消を図っていく。(文部科学省,法務省)
② 学校,家庭及び地域社会が一体となって進学意欲と学力の向上を促進し,学校教育及び
社会教育を通じて同和問題の解決に向けた取組を推進していく。(文部科学省)
③ 同和問題に関する偏見や差別意識を解消し,同和問題の早期解決を目指して,人権尊重
思想の普及高揚を図るための啓発活動を充実・強化する。(法務省)
④ 雇用主に対して就職の機会均等を確保するための公正な採用選考システムの確立が図ら
れるよう指導・啓発を行う。(厚生労働省)
⑤ 小規模事業者の産業にかかわりの深い業種等に対して,人権尊重の理念を広く普及させ,
その理解を深めるための啓発事業を実施する。(経済産業省)
⑥ 都道府県及び全国農林漁業団体が,農林漁業を振興する上で阻害要因となっている同和
問題を始めとした広範な人権問題に関する研修会等の教育・啓発活動を,農漁協等関係
農林漁業団体の職員を対象に行う。(農林水産省)
⑦ 社会福祉施設である隣保館においては,地域改善対策協議会意見具申(平成8年5月17
日)に基づき,周辺地域を含めた地域社会全体の中で,福祉の向上や人権啓発の住民交
流の拠点となる開かれたコミュニティーセンターとして総合的な活動を行い,更なる啓
発活動を推進する。また,地域における人権教育を推進するための中核的役割を期待さ
れている社会教育施設である公民館等とも,積極的な連携を図る。(厚生労働省,文部
科学省)
⑧ 同和問題解決の阻害要因となっている「えせ同和行為」の排除に向け,啓発等の取組を
推進する。(法務省ほか関係省庁)
⑨ 同和問題に関しては,結婚や就職等における差別,差別落書き,インターネットを利用
した差別情報の掲載等の問題があるが,そのような事案が発生した場合には,人権侵犯
事件としての調査・処理や人権相談の対応など当該事案に応じた適切な解決を図るとと
もに,関係者に対し同和問題に対する正しい認識と理解を深めるための啓発活動を実施
する。(法務省)
⑩ 同和問題に係る人権問題の解決を図るため,法務局・地方法務局の常設人権相談所にお
いて人権相談に積極的に取り組むとともに,同和問題に関し人権侵害を受けたとする者
が利用しやすい人権相談体制を充実させる。なお,相談に当たっては,関係機関と密接
な連携協力を図るものとする。(法務省)
(6) アイヌの人々
アイヌの人々は,少なくとも中世末期以降の歴史の中では,当時の「和人」との関係にお
いて北海道に先住していた民族であり,現在においてもアイヌ語等を始めとする独自の文化
や伝統を有している。しかし,アイヌの人々の民族としての誇りの源泉であるその文化や伝
統は,江戸時代の松前藩による支配や,維新後の「北海道開拓」の過程における同化政策な
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どにより,今日では十分な保存,伝承が図られているとは言い難い状況にある。また,アイ
ヌの人々の経済状況や生活環境,教育水準等は,これまでの北海道ウタリ福祉対策の実施等
により着実に向上してきてはいるものの,アイヌの人々が居住する地域において,他の人々
となお格差があることが認められるほか,結婚や就職等における偏見や差別の問題がある。
このような状況の下,平成7年3月,内閣官房長官の私的諮問機関として「ウタリ対策のあ
り方に関する有識者懇談会」が設置され,法制度の在り方を含め今後のウタリ対策の在り方
について検討が進められることとなり,同懇談会から提出された報告書の趣旨を踏まえて,
平成9年5月,「アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関す
る法律」(平成9年法律第52号)が制定された。現在,同法に基づき,アイヌに関する総合
的かつ実践的な研究,アイヌ語を含むアイヌ文化の振興及びアイヌの伝統等に関する知識の
普及啓発を図るための施策が推進されている。
こうした動向等を踏まえ,国民一般がアイヌの人々の民族としての歴史,文化,伝統及び
現状に関する認識と理解を深め,アイヌの人々の人権を尊重するとの観点から,以下の取組
を積極的に推進することとする。
① アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統及びアイヌ文化に関する国民に対する知識の普及
及び啓発を図るための施策を推進する。(文部科学省,国土交通省)
② アイヌの人々に対する偏見や差別意識を解消し,その固有の文化や伝統に対する正しい
認識と理解を深め,アイヌの人々の尊厳を尊重する社会の実現を目指して,人権尊重思想
の普及高揚を図るための啓発活動を充実・強化する。(法務省)
③ 学校教育では,アイヌの人々について社会科等において取り上げられており,今後とも
引き続き基本的人権の尊重の観点に立った教育を推進するため,教職員の研修を推進する。
(文部科学省)
④ 各高等教育機関等におけるアイヌ語やアイヌ文化に関する教育研究の推進に配慮する。
(文部科学省)
⑤ 生活館において,アイヌの人々の生活の改善向上・啓発等の活動を推進する。(厚生労
働省)
⑥ アイヌの人々に関しては,結婚や就職等における差別等の問題があるが,そのような事
案が発生した場合には,人権侵犯事件としての調査・処理や人権相談の対応など当該事案
に応じた適切な解決を図るとともに,関係者に対しアイヌの人々の人権の重要性及びアイ
ヌの文化・伝統に対する正しい認識と理解を深めるための啓発活動を実施する。(法務
省)
⑦ アイヌの人々の人権問題の解決を図るため,法務局・地方法務局の常設人権相談所にお
いて人権相談に積極的に取り組むとともに,アイヌの人々が利用しやすい人権相談体制を
充実させる。なお,相談に当たっては,関係機関と密接な連携協力を図るものとする。
(法務省)
(7) 外国人
近年の国際化時代を反映して,我が国に在留する外国人は年々急増している。日本国憲法
は,権利の性質上,日本国民のみを対象としていると解されるものを除き,我が国に在留す
る外国人についても,等しく基本的人権の享有を保障しているところであり,政府は,外国
人の平等の権利と機会の保障,他国の文化・価値観の尊重,外国人との共生に向けた相互理
解の増進等に取り組んでいる。
しかし,現実には,我が国の歴史的経緯に由来する在日韓国・朝鮮人等をめぐる問題のほ
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か,外国人に対する就労差別や入居・入店拒否など様々な人権問題が発生している。その背
景には,我が国の島国という地理的条件や江戸幕府による長年にわたる鎖国の歴史等に加え,
他国の言語,宗教,習慣等への理解不足からくる外国人に対する偏見や差別意識の存在など
が挙げられる。これらの偏見や差別意識は,国際化の著しい進展や人権尊重の精神の国民へ
の定着,様々な人権教育・啓発の実施主体の努力により,外国人に対する理解が進み,着実
に改善の方向に向かっていると考えられるが,未だに一部に問題が存在している。
以上のような認識に立ち,外国人に対する偏見や差別意識を解消し,外国人の持つ文化や
多様性を受け入れ,国際的視野に立って一人一人の人権が尊重されるために,以下の取組を
積極的に推進することとする。
① 外国人に対する偏見や差別意識を解消し,外国人の持つ文化,宗教,生活習慣等におけ
る多様性に対して寛容な態度を持ち,これを尊重するなど,国際化時代にふさわしい人権
意識を育てることを目指して,人権尊重思想の普及高揚を図るための啓発活動を充実・強
化する。(法務省)
② 学校においては,国際化の著しい進展を踏まえ,各教科,道徳,特別活動,総合的な学
習の時間といった学校教育活動全体を通じて,広い視野を持ち,異文化を尊重する態度や
異なる習慣・文化を持った人々と共に生きていく態度を育成するための教育の充実を図る。
また,外国人児童生徒に対して,日本語の指導を始め,適切な支援を行っていく。(文部
科学省)
③ 外国人に関しては,就労における差別や入居・入店拒否,在日韓国・朝鮮人児童・生徒
への暴力や嫌がらせ等の問題があるが,そのような事案が発生した場合には,人権侵犯事
件としての調査・処理や人権相談の対応など当該事案に応じた適切な解決を図るとともに,
関係者に対し外国人の人権の重要性について正しい認識と理解を深めるための啓発活動を
実施する。(法務省)
④ 外国人の人権問題の解決を図るため,法務局・地方法務局の常設人権相談所において人
権相談に積極的に取り組むとともに,通訳を配置した外国人のための人権相談所を開設す
るなど,人権相談体制を充実させる。なお,相談に当たっては,関係機関と密接な連携協
力を図るものとする。(法務省)
(8) HIV感染者・ハンセン病患者等
医学的に見て不正確な知識や思いこみによる過度の危機意識の結果,感染症患者に対する
偏見や差別意識が生まれ,患者,元患者や家族に対する様々な人権問題が生じている。感染
症については,まず,治療及び予防といった医学的な対応が不可欠であることは言うまでも
ないが,それとともに,患者,元患者や家族に対する偏見や差別意識の解消など,人権に関
する配慮も欠かせないところである。
アHIV感染者等
HIV感染症は,進行性の免疫機能障害を特徴とする疾患であり,HIVによって引き
起こされる免疫不全症候群のことを特にエイズ(AIDS)と呼んでいる。エイズは,19
81年(昭和56年)にアメリカ合衆国で最初の症例が報告されて以来,その広がりは世界的
に深刻な状況にあるが,我が国においても昭和60年3月に最初の患者が発見され,国民の
身近な問題として急速にクローズアップされてきた。
エイズ患者やHIV感染者に対しては,正しい知識や理解の不足から,これまで多くの
偏見や差別意識を生んできたが,そのことが原因となって,医療現場における診療拒否や
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無断検診のほか,就職拒否や職場解雇,アパートへの入居拒否・立ち退き要求,公衆浴場
への入場拒否など,社会生活の様々な場面で人権問題となって現れている。しかし,HI
V感染症は,その感染経路が特定している上,感染力もそれほど強いものでないことから,
正しい知識に基づいて通常の日常生活を送る限り,いたずらに感染を恐れる必要はなく,
また,近時の医学的知識の蓄積と新しい治療薬の開発等によってエイズの発症を遅らせた
り,症状を緩和させたりすることが可能になってきている。
政府としては,基本的人権尊重の観点から,すべての人の生命の尊さや生存することの
大切さを広く国民に伝えるとともに,エイズ患者やHIV感染者との共存・共生に関する
理解を深める観点から,以下の取組を積極的に推進することとする。
① HIV感染症等に関する啓発資料の作成・配布,各種の広報活動,世界エイズデーの
開催等を通じて,HIV感染症等についての正しい知識の普及を図ることにより,エイ
ズ患者やHIV感染者に対する偏見や差別意識を解消し,HIV感染症及びその感染者
等への理解を深めるための啓発活動を推進する。(法務省,厚生労働省)
② 学校教育においては,エイズ教育の推進を通じて,発達段階に応じて正しい知識を身
に付けることにより,エイズ患者やHIV感染者に対する偏見や差別をなくすとともに,
そのための教材作成や教職員の研修を推進する。(文部科学省)
③ 職場におけるエイズ患者やHIV感染者に対する誤解等から生じる差別の除去等のた
めのエイズに関する正しい知識を普及する。(厚生労働省)
④ エイズ患者やHIV感染者に関しては,日常生活,職場,医療現場等における差別,
プライバシー侵害等の問題があるが,そのような事案が発生した場合には,人権侵犯事
件としての調査・処理や人権相談の対応など当該事案に応じた適切な解決を図るととも
に,関係者に対しエイズ患者やHIV感染者の人権の重要性について正しい認識と理解
を深めるための啓発活動を実施する。(法務省)
⑤ エイズ患者やHIV感染者の人権問題の解決を図るため,法務局・地方法務局の常設
人権相談所において人権相談に積極的に取り組むとともに,相談内容に関する秘密維持
を一層厳格にするなどエイズ患者やHIV感染者が利用しやすい人権相談体制を充実さ
せる。なお,相談に当たっては,関係機関と密接な連携協力を図るものとする。(法務
省)
イハンセン病患者・元患者等
ハンセン病は,らい菌による感染症であるが,らい菌に感染しただけでは発病する可能
性は極めて低く,発病した場合であっても,現在では治療方法が確立している。また,遺
伝病でないことも判明している。
したがって,ハンセン病患者を隔離する必要は全くないものであるが,従来,我が国に
おいては,発病した患者の外見上の特徴から特殊な病気として扱われ,古くから施設入所
を強制する隔離政策が採られてきた。この隔離政策は昭和28年に改正された「らい予防
法」においても引き続き維持され,さらに,昭和30年代に至ってハンセン病に対するそれ
までの認識の誤りが明白となった後も,依然として改められることはなかった。平成8年
に「らい予防法の廃止に関する法律」が施行され,ようやく強制隔離政策は終結すること
となるが,療養所入所者の多くは,これまでの長期間にわたる隔離などにより,家族や親
族などとの関係を絶たれ,また,入所者自身の高齢化等により,病気が完治した後も療養
所に残らざるを得ないなど,社会復帰が困難な状況にある。
このような状況の下,平成13年5月11日,ハンセン病患者に対する国の損害賠償責任を
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認める下級審判決が下されたが,これが大きな契機となって,ハンセン病問題の重大性が
改めて国民に明らかにされ,国によるハンセン病患者及び元患者に対する損失補償や,名
誉回復及び福祉増進等の措置が図られつつある。
政府としては,ハンセン病患者・元患者等に対する偏見や差別意識の解消に向けて,よ
り一層の強化を図っていく必要があり,以下の取組を積極的に推進することとする。
① ハンセン病に関する啓発資料の作成・配布,各種の広報活動,ハンセン病資料館の運
営等を通じて,ハンセン病についての正しい知識の普及を図ることにより,ハンセン病
に対する偏見や差別意識を解消し,ハンセン病及びその感染者への理解を深めるための
啓発活動を推進する。学校教育及び社会教育においても,啓発資料の適切な活用を図る。
(法務省,厚生労働省,文部科学省)
② ハンセン病患者・元患者等に関しては,入居拒否,日常生活における差別や嫌がらせ,
社会復帰の妨げとなる行為等の問題があるが,そのような事案が発生した場合には,人
権侵犯事件としての調査・処理や人権相談の対応など当該事案に応じた適切な解決を図
るとともに,関係者に対しハンセン病に関する正しい知識とハンセン病患者・元患者等
の人権の重要性について理解を深めるための啓発活動を実施する。(法務省)
③ ハンセン病患者・元患者等の人権問題の解決を図るため,法務局・地方法務局の常設
人権相談所において人権相談に積極的に取り組む。特に,ハンセン病療養所の入所者等
に対する人権相談を積極的に行い,入所者の気持ちを理解し,少しでも心の傷が癒され
るように努める。なお,相談に当たっては,関係機関と密接な連携協力を図るものとす
る。(法務省)
(9) 刑を終えて出所した人
刑を終えて出所した人に対しては,本人に真しな更生の意欲がある場合であっても,国民
の意識の中に根強い偏見や差別意識があり,就職に際しての差別や住居等の確保の困難など,
社会復帰を目指す人たちにとって現実は極めて厳しい状況にある。
刑を終えて出所した人が真に更生し,社会の一員として円滑な生活を営むことができるよ
うにするためには,本人の強い更生意欲とともに,家族,職場,地域社会など周囲の人々の
理解と協力が欠かせないことから,刑を終えて出所した人に対する偏見や差別意識を解消し,
その社会復帰に資するための啓発活動を今後も積極的に推進する必要がある。
(10) 犯罪被害者等
近時,我が国では,犯罪被害者やその家族の人権問題に対する社会的関心が大きな高まり
を見せており,犯罪被害者等に対する配慮と保護を図るための諸方策を講じることが課題と
なっている。
犯罪被害者等の権利の保護に関しては,平成12年に犯罪被害者等の保護を図るための刑事
手続に付随する措置に関する法律の制定,刑事訴訟法や検察審査会法,少年法の改正等一連
の法的措置によって,司法手続における改善が図られたほか,平成13年には犯罪被害者等給
付金支給法が改正されたところであり,今後,こうした制度の適正な運用が求められる。
また,犯罪被害者等をめぐる問題としては,マスメディアによる行き過ぎた犯罪の報道に
よるプライバシー侵害や名誉毀損,過剰な取材による私生活の平穏の侵害等を挙げることが
できる。犯罪被害者は,その置かれた状況から自ら被害を訴えることが困難であり,また,
裁判に訴えようとしても訴訟提起及びその追行に伴う負担が重く,泣き寝入りせざるを得な
い場合が少なくない。
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こうした動向等を踏まえ,マスメディアの自主的な取組を喚起するなど,犯罪被害者等の
人権擁護に資する啓発活動を推進する必要がある。
(11) インターネットによる人権侵害
インターネットには,電子メールのような特定人間の通信のほかに,ホームページのよう
な不特定多数の利用者に向けた情報発信,電子掲示板を利用したネットニュースのような不
特定多数の利用者間の反復的な情報の受発信等がある。いずれも発信者に匿名性があり,情
報発信が技術的・心理的に容易にできるといった面があることから,例えば,他人を誹謗中
傷する表現や差別を助長する表現等の個人や集団にとって有害な情報の掲載,少年被疑者の
実名・顔写真の掲載など,人権にかかわる問題が発生している。
憲法の保障する表現の自由に十分配慮すべきことは当然であるが,一般に許される限度を
超えて他人の人権を侵害する悪質な事案に対しては,発信者が判明する場合は,同人に対す
る啓発を通じて侵害状況の排除に努め,また,発信者を特定できない場合は,プロバイダー
に対して当該情報等の停止・削除を申し入れるなど,業界の自主規制を促すことにより個別
的な対応を図っている。
こうした動向等を踏まえ,以下の取組を積極的に推進することとする。
① 一般のインターネット利用者やプロバイダー等に対して,個人のプライバシーや名誉に
関する正しい理解を深めることが肝要であり,そのため広く国民に対して啓発活動を推
進する。(法務省)
② 学校においては,情報に関する教科において,インターネット上の誤った情報や偏った
情報をめぐる問題を含め,情報化の進展が社会にもたらす影響について知り,情報の収
集・発信における個人の責任や情報モラルについて理解させるための教育の充実を図る。
(文部科学省)
(12) その他
以上の類型に該当しない人権問題,例えば,同性愛者への差別といった性的指向に係る問
題や新たに生起する人権問題など,その他の課題についても,それぞれの問題状況に応じて,
その解決に資する施策の検討を行う。
3 人権にかかわりの深い特定の職業に従事する者に対する研修等
人権教育・啓発の推進に当たっては,人権にかかわりの深い特定の職業に従事する者に対す
る研修等の取組が不可欠である。
国連10年国内行動計画においては,人権にかかわりの深い特定の職業に従事する者として,
検察職員,矯正施設・更生保護関係職員等,入国管理関係職員,教員・社会教育関係職員,医
療関係者,福祉関係職員,海上保安官,労働行政関係職員,消防職員,警察職員,自衛官,公
務員,マスメディア関係者の13の業種に従事する者を掲げ,これらの者に対する研修等におけ
る人権教育啓発の充実に努めるものとしている。これを受けて関係各府省庁では,それぞれ所
要の取組が実施されているところであるが,このような関係各府省庁の取組は今後とも充実さ
せる方向で積極的に推進する必要がある。その際,例えば,研修プログラムや研修教材の充実
を図ることなどが望まれる。
また,議会関係者や裁判官等についても,立法府及び司法府において同様の取組があれば,
行政府としての役割を踏まえつつも,情報の提供や講師の紹介等可能な限りの協力に努めるも
のとする。
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4 総合的かつ効果的な推進体制等
(1) 実施主体の強化及び周知度の向上
人権教育・啓発を効果的に推進するためには,人権教育・啓発の実施主体の体制を質・量
の両面にわたって充実・強化していく必要がある。特に,各地域に密着した効果的な人権啓
発を行うためには,現在,全国に約14,000名配置されている人権擁護委員の活用が有効かつ
不可欠であるが,その際,適正な人材の確保・配置などにも配慮し,その基盤整備を図る必
要がある。
また,法務省の人権擁護機関を始めとする実施主体に関する国民一般の認識は,世論調査
の結果等によれば,十分とは言えない。一般に,実施主体の組織及び活動について啓発対象
者が十分な認識を持っていればいるほど,啓発効果も大きなものを期待することができるこ
とから,各実施主体は,広報用のパンフレットを作成したり,ホームページを開設するなど,
平素から積極的な広報活動に努めるべきである。
(2) 実施主体間の連携
ア既存組織の強化
人権教育・啓発の推進に関しては,現在,様々な分野で連携を図るための工夫が凝らさ
れているが,今後ともこれらを充実させていくことが望まれる。
特に,国における「人権教育・啓発に関する中央省庁連絡協議会」(平成12年9月25日,
関係府省庁の事務次官等申合せにより設置)及び地方における「人権啓発活動ネットワー
ク協議会」(人権啓発活動ネットワーク事業の一環として,法務省が平成10年度からその
構築を進めており,既に全都道府県に設置されているほか,市町村レベルについても,各
法務局,地方法務局の直轄及び課制支局管内を中心に設置が進められている)は,人権教
育・啓発一般にかかわる連携のための横断的な組織であって,人権教育・啓発の総合的か
つ効果的な推進を図る上で大きな役割を担っており,その組織力や活動の充実強化等,更
なる整備・発展を図っていくべきである。
イ新たな連携の構築
人権教育・啓発をより一層総合的かつ効果的に推進していくためには,既存組織の連携
の強化のみならず,新たな連携の構築も視野に入れる必要がある。例えば,対象者の発達
段階に応じた人権教育・啓発を円滑に実施するためには,幼稚園,小・中・高等学校など
の学校教育機関及び公民館などの社会教育機関と,法務局・地方法務局,人権擁護委員な
どの人権擁護機関との間における連携の構築が重要である。
また,女性,子ども,高齢者等の各人権課題ごとに,関係する様々な機関において,そ
の特質を踏まえた各種の取組が実施されているところであるが,これらをより総合的かつ
効果的に推進するためには,これら関係機関の一層緊密な連携を図ることが重要であり,
各人権課題・分野等に即して,より柔軟かつ幅広い連携の在り方が検討されるべきである。
さらに,人権擁護の分野においては,公益法人や民間のボランティア団体,企業等が多
種多様な活動を行っており,今後とも人権教育・啓発の実施主体として重要な一翼を担っ
ていくことが期待されるが,そのような観点からすれば,これら公益法人や民間団体,企
業等との関係においても,連携の可能性やその範囲について検討していくべきである。な
お,連携に当たっては,教育・啓発の中立性が保たれるべきであることは当然のことであ
る。
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(3) 担当者の育成
国及び地方公共団体は,研修等を通じて,人権教育・啓発の担当者の育成を図ることが重
要である。
また,日常生活の中で人権感覚を持って行動できる人材を育成するため,社会教育におい
て推進している事業で得た成果や(財)人権教育啓発推進センターなどの専門機関の豊富な
知識と経験等を活用し,人権教育・啓発の担当者の育成を図るための研修プログラムの策定
についても検討すべきである。なお,国及び地方公共団体が研修を企画・実施する場合にお
いて民間の専門機関を活用するに当たっては,教育・啓発の中立性に十分配慮する必要があ
る。
さらに,人権教育・啓発の担当者として,日頃から人権感覚を豊かにするため,自己研鑽
に努めることが大切であり主体的な取組を促していくことが重要である。
(4) 文献・資料等の整備・充実
人権に関する文献や資料等は,効果的な人権教育・啓発を実施していく上で不可欠のもの
であるから,その整備・充実に努めることが肝要である。そして,人権教育・啓発の各実施
主体等関係諸機関が保有する資料等については,その有効かつ効率的な活用を図るとの観点
から,各機関相互における利用を促進するための情報ネットワーク化を検討するほか,多く
の人々がこうした情報にアクセスしやすい環境の整備・充実に努めることが望まれる。
また,人権に関する国内外の情勢は時の経過とともに変遷するものであるから,時代の流
れを反映した文書等,国内外の新たな文献や資料等の収集・整備を図るとともに,従来必ず
しも調査研究が十分でなかった分野等に関するものについても,積極的に収集に努める必要
がある。
さらに,人権に関する各種蔵書やこれまでに地方公共団体が作成した各種の啓発冊子,ポ
スター,ビデオなどで構成されている(財)人権教育啓発推進センターの「人権ライブラリ
ー」の充実を図り,人権教育・啓発に関する文献・資料の活用に関する環境の向上に資する
ことが重要である。
(5) 内容・手法に関する調査・研究
ア既存の調査・研究の活用
企業,民間団体等が実施した人権教育・啓発の内容・手法に関する調査・研究は,斬新
な視点(例えば,ターゲットを絞って,集中的かつ綿密な分析を行うなど)からのアプロ
ーチが期待でき,その調査・研究の手法を含めた成果等を活用することにより,より効果
的な啓発が期待できる。
また,地方公共団体は,これまで様々な人権問題の啓発に取り組んできており,その啓
発手法等に関する調査・研究には多大の実績がある。これらの調査・研究の成果等は,地
域の実情,特性を踏まえた地域住民の人権意識の高揚を図る観点から取り組まれたものと
して,各地域の実情を反映した参考とすべき多くの視点が含まれている。
さらに,日本国内における人権に関する調査・研究の成果等とは別に,諸外国における
調査・研究の成果等を活用することも,次のような意味にかんがみて,十分検討に値する
ものである。
① 人権擁護に関する制度的な差異に着目して啓発手法の比較検討ができ,新たな手法創
出の参考となる。
② 調査・研究の成果等から諸外国における国民,住民の人権意識の状況等を知ることが
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でき,我が国の人権状況の把握に資する。
イ新たな調査・研究等
より効果的な啓発内容及び啓発手法に関する新たな調査・研究も必要であるが,そのた
めの条件整備の一環として,啓発内容及び啓発手法に関する開発スタッフ等の育成が重要
である。
また,民間における専門機関等には,啓発のノウハウについて豊富な知識と経験を有す
るスタッフにより,多角的な視点から効果的な啓発内容及び啓発手法を開発することを期
待することができることから,これら民間の専門機関等への開発委託を行うほか,共同開
発を推進することも望まれる。
ウその他
調査・研究及び開発された人権教育・啓発の内容・手法を実際に人権啓発フェスティバ
ル等において実践し,その啓発効果等を検証する仕組みについても検討する必要がある。
(6) (財)人権教育啓発推進センターの充実
(財)人権教育啓発推進センターには,民間団体としての特質を生かした人権教育・啓発
活動を総合的に行うナショナルセンターとしての役割が期待されている。
そこで,その役割を十分に果たすため,組織・機構の整備充実,人権課題に関する専門的
知識を有するスタッフの育成・確保など同センターの機能の充実を図るとともに,人権ライ
ブラリーの活用,人権啓発指導者養成研修のプログラムや人権教育・啓発に関する教材や資
料の作成など,同センターにおいて実施している事業のより一層の充実が必要である。
なお,(財)人権教育・啓発推進センターの充実に当たっては,民間団体としての特質を
十分生かした方策とするとともに,政府において検討が進められている公益法人に関する改
革と整合的なものとなるよう十分配慮する必要がある。
(7) マスメディアの活用等
アマスメディアの活用
人権教育・啓発の推進に当たって,教育・啓発の媒体としてマスメディアの果たす役割
は極めて大きいことから,より多くの国民に効果的に人権尊重の理念の重要性を伝えるた
めには,マスメディアの積極的な活用が不可欠である。
マスメディアには,映像,音声,文字を始め多種多様な媒体があり,各々その特性があ
ることから,媒体の選定に当たっては当該媒体の特性を十分考慮し,その効用を最大限に
活用することが重要である。
イ民間のアイディアの活用
人権教育・啓発に関するノウハウについて,民間は豊富な知識と経験を有しており,多
角的な視点から,より効果的な手法を駆使した教育・啓発の実施が期待できることから,
その積極的活用が望まれる。また,民間の活用に当たっては,委託方式も視野に入れ,よ
り効果を高めていく努力をするとともに,教育・啓発の中立性に十分配慮する必要がある。
ウ国民の積極的参加意識の醸成
人権教育・啓発を効果的に行うためには,広く国民に対して自然な形で人権問題につい
て興味を持ってもらう手法が有意義である。そのような手法の一つとして,現在でも,例
えば,人権標語,人権ポスター図案の作成等について一般国民からの募集方式を導入し,
優秀作品に対して表彰を行うとともに,優秀作品の積極的な活用に努めているところであ
るが,今後とも,創意工夫を凝らしながら,積極的に推進する必要がある。
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(8) インターネット等IT関連技術の活用
近年,情報伝達の媒体としてのインターネットは長足の進歩を遂げ,更に急速な発展を続
けている。そこで,高度情報化時代におけるインターネットの特性を活用して,広く国民に
対して,多種多様の人権関係情報(例えば,条約,法律,答申,条例,各種啓発資料(冊子,
リーフレット,ポスター,ビデオ等))を提供するとともに,基本的人権の尊重の理念を普
及高揚させるための人権啓発活動(例えば,世界人権宣言の内容紹介,各種人権問題の現況
及びそれらに対する取組の実態の紹介,その他人権週間行事など各種イベントの紹介等)を
推進する。
また,人権教育・啓発に関する情報に対して,多くの人々が容易に接し,活用することが
できるよう,人権教育・啓発の実施主体によるホームページの開設,掲載内容の充実,リン
ク集の開発,情報端末の効果的な利用なども望まれる。
第5章計画の推進
1 推進体制
政府は,人権教育・啓発の総合的かつ計画的な推進を図るため,法務省及び文部科学省を中
心とする関係各府省庁の緊密な連携の下に本基本計画を推進する。その具体的な推進に当たっ
ては,「人権教育・啓発中央省庁連絡協議会」を始めとする各種の連携のための場を有効に活
用するものとする。
関係各府省庁は,本基本計画の趣旨を十分に踏まえて,その所掌に属する施策に関する実施
体制の整備・充実を図るなど,その着実かつ効果的な実施を図る。
2 地方公共団体等との連携・協力
人権教育・啓発の推進については,地方公共団体や公益法人,民間団体,企業等の果たす役
割が極めて大きい。これらの団体等が,それぞれの分野及び立場において,必要に応じて有機
的な連携を保ちながら,本基本計画の趣旨に沿った自主的な取組を展開することを期待すると
ともに,本基本計画の実施に当たっては,これらの団体等の取組や意見にも配慮する必要があ
る。
また,地方公共団体に対する財政支援については,「国は,人権教育及び人権啓発に関する
施策を実施する地方公共団体に対し,当該施策に係る事業の委託その他の方法により,財政上
の措置を講ずることができる。」(人権教育・啓発推進法第9条)との趣旨を踏まえ,適切に
対応していく。
さらに,国際的な潮流を十分に踏まえ,人権の分野における国際的取組に積極的な役割を果
たすよう努めるものとする。
3 計画のフォロ-アップ及び見直し
人権教育・啓発に関する国会への年次報告書(白書)の作成・公表等を通じて,前年度の人
権教育・啓発に関する施策の実施状況を点検し,その結果を以後の施策に適正に反映させるな
ど,基本計画のフォロ-アップに努めるものとする。
また,我が国の人権をめぐる諸状況や人権教育・啓発の現状及び国民の意識等について把握
するよう努めるとともに,国内の社会経済情勢の変化や国際的潮流の動向等に適切に対応する
ため,必要に応じて本基本計画の見直しを行う。
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福岡県人権施策推進懇話会設置要綱
(設置)
第1条一人ひとりの人権が尊重される社会を実現するために、県が取り組むべき人権施
策の基本的方向や施策の在り方等について広く意見を求めるため、福岡県人権施策推進
懇話会(以下「懇話会」という。)を設置する。
(所掌事務)
第2条懇話会は、次に掲げる事項について検討し、必要な意見陳述又は提言を行う。
(1) 人権施策の基本的な方向や施策の在り方に関すること。
(2) その他人権施策推進に関すること。
(組織)
第3条懇話会は、委員20人以内で組織する。
(委員の任命)
第4条委員は、人権問題に関して優れた識見を有する者のうちから、知事が委嘱する。
(委員の任期)
第5条委員の任期は、1年とする。ただし、補欠の委員の任期は、前任者の残任期間と
する。
2 委員は、再任されることができる。
(会長及び副会長)
第6条懇話会には会長及び副会長を置き、委員の互選により選任する。
2 会長は、懇話会の会議を主宰する。
3 副会長は、会長を補佐し、会長に事故あるときは、その職務を代行する。
(会議)
第7条懇話会は、必要に応じ、会長が招集し、その議長となる。
2 会長は、必要があると認めるときは、懇話会に委員以外の者の出席を求めることが
できる。
(専門部会)
第8条懇話会に、専門の事項を審議させるため必要があるときは、専門部会を置くこと
ができる。
(庶務)
第9条懇話会の庶務は、保健福祉部人権・同和対策局調整課において処理する。
(その他)
第10条この要綱に定めるもののほか、懇話会の運営について必要な事項は会長が別に
定める。
附則
この要綱は、平成14年7月31日から施行する。
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福岡県人権施策推進懇話会委員名簿
氏名現職名
◎ 稲積謙次郎㈱西広顧問
いなづみけんじろう
○ 加藤達夫福岡県人権擁護委員連合会会長
かとうたつお
(弁護士)
井上理代子福岡県公立小中学校長人権・同和教育研究会会長
いのうえりよこ
(甘木市立甘木小学校校長)
植田美佐恵久留米大学教授
うえだみさえ
鬼崎信好福岡県立大学教授
きざきのぶよし
清原正英福岡県PTA連合会会長
きよはらまさひで
スーザン・丸山久留米国際交流協会外国人の声を市政に生かす会議会長
まるやま
三角祐福岡県企業同和問題推進連絡会会長
みすみゆう
(福岡銀行人事総務部長)
村本洵子筑紫女学園短期大学助教授
むらもとじゅんこ
矢永由里子国立病院九州医療センターカウンセラー
やながゆりこ
山本政弘国立病院九州医療センター感染症対策室長内科医長
やまもとまさひろ
横山正治福岡県公立高等学校長協会人権・同和教育委員会委員長
よこやままさじ
(福岡県立稲築志耕館高等学校校長)
◎会長、○副会長
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福岡県人権教育・啓発施策策定会議設置要綱
(設置)
第1 条人権教育及び人権啓発に関し、緊密な連絡調整を行い、もって総
合的かつ効果的な施策を策定するため、「福岡県人権教育・啓発施策策
定会議」( 以下「策定会議」という。) を設置する。
( 所掌事務)
第2 条策定会議は、次に掲げる事務を所掌する。
(1) 人権施策の総合的な調整・企画に関すること。
(2) 人権施策の策定・推進に関すること。
(3) その他人権施策推進に係る重要事項に関すること。
(構成)
第3 条策定会議は、議長及び委員をもって組織する。
2 議長は、副知事とする。
3 委員は、別表第1 の職に掲げる者をもって充てる。
(会議)
第4 条策定会議は、議長が招集し、主宰する。
2 議長に事故があるときは、議長があらかじめ指定する委員がその職務
を代理する。
( 幹事会)
第5 条策定会議の円滑な運営を図るため、幹事会を置く。
2 幹事会は、幹事長及び幹事をもって組織する。
3 幹事長は、人権・同和対策局調整課長とする。
4 幹事は、別表第2 の職に掲げる者をもって充てる。
5 幹事会の会議は、幹事長が招集し、主宰する。
6 幹事長に事故があるときは、幹事長があらかじめ指定する幹事がその
職務を代理する。
( 検討部会)
第6 条策定会議の審議事項のうち、専門的事項の検討及び調整を行うた
め検討部会を設置する。
2 検討部会の設置及び運営に関しては、幹事長が別に定める。
(庶務)
第7 条策定会議の庶務は、保健福祉部人権・同和対策局調整課において
処理する。
(補則)
第8 条前各条に定めるもののほか、策定会議の運営について必要な事項
は議長が別に定める。
附則
この要綱は、平成1 4 年8 月1 2 日から施行する。
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(別表第1)
福岡県人権教育・啓発施策策定会議
議長副知事委員総務部長
〃企画振興部長
〃保健福祉部長
〃環境部長
〃生活労働部長
〃商工部長
〃農政部長
〃水産林務部長
〃土木部長
〃建築都市部長
〃企業管理者
〃教育長
〃警察本部総務部長
〃人権・同和対策局長
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(別表第2)
福岡県人権教育・啓発施策策定会議幹事会
所属幹事
総務部行政経営企画課長
企画振興部企画調整課長
保健福祉部保健福祉課長
人権・同和対策局調整課長
環境部環境政策課長
生活労働部生活文化課長
商工部商工政策課長
農政部農政課長
水産林務部林政課長
土木部土木管理課長
建築都市部建築都市管理課長
企業局管理課長
教育庁総務課長
警察本部総務課長

福岡県行政資料
分類記号所属コード
HH 1720105
登録年度登録番号
15 1