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地方公共団体関係資料

改定岡山県人権政策推進指針
情報の種類 地方公共団体関係資料
タイトル 改定岡山県人権政策推進指針
時期 2006/02/01
主体名 岡山県
【 内容 】

改定岡山県人権政策推進指針


改訂にあたって
 私たちが生きている21世紀は「人権の世紀」といわれており、人権の尊重が平和の基礎であるという共通認識のもと、世界各国でお互いの人権が尊重される社会を築くため、様々な取組が進められています。
 本県では、平成13年3月に、人権施策の基本的な方向付けとなる「岡山県人権政策推進指針」を策定し、すべての人々が社会の一員としてお互いに尊重し、支え合いながら、共に生活する「共生社会おかやま」の実現を目指し、国や市町村、関係団体、県内に住むすべての皆様と一緒になって「人権が尊重される岡山県づくり」に取り組んでおります。
 しかし、差別、虐待、いじめなど様々な人権問題が後を絶たず、また、国際化、少子化、高齢化の進展など社会状況の急速な変化に伴って人権問題は多様化、複雑化するとともに、インターネットの急速な普及など技術革新が進む中で、新たな人権問題も生じております。
 このため、社会情勢の変化に適切に対応するため、岡山県人権政策審議会から「岡山県人権政策推進指針の見直しについて」の答申をいただき、これに基づき「改訂岡山県人権政策推進指針」を策定いたしました。
 このたびの改訂を契機に、協働の県政で「人権が尊重される岡山県づくり」に一層取り組んでまいりたいと考えております。そして、すべての人々がかけがえのない存在として尊重される社会を実現するため、一人ひとりが身近なことから「人権」について考え、生活や活動の中で主体的かつ積極的に取り組まれることを期待しております。
 終わりに、改訂にあたり貴重な御意見をいただきました皆様に厚くお礼申し上げます。

 平成18年2月 岡山県知事


第1章 背景

 20世紀の前半、二度にわたる世界戦争の惨禍を経験した人類は、世界の平和と人類の自由・平等を実現するためには、人権が何よりも尊重されなければならないという国際的な認識に達し、昭和23年(1948年)に国連総会で「世界人権宣言」が採択されました。国連は、その後、「世界人権宣言」を実効あるものにするため、「国際人権規約」「人種差別撤廃条約」「女子差別撤廃条約」等、多くの人権に関する条約の採択を進めてきました。
 しかし、半世紀近く続いた冷戦が終結した後も世界各地で紛争や内戦等が絶えず、飢餓や難民問題など深刻な人権問題が表面化したため、国際社会全体で人権問題の解決に向けて取り組む機運が高まり、平成6年(1994年)の国連総会では、平成7年(1995年)から10年間を「人権教育のための国連10年」とする決議を採択し、各国において国内行動計画が策定されました。
 平成13年(2001年)9月11日、アメリカ合衆国で起こった同時多発テロを契機として、人種・宗教にかかわる国際間の緊張と紛争はにわかに高まり、人権に対する脅威はさらに深刻化してきました。平成14年(2002年)の国連総会では、「国連持続可能な開発のための教育の10年」が採択され、環境、社会、経済、人権など多岐にわたる持続可能な開発を各国において進めることになっています。
 また、平成16年(2004年)の国連総会では、「人権教育のための国連10年」の終了を受けて、「人権教育のための世界プログラム」を平成17年(2005年)1月から開始することを採択しました。
 我が国においては、日本国憲法第13条で「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」と規定し、「基本的人権の尊重」をその基本原理としています。また、第14条で「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的、社会的関係において、差別されない」と規定し、法の下の平等を保障しています。
 しかし、憲法施行後においても、人間の尊厳と自由・平等の基本的人権にかかわる様々な問題が存在することから、同和対策に関する一連の特別法や男女雇用機会均等法など、各種の人権にかかわる諸法令が施行され、多くの取組が進められました。平成9年には、国連の呼びかけに応じて、「『人権教育のための国連10年』国内行動計画」が策定されました。
 また、平成11年には、「人権擁護施策推進法」に基づいて人権擁護推進審議会から「人権教育・啓発に関する施策の推進についての答申」が出され、これを受けて、平成12年に「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律(以下「人権教育・啓発推進法」という。)」が施行され、この法律に基づき、平成14年3月には「人権教育・啓発に関する基本計画」が策定されました。また、平成13年には「人権救済制度の在り方についての答申」が出され、現在、人権侵害による被害を救済するための新たな制度が検討されているところです。
 さらに、平成17年4月には、行政機関や民間事業者に対して個人情報の適正な取扱いを義務付けた「個人情報の保護に関する法律(以下「個人情報保護法」という。)」等が全面施行されました。
 本県においては、平成10年3月、岡山県人権政策審議会(以下「県審議会」という。)を設置して、「岡山県の人権政策のあり方等について」の諮問を行いました。県審議会では、この諮問を受けて、関係団体をはじめ広く県内の意見を聴きながら、慎重に審議を重ね、平成12年3月に知事に答申(以下「12答申」という。)を行いました。
 県では、この答申に基づき、平成13年3月、「岡山県人権政策推進指針(以下「13指針」という。)」を策定し、人権啓発・教育を積極的に推進するとともに、様々な分野において人権関連の諸施策を総合的、計画的に実施してきました。
 この取組によって、県民の人権問題への関心が高まり、生命の大切さ、人間の尊厳性についての自覚も深まり、着実にその成果が上がっているものと考えています。
 一方、国際化、少子化、高齢化の進展など、社会状況の急速な変化に伴って、人権問題は多様化、複雑化するとともに、インターネットの急速な普及など技術革新が進む中で、新たな人権問題も生じています。
 このため、人権を取り巻く社会情勢の変化等を考慮して、このたび、「13指針」の見直しを行い、21世紀を真の「人権の世紀」とする「共生社会おかやま」の実現を目指すこととしました。今後は、この「改訂指針(以下「指針」という。)」に基づいて、人権尊重を基調とする総合的な人権行政を積極的に推進することとします。



第2章 指針の基本的考え方

1 人権の概念

 憲法では、自由権、平等権、社会権などが基本的人権として保障されています。
 また、平成11年の人権擁護推進審議会の答申では、「人権とは人々が生存と自由を確保し、それぞれの幸福を追求する権利である」と規定されており、この考えを受けて、この指針では、より具体的に、人権の概念を、人間が共通して持つ基本的な願い・要求・生きがいは「自己実現、自立、社会参加」であり、人権とは、この「自己実現、自立、社会参加」の要求を権利として一体的にとらえたものとしています。
 世界人権宣言においては、「すべての人間は、生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である」とされていますが、その自由と平等は、人が「自己実現、自立、社会参加」を達成するための前提として保障されなくてはならないものであり、このことをすべての人が自覚し認め合うことにより、人権としての意味を持つものです。

 翻って、21世紀は「人権の世紀」といわれています。
 21世紀における急速な科学技術の進展と社会の変化は、私たちの日常生活の様々な面に大きな影響を与えるとともに、すべての人が人権侵害の当事者となりうる状況を生み出しました。
 私たちは一人ひとりが、新たな人権感覚を身に付けるとともに、日常生活における取組の大切さに気付き、それぞれの役割を積極的に果たすことが必要です。
 ここでは、新たな視点で人権について考えるため、「地球環境と人権」「科学技術と人権」「企業と人権」をキーワードとして取り上げました。このほかにも、人権の尊重が平和の基礎であるという視点から「平和と人権」、人間形成に極めて大きな役割を果たす教育に視点をおいた「教育と人権」、情報化の進展が急速に進む中メディアに視点をおいた「メディアと人権」、など、いろいろな視点から考えることができます。
 21世紀を真の「人権の世紀」とするため、県民一人ひとりが、これらの新たな人権感覚も身に付け、社会の一員としての役割を果たすことを期待するものです。

○ 地球環境と人権
 20世紀は科学技術の目覚ましい進歩により、私たちに多くの利便性がもたらされた一方で、地球の温暖化やオゾン層の破壊など、深刻な地球環境の問題が起こった世紀でもありました。
 私たちが生きていくためには、生存に適した地球環境の保全が不可欠です。このため、かけがえのない地球環境を守り、お互いの生命と生活を守るため、一人ひとりが行動することが大切です。

○ 科学技術と人権
 21世紀は、科学技術の更なる進歩が予想される一方で、私たちに新たな人権課題への対応が求められています。
 世界各地で人間の遺伝子解読が進められ、医療面での大きな貢献が期待されていますが、利用方法によっては、新たな人権侵害を引き起こすおそれがあります。個人の遺伝子情報は、私たちにとって、プライバシーに関する究極の個人情報です。このため、その取扱いに関する国際的ルールの確立とともに、私たち一人ひとりに新たな自覚が求められています。

○ 企業と人権
 企業が私たちの生活に及ぼす影響は、ますます大きくなっており、企業も社会を構成する一員として、利益の追求だけでなく、環境や人権等に配慮して行動する「企業としての社会的責任」の自覚が求められています。
 消費者のためには、安全で環境への影響が少ない商品の提供や顧客データの保護、従業員のためには、機会均等の保障や安全で働きやすい職場づくり、地域社会のためには、工場災害などの事故防止や騒音・汚濁防止など、あらゆる人々や環境に配慮した経営が求められています。

2 人権行政の基本理念

- 「共生社会おかやま」の実現を目指して -
 岡山県政の基本理念は「創造と共生」です。その理念を生かしつつ、さらに、すべての人が障害の有無、性別や国籍の違い、年齢などに関係なく、お互いに尊重し支え合い、生き生きと明るく暮らしていくことを目指すノーマライゼーション(*1)やユニバーサルデザイン(*2)の考え方にのっとり、県民の敬愛と協力による「共生社会おかやま」の実現を目指します。
 このため、次の基本的考え方に重点をおいて施策を進めます。

(1) 人権意識の高揚
 人権が尊重される社会を築くため、県内に暮らすすべての人々が、人間の生命の大切さと尊厳性について自覚を深め、人権問題を単に知識として理解するのでなく、自らの課題として受け止め、日常生活の中で人権問題に直感的に気付く感性や人権感覚をはぐくみ、あらゆる場面に生かすことができるよう人権意識の高揚を図ることが大切です。

(2) すべての人々が共存できる社会の構築
 人権の基本は、人間の存在の多様性を前提として、お互いの異なる考え方や生き方を認め合うことですが、日本社会には、昔から同一性、均質性を志向する風潮があり、いろいろな場合に異なることを理由に疎外したり差別することがあると指摘されています。
 違いを認め合い、多様性を受容する社会を目指すことが重要であり、交流や体験活動などを積み重ねながら、自他の人権を尊重し差別を許さない社会的風土を培うことが大切です。

(3) すべての人々の努力
 人権が尊重される社会を実現するためには、すべての人々がお互いの人権を尊重し支え合う社会づくりを進めていかなければなりません。他者の人権に配慮しないで自分の人権のみ主張することから様々な問題が生じています。権利の主張には義務と責任が伴い、当然他者の人権への配慮が求められます。
 県民一人ひとり自らが人権の主体であり、人権尊重社会の担い手としての自覚を促すような取組を進めることが重要です。

(*1)ノーマライゼーション(normalization):障害者等を特別視するのではなく、社会の中で普通の生活が送れるような条件を整えるべきであり、共に生きる社会こそノーマルな社会であるとの考え方です。
(*2)ユニバーサルデザイン(universal design):バリアフリーの考え方をさらに進め、年齢や性別、障害の有無などにかかわらず、すべての人に利用しやすい建物や製品、サービス・情報などを提供していく考え方です。


3 指針の性格

 ○ この指針は、県が進める人権施策の基本的な方向性を示すとともに、同和問題、女性、子ども、障害者、患者、高齢者、在住外国人など、様々な分野の課題に取り組むための基本方針と具体的施策の方向を示し、相まって総合的、体系的に人権施策を推進するためのものです。
   併せて、県民、団体、企業などに対して、それぞれの立場で、人権尊重の精神を基本として、その生活や活動の中で、主体的かつ積極的に取り組むことを期待するものです。

 ○ 国の「人権教育・啓発に関する基本計画」に対応するとともに、県において新たな各種の計画を策定し施策に取り組む際は、この指針の趣旨を尊重して推進することとします。


第3章 人権をめぐる現状と課題

1 人権をめぐる現状

 我が国においては、憲法が基本原理とする「基本的人権の尊重」を保障するため、関係諸制度の整備など、多様な取組が進められてきましたが、今日もなお様々な人権問題が存在します。
 とりわけ、我が国固有の人権問題である同和問題については、その解決に向けて特別措置法に基づく重点的な取組が進められ、全般的には着実な成果が得られましたが、今もなお、産業・就労面や教育上の問題、結婚を中心とする差別意識などの課題があります。
 また、日常生活や職場における、男女差別や、障害者、患者、在住外国人にかかわる差別なども多く指摘されています。
 最近では、人間関係の多様化や地域環境の変化に伴う子どもや高齢者への虐待やいじめ、配偶者等からの暴力などの問題や、情報化の進展に伴うインターネットによる人権侵害や、プライバシーをめぐる問題、さらには、メディアの報道により犯罪被害者等や臓器提供者などの人権が侵害される場合や、刑を終えて出所した人、性的少数者にかかわる人権問題も指摘されています。
 環境問題や交通事故、増加傾向にある自殺などについても、大切な生命や身体、生活にかかわる人権問題として配慮すべきです。
 このほかにも、出生前診断(*3)と関連した障害児者や、遺伝子診断・遺伝子治療と関連した患者の人権などは、今後、検討すべき課題とされています。
 こうした背景には、現代社会が内包している問題として、物の豊かさや生活の便宜を求める風潮、心の問題を軽視する傾向、地域社会のつながりや人間関係の希薄化、効率性と成果を優先する価値観などが挙げられます。 
 さらに、身勝手な自由や無責任な権利の主張など、民主主義、人権尊重主義の安易なはき違えが生んだ弊害も指摘されています。
 このような反省に立って、今、人々が人権にかかわる自らの責任を自覚することが求められています。広く世界に目を向け、貧困や病気などに苦しんでいる人々が多く存在している現状を認識し、まず自分にできることを行動に移すことが大切です。

(*3)出生前診断:子宮内の胎児の状態を、いろいろな検査方法により出生前に把握する診断法です。

2 人権侵害・差別問題への対応

 「12答申」では、「人権を、同和地区の人々とか障害者、女性であることなどを理由として否定し、その実現を阻害することが人権の侵害であり差別であると考える。」「人権侵害と差別の概念は必ずしも一致するものではないが、現実に起こる人権侵害は社会的な差別を内包していることが多い。また、人権をめぐる諸問題の中で、本質的で、緊急を要するのは差別を原因とするものであり、差別問題は人権に関する施策の中でも重点的に取り組むべきものである。」という考え方を示しています。
 差別や偏見の背景には、前近代的な社会通念や因習、経済優先の現代社会が内包する人と人との分断の構造などがあり、また、差別問題の中には、同和問題のように我が国の歴史の中で発生した固有の問題をはじめ様々な差別の実態が存在するので、その対応については歴史性、社会性、共通性等に留意することが大切です。


第4章 人権の視点に立った行政の在り方

 本県は、「共生社会おかやま」の実現を目指し、個人の人権と公共の福祉に配慮しながら人権尊重の精神を基調とする総合的、体系的な人権行政を積極的に推進します。

1 人権行政の担い手

 県行政のすべての業務は人権とかかわっているとの認識に立ち、職務のいかんを問わず、職員一人ひとりが人権行政の担い手であることを自覚して業務に当たることが大切です。

 ○ 人権行政の担い手としての自覚が、すべての職員の日常業務に反映されるように、また、特に人権にかかわりの深い業務を所掌する部署の職員については、人権に関する深い知識と自覚を持って業務に当たるよう研修に努めます。

 ○ 人権の視点から、常に、業務の在り方や進め方について点検を行います。また、窓口対応などの県民への接遇や、業務の取扱いについても人権に配慮して取り組みます。また、業務上知り得た個人情報の管理などについては、「岡山県個人情報保護条例」「個人情報保護法」等を遵守します。

2 人権行政の進め方

 ○ 憲法第13条の精神に基づいて、県民の基本的人権の尊重を旨として諸施策を講じていきます。

 ○ 最近の人権問題には複雑化、多様化したものが多いことから、人権啓発を総合的、効果的に推進するため、「人権啓発マトリックス」(*4)等により関係部・課が緊密な連携を図っていきます。

 ○ 国、市町村、関係機関、団体、学校、事業者や、県内に住むすべての人々が果たすべき役割と責任を明確にし、積極的な連携・協働を図っていきます。

 ○ 法の整備等が必要なものについては、他の都道府県とも連携して国に働きかけます。

(*4)人権啓発マトリックス:人権啓発を総合的、効果的に推進するため、人権課題について特に関係の深い庁内5部局9課で構成しています。

3 「共生社会おかやま」の実現に向けての取り組み

 ノーマライゼーションやユニバーサルデザインの考え方を広く普及させ、「共生社会おかやま」づくりを目指した社会環境を整備します。

 ○ 性別、年齢、障害の有無、社会的身分、門地、民族、人種、国籍等に関係なく、県内に住むすべての人々が社会の一員として、「共生社会おかやま」の実現に向けた取組に参加し、その個性と能力が発揮できるよう、ハード・ソフトの両面から取り組みます。

 ○ 「人権教育・啓発推進法」に基づき、人権意識高揚のための啓発・教育を総合的に推進します。

 ○ 国の「人権教育・啓発基本計画」の趣旨に沿った取組を進めます。

 ○ 専門的な教育や研修等を企画し実施できる人材の養成、指導者の資質の向上、人権に関する情報の収集・提供に努めます。

 ○ 「おかやまユニバーサルデザイン推進指針」に基づき、県の施策全般にユニバーサルデザインの考え方を導入するとともに、この考え方の浸透を図るための普及啓発に取り組みます。

 ○ メディアの積極的な活用を図るとともに、メディアに対しては番組制作や出版等に当たって人権への配慮と視点を取り入れるよう期待します。

 ○ 県内に住むすべての人々が、自ら人権尊重社会の担い手としての自覚を持ち、主体的にその役割と責任を果たすことができるような取組を進めます。

 ○ 社会の進展や変革に伴い新たに発生する人権問題についても、速やかにその把握に努め、適切に対応していきます。


第5章 人権施策の推進方向

1 人権啓発・人権教育

「人権教育・啓発推進法」では、人権教育及び人権啓発に関する施策の推進について、国、地方公共団体及び国民の責務を明らかにしています。

(1) 啓発・教育の推進
 この指針では、人権啓発を人権尊重思想の普及高揚を図ることを目的に行われる各種の研修・情報提供・広報活動等とし、人権教育を基本的人権の尊重の精神が正しく身に付くよう学校教育・社会教育において計画的に実施される教育活動としています。
 人権尊重社会を実現するためには、一人ひとりが人権を正しく理解し、人権意識を高めるとともに、知的理解にとどまらず、情操や感性に訴えて、自らの課題として日常生活の中に生かせる人権感覚が身に付くような啓発・教育を進める必要があります。
 また、人間の多様性を広く認め合い、少数者の存在や相互の違いを当然のこととして受け止める社会的風土の形成が大切であり、その中で、自他の人格と個性を認め合い尊重する心、他人の気持ちを理解し思いやる心、正義と公正を重んじる心など、豊かな人間性を高めていくことが重要です。
 人権啓発・教育の手法については、「法の下の平等」「個人の尊重」といった人権一般の普遍的な視点からのアプローチと、個別具体的な問題からのアプローチとがあり、この両面からのアプローチにより、人権尊重についての理解が深まるものです。
 このため、様々な人権課題に取り組んできた経験と成果を生かして、身に備わった人権意識や人権感覚をはぐくみ、差別や虐待などの人権侵害を許さない人権尊重社会の実現を目指して、幅広い啓発・教育に取り組みます。

 ○ 啓発・教育は、家庭、学校、地域、職場などのあらゆる場で、対象者の年齢、発達段階、経験などに応じて発展的に進めます。また、人権にかかわりが深い業務や職業に従事する者に対する研修を実施します。

 ○ 啓発は、人権週間(12月4日~10日)や憲法週間(5月1日~7日)などの節目となる機会をとらえて、「人権啓発マトリックス」を中心に関係機関と密接な連携を図りながら進めます。

 ○ 啓発・教育の内容や学習教材等については、明瞭で分かりやすいよう工夫するとともに、新しい人権問題にも配慮します。また、啓発・教育が押し付けにならないよう注意して進めます。

 ○ 講義形式の研修会だけでなく、座談会方式の「人権車座」、具体的な体験や事例を取り上げたワークショップ(体験的参加型学習)、現地研修などを引き続き実施します。

 ○ テレビ、ラジオ、新聞などのマスメディアやインターネットなどの効果的な活用を図るとともに、民間のアイディアや手法を活用します。
   また、メディアに対しては、人権に関する情報の積極的な発信や、人権を大切にする心をはぐくむ番組や報道の在り方などについての自主的な配慮を促していきます。

 ○ NPO、NGO(*5)、ボランティアなど民間団体との連携・協働を進めるとともに、各種の情報提供などの支援を行います。また、これらの団体が連携・協働するための中核的な媒体となる情報提供システムの構築について検討します。

 ○ 情報化社会が一層進展する中で、生涯学習の場や学校の情報教育に人権尊重の視点を正しく位置付け、人権問題に適切に対処できるよう努めます。

(2) あらゆる場を通じた啓発・教育の推進

ア 学校等における教育

① 学校等における人権教育の推進
学校等においては、自分や他の人の大切さが認められるような環境をつくることが大切であることから、人権に配慮した教育指導や学校運営に努めます。
 幼児期は、生涯にわたる人間形成の基礎が培われる極めて重要な時期です。このため、就学前においては、幼児の発達の特性を考慮し、生命の大切さに気付かせるとともに、自分も他の人も大切にしようとする態度を育てるなど、人権尊重精神の芽生えをはぐくみます。
 小学校、中学校、高等学校等においては、人権教育推進体制を確立し、児童生徒がその発達段階に応じて、人権の意義、内容や重要性について理解するとともに、自分とともに他の人の大切さを認め、それを様々な場面で態度や行動として現すことができる力を身に付けるよう努めます。具体的には、各教科等の指導計画に位置付けて取り組みます。
 また、一人ひとりを大切にする教育を推進するとともに、学校の教育活動全体を通じて、他人の考えや気持ちが分かるような想像力や共感的な理解力、表現力やコミュニケーション能力、人間関係を調整する能力等を培います。取組を進めるに当たっては、学校園間や家庭、地域との連携を図ります。
 また、研究推進校園による研究実践の成果や学習教材等の資料を収集・作成し、提供します。

② 交流・体験活動の重視
 多様な集団活動や豊かな自然体験、ボランティアなどの社会体験、障害者、高齢者、外国人等との交流など豊かな体験の機会の充実を図ります。ボランティア活動などへの参加は、交流、体験を通して差別や偏見の実態を学び、人権問題についての認識を深める場ともなるものであり、今後、さらにこのような活動の場や情報の提供に努めます。

③ 高等教育機関における人権教育の推進
 大学・短期大学等の高等教育機関に対しては、大学独自の教育・研究活動を尊重しながら、人権尊重の理念についての理解をさらに深め、それまでの教育の成果を確かなものにするよう人権教育の充実を求めていきます。

(*5)NPO、NGO:NPOは民間非営利組織といわれ、利潤追求や利益配分を行わず自主的、自発的に公益的な活動を行う民間組織・団体のことです。また、NGOは非政府組織という意味で、国境を越えて活動を展開している組織、活動を意味する言葉として使われます。

イ 家庭、地域における啓発・教育

① 家庭における人権教育の推進
 家庭は、子どもの人権意識の基礎が培われる場であることを考慮し、子どもたちに豊かな情操や善悪の判断力、他人に対する思いやりの心などが育つよう、保護者の養育能力の向上を目指した学習機会の充実や情報の提供、地域における相互の連携等、家庭教育に対する支援に努めます。

② 地域における啓発・教育の推進
 人権についての正しい理解と認識を深め、日常生活の中で態度や行動に現われるような人権感覚が身に付くよう、市町村や関係機関と連携して、学習者のニーズや地域の実情に応じた多様な学習機会の充実に努めます。また、市町村の推進体制の整備やリーダーの育成、公民館等の社会教育施設の活用などを支援します。

③ 交流・体験活動等の促進と学習プログラムの開発
 多様な集団活動や、障害者、高齢者、外国人等との交流、ボランティア活動等、体験・参加型の活動を取り入れた学習を促進します。また、学習プログラムの開発に努めます。

ウ 県民、企業などに対する啓発・教育
 県民に対しては、人権について正しい理解と認識を深め、実践的な人権感覚が身に付くよう、テレビ、ラジオ、新聞などのマスメディアを活用した広報や啓発、誰もが気軽に参加できるイベントの実施、社会の状況に合わせた講演会の開催、児童・生徒を対象とする人権啓発ポスターの募集、人権啓発キャッチフレーズ「ひろげよう あふれる笑顔と 思いやり」や人権啓発シンボルマークを活用した啓発資料の作成など、様々な手法を活用した啓発・教育を推進します。なお、推進に当たっては、「人権啓発活動ネットワーク協議会」や市町村等との連携のもとで進めます。
 企業などに対しては、企業としての社会的責任を自覚し、男女共同参画社会(*6)の実現をはじめ、公正な採用選考や配置昇進など、人権に配慮した適切な対応が図られるよう、一層の指導・啓発に努めます。

(*6)男女共同参画社会:男女が社会の対等な構成員として、自らの意思によって社会のあらゆる分野における活動に参画する機会が確保され、男女が均等に政治的、経済的、社会的及び文化的利益を享受することができ、共に責任を担う社会をいいます。

エ 特定の職業に従事する者に対する研修等

① 公務員
 行政に携わるすべての職員が人権について正しく理解し、人権の保障が行政の根幹であることを自覚して職務を遂行するよう、人権問題について計画的に充実した研修を実施し、資質の向上に努めます。

② 教職員及び社会教育関係職員
 教職員の資質と指導力の向上を図るため、研修の一層の充実を図ります。特に、教職員の言動が児童生徒の人権を侵害することがないようにします。
 社会教育主事や公民館職員等については、幅広い識見のある指導者の確保に努めるとともに、研修や資料の配布などを通じて、資質と指導力の向上に努めます。

③ 警察職員
 警察職員一人ひとりが、被疑者、被害者、被留置者等、関係者の人権に配慮した警察活動を遂行するよう、警察学校での研修や職場における各種教養等の機会を通じて、職務倫理教養の徹底に努めます。

④ 医療、保健、福祉関係者
 医師、歯科医師、薬剤師、看護師などの医療従事者等については、インフォームドコンセント(*7)の考え方に基づいて、患者の人権やプライバシーに留意した医療が確保されるよう、関係団体による研修を促進します。
 また、民生委員、児童委員、保育士、介護福祉士、ホームヘルパー等の福祉関係者については、研修を通じて人権意識の高揚に努めます。

⑤ 消防職員
 消防職員については、住民の生命を守るという視点に立って業務を遂行することが必要であり、消防学校等において人権意識の高揚を図る教育を進めます。

⑥ メディア関係者
 情報化が進展する中で、メディアは啓発・教育の媒体としての役割が大変大きく、また、社会意識の形成にも大きな影響力を持っているため、それぞれの機関・団体において自主的に研修等に取り組まれるよう促します。

(*7)インフォームドコンセント(informed consent):患者に対して、病名や診療目的、検査法や治療法に係る複数の選択肢について、効果、治療成績、予後等に関する適切な説明を行い、患者の納得、同意のもとに医療を行うことです。

2 人権救済

 今日、差別や虐待など、様々な態様の人権侵害が繰り返されており、被害者のために実効的な救済を図ることが、啓発・教育と並んで重要な課題となっています。

(1) 相談・支援体制の整備と連携
 現在、人権侵害にかかわる相談・支援などは、国では法務局と人権擁護委員により実施されています。県においても各種の相談窓口を設置し様々な相談に対応しており、市町村や社会福祉団体なども相談窓口を設けて相談を受け付けています。 
 しかし、従来の相談機関の対応では、多様化、複雑化する人権侵害に迅速かつ適切に対応できない場合が生じています。このため、各相談機関の活動内容の周知に努めるとともに、国、市町村、関係機関を含めた個別相談機関のネットワーク化を進めるなど、機関相互の連携の強化に努めます。
 また、人権侵害を受けた者への相談・支援に当たっては、心情を配慮し対応するよう努めます。
 さらに、相談を担当する職員や相談員については、様々な人権侵害とその解決手法に関する専門的な研修を実施するなど、資質の向上に努めます。

(2) 救済
 国においては、平成16年4月に新しい「人権侵犯事件調査処理規程」(法務省訓令)を施行しています。新規程では、人権侵犯事件に関する被害者等からの被害の申告に迅速かつ適切に対応すること、被害者に処理結果を通知することなどが明記され、また、特別事件(一定の重要・困難な事件)については、従来からの同和問題に関する人権侵犯、重大な差別的取扱いなどに加え、最近の実情に合うよう、セクシュアル・ハラスメント(*8)、児童・高齢者・障害者虐待、配偶者等からの暴力などの人権侵害が新たに加えられています。
 県では、人権侵害を受けている女性や子どもなどに対しては、従来から、女性相談所や児童相談所において一時保護を行っているほか、様々なニーズに柔軟に対応するよう努めています。一時保護については、入所者が安心して保護期間を過ごせるよう、安全対策の強化をはじめ施設機能の充実に努めるとともに、自立支援等を進めます。
 また、近年、児童や高齢者への虐待やいじめ、配偶者等からの暴力などが大きな社会問題となっており、県においても各種計画を策定し、被害者の救済等に取り組んでいるところです。
 なお、様々な人権侵害に対して、迅速かつ簡易な方法で幅広く必要な対応を図るための法の整備などを国に要望するとともに、その動向を踏まえながら適切に対応します。

(*8)セクシュアル・ハラスメント (sexual harassment) :他の人を不快にさせる性的な言動のことです。継続的な人間関係において、優位な力関係を背景に、相手の意思に反して行われる性的な言動で、単に雇用関係にある者の間のみでなく、様々な生活の場で起こり得るものとされています。


第6章 分野別施策の推進

1 同和問題

(1) 現状と課題

 我が国固有の人権問題である同和問題は、人類普遍の原理である人間の自由と平等に関する問題であり、同時に、憲法によって保障された基本的人権にかかわる課題です。
 昭和40年の同和対策審議会答申(以下「同対審答申」という。)において、「同和問題は、もっとも深刻にして重大な社会問題であり、その早急な解決こそ国の責務であり、同時に国民的課題である」とされました。この同対審答申を受けて、昭和44年に「同和対策事業特別措置法」が制定され、以来、県では、国や市町村との密接な連携のもとに、早期解決のための諸施策を積極的に推進しました。
 その後、施策の進展に伴い、「地域改善対策特別措置法」「地域改善対策特定事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律(以下「地対財特法」という。)」の限時法が相次いで施行され、また、期限の延長が図られるなどしました。さらに、平成8年5月には、地域改善対策協議会から「同和問題の早期解決に向けた今後の方策の基本的な在り方について(以下「地対協意見具申」という。)」、政府に対して意見具申されました。
 これらの施策の推進と地区住民の自主的な努力によって、生活環境の改善をはじめとする物的な基盤整備は着実に成果を上げ、様々な面で存在していた較差は大きく改善されました。人々の同和問題についての認識と理解も進み、全般的に着実に進展を見ました。
 このため、特別法に基づく同和対策は、平成14年3月の「地対財特法」の失効に伴いすべて終了しました。県では、その後の同和行政を一般対策で的確に推進しています。
 このように、同和問題は多くの人々の努力によって解決に向かってはいるものの、今なお、結婚問題を中心とする差別意識などの課題があり、また、最近では、インターネット上の差別書き込みなどのように、匿名性と拡散性を特徴とする差別事象が発生するなど、差別意識の解消にいたっていません。
 また、産業・就労面や教育上の課題もあります。
 さらに、高額図書の購入強要をはじめとする「えせ同和行為」(*9)のように、同和問題の解決を阻害する悪質な事象も依然として発生しています。

(*9)えせ同和行為:同和問題はこわい問題であるという人々の誤った意識に乗じ、同和問題を口実にして企業などに不当な利益や義務のないことを求める行為をいいます。えせ同和行為は、同和問題に関する差別意識の解消に向けた人権教育・啓発活動の効果を一挙に覆し、同和問題に関する誤った認識を人々に植え付けるなど、同和問題の解決にとって大きな阻害要因となっています。

(2) 基本方針

 県では、同対審答申の「部落差別が現存するかぎり同和行政は積極的に推進されなければならない」との趣旨や、地対協意見具申の「特別対策の終了すなわち一般対策への移行が、同和問題の早期解決を目指す取組の放棄を意味するものではない」との精神のもと、我が国固有の人権問題であり、深刻かつ重大な差別問題である同和問題の解決なくして人権の確立はないという考えに立ち、「地対財特法」失効後の同和行政は一般対策の中で的確に対応していきます。
 とりわけ、人権意識高揚のための啓発・教育に積極的に取り組んでいくことが重要であり、これまでの取組で得られた成果や、同和問題固有の経緯等を十分考慮しつつ、家庭、学校、地域、職場などのあらゆる場を通じて啓発・教育を進めていきます。
 また、インターネット上の差別書き込みや差別文書などのような極めて悪質な差別事象が後を絶たないことから、差別などの人権侵害を許さない人権尊重社会の実現を目指して、身に備わった人権意識や人権感覚をはぐくんでいきます。
 さらに、国、市町村、関係機関・団体等と連携して、関係者の自立向上、えせ同和行為の排除、同和問題についての自由な意見交換のできる環境づくりなどに、引き続き積極的に取り組んでいきます。
 また、産業・就労面や教育上の課題については、地域のニーズを的確に把握しながら、行政施策等の情報提供や各種制度の活用など、較差解消や自立の促進に向けて適切に対応していきます。

(3) 具体的施策の方向

ア 差別意識の解消に向けた啓発の充実

① 啓発内容と手法の充実
 差別意識の解消のためには、県民一人ひとりが同和問題について正しい理解を深め、差別の解消に主体的に取り組むよう、人権意識高揚のための啓発活動を計画的に実施することが必要です。
 このため、特に研修会では、人の苦しみや悲しみを共有し、人権問題について自ら考え、行動に移すことができるよう、「人権車座」やワークショップ、さらには、江戸時代末期の岡山藩における画期的な人権獲得の取組である「渋染一揆」の現地研修など、参加型・体験型の手法を今後も積極的に取り入れます。その際、世代による意識の違いなど、学習者の状況に即した啓発を進めるよう配慮します。
 また、インターネット上の差別書き込みや差別文書などのような極めて悪質な差別事象に対しては、岡山地方法務局や市町村と連携し、迅速かつ適切に対応するとともに、こうした事象の再発防止のため、今後の啓発等に活かします。

② あらゆる場における啓発活動
 地域における啓発については、市町村をはじめ隣保館や社会教育施設の役割が極めて重要であり、学校教育や社会教育との連携を図りながら、地域の実情に即した啓発が実施されるよう、リーダーの育成や講師の派遣、啓発資材の提供などを積極的に行います。

 特に、隣保館は人権啓発のための住民交流の拠点としての役割を担っており、各種の自治組織や文化・福祉団体等との連携により、地域に密着した活動を通じて生活に根ざした啓発が推進されるよう市町村を支援します。
 また、企業に対する啓発については、就職の機会均等の確保や、えせ同和行為の排除を徹底する必要があります。このため、公正な採用選考システムの確立と人権尊重に向けた主体的な取組の促進を図り、明るく働きやすい職場づくりが進められるよう啓発に努めます。

③ 指導者の養成
 啓発活動は指導者の資質と指導力に負うところが大きく、優れた指導者の養成と確保が大切です。このため、関係機関と連携して計画的に、リーダー、啓発指導員、企業内における公正採用選考人権啓発推進員などの充実とその資質・指導力の向上を図ります。 

④ えせ同和行為の排除に向けた取組
 法務省が実施した調査結果では、依然として、えせ同和行為が横行し、被害も後を絶っていないことから、県では、「えせ同和行為対策関係機関連絡会(構成:岡山地方法務局、県警察本部、岡山弁護士会、県、岡山市)」による連携を強化し、同和問題の解決を阻害するえせ同和行為の排除に向け、今後とも粘り強く啓発に努めます。

イ 差別のない社会を目指す教育の推進
 人権意識の高揚を図り、部落差別を解消して差別のない民主主義社会の実現を目指すため、同和教育を、人権教育の目標や基本的な考え方、推進の視点等を示した全体構想である人権教育推進体系に正しく位置付けて推進します。その際、学校教育と社会教育の連携を図ったり、学校の教育課程に適切に位置付けたりするなどして、これまで積み上げられた教育の成果や同和問題固有の経緯等を考慮して推進します。
 また、他の人権問題との関連を図り、広く県民の共感が得られる学習内容や体験的参加型学習の手法を取り入れるなど、一層の創意工夫を図ります。

① 学校教育の充実
 児童生徒の発達段階に応じて、単に知的理解だけにとどめるのではなく、同和問題の解決を自らの課題としてとらえ、主体的に取り組もうとする実践的態度を養います。
 また、保護者や地域の人々との連携を図り、各学校の教育課題を明らかにしながら取り組みます。
 さらに、児童生徒一人ひとりの個性を伸長し、学ぶ意欲の喚起を図るなど自立支援に努めます。

② 社会教育の充実
 同和問題についての正しい理解を深め、自らの課題として差別意識の解消に主体的に取り組むことができるよう、学習機会の充実に努めるとともに、地域の実情や学習者のニーズを明確にし、学習内容や方法等に創意工夫を加え、取組の一層の充実に努めます。
 また、地域住民の交流を促進して、効果的な学習活動を展開するとともに、市町村や関係機関等との連携を図り、多様な学習情報の提供に努めます。

ウ 課題解決のための各種施策の推進

① 産業の振興と就労・職業の安定
 小規模企業者に配慮しながら、中小企業者の経営基盤の強化、経営の安定等を図るとともに、農業分野においても、経営の安定のための生産技術や経営に関する指導を行うことが必要です。また、就職差別の解消や、不安定就労者のための知識・技能の習得等の施策を推進し、雇用の安定を図る必要があります。
 このため、経営指導員や職業相談員などの活用を図るほか、融資制度等に関する情報提供を積極的に行います。
 また、国との連携のもと、事業主等に対し、公正な採用選考システムの確立を図るため、公正採用選考人権啓発推進員の設置を促進します。

② 教育・文化の向上
 人権の視点に立った社会教育施設の有効な活用を促進し、地域住民の交流やボランティア活動、自立促進や地域課題解決のための活動等の充実に努めます。

③ 社会福祉の充実
 保育については、「岡山県人権・同和保育基本方針」に基づき、一人ひとりの子どもの人格と個性を尊重し豊かな人間性をはぐくむ保育の充実に努めます。
 隣保館は、地域社会全体の中での福祉の向上や人権啓発のための住民交流の拠点となる開かれたコミュニティーセンターとして位置付けられています。このため、福祉事務所、公共職業安定所(ハローワーク)、社会福祉協議会、ボランティアなど幅広い機関・団体等とも連携を図りながら、生活上の各種相談事業や、人権の視点に立った社会福祉等に関する総合的な事業、人権問題についての理解を深めるための事業が積極的に展開されるよう支援し、これらの取組を通じて、自他の人権が尊重される地域づくりを目指します。また、隣保館職員の資質向上に向け、各種研修等の充実に努めます。

④ 生活環境の充実
 住宅や道路等の物的な生活環境については、様々な面で存在していた較差は大きく改善されていますが、今後とも事業の実施に当たっては、地域の状況等を把握して適切に対応します。

2 女性

(1) 現状と課題

 昭和50年(1975年)の国際婦人年を契機として、性差別撤廃に向けて世界的な行動が始まりました。我が国においても、「男女雇用機会均等法」等の諸条件の整備を進め、昭和60年「女子差別撤廃条約」を批准、平成11年「男女共同参画社会基本法」を制定、平成12年「男女共同参画基本計画」、平成17年12月に「男女共同参画基本計画(第2次)」を策定するなど、条件整備と施策の推進を図っています。
 本県においても、国際的な動きを背景に推進体制を整備してきましたが、平成13年3月「おかやまウィズプラン21」を県の基本計画として策定し、同年10月に「岡山県男女共同参画の促進に関する条例」を施行して、各種施策を総合的かつ計画的に推進してきました。
 平成16年の県民意識調査によると、固定的な性別役割分担意識などには改善の動きが見られるものの、依然として、家庭、地域社会、職場などで、人々の意識の中に形成された男女差別やそれに基づく組織運営・しきたりなどが残っています。
 また、女性が職業を持つことが当然視される時代となり、女性の就業機会の拡大や子育てと仕事の両立支援など、働きやすい社会環境づくりが求められています。
 さらに、平成13年の「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律(以下「配偶者暴力防止法」という。)」の制定に伴って、配偶者等からの暴力防止対策の強化が求められるとともに、女性の生涯を通じた性と生殖に関する健康とその権利(*10)の保障も重要性を増しています。

(2) 基本方針

 男女共同参画社会とは、男女が社会の対等な構成員として、自らの意思によって社会のあらゆる分野の活動に参画する機会が確保され、それによって、男女が均等に政治的、経済的、社会的及び文化的利益を享受し、共に責任を担う社会であり、その早期実現は緊急の課題です。
 このため、①男女の人権の尊重、②「社会的性別」(ジェンダー)(*11)の視点、③女性のエンパワーメント(力をつけること)(*12)の促進という3つの基本的な視点に立って、「新おかやまウィズプラン」を策定し、各種施策を総合的かつ計画的に推進します。

(*10)性と生殖に関する健康とその権利:平成6年(1994年)にカイロで開催された国際人口・開発会議で提唱された概念で、安全な妊娠・出産、性感染症の予防等を含む女性の生涯を通じた性と生殖に関する健康とその権利を指します。

(*11)社会的性別(ジェンダー)(gender):人間には、生まれついての生物学的性別「セックス/sex」があります。一方、社会通念や慣習の中には、社会によってつくり上げられた「男性像」「女性像」があり、このような男性、女性の別を「社会的性別」(ジェンダー)といいます。

(*12)エンパワーメント(empowerment):個人あるいは社会的集団として、自らの意識と能力を高め、自律的な力をつけることです。

(3) 具体的施策の方向

ア 男女共同参画社会づくりに向けた意識の改革
 岡山県男女共同参画推進センター(愛称:ウィズセンター)を中心に、男女共同参画の視点に立って、最新の情報や知識を提供し意識の改革を促進するとともに、社会的気運の醸成と、制度・慣行の見直しを進めます。
 県の男女共同参画に関する施策の実施状況について、年次報告書を作成・公表し、進行管理を行います。市町村、国、関係団体等とネットワークを整備し、連携を強化します。
 学校においては、男女平等教育の充実を図り、個人の尊厳、男女の平等と相互協力等についての理解を深め、進んで行動することができる力の育成に努めます。
 さらに、教職員の研修の充実に努め、男女平等意識の高揚を図ります。

イ あらゆる分野への男女共同参画の推進
 男女共同参画社会の実現には、女性があらゆる分野において政策・方針決定過程へ参画することが重要であり、このため、積極的な改善措置を講じることが望まれます。
 行政分野においては、県の審議会等の委員や管理職の女性比率を高めるとともに、市町村の取組を支援するため現状調査や情報提供などを行います。教育分野においては、校長、教頭への女性登用に努めます。さらに、女性の参画が少ない民間分野への参画を促進するため、県の公共工事の入札参加資格審査制度について、男女共同参画の視点を導入します。
 家庭や地域社会においても、男女共同参画が促進されるように、地域の中核となるリーダーの養成や、各種委員等として活躍できる人材の養成を行います。

ウ 男女の人権が尊重される社会の構築

① 女性に対する暴力の根絶
 配偶者等からの暴力、性犯罪、セクシュアル・ハラスメント、ストーカー行為など、多岐にわたる女性に対する暴力の根底には、共通して、女性の軽視があります。
 女性に対する暴力は重大な人権侵害であるとの認識に立ち、暴力の発生を防ぐ環境づくりを推進するとともに、相談体制を強化するなど被害者を支援する体制の充実に努めます。
 特に、配偶者等からの暴力については、「配偶者暴力防止法」に基づいて策定した県の基本計画により、関係機関と連携し、かつ、ボランティアやNPOと協働し、被害者の保護と自立支援に取り組みます。
また、セクシュアル・ハラスメントや、ストーカー行為などの暴力を防止するため、人権尊重を基本とした教育を推進します。

② 生涯を通じた女性の健康支援
 女性には、生涯を通じ、妊娠や出産への特有のかかわりから、男性とは異なる健康上の課題があります。
 このため、女性の生涯を通じた性と生殖に関する健康の重要性について普及・啓発を進めるとともに、妊娠・出産期における周産期医療対策や母子健康対策を推進します。
 さらに、思春期や更年期など女性のライフサイクルに合わせた心と体の健康づくりを支援するため、情報提供や相談・支援体制の充実を図ります。
 また、男女がお互いの性について理解し合い、自他の心身を大切にする性教育や、エイズ教育を推進し、性感染症や望まぬ妊娠などを防止します。

エ 多様な生き方を基礎とする活力あふれる地域社会づくり
 男女が家庭生活と社会生活に平等の立場で協力できるよう、子育てを支援する社会づくりへの取組が求められており、「男女雇用機会均等法」や「次世代育成支援対策推進法」の定着促進を図るほか、子育てや介護に対する多様な支援を行います。
 また、再就職を希望する女性や起業を志す女性を対象に講座を実施するなど、意欲と能力のある女性が社会で活躍できるよう支援します。
 活力あふれる地域社会づくりには、男女が平等の立場で能力を発揮し、県民、ボランティアやNPOなど民間、行政が手を携えて活動するパートナーシップ社会の構築が重要です。県民との協働による男女共同参画推進の事業をはじめとして、NPO等の先駆的な発想や専門性を活かした事業を推進します。

3 子ども

(1) 現状と課題
 我が国では、憲法の精神に従って、昭和22年に「児童福祉法」、昭和26年に「児童憲章」が制定され、すべての児童の幸福を図ることを理念として、諸施策が進められてきました。
 また、平成6年(1994年)に批准された「児童の権利に関する条約」(1989年国連総会採択)の「子どもの最善の利益」を優先させるという趣旨を反映して「児童福祉法」「児童虐待の防止等に関する法律」等の改正、その他施策の充実が図られてきました。
 さらに、平成15年には、少子化の進行や子どもを取りまく環境の変化に対応するため、「次世代育成支援対策推進法」「少子化社会対策基本法」が施行されました。
 本県においても、このような内外の動向に即しながら、子どもの人権を尊重し保護するための多様な取組を展開してきました。
 しかし、近年、家族形態の変化、家庭の教育力の低下や地域社会のつながりの希薄化など、子どもを取り巻く家庭や地域の環境が変化する中で、テレビ、ラジオ、新聞などのマスメディアや、インターネット、携帯電話などの情報通信網の急速な普及による情報の氾濫が要因と考えられるいじめや非行、児童虐待などの問題が生じています。
 このような状況の中で、次代を担うすべての子どもたちが健やかに生まれ育つ環境づくりに向けて、平成16年12月、「新岡山いきいき子どもプラン」を策定し、県政の最重要課題の一つと位置付けた子育て支援に取り組んでいるところです。

(2) 基本方針
 児童の権利の基本理念を定めた「児童憲章」や「児童の権利に関する条約」の趣旨を考慮し、子どもの人権の尊重及び保護に向けて取り組むとともに、家庭教育に対する支援の強化、有害環境の浄化、いじめや非行等の被害防止策の強化や、被害者に対するカウンセリングの充実等、救済・支援体制の確立など、子どもを安心して育てられる環境の整備に取り組んでいきます。
 また、子どもを対象とする消費社会化の進展が、子どもの人間性の自然な発達を阻害している現状に目を向け、子ども自身が次代の担い手としての責任を自覚して主体的な生き方を身に付けるように、学校、家庭、地域が連携して、子どもたちの「豊かな心と生きる力」をはぐくむ教育を推進します。
 さらに、子どもの社会活動への参加を促進し、様々な体験を通して人間性豊かな子どもを育成するとともに、いじめや非行等を容認しない社会全体の意識の高揚を図ります。

(3) 具体的施策の方向
ア 啓発の推進と意識の高揚
 「児童の権利に関する条約」や「新岡山いきいき子どもプラン」について広報啓発活動を推進するとともに、児童虐待・いじめの防止などについても啓発を行い、行政はもとより、家庭、学校、地域社会、企業などがそれぞれの責任を自覚し、子どもを健やかに育てるための環境づくりに努めるよう、県民意識の高揚を図ります。
 また、いじめや少年非行等は、大人自身の在り方が問われている問題でもあることから、青少年の健全育成は「大人の責任」であることを意識付けるための家庭や地域に対する広報啓発を積極的に推進します。
 学校では、非行や薬物乱用等を防止するため、直接子どもの規範意識に訴える指導を行います。

イ 子育て支援の推進

① 子どもの心と体をはぐくむ家庭づくり
 子どもは家庭で育つことが基本であり、子どもの発達段階に応じて、子どもをはぐくむ場である家庭づくりを支援していくことが必要です。
 このため、子どもがのびのびと育ち、誇りを持って、自分の個性や能力を最大限に伸ばせるよう、親子の心と体の健康をはぐくむ母子保健・医療対策の充実や、家庭の子育て力の充実を図ります。また、あらゆる機会を活用し、家庭教育に関する学習会や情報提供を行うとともに、心身の健全育成を図るための食育を推進します。

② 子どもが健やかに育つ地域づくり
 子どもが健やかに育つためには、地域ぐるみの子育て支援、子どもの生きる力の育成、安心・安全な子育て環境の整備が必要です。
 このため、子育て中の親と子どもたちが集まり交流や育児相談ができる「つどいの広場」づくりや、児童館、公園などの安全な遊び場の整備を進めます。
 また、地域や学校、PTA等の関係機関が連携して、環境の浄化などを通して非行のない地域づくりを推進するとともに、子育て支援組織の育成、世代間交流や社会参加活動を通じて子どもの生きる力を育成し、地域ぐるみで子育てをする社会を目指します。

③ 子どもを安心して生み育てる社会環境づくり
 子育てに心理的・経済的負担を感じている人、仕事との両立が難しいと感じている人のために、相談体制や保育サービスの充実、子育てと仕事の両立支援、住宅環境の整備など、子どもを安心して生み育てることができる社会環境づくりが必要です。
 このため、子育てやしつけ、いじめ、不登校、非行等、子どもにまつわる様々な問題についての相談体制を充実します。また、個性や発達段階に応じた保育ニーズへの対応、互いに認め合い支え合う心を育てる保育の実施、子育てと仕事の両立支援のためのきめ細やかな保育サービスの提供、出産・子育てがしやすい職場環境の整備を推進します。

④ 子どもをまもり支援する体制づくり
 保護者は、子育てについての一義的責任を有しています。しかし、近年、児童虐待相談件数は増加の一途をたどり、虐待事例も深刻化しており、児童虐待防止対策は喫緊の課題となっています。また、家庭で養育できない子どもや障害のある子どもの支援を行うことが必要です。
 このため、児童虐待の発生予防、虐待を受けた子どもの保護と自立の支援、再発防止に重点を置いた取組を行うとともに、児童虐待防止地域ネットワークの拡充を進めます。そして、児童虐待を認めない社会づくりに向けて、啓発活動を推進します。また、家庭で養育できない子どもの支援として、児童養護施設や里親制度の充実、専門的ケアが必要な障害のある子どもへの支援体制の充実を図ります。

ウ 人権教育の推進と社会環境の整備

① 人権教育・心の教育等の推進
 学校教育においては、子どもの人権が尊重される環境づくりに努めるとともに、児童生徒が人権について知的理解を深め、自他を大切にする人権感覚を身に付けるよう取り組みます。
 また、生命の大切さ、正義感や倫理観、他人への思いやりなど、子どもの豊かな心をはぐくむため、ボランティア活動などへの参加や自然体験、高齢者との交流等、様々な体験の機会を通じて心の教育を推進します。
 障害児教育については、障害のある児童生徒が自己の持つ能力や可能性を最大限に伸ばし、自立し、社会参加するための基盤となる「生きる力」を培うために、障害の実態に応じた適切な指導を進めます。
 また、盲・聾・養護学校・特殊学級等の児童生徒が、他の小・中学校の児童生徒や地域の人々と活動を共にする交流教育を積極的に行うとともに、障害のある児童生徒やその教育について、人々の正しい理解と協力が得られるよう啓発活動を推進します。

② 家庭教育への支援
 保護者は、自身の考え方や言動が子どもの人間形成に与える影響が極めて大きいことを自覚し、人権を大切にする生き方を身をもって示すことが必要です。特に、乳幼児期の保護者のかかわり方や家庭の役割が重要となります。
 そこで、学習機会や情報の提供等、保護者のための学習環境の整備を図ります。また、家庭教育の悩みや不安に対する相談事業を実施し、また、幼稚園・保育所・学校、家庭、地域の連携・協力の支援に努めます。
 さらに、父親の家庭教育への参加促進を図り、併せて、家庭教育の課題及び学習機会や相談窓口の案内を内容とする家庭教育手帳を配布するなど、家庭の教育力の向上に努めます。

③ 社会環境の整備
 青少年の健全な成長を阻害するおそれのある書籍、雑誌、映像ソフト、インターネット上の有害情報等、有害な社会環境から青少年を保護するとともに、社会環境の浄化に努めます。
 また、子どもたちが幅広い人間性を身に付けるよう、家庭、学校、地域社会が連携を深め、自然体験や職場体験など、様々な体験活動の機会を充実させます。
 学校、市町村、ボランティア等、関係機関・団体との連携を強化し、いじめや非行の防止を図るとともに、相談機関相互の連携を強化して、いじめなどの被害を受けた子どもや問題を持つ少年等のための相談体制を確立し、継続的、かつ、きめ細かな支援を行います。
 また、学校の余裕教室や公民館等を利用して「子どもの居場所」を開設し、様々な体験活動や交流活動を実施するなど、地域ぐるみで子どもを育てる環境の整備を進めます。

4 障害者

(1) 現状と課題
 障害者の人権については、昭和56年(1981年)の完全参加と平等をテ-マとした国際障害者年を契機として、障害者福祉の基本理念である「ノーマライゼーション」の考え方が次第に定着し、社会全体の意識も、障害者が地域の中で共に生活することは自然なことであり、制度や建物等の生活環境なども、障害者に配慮したものにするという考え方に変わってきています。また、障害者施策も、施設中心から在宅重視へ、入院治療から在宅ケアへと転換しつつあります。
 国においては、平成5年に「障害者基本法」が改正され、施策の対象となる障害者の範囲に、精神障害者が明確に位置付けられました。また、平成7年には「障害者プラン~ノーマライゼーション7か年戦略~」が策定されました。
 本県においては、平成11年策定の「岡山県障害者長期計画」と、その後の状況変化を考慮し、平成15年3月策定の「岡山県障害者長期計画・第2期実施計画」に基づいて、障害者施策の総合的、計画的な推進を図っているところです。
 近年、障害者が持てる能力を最大限に発揮し、自らの意思と力で家庭や地域社会の中で障害のない人と共に生活し、積極的に社会へ参加したいという要求が強まっています。
 しかしながら、現実には、障害者の日々の生活や社会参加、雇用の場の確保、情報の収集等において、偏見や差別など心理的なもの、建物の段差など物理的なもの、不十分なコミュニケーション手段など、様々な障壁があることは否めません。
 平成11年には、人権に配慮した医療の確保及び社会復帰の促進を目的として「精神保健福祉法」を改正、平成16年9月には「精神保健医療福祉改革ビジョン」が策定され、「入院医療中心から地域生活中心へ」を基本として、今後10年間で社会的入院患者(受入条件が整えば退院可能な者)を解消することとしました。
 平成16年10月、社会保障審議会障害者部会において、障害の種別を超えた共通の新たな障害保健福祉サービス体系の構築を目指す「今後の障害者保健福祉施策について(改革のグランドデザイン案)」が示され、その後、「障害者自立支援法」が平成17年11月に公布されました。
 障害は、誰にとっても無縁のものではありません。障害はその人の一つの個性であるという考え方もあります。
 障害者が一人の人間として尊重され、その権利が保障されるよう、障害者の人権施策をより一層推進していくことが必要です。

(2) 基本方針
 ノーマライゼーションの理念に基づき、障害のある人もない人も、社会の一員として互いに敬愛し支え合いながら、地域社会の中で共に生活できる社会の実現に向け、障害者の人権を保障する施策を推進しなければなりません。
 このため、平成11年12月に制定した「岡山県福祉のまちづくり条例」に基づき、障害者に対する偏見や差別など人々の意識の中にある障壁を取り除く「心のバリアフリー(*13)」を進めるとともに、障害者が障害のない人と同様に必要な情報やサービスを享受し、行動の主体性を確保できるよう、自己決定の尊重や、生活と働く場の確保、情報提供の充実、生活環境の整備等を支援する施策を推進します。
 また、障害者の能力が十分発揮されるよう、自立と社会参加の促進を図るとともに、施策の推進に当たっては、障害者の意見が十分反映できるよう努めます。

(3) 具体的施策の方向
ア 心のバリアフリーの推進
① 広報・啓発活動
 ノーマライゼーションの理念を普及させるため、「障害者週間」の周知、福祉講座・講演会の開催、バリアフリー体験会の実施など、広く県民が障害及び障害者に対する理解を深めるよう各種行事を実施します。
 また、インターネット等による福祉情報の充実や、各種広報媒体の活用により、県民に分かりやすく親しみのある広報・啓発活動を推進します。
② 障害者との交流の促進
 日常生活を通じて、障害のある人と障害のない人とがふれあい、交流を行うことは、障害についての相互理解を深め、思いやりの心をはぐくむために極めて重要です。
 このため、全国障害者スポーツ大会への参加や、各種のレクリエーション、文化活動、ボランティア活動などを通じて、障害者との交流を積極的に推進します。

イ 自己決定の尊重
① 利用者の立場に立ったサービス
 行政が決める方式から利用者が選ぶ方式へと福祉サービスが変革する中で、障害者や家族にとって、親や身近な親族の亡き後の生活維持や財産管理などは大きな問題です。
 今後、成年後見制度の活用や財産管理にとどまらず、日常生活の相談・支援や各種サービスの利用援助を行う地域福祉権利擁護制度(*14)の活用などにより、その利益を保障し、自己決定権の尊重を進めます。
 また、IT技術の活用により、障害者の個々の能力を引き出し、自立と社会参加を支援するとともに、障害により、デジタル・デバイド(IT技術の利用機会及び活用能力による格差)が生じないようにするほか、障害特性に対応した情報提供の充実を図ります。
② サービスの質の向上
 施設サービスの内容や評価等に関する情報を公開し、自主評価や第三者の点検などにより事業運営の透明性を確保し、障害者の立場に立ったサービスとなるように改善を進めるとともに、生活全般にわたる相談や、保健・医療・福祉サービスの利用援助、情報提供などを総合的に処理できる体制の整備を図ります。

(*13)バリアフリー(barrier free):障害のある人が社会生活をしていく上で、障壁(バリア)となるものを除去するという意味です。もともと住宅建築用語で登場し、段差等の物理的障壁の除去をいうことが多いですが、より広く、障害者の社会参加を困難にしている社会的、制度的、心理的なすべての障壁の除去という意味でも用いられます。

ウ 地域生活の支援
① 保健・医療
 障害の発生予防対策を進め、また、施設や家庭での療育指導の支援体制の充実を図り、障害の早期発見、早期治療を推進します。さらに、障害を軽減するためのリハビリテーション医療の充実整備を進め、障害者の自立支援を図ります。
 精神科病院への入院については、障害者本人の意思によることを基本とし、精神医療審査会の運営や実地指導、指導監査を通じて、できる限り開放的な処遇となるよう指導するほか、措置入院等であっても自己決定を尊重し、十分な権利を保障する観点から、今後とも入院患者の自由な通信手段等を確保し、退院請求や処遇改善請求制度の適正な運用に努めます。
② 福 祉
 ノーマライゼーションの理念のもとに、障害者が地域社会の中で普通の暮らしができる社会を実現するためには、多様できめ細かな福祉サービスの一層の充実が必要です。
 このため、生活の場としてのグループホームや福祉ホーム、働く場や活動の場としての通所授産施設や共同作業所等の整備などに努めます。また、必要に応じて、ホームヘルプサービス等の在宅サービスの提供や「身体障害者補助犬法」の周知・啓発を行うとともに、障害児者の一貫した総合的な相談支援体制の充実を図るなど、障害者の地域社会での生活を支援していきます。
③ ボランティア
 障害者の自立や社会参加の様々な面で、ボランティアの支援が大きな役割を果たしています。
 このため、コミュニケーション支援ボランティアや、精神障害者に係るメンタルヘルスボランティア(*15)等の養成・確保に努めます。また、学校教育、地域生活等幅広い分野において、ボランティア活動に対する理解を深め、県民、関係団体等が各種のボランティア活動に積極的に参加できるよう支援します。
④ 生活環境
 障害者の安全で快適な生活と社会参加を促進するため、建物、道路、公園、公共交通機関、住宅等のバリアフリー化を積極的に行い、ユニバーサルデザインの考え方も推進する必要があります。
 このため、「岡山県福祉のまちづくり条例」に基づき、病院、店舗、集会場、ホテル、官公庁舎など、特にバリアフリー化やユニバーサルデザインの考え方を促進する必要がある特定生活関連施設について、その新改築等に当たり指導及び助言を行います。

(*14)地域福祉権利擁護制度:認知症高齢者、知的障害者、精神障害者など判断能力が不十分な方に、情報提供・助言、申込手続の代行、福祉サービス利用料の支払い、苦情解決制度の利用援助など、地域生活を営む上で不可欠な福祉サービスの利用等の援助を行う仕組みです。

エ 自立と社会参加の促進
① 教育・育成
 障害児が早期に適切な療育・育成相談を受けられるよう、保健所や児童相談所の相談・支援体制の充実などを図るとともに、障害のある児童生徒が自己の持つ能力や可能性を最大限に伸ばし、自立と社会参加の基盤となる「生きる力」を培うよう、適切な指導と体制整備を図ります。
 また、障害のある人と障害のない人との交流を積極的に進めることにより、思いやり、支え合いの心が育つように、早期からの交流の機会の拡大を図ります。
② 雇用・就業
 障害者の就業の促進、雇用機会の拡大及び職業的自立を図り、社会参加を促進するため、自立に必要な訓練を行うとともに、就業に必要な生活能力や技能の習得訓練等の指導・支援を行い、就業の促進を図ります。
 一般の事業所等への就業が困難な障害者については、授産施設や地域福祉作業所などを充実させ、就労機会の拡大を図ります。

(*15)メンタルヘルスボランティア(mental health volunteer):地域、職場、学校等における心の健康づくりに協力が得られるボランティアのことで、県では精神保健福祉センターにおいて養成しています。

5 患者等

【ハンセン病】

(1) 現状と課題
ハンセン病は、らい菌による病原性の極めて弱い感染症であり、感染しても発病する可能性は極めて低く、また、発病しても現在では治療方法が確立されており、早期発見と早期治療により短期間で治癒する病気です。しかしながら、平成8年に「らい予防法」が廃止されるまで、療養所へ隔離する政策がとられ、患者や家族は偏見や差別を受けてきました。また、強制隔離政策終結後も、療養所入所者の多くは、それまでの長期間にわたる隔離により、家族や親族などとの関係を絶たれ、また、入所者自身の高齢化等により、病気が完治した後も療養所に残らざるを得ないなど、社会復帰が困難な状況にあります。
平成13年5月の熊本地裁での「らい予防法違憲国家賠償請求訴訟」の判決を受け、国は患者・元患者の方々に謝罪し、平成13年6月には、ハンセン病の患者・元患者の名誉回復及び福祉増進を図ることを目的とした「ハンセン病療養所入所者等に対する補償金の支給等に関する法律」が施行されました。
本県においては、「らい予防法」に基づく一連の施策の一端を担ってきたことを踏まえ、過去のハンセン病施策の実態を調査・検証し、今後、取り組むべき施策について提言していただくため、平成13年7月に「岡山県のハンセン病対策を振り返り正しい理解を進める委員会」を設置しました。この委員会からの意見書に基づき、社会復帰を支援する福祉施策を実施するとともに、県民に対しハンセン病に関する正しい理解と偏見・差別解消のための啓発事業に積極的に取り組んでいます。
 また、同じ間違いを繰り返さないため、「ハンセン病問題関連史料調査委員会」を設置し、県や市町村、療養所などに残る史料を調査して、かつてのハンセン病対策を振り返り、後世に伝えていくための史料収集を行っており、今後、史料集として発行することにしています。

(2) 基本方針
ア 偏見・差別解消のための啓発の実施
 ハンセン病に関する正しい理解と偏見・差別解消のため、「ハンセン病を正しく理解する週間」を中心に、きめ細やかな事業実施を工夫していきます。また、若い年齢層や高齢者など、世代に合わせた啓発事業を展開していきます。さらに、学校においては、児童生徒のハンセン病に関する正しい理解と認識を深める教育を進めます。

イ 療養所入所者の福祉増進施策の実施
 入所者の意向・要望を基本として、きめ細かな支援を実施します。社会復帰については、社会復帰支援員を設置するとともに、当面、住宅や医療等の確保が求められている状況を受けて、継続的に入所者及び親族や関係市町村等との連絡調整等の適切な支援を行います。

(3) 具体的施策の方向
ア 偏見・差別解消のための啓発の実施
 「ハンセン病を正しく理解する週間」を中心として、啓発ビデオ「人間回復の橋、心のかけ橋となれ」の貸出しや、ホームページ「みんなで描くひとつの道」による啓発、リーフレットや小冊子の作成配布、県広報紙等による啓発、啓発パネルの貸出し展示などを実施します。ハンセン病を正しく理解するための講演会の開催、県民が実施する地域交流事業への助成、語り部DVDを活用した各種研修会を実施します。
 高齢者等への理解を深めるために、社会教育活動として、生涯学習(出前講座等)の取組をさらに進めます。若い世代に対する啓発は、「ハンセン病は治癒する」「ハンセン病は病原性が弱く、医療技術の改善や薬剤開発により今日ではほとんど発病の可能性はない」ということを伝えます。
 学校においては、交流や保健指導など様々な教育活動の中で、ハンセン病に対する正しい理解と認識を深める教育を推進します。

イ 療養所入所者の福祉増進施策の実施
 里帰り、墓参り等については、個別案件ごとに意向を聞いて適切に対応します。また、療養所入所者と地域社会との交流についても支援していきます。
 社会復帰については、県医療ソーシャルワーカー等の社会復帰支援員による療養所への出張相談を実施し、社会復帰希望者の要望を考慮し、関係自治体や医療機関等と連絡・調整を図り、退所者については、県営住宅の優先入居や住宅費の一部助成等の支援、医療費や介護保険利用料の助成を行います。

【エイズ・HIV感染】

(1) 現状と課題
HIV感染症は、進行性の免疫機能障害を特徴とする疾患であり、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)によって引き起こされる免疫不全症候群のことを特にエイズ(後天性免疫不全症候群)と呼んでいます。エイズは、昭和56年(1981年)にアメリカ合衆国で最初の症例が報告されて以来、その広がりは世界的に深刻な状況にあります。我が国においても、昭和60年に最初の患者が発見されて以来、性的接触による感染を中心に拡大しています。
 エイズ患者やHIV感染者に対しては、疾患に対する正しい知識や理解の不足から、依然として偏見や差別が存在しています。しかし、HIV感染症は、その感染経路が特定している上、感染力もそれほど強いものではなく、正しい知識に基づいて日常生活を送る限り、いたずらに感染を恐れる必要はありません。また、近年の新しい治療薬の開発によってエイズの発症を遅らせたり、症状を緩和させることが可能になっています。
平成11年には、感染症患者の人権を重視した「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」が施行されました。今後は、患者に対する偏見や差別を解消し、人権尊重を念頭においた対策を推進していく必要があります。
本県においては、エイズに対する誤解や偏見をなくすとともに感染を未然に防ぐため、正しい知識の普及啓発に努めるとともに、全保健所での無料・匿名のHIV抗体検査の実施や、患者等が安心して適切な医療を受けられるよう、エイズ治療拠点病院を中心とした診療体制の整備を推進することにしています。

(2) 基本方針
ア 正しい知識の普及啓発
 エイズのまん延防止及びエイズ患者・HIV感染者に対する偏見・差別の解消を図るため、県民に対し、エイズに関する正しい知識の普及啓発を推進します。

イ 相談・検査体制の充実
 エイズに関する相談や検査を安心して受けることができるよう、相談・検査体制の充実を図ります。また、保健所職員等の資質の向上を図ることも重要です。
 さらに、行政窓口や病院等における対応において、HIV感染者等の側に立った、きめ細やかなプライバシー対策を行います。

ウ 診療体制の充実
 患者・感染者が安心して医療を受けることができる体制を整備するとともに、医療従事者の知識・技術向上を図ります。

エ 学校における教育・啓発
 教職員の理解を深め、指導力の向上を図るため、研修を充実していきます。また、児童生徒に対しては、学校教育計画に適切に位置付けて、発達段階に応じた指導を行います。

(3) 具体的施策の方向
ア 正しい知識の普及啓発
 「世界エイズデー」を中心に、街頭啓発キャンペーン、メディアを活用した啓発、保健所の講演会等、エイズに関する正しい知識についての啓発を推進し、エイズまん延防止とエイズ患者・HIV感染者に対する偏見・差別の解消を図ります。
 若年層のHIV感染に対する予防啓発を図るため、学校や地域の団体等へ、専門の講師や保健所職員を派遣する「エイズ出前講座」を実施します。特に、学校と連携し、県内の中学生を対象とする出前講座を重点的に実施します。

イ 相談・検査体制の充実
 各保健所においてプライバシーに配慮しながら、匿名相談、匿名による無料のHIV抗体検査の実施、迅速検査の導入等、感染不安者が安心して受けやすい体制を整備します。また、エイズ治療拠点病院にHIV抗体検査を委託し、検査機会の拡大も図ります。
 エイズ相談・検査業務の質の向上を図るため、保健所保健師等の研修を進めます。

ウ 診療体制の充実
 患者・感染者が身近な地域の医療機関で安心して医療を受けられるよう、エイズ治療拠点病院を中心とした診療体制を整備します。各拠点病院には、必要に応じ、カウンセラーを派遣するなど診療体制の充実を図ります。さらに、医療機関従事者の研修機会の拡大や積極的な情報交換を図ります。

エ 学校における教育・啓発
 学校においては、保健学習・保健指導と他教科等との関連を図りながら、系統的、計画的な性教育の指導計画の中に、エイズ教育を含めた指導を進めるとともに、小・中・高の連携に配慮します。また、研修を充実して指導者の資質向上を図り、学校、家庭、地域、関係機関との連携による取組を推進するとともに、子どもの発達段階に応じた指導を行います。

【その他の疾病等】

(1) 正しい知識の普及啓発
 ハンセン病やHIV感染症だけでなく、結核などの感染症、難病等についても、疾病に関する知識不足から、患者やその家族が差別的な扱いを受けることがあります。
 このため、こうした疾病についても、正しい情報の提供や、人々と患者会などとの交流、ボランティア活動への参加などを通じて、それぞれの疾病についての正しい理解と認識を深め、偏見や差別の解消を図ります。

(2) 自己決定の尊重
ア インフォームドコンセント
 平成9年の「医療法」改正に当たり、医療従事者等は、患者の立場に立った医療情報の提供や適切な説明を行い、患者の理解を得るよう努めることが盛り込まれました。
 こうしたことから、良質な医療を提供するため、医療における倫理性の確保を図りながら、医師、歯科医師は、病名や症状などの説明だけでなく、検査法や治療法にかかる複数の選択肢について、効果や治療成績、予後への影響、欠点などを説明し、患者自らの医療を自主的に選択できるようにすることが重要であり、医療関係団体が行う研修等を通じて、インフォームドコンセントの確立を推進します。

イ 診療情報の開示
 患者と医師が診療情報を共有することで、共同して疾病の克服に当たるなどのメリットがあり、秘密の保持等に留意した十分な開示が求められています。
 平成17年4月施行の「個人情報保護法」や、国の「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン」に基づき、手引きの配布や研修等を通じて、患者の自己決定権を尊重した診療体制の充実と診療情報の開示を促進します。

ウ 入院患者の人権
 結核や感染症で患者や感染者が入院する場合でも、可能な限り個人の意思を尊重し、十分な説明と同意に基づく入院を促すことを原則とします。また、まん延防止のために行われる強制力を伴った入院や就業制限の実施に当たっては、適正な手続きを通じて行います。

(3) プライバシーへの配慮
 カルテや医療費の請求に係る書類などには、患者の病状など重要な個人情報が含まれており、その情報の漏洩はプライバシーの侵害につながります。
 医療に関する個人情報については、「個人情報保護法」により、医療従事者等の守秘義務の徹底や、OA化の中で情報管理の徹底などを図ることとされており、医療関係団体が行う研修等を通じて、患者情報の保護が図られるよう啓発に努めます。
 また、臓器移植医療における情報開示の手法や範囲等については、臓器提供施設、社団法人日本臓器移植ネットワーク、移植施設等、それぞれが責任を持って決定することにより、臓器移植の透明性の確保と、患者、臓器提供者、家族等の人権やプライバシー保護に努めます。

(4) 社会参加と生活の支援
 長期にわたる疾病にあっては、療養中でも病状などを勘案の上、地域の多様な活動に参加することが患者の生活や健康の上でも有効であり、治療に良い効果をもたらす面があります。このため、関係機関、患者団体、家族会等と連携し、患者と地域社会との交流や社会参加の促進を図ります。
 また、患者が住み慣れた家庭や地域で生活し、かかりつけ医療機関の往診や訪問看護などの在宅医療サービスを受けることができるよう、かかりつけ医の必要性を啓発するとともに、各種サービス基盤の充実を図り、療養生活の質の向上に努めます。

6 高齢者

(1) 現状と課題
 現在、我が国では、急速に高齢化が進んでいます。多年にわたり社会の発展のために貢献してきた高齢者が、その豊かな知識と経験を生かして、尊厳を保持しつつ、充実した人生を送ることができるよう、安心・安全な生活を保障することは極めて大切ですが、深刻な課題も少なくありません。
 超高齢社会の到来を展望しながら、高齢者が地域との人間的なつながりの中で、周囲から敬愛されるとともに、快適にいきいきと生活できる地域社会の形成に努める必要があります。
 高齢者の増加に伴い、寝たきりや認知症(*16)など介護を要する高齢者が増加するとともに、介護の長期化や重度化等により家族介護者等の身体的・精神的・経済的負担も増大しています。加えて、認知症や一人暮らしの高齢者の増加に伴い、財産管理や遺産相続をめぐる紛争や虐待などの高齢者の人権や尊厳が脅かされるような問題が生じています。
 こうした中で、介護を地域全体で支え、利用者の意思を尊重した総合的な介護サービスが効率よく安心して受けられるよう、平成12年度から介護保険制度がスタートしました。
 また、平成17年6月、予防重視型システムへの転換、新たなサービス体系の確立、サービスの質の向上などを骨子とする「介護保険法」の改正が行われ、高齢者の「尊厳の保持」が法律の目的として規定されました。平成17年11月には「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」が公布されました。
 また、成年後見制度の実施により、認知症高齢者等の権利擁護の推進が期待されるとともに、地域で自立した生活ができるようにするための地域福祉権利擁護制度の積極的な活用が求められています。
 さらに、明るく活力ある超高齢社会を目指すため、「岡山県高齢者保健福祉計画・介護保険事業支援計画」に基づき、地域包括支援センターの機能を強化することにより地域包括支援体制の構築を進め、高齢者の生活の質を高めていく必要があります。

(2) 基本方針
 高齢者の多くは、住み慣れた地域や家庭で、健康で安心して暮らせる生活を望んでおり、高齢者の人権は、自立を基本とする生活の質的向上や保健・医療・福祉サービスの総合的な推進により、保障されるものと考えられます。
 このため、介護保険制度の円滑な実施と介護予防・地域生活支援の取組を一体的に進めるとともに、成年後見制度や権利擁護制度の活用を図るなど、高齢者の人権に配慮した自立支援を促進します。
 さらに、高齢者の知識と経験を生かした社会参加と他世代との交流を進め、幅広い住民参加のもとに、高齢者に対する敬愛の気持ちを高揚し、高齢者自らが社会の発展に寄与するような活動を推進します。

(*16)認知症:脳の後天的な器質障害により、いったん獲得された知能が、継続的かつ比較的短期間のうちに低下し、日常生活に支障を来すものをいいます。

(3) 具体的施策の方向
ア 保健・福祉サービスの一体的な提供
① 予防重視型システムへの転換
 要介護(支援)状態になるおそれのある高齢者を対象とした効果的な介護予防や、総合相談・支援、権利擁護等の地域支援事業の実施に当たっては、地域包括支援センターが、高齢者のニーズや生活実態に基づいて総合的な判断を行います。
 また、地域の保健・医療・福祉の関係者、老人クラブ、ボランティア等がネットワークを形成し、効果的なサービスの提供・調整を行うことができるよう、支援していきます。
 さらに、地域包括支援センターや高齢者サービス相談センター等を核に総合的な相談体制の充実に努めます。
② サービスの提供
 介護サービス情報や、地域包括支援センター、インターネットなどを活用し利用者の立場に立った情報提供を行うとともに、介護支援専門員等の養成と、経験に応じた現任研修や、ケアマネジメントリーダー研修等により、資質の維持・向上を図ります。また、介護事業者に対する指導・監査を行うとともに、事業者自身による自主評価などを進め、サービスの質的向上を図ります。
③ 人権の保護
 高齢者虐待を防止するため、「岡山県高齢者虐待防止ガイドライン」の策定や、虐待体験手記集などによる「STOP!高齢者虐待」事業や、介護保険施設における入所者の身体拘束の解消に向けた取組などにより、高齢者の人権の保護を図ります。

イ 認知症高齢者支援の推進
① 相談及び研修
 認知症高齢者の人権に配慮した保健、福祉、医療の連携による認知症の予防、相談、治療、介護への総合的支援対策が求められています。
 認知症高齢者の介護相談、介護体制の充実を図るため、地域包括支援センターを核に各種相談に当たるとともに、グループホームや特別養護老人ホームなど介護保険施設の職員等を対象に、処遇の改善・向上を図るための研修を積極的に進めます。また、治療に当たる医療従事者の研修、老人性認知症センターの活用などの施策を進めます。
高齢者の尊厳を支えるケアの確立を図るため、これからの高齢者介護においては、認知症高齢者に対応したケアを標準と位置付け、高齢者の尊厳を保持するために生活そのものをケアとして組み立てるとともに、早い段階から、すべての中高年保健福祉対策に認知症予防とケアの視点を持つように取り組みます。
 さらに、地域に根強く残る認知症高齢者に対する偏見を解消するための啓発の充実を図ります。
② 認知症高齢者の医療
 医療面からは、老人性認知症疾患治療病棟等の活用により医療の充実を図ります。
③ 個室・ユニットケア
 住み慣れた家庭的な環境でのケアという新しい手法により、認知症高齢者の自立を促進する認知症高齢者グループホームの整備を進めるとともに、ここでのケアの手法が特別養護老人ホームなど他の施設にも浸透していくよう、その普及を図ります。

ウ 地域の相互支援体制の確立
 地域ぐるみで高齢者の生活を支える総合的な支援体制の充実を図るため、在宅・施設を問わず、介護・医療サービスからボランティアや近隣住民同士の助け合いまで、地域のあらゆる社会資源を活用した「地域包括支援体制」の構築を推進します。
 また、成年後見制度の活用や日常生活の援助を行う地域福祉権利擁護施策を進めるなど、高齢者の自立を支援します。
 さらに、現在行われている高齢者、障害者、子どもなどのケアをノーマライゼーションの視点から見直し、幅広い対象者について、地域住民の参加と利用者相互のふれあいを生かした「ノーマライゼーション推進型地域統合ケア」を進めます。

エ 生活環境の整備
 高齢者が安全で快適に生活できるよう、道路や建物などの公共施設のバリアフリー化を進めます。住宅では、公営住宅に高齢者や障害者向けの住宅建設、設備の改善に取り組みます。個人住宅についても、在宅での生活をより快適に行えるよう、住宅のバリアフリー化を支援します。
 日常生活に必要な福祉用具の給付や、介護機器の普及など、在宅生活の継続を一層支援します。

オ 社会参加の促進と交流
 高齢者がいつまでも健康でいきいきと暮らせるよう、意欲と能力のある限り働ける社会の実現を目指します。また、陶芸や手芸などの趣味活動、多様なスポーツ活動、地域福祉の向上に役立つボランティア活動など、社会参加を促進するための施策や、日頃から高齢者を含む地域住民が集える場づくりといった、子どもから高齢者までの幅広い世代がふれあい、交流する「世代間交流」事業を進めるとともに、「老人の日」「老人週間」「敬老の日」など多彩な行事を実施するなど啓発に努めます。

7 在住外国人

(1) 現状と課題
 経済をはじめとする様々な分野でボーダーレス化、グローバル化の流れは地方にも及び、地域で暮らす外国人は年々増加しています。
 県内の外国人登録者数は、平成16年12月末現在、18,882人であり、そのうち約4割は、第二次世界大戦以前から日本で暮らし始め、その後も引き続き日本に在留している人及びその子孫である韓国・朝鮮籍の人々となっています。
 一方、中国などアジア近隣諸国からの留学生や、就労を目的とした日系ブラジル人は著しく増加しています。
 こうした状況の中、県においては平成13年3月、「新おかやま国際化推進プラン」を策定し、世界にひらかれた快適社会・岡山づくりを進めてきたところです。
 しかしながら、日常生活や雇用の場などにおいて、日本人と外国人との間で言語、文化、生活習慣、価値観の相違等に起因した問題がしばしば生じています。また、人々の意識の中には、外国人に対する偏見や差別、蔑視が少なからず認められます。さらに、帰化によって日本国籍を取得した人や、父母の一方が外国人である日本国籍の人が、人種、民族、文化的背景等の違いを理由とした差別を受けることがあります。
 今後とも、県内に居住する外国人の数はますます増加するものと考えられ、異なる国籍・文化的背景を持つ人々がお互いに多様性を認め合いながら、同じ地域社会の一員として、共に尊敬し安心して暮らすことのできる多文化共生社会の実現に向けた取組を進めていく必要があります。

(2) 基本方針
 県内の外国人が、生活のあらゆる場面において地域社会の一員として生き生きと暮らすことができる多文化共生社会を築いていくためには、人々が多様な文化や生活習慣、価値観等への理解を深め、尊重していくことが重要です。
 このため、諸外国の歴史、文化、生活習慣などについて紹介したり、外国人と直接ふれあう機会を積極的に提供するなど、地球市民としての意識を高めるとともに人権意識の啓発に努めます。
 さらに、外国人が安心して快適に暮らしていけるよう、医療、教育、労働、住宅、安全など身近な生活問題について、NPO・NGOなどの民間団体やボランティアとの協働による情報提供と相談・支援を進めるとともに、外国人との意見交換等の場を設けて、外国人が日常生活を送る上での問題点などについての意見を聴き、少数外国人にも配慮しながら諸施策の推進に努めます。
 なお、地方参政権等の国の制度にかかわる問題については、国において適切に対応されるよう、都道府県国際交流推進協議会等を通じて国に対し要望していきます。

(3) 具体的施策の方向
ア 人権意識の啓発と相互理解の促進
① 啓発活動の展開
 外国人に対する偏見や差別をなくすため、学校や行政、各種団体が開催する世界の国々の歴史・文化、生活習慣、価値観等に関する教育、学習、交流など、様々な機会を通じて人権意識の啓発に努めます。
 また、我が国においては、在日韓国・朝鮮籍の人々を取り巻く歴史的経緯や環境についての認識が十分とはいえず、民族名を名乗りにくいなどの問題が未だに存在している状況であり、国際理解講座の開催などを通して県民の理解を促し、偏見や差別の解消に努めます。
② 相互理解の促進
 日本人と外国人がお互いにふれあい、交流することは、相手の文化、価値観に対する理解を深めることにつながります。地域のコミュニティー活動への外国人の参加を働きかけるなど、日本人と外国人との地域交流活動の積極的な促進に努めます。
 また、外国人が日本語や日本文化を学ぶことは、地域社会の一員として生活したり、日本を理解していく上で重要であり、これらの学習機会の提供に努めます。

イ 外国人の住みやすい地域づくりのための配慮
① 生活環境の充実
 外国人が地域で安心して生活できるよう、必要な情報を容易に得られる仕組みを整備するとともに、外国語による生活情報の提供や各種相談事業の充実を図ることが必要です。
 このため、日常生活に必要な情報を知らないために、外国人が不利益を受けることがないよう、多言語による生活情報の提供に努めるとともに、道路や公共施設の案内板や表示板にローマ字や外国語を併記し、分かりやすい表示の推進に努めます。
 また、外国人の生活にかかわりのある行政機関、民間団体などが連携して情報交換や意見交換を行うなど、外国人に対する相談・支援体制の充実に努めます。
 外国人の地方参政権については、政府、国会等における動向を考慮し、適切に対応していきます。
② 教育環境の整備
 外国人の児童生徒や留学生が安心して勉学に励むことができる環境づくりが必要です。
 このため、日本語教育の必要な外国人の児童生徒に対し、学生ボランティアによる学習支援を推進するとともに、教育相談体制の充実に努めます。また、日本語教育の必要な外国人の児童生徒が通学する公立小中学校への教員の加配に努めます。
 留学生や就学生は、近年著しく増加しており、岡山と母国との友好関係を築く上でも重要な役割が期待されています。
 このため、学校をはじめ行政や民間団体等が協力して、住宅支援、奨学金の交付、交流の場の提供、就職活動への支援など、留学生や就学生への支援の拡充に努めます。

ウ 外国人の適正な雇用等の促進
 県内で仕事を求める外国人や留学生、就学生のための相談・支援の充実を図る必要があります。また、就労について不利益な問題が生じないよう雇用主に対し指導を行うとともに、企業研修生についても、企業等に対し適正な研修について配慮を求めることが大切です。
 このため、外国人労働者の適正な労働条件の確保のため、パンフレットなどにより事業主等への啓発に努めるとともに、企業研修生に対する研修内容の改善、安全衛生の確保等、適正な研修の実施について、受入マニュアルの配布などにより企業への啓発に努めます。
 また、公共職業安定所に外国人雇用サービスコーナーを設置し、外国語で対応できる職業紹介窓口の充実に努めています。
 なお、在住外国人の公務員への任用については、任用に関する基本原則を考慮しつつ、職務の内容と国籍の必要性について検討し適切に対処します。
エ 外国人の保健・福祉等の充実
 外国人が健康な生活を送るためには、疾病の予防とともに、保健・医療などについて利用しやすい環境・条件の整備に努めることが大切です。
 このため、多言語での対応が可能な医療機関についての情報提供や、相談・支援体制の充実に努めます。
 また、在住外国人に対する国民健康保険・国民年金の制度の周知徹底を図り、未加入者が生じないように努めます。

8 様々な人権をめぐる問題

【プライバシーの保護】
 プライバシーをめぐる問題は、基本的人権にかかわる重要な問題であり、個人に関する情報は最大限に保護される必要があることから、国においては、平成15年に「個人情報保護法」が制定されました。
 県においても、平成14年に、県が保有する個人情報について、その適切な取扱いと開示等について定めた「岡山県個人情報保護条例」を制定するなど、個人情報の保護を図っています。

【インターネットによる人権侵害】
 インターネットの急速な普及は、利用者である県民に大きな利便性をもたらす一方で、その匿名性を悪用してホームページの掲示板に基本的人権を侵害する書き込みが増加し、差別を助長し重大な人権侵害を引き起こしています。
また、近年、インターネットを介して大量の個人情報が流出するなどの事件が多発しており、プライバシーに関する不安も高まっています。
こうした状況を考慮し、国においては、平成14年5月の「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(プロバイダ責任制限法)」の施行により、ホームページの掲示板における権利侵害に対し、侵害情報を削除する措置を管理者等に促し被害者救済を図ることとし、また、平成17年4月の「個人情報保護法」全面施行に際し、電気通信事業者等に対する個人情報の取扱いのルールをガイドラインの形で示すなど、インターネット上の人権侵害への対策を進めています。
 しかしながら、部落差別や女性、障害者、外国人などを差別する書き込みなど、インターネットによる人権侵害は依然としてなくなりません。
 このため、県においては、このような差別行為を防止するための一層有効な措置を、引き続き国に対して要請していきます。
また、岡山情報ハイウェイに接続している団体をはじめ、広く県民に向けて、差別を助長したり人権を侵害するような情報を発信しないよう、一人ひとりがモラルを守りインターネットを正しく利用するための啓発に努める必要があります。
 このため、岡山情報ハイウェイの利用者に対しては、人権の視点に立った接続許可基準等を引き続き適正に運用し、インターネット利用上のモラルの普及啓発に取り組みます。
 さらに、県民に対しては、県のホームページや岡山情報ハイウェイのパンフレット等を通じ、インターネットの正しい利用について啓発に努めるとともに、シンポジウムやセミナーを通じてモラルをわきまえたインターネットの利用を積極的に呼びかけていきます。
 学校においては、インターネットの利用に際してのルールやマナーの指導を充実し、情報を正しく見極め、責任を持って情報を発信する態度の育成に努めます。また、メディアから発信される情報を主体的、能動的に選択し、活用する能力の育成に努めます。
 このため、情報モラルを扱った教材の作成と学習プログラムの開発を行い、関係機関等との連携した取組を進めます。
 さらに、教職員の研修を充実し保護者への啓発に努めるなど、学校、家庭、地域が連携しながら情報教育を進めていきます。

【消費者】
 消費者については、消費をめぐるトラブルが多く発生していることから、その権利を尊重し、被害の防止と救済を図ることが必要です。
 このため、暮らしに役立つ情報の提供、消費者教育の機会の提供及び商品等に関する相談の充実などに取り組みます。

【犯罪被害者】
 平成17年4月に、犯罪被害者等のための施策を総合的かつ計画的に推進する「犯罪被害者等基本法」が施行され、また、12月には、この法律に基づく「犯罪被害者等基本計画」が国において策定されました。
 犯罪等の被害者等は、生命、身体、財産上の直接的な被害だけでなく、被害を受けたことによる精神的ショック、周囲のうわさ話、メディアの取材等による二次的被害など、様々な被害を受けています。
 このため、犯罪被害者等と直接かかわる警察においては、被害者の立場に立った適切な対応を徹底するとともに、被害防止、被害相談窓口の周知を図るための広報活動を積極的に行います。
 また、被害者のニーズは多岐にわたっており、警察だけでは対応できない面が多いことから、「おかやま被害者支援・相談ネットワーク」や、警察署単位で設立されている被害者支援組織等との連携を密にし、官民一体となって犯罪被害者等のニーズに沿った支援・相談活動を展開します。
 さらに、被害者の安全確保を徹底するため、いわゆる「お礼参り」が予想される被害者等に対する再被害防止の措置を実施します。

【刑を終えて出所した人】
 刑を終えて出所した人やその家族に対する偏見には根強いものがあり、社会復帰を目指す人たちにとって現実は厳しい状況にあります。
 刑を終えて出所した人が、社会の一員として円滑な生活を営むためには、本人の強い更生意欲と併せて、家族、職場、地域社会など周囲の人々の理解と協力が必要です。
 このため、刑を終えて出所した人に対する偏見や差別意識をなくすよう啓発に努めます。

【性的少数者】
 性同一性障害者(心の性と身体・戸籍上の性別が一致しない人)や同性愛者など、様々な性的少数者に対する偏見や差別があります。
 このため、性的少数者に対する偏見や差別意識をなくすための啓発・教育に努めます。

【日本に帰国した中国残留邦人とその家族】
 日本に帰国した中国残留邦人とその家族については、正しい認識と理解を進め、自立指導員や自立支援通訳の派遣など、地域社会における早期自立の促進及び生活の安定に努めます。
 このほかの人権問題や、今後新たに発生する人権問題などについても、すべての人々の人権を尊重し保障する視点に立って、それぞれの問題の内容と実態に応じて適切に対応していきます。


第7章 指針の推進

○ この指針は、県審議会の意見を聴きながら、「人権啓発マトリックス」を中心にして庁内の関係部・課が緊密な連携を図り、総合的、効果的に推進します。

○ この指針の推進に当たっては、国、市町村、関係機関、民間団体等と緊密な連携を図るとともに、県民、NPO、企業など、それぞれが力を合わせながら人権尊重社会の実現を目指すよう、パートナーシップによる協働を促進します。

○ 人権行政は長期的な視点で持続的に進める必要があるため、継続的に施策の点検を進めながら、社会情勢等の変化を考慮し、5年を目安に必要に応じ見直しを行います。


参考編


計画・プラン一覧

○ おかやまユニバーサルデザイン推進指針(P9)
 おかやまユニバーサルデザイン懇話会からの提言を受け、平成16年3月に策定。
 ユニバーサルデザインの考え方を県政の様々な分野で取り入れ、総合的、全庁的に取り組むべき基本的な方向を示すとともに、県民、事業者、NPO等の団体、市町村など様々な主体で、県と共通の理解と認識のもとで連携・協働しながらユニバーサルデザインを推進していくためのガイドラインとなるものである。

○ 新おかやまウィズプラン(P19)
 男女共同参画に関する様々な課題について、県が取り組むべき施策の基本指針として、「おかやまウィズプラン21」に続き、平成18年3月に策定の予定。
 男女共同参画社会基本法及び岡山県男女共同参画の促進に関する条例に基づく基本計画であり、①男女の人権の尊重、②「社会的性別」(ジェンダー)の視点、③女性のエンパワーメント(力をつけること)の促進という3つの基本的な視点に立ち、「男女が共に輝くおかやまづくり」を目指して、推進する施策を掲げている。27項目の数値目標や現況値の明記などにより、実効性のある計画としている。
新おかやまウィズプランの計画期間(予定):平成18年度~22年度

○ 新岡山いきいき子どもプラン(P22)
 今日、子育ての負担感・不安感の増大、児童虐待相談件数の激増など子どもを取り巻く環境は大きく変化しており、このような環境の変化に適切に対応するために策定されたプラン。
 子どもの幸せの視点に立って、岡山県らしさを反映させて、次代を担う子どもたちが、心身ともに健やかに生まれ育ち、家庭や地域で心豊かに生活できる環境づくりを推進する総合的、計画的な指針として平成16年12月に策定。
計画期間:平成17年度~21年度

○ 岡山県障害者長期計画・第2期実施計画(P26)
 障害がある人もない人も、社会の一員としてお互いに尊重し、支え合いながら、地域の中で共に生活する社会が自然なことであるとするノーマライゼーションの考え方を基本理念に、平成11年度から平成22年度までを計画期間として策定。
 また、平成14年度に、「新世紀おかやま夢づくりプラン」や長期計画策定後の状況の変化を踏まえ、「自立」「選択」「共生」を基本的な視点として数値目標を中心に見直しを行い、長期計画の第2期実施計画と位置付けた。
第2期実施計画の計画期間:平成15年度~22年度

○ 岡山県高齢者保健福祉計画・介護保険事業支援計画(P35)
 本県の高齢者保健福祉施策の基本的な推進方向について定めた計画であり、平成12年3月に第1期計画を、平成15年3月に第2期計画を策定。
 この計画は、市町村が策定する老人保健福祉計画・介護保険事業計画との整合をとりつつ、介護保険サービス量の見込み等を示したもので、広域的な観点から介護保険事業の円滑な運営等を図るための方策や介護予防対策も含めた高齢者保健福祉施策を推進する際の基本的な方向を定めたものである。
 介護保険制度の見直しやこれまでの介護保険の実施状況を踏まえ、今後急速に高齢化が進んでいく「2015年(平成27年)の高齢者介護」の姿を念頭においた長期的な目標を定め、その目標の実現に向かって取り組むべき推進方策について、岡山県介護保険制度推進委員会の意見を聴きながら、平成18年3月に第3期計画を策定することとしている。
第2期計画の計画期間:平成15年度~19年度

○ 岡山県高齢者虐待防止ガイドライン(P36)
 近年、高齢者が家族から暴力を受けるなどの「高齢者虐待」が大きな社会問題となっている。このため、県をあげて、総合的な高齢者虐待防止対策として「STOP!高齢者虐待」事業に取り組んでいる。
 こうした取組の一環として、高齢者虐待の要因を明らかにし、虐待の防止を図るため、岡山県高齢者虐待防止対策委員会の意見を聴きながら、平成17年2月に策定。

○ 新おかやま国際化推進プラン(P38)
 本県の国際化施策を総合的、戦略的に推進するための指針として、平成13年3月に策定。基本目標を「パートナーシップで築く世界にひらかれた岡山」と定め、その実現に向けて岡山県が積極的に取り組むべき施策を明らかにしており、国際感覚豊かな人づくり、世界にひらかれた快適社会・岡山づくり、世界と交流する国際貢献先進県・岡山づくり等を施策の柱としている。
 平成18年3月に計画期間が終了するため、現在、新たなプランの策定作業を進めている。



関係機関・団体一覧

○ 人権啓発活動ネットワーク協議会(P12)
 県内で人権啓発活動を行っている機関がお互いに連携し、協力していくことで啓発活動を総合的、効果的に推進することを目的として、平成12年8月に発足。構成機関は、岡山地方法務局、岡山県人権擁護委員連合会、岡山県。事務局は、岡山地方法務局にある。

○ えせ同和行為対策関係機関連絡会(P17)
 関係機関が相互に連携を図り、情報の交換や対応を協議し、えせ同和行為を排除することを目的として、昭和62年8月に発足。構成機関は、岡山地方法務局、岡山県警察本部、岡山弁護士会、岡山県、岡山市。事務局は、岡山地方法務局にある。なお、本連絡会は、都道府県単位に設置され、それぞれの事務局は、8法務局42地方法務局にある。

○ 児童虐待防止地域ネットワーク(P24)
  児童虐待は様々な要因が重なって起こることが一般的で、家庭内で起こる様々な問題に、児童相談所など一つの機関だけで問題の解決を図ることには限界があり、それぞれの機能を持つ機関が連携して問題解決を図ることが大切である。
 このため、市町村をはじめ、県民局単位など様々なエリアでネットワークを組んで児童虐待の防止に取り組んでいる。ネットワークの活動は、大きく2つの側面をもっている。一つは、日頃からのネットワークづくりで地域の子育て支援活動や子どもの健全育成など「地域全体で子どもたちを見守り育てていく」という視点で、児童虐待の予防活動ともいえる。もう一つは、児童虐待が疑われる、あるいは、児童虐待が繰り返されている家庭への支援のためのネットワークづくりで、それぞれの機関が情報を共有して、連携しながら問題解決のための支援を行う。

○ 精神医療審査会(P28)
 措置入院者及び医療保護入院者の定期病状報告、医療保護入院者の入院届並びに退院及び処遇改善請求の審査を行っている。
 岡山県精神医療審査会の委員は15名で、各5名で3つの合議体を構成し、審査に当たっている。事務局は、岡山県精神保健福祉センターにある。

○ 岡山県のハンセン病対策を振り返り正しい理解を進める委員会(P30)
 岡山県における過去のハンセン病施策の実態を調査・検証し、今後取り組むべき施策について提言することを目的に、平成13年7月に設置。構成員は、学識経験者、ハンセン病療養所入所者、園長、報道関係者。
 長島愛生園、邑久光明園の現地調査、入所者からの聞き取り調査、9回にわたる審議を経た結果、平成14年3月に、岡山県知事へ意見書が提出された。
 本委員会から提言された、偏見・差別解消のための啓発事業やハンセン病療養所入所者の社会復帰等を支援する福祉増進施策について、その具体的な対策の協議・調整を行い、施策の総括をするため、平成14年5月に「岡山県ハンセン病問題対策協議会」が設置された。構成員は、学識経験者、ハンセン病療養所入所者、園長、関係行政機関の職員。
 
○ ハンセン病問題関連史料調査委員会(P30)
 岡山県のハンセン病対策を振り返り正しい理解を進める委員会から提言された、ハンセン病問題関連の史料の収集及び蓄積を行うとともに調査研究を実施するため、平成14年6月に設置。構成員は、岡山県ハンセン病問題対策協議会委員、学識経験者、ハンセン病療養所入所者、園長、関係行政機関の職員。

○ エイズ治療拠点病院(P32)
 エイズ患者等が安心して医療を受けられることを目的に、エイズに関する総合的かつ高度な医療を提供し、地域の他の医療機関への情報提供、教育・技術的支援を行うエイズ診療の拠点となる病院が、平成5年から都道府県ごとに整備されている。岡山県内には、10箇所のエイズ治療拠点病院がある。

○ 社団法人日本臓器移植ネットワーク(P34)
  公平・公正で適正な移植医療の推進を図るため、全国をエリアに、死体(脳死を含む)からの摘出臓器(眼球を除く)のあっせんを行っている日本で唯一の機関。全国に3つの支部(東日本・中日本・西日本)を置き、あっせんのほか、臓器移植に関する正しい知識の普及啓発も行っている。

○ 都道府県国際交流推進協議会(P38)
 全国の都道府県が、相互に協力、連携することによって、より効果的に国際交流を推進することを目的に、昭和61年4月に設立。構成員は、各都道府県の国際交流担当課で、毎年、在住外国人への対応、留学生支援事業の拡充など、地域の国際化を推進する上での重要課題を踏まえた国への要望活動に取り組んでいる。

○ おかやま被害者支援・相談ネットワーク(P42)
 犯罪被害者等の多岐多様なニーズに対応するため、被害者支援に携わる関係機関・団体が連携し、被害者の視点に立った総合的な支援活動等を推進することを目的として、平成10年5月に設立。構成機関は、岡山県臨床心理士会、岡山弁護士会、民間被害者支援団体等。事務局は、警察本部県民応接課内にある。

○ 警察署単位で設立されている被害者支援組織(P42)
 被害者支援に携わる関係機関・団体が連携し、地域社会全体でよりきめの細かい被害者支援を行うことを目的として、平成11年から平成13年にかけて各警察署単位で設立。構成機関は、市町村、医療機関、民生委員会、保護司会等。事務局は、各警察署内にある。


人権に関する相談窓口
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資料編
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