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地方公共団体関係資料

長野県人権教育・啓発推進指針
情報の種類 地方公共団体関係資料
タイトル 長野県人権教育・啓発推進指針
時期 2003/04/01
主体名 長野県
【 内容 】

長野県人権教育・啓発推進指針


はじめに

 わが国では日本国憲法に基づいて、これまで人権に関する諸制度の整備や条約への
加入など、人権に関する様々な施策が講じられてきました。しかしながら、今日なお、
性別、障害、社会的身分、家柄、人種、信条などを理由とした様々な人権侵害が発生
しています。また、国際化、情報化、高齢化、少子化など社会の急激な変化に伴い、
新たな人権問題も生まれています。
 「人権の世紀」を目指している21世紀において、互いの人権を尊重し、健やかに
生活するためには、一人一人が自ら人権尊重の精神を涵養することが不可欠であり、
その契機と機会を与える人権教育・啓発は重要だといえます。
 県では、人権が尊重される差別のない明るい長野県づくりを目指して、平成11年
(1999 年)に「人権教育のための国連10年長野県行動計画(以下「県行動計画」とい
う。)」を策定し、様々な施策を実施してまいりました。これを一層推進するため、人
権教育及び人権啓発の推進に関する法律(平成12年法律第147号。以下「人権教
育・啓発推進法」という。)第5条の規定に基づき、同法第3条に規定する基本理念
を踏まえ、県が今後実施する人権教育・啓発の方針としてこの推進指針を策定します。


第1 基本目標
 この推進指針の基本目標は、「県民一人一人が人権問題を自分自身の課題とし
てとらえ、互いの人権を尊重する意識や態度を身につけ、日常生活の中で人権尊
重を当たり前のこととして行動することにより差別のない明るい社会を実現す
る」ことです。
 人権とは、生命、自由、平等、幸福追求などについて、すべての人間がその尊
厳に基づいて持っている、侵すことのできない固有の権利です。
 人権が尊重されるためには、権利についての理解を深めるとともに、権利の行
使に伴う責任を自覚し、互いの人権を認め合いながら生活すること、つまり、人
権が共存する社会づくりを進めることが重要です。
 言い換えれば、一人一人がかけがえのない存在として尊重され、性別や年齢、
障害、家柄などによって差別されず、それぞれの個性や能力を十分に発揮できる
よう、機会の均等が保障される社会づくりを推進する必要があります。
 また、高齢者、障害者、母子(父子)家庭などが地域社会の中で主体的に生活
するために、必要な社会的支援などの環境が整った社会の実現を目指します。
 さらに、一人一人の人格や個性、特に急速に増加した外国籍県民の文化や習慣
を理解し、互いの違いを尊重し合う共に生きる社会の実現を目指します。


第2 人権をめぐる県内外の動向

1 県内の取組
 「人権教育のための国連10年」について、県は平成9年(1997 年)10月に知
事を本部長とする長野県人権教育のための国連10年推進本部を設置し、平成
10年(1998 年)5月から「県行動計画」を策定するための行動計画策定委員会を
設置するとともに、人権課題に関係する団体からの意見聴取及び県民アンケー
ト調査を行い、平成11年(1999 年)3月に「県行動計画」を策定しました。
 「県行動計画」は「人権を尊重し差別のない明るい長野県づくり」を目標とし、
平成16年(2004 年)を目標年次としています。
 また、平成12年(2000 年)2月に平成12年度から平成16年度までの5か年
を対象とする「第二次長野県中期総合計画」を策定し、「人権が尊重される差別
のない社会づくり」のための施策を推進しています。
 市町村では、平成9年(1997 年)に「人権教育のための国連10年推進本部」を
設置後、平成15年(2003 年)1月までに111市町村が人権施策推進本部を設置
し、47市町村がそれぞれの「計画」を策定しています。また、119市町村で
差別撤廃や人権尊重など人権に関する条例が制定されています。

2 国内の取組
 昭和22年(1947 年)、わが国は「基本的人権の尊重」を基本理念に掲げた日本
国憲法を施行しました。
 その後、国際的潮流を受けて、「国際人権規約」をはじめ「女子に対するあら
ゆる形態の差別の撤廃に関する条約」、「児童の権利に関する条約」、「あらゆる
形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」などの人権関係条約を締結しました。
「人権教育のための国連10年」については平成7年(1995 年)12月に人権教
育のための国連10年推進本部を設置し、総合的に検討した結果、平成9年(1997
年)7月、「人権教育のための国連10年国内行動計画」を策定しました。
 また、平成8年(1996 年)5月、地域改善対策協議会(総務庁設置)は、内閣総
理大臣及び関係大臣への「同和問題の早期解決に向けた今後の方策の基本的なあ
り方について(意見具申)」において、今後の対策として「差別意識の解消に向
けた教育及び啓発の推進」と「人権侵害による被害の救済等の対応の充実強化」
を求め、これまでの同和教育・啓発から人権教育・啓発としての再構築へと方向
づけています。
 この意見具申を受けて、平成9年(1997 年)3月には「人権擁護施策推進法」が
施行され、平成12年(2000 年)12月には人権教育・啓発を総合的に推進するた
め人権教育・啓発に関する理念や国、地方公共団体、国民の責務を明らかにする
とともに、基本計画の策定など所要の措置を規定する「人権教育・啓発推進法」
が公布・施行されました。


第3 人権教育・啓発の現状

1 人権教育
 人権教育は、人権教育・啓発推進法によると「人権尊重の精神の涵養を目的と
する教育活動」(第2条)であり、「国民が、その発達段階に応じ、人権尊重の理
念に対する理解を深め、これを体得することができるよう」(第3条)にするこ
ととしています。
 長野県の人権教育は、これまで同和問題を中心に、学校、地域、家庭、企業・
職場で取り組まれるようになり、県民の人権意識の高揚や「共に生きる心」の広
がりなど、人権尊重の社会づくりに一定の成果を上げてきました。
しかし、私たちの身の回りには、いまだに様々な偏見や人権侵害が残っている
だけでなく、国際化、情報化、高齢化、少子化などの進展に伴い、生命・身体の
安全にかかわる児童虐待や配偶者などからの暴力など、新たな人権問題も生じて
きています。
こうした状況を背景に、学校教育においては、様々な教育活動を通して児童生
徒一人一人の人権尊重の精神を涵養し、あらゆる人権問題を解決する意欲と実践
力を身につけた人間を育てることを目標として実施されています。
その際、幼・保、小、中、高、盲・ろう・養護学校相互の連携と一貫した人権
教育を念頭に、児童生徒などの発達段階を考慮し、様々な人権問題を取り上げ、
学校や地域の実態に応じた多様な学習が行われています。
また、学校教育全体を通じて人権尊重の精神を涵養していくためには、あらゆ
る教育活動にわたって日常的な取組が必要であり、各学校では組織的な推進体制
の上に、体系的な指導計画や指導内容を作成して取り組んでいます。
学校における人権教育は知的理解だけではなく、人権感覚の育成、人権問題を
自らの課題としてとらえ解決する意欲や実践力の育成という面で、指導内容の充
実や指導方法の工夫が一層求められています。また、その基盤として児童生徒が
生き生きと学べる学校、学級づくりが重要です。さらに、教職員自らが豊かな人
権感覚を持ち、生命の尊厳を重んじ、人権尊重の理念に基づいた人権教育を実践
する力量を高めることが求められています。
社会教育においては、学校、地域、家庭、企業・職場が一体となり、住民が主
体となった地域ぐるみの人権教育の推進を目指し、学習内容や手法を創意工夫し、
住民の積極的な参加・参画の学習を進めてきました。また、住民とともに活動す
るリーダーの育成と資質の向上を図る研修会を実施し、地域の実態を考慮しなが
ら、様々な機会と場を活用した日常的な取組を進めています。
しかし、こうした取組によって人権意識が高まりつつあるものの、人権尊重の
精神を涵養し、日常生活の中で実践に結びつくような取組が一層必要であり、こ
のために、今後、人権問題の学習は講義形式にとどまらず、住民が学習に主体的、
能動的に参加し、具体的な行動や実践の方法までを学ぶ取組が重要になります。

2 人権啓発
 人権啓発は、人権教育・啓発推進法によると「国民の間に人権尊重の理念を普
及させ、及びそれに対する国民の理解を深めることを目的とする広報その他の啓
発活動(人権教育を除く。)」(第2条)であり、さらに「国民が、その発達段階
に応じ、人権尊重の理念に対する理解を深め、これを体得することができるよう」
 (第3条)にするとされています。すなわち、県民一人一人が人権尊重の重要性
を認識し、自分以外の人の人権をも大切にした行動がとれるようにすることです。
長野県の人権啓発は、女性、子ども、高齢者、障害者、同和問題、外国籍県民
に関する問題など、それぞれの人権課題ごとに講演会やシンポジウムなどのイベ
ント開催、また、テレビや新聞、リーフレットやポスターによる啓発などを実施
してきました。
 その結果「人権の尊重」という社会の大きな潮流とも相まって、人権尊重の意
識の高揚に一定の成果が見られました。
 今後の人権啓発は、一人一人が人権の意義やその重要性を正しく理解し、日常
生活の中で、人権上問題のある出来事に直面したときにそれを指摘し、人権尊重
の行動がとれる実践力が身につくよう、より効果的に推進することが必要です。


第4 人権教育・啓発の基本方向

 人権尊重の社会を築くに当たっては、一人一人の自尊感情※1を育て、人権感覚
を磨き合うことで、権利と責任の自覚、互いの人権の尊重といった「共に生きる
心」を醸成していくことが重要です。
 また、女性、子ども、高齢者、障害者、同和問題及び外国籍県民などにかかわ
る人権上の課題、さらに、児童虐待や配偶者などからの暴力の問題、犯罪被害者
とその家族の人権問題、インターネットによる人権侵害、性的指向※2に係る問題
などの人権問題に対しても、理解と認識を一層深める必要があります。
 このような身の回りにある人権問題の現実に学び、その痛みに共感し、自らの
課題として解決していく意欲や実践力を高めることが求められています。
 県では、互いの人権が尊重される長野県を実現するため、この推進指針に基づ
き、県政のあらゆる分野で人権の尊重を基調においた施策を推進します。
 そのため、人権教育・啓発の推進に当たって、以下に重点を置いて総合的に展
開します。

(1) いつでも、どこでも、誰もが
 県民が、学校、家庭・地域、企業・職場など様々な場を通じて、人権尊重の
理念に対する理解を深め、体得することができるよう、それぞれの主体性と相
互の連携に留意するとともに、生涯学習という視点から人権教育・啓発を推進
します。
① 学校については、人権感覚と「共に生きる心」を育みながら、関係機関と
の連携を深め、開かれた学校づくりを進めるとともに、人権が尊重される集
団づくりや学習環境の整備を進めます。
また、幼児期や低学年期から発達段階に即し、家庭や地域との連携を図る
など、学校の実態に応じた多様な学習内容や学習形態を取り入れます。
② 家庭や地域には、互いの人権を尊重する意識や他人に対する思いやりの心
を育む役割があります。
子育て支援など家庭教育に対する支援を充実するほか、公民館活動による
学習機会の提供など市町村の社会教育・啓発事業を支援します。
さらに、地域の高齢者、障害者、外国籍県民など様々な人々が共生する社
会や、ボランティア、NPO※3活動といった住民参加・参画を推進します。

※1 自尊感情とは
self esteem の訳語。自分を大切にし、自分が好きになり、自分に自信を持つ
心。自己肯定感情のこと
※2 性的指向とは
sexual orientation の訳語。異性愛、同性愛、両性愛の別を指す
※3 NPO(エヌピーオー)とは
Non Profit Organization の略で、民間非営利組織という意味。営利を目的
としない民間団体の総称

③ 企業については、人権尊重の意識の高い職場づくりが進むよう、各種業界
団体や経営者などに対する啓発を行い、企業の自主的な取組を支援します。
経営者に対して、就職希望者の多様な立場を充分理解し、基本的人権を尊
重した公正な選考採用が実施され、就職の機会均等が図られるよう、長野労
働局・ハローワークと連携して周知・啓発を行います。また、障害者、高齢
者などのうち就職の困難な方の雇用を促進するための啓発を推進します。
④ 長野県人権啓発活動ネットワーク協議会※1との連携を促進し啓発活動を
実施するほか、市町村、NPOなどが行う啓発活動を支援します。

(2) 人権にかかわりの深い職業に従事する人などに対する研修
 人権にかかわりの深い職業に従事する人などに対して、研修を積極的に行う
必要があります。行政職員、教職員、警察職員、医療・保健・福祉関係職員な
どについては、従来から研修機関での研修や職場内研修など様々な形態で取り
組んできましたが、人権尊重の理念を理解し、その意識が行動に現れるような
研修の充実が一層求められています。
 とりわけ、公務員は一人一人が人権行政の担い手であることを積極的に意識
して、人権尊重の理念に基づき日常の職務を行えるよう研修の充実を図ります。
① 教職員については、職種、経験年数など実情に即して、人権問題の現実
に学び展望のある人権教育を進める研修の充実を図ります。
② 医療・保健・福祉関係者を養成する学校や養成施設のほか、医療機関、
社会福祉施設その他の関係団体などに対して、人権に関する教育・研修の
充実を要請します。
③ マスメディア関係者は、人権尊重の視点に立った紙面作り、番組作りが
強く求められることから、職場における自主的で、積極的な研修などの取
組を要請します。
④ 企業の経営者や人事管理を行う者に対して、ノーマライゼーション※2の
理念に基づいた職場になるよう、企業内研修の充実を要請します。
⑤ 社会教育・啓発について、地域住民とともに活動するリーダーの育成と
資質の向上を図るとともに、地域、市町村での学校教育との連携による研
修会の充実、企業・職場での研修の充実を要請します。

※1 長野県人権啓発活動ネットワーク協議会とは
地方法務局、県、人権擁護委員連合会などでネットワークを整備し、総合的・
効果的な啓発活動を行う組織
※2 ノーマライゼーションとは
障害の有無等にかかわらず、すべての人が家庭や地域で通常の生活ができる
社会をつくるという理念

(3) 多様な手法、研修内容などの工夫
① テレビ、ラジオ、新聞などの広報メディアを活用した教育・啓発や人権フ
ェスティバルなどのイベント、啓発ビデオの貸出など多様な機会の提供、ワ
ークショップ※1を取り入れるなど工夫した効果的な手法による人権教育・啓
発を推進します。
② 県民誰もが生涯を通じて主体的に学ぶことができるよう、あらゆる人権問
題を視野に入れ、県民のニーズに応じた研修内容・方法を創意工夫するとと
もに、参加者が主体的に学べる手法や、実践につながるわかりやすい教材・
資料を研究・開発します。
(4) 相談・支援・救済の充実
県民が人権に関する様々な問題を身近で相談できるよう、総合的な相談窓口
の設置の研究や専門的な相談機関相互の連携、相談員の資質の向上を図ります。
現に人権侵害を受けている人や受けるおそれのある人に対し、問題の早期解
決が図られるよう、支援策の充実を検討します。
 特に、隣保館※2は地域社会全体の中で福祉の向上や人権啓発の住民交流の
拠点となる開かれたコミュニティーセンターとなるよう支援します。
 また、県人権啓発センターでは、人権問題に対する理解を深めるための情報
提供などを行っていますが、こうした事業を一層充実します。

※1 ワークショップとは
参加者や学習推進者が、共に自らの知識や体験をもって積極的に学びあう体験的参加
型学習のこと。
※2 隣保館とは
社会福祉法に規定する、地域社会全体の中で生活上の各種相談事業や人権課題の解決
のための各種事業を行う施設。市町村が設置・運営しており、県内に24館ある。


第5 施策の推進方策
 長野県の人権施策の推進に当たっては、この推進指針に基づき「県行動計画」、
「長野県障害者プラン」、「長野県男女共同参画計画」など人権課題にかかわる各
種の計画により、総合的かつ効果的な推進に向け県を挙げて取り組みます。
 また、一人一人の人権が尊重される地域社会を実現するためには、住民、
NPO、企業などが互いに連携を図り、あらゆる分野で幅広く取り組む必要があ
ります。国、市町村、住民、NPO、企業、マスメディアなどと必要に応じて
パートナーシップを確立し、広く人権を支える取組を進めます。
 これら地域社会を構成する皆さんには、それぞれの地域、分野、立場で、有機
的な連携を保ちつつ、この推進指針に沿った自主的、積極的な取組を強く要請し
ます。