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人権教育・啓発に関する愛知県行動計画
情報の種類 地方公共団体関係資料
タイトル 人権教育・啓発に関する愛知県行動計画
時期 2001/03/01
主体名 愛知県
関連URL http://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/021400/keihatusiryou/keihatusiryouichiran.html
【 内容 】

人権教育・啓発に関する愛知県行動計画


基本的な考え方

1 人権問題への取組
基本的人権の尊重は、日本国憲法の最も重要な理念の一つであり、いつの時代においても最大限尊重されなければならないものです。しかしながら、近年においても、社会構造の複雑化、価値観の多様化の中で、様々な人権侵害が生起しており、新しい時代にふさわしい人権感覚を磨いていくことが大変重要となっています。
また、21世紀は「人権の世紀」と言われています。人権の尊重は人類共通の普遍的理念であって、人間の自由と平等に関する基本的な問題として取り組んでいかなければなりません。すべての人々の人権が平等に尊重され、擁護されることこそ、平和で幸福な社会をつくる礎となります。そして、人権が尊重され、差別や偏見のない社会をつくり、真に21世紀を「人権の世紀」とするためには、人権教育・啓発の重要性を認識し、積極的に取り組んでいく必要があります。
本県では、人権が一層尊重される社会を実現するため、この行動計画に基づき各部局が連携して人権教育・啓発を進めてまいります。
(1) 人権教育・啓発に関する行動計画策定の趣旨
人権に関する問題は、女性、子ども、高齢者、障害者、同和問題、外国人、HIV感染者など多岐の分野にわたり、また、その背景や経緯は個々の分野により異なります。
このような多様な人権問題を解決・解消していくためには、人権全般が尊重され、差別や偏見のない地域社会づくりを進めていくことが必要です。
この行動計画は、こうした地域社会の実現に向けて、家庭、学校、地域、職場などあらゆる場において人権教育・啓発を推進し、また、人権に関する重要課題に取り組むため、本県の人権教育・啓発の指針的な計画として策定しました。

(2) 基本目標
 人権が尊重され、差別や偏見のない郷土愛知の実現を目指して、人権教育・啓発を推進するとともに、人権に関する重要課題に取り組みます。

2 背景と経緯
人権問題への取組は、これまで国際的にも様々な形でなされてきたにもかかわらず、世界各地では人種差別や地域紛争に伴う顕著な人権侵害、難民の発生など、依然として人権に関する深刻な問題があります。日本においても、子どものいじめ、女性・高齢者・障害者・同和地区出身者・外国人・HIV感染者等への差別など様々な問題が、今なお存在しています。

(1) 国際的動向
昭和23年(1948年)に、国際連合(以下「国連」という。)において「世界人権宣言」が採択されました。その前文の中で、「人類社会のすべての構成員の固有の尊厳と平等で譲ることのできない権利とを承認することは、世界における自由、正義及び平和の基礎である…」としています。また、その第1条において、「すべての人間は、生れながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である。」と宣言しています。これ以降、「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(社会権規約、A規約)」、「市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約、B規約)」(以下、両者合わせて「国際人権規約」という。)や「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約(女子差別撤廃条約)」、「児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)」、「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する条約(人種差別撤廃条約)」など多くの人権に関する条約が採択されるとともに、「国際婦人年」、「国際障害者年」、「国際高齢者年」など重要なテーマごとに国際年が定められ、人権が尊重される世界の実現を目指した取組が進められてきました。
このような国連としての人権に対する取組はさらに強化され、平成6年(1994年)に、人権問題を総合的に調整する役割を担う国連人権高等弁務官が創設されたほか、平成6年(1994年)12 月に開催された第49回国連総会においては、平成7年(1995年)から平成16年(2004年)までの10年間を「人権教育のための国連10年」とする決議とその行動計画が採択されました。この決議・行動計画では、人権の擁護・促進のためには、人権とは何かということを各人が理解し、人権尊重の意識を高め、人権が尊重された社会を創造していくことが重要であるとしています。人権教育は、国際社会が協力して進めるべき基本的課題であると位置付け、各国に対して人権教育・啓発に係る取組を強化するよう強く求めていました。
そして、その成果等は「人権教育のための国連10年」の最終年にあたる平成16年(2004年)12月、第59回国連総会において採択された「人権教育のための世界計画」に承継され、平成17年(2005年)1月1日から新たな計画としてスタートしています。

(2) 国の動向
我が国は、すべての人の人権が尊重され、あらゆる差別の解消を目指す国際社会の一員として、これまでにも国際人権規約を始め人権に関する多くの条約を締結してきました。
また、平成6年(1994年)の「人権教育のための国連10年」の決議を受け、平成7年(1995年)12月には内閣総理大臣を本部長とする「人権教育のための国連10年推進本部」が設置され、平成9年(1997年)7月に「『人権教育のための国連10年』に関する国内行動計画」が策定されました。この国内行動計画は、「憲法の定める基本的人権の尊重の原則及び世界人権宣言などの人権関係国際文書の趣旨に基づき、人権の概念及び価値が広く理解され、我が国において人権という普遍的文化を構築することを目的に、あらゆる場を通じて訓練・研修、広報、情報提供努力を積極的に行うこと」を目標としています。
また、我が国固有の人権問題である同和問題の早期解決に向けた方策の基本的な在り方について検討した国の地域改善対策協議会は、平成8年(1996年)5月の意見具申において、差別意識の解消を図るにあたっては、これまでの同和教育や啓発活動の中で積み上げられてきた成果とこれまでの手法への評価を踏まえ、すべての人の基本的人権を尊重していくための人権教育・啓発として発展的に再構築すべきであると提言しました。
こうした情勢の下に、平成9年(1997年)3月に「人権擁護施策推進法」が施行され、同法に基づいて人権擁護推進審議会が設置されました。この審議会では、「人権尊重の理念に関する国民相互の理解を深めるための教育及び啓発に関する施策の総合的な推進に関する基本的事項」及び「人権が侵害された場合における被害者の救済に関する施策の充実に関する基本的事項」の二点について審議されることとなり、前者については平成11年(1999年)7月29日に答申が出されました。この答申において、都道府県においても、人権教育・啓発の実施主体として積極的な役割を果たすことが求められています。
さらに、平成12年(2000年)12月には、「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」が施行されました。この法律は、人権の尊重の緊要性に関する認識の高まり、社会的身分、門地、人種、信条又は性別による不当な差別の発生等の人権侵害の現状その他人権の擁護に関する内外の情勢にかんがみ、人権教育・啓発に関する施策の推進について、国、地方公共団体及び国民の責務を明らかにするとともに、必要な施策の措置を定め、もって人権の擁護に資することを目的としており、基本理念として、国及び地方公共団体が行う人権教育・啓発は、学校、地域、家庭、職域その他の様々な場を通じて、国民が、その発達段階に応じ、人権尊重の理念に対する理解を深め、これを体得することができるよう、多様な機会の提供、効果的な手法の採用、国民の自主性の尊重及び実施機関の中立性の確保を旨として行わなければならないことを掲げています。国は、この基本理念にのっとり、人権教育・啓発に関する施策を策定し、及び実施する責務を有し、地方公共団体も国との連携を図りつつ、地域の実情を踏まえ、人権教育・啓発に関する施策を策定し、及び実施する責務を有するとされています。また、国は、人権教育・啓発に関する基本的な計画を策定しなくてはならないとされており、これに基づいて、平成14年3月に「人権教育・啓発に関する基本計画」が策定され、施策の総合的かつ計画的な推進が図られることとなりました。さらにこの法律では、政府は毎年国会に、政府が講じた人権教育・啓発に関する施策についての報告を提出しなければならないとされており、これに基づき、平成13年度以降毎年、当該年度に実施された人権教育・啓発に関する施策についての年次報告が国会に提出されています。(この法律において、「人権教育」とは、「人権尊重の精神の涵養を目的とする教育活動」とされ、「人権啓発」とは、「国民の間に人権尊重の理念を普及させ、及びそれに対する国民の理解を深めることを目的とする広報その他の啓発活動(人権教育を除く。)」とされています。この行動計画においても、この定義を踏襲します。)

(3) 本県の現状と取組
「人権尊重の愛知県を目指して」の宣言

平成7年(1995年)12月県議会において、「あらゆる差別の撤廃に関する請願」が採択されました。これを受け、県では、人権問題の解消のためには、行政を始め県民一人ひとりが人権について正しい認識を持ち、粘り強く努力していくことが必要であるとの認識から、平成9 年(1997年)12 月5日に、「人権尊重の愛知県を目指して」の宣言を、自治体として全国に先駆けて行いました。平成9年(1997年)は憲法・地方自治法の施行50周年の節目の年でもあったため、これを機会に改めて人権の大切さを考え、人権が尊重される郷土愛知の実現を目指して県民と共になお一層の努力をしていく、ということを宣言したものです。
また、人権に係る諸問題については、その背景や実情も様々であることから、女性、子ども、高齢者、障害者、同和問題、外国人、HIV感染者など、それぞれの分野ごとに個々に取り組んでいましたが、上記に述べたような国連の取組、国の取組、特に人権擁護推進審議会による人権教育・啓発に関する基本的事項についての答申などに呼応する形で、人権に関する施策の総合的・効果的な推進を図るため、平成11年(1999年)10月に「愛知県人権施策推進本部」(本部長:知事)を設置しました。

3 人権教育・啓発の推進にあたっての基本的な考え方
(1) 個人の尊厳の確保と共生の社会
人権問題については、差別のない社会をつくっていくだけでは十分でなく、個人個人が自立した人間として尊厳が保たれなければなりません。平等、平和な社会において個人が自由であり、かつ個性と能力が十分発揮できることが必要です。
私たちは、社会において多くの人々とのつながりの中で相互依存しながら生きています。しかし、同じ人間であっても、国籍、文化、習慣、性別、世代、考え方など様々な違いがあります。そうした違いを認め合った上で、多様な価値観を受け入れ、お互いの人権を尊重し、「共生」する社会をつくっていかなければなりません。

(2) 多種多様な取組
人権問題は、多種多様なものです。したがって、人権教育・啓発は、幼児から高齢者に至るあらゆる年齢層、職業を対象とし、幼稚園、学校、公民館などの生涯学習施設、マスメディア、企業、民間団体など、いろいろな場で様々な形で行う必要があります。
また、行政のかかわりについても、行政が直接行うものや、NPO(民間非営利組織)等民間団体などと連携したり、その活動を支援するものなど様々な形態で行う必要があります。
人権教育・啓発は、県民一人一人の心の在り方に密接にかかわってくることに留意する必要がありますが、対象者が人権の意義やその重要性、さらには人権問題を直感的に捉える感性や日常生活において人権への配慮がその態度や行動に現れるような人権感覚を身に付けることができるよう、柔軟で多面的な取組を進めていきます。

(3) 少数者、少数意見の配慮
社会の中では、様々な人々がそれぞれ独自な生き方をしています。人権は、社会的な問題ですが、個人の問題に帰結するものであり、いわゆるマイノリティと言われる少数者を尊重し、少数意見などにも十分な配慮をしていかなければなりません。

4 人権教育・啓発の推進にあたっての基本的な姿勢
(1) 県民の主体的参加
県民一人一人が、知識の習得、学習を通じて人権尊重の意識を身に付け、日常生活のあらゆる機会において、人権問題を自分の問題として受け止めて具体的取組や実践をしていくことが必要です。
このため、それぞれの家庭や地域社会、学校、職場などあらゆる生活場面において人権に関する学習機会を増やすととともに、皆が参加しやすく、主体的に学ぶことができるよう、内容の充実を図ります。
また、職場や家庭など身近なところで人権問題について理解を深めるよう、広報やインターネットでの情報提供などを積極的に行い、県民の主体的参加を促します。

(2) 人権尊重の視点に立った行政の推進
人権が行政の根幹であることを認識し、人権尊重の視点に立った行政を推進する必要があります。このため、行政内部における人権意識の高揚と人権尊重の視点に立った公務の遂行に努めます。
人権の意義を社会に浸透させ、また、すべての人があらゆる場において人権についての取組を促進することができるよう、行政自身による教育・啓発や、様々なところで行われる民間団体などの取組に対し情報提供などの支援を行います。

(3) 継続的な取組と新たな問題への対応
人権問題は、社会環境の変化に伴い、また、人々の意識、価値観の変化とともに、様々な形で新たに発生する可能性のある問題です。最近の新たな問題としても、個人情報の流出やインターネットを用いた悪質な差別事象などが生じてきています。こうした問題に的確に対応し、人権問題を解消し、人権が尊重され、差別や偏見のない社会を実現するため、粘り強く、継続的な取組を進めていきます。


あらゆる場を通じた人権教育・啓発の推進

1 社会における人権教育・啓発の推進
 (1) 現状と課題
今なお人権に関しては、様々な問題が存在しています。人権が尊重され、差別や偏見のない社会をつくっていくためには、行政を始め県民一人一人が人権に関する正しい認識を持ち、たゆまぬ努力を続けていく必要があります。現代的な学習課題である人権について、人権尊重の社会づくりの担い手である県民一人一人の積極的な取組が促進されるよう、学習の振興、教育・啓発に努めなければなりません。
人権に関する学習、教育・啓発は、家庭、地域社会、学校のあらゆる場を通じて、あるいはそれらが連携して行われることが重要です。
近年、家庭においては核家族化や少子化の進行、地域社会においては都市化や過疎化の進行、連帯意識の希薄化などにより教育力の低下が指摘されているところですが、そういったことも踏まえて、家庭や地域社会における人権問題への取組が一層促進されるよう支援します。

 (2) 施策の方向
様々な学習機会を通して、人権問題を正しく理解し、自らの問題として受け止めるだけでなく、人権尊重の精神を日常生活に生かしていくことのできる人権感覚を養成することが重要です。正しい人権に関する知識と感覚を身に付け、また実践していくよう、家庭や地域社会における取組の充実を図り、誰もが自己実現を図り、生涯にわたり充実した人生を送ることができる生涯学習社会の実現を目指します。

ア 家庭における人権教育

家庭は、子どもにとって、個人の生命や人権の尊さを認識し、基本的な生活習慣や社会性を身に付けるなど、人格形成の最も基本的な場です。家庭において、人権尊重の意識を育む上で、子育てや育児、介護、家事などへの男女の共同での取組など、家族全員の実践を通して子どもに豊かな心を育むことが重要です。
このため、家庭における人権学習・教育が推進されるよう、家庭教育に関する情報提供を行っていくとともに、子育てへの支援や子育ての不安に対する相談体制の充実など、家庭に対する支援策の充実を図ります。

イ 地域社会における人権教育・啓発

人々の生活の場である地域社会において、女性、子ども、高齢者、障害者、同和地区出身者、外国人などすべての人が互いに尊重し合い、共に生きがいを持って豊かに暮らせる環境をつくることが重要です。
地域で活動する社会教育関係団体の果たす役割に着目し、PTAなどを中心として、地域社会、家庭、学校が連携して人権に関する学習、教育・啓発に取り組むことができるよう社会教育関係団体の活動を支援していくとともに、地域住民の相互理解を深める各種の交流活動やボランティア活動の支援などを行っていきます。
また、公民館や生涯学習センター、隣保館など地域住民の活用できる身近な施設を人権教育・啓発の拠点として機能できるよう支援していきます。

ウ 学習機会の充実

様々な家庭教育や社会教育の場において、人権に関する学習機会の充実に努めることが重要です。
学習にあたっては、効果的な学習方法や学習者の実生活に身近なものとして理解できるよう具体的な課題を取り上げるなどの工夫を凝らすとともに、リーフレットの作成、講演、映画など様々な手法、媒体を用いて学習機会を充実させ、人権に関する学習の振興、教育・啓発に努めます。
また、高度情報化社会の進展に対応し、インターネットなど各種のメディアを利用した啓発や情報提供の充実を図ります。

エ 指導者の養成

地域社会における人権教育・啓発にあたっては、それを促進する指導者の養成が重要であり、各市町村及び地域における人権教育・啓発の要となる人材を育成するため、指導者の養成・研修を推進します。

2 学校等における人権教育の推進
(1) 現状と課題
学校(園)・保育所においては、幼児児童生徒一人一人が違いを認め、相手を尊重して、それぞれの良さや可能性を発揮して自己実現を図りながら、互いに信頼し合い、共感し合って温かい人間関係をつくる教育活動を展開することが重要です。
学校(園)・保育所における人権教育は、女性、子ども、高齢者、障害者、同和問題、外国人、HIV感染者などに対するあらゆる差別や偏見をなくすために、人権尊重の精神を培い、実践的態度を育成することや、発達段階に応じて、人権の問題に関する正しい認識と理解を深め、基本的人権に対する意識と自覚を高めることに重きを置いています。
これまで学校(園)・保育所においては、同和問題の解決に向けた人権尊重の精神を高める取組を中心にして、あらゆる差別や偏見を許さない人権教育を推進してきました。しかし、いじめの問題など対応を改善すべき課題も少なくありません。
さらに今後は、国際化や高齢化が進む中で、外国人や高齢者などを含めたあらゆる人々の人権についてより積極的に考え、正しく判断し、それを大切にする意識を育てることが重要です。

(2) 施策の方向
 ア あらゆる教育活動を通じた人権教育

本県では、「基本的人権を尊重する精神のかん養と実践力の育成」を目標に進めてきた同和教育の成果を踏まえ、児童生徒の発達段階や実態に即し、各教科、道徳、特別活動等を含めた教育活動全体を通して人権尊重の意識を高め、一人一人を大切にした教育を推進します。
また、学校においては、児童生徒が人権問題を自らの問題として考えて判断力や実践力を身に付けることができるよう、体験・参加型の学習を取り入れるなど効果的な学習方法や指導方法の改善・工夫に努めます。幼稚園・保育所においては、幼児の発達の特性を十分に踏まえ、人権尊重の精神の基礎を築くように努めます。
さらに、人権意識の高揚を一層図るため、幼稚園・保育所・小・中・高等学校が一貫した人権教育に取り組めるよう、連携を図り、幼児児童生徒の発達段階を考慮し、系統的な指導の充実に努めます。
なお、幼児期から生活体験や自然体験、異年齢の子どもたちとの交流等様々な体験の機会を提供し、子どもたちの豊かな心情や社会性の育成に努めるとともに、生命を大切にする教育の充実に努めます。
大学では、それまでの人権教育を踏まえ、人権に関する幅広い教育活動の実施に努めます。

イ 教職員・保育士の資質向上を図る研修の充実

人権教育を推進していく基礎は、全教職員・保育士が豊かな人権感覚を身に付けて一人一人の子どもたちに接することです。
教職員・保育士が人権教育に対する理解と認識を深め、資質の向上を図るために、校長・教頭・園長研修や初任者研修を始めとして、職務や経験年数に応じて、教職員・保育士の研修を計画的かつ継続的に実施します。

ウ 研究指定校等の成果の普及

各学校における人権教育がより一層効果的に推進されるように、研究指定校等の実践的な取組や研究の成果などを全県的に紹介し、各学校における指導方法・内容の改善や充実に努めます。

エ 家庭、地域との連携

人権教育を一層充実するために、家庭や地域社会との連携・協力を図り、それぞれの教育機能を十分に生かすとともに、人権教育の正しい認識と理解が一層深まるよう教育・啓発活動の充実に努めます。
また、いじめなど児童生徒の人権にかかわる重大問題に対しては、各学校で組織的にその解決に当たるとともに、家庭や地域社会と連携してその発生の防止と問題の解決に当たります。

3 企業等事務所における人権教育・啓発の推進
(1) 現状と課題
企業等事業所は、文化や社会生活の向上に大きな影響力を持っており、豊かな社会づくりに貢献する責任を担っています。企業等事業所においては、男女の賃金や昇任等の格差是正の問題、働く男女の仕事と家庭の両立を可能とする環境整備の問題、高齢者の継続雇用・障害者の法定雇用率達成の問題、また、職場内でのセクシュアル・ハラスメントの問題など、取り組むべき課題が山積しています。
こうした中で、「男女雇用機会均等法」の施行に伴い、男女の均等な機会・待遇の確保に対する取組も進んできました。さらに、職業選択の自由、就職の機会均等の観点から、企業等事業所においては、採用にあたっての統一応募用紙の採用や公正採用選考人権啓発推進員の設置など、公正な採用選考システムの確立に向けた取組や人権研修が進められています。
しかしながら、いまだ一部の企業等事業所で採用選考、雇用管理などにおいて同和問題を始めとする差別につながる事象が発生しており、企業等事業所もより一層の人権教育・啓発に取り組み、人権意識の高揚を図っていくことが望まれます。

(2) 施策の方向
企業等事業所の同和問題を始めとする人権問題の解決に果たす社会的役割と責任は極めて大きく、職場は、労働を通じた社会参加の場であるとともに、私たちの重要な生活の場でもあります。
企業等事業所においては、その社会的役割と責任を自覚しながら、公正な採用、明るい職場づくりなど、人権尊重に基づいた快適な職場環境が整備されることが必要であり、その推進を図るため以下の観点から施策を展開します。

ア 就業の機会均等の確保

採用方針を始め求人(募集)活動、選考基準、選考方法、採否決定や採用後の配置などにおいて、差別のない公正な採用選考のシステムが確立されるよう、公正採用選考人権啓発推進員の設置を推進します。
また、企業等事業所における人権意識の高揚を図るため、公共職業安定所が実施する研修会への参加を促します。

イ 企業等事業所における人権教育・啓発の推進

企業等事業所における公正採用選考人権啓発推進員の計画的・継続的な活動や、講師の紹介、研修材料としての啓発冊子の作成・配布など、社内研修を援助します。

ウ 関係団体との連携

人権教育・啓発について幅広い取組が進められるよう、経営者団体などとの連携を図りながら、様々な機会を通じ企業等事業所に理解を求めるとともに、その自主的、主体的な取組を要請します。

4 特定の職業に従事する者に対する人権教育・啓発の推進
人権教育・啓発の推進にあたっては、とりわけ人権にかかわりが深く、より高い人権意識を持って職務に従事することが求められる特定の職業に従事する者に対して、研修等による人権教育・啓発の充実に努める必要があります。
(1) 行政職員
県行政に従事する職員一人一人は、全体の奉仕者である公務員としての自覚を持ち、人権問題を正しく理解し、豊かな人権感覚を身に付けるとともに、人権尊重の視点に立って職務を遂行することが必要です。
このため、県の職員に対しては、新規採用職員を始め各階層を対象とした研修において人権教育・啓発を行うとともに、各職場においても職員が人権問題を正しく認識し、人権に配慮しながら職務が遂行できるよう系統的な職場内研修の充実に努めます。

(2) 教職員
学校は、児童生徒の人格形成に大きな影響を与える場であり、教育内容や学校運営などにおいて広く人権の視点が重視されなければなりません。このためには、まず、教職員自身が人権に対する正しい認識と意識を持つことが必要です。
学校においては、教師と児童生徒の信頼関係に立って、子ども一人一人の人権を大切にした教育活動の徹底を図るとともに、教職員の人権意識の高揚や人権教育を実施する指導者として必要な知識や指導力を高めるために、校長、教頭研修を始め初任者などすべての教職員について、その職務や経験年数に応じた系統的な研修の充実を図ります。
また、子どもたちへの指導においては、発達段階に応じた指導内容を設定するとともに、指導方法に工夫を凝らし、人権教育の充実に努めます。

(3) 警察職員
人権を尊重した警察活動を徹底するため、あらゆる機会をとらえ、職務倫理教養を推進します。
また、犯罪の被害者、被疑者、被留置者及びその他関係者の人権に配慮した適正な警察活動が展開されるよう教育訓練を充実します。なかでも、犯罪等の被害にあった女性や子どもに対しては、その特性を理解した専門員による相談窓口を開設するなど、相談、被害者支援体制の一層の整備を図っていきます。

(4) 消防職員
消防職員は、その職務が住民の生命、身体及び財産を守るという地域住民の暮らしと密接に関係することから、人権問題を正しく理解し人権を尊重した行動が必要です。このため、消防職員に対しては、消防学校において初任者の人権教育を充実するとともに、各職場において人権教育が継続的に実施されるように努めます。

(5) 医療、保健関係者
医師、歯科医師、看護師、保健師、その他の医療・保健関係業務に従事する者は、疾病の予防や治療、保健指導など人の命と健康を守ることを使命としています。高齢化の進展や慢性疾患を中心とした疾病構造の変化の中で、医療の質の向上に対する国民の要望はますます高まっており、業務の遂行にあたっては、インフォームドコンセント(患者に対する十分な説明と同意)の徹底やプライバシーへの配慮、病歴等診療情報の保護に努めるなど、高い職業的倫理と人権意識に基づいた行動が求められています。
このため、学校・養成施設における人権教育・啓発の充実を働きかけるとともに、医療、保健関係団体に対しても人権教育・啓発への積極的な取組が行われるよう促します。

(6) 福祉関係者
福祉事務所職員、民生委員・児童委員、身体障害者相談員、知的障害者相談員、社会福祉施設職員、ホームヘルパー、その他福祉関係の業務に従事する者は、高齢者、障害者、子どもなどに対する生活相談や介護などの業務に直接携わる立場にあります。そのため、個人のプライバシーや人間の尊厳に対する認識など、高い職業的倫理と人権意識を持ち、社会的・経済的にハンディキャップを負った人々の自立と自己実現を援助するという役割を果たしていかなければなりません。
これら福祉関係従事者の人権意識の普及・高揚を図るため、学校、養成施設における人権教育・啓発の充実や、福祉関係団体等に対する人権教育・啓発への積極的な取組の促進などの働きかけを行っていきます。

(7) マスメディア関係者
現代社会において、テレビ、ラジオ、新聞等のマスメディアは、社会に対し大きな影響力を持っており、その果たす社会的な役割も大きなものがあります。
マスメディアに従事する関係者において、人権教育・啓発のための自主的な取組がなされるよう要請するとともに適切な情報提供をします。


重要課題への対応

1 女性
(1) 現状と課題
国連は創設当初から女性の地位向上に取り組み、昭和54年(1979年)の第48回国連総会での「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約(女子差別撤廃条約)」の採択を始めとして、国際社会における女性の人権確立に大きく貢献してきました。
我が国では、昭和50年(1975年)の「国際婦人年」を契機とした国際社会における取組や、昭和60年(1985年)の「女子差別撤廃条約」の批准とも連動しつつ法制面の整備を進めるとともに、平成8年(1996年)に策定した「男女共同参画2000年プラン」に基づき、具体的施策の推進を図ってきました。
その後、平成11年(1999年)に「男女共同参画社会基本法」の制定、平成12年(2000年)に「男女共同参画基本計画」の策定、さらに、平成17年(2005年)に「男女共同参画基本計画(第2次)」が策定され、男女共同参画社会の形成の促進に関する総合的かつ計画的な推進が図られています。また、内閣機能強化の一環として平成13年(2001年)に設置された内閣府に、重要政策会議の一つとして男女共同参画会議が設置され、内部部局として男女共同参画局が設置されるなど、男女共同参画に関する推進体制が強化されています。
本県では、昭和51年(1976年)に総務部に青少年婦人室を設置し(現在は、県民生活部社会活動推進課男女共同参画室)、平成元年(1989年)に女性行動計画として「あいち女性プラン」を策定、平成9年(1997年)には取組のより一層の推進を図るため「あいち男女共同参画2000年プラン」を策定しました。平成13年(2001年)に法定計画である「あいち男女共同参画プラン21~個性が輝く社会をめざして~」(以下「プラン21」という。)を策定し、社会情勢の変化などに伴い、平成18年(2006年)10月「プラン21」を改定しました。さらに、男女の人権の尊重を始めとする5つの基本理念を規定した「愛知県男女共同参画推進条例」を平成14年(2002年)に制定し、本県における男女共同参画社会の実現に向けた取組を推進しています。また、平成8年(1996年)に開館した男女共同参画社会づくりの拠点施設「愛知県女性総合センター(ウィルあいち)」を中心として、県民意識の変革、社会参画と交流の促進、情報の蓄積と発信など県計画の推進を図っています。
このように、これまで、実質的な男女平等の実現に向けて様々な取組がなされてきましたが、人々の意識や行動、社会慣行の中に男女の固定的な役割分担意識が今もなお根強く残り、特に高齢女性、障害のある女性、同和地区の女性、外国人女性などは一層厳しい状況にあり、家庭・地域・学校や職場等における男女平等の実現にはまだまだ多くの課題が残っています。平成19年(2007年)12月に、愛知県内に居住する20歳以上の3,000人を対象に実施した「人権に関する県民意識調査」(有効回収数1,638)(以下「県民意識調査」という。)においても、女性の人権が尊重されていないと思うこととして「結婚・出産などにより女性が仕事を続けにくい社会環境」、「職場における差別待遇 (採用、昇格、賃金など)」などが多く挙げられています。
また、ドメスティック・バイオレンス(DV:配偶者や恋人などの親しい関係にある男女間の暴力)などの女性に対する暴力については、平成13年(2001年)に「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」が制定され、本県においても、平成20年(2008年)3月に改正した「配偶者からの暴力防止及び被害者支援基本計画(第2次)」に基づき、DVを容認しない社会の実現に向けた取組を進めているところですが、今後も引き続き男女共同参画の視点に立った施策の推進や、女性に対する人権侵害の防止に向けた施策の充実が必要です。

(2) 施策の方向
「愛知県男女共同参画推進条例」と「あいち男女共同参画プラン21」に基づき、男女が、社会の対等な構成員として、自らの意思によって社会のあらゆる分野における活動に参画する機会が確保され、もって男女が均等に政治的、経済的、社会的及び文化的利益を享受することができ、かつ、共に責任を担うべき男女共同参画社会の実現を目指します。

ア 男女共同参画社会の促進

男女共同参画社会実現のためには、社会的性別(ジェンダー)の視点に立って、家庭・学校・地域・職場などあらゆる場で、人々の意識改革、慣行の見直しを進める必要があり、エンパワーメント(女性が力を持った存在になること)の促進、パートナーシップ(対等な協調・協力関係)の確立、積極的改善措置(ポジティブ・アクション)の推進などについての一層の啓発活動に努めます。
また、男女平等と人権の尊重についての認識や価値観は幼児期からの成長過程で形成されることから、発達段階に応じた男女共同参画教育を一層推進し、男女がお互いの個性や能力を尊重し合い、相互の深い理解と信頼のもとに協力して行動する心や態度の育成を図ります。

イ 女性に対する暴力の根絶

女性に対する暴力は女性の基本的人権の享受を妨げ、自由を制約するばかりではなく、被害を受けた女性に精神的、肉体的、社会的な面で深刻な影響を及ぼすことから、その根絶に向けての取組を進めるとともに、女性に対する暴力を許さない社会意識の醸成のため、一層の啓発に努めます。
ドメスティック・バイオレンスや性犯罪、売買春、セクシュアル・ハラスメント(職場内外における相手を不快にさせる性的な言動)、ストーカー行為などは人権侵害の問題として厳正な対処が必要であり、女性への暴力根絶に向けての啓発活動や相談体制の充実など、女性に対する暴力の発生を防ぐ環境づくりを進めます。
また、被害を受けた女性に対しては、プライバシーの保護及び被害者の心情に配慮しつつ、被害の潜在化の防止、被害女性の救済など、人権が適正に守られるよう取組を充実します。厳正な取締りはもとより、被害女性の人権を守る観点から、事情聴取等も被害者の希望に応じて女性の警察官が行うなどの部内体制の整備を進めるとともに、事情聴取、相談等に携わる職員の教育訓練を充実します。

ウ メディアにおける女性の人権尊重

インターネット等を含む各メディアは人々の意識形成に様々な形で影響を及ぼしますが、女性の性的側面のみがいたずらに強調されたり、女性に対する暴力やそれを助長するような取扱いが行われることのないよう、表現の自由が尊重されると同時に女性の人権尊重や社会的性別(ジェンダー)の視点から広報・出版について、公的機関はもとより各メディアにも働きかけるとともに、女性の尊厳を害する犯罪に対応します。

エ  性と生殖についての女性の自己決定権に関する周知の徹底

女性の生涯を通じた健康を支援するため、女性が自らの身体について自己決定を行い、健康を享受する権利(リプロダクティブ・ヘルス/ライツ)に関する県民への知識の普及に努めます。

オ 働く場における男女共同参画の実現

働く場における男女共同参画には、男女が共に就労と家庭、地域生活を両立できる環境づくりが必要です。
雇用の分野において、女性が男性と均等な取扱いを受けていない事例が多く見受けられたことから、「男女雇用機会均等法」、「育児・介護休業法」及び「労働基準法」等の改正が行われ、男女の均等な機会及び待遇の確保を図るとともに、男女が共に仕事と家庭を両立できる条件整備がなされました。こうした法の趣旨に基づき、働く女性が性により差別されることなく、その能力を十分に発揮できる雇用環境の整備や、女性のみでなく男性も家族的責任を担い、男女が共に仕事と家庭を両立し、安心して子どもを生み育てることができる社会環境づくりを促進するための施策を行っていきます。
さらに、仕事を始めとする社会活動と子育てとの両立を可能としていくため、保育所の機能充実、その他の多様な保育サービスの充実を進めていきます。
また、女性が就業人口の約6割を占める農業の分野においても、女性は農家生活の運営だけでなく、農業経営の担い手として、また、農村地域社会の維持・活性化に大きく貢献しています。しかし、農村社会における伝統的な考え方の下で経営における女性の位置付けが低く、女性の能力が十分発揮されているとは言い難い状況にあります。このため、「あいち農山漁村男女共同参画プラン」の「男女共同参画で築く豊かな農山漁村の創造」を基本目標に、農林漁業や農山漁村地域における女性の能力発揮や地位向上に努めます。

カ 社会参画の促進

男女共同参画社会の実現には、女性が自らの意思により公私にわたるあらゆる分野の活動に参画し、自らの意思で政策・方針の意思決定過程の場に参画していくことが不可欠です。そのため、県の審議会等において女性の登用を一層進めていくとともに、家庭、学校、地域、職場などで男女が対等な構成員として参画することを促進すると同時に、市町村・企業・団体等に対しても女性の登用を促進するための働きかけをしていきます。

2 子ども
(1) 現状と課題
子どもたちは、21世紀を担うかけがえのない存在です。そして、無限の可能性を持っています。その子どもたちが、健やかに生まれ、心豊かに、たくましく育つことは、世界中の誰しもが等しく願っていることです。
大正13年(1924年)に、国際連盟において「児童の権利に関するジュネーブ宣言」が採択され、また、国連において、昭和34年(1959年)11月に「児童の権利宣言」が採択され、児童に特別な保護を与えることの必要性が明確にされました。さらに、平成元年(1989年)には「児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)」が採択され、児童を「保護の客体」としてだけではなく、積極的に「権利行使の主体」としても捉えることになりました。
我が国においても、日本国憲法の下、昭和22年(1947年)に「児童福祉法」が、昭和26年(1951年)に「児童憲章」が定められるなど、子どもの権利を保障する基本的な法制度が整備されてきたところですが、「子どもの権利条約」についても、その意義を踏まえ、平成6年(1994年)5月に批准を行いました。
しかしながら、近年の子どもと子育てを取り巻く環境は、出生率の低下、核家族化や都市化の進展、生活様式の多様化など大きく変化しています。また、いじめの増加、少年非行の凶悪化、児童虐待の増加、性の商品化、薬物乱用の低年齢化など、子どもを育てる上で、多くの困難が生じています。県民意識調査においても、子どもの人権が尊重されていないと思うこととして「保護者による子どもへの暴力や育児放棄などの虐待」、「子どもによる暴力、いじめ、無視などの仲間はずれ」、「インターネット(パソコンや携帯電話)を使ってのいじめ」などが多く挙げられています。
本県におきましては、平成17年(2005年)3月に策定した「あいち子育て・子育ち応援プラン」に基づき、児童虐待防止対策や被害にあった子どもの保護の推進など要保護児童等への支援対策に取り組んでいるところであり、今後も引き続き、子どもと子育てを取り巻く社会環境の変化に的確に対応し、子育て家庭・子育ち過程を社会全体で支える仕組みを構築するための各種取組を総合的かつ効果的に推進していく必要があります。

(2) 施策の方向
「児童憲章」、「子どもの権利条約」などの基本理念を踏まえ、家庭、学校、地域などの子どもを取り巻くすべての環境が、子どもの健やかな成長、発達を図っていくものでなければなりません。こうした視点に立って総合的な施策の推進を図り、次代を担う子どもが健やかに育つ社会づくりを目指します。

ア 「児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)」についての普及啓発

平成元年(1989年)に国連で採択された「子どもの権利条約」は、子どもの人としての権利や自由を尊重し、子どもに対する保護と援助を促進することを目指しています。
学校においては、条約の趣旨を認識し、幼児児童生徒の人権に配慮し、一人一人を大切にした教育や学校運営に努めるとともに、子どもの発達段階に応じた指導を通して、基本的人権尊重の精神の徹底を図ります。
また、PTAなどと連携し、保護者や地域の人々への啓発に努めます。
さらに、児童福祉の理念を周知するため、全国的に実施されている「児童福祉週間」(毎年5月5日を中心とする一週間)の運動等の中で、市町村始め関係機関に対する普及啓発を図っていくほか、青少年を始め一般県民に対し、条約の趣旨について啓発するよう努めます。

イ いじめ問題

いじめは、児童生徒の人権にかかわる重大問題です。この問題を防ぐためには、幼児期から、生命を尊重する心、他者への思いやりや社会性、倫理観や正義感、美しいものや自然に感動する心など豊かな人間性を育成し、児童生徒の発達段階に応じた人権意識の向上を図ることが極めて重要です。
児童生徒一人一人を大切にした個性を生かす教育を行うとともに、体験的活動や集団活動などを通じた実践的な教育を行い、子どもたち一人一人が自分の人権とともに、相手の人権も尊重する態度を身に付けるなど、社会性の育成に努めます。
また、いじめ、不登校、社会生活への不適応などの問題に対応するために、スクールカウンセラーを配置し、子どもや保護者のための相談活動の充実を図ります。
さらに、こうしたいじめ問題などへの対応については、各学校で組織的にその解決に当たるとともに、保護者や地域の人々との連携・協力の一層の強化を図ります。

ウ 児童虐待

児童虐待は、それを受ける児童にも、そして虐待する親にも深い心の傷を残すものであり、社会全体でその発生防止に努めていくことが重要です。
児童虐待は、家庭という密室で行われることが多いため顕在化しにくい面がありますが、不幸な結末にならないためにも、早期発見・早期対応が大切です。また、その対応は児童を保護分離すれば終了するものではなく、保護した後の児童と親の心のケアや親子関係の修復まで行うことが必要です。
そのため、地域の第一線の専門機関である児童相談所と民間のボランティアグループも含めた様々な関係機関とのネットワークを強化するとともに、児童相談所の相談体制の充実を図ります。
また、平成12年(2000年)5月17日に「児童虐待防止法」が成立し、法的裏付けにより国民的理解が得やすい環境ができましたので、より適切な児童虐待防止に努めていきます。

エ 青少年の健全育成

次代を担う青少年が、豊かな社会性と優れた創造性を培い、時代の進展に対応できる人間として成長していくことは、県民すべての願いです。
しかしながら、青少年を取り巻く環境は大きく変化し、青少年自身も家庭・地域社会での役割意識や体験活動が乏しい状況にあります。青少年には、社会の一員としての役割と責任を自覚し、他を思いやり、生命を大切に思い、様々な立場・考え方の人と共に協調して生きていく姿勢が求められています。
そのため、青少年が多様な人と交流し、豊かな自然とふれあうなど社会体験、自然体験等の実体験を積み重ねることが必要であり、地域社会において様々な体験活動が幅広く展開していくことができるよう、市町村、関係機関・団体と連携・協力し、支援していきます。
また、児童買春、児童ポルノなど児童の福祉を害する犯罪に対応するとともに、青少年の非行防止を図るため、青少年を取り巻く有害環境の浄化を図ります。

オ 被害少年対策

いじめ、不登校、児童虐待など、様々な問題で子どもたちは心に傷を受けます。こうした問題に対応するため、犯罪の取締りを行うだけでなく、犯罪の被害にあった少年に対し、カウンセリングを行うなど、相談、支援体制の整備を図ります。

カ 保育の充実

近年、家庭においては、少子化の進行により子ども同士のふれあいの機会が少なくなり、自主性や社会性が育ちにくくなるといった子ども自身への影響はもちろん、核家族化により若い母親が育児不安を抱えるという問題もあります。こうした状況の中で、不適切な養育や深刻な虐待に至るケースも少なくないと思われます。
このため、「保育所保育指針」においても、地域における子育て家庭に対する相談・助言等の支援機能や子どもの人権に十分配慮した保育、人権を大切にする心を育てる保育が求められており、この保育指針に沿って保育所における保育内容が一層充実されるよう努めていきます。
また、子育ての悩みや子育て上必要な援助などについて、気軽に相談ができ、情報が得られ、支援が受けられるような体制を整備するため、地域における多様な子育て支援施策を充実するとともに、子育てについて地域における住民同士の交流の活発化を図るため、NPO(民間非営利組織)、母親クラブ、子育てサークルなどの地域における自主的、主体的活動を支援していきます。

3 高齢者
(1) 現状と課題
我が国は、今や平均寿命80年という世界最長寿国になり、団塊の世代が高齢期を迎える平成25年(2013年)には4人に1人が65歳以上という超高齢化社会を迎えようとしています。本県の高齢化率(総人口に占める65歳以上人口の割合)は全国平均より3.0ポイントほど低く、比較的若い県と言われていますが、今後は高度経済成長期に転入してきた世代の高齢化等により急速に高齢化が進行すると見込まれています。
高齢化の進行に伴い、今後、寝たきりや認知症といった介護を必要とする高齢者が急速に増加するものと見込まれ、老後の生活の最大の不安要因となっている介護を社会全体で支えるため、平成12年(2000年)4月から介護保険制度が開始されました。さらに、高齢者に対する身体的・心理的虐待、介護や世話の放棄・放任等に対応するため、平成18年(2006年)4月には「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」が施行されました。
また、平均寿命の伸長とともに、生涯現役を目指して活躍する高齢者も増加しており、長くなった高齢期を健康で生きがいを持ち、安心して暮らしていける長寿社会を構築していくことが何よりも重要な課題となっています。県民意識調査でも、高齢者の人権が尊重されていないこととして、「収入が少なく、経済的に自立できないこと」や「自分の能力を発揮する機会が少ないこと」などが多く挙げられています。
本県では、介護保険制度の導入に合わせて、「愛知県老人保健福祉計画」と「愛知県介護保険事業支援計画」を一体とした「第1期愛知県高齢者保健福祉計画」を平成12年(2000年)3 月に策定しました。この計画では、「高齢者の自立と自己実現を支える保健福祉」を基本理念としており、その後、平成15年(2003年)3月に第2期計画、平成18年(2006年)3月には平成17年の介護保険法の大幅改正(「予防重視型システムへの転換」など)を踏まえた第3期計画と見直しを行いました。さらに、平成21年3月には、「愛知県老人福祉計画」と「愛知県介護保険事業支援計画」を一体とした「第4期愛知県高齢者保健福祉計画」を策定し、引き続き、高齢者が健康で生きがいをもち、安心して暮らせる社会の実現を目指すこととしています。

(2) 施策の方向
高齢者が、住み慣れた家庭や地域で安心して自立した生活を送るとともに、長年培ってきた知識・経験を生かし、高齢社会を支える重要な一員として社会活動に積極的に参加するなど、高齢者が尊重される社会の実現を目指します。

ア 自立促進と社会参加活動の促進

高齢者が尊厳と生きがいを持ってその人らしい生活を送るためには、その能力や価値観に応じて多様な生き方を選択できる社会づくりが必要です。
高齢者が、「第二の現役世代」として、働き、楽しみ、地域社会に貢献するなど、様々な形で社会的に活躍できるよう支援します。
高齢者の生きがいづくりや社会参加を促進するため、学習、地域づくり、ボランティア、老人クラブなどの活動を支援します。
また、高齢者と他の世代が相互に理解を深め尊重し合う社会とするため、県民への啓発活動や地域での世代間交流を進めます。

イ 総合的な保健福祉サービス

介護が必要な状態になっても、高齢者が自らの意思に基づき自立した生活を尊厳を持って送ることができるようにするとともに、介護家族への支援が図られるような環境づくりを進める必要があります。
  このため、介護保険制度の円滑な実施を図るとともに、必要な介護サービスが、保健・医療・福祉にわたって総合的に切れ目なく利用できるよう、サービスの質・量の両面にわたる基盤整備を進めるほか、介護保険制度が利用者本位の仕組みとして定着するよう、利用者からの苦情・相談に適切に対応するための体制づくりを進めます。
また、高齢者ができる限り要介護状態にならないで健康で生き生きとした生活を送ることができるよう、健康づくりや介護予防対策を進めます。
さらに、高齢者が認知症になっても、住み慣れた地域で安心して生活できるよう、認知症サポーターやかかりつけ医等による応援・支援体制の充実、認知症高齢者の権利擁護のため、成年後見制度や日常生活自立支援事業の活用を推進します。

ウ 雇用、就労機会の確保

高齢者が能力と意欲に応じ生産活動や地域社会の様々な活動に参加することは、生きがいを持って自立した生活を実現する上で非常に大切なことです。
高齢者が長年にわたり培ってきた知識、経験等を活用し、65歳まで現役として働くことができる社会を実現するため、継続雇用等による65歳までの雇用の確保、再就職の促進、多様な雇用・就業機会の確保のための啓発を進めます。
また、農山漁村での高齢者の果たす役割は大きなものがあります。このため高齢者が生涯現役として生きがいと楽しみを持ちながら、農林漁業や地域活動に参加し一定の役割を果たすとともに、高齢者の持てる能力を十分発揮できるよう支援していきます。

エ 高齢者にやさしいまちづくり

高齢者を始めすべての人が、住み慣れた地域社会の一員として、安全でかつ快適な日常生活や積極的な社会参加ができる地域社会づくりを促進するため、建築物、道路、公園、公共交通機関の駅等のバリアフリー化(段差の解消など高齢者や障害者にとっての社会生活上の障壁をなくすこと)など、人にやさしいまちづくりを推進します。

4 障害者
(1) 現状と課題
国連においては、障害者の完全参加と平等をテーマに昭和56年(1981年)を「国際障害者年」としました。
  国においては、平成5年(1993年)に「心身障害者対策基本法」を「障害者基本法」に改正しましたが、その基本理念で、障害者の自立と社会、経済、文化、その他あらゆる分野への活動に参加する機会の享受やその尊厳にふさわしい処遇が保障される権利をうたい、障害者の完全参加と平等を目指しています。
平成17年(2005年)には障害者基本法が再度改正されました。改正により、障害者基本法には、国民の間に広く障害者の福祉についての関心と理解を深めるとともに、障害者が社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に積極的に参加する意欲を高めることを目的として、障害者週間(12月3日~12月9日)が明記されました。
平成18年(2006年)には、障害者が地域で安心して暮らせる社会の実現を目指して障害者自立支援法が施行されました。障害者自立支援法では、障害の種別(身体障害・知的障害・精神障害)にかかわらず、障害のある人々が必要とするサービスを利用できるよう、サービスを利用するための仕組みが一元化されています。
  しかしながら、障害のある人に対する社会的な誤解や偏見など、理解と認識は十分とは言えず、障害者の社会復帰及び自立、社会参加が困難である場合も多く、また、障害のある人に対する差別や虐待などの人権問題も発生しています。
  このため国連において、平成18年(2006年)12月には「障害者の権利に関する条約」が採択されました。「障害者の権利に関する条約」は、障害者固有の尊厳、差別されないこと等を一般原則として規定し、障害者に保障されるべき個々の人権及び基本的自由について定めた上で、締結国がこの人権及び基本的自由を確保し促進するための措置をとることを定めています。現在、国では、早期締結に向けた国内法の整備検討が行われており、障害のある人もない人もお互いの理解と協力によって、共に暮らせる豊かな社会を目指します。

(2) 施策の方向
障害者も、社会の他の構成員と同じように、責任ある個人として社会における完全参加と平等が確立されなければなりません。
障害者のライフステージのすべての段階において全人間的復権を目指すリハビリテーションの理念と、障害のある人も障害のない人と同じように生活し活動する社会を目指すノーマライゼーションの理念の下に、障害者の完全参加と平等を目指します。

ア 自立促進と社会参加活動の推進

障害者の完全参加と平等の実現と、障害者に対する差別、偏見の解消及び人権侵害の発生防止に向けた取組を進めます。障害者の自立と社会参加をより一層推進し、リハビリテーションの理念とノーマライゼーションの理念を実現するための啓発、広報活動を推進します。
障害のある人に対する理解と認識を促進するため、小・中・高等学校や地域における交流教育やボランティア活動を促進します。
また、障害者スポーツは、障害のある人の体力の維持・増進、保有能力の向上、障害者に対する理解の促進に効果的であることから、障害者スポーツなどを始めとする社会参加活動の推進を図ります。

イ 総合的な福祉サービス

障害のある人は、何らかの福祉サービスを必要とする場合が多いため、その人のニーズに合った福祉サービスが利用できるよう関係者の連携により、障害者の支援と自立促進のための総合的な施策を行います。
障害者が差別や、あるいは虐待、暴行を受けるなど人権侵害からの救済を図るための相談体制を充実します。
また、障害者の権利擁護のため、成年後見制度や日常生活自立支援事業の活用を推進します。

ウ 障害児、障害者教育の充実

障害者が困難を克服し、積極的に社会参加をし、自立していくためには、適切な教育が必要です。障害の状態や程度に応じたきめ細かな指導により、将来の自立と社会参加に向けた基礎的、基本的な知識、技能を修得できるようにします。
各学校において、障害のある子どもの能力・適性や障害の状態に応じた教育内容・方法の改善、充実を図ります。
また、保護者の意向を尊重した適正な就学指導に努め、子ども一人一人の教育的ニーズを把握し、適切な指導及び必要な支援が受けられるようにします。

エ 障害者にやさしいまちづくり

障害者を始めすべての人が、住み慣れた地域社会の一員として、安全でかつ快適な日常生活や積極的な社会参加ができる地域社会づくりを促進するため、建築物、道路、公園、公共交通機関の駅等のバリアフリー化など、人にやさしいまちづくりを推進します。

オ 職業的自立の促進

就業を通じて社会参加することができるよう、障害者の働く意欲を尊重し、その適性と能力に応じた雇用の促進と就業の安定を図ることが重要です。
雇用の場を確保するため、障害者雇用率の達成、公共職業能力開発施設における技能の習得など、障害者の雇用の促進と職業能力の開発向上に努めます。
また、地方自治体においても障害者の雇用を進めていきます。

5 同和問題
(1) 現状と課題
同和問題は、人類普遍の原理である人間の自由と平等に関する問題であり、日本国憲法に保障された基本的人権に関わる重大な社会問題です。
昭和40年(1965年)に出された国の同和対策審議会の答申は、同和問題の本質を「日本社会の歴史的発展の過程において形成された身分階層構造に基づく差別により、日本国民の一部の集団が経済的・社会的・文化的に低位の状態におかれ、現代社会においても、なおいちじるしく基本的人権を侵害され、とくに、近代社会の原理として何人にも保障されている市民的権利と自由を完全に保障されていないという、もっとも深刻にして重大な社会問題である」ことを明らかにしています。さらに、答申は、同和問題の早急な解決は国の責務であり、同時に国民的課題であるとの認識を示した上で、同和対策は生活環境の改善、社会福祉の充実、産業・職業の安定、教育文化の向上及び基本的人権の擁護等を内容とする総合対策でなければならないとしています。この答申を受けて昭和44年(1969年)7月に「同和対策事業特別措置法」が制定され、同和問題の早期解決を図るため住環境整備から啓発事業まで広範な同和対策事業が推進されることとなりました。
昭和57年(1982年)4月には「同和対策事業特別措置法」に代わり、「地域改善対策特別措置法」が施行され、昭和62年(1987年)4月からは、地域改善対策の一般対策への円滑な移行のための最終の特別法として、「地域改善対策特定事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律」(以下「地対財特法」という。)が施行され、総合的に事業が実施されてきました。
その後、平成8年(1996年)5月に出された地域改善対策協議会の「同和問題の早期解決に向けた今後の方策の基本的な在り方について」(意見具申)を受けて、「地対財特法」は平成9年(1997年)3月に一部改正が行われ、同和対策事業の一般対策への円滑な移行のための経過措置として、特別対策事業を限定し再度5年間延長されることとなりました。この改正に伴い、従来、差別意識の解消のため特別対策事業として行ってきた教育関係事業や各種の啓発事業についても、すべての人の基本的人権を尊重していくための人権教育・啓発の推進事業として発展的に再構成され、同和問題はその中の重要課題として取り組まれることとなりました。そして、「地対財特法」は平成14年3月に失効、国は特別対策事業を終結し、一般対策に移行することとなりました。ただし、上記地域改善対策協議会の意見具申は、「一般対策への移行が、同和問題の早期解決を目指す取組の放棄を意味するものでないことは言うまでもない。一般対策移行後は、従来にも増して、行政が基本的人権の尊重という目標をしっかり見据え、一部に立ち遅れのあることも視野に入れながら、地域の状況や事業の必要性の的確な把握に努め、真摯に施策を実施していく主体的な姿勢が求められる。」とも述べています。
また、平成11年(1999年)7月には、同じく地域改善対策協議会の意見具申を受けて制定された「人権擁護施策推進法」(平成8年(1996年)12月制定)に基づき国に設置された人権擁護推進審議会において「人権尊重の理念に関する国民相互の理解を深めるための教育及び啓発に関する施策の総合的な推進に関する基本的事項について」の答申が出されました。答申では、同和問題を始め我が国の様々な人権問題の存在が明らかにされるとともに、啓発実施主体の役割と連携、人権教育・啓発の総合的かつ効果的な推進のための諸施策について提言がなされました。
本県は、これまで同和対策事業の推進に鋭意努力してきました。その結果、生活環境の改善を始めとする物的な基盤整備については、相当の成果をみているところですが、平成5年(1993年)に総務庁が行った同和地区実態把握等調査では、教育や就労、産業等の面でなお格差が残されています。また、県民意識調査では、仮に日ごろ親しくつきあっている人が同和地区の人であることがわかった場合、「表面的にはつきあうが、できるだけつきあいは避けていく」と答えた人が17.1%あり、同じく、子どものいる人に、その子どもの結婚しようとしている相手が同和地区の人であることがわかった場合、「子どもの意志を尊重する。親が口出しすべきことではない」と答えた人が49.6%、「親としては反対するが、子どもの意志が強ければしかたない」と答えた人が40.7%、「家族の者や親戚の反対があれば、結婚を認めない」と答えた人が5.0%、「絶対に結婚を認めない」と答えた人が4.7%となるなど、差別意識がなお存在しており、依然として結婚問題や就職に際しての差別の問題が見受けられます。さらに、新たにインターネットなどのメディアを利用した差別的な情報の掲示・流布の問題も起こっています。
このような状況から、差別意識の解消に向けた教育・啓発活動は、引き続き積極的に推進していかなければならない重要な課題となっています。

(2) 施策の方向
平成8年(1996年)5月の地域改善対策協議会の意見具申は、依然として存在する差別意識の解消に向けた教育・啓発の推進及び人権侵害による被害の救済等の対応の充実強化を求め、差別意識の解消を図るための教育・啓発については、これまでの同和教育や啓発活動の中で積み上げてきた成果や手法への評価を踏まえ、すべての人の基本的人権を尊重していくための人権啓発として発展的に再構成し、その中で同和問題を人権問題の重要な柱として捉えるべきであると提言しています。
本県においても、こうした国の動向を踏まえながら、今後、同和問題の実態や固有の経緯等を十分に認識しつつ、「人権教育のための国連10年」などの人権についての国際的な潮流とその取組を踏まえて積極的に推進します。
また、教育、就労、産業、生活環境等の課題の解決のための総合的な施策を推進します。

ア 啓発の推進

啓発にあたっては、広く県民の興味・関心・共感を得られるような創意工夫を凝らした内容・手法を積極的に取り入れるとともに、啓発活動、研修等へ県民が参加しやすい環境づくりを推進します。
また、多くの県民に人権尊重の理念の重要性を伝え、効果的に人権啓発を進めるために、テレビ・ラジオ・新聞等のマスメディアの積極的な活用をさらに図ります。

イ 同和教育の推進

学校教育において同和教育を推進するためには、指導する教職員が資質の向上に努め、感性を磨き、豊かな人権感覚を身に付けることが大切です。このため、計画的・体系的な教職員研修を実施し、意識の高揚や資質の向上を図ります。
また、県内の学校において、愛知県教育委員会「同和教育基本方針」に基づき、児童生徒の発達段階や地域の実態に即し、同和問題を正しく理解し、基本的人権の尊重を基盤とした実践的態度の育成を図り、差別や偏見をなくし、明るい社会を実現していく意欲と実践力を身に付けた児童生徒の育成に努めます。

ウ 教育・啓発の実施主体相互の連携・協力の推進

啓発活動は、県民一人ひとりの生涯の中で、様々な機会を通じて実施されることにより効果をあげるものであり、国、市町村、学校、社会教育機関、隣保館、人権擁護委員連合会、財団法人人権教育啓発推進センターを始めとする民間団体、企業等事業所、マスメディア等の啓発主体と相互に十分な連携をとり、人権啓発活動のネットワーク化を推進します。
また、全国人権同和行政促進協議会を通じ、他県等との横断的な連携、協力を推進します。

エ 啓発指導者の育成推進

各市町村及び地域における啓発ネットワークの要となる人材を育成するため、啓発指導者の養成・研修を推進します。

オ 隣保館活動の推進

隣保館においては、地域社会全体の中で人権啓発の住民交流の拠点となる開かれたコミュニティセンターとしての取組等が行われており、人権尊重の意識の普及高揚を図る上で効果をあげており、今後とも、各地域の自治組織や文化・福祉・人権等の活動に関する組織との連携をとりながらその活動の充実を図ります。

カ えせ同和行為の排除の推進

同和問題を口実にして企業等事業所、学校、宗教団体等に不当な利益や義務のないことを求めるえせ同和行為は、同和問題に関する差別意識の解消に向けた啓発活動の効果を一挙にくつがえし、同和問題に関する誤った認識を県民に植え付けるなど、同和問題の解決にとって大きな阻害要因となっており、これを排除することは緊急な課題となっています。
この排除のため、名古屋法務局、県警察本部、愛知県弁護士会、名古屋市、県により構成している連絡会の取組をさらに充実させるとともに、えせ同和行為排除のための相談及び啓発活動を一層推進します。

6 外国人
(1) 現状と課題
今日、国際化の進展・浸透は著しく、情報化の進展とあいまって、かつて経験したことのないほど激しく人やモノが国境を越えて動いており、本県でも外国人訪問者や在住外国人数が増加してきました。
本県の空港から入国する外国人に関しては、当地域の重要性が国際的に浸透してきたことなどにより、外国航空会社が相次いで乗り入れを開始し、さらに平成17年の中部国際空港開港により運行回数も増えたことから大幅に増加し、平成19年(2007年)には10年前(平成9年(1997年))の約2.3倍の59万6千人に達しました。
また、本県の外国人登録者数は、平成19年(2007年)末で222,184人であり、平成9年(1997年)の124,675人と比較すると約1.8倍で、全国の増加率を上回る伸びを見せています。本県の特徴は、製造品出荷額が昭和52年(1977年)から連続日本一という厚い集積を誇る製造業が提供する職場を求めてやってきた日系人が増加していることであり、特にブラジル人は平成19年(2007年)12月末現在で80,401人と全国の25.4%を占め、都道府県別で全国第一位となっています。このほか、大学等に通う留学生数についても、平成19年(2007年)には5,774人で、平成2年(1990年)の約3倍となっています。
我が国においても、人種・民族等を理由とするあらゆる差別の撤廃を定めた「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する条約(人種差別撤廃条約)」を平成7年(1995年)に批准しているところですが、このような外国人の増加に伴い、言語、文化、習慣、価値観の違いによる誤解などから、近隣住民との摩擦が生じたり、相互理解が不十分であることによる外国人に対する差別や偏見などの人権問題が生じています。県民意識調査でも、外国人が不利益な取扱いを受けることについて、「外国人に対する理解の不足から生じている」が約半数を占めています。
また、本県内には、戦前からの歴史的経緯を背景に持つ韓国・朝鮮国籍等の特別永住者も数多く生活しています。現在の特別永住者の多くは日本で生まれ、日本で育っているのにもかかわらず、これらの人々に対する無理解や差別・偏見が未だに解消されていません。
こうした中、国籍や民族などのちがいにかかわらず、すべての県民が互いの文化的背景や考え方などを理解し、ともに安心して暮らせ活躍できる地域社会づくりが重要な課題となっています。

(2) 施策の方向
本県では、国際化推進施策の方向性を示す新たな計画として、平成20年(2008年)3月、「あいちグローバルプラン」及び「あいち多文化共生推進プラン」を策定しました。両プランに基づき、「アジアのあいち、世界のあいち」をめざした本県のグローバル化の一層の推進と多文化共生社会の形成による豊かで活力ある地域づくりの着実な推進を図るために、「人種差別撤廃条約」の基本理念を踏まえ、県民の国際理解を促進し、学校教育での外国語教育、多文化共生の視点も踏まえた国際理解教育の充実や、民間国際交流・協力活動及び多文化共生推進に向けた取組みの支援などを進めることにより、異なる文化的背景や考え方を持つ人々との共生を目指します。
さらに、様々な外国人の文化・習慣を理解した上で、外国人の声も可能な限り反映しつつ、総合的な生活・活動支援に取り組んでいきます。

ア 県民の国際理解の促進

県内各地で、国際化関連のシンポジウムや国際理解、多文化共生理解のための講座等が実施されていますが、引き続き、それらの実施・支援に努め、県民が参加しやすい国際理解の機会提供に努めます。
特に、21世紀の国際社会の担い手となる若い世代への国際理解の機会提供に積極的に努めます。

イ 学校教育における外国語教育・国際理解教育の推進

国際化の進展に対応し、諸外国の人々の生活や文化を理解し尊重するとともに、我が国の文化と伝統を大切にする態度の育成を重視していく必要があります。
そのために、外国語指導助手を活用するなどして、学校教育における外国語教育の振興を図り、多文化共生の視点も踏まえた国際理解教育を進めます。

ウ 外国人への情報提供の充実・相談体制の整備

生活情報誌、観光情報誌、県政概要など各種情報提供出版物等を充実させていくとともに、その多言語化にさらに取り組んでいきます。
また、引き続き、外国人の各種相談に多言語で対応していくとともに、滞在の長期化に伴い、より複雑で多様化する問題に対応するため、多文化ソーシャルワーカーによる個別支援を行います。

エ 在住外国人が暮らしやすい環境の整備

外国人の増加・定住化傾向が高まる中、外国人の自立を促し、教育、労働、居住、医療等といった生活全般にわたる支援の充実を図ります。
中でも、日本社会で育つ外国人の子どもたちの教育は喫緊の課題であり、地域をあげて外国人の子どもたちの日本語学習を支援していきます。

オ  就労対策の推進

日本の労働慣行、労働関係の法律、健康保険・労働保険等の社会保険の知識が少ない外国人労働者に対して、パンフレットを作成し、配付することにより、労働関係知識を理解してもらうよう努めます。
また、外国人労働者の適正な雇用等を推進するため、「外国人労働者の適正雇用と日本社会への適応を促進するための憲章」を広く普及していきます。

カ 地域環境・都市基盤整備

在住外国人や来訪外国人が安心して働き、学び、生活していくことができるよう、文化・スポーツ施設、ショッピング施設、観光地、宿泊施設など外国人が多数利用する場所で、公共サインの外国語・ピクトグラム(絵による表示)併記を進めていくなど、外国人にもわかりやすく、親しみやすいまちづくりの促進に努めます。

7 HIV感染者等
(1) 現状と課題
エイズの原因であるHIV(エイズウイルス)の感染経路は限られており、また、その感染力は強くないため、正しい知識を持って行動すればHIVの感染を予防することは可能ですが、全国のHIV感染者及びエイズ患者(以下「HIV感染者等」という。)の数は、毎年、増加の傾向が続いています。
HIV感染症の治療は、近年、非常に進歩してきており、抗HIV薬の投与によりウイルスの増殖を抑え、エイズの発症を抑えることが可能になってきています。しかしながら、今のところウイルスを体内から無くすことは不可能であり、終生、薬剤を服用しなければなりません。このため、医療費が相当な負担になることから、「身体障害者福祉法施行令」の一部改正により、平成10年(1998年)4月1日からHIV感染者等が免疫機能障害として障害認定の対象となり、支援体制が整備されました。
一方、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(以下「感染症法」という。)の施行(平成11年(1999年)4月1日)に伴い、「後天性免疫不全症候群の予防に関する法律」は廃止されました。「感染症法」は、過去にハンセン病、HIV感染者等に対するいわれのない差別や偏見が存在したという事実を踏まえ、感染症の患者等の人権を尊重しつつ良質かつ適切な医療の提供を確保し、感染症に迅速かつ適確に対応するという視点に立ち、感染症対策を総合的に推進するために制定されたものです。
HIV感染症の予防及びまん延の防止に関する施策の実施にあたっては、「感染症法」の規定により、国が作成した「後天性免疫不全症候群に関する特定感染症予防指針」(以下「指針」という。)に基づき、HIV感染症の予防を総合的に推進するため、国、地方公共団体、医療関係者、NGO(非政府組織)等が共に連携してHIV感染の拡大の抑制、感染者等に対する人権を尊重した良質かつ適切な医療の提供等に取り組んでいくこととされました。
エイズがHIVというウイルスによって引き起こされる病気であり、数ある感染症の中の一つに過ぎないということが理解されれば、HIV感染者等が差別や偏見の対象になるはずがありません。HIV感染者は、たまたまHIVというウイルスを持っている人であり、HIVの感染経路とその感染力を正しく理解している人であれば、HIVを持っている人と握手を交わすことに何ら抵抗がないはずです。私たちは、こういった真実をしっかりと見つめていかなければなりません。
また、ハンセン病(以前は「らい」と呼ばれていました。)については、「らい予防法」が平成8年(1996年)4月に廃止されるまで、患者の終生隔離を中心とした政策が実施されてきました。
ハンセン病は、治らない病気、帰ることができない病気、怖い病気との誤ったイメージから偏見、差別を生み続けました。この問題は、患者本人はもとより、本人が療養所に入所した後も、地域社会ではその家族等の日常生活に影響を及ぼす状況が続き、今もなお残っています。「らい予防法」廃止の意義と人権が共存する社会実現の理念について、正しい理解を広めていくことが重要な課題です。

(2) 施策の方向
12月1日は、WHO(世界保健機関)が定めた「世界エイズデー」です。本県では、平成5年度(1993年度)から12月1日を含む一週間を「愛知県エイズ予防強化週間」とし、集中的に予防啓発運動を実施しています。しかしながら、依然としてHIV感染者の増加を止めることができません。国際化された現代社会では、人から人へ移る感染症に国境をつくることはできず、個人個人が防衛するしかありません。そのために、県は正しい情報、知識の提供者としての役割を今後とも果たしていく必要があります。特に、指針において個別施策層としている青少年、外国人、同性愛者、性風俗産業の従事者及び利用者へのアプローチは関係機関の協力がなくては不可能であり、NGOなど民間活力の協力も必要ですので、それぞれ連携を図っていきます。
エイズについての正しい知識が普及できれば、差別・偏見は自ずと解消されるはずです。本県では、今後とも様々な知識啓発活動に合わせて、エイズに対する差別・偏見の撤廃のシンボルとされているレッドリボンの主旨の普及を推進していきます。
一方、平成20年6月11日「ハンセン病問題の解決の促進に関する法律」が成立し、地方公共団体の責務として「国と協力しつつ、その地域の実情を踏まえハンセン病の患者であった者等の福祉増進を図るための施策を策定し、実施すること」が明記されました。ハンセン病に対する偏見・差別の問題は重い歴史と受け止め、より一層継続してあらゆる機会を通して、ハンセン病に対する正しい知識の普及啓発活動を推進します。また、療養所への訪問、回復者との交流を行うなどにより理解を深め、人権が共存できる社会構築に努めます。

8 様々な人権をめぐる問題
重要課題として、女性、子ども、高齢者、障害者、同和問題、外国人、HIV感染者等を取り上げましたが、人権に関する問題は多種多様であり、この他にも様々な問題が論議されています。例えば、アイヌの人々、犯罪被害者、刑を終えて出所した人々、同性愛者、婚外子、ホームレスなどの問題です。また、情報化社会の進展などにより、インターネット上の電子掲示板やホームページへの差別的情報の掲示、個人情報の流出、プライバシーの侵害など、私たちの身近なところで新たな問題が生まれており、これらに対しても取組が必要です。
社会情勢の変化や新たな問題にも、この行動計画の趣旨に沿って的確に対応していきます。


計画の推進

本計画の推進にあたっては、以下の点に留意して進めます。

(1) 人権教育・啓発に関する行動計画を総合的、効果的に推進し、県民の人権尊重意識の高揚をさらに図っていくため「人権施策推進本部」を中心とした全庁的な取組を進めます。行動計画の実施にあたっては、推進本部の下、関係部局相互の緊密な連絡調整を図り、総合的、効果的な関係施策の推進に努めるとともに、関係部局においては、この行動計画の趣旨を十分踏まえ、関係施策を実施します。

(2) 社会の複雑多様化や情報化、高度化など時代の流れの中で、人権問題も多種多様化し、新たな問題も発生しています。時代の要請、ニーズに合った施策の実施に努めます。

(3) 様々な差別意識の解消を図り、すべての人の人権尊重の意識を高めていくためには、広範な取組を進めることが必要であり、国、市町村その他の公的機関や民間団体等の果たす役割も大きなものがあります。それぞれの実施主体の連携の上、各分野において、人権尊重の社会を実現するための取組を進めます。
 また、特に住民に身近な立場にある市町村については、この行動計画の趣旨に沿った取組を展開するよう期待します。

(4)人権を取り巻く社会情勢の変化等によって、この行動計画を変更する必要性が生じた場合には、その見直しを行います。