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人権に関するデータベース

全国の地方公共団体をはじめ、国、国連関係機関等における人権関係の情報を調べることができます。

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地方公共団体関係資料

横浜市人権施策基本指針
情報の種類 地方公共団体関係資料
タイトル 横浜市人権施策基本指針
時期 1998/12/01
主体名 横浜市
【 内容 】

横浜市人権施策基本指針


第1章 指針策定にあたって

1 策定の背景

「すべての人間は、生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である」と人権の考え方の基本を第1条に掲げた「世界人権宣言」が国連で採択されて以来半世紀が経過しました。

我が国においても基本的人権を保障した日本国憲法に基づいて、これまで人権に関する諸制度の整備や各種施策が推進されてきましたが、今なお、同和問題をはじめ、外国人、女性、障害者、子どもなどに対する人権問題の解決は、社会全体の大きな課題となっています。

横浜市では「市民生活のすべてにわたり豊かさを実現する」というゆめはま2010プランの基本理念のもとに、一人ひとりの市民が人権を尊重しあい、ともに生きる社会の実現を目標として掲げ、人権施策の方向性を

①人権尊重の意識をはぐくむ啓発・教育の推進

②同和問題の解決に向けた取組

③様々な人権問題の解決に向けた取組

④人権に関する施策の総合的な推進

と定めています。

2 人権問題の解決に向けた提言

横浜市では平成7年3月に、市民、有識者で構成する「ゆめはま人権懇話会」を設置し、横浜市の人権施策推進の基本理念や方向性について意見を求めました。同懇話会では13回の会合と20数回に及ぶ市民、各種団体等からの意見を伺い、平成8年8月に「人権を尊重する社会をめざして」と題する提言をまとめました。

提言では、主として今日大きな課題となっている同和問題など8分野にわたる人権問題の解決に向けて、横浜市が基本的に留意すべき点として

①人権尊重の文化・風土づくりに向けた、豊かな人権感覚をはぐくむための啓発・教育等の取組

②人権施策推進の基礎となる人権問題の現状を把握するための取組

③人権擁護を進める社会的システムの整備の推進

④取組を効果的に進めていくためのネットワークづくり

を掲げています。

3 指針の位置づけ

本指針は、同懇話会の提言やアンケート、各種団体等から得られた市民の意見を踏まえ策定されました。

本指針はゆめはま2010プランに掲げた「一人ひとりの市民が互いに人権を尊重しあい、ともに生きる社会」の実現を目標に置きます。そして市民一人ひとりが、日常生活の中で人権に対する意識を高め、「人はみな同じ」の考え方を共有し、同時に「一人ひとりはそれぞれ違う」ことを認め合う風土を培います。

そのためには、横浜市のあらゆる施策・事業を人権尊重の視点を持って推進することが必要であり、本指針はそのための基本姿勢、留意事項、並びに必要な施策の方向性を明らかにします。

今後、各種個別施策については、この指針をもとに点検・見直しを行い施策の充実に努めます。また、横浜市が現在策定している関連の各種基本計画や行動計画についても、本指針との整合性に留意しながら各計画の改訂の際に人権尊重の視点を一層盛り込み、人権施策の総合的・体系的な推進に努めます。そして人権に関する課題へ全庁的に取り組みます。
なお、本指針は人権問題に関する国等の動向や社会情勢の変化を踏まえ、一層の充実を図るために随時修正していくものとします。

人はだれもが、かけがえのない人間として尊重され、幸せに生きたいと願っています。

本指針の理念が実現されるためには市民の理解と協力が不可欠です。
人権にかかわる問題は市民共通の課題として、市民、企業等についても行政とともに、その解決に取り組み、人権尊重の社会環境づくりに寄与することを期待します。


第2章 人権問題の基本認識

1 人権を取り巻く国外・国内の動向

国際連合(国連)は国連憲章の前文で、基本的人権の尊重と人間の尊厳の不可侵を人類共通の願いであることをうたっています。昭和23年(1948年)には、「世界人権宣言」を採択し、人権に関する基本的考え方は、国際社会において幅広く支持され、人々の間に定着しつつありますが、50年を経た今日においてもすべての人の人権が完全に保障されているとは言い難い現状にあります。

この間、国連は、世界人権宣言の理念や精神の実現を目指して、「国際人権規約」をはじめ「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」、「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」、「児童の権利に関する条約」など、差別の解消を目的とした23にも及ぶ人権関連条約や宣言を決議し、加盟国に批准・承認を求めてきました。

また、世界各国では、国連が設定した「国際婦人年」,「国際障害者年」,「国際児童年」,「世界の先住民の国際年」等に取り組む中で、『人権の尊重』を国家を超えた人類普遍の最重要課題として政策に盛り込むなど、様々な努力が重ねられてきています。

しかし、こうした国連や国際社会の努力にもかかわらず、いまだに地球上には民族紛争による戦禍や飢餓、人種差別や女性差別による人権侵害など、21世紀に向けて解決していかなければならない問題が数多く存在しています。

平成7年(1995年)からは、これらの人権問題の解決に向けた国連の新たな取組として、「人権教育のための国連10年」が開始されました。

国際社会は、人権教育と人権確立を目指す取組の強化に努め、「世界人権宣言」の理念や精神を実現させる責務を果たすことが、今求められています。
国内にあっても今なお、人権侵害の解消は、日本全体の大きな課題となっています。この現状を踏まえて、国では、あらゆる人権問題の解決を目指して新たな取組を進めています。

法的な取組としては、人権意識の社会的高まりや総務庁の付属機関である地域改善対策協議会の提言などを受け、平成8年(1996年)12月に「人権擁護施策推進法」を制定しました。同法は、①人権教育及び啓発の推進、②人権侵害被害者の救済に関する施策の推進、の2点を国の責務と述べており、現在同法の規定に沿って設置された人権擁護推進審議会において、これらに関する施策の方向が検討されています。

一方、具体的な取組としては、国連の取組に呼応して人権教育のための国連10年推進本部(本部長:内閣総理大臣)が設置され、同本部が決定した国内行動計画に基づいて人権教育や啓発・研修の充実が図られつつあります。

このほか、懸案となっていた「児童の権利に関する条約」、「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」をここ数年で相次いで批准・承認したことは、国の大きな動きの一つとして挙げることができます。
今後は、これら新たな取組による成果が、国内外から問われることになります。


2 人権問題の現状認識

(1)人権問題の現状

国際的・国内的な取組にもかかわらず、現在の我が国社会には、同和問題をはじめとして、外国人の人権問題、様々な市民生活の中で起こっている女性、子ども、高齢者、障害者をめぐる問題から、職業差別、疾病等にかかわる人権問題などが存在しています。

人権侵害の解消が今なお社会全体の大きな課題となっている背景には、①これまでの取組によっても解決しえない問題の根深さがあること、②これまで見過ごされてきた人権問題が偏見や差別を受けてきた人々が声を上げることによって、表面化してきたことなどが挙げられます。

一方、生活が豊かになったと言われる中で人権問題の存在そのものがみえにくくなっている状況がみられます。人間関係の希薄化が進み、本人も自覚しないまま差別行為を日常的に繰り返していたり、また、反対に気がつかないうちに差別されることがあるなど、人権問題は毎日の生活の中に潜んでいます。

人権問題を解決するためには、社会全体で取り組むことは当然ですが、まず、個人個人が人権に対する理解を深め、偏見や差別に直面している人々の思いや願いを知り、自らが抱えている偏見などを自分自身の問題としてとらえた上で解決に取り組むことが重要です。

(2)偏見や差別の要因について

人権問題には、それぞれ固有の歴史や背景があり、また、その実態や事象にも違いが見られます。
しかし、どの問題にも偏見や差別の底流には同じような要因があると言われ、ゆめはま人権懇話会の提言においても、①知識不足からくる誤解、②異質なものを排除する心理、③強者から弱者に向けられる圧力、④多数から少数に向けられる圧力、⑤異なる価値観の否定、⑥固定化した観念など、様々な要因の存在が指摘されました。

これらの人々の意識の中に潜む偏見や差別のもとになる要因を取り除き、市民一人ひとりが同懇話会で示された「人はみな同じ」という考え方を共有した上で、「一人ひとりがそれぞれ違う」ことを認め合うことが重要です。

一人ひとりの顔が違うように、人はそれぞれ違う条件をもって生まれ育っています。身体の大きさも皮膚の色も違えば、言葉、生まれ育った場所も違います。人によって得意なこともあれば苦手なこともあります。

そのような違いをお互いに受け入れ、認め合い、同じ人間、同じ仲間として尊重し合うことが差別をなくす第一歩です。


第3章 人権施策推進の方向

1 基本姿勢

(1)人権尊重を基調とした市政

人間が個人として尊重されることは、だれもが安心して市民生活を営むために欠くことのできないものです。横浜市のあらゆる施策は、この考え方を基調に計画、執行されるべきものであり、その意味ではすべてが人権とかかわりがあります。
したがって、人権の尊重を常に市政運営の基調とします。

(2)差別を受けている人々の立場にたつ

市民の中には差別を受けている人々がいます。これらの人々は声をあげにくい場合もあり、行政が積極的に意見を聴く努力をしなければ、実情を見過ごしたままで、対応が遅れることがあります。
そこで、差別を受けている人々の立場にたち、差別をなくす姿勢をもって市政運営にあたります。

(3)市政を担う職員の人権感覚の研さん

人権尊重を基調とする市政を運営するために、職員には鋭い人権感覚が求められます。すべての職員は、担当職務に習熟することはもとより、人権感覚をみがき幅広い人権に関する素養と問題意識を持って業務の遂行にあたります。

2 施策推進の留意点

施策を推進するにあたっては、それぞれの職員が前項に述べた基本姿勢とともに、次に掲げる視点に留意することが必要です。

(1)人権問題を自分の問題として考える

人権問題は、他人事でなく自分の問題としてとらえ考えることが基本です。様々な施策の推進もここから始まることを認識する必要があります。

(2)人権問題は現象面だけでなく周辺の要因も含めて考える

人権施策を検討するにあたっては、人権問題の現象面だけをとらえるのではなく、その周辺にある要因を含めて総合的に考えていく必要があります。

(3)あらゆる立場の人々の視点で考える

横浜市では、高齢者、障害者や子どもなど、だれもが生活しやすいバリアフリー(注1)のまちづくりを目指していますが、すべての施策を検討するにあたっては、あらゆる市民が安心して暮らせるための視点が必要です。

(4)それぞれの施策の組み合わせによって人権の取組が進展することに留意する

同和問題にかかわる施策、女性にかかわる施策、障害者にかかわる施策、子どもにかかわる施策などそれぞれの施策が相互に関連し合って人権尊重の取組が進展します。
人権問題は、個別の要因だけではなく、すべての問題に関連する要因を数多く含んでいることを念頭に置いて施策を進める必要があります。

(5)国外・国内の取組の動向を把握する

人権の取組は、国際的(国連や各国の動向)にも国内的(法律等の制定の推移、他都市の動向)にも常に変化しています。これらの動向を的確に把握した上で施策を推進していくことが重要です。

(6)社会情勢の変化と人権問題のかかわりを考える

バブル経済の崩壊や少子・高齢化社会の進展など社会情勢の急激な変化は、人間関係の希薄化をもたらすなど人権問題に少なからぬ影響があると言われています。
人権感覚を研ぎ澄まし社会情勢の変化を敏感にとらえた上で、市民の生活実態に即応した取組を行っていくことが必要です。

(7)いままでの枠にとらわれずに施策等を点検する

既存の施策の効果等を新たな視点で点検し、見直しを図ることはこれから新たな施策に取り組む上でも重要です。
また、ハンセン病に対する偏見や差別をもたらした「らい予防法」が廃止されたように、既存の法令・制度等についても人権の視点から点検を進めていくことが必要です。

(8)行政、市民、地域社会、企業、NGO等(注2)とのネットワーク化を検討する

行政、市民、地域社会、企業、NGO等との連携協力関係を築いていくことは、人権問題の解決に取り組む上で不可欠です。それぞれの特色を生かしながら社会全体で人権問題の取組を進めるためのネットワークづくりを、行政が働きかけていく必要があります。

(9)プライバシーと人権問題のかかわりを考える

コンピュータからプライバシー情報が流出したり、プライバシー情報の売買が行われたりするなど、情報化の進展に伴って新たな人権問題も浮上しています。
反面、プライバシーを重視するあまり人権侵害を見過ごしてしまう例がみられます。
プライバシー保護は人権を守る上で最も重要な要素の一つです。しかし、プライバシーにかかわることと言えども、早期の情報提供が必要となる子どもや高齢者の虐待など人権問題にかかわる情報があることを理解し、的確に判断することが重要です。

(10)現状や市民意見を的確に把握する

施策の検討や推進にあたっては、現状の的確な把握と市民意見の把握は欠かすことができません。特に差別を受けても声をあげにくい市民の意見を収集する努力と工夫が必要です。

(注1)バリアフリーBarrier-Free[無障壁]
障害のある人、高齢者や妊娠中の女性などが安心して生活ができるよう、道路の段差など公共建築物、住宅、交通等に人工的に作られた施設によって生じる物理的障壁を除去し、スロープ、エレベーターなどを設置し使いやすく工夫することや、障害のある人等に対する偏見を含めたあらゆる社会的障壁を除去しようとする考え方

(注2)NGO等
人権問題にかかわるNGO〔非政府組織〕(NonGovernmentalOrganization)やNPO〔民間非営利組織〕(NonProfitOrganization)等の民間活動組織

3 分野別行政施策推進の基本的方向

同和問題にかかわる施策

同和問題については、「歴史的にみてその早急な解決は国の責務であり、同時に国民的課題である。」との位置付けがされ、昭和44年(1969年)に初めて特別措置法が制定されて以来数度の法律改正が行われ、これらの法律に基づいて様々な施策が全国的に展開されてきました。

横浜市においても、この考え方に沿って、昭和52年(1977年)に「横浜市同和対策事業に対する基本的考え方(方針)」(以下「基本方針」という。)や「同和教育に関する基本的な考え方」を制定し、経済的自立、生活の安定を支援する事業を行うとともに生活環境の整備、同和教育の推進など同和問題の解決に向けた取組を進めています。

しかし、これまでの取組によっても、大学への進学や就労に関して格差が生じていたり、環境改善や差別意識の解消などの課題がいまだに残っており、横浜市においても引き続き施策を推進していくことが必要です。

今後は、横浜市における状況等の把握に努めるとともに、制定から20年が経過した「基本方針」等の見直しを図り、問題解決に向けて施策を推進します。

また、啓発・教育・研修に関しては、平成8年(1996年)12月制定の人権擁護施策推進法に基づいて設置された人権擁護推進審議会での審議動向等を踏まえ、同和問題を中心に人権問題を幅広くとらえた上で、市民等の差別意識の解消を目指して施策の充実を図ります。

さらに、いわゆる「えせ同和行為」が、同和問題に関する正しい理解の阻害要因ともなっているため、「えせ同和行為」の排除に引き続き取り組みます。


外国人市民にかかわる施策

横浜市に居住する外国人市民は、平成10年(1998年)9月末現在、5万人を超え、一時滞在者を含めるとその数は更に増加します。

その中で、市民生活に不安や困難を抱えている外国人市民も少なくありません。これまでも、横浜市は世界に開かれた国際都市として、「外国人市民とともに生きる社会づくり」を目指し、国際理解を深める教育の充実、外国語による公共サイン(施設案内標識など)の整備、日常生活に関する情報提供・相談の拠点となる国際交流ラウンジの整備、福祉・保健施策の拡充や市職員採用における国籍要件の原則撤廃など外国人市民に対する様々な施策の充実を図ってきました。

今後は、外国人市民に対する広聴・広報手段の充実など市政参加の機会を拡充するとともに、定期的な外国人市民調査によりニーズの把握に努め、総合的に施策を推進することによって、外国人市民の暮らしやすい環境づくりに努めます。

また、市民、企業等に対する啓発施策を充実することによって、市民の人権意識の高揚を図り、今なお根強く存在する在日韓国・朝鮮人に対する差別意識や社会の様々な所で生じている外国人市民に対する差別の解消を目指すとともに相互理解の促進に努めます。


女性にかかわる施策

昭和50年(1975年)の国連婦人年とその翌年から続いた「国連婦人の10年」は、国際的にも国内的にも男女平等社会の形成に向けて画期的な役割を果たし、この取組を契機に、女性の地位向上などが図られてきました。

最近では平成8年(1996年)12月に総理府が「男女共同参画2000年プラン」を策定し、女性問題の解決に向けて積極的な取組が展開されています。

しかし、依然として「男は仕事、女は家庭」という性別役割分担に象徴されるように、実質的に家事が女性に集中していたり、共働き家庭では女性の負担が過重になっている現状が指摘されています。また、就労面では採用から退職に至るまで、男性と女性の格差が存在しているなど厳しい状況もみられます。

横浜市では、男女共同参画社会の形成に向けて昭和60年(1985年)に「よこはま女性計画」、平成元年(1989年)に「第2次よこはま女性計画」、平成7年(1995年)に第3次よこはま女性計画である「ゆめはま男女共同参画プラン」を策定するとともに、男女の共同参画を推進するための施設として「横浜女性フォーラム」「フォーラムよこはま」を整備するなど、積極的に女性施策の推進を図ってきました。

今後も、「ゆめはま男女共同参画プラン」に示されている「個性が尊重される男女平等・自立社会の形成」の理念のもとに、男女が共に社会のあらゆる分野に参画ができ、性別にとらわれることなく生きる権利が尊重される社会の実現を目指した施策の推進を図ります。


障害者にかかわる施策

平成8年(1996年)に横浜市が行った「障害者福祉調査」では、「地域の理解・交流の促進」「情報・相談機能の充実」など障害者が地域で自立して生活できる環境づくりに対する要望が強く示されています。一方、障害のある人もない人も地域で共に暮らせる社会を目指す「ノーマライゼーション」(注3)に関する市民の意識については、その理念は理解されつつも、現実的には、市民の間の障害者に対する理解は必ずしも十分進んでいるとは言えません。

このように、この調査結果は、横浜市が、今後の障害者福祉施策の充実と併せて、障害者に対する市民の理解の促進と障害者の人権擁護を進める施策の充実を図る必要性を示しています。

横浜市では、障害者が地域で自立して快適に暮らすことができるよう、地域ケアシステムの確立を進めるとともに、「福祉のまちづくり条例」に基づいたバリアフリーのまちづくりなどの施策に取り組んでいますが、今後もこれらの施策を推進します。

さらには、社会参加への支援を充実するほか、障害者と地域の人々が交流できる機会の拡充や市民啓発の充実、また地域で安心して生活できるよう障害者の権利を擁護するなど施策の推進を図ります。

(注3)ノーマライゼーションNormalization
高齢者、子ども、障害のある人、障害のない人などすべての人々が普通に(ノーマル)に生活をおくり、共に暮らせるような社会こそ普通(ノーマル)であり、そのような社会を実現しようという考え方


疾病にかかわる施策

エイズなど感染性の疾病や精神疾患などの疾病についての正しい知識と理解が、市民の間で必ずしも十分に普及しているとは言えません。このため、これらの疾病にかかっている人のなかには、知識不足や理解不足などからくる偏見や差別によって、社会生活の中で苦しんでいる人が少なくありません。また、その家族などが差別を受けている事例も見受けられます。

これらの状況を解消していくためには、疾病にかかっている人々の人権が守られ、安心して日常生活を営むことができる社会を実現する取組と併せて、正しい知識の普及や理解の促進など偏見や差別を除去するための取組を行っていくことが重要です。

横浜市では、疾病にかかっている人が、安心して適切な医療が受けられるよう保健・医療施策の充実を図るとともに、人間としての尊厳を傷つけられることなく暮らせるよう、市民全体で支える社会づくりを進めます。

また、予防対策のための知識とともに疾病に関する正しい知識の普及と理解を促進する取組を努めます。

さらに、患者・感染者の人権を尊重する医療を進めるためには、医療従事者と患者等の双方が話し合いを十分に行い、理解と信頼関係に基づいた医療が提供できるように心掛けることが重要です。今後、これに関する啓発活動も推進します。


高齢者にかかわる施策

横浜市の高齢化率(総人口に対する65歳以上人口の比率)は,昭和60年(1985年)に7.1%となり高齢化社会を迎えて以来、平成10年(1998年)3月には12.5%に進み、平成22年(2010年)には17.5%になると予想されるなど、急速に高齢化が進んでいます。

この高齢化の中で、高齢者虐待や痴呆性高齢者の人権侵害などの問題も生じるなど、高齢者を取り巻く環境もますます厳しくなってきており、高齢者が安心していきいきと暮らせる福祉都市の早急な実現が求められています。

横浜市では、高齢者が社会の担い手として生き生きと活躍でき、だれもが住み慣れた地域や家庭で安心して暮らし続けることができる都市の実現を目指しています。このため、高齢者の自立の促進、援護を必要とする高齢者とその家族への支援などの施策や人にやさしい住宅・街づくりを進めるとともに、高齢者の権利を擁護するなど、「横浜市高齢化社会対策指針」に基づき高齢者の人権を尊重した施策の充実を図ります。

また、高齢者が住み慣れた地域で暮らし続けることができるよう、地域における市民の自主的な福祉活動や支えあい活動などへの支援を推進します。


子どもにかかわる施策

現在、いじめ、不登校、虐待などが深刻な社会問題となっています。
これらの問題は、核家族化、少子化、地域の子育て支援機能の低下など子どもを取り巻く環境の変化、また過度の受験競争、学歴社会の弊害など様々な要因が重なって起きていると言われています。

子どもの人権を守るには、問題をこのように複雑な要因を合わせ持つものとしてとらえ、子どもを一人の人間として尊重し、解決に取り組んでいくことが大切です。
社会の変化や新たな課題に対応して、心豊かな人間形成を進めていくため「新よこはま教育プラン」を策定し、将来を担う子どもの豊かな心と健やかな身体を育てる教育を推進します。

深刻化するいじめや虐待などの問題に対しては、迅速、適切に対応できるよう学校、家庭、地域の連携の強化、相談・指導など施策の充実に努めます。また、「子育てが楽しいまち横浜プラン(横浜版エンゼルプラン)」に基づき、子どもを安心して出産し、ゆとりを持って育てていける環境や、子どもが豊かな感性をはぐくみ、人間関係の楽しさを知ることができる家庭や地域社会づくりに向けて施策の充実に取り組みます。

さらに「児童の権利に関する条約」について市民への周知を図るとともに、子どもの権利や意見の尊重について理解を深める取組を推進します。


職業差別問題にかかわる施策

「職業に貴賤なし」と言われていますが、現実には様々な職業に対する偏見や差別が存在しています。
私たちの食生活において必要不可欠な食肉を生産する「と畜」業務(注4)や動物の保護・管理に関する犬の収容業務等、又は墓地や斎場にかかわる業務に対して、差別的な発言や対応によって誇りを持って働いている人々を傷つけることが起こっています。これらは合理的な根拠のない「ケガレ意識」(死、血、産を三不浄とし忌み嫌う)や「殺生戒」(生き物を殺生することを悪とする)などに基づく俗信が、親から子へ、子から孫へと社会生活をおくる中で何ら疑問を持つ事なく受け継がれてきたことが大きな要因になっていると考えられます。

他にも肉体労働などに従事する人々に対する偏見や差別の例も見られます。
私たちの社会は、分業化された社会で、様々な職業から成り立つことによって日常生活が維持されています。それらは相互に補完、影響しあって活力ある社会を生み出しています。働く人々が等しく尊重され、生き生きと生活できることで私たちの社会が成り立っていることを、市民一人ひとりが心に刻み、それを阻害する偏見や差別の解消に取り組むことが大切です。そのために、学校教育においては、子どもたちが家族の職業やその他のあらゆる職業に対して正しい「職業観」が培えるよう人権教育の工夫と充実を図ります。また、市民等に対しても啓発の充実に努めます。
特に、社会的に差別を解消する責務を持つ行政職員や学校教職員の研修の強化に取り組みます。

(注4)「と畜」業務に対する偏見と差別
歴史的過程の中で被差別部落の人たちの役割の一つとして、斃牛馬処理(死んだり、傷ついたりした牛や馬)の仕事があり、長い間その仕事に対して忌み嫌う意識や卑賤視をもってみる意識が形づくられてきました。こうしたことから、「と畜」業務に対する偏見や差別は被差別部落への偏見や差別意識と根を同じくするものです。


その他の課題にかかわる施策

上記に掲げた課題以外にも、アイヌの人々に対する偏見や差別への対応、プライバシー保護への対応、さらには、腸管出血性大腸菌O157等による食中毒の発生に伴って出現した差別事例のように、社会の変化とともに浮上する新たな人権問題に対しても取り組みます。

4 人権という共通の視点から取り組む施策の方向

啓発・教育・研修の推進
~豊かな人権感覚をはぐくむために~

人権に関しては、現在も啓発・教育・研修が進められていますが、依然として、私たちの社会には人権にかかわる様々な問題が存在しています。また、近年、著しく国際化、ボーダーレス化が進展している中で、広く市民の間に各種の文化や多様性を認め合う「共生の心」の醸成が求められています。

偏見や差別の要因は、その多くが誤った認識や知識の不足等にあると言われています。これらの要因を取り除くためには、市民一人ひとりが日々の生活の中で、人権の大切さを理解し、人権意識を高める努力をすることが、何よりも重要なことです。また、このことが「共生の心」の醸成にもつながることになります。

これまでの啓発事業では、市民の主体的な参加が得られていないと言われています。その理由として、行政が行う啓発事業は長期的な展望に基づくものではなく、市民の関心を引くものとなっていないと指摘されています。また一方では、日常生活の中で差別をしたり、反対に差別を受けていながら、それに気が付かない人もいるなど、市民の側の人権の意識にも課題があると言う指摘があります。

こうした現状を踏まえて、差別を受けている人々の視点に立って市民が主体的に参加することができる啓発機会の拡充や市民の年齢層や生活様式に応じた啓発・教育手法の検討などを進めます。また、学校教育においては、引き続き子どもの発達段階に応じた人権教育を推進します。

さらに、行政職員及び学校教職員等については、人権問題を解決する社会的な責務を認識し、引き続き人権研修の充実に努めます。

なお、これらの事業については、国の人権擁護推進審議会の動向や「人権教育のための国連10年」に関する国内行動計画との整合性を図りつつ、国等の関係機関等とも連携・協力しながら、体系的かつ計画的に進めます。


【啓発に関して】

①啓発手法の工夫

従来の啓発事業の主流となっている聴講型の講演会は、多数の市民を対象とする場合や動機づけを目的とする場合は大きな効果があります。しかし、現在マンネリ傾向が指摘され、啓発事業への参加者が減少している原因の一つとも言われています。
そこで、今後は、聴講型の講演会と併せて、参加者がともに考え、感動や共感を得ることができる啓発手法の研究・開発に努めます。

主な方向例
・差別を受けている人や支援者による啓発
・介護体験など参加型、体験型の啓発
・文化、芸能面からのアプローチ
・大学の教員や学識経験者等による市民講座、リカレント講座の開設

②多様な啓発機会の活用

各局区で実施する講座、講演会等の多くの市民の参加する各種事業に、人権啓発プログラムを取り入れ、啓発機会の多様化を図ります。

③参加機会の拡充と情報提供

多くの人が参加できるよう開催の日時、場所等に考慮し、市民の多様な生活様式に応じた啓発機会を提供します。また、子育て中の人や障害者等がより多く参加できるよう、一時保育の充実や会場設営、運営方法等に配慮します。
また、人権に関する情報を提供するために各種メディアを有効に活用するとともに、インターネットのホームページなど最新の情報システムの活用を積極的に推進します。

④社会的に弱い立場に置かれがちな人々に向けた学習機会の提供

障害者等が自らの財産権、生存権等の権利について明確な認識を持つことは、自立生活を営む上でも重要です。これらの人々に向けた学習機会等の充実に努めます。

⑤対象、テーマを限定した啓発機会の提供

対象者やテーマを限定して啓発効果を高める機会の充実に努めます。
また、企業等への啓発機会の充実を図ります。

主な方向例
・人権啓発地域リーダーの養成
・民生委員・児童委員、保護司、青少年指導員等の啓発研修への支援
・企業人事担当者研修、企業の啓発事業への支援

⑥啓発効果の評価、点検

人権啓発事業の実施にあたっては、参加者のアンケートや事業点検チェックリスト等を用意し、その回答状況によって事業効果の評価、点検を行い、集約した上で事業計画に生かします。

⑦交流環境等の充実

様々な分野で活動する団体相互や市民との間の交流を図るために、情報交換や意見交換の機会を拡充するとともに、情報提供のための啓発資料の展示など人権関連の交流環境整備についても検討します。

⑧啓発方針等の策定

啓発事業を体系的・計画的に進め、啓発効果をより高くするため、同和問題をはじめとする啓発方針等の策定を進めます。

⑨啓発推進組織の検討

啓発に関して幅広く市民の意見を取り入れ、より効果のある啓発事業とするため、啓発推進組織を検討します。


【教育に関して】

①人権教育の推進

学校が抱える人権にかかわりのある課題は数多くありますが、差別をなくす人権教育をより一層推進します。

②自由に語り合える教育環境づくり

学校生活の中で「子どもと子ども」「子どもと先生」「先生と先生」など相互で自由に声を出して、「自分たちの学校」や「自分の将来」などの希望を語り合うことのできる環境づくりに努めます。

③児童の権利に関する条約の周知

子どもの人権を尊重することを目指す「児童の権利に関する条約」の理解を深めることは、人権教育の主要な柱と言えます。「いじめ」や「体罰」をなくしていくためにも、条約の内容について学校、家庭、地域への周知を図るとともに、子どもに対する学習機会の拡充を図ります。

④人権教育を組み込んだ多様なカリキュラムの検討

多様な人権教育カリキュラムの開発に努めるとともに、現行の教育カリキュラムの中で、様々な機会をとらえて人権教育を充実することを検討します。

⑤教育手法の工夫

子どもたちが、人権問題を身近な問題として興味を持ちながら理解し、人権を尊重する意識を高めることができるよう、体験型の教育や映像機器や最新マルチメディアを多角的に活用するなど教育手法の工夫を図ります。

⑥対象に合わせた工夫

子どもの発達段階に応じて、各教科、道徳、特別活動等の特質に合わせながら、学校の教育活動全体を通して人権尊重の意識を高めるとともに、一人ひとりの人格を大切にする教育を推進します。

⑦子どもの意見の尊重

子どもの人権を尊重した教育を進めていくためには、子どもの意見を聞く機会を確保するとともに、意見を尊重することが重要です。
学校活動の中で子どもの意見を聞く機会の充実に努めるとともに、地域や家庭においても子どもの意見が尊重されるような社会づくりに努めます。

⑧学校と地域社会が一体となった人権教育の推進

人権教育を推進するためには、学校、家庭、地域が一体となった取組が重要です。この認識に立って、例えば学校の授業で地域の高齢者や障害者などから直接話を聞く機会をつくるなど、学校、家庭、地域の連携を図り、学校と地域社会が一体となった人権教育の取組を推進します。

主な方向例
・学校と地域が連携した人権教育
・学校が協力する地域の市民講座
・社会を明るくする運動との連携

⑨市内の大学等への働きかけ

市内の大学等における人権に関する教育・啓発活動の一層の取組について要請します。

⑩生涯学習・社会教育の推進

生涯学習は、日常生活の中で自己学習・相互学習を基盤として市民自らが行うものですが、その学習内容及び学習課題は広い範囲で多岐にわたっています。生涯学習において市民が主体的に人権を学習できるよう支援します。

また、社会教育の一環として提供する講座・講演会等においても積極的に人権をテーマに取り上げます。


【研修に関して】

①行政職員・教職員の人権研修の充実

すべての職員が人権問題を正しく理解し、自分の問題としてとらえそれぞれの分野においてその解決に向けて取り組むよう、人権研修を充実します。そのために、引き続き「横浜市人権研修推進要綱」による責任者・推進者・指導者研修の充実に努め、日常の業務に反映できるよう職場内研修を推進します。

主な方向例
・日常業務に関連した人権研修
・フィールドワーク(現場学習)などの体験型、参加型研修の導入
・ボランティア活動の支援


②保健・医療・福祉等専門職員の人権研修の充実

人権にかかわりの深い業務に従事する保健・医療・福祉専門職員等に対する人権研修の取組を充実します。また、研修内容の充実や研修効果を高めるため、関連部署の間の情報交換等に努めます。

主な方向例
・職場ごとの専門職員の人権研修
・職種ごとの専門職員の人権研修
・民生委員・児童委員、ホームヘルパーなどの人権研修


調査・現状把握
~人権問題を把握するために~

人権問題の多くは、見えにくい、気づきにくいことからその実態をとらえることは難しいと言われています。依然として社会の中には様々な偏見や差別が数多く存在していますが、その実情や問題点の多くは明らかになっていないのが現状です。

例えば、差別を受けている障害者や高齢者の中には、人権侵害の場面にあっても自らの意思を十分に伝えることができない状況にある人がみられ、これらの人々が受けている差別は数多く存在すると言われているものの、表面化している事例は必ずしも多くはありません。
また、同和問題、外国人に関する問題などについても同様のことが言えます。

さらに、家庭という私的領域で起こる家庭内暴力や虐待などの問題は、プライバシー保護との関係で判断が難しいことから、明らかになりにくいとの指摘があります。
人権問題の解決に向けて効果的な施策を進めるためには、これらの問題を的確に把握し、その状況に応じて取り組む必要があります。

横浜市では、これまでも分野ごとの生活実態調査などを通して現状把握を行っていますが、今後は、定期的な調査の実施や調査手法の工夫、相談事例の収集などによって、より的確な現状把握に努めます。

同時に市民の人権意識を把握し、啓発に関する手法を含め、各種の施策に生かしていくことが重要となります。横浜市では「人権と同和問題についての意識調査」を平成5年(1993年)に実施しましたが、今後も、定期的な調査の実施や各種の調査を通して市民意識の経年変化を把握し、意識変化に対応した施策の検討を進めます。

なお、幅広い視点から総合的に人権施策を検討するため、分野ごとに把握した実態や市民意識の集積を行います。


【調査と現状把握】

①実態把握の工夫
生活実態の調査などによって人権問題の把握を進めていますが、より現状を正確に把握するために調査方法などの工夫を図ります。
行政による調査が難しい場合などは、その分野で活動するNGO等との連携・協力を得ながら調査を進めます。

また、通常のアンケート調査などの方法で把握が困難な場合は、関係者等からの聞き取り調査や日常の業務や相談窓口などから把握するように努めるとともに、関係機関との連携を強化し、情報交換などを通して実態把握を進めます。

②偏見や差別を受けている人々等との意見交換

偏見や差別を受けている人々や人権問題に直接かかわることが多い関係団体等との意見交換などを通じて、実態把握に努めます。

③長期的、定期的な調査

長期的な視点に立った調査等を実施し、幅広い人権問題の実態を踏まえて各施策を推進する必要があります。今後は、いろいろな角度から人権問題を把握する調査を行うとともに、定期的な調査を進め、より正確な実態の把握に努めます。

④市民意識の把握

啓発や教育等、差別の解消に向けた取組を進めるために、市民意識を的確に把握する必要があります。そのため、アンケート形式による意識調査のほか、様々な方法を活用し、市民意識の把握に努めます。

主な方向例
・人権に関する定期的な市民意識調査
・啓発事業におけるアンケート調査
・各種モニターとの意見交換

権利擁護システムの構築
~人権擁護を進めるために~

人権は、私たち人間が生まれながらにして有するものですが、これまで先人たちの多年にわたる努力の積み重ねによって守り育てられてきました。市民一人ひとりは、人権のもつ意味をしっかり理解するとともに、人権を尊重する社会の実現に向けた努力が求められます。

しかし、市民が人権意識を高めることや偏見や差別の存在を知ることだけで、人権問題を解決することは困難です。国や自治体の側も積極的にその解決に向けたシステムを構築していく必要があります。

人権擁護については、国の責務として位置づけられ法務局、人権擁護委員等により取り組まれています。横浜市としても、それぞれの分野において人権にかかわる施策を所管し、市民の人権を擁護する使命を負っており、国の機関と密接な連携を図りながら、相談をはじめとする人権擁護体制の充実を図ります。また、地域において人権問題に取り組んでいる人権擁護委員については、その制度の周知に努めます。

福祉や教育など分野ごとの相談については、的確な助言・指導ができるよう職員の資質の向上や相談機能の充実を図ります。また、相談機関相互の連携を強化します。人権問題の解決に向けた取組については、人権擁護の視点から既存の施策や法令・制度の点検を行うとともに、国の人権擁護推進審議会の動向も見ながら、新たなシステムの検討を進めます。

新たに、自らの意思を十分に表明できない高齢者や障害者が家庭や地域で安心して安定した生活をおくることを支援する権利擁護機関を設置するとともに、横浜市の機関等がかかわる人権問題などの苦情に対応する第三者による人権擁護の在り方について研究します。

また、人権擁護を進める取組は、社会全体で進めることが重要です。そこで、人権問題に取り組むNGO等や市民、地域等とのネットワークの構築を進めます。

さらに、人権を擁護する上で最も重要な市民のプライバシー保護が図られるように努めます。


【権利擁護に関して】

①高齢者・障害者に対する権利擁護機関の設置
自己の権利を十分に主張できなかったり、意思表示を行うことが困難な高齢者・障害者を取りまく権利侵害の事例は多発しており、内容的にも複雑・多様化しています。

高齢者・障害者の財産管理や保全を含め生活上の権利の行使や要望を充足し、権利の確保を支援する権利擁護機関を設置します。

②子どもの相談・指導体制の充実
大きな社会問題となっているいじめやひきこもり・不登校等について、児童・生徒一人ひとりの悩みにきめ細かく対応できるよう相談・指導体制を充実します。また、これらを未然に防ぐため教職員の資質の向上や保護者・教職員等を対象とした教育相談の充実を図るとともに、学校、家庭、地域社会の連携を図りながら取組を充実していけるよう、身近な場所での相談体制や支援策を拡充します。

③施設等における利用者の人権擁護の徹底
福祉、医療関係施設については、入所者に対する職員の人権感覚豊かな対応が特に要求されます。

関係職員等の人権研修を充実するとともに、入所者に対する人権擁護の徹底を図ります。また、「福祉のまちづくり条例」に沿って施設の環境整備に努めます。
その他の市民利用施設については、だれもが気軽に利用できるようなサービス体制の整備や利用者の人権を尊重した施設運営に努めます。

主な方向例
・入所者のプライバシー保護の視点から処遇、設備面を点検
・利用者の個性に合った処遇マニュアルの策定
・人権に視点をおいた処遇研修の実施
・だれにも分かりやすい案内表示や設備等の改善
・施設等の監査に人権の視点を導入
・利用手続きの改善検討

④人権擁護委員制度の機能充実に向けた働きかけ
人権擁護委員の活動は、人権思想の普及・高揚、人権相談、人権侵犯事件に関する調査、情報収集などが主なものです。その中で人権相談が活動の中心となっていますが、相談者からは人権侵害に対する調整機能が十分でないという状況も指摘されています。今後、国に対して人権擁護委員の機能充実に向けた働きかけを行っていきます。

また、市民に対しては、いろいろな機会を活用して人権擁護委員制度の周知に努めます。

⑤第三者による人権擁護の在り方の研究
人権に関する苦情を含めて横浜市の行政サービス等への不服・苦情等については、「市長への手紙」、「市民相談・区民相談」,「法に基づいた不服申し立て」など各種の制度が設けられています。しかし、これらには迅速性や手続きの煩雑さに問題があるとの意見があります。

横浜市では、福祉サービスや類似する保健サービスの苦情等に対する第三者機関として「横浜市福祉調整委員会」を設置していますが、今後、横浜市がかかわる人権上の苦情等に対して、簡便・迅速に対応する第三者による人権擁護の在り方について研究します。


【法令等に関して】

既存の法令等の点検と改善
既存の法令や制度について人権の視点から点検を進めます。また、点検によって見つけられた問題点については、国等に対して改善を働きかけます。

【相談に関して】
①人権相談体制の充実
現在行っている市政相談は、人権に関する相談を含めて市民相談・区民相談など各種の分野で行っています。しかし、どの相談も共通して、どこに行けばいいか分からない、行政の相談は堅苦しいなどの指摘があります。
市民に分かりやすい人権相談体制を構築するため、相談場所や相談しやすい雰囲気づくり等について検討します。

主な方向例
・外国人市民や障害者等に対応できる相談体制の充実
・相談事業、窓口の積極的なPR
・専門相談(婦人相談員、福祉調整委員会、「いじめ」110番等)のPR

②相談にかかわる人材の育成と研修の充実
相談員は、最初に問題を受けとめることになり、その役割は大変重要です。そのため、相談員の育成と研修の充実を図ります。

主な方向例
・研修カリキュラム整備
・グループワーク等研修手法の開発
・事業分野別の職員研修
・民間団体等やボランティアとの情報交換会

③NGO等との連携による相談体制の充実
NGO等の行う活動は、行政だけでは解決できない様々な社会的要望に柔軟かつ迅速に対応できることなど数々の特色があります。
これらのノウハウを持つNGO等と連携・協力して、最大限の効果を上げることができるよう相談体制の充実を図ります。

④総合相談機関と専門機関との連携
総合相談機関としての福祉事務所や児童相談所であっても、相談内容が広範かつ複雑であることから他の専門機関あるいは専門施設との連携が必要となることが少なくありません。相談機関相互の連携だけでなく、専門機関さらには専門機関相互のネットワークを一層強化することで、適切な対応を行うことができる体制づくりを推進します。

主な方向例
・国、県、市の連絡体制の強化
・関係機関のネットワーク(福祉事務所,児童相談所,保健所,医療機関,学校,警察,青少年相談センター,家庭裁判所等)


【人権とプライバシーに関して】

①プライバシー保護の徹底と啓発

情報化社会にあってコンピュータによる各種情報の処理、集積が進んでいます。集積された情報が外部に漏れるといった個人のプライバシー侵害に対する不安感が高まってきています。人権相談等で得た個人情報や行政機関が保有する個人情報については適正な保護・管理を徹底します。また、職員の個人情報に対する重要性の認識を一層高めるよう、プライバシー保護について研修を推進します。
さらに、関係機関、市民へも人権擁護の基礎であるプライバシー保護の重要性の啓発に努めます。

②プライバシーの保護と情報提供

プライバシーの保護は人権を守る上で最も重要な要素の一つです。
しかし、プライバシーを重視するあまり、子どもや高齢者の虐待など人権侵害を見過ごしてしまう例も見られます。
これらの情報を早期に提供する必要性について啓発に努めます。

ネットワークの形成
~社会全体で取り組むために~

人権問題に取り組む上で最も重要なことは、社会全体で取り組むという合意と人権を擁護するシステムを構築することにあると言えます。

指針では、これまで人権問題に対する横浜市の役割と、分野ごとの施策の方向や啓発・教育・研修、現状の把握、権利擁護のシステム等の施策の方向を明らかにしてきました。

しかしながら、行政だけで人権問題に取り組むには限界があります。

今日、環境問題、社会問題などに取り組むNGO等の活動が注目されていますが、人権の分野においても、公的な機関、制度では対応しきれない市民の多様な要望に応えるためNGO等の役割は大きくなっています。

NGO等の活動は、①直接的で迅速な対応、②行政がかかわりにくい課題への対応、③先駆的な課題への対応など、市民の求めに対して柔軟に対応することが可能であることから、様々な場面で社会的な役割を担うまでに成長しています。

人権問題の解決のためには、これらNGO等をはじめ社会全体の英知を結集し、ネットワークを構築して取り組むことが重要です。

しかし、市民ボランティアやNGO等については阪神・淡路大震災の際の活躍などから関心が高まってきてはいますが、社会的には,それほど理解されていないのが実情で、現在までのところNGO等と市民や企業、行政機関とのネットワーク化が必ずしも進んでいる状況にあるとは言えません。

そこで、それぞれの活動を通して連携・協力し、社会全体で人権問題に取り組むことができるようネットワークづくりを推進します。

ネットワーク化を行うにあたっては、自主性を尊重しながら、それぞれの役割分担と行政の支援の在り方等について検討し、その特性を生かした仕組みづくりを進めます。

さらに、国、県、市の関係機関など行政相互の連携や、法律的な側面から人権問題に積極的に取り組んでいる弁護士会等との連携・協力の強化を図ります。


【ネットワークづくり】

①NGO等と行政の役割分担等の検討
柔軟な行動力等の特色を生かして啓発や相談などに取り組むNGO等は、課題解決の原動力の一つになっています。公的機関・制度では対応しきれない多様な要望に応えるためには、NGO等と行政の連携・協力を推進する必要があります。そこで、推進にあたって、双方の役割分担や関係の在り方などについて検討します。

②NGO等への協力・支援の在り方の検討
NGO等には、福祉活動やまちづくり活動など様々な社会的要望の中から、それぞれの団体が自発的な意志により選択した活動を行う中で、人権を尊重する社会の実現に貢献している団体もあります。

NGO等の自主性を尊重しながら、協力・支援の在り方や方法についての検討を行うとともに、これらのNGO等とのネットワーク化を推進します。
主な方向例
・事業実施のための必要に応じた財政的な支援
・事業実施のためのNGO等への適切な情報提供
・相談業務を担当するスタッフ研修等への支援
・市民とNGO等、NGO等相互の交流機会の提供

③NGO等と関連機関との連携・協力の促進
NGO等と相談機関や医療機関などの関連機関が情報やノウハウを提供し合うなど連携・協力を進めることは、より的確な現状の把握と迅速かつ適切に課題解決を図るためにも重要です。そこで、NGO等と関連機関等との連携・協力の促進を図ります。

④NGO等と市民、企業との協力関係への支援
NGO等の役割や活動内容について、様々な機会を通じて市民、企業へ周知を図るとともに、交流機会の提供などの支援を推進します。

⑤市民、企業への協力・支援の充実
市民、企業が日常の活動の中で主体的に人権問題に取り組むことができる環境づくりを進めるため、啓発機会や情報提供などの充実を図ります。また、市民、企業が実施する啓発や研修に対する協力・支援を推進します。


第4章 市民・企業等に期待すること

人権問題の解決のためには、行政だけではなく、市民、企業を含めて社会全体で取り組んでいくことが重要です。すべての人が連携して活動することにより、人権を尊重し合い、だれもが暮らしやすい社会が実現されます。

横浜市は、人権を尊重する社会の実現を目指した施策の推進に積極的に取り組みます。

あわせて市民、企業に対しては、次のことを期待します。

1 市民に期待すること

(1)啓発活動への参加
「一人ひとりがそれぞれに違う」ことを認め合い、人権感覚を高めるために人権講演会などの各種啓発活動に積極的に参加し、家庭や地域の中で人権について考える機会を進んで持たれることを期待します。

(2)ボランティア活動等への参加
だれもが暮らしやすい地域をつくるために、主体性を持ってボランティア活動へ参加することを期待します。また、現在活動している人には、まわりの人にも呼びかけて輪を広げることを期待します。

(3)日常生活での実践
日常生活の中で人権を尊重する社会の実現に向けた行動の実践や問題提起を期待します。また、行政に対する意見表明についても期待します。

2 企業に期待すること

(1)だれもが働きやすい職場づくり
企業全体の人権意識を高め、だれもが働きやすい職場をつくることが求められています。そのため、それぞれの企業が働く環境を整えるとともに、人権研修に積極的に取り組むことが望まれます。

(2)地域社会の一員としての企業
企業も地域社会の一員です。人権の視点から企業活動の点検を行うとともに、企業活動を通して、社会的な問題解決や地域社会に積極的にかかわっていくことが望まれます。
また、ボランティア活動に参加しやすいような社内体制づくりや、地域活動への協賛や参加など社会貢献の推進を期待します。さらに、地域で活動するNGO等との連携・協力を期待します。

3マスメディアに期待すること

マスメディアには、人権問題の社会的提起と理解促進へ向けた積極的な取組を期待します。
また、一方でマスメディア関係者には、マスメディアの市民への影響を考えたときに、報道の仕方によっては人権問題に対する負の固定観念を生むこともあるということについて留意することを望みます。