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人権に関するデータベース

全国の地方公共団体をはじめ、国、国連関係機関等における人権関係の情報を調べることができます。

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地方公共団体関係資料

京都市人権文化推進計画
情報の種類 地方公共団体関係資料
タイトル 京都市人権文化推進計画
時期 2005/03/01
主体名 京都市
【 内容 】

京都市人権文化推進計画
(改訂版)
京 都 市
平成22 年4 月
はじめに 1~
1 策定の背景
(1) 国内外の動向
(2) これまでの本市の取組
2 策定の趣旨
(1) 新たな計画の必要性と提言の尊重
(2) 位置付け及び計画期間
第1章 基本的な考え方 4~
1 人権の基本的考え方
(1) 個人の尊厳の保持及び可能性の伸展
(2) 相互の人権の尊重
(3) 人権の普遍性
(4) 人権の日常性
2 人権施策の分類
3 人権施策の基本方針
(1) すべての人の人権を尊重する
(2) 市民との協働(パートナーシップ)による推進
(3) 総合的,戦略的な推進
第2章 各重要課題について 7~
・女性 ・子ども ・高齢者 ・障害者 ・同和問題 ・外国人・外国籍市民
・感染症患者等 ・ホームレス ・その他の課題
第3章 施策の推進と重点項目 30~
1 教育・啓発
(1) 人権教育・啓発について
(2) 重点項目
2 保障
(1) 人権の保障について
3 相談・救済
(1) 人権相談・救済について
(2) 重点項目
第4章 計画の推進 40~
1 推進体制と職員研修
(1) 推進体制
(2) 職員研修
2 関係機関,関係団体等との連携
3 進行管理と評価
(1) 進行管理
(2) 評価
はじめに
1 策定の背景
(1) 国内外の動向
昭和23(1948)年に国際連合において「世界人権宣言」が採択されて以降,「あら
ゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約(人種差別撤廃条約)」(1965 年),「女
子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約(女子差別撤廃条約)」(1979 年),
「児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)」(1989 年)など,多くの条約が採
択されてきた。また,そのほかにも「国際婦人年」,「国際障害者年」などの国際年
や宣言等により,国際社会において平和と人権を確立するための数多くの取組が進
められてきた。
特に,平成6(1994)年の第49 回国連総会において,平成7(1995)年から平成
16(2004)年までの10 年間を「人権教育のための国連10 年」とすることが決議さ
れ,世界各国が人権教育の普及等に取り組むことなどを内容とする「人権教育のた
めの国連10 年行動計画」が採択された。最終年を迎えた平成16(2004)年には,国
連総会において,その後のフォローアップとして「人権教育のための世界プログラ
ム」を開始することが決議されるなど,更なる取組が進められている。
我が国においては,基本的人権の尊重を柱の一つとする日本国憲法の下,人権諸
条約の締結とそれらの趣旨を踏まえた国内法の整備,また,「国際婦人年」や「国際
児童年」などの数多くの国際年に取り組むなど,国際的な潮流を踏まえつつ,国政
全般にわたり人権に関する諸制度の整備や諸施策の推進が図られてきている。
平成7(1995)年12 月に内閣総理大臣を本部長とする「人権教育のための国連10
年推進本部」を設置し,平成9(1997)年7月には「「人権教育のための国連10 年」
に関する国内行動計画」を策定した。
そして,平成9(1997)年3月に「人権擁護施策推進法」が5年間の時限立法と
して施行され,同法に基づき人権擁護推進審議会が設置された。同審議会では「人
権尊重の理念に関する国民相互の理解を深めるための教育及び啓発に関する施策」
及び「人権が侵害された場合における被害者の救済に関する施策」についての審議
が行われ,このうち教育・啓発に関しては平成11(1999)年に答申が出された。
これまでの国連10 年国内行動計画や人権擁護推進審議会からの答申を踏まえた諸
施策のより一層の推進を図るため,平成12(2000)年12 月に「人権教育及び人権啓
発の推進に関する法律」が制定され,同法に基づき,平成14(2002)年3月に「人
権教育・啓発に関する基本計画」が策定された。これにより,人権教育・人権啓発
に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図ることが,国及び地方公共団体の責務
とされた。
人権救済については,人権擁護推進審議会から,平成13(2001)年5月に「人権
救済制度の在り方について」,同年12 月に「人権擁護委員制度の改革について」と
して答申が出された。その後,この答申を基に,平成14(2002)年3月に法務省から
人権救済制度の整備等について定める「人権擁護法案」が提出されるなど,我が国

における人権救済の仕組みづくりが本格化する動きがあり,今後の動向が注目され
る。
このほか「障害者基本法の改正」(平成16(2004)年),「配偶者からの暴力の防止
及び被害者の保護に関する法律の改正」(平成16(2004)年),「児童虐待の防止等に
関する法律」(平成16(2004)年),「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」
の制定(平成14(2002)年),「性同一性障害の性別の取扱いの特例に関する法律」
の制定(平成15(2003)年)など,人権に関する数多くの取組が進められている。
(2) これまでの本市の取組
本市では,これまで人権にかかわる施策を常に市政の重要施策として位置付け,
人権尊重の理念の普及に努めるとともに,様々な人権問題の解決に向けた取組を積
極的に進めてきた。
近年では,平成10(1998)年5月に「京都市人権教育のための国連10 年推進本部」
及び「京都市人権文化推進会議」を,同年6月に「人権行政推進主任」(各局等の庶
務担当部長等)を設置し,全庁的な推進体制の下,人権施策の総合的な推進を図っ
てきた。
平成11(1999)年12 月に策定した「京都市基本構想(以下「基本構想」という。)」
及び平成13(2001)年1月に策定した「京都市基本計画(以下「基本計画」という。)」
においては,「日々のくらしのなかに人権を大切にし,尊重し合う習慣が根付いた「人
権文化」を築いていくことにより,子どもも高齢者も,女性も男性も,障害のある
ひともないひとも,また,国籍や民族,生まれや生い立ちに関係なく,すべてのひ
とがいきいきとくらせるまちをめざす」ことを全市的な政策における基本的方向と
して位置付け,市民,企業,関係団体等とのパートナーシップの下,積極的に推進
してきた。
特に,人権教育・啓発については,平成11(1999)年3月に策定した「人権教育の
ための国連10 年京都市行動計画(以下「行動計画」という。)」を中心として,各種
広報媒体による広報・啓発活動,学習機会の提供をはじめ,人権尊重の考え方が日
常生活に根付いていくための多彩な取組を推進してきた。
また,「きょうと男女共同参画推進プラン(第3次京都市女性行動計画)」(平成14
(2002)年),「新「京(みやこ)・子どもいきいきプラン」」(平成17(2005)年),
「京都市民長寿すこやかプラン」(平成15(2003)年),「京都市障害者施策推進プラ
ン」(平成15(2003)年)など各分野別計画の策定,推進により,各人権課題の社会
的な背景や特質に応じた具体的施策を推進している。
これまでの取組により,市民の間に人権尊重の意識は定着しつつあり,また,人
権問題の解決が図られつつあるものの,女性,子ども,高齢者,障害のあるひと,
同和地区出身者,外国人などに対する暴力,虐待,差別,社会参加の阻害など,依
然として人権上の問題が解決されずに残っている。更に,近年の少子長寿化の進行,
国際化の進展,情報通信技術(IT)の発達などの社会状況等の変化を背景として
新たな人権課題も発生しており,これらの状況の変化に的確に対応した取組が求め
られている。

2 策定の趣旨
(1) 新たな計画の必要性と提言の尊重
平成16(2004)年末の行動計画の終了及び現在の人権を巡る状況を踏まえ,基本構
想に掲げる「安らぎのあるくらし」を実現するためには,人権施策に関して,これ
までの取組とその成果,今日的な課題等を踏まえた基本的考え方等を示す計画の策
定が必要であるとの認識から,人権施策に関する新たな計画を策定することとした。
新たな計画の策定に当たっては,人権にかかわる専門的な意見の確保や市民参加
の一層の推進を図るため,学識経験者及び市民公募委員からなる「京都市人権文化
推進計画(仮称)策定検討委員会」を設置し,同委員会から本計画策定に当たって
提言を得た。本計画は,パブリック・コメントを経て提出された同委員会からの提
言を尊重して策定したものである。
(2) 位置付け及び計画期間
本計画は,全市的な市政の基本方針である基本構想,また,基本構想の具体化の
ために全市的観点から取り組む主要な政策を示す基本計画に基づく,人権施策に関
する分野別計画であり,本市が人権施策を推進(企画,実施,評価)するうえでの
基本的な考え方等を示すものである。
また,「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」(平成12(2000)年12 月),「人
権教育・啓発に関する基本計画」(平成14(2002)年3月)などの取組等とも協調して
策定したものである。
本計画の計画期間は,平成17(2005)年度から平成26(2014)年度の10 年間と
する。ただし,社会状況等の変化に対応するため,必要に応じて見直すものとする。

第1 章 基本的な考え方
1 人権の基本的考え方
(1) 個人の尊厳の保持及び可能性の伸展
人は,一人一人かけがえのない存在であり,多様な個性や可能性を持って生まれ
てくる。人権とは,人間の尊厳に基づいて各人が持っている固有の権利であり,社
会を構成するすべての人々が個人としての生存と自由を確保し,社会において幸福
な生活を営むために欠かすことのできない権利である。別の言い方をするならば,
人がどのような状況にあっても,個人としての尊厳を守り,個人の可能性を最大限
に伸ばしていくことといえる。
(2) 相互の人権の尊重
人権は,個人の尊厳及び可能性にかかわるものであり,誰もが等しく持っている
ものである。人権尊重の精神が社会に根付くためには,すべての個人が,相互に人
権の意義及びその相互の尊重の重要性について,理性及び感性の両面から理解を深
めるとともに,自分の権利の行使に伴う責任を自覚し,自分の人権と同様に他人の
人権も尊重することが求められる。
(3) 人権の普遍性
人権は,誰もが等しく持っており,すべての市民にとって同じように意味がある
ものである。本市においても,人権に関する施策は,性別や障害のあるなし等にか
かわらず,すべての人がいきいきとくらせるまちの実現を目指して,教育・啓発を
はじめとしてソフト,ハードの両面から各種の取組を推進してきている。
それらの取組の中には,他の人には保障されている人権が,十分に保障されてい
るとはいえない人々の状況等を改善するための施策も含まれる。そのような人権上
の重要な課題に対し,国や地方自治体が重点的に取組を推進することは,人権が尊
重されるまちを実現するために必要不可欠なことであり,人権が個人の問題だけで
はなく,社会的な問題であるという認識を深めるうえで大きな役割を果たしてきた
側面もある。
しかし,これまで人権に関する様々な取組を推進してきた過程で,特別に施策の
対象とならなかった人々にとっては,人権は自らのものであるという意識が希薄に
なっている傾向があることも考えられる。また,漠然とではあるが,人権は重いテ
ーマであるというような印象を持っていることも完全には否定できない。
結果として,依然,人権が十分に保障されているとはいえない人々や人権問題の
解決に取り組んでいる人々と,日常では人権をほとんど意識することがない人々と
の間には,人権に対する意識のずれが生じていることも考えられる。
しかし,本来,人権は,市民一人一人にとって身近なものであり,改めて人権が
すべての人にとって普遍的なものであるという認識に立ち返ることで,人権問題が
社会全体の問題として位置付けられ,依然として状況の改善を必要とされている

人々の問題の解決に資すると考えられる。
更に,他者の人権のために自分は何ができるのかという考え方や,将来の人の人
権をも尊重するという視点を持てば,人権は,環境や平和の問題をはじめ,社会を
よりよいものに発展させていくこととつながっているということができる。
(4) 人権の日常性
前項(3)で述べたように,これまで特別に施策を必要としなかった人々にとっ
て,人権は,日常生活の中で特に意識されることが少ないと思われる。
しかし,勤労の権利や財産権をはじめ,交通機関による移動,新聞等による情報
の入手,様々な意見の表明などはすべて人権にかかわるものである。
人権が守られることによって日常生活を送ることができることを改めて認識する
必要がある。
2 人権施策の分類
人権にかかわる施策には人権教育・啓発をはじめとして様々なものがあるが,本計画
では,人権が尊重される社会づくりに必要な施策を,(1)人権尊重の精神のかん養及び
理念の普及等を行う「人権教育・啓発」,(2)他の人が享有している人権を十分に享有
できなかったり,人権を侵害されるおそれがある状況をソフト・ハードの両面において
改善を図る「人権保障」(ここでいう保障とは,いわゆる「社会保障制度」のような使わ
れ方とは異なっている。),また,(3)実際に人権が侵害された場合に相談等に適切に対
応するための「人権相談・救済」の三つに分類する。
3 人権施策の基本方針
本市の人権施策は,以下の基本方針に基づき推進する。
(1) すべての人の人権を尊重する
人権はすべての人にとって普遍的なものであることから,人権が十分に保障され
ていない人々をはじめとして,すべての市民が人権を等しく持っているという認識
の下,「すべての人の人権を尊重する」という視点に立ち,各種の人権施策を推進す
る。
これまで主に障害者福祉の分野でノーマライゼーション※の理念の普及が図られ
てきているが,多様な価値観を認め合い,互いに個性を尊重するという点で,すべ
ての人の人権を尊重するという考え方がその根底にあるといえる。
また,近年,障害の有無などにかかわらず,あらかじめ,できる限りすべての人
にとって使いやすい製品,建物,環境をデザインしておくというユニバーサルデザ
インの考え方についても,人権が十分に保障されているとはいえない人だけの問題
ではなく,すべての人にかかわる問題として捉えるという点で,人権尊重の理念に
通じているといえる。
すべての人の人権が尊重される社会づくりを目指し,各種の人権施策を推進する
際には,このノーマライゼーションやユニバーサルデザインの視点を持つ必要があ

る。
(2) 市民との協働(パートナーシップ)による推進
人権は,すべての市民にとって安らぎのある暮らしの基盤となるものであり,市
民一人一人が日常において守り,発展させていくものである。
本市では,市民とのパートナーシップによる市政推進を市政の基本方針に置き,
市民参加推進条例の下,市政のあらゆる段階において市民参加を積極的に推進して
きており,これは,町衆による自治の伝統を今に受け継ぐものである。既に市民生
活の各分野において,NPOの活動をはじめとする市民活動が活発になっており,
新しい時代に応じた市民による自治が徐々にではあるが成熟しつつあることが伺わ
れる。
人権施策においても,あらゆる分野で市民との協働をその根本に置いてこれを推
進していかなければならない。
更には,行政以外で取り組まれる先進的な取組等,市民等の取組に学ぶという姿
勢を持って,積極的に協働していく。
(3) 総合的,戦略的な推進
人権にかかわる施策はそれぞれの部局において取り組んでいるが,施策全体の効
果を十分に挙げるためには,部局間の十分な連携が必要である。また,複数の分野
にわたる人権問題などは,多様な視点を持ってその解決に当たるという点からも,
各部局の連携が不可欠である。
このことから,人権にかかわる施策の推進に当たっては,一人一人の可能性の伸
展や社会参加を阻害している要因がないか,つまり,人権の視点で市政を常に点検
したうえで,施策の効果が十分に発揮されるよう,これまで以上に各部局の十分な
連携の下,総合的に取り組んでいく。
また,人権に関する施策は,施設等のバリアフリー化などのハード面だけではな
く,人権尊重の精神のかん養及び理念を普及するための教育・啓発など,ソフト面
もまた重要である。
市民生活において人権が尊重されているかどうかを数字で示すことは困難である
が,着実な成果を挙げるため,人権施策の推進においても,客観的なデータや分析
等に基づき,社会状況等の変化にも常に注意を払いながら,長期的な課題と短期的
な課題の整理,状況に応じた取組の優先順位の検討など,施策全体を戦略的に推進
していく。
更に,市民と行政の役割は時代の流れと共に変わっていくが,人権施策において
も例外ではなく,市民,人権関係団体,企業,NPO等との対話を常に維持し,市
民と行政との役割の在り方について常に点検を行う。

※ノーマライゼーション
性別,年齢,障害の有無などにかかわらず,生活の拠点である家庭や地域,学校において等しく参加し,
支えあって生きていくことが普通の社会であり,社会において様々な人々が多様な価値観や生活スタイル
を互いに認め合い生活することが当然とする考え方
第2章 各重要課題について
人権上の各重要課題については,これまでにもそれぞれの部局において,各分野別の
計画などを基に,その解決に取り組んできたところであり,今後とも,各課題の社会的
な背景や,これまでの取組の成果や反省等を踏まえるとともに,人権問題が複雑化,多
様化する傾向にあることから,必要に応じて各部局の十分な連携を図る。
なお,基本的考え方に示したように,人権の問題は,人権が十分に保障されていると
はいえない人だけの問題ではなく,市民一人一人の身近な問題であり,社会全体の問題
である。具体的な施策の推進に当たっては,施策の対象となる市民とそれ以外の市民と
は別であるという印象を与えないよう,行政をはじめ,課題の解決に取り組む市民,人
権関係団体,企業,NPO等が,「すべての人の人権を尊重する」という視点に立つ必要
がある。
ここでは,人権上の重要な課題の解決に関して,本市が施策を推進するに当たっての,
各重要課題についてのこれまでの動向,現状と課題及び今後の施策の在り方について簡
潔に示す。
【女性】
1 これまでの動向
女性の地位向上と男女平等を目指した国際社会の取組は,昭和50(1975)年の「国際
婦人年」を契機に大きく展開されてきた。平成7(1995)年に北京で開催された第4回
世界女性会議では「女性のエンパワーメント」をキーワードに,「女性と健康」,「女性に
対する暴力」,「女性の人権」,「女性とメディア」など12 の重大問題領域において各国政
府等が取り組むべき「北京行動綱領」が採択された。また,「北京行動綱領」の実施状況
を評価し,今後に向けた取組を検討することを目的として,平成12(2000)年に「女性
2000 年会議」が開催され,「成果文書」が採択されている。
国においては,昭和50(1975)年の第1回世界女性会議で採択された「世界行動計画」
を受け,昭和52(1977)年に「国内行動計画」が,昭和62(1987)年には「西暦2000
年に向けての新国内行動計画」(平成3(1991)年改定)が策定されるなどの取組が進め
られてきた。また,平成8(1996)年には「男女共同参画2000 年プラン」が策定され,
このプランの下で,「男女雇用機会均等法」,「労働基準法」,「育児・介護休業法」などの
改正による雇用分野における制度改正が実施(平成11(1999)年4月)されている。平
成11(1999)年には「男女共同参画社会基本法」が施行され,5つの基本理念の達成に
向けて,国,地方公共団体,国民の役割が定められた。更に,「男女共同参画基本計画」
を平成12(2000)年に策定するとともに,平成13(2001)年には内閣府に「男女共同参
画局」を設置するなど,推進体制の強化を図っている。また,「ストーカー行為等の規制
等に関する法律」(平成12(2000)年施行)及び「配偶者からの暴力の防止及び被害者の
保護に関する法律」(平成13(2001)年施行,平成16(2004)年改正法施行)と,女性
に対する暴力を防止する法制度が整備されてきた。
本市においては,昭和57(1982)年に「婦人問題解決のための京都市行動計画」を策
定するとともに,同計画の取組期間が終了する平成4(1992)年3 月には,「女性の働く

権利の保障」や「家庭や社会のあらゆる分野への男女共同参画の促進」などの基本目標
を掲げた「第2次京都市女性行動計画」を策定した。また,平成14(2002)年3月には,
これまでの内容を充実,発展させた「きょうと男女共同参画推進プラン」(第3次京都市
女性行動計画)を策定し,男女共同参画に係る総合的な取組の推進を図っている。更に,
平成15(2003)年12 月には,市民や事業者とのパートナーシップの下,男女共同参画社
会づくりを総合的かつ計画的に推進するための新たな指針として「京都市男女共同参画
推進条例」を制定している。
平成19年度からは「きょうと男女共同参画推進プラン(改定版)」に基づき施策を推
進している。
2 現状と課題
現実には,「男は仕事,女は家庭」といった男女の多様な生き方を制約する固定的な性
別役割分担を反映した制度・慣行等が,今なお根強く存在している。中でも,働くこと
は,経済的自立を可能にするとともに,社会参加のための一つの手段であり,その権利
は男女を問わず保障されるべきものであるにもかかわらず,女性の就労率(約5割)は
男性(約7割)に比べ低く,女性が働き続けようと思っても「子どもの面倒をみてくれ
る場がない」,「家庭における親等の介護で女性に負担がかかっている」,「家族の理解や
協力が得られない」などの問題がある。また,企業等において管理職に占める女性の割
合は依然として低い状況にある。
また,女性に対する暴力は,女性の人権に対する重大な侵害行為であり,肉体的,精
神的,性的又は心理的損害又は苦痛が結果的に生じるか若しくは生じるであろう性に基
づくあらゆる暴力を含んでいる。京都市男女共同参画センター「ウィングス京都」にお
ける平成20(2008)年度の相談件数のうち,暴力に関する相談が27.8%を占めているだ
けでなく,本市が平成19(2007)年に実施した「配偶者等からの暴力に関する調査」に
おいて,実際にドメスティック・バイオレンスの被害経験を持つ女性が31.3%に上って
いるなど,早期根絶を図るべき問題である。被害者の安全確保はもとより,被害者の状
況に応じ,その意思を尊重したうえで,自立のための情報提供や心理的なケアなど,様々
な支援を総合的に,迅速に行うことが求められている。
このほかにもセクシュアル・ハラスメント,ストーカー行為など,様々な形の女性に
関する暴力事案の発生や,女性に対する暴力を助長する要因ともなる性の商品化や性情
報の氾濫等が社会問題となっている。
3 今後の施策の在り方
男女が等しく個人として尊重され,あらゆる場において共に責任を担いつつ個性と能
力が発揮できる男女共同参画社会を実現する必要がある。そのためには,一人一人の人
権を尊重することを基礎としながら,性別にとらわれず,個性と能力を発揮できる社会
の実現を目指して各種の取組を推進する必要がある。また,その中では,社会的・文化
的に形成された性差(ジェンダー)に基づく固定的な役割分担等にとらわれない視点も
必要である。

(保育・学校教育)
・ 男女が共に男女共同参画社会の担い手として尊重,協力し合いながら,健康で明るい
家庭,社会生活を営むことのできる能力や態度の育成
・ 保育,教育活動の中に,性別による固定的な役割分担を反映した慣行や子どもたちへ
のかかわりが残されていないかの点検,改善
・ 男女平等にかかわる教育の一環として,学校・家庭・地域の連携の下,子どもたちの
性に関する意識や実態に即した教育の推進
(啓発)
・ 男女共同参画の理念等についての広報・啓発活動の積極的な推進,市民等の自主的な
取組の支援
(雇用・意思決定)
・ 雇用における男女の均等な機会と待遇の確保等を図るため,事業者に対する広報,啓
発活動の積極的な推進及び事業者の自主的な取組の促進
・ 男女があらゆる分野での政策・方針等意思決定過程に参画できるよう,具体的な登用
計画の策定に基づく市の審議会等における女性委員の登用の推進,企業,各種団体等の
取組の支援
(暴力)
・ ドメスティック・バイオレンスやセクシュアル・ハラスメントなど,女性に対するあ
らゆる暴力を根絶するため,女性の人権尊重に向けた広報・啓発の強化,相談・救済機
能の充実及び関係機関等との連携による被害者への支援

【子ども】
1 これまでの動向
平成6(1994)年に批准された「子どもの権利条約」においては,子どもを単に保護・指
導の対象としてのみとらえるのではなく,基本的人権の享有主体として尊重するととも
に,家庭や社会生活のあらゆる分野で,「子どもの最善の利益」が考慮されるべきこと等
が宣言されている。
国においては,憲法をはじめ,児童福祉法や児童憲章,教育基本法などにおいてその
基本原理や理念が示されてきた。近年の子どもを取り巻く状況から,「次世代育成支援対
策推進法」の制定(平成15(2003)年)や関連法(児童福祉法,児童虐待防止法,児童
手当法,育児・介護休業法)の改正や「子ども・若者育成支援推進法」の制定がなされ
ている。
本市では,子育て支援を市政の最重要施策の一つに位置付け,平成9(1997)年に「京
(みやこ)・子どもいきいきプラン(京都市児童育成計画)」を,平成17(2005)年に,
新「京(みやこ)・子どもいきいきプラン」を策定し,児童福祉,母子福祉・医療,教育
などの分野で様々な施策を推進してきた。
また,平成19 年に「子どもを共に育む京都市民憲章」を制定し,憲章の理念に基づく
実践行動を促すことにより,家庭,地域,学校,企業,行政など社会のあらゆる場にお
いて行動の輪を広げることを目指している。
平成21(2009)年度には,子育ての現状や市民ニーズを踏まえ,新たな計画として「京
都市未来こどもプラン(仮称)」を策定中である。
2 現状と課題
近年,少子長寿化や核家族化が進行し,地域コミュニティの希薄化などに伴う,家庭
や地域の養育力の低下が懸念される状況が続いている。このような中,子育てに対して
不安や負担感,孤立感を感じている人も少なくない。
児童虐待に対する社会的関心の高まりもあり,本市の児童相談所における虐待にかか
わる相談・通告受理件数は,ここ5年で,約2倍に増えている。児童虐待は,子どもの
命にかかわる重大な人権侵害であり,依然として深刻な社会問題となっている。
少年非行の問題についても,児童相談所に寄せられる非行に関する相談は,近年増加
傾向にあり,援助交際・薬物乱用・重大触法行為の発生や低年齢化など深刻な現状があ
る。
小・中学校における,不登校児童生徒数は,平成13(2001)年度を頂点に,若干ではあ
るが減少傾向にあり,また,いじめの認知件数についても,19(2007)年度以降減少傾
向にある。しかしながら,暴力行為等の問題行動や児童買春など子どもの心身の健全な
成長が妨げられる問題の発生に加え,学校裏サイトでの悪口,誹謗中傷の書き込みなど
のいわゆるネットいじめ,携帯電話の危険性や生活習慣の乱れにつながる依存性の問題
など,新たな課題も出てきており,子どもを取りまく状況は,全体として依然憂慮すべ
き状況が続いている。
また,ニートやひきこもりなど,社会生活を営む上での困難を有する子ども・若者の
問題は深刻な状況にある。
10
3 今後の施策の在り方
「子どもの権利条約」においても掲げられているように,子どもは,身体・生命の安
全はもちろんのこと,あらゆる形態の差別から保護されるという基本的人権の享有主体
である。更に,子どもは,単に保護・指導の対象としてのみとらえられるのではなく,
自らの意見を表明する権利や参加する権利などを保障されるとともに,家庭や社会生活
のあらゆる分野で「子どもの最善の利益」が考慮されなければならない。
また,子どもたちの実態に見られるいじめや暴力行為等の問題行動,生命を軽視する
風潮などの様々な人権を巡る問題は,大人社会の反映であることを改めて認識する必要
がある。
「子どもを共に育む京都市民憲章」や,平成21年7月に成立した「子ども・若者育
成支援推進法」の趣旨等を踏まえ,社会総がかりで全ての子どもたちの健やかな成長を
保障する施策を推進する。
(虐待)
・ 児童相談所を中心とした早期発見・早期対応のための体制の確保,また,問題を抱え
ながら自ら支援を求めない家庭に対する家庭訪問など,虐待の予防から保護,ケアまで
を含んだ,総合的な子育て支援策の推進
・ 日常的に子どもに接する立場にある教職員による,「虐待」や「虐待の兆候」の早期発
見とPTAや地域諸団体等との連携による「予防的啓発」の徹底,児童相談所をはじめ
関係機関との連携の強化
・ 個々の事例に応じた児童相談所をはじめとする関係機関との連携とネットワークの
構築
(不登校,いじめ,問題行動)
・ 生涯にわたる人間形成の基礎を培う重要な時期である乳幼児期はもとより学齢期にお
いて,子どもたちが大人とのしっかりした信頼関係の下で,自己肯定感を確立し,子ど
も同士の仲間意識・他者を認めていく意識を高めていくことを目指した保育教育の推進
・ スクールカウンセラーの全中学校・高等学校への配置や社会福祉士の資格を有するス
クールソーシャルワーカーの配置など,思春期の児童・生徒に対する心のケア,教育相
談体制の充実
・ 温かい人間関係を基盤とし,一人一人がうるおいと活気に満ちた学校生活を送り,存
在感や成就感を味わえる学級づくり
・ 問題行動や不登校の兆候を学校・家庭・地域が共有するなど,三者が連携した課題解
決に向けた取組の推進
・ 児童相談所・学校・警察・弁護士会・家庭裁判所等関係機関の連携の強化
(安全教育)
・ 学校の安全管理体制を一層充実するとともに,IT機器の活用等により安心安全に関
する情報を発信するなど,学校・家庭・地域が一体となった「地域ぐるみの安全」の推

11
・ 身の周りに起こりうる危険を予測する学習を通して自分の行動を見直し,交通事故を
はじめとするあらゆる事故等を未然に防ぐ能力や態度を育成する取組の推進
(子ども・若者総合支援)
・ すべての子どもの健やかな成長と若者の社会的自立を目指し,総合的,継続的な支援
を実施するための体制の整備
12
【高齢者】
1 これまでの動向
昭和57(1982)年にウィーンで開催された国連主催による初めての世界会議において
「高齢化に関する国際行動計画」が,また,平成3(1991)年の第46 回国連総会におい
て「高齢者のための国連原則」がそれぞれ採択され,翌平成4(1992)年の第47 回国連
総会においては,これらの国際行動計画や国連原則をより一層広めることを促進すると
ともに,各国において高齢化社会の到来に備えた各種の取組が行われることを期待して,
平成11(1999)年を「国際高齢者年」とする決議が採択された。
国においては,平成7(1995)年に制定された高齢社会対策基本法に基づき,国際的
な動向も踏まえながら各種の対策を講じてきている。平成13(2001)年には引き続きよ
り一層の高齢社会対策の推進のため,新しい高齢社会対策大綱が閣議決定された。
本市では,平成12 年(2000)に,老人福祉法に基づく高齢者保健福祉計画と介護保険
法に基づく介護保険事業計画を「京都市民長寿すこやかプラン(京都市高齢者保健福祉
計画・京都市介護保険事業計画)」として一体的に策定し,高齢者福祉施策を総合的に推
進してきた。
平成18(2006)年には,国における介護保険制度の見直しの趣旨・動向を踏まえつつ,
平成16 年12 月に京都市内の65 歳以上の高齢者等を対象に実施した「高齢者の生活と健
康に関する調査」等の結果などをもとに,介護保険の各サービス量,保険給付費,第1
号被保険者の保険料を推計するとともに,高齢者保健福祉施策全般にわたる見直しを行
って,「第3期京都市民長寿すこやかプラン」(平成18 年度~20 年度)を策定した。
プランは3年ごとに見直すこととしており,平成21(2009)年には「第4期京都市民
長寿すこやかプラン」(平成21 年度~23 年度)を策定し,高齢者一人一人が,自らの意
思に基づき,住み慣れた地域でいきいきと健やかに暮らせる社会の構築を目指して,各
種の取組を推進している。
2 現状と課題
本市では,65 歳以上の高齢者の割合(高齢化率)が,政令指定都市の中でも5番目(平
成17 年国勢調査)に高く,65 歳以上の高齢者のいる世帯数も総世帯数の約3割を占めて
いる。また,子どもや孫と同居する三世代世帯の割合は著しく減少するなど,核家族化
の進行により家庭内で高齢者と子どもがふれあえる機会が減少している現状がある。
高齢化の進展に伴い,介護が必要な高齢者が増加する中で,介護疲れによる介護放棄
や身体的・経済的虐待等の様々な権利侵害が社会問題となったことから,平成18年4
月に「高齢者虐待の防止,高齢者の養護者に対する支援等に関する法律(高齢者虐待防
止法)」が施行されたところであるが,今後においても認知症高齢者等が安心して地域社
会で生活していけるよう,認知症に対する正しい理解の普及活動や相談機能の充実,関
係機関の連携を進めると同時に,高齢者虐待防止法の施行を踏まえた地域権利擁護対策
の推進,成年後見制度の利用支援を行っていく必要がある。
3 今後の施策の在り方
高齢者がこれまで培ってきた知恵や経験,技能を社会の様々な分野に生かされ,高齢
13
者が誇りと生きがいをもって,満足度の高い生活を送ることができるまちづくりを進め
るためには,長寿化の進展に伴う諸課題は高齢者のみの課題としてとらえるのではなく,
市民一人一人が共通の課題として認識し,その理解と関心を深める必要がある。
(学校教育)
・ 総合的な学習の時間での福祉をテーマにした学習や「生き方探究・チャレンジ体験」
推進事業等における高齢者との交流,高齢者福祉施設への訪問
(生活環境)
・ 高齢者が住み慣れた地域で自らの自立した生活ができるよう,住宅施策と保健福祉施
策との連携等による「すまいづくり」やユニバーサルデザインに基づく「まちづくり」
の推進など,ソフト・ハードの両面からの高齢者の生活環境の整備
(社会参加)
・ 高齢者が,健康で生きがいを持って自己の生活を主体的,積極的に築いていくことが
できるよう,社会参加の場を提供しつつ,様々な機会を活用して,高齢者の意識向上を
促し,社会参加への意欲の高揚につなげる取組の推進
・ 様々な世代が共に参加できる多様なイベントの開催,高齢者福祉施設と児童福祉施設
等との合築・併設の検討など,世代間が交流できる機会の提供
(介護予防)
・ 介護が必要となる状態になる前からの健康づくりや介護予防が重要であることから,
疾病予防のほか,身体機能の低下予防,機能訓練の充実など,保健,医療,福祉の各分
野の連携による介護予防の積極的な推進
(認知症高齢者)
・ 認知症高齢者とその家族が地域社会から孤立しないよう,認知症に対する正しい知識
と理解の普及,啓発活動の推進
・ 自己の判断能力が十分でない高齢者の権利や財産を守る権利擁護対策の推進,特に,
積極的な成年後見制度の普及啓発・利用促進
・ 高齢者の尊厳を支えるケアの確立
(虐待)
・ 要介護者対策及びその家族の負担軽減を含む総合的な支援
・ 高齢者の虐待が重大な人権侵害であることについての認識と理解を深めるための啓発
活動の推進
14
【障害のある人】
1 これまでの動向
国連は,昭和56(1981)年を「国際障害者年」とすることを決議し,各国において障
害者福祉を増進するように提唱した。これを受けて,国においては,昭和57(1982)年
に「障害者対策に関する長期計画」,平成7(1995)年12 月に「障害者プラン(ノーマ
ライゼーション7か年戦略)」を策定し,平成14(2002)年12 月には新たな「障害者基
本計画」と「重点施策実施5か年計画」を策定して,障害者福祉の取組を進めている。
平成16(2004)年6月には,障害者基本法が改正され,障害を理由とした差別をしては
ならないことが明記され,さらに平成17 年(2005)年4月には,発達障害を定義し,発
達障害のある方に対する生活全般にわたる支援の促進等を図る「発達障害者支援法」が
施行された。また,平成18(2006)年12 月の国連総会で障害のある方の権利及び尊厳を
保護・促進することを目的とする「障害者権利条約」が採択され,世界80 ヶ国が批准す
るとともに(平成22(2010)年2 月末現在),平成19(2007)年9 月には我が国も署名
し,内閣府に設置された「障がい者制度改革推進会議」において,障害者基本法の改正,
障害者自立支援法に代わる新たな総合的な福祉法制の制定,障害者差別禁止法の在り方
等,批准のために必要となる国内法令の整備をはじめとする障害のある方に係る制度改
革について検討が進められている。
本市では,障害のある市民の社会への「完全参加と平等」の実現を図るために,昭和
58(1983)年に「国際障害者年京都市行動計画」を策定し,平成4(1992)年10 月には,
同計画を継承・発展させた「国際障害者年第2次京都市行動計画」を策定するとともに,
同計画の重点施策実施計画として,平成10(1998)年4月には,「京都市障害者いきいき
プラン」を,平成11(1999)年3月には,「京都市こころのふれあいプラン」を策定し,
これら計画の期間終了後の平成15(2003)年3 月には,身体・知的・精神の3障害一体
の計画として「京都市障害者施策推進プラン」を策定し,総合的かつ計画的な障害保健
福祉施策を展開してきた。
「京都市障害者施策推進プラン」を策定した後,平成18(2006)年4 月に「障害者自
立支援法」が施行されるなど,障害のある方を取り巻く環境が大きく変化してきており,
同プランが平成19 年度をもって計画前半期を終え,重点項目の取組等に一定の区切りが
ついたことや,平成18(2006)年11 月に実施した「京都市障害者生活状況調査」の結果
等も踏まえ,平成20(2008)年10 月に後継プランとして「支えあうまち・京(みやこ)
のほほえみプラン」を策定し,「みとめあう」「ささえあう」「すこやかに」「はぐくむ」
「くらす」「はたらく」「ととのえる」の7つの分野から161の施策を推進している。
また,学校教育においては,障害のある児童・生徒一人一人がその可能性を最大限に
発揮し自立・社会参加できるよう,障害種別の枠を超えた全国初の総合制・地域制の総
合支援学校を開校した。
さらに総合育成支援員の配置やすべての学校に総合育成支援教育委員会を設置するな
どの指導体制の整備とともに,教員の専門性の向上を図るなど,障害のある子どもの状
態や発達段階等に応じた教育の推進,充実に積極的に取り組んでいる。
15
2 現状と課題
平成18 年11 月に実施した「京都市障害者生活状況調査」では,身体障害のある市民
の高齢化が一層進んでいること,また,3障害のいずれにおいても主な介護者の高齢化
が顕著となっていることが明らかとなった。
また,外出時の問題点として,「道路や駅に階段や段差が多い」,「道路に自転車などの
障害物が多い」等の意見の比率が高く,なお,既存施設等のバリアフリー化が課題とな
っているほか,「駅や道路の案内表示がわかりにくい」という意見が多く寄せられている
ことからも,ユニバーサルデザインの考え方に基づき,すべての人にとってできる限り
利用しやすいまちづくり,ものづくりを推進していく必要がある。
就労の状況については,授産施設・共同作業所などで働いている方の比率が,知的障
害者の52.6%,精神障害者の33.1%となっていますが,このうち企業での就労を希望す
る方はそれぞれ24.0%,54.0%となっており,今後も,希望者が企業就労できる条件整備
を進めていく必要がある。
福祉施策への要望としては,「公的年金等所得保障の充実」や「障害のあるひとの雇用
の促進」の比率の高さが目立った。障害のある方の自立と社会参加を進めるためには,
就労を支援する一層の取組とともに,安定的で十分な所得保障が図られることも重要で
ある。また,「障害のある人に理解と関心をもつ」や「精神障害やてんかんへの理解」と
いった意見の比率は依然として高く,各種の取組を通じてノーマライゼーションの理念
の普及が着実に進んでいる中にあっても,障害に対する無理解,無関心といった問題が
依然として存在していることが明らかとなった。
また,平成17(2005)年4 月の発達障害者支援法施行後,自閉症等の発達障害に対す
る市民の関心が高まっており,増加する発達障害に関する相談への対応や,自閉症児等
に対する療育等について,取組のさらなる充実が求められるほか,生涯にわたる個別の
支援計画の充実と早期発見・早期支援の観点から福祉・医療・教育・保育・雇用など多
方面の連携が必要となっている。
3 今後の施策の在り方
障害の有無という区別の仕方や,福祉的な施策の対象者というとらえ方ではなく,障
害のある市民もない市民も,人権を尊重される社会の対等な構成員,権利の主体である
とともに,社会の一員として責任を分担する存在であるという視点を基本とし,すべて
の市民が個人として厚く尊重され,いきいきと活動しながら,相互に支え合い安心して
くらせるまちづくりを推進していく必要がある。
(保育・学校教育)
・ 障害のある子に対する発達状況を考慮した保育,援助指導
・ 障害のある子もない子も共に育ち合う保育の推進
・ LD(学習障害)やADHD(注意欠陥多動性障害),高機能自閉症等の発達障害の状
態や特性に基づき指導の目標や内容を明確にして,常に家庭との連携を基本とした指導
を行う。
16
・ 小中学校育成学級,普通学級及び総合支援学校に在籍する障害のある子ども一人一人
の学習上・生活上の課題を明確化し,全教職員の共通認識のもと,「個別の指導計画」等
を作成し,一貫性のある組織的指導の充実に取り組む。
・ 必要な支援の検討や実践等を校内委員会を中心として組織的に行う体制を確立し,課
題解決に向けた学習内容や指導形態の工夫を行い,教職員が一体となって子どもに応じ
た必要な支援・指導の充実を図る。
・ 全総合支援学校に設置している「育(はぐくみ)・支援センター」における,総合育成
支援教育についての相談・支援体制の充実
・ 企業就職を希望する生徒や保護者のニーズに応えるため,総合支援学校高等部職業学
科において,働くための幅広い知識や技術とともに意欲の向上につながるよう取組の充
実を図る。さらに,平成21年度に48名から60名に拡大した職業学科の募集定員の
更なる拡大に向けた取組の推進
(自閉症児者等及びその家族への支援の充実)
・ 発達障害者支援センター「かがやき」において,発達障害(自閉症スペクトラム障害・
注意欠陥/多動性障害・学習障害等)のある人と家族が地域で安定した生活を送ること
ができるよう相談支援,発達支援,就労支援及び普及啓発・研修の4つの機能による事
業を展開
(啓発)
・ 障害の有無にかかわらず,相互に人格と個性を尊重し,支え合う共生社会の理念の普
及を図るとともに,障害及び障害のある市民に関する理解を促進するため,幅広い啓発
活動を推進
(権利擁護システムの充実)
・ 知的障害や精神障害のある市民の権利が守られ,住み慣れた地域で安心して生活でき
る社会を築くため,成年後見制度や,福祉サービスの利用援助・日常的金銭管理を行う
地域福祉権利擁護事業の利用の促進
(精神障害のある市民の自立促進)
・ 精神科病院への実地指導や精神医療審査会などによる適正な精神医療の確保
・ 病状が安定して入院治療の必要がないにもかかわらず,地域における生活支援体制が
十分でないなどの理由で入院を余儀なくされているいわゆる社会的入院者への退院促進
支援
(社会参加・交流の促進)
・ 手話通訳者や要約筆記者の配置,録音図書等の貸出,対面朗読等の実施など,障害の
ある市民が学習講座等に参加できる条件の整備
・ 手話通訳者,要約筆記者の派遣や,点訳奉仕員,音訳奉仕員,手話奉仕員,要約筆記
者の養成講座等の実施
17
・ 障害のある市民とない市民の協働と交流の促進,地域の人々とのふれあいやボランテ
ィア活動による支援が広がるような取組の推進
(障害のある市民の就労支援)
・ 障害のある市民が,その意欲と能力と適性に応じて,生きがいと希望を持って働くこ
とができるよう,福祉的就労から一般就労まで,すべての働き方に対して,福祉・教育・
労働関係機関や企業等との連携・協働による取組の推進
・ 企業等に対する障害者の積極的な雇用の促進や,障害のある人もない人も共に働ける
職場づくりの促進のための啓発活動の推進
(まちづくり)
・ 年齢,性別,国籍,文化,心身の能力や状態といった人の様々な特性や違いを超えて,
誰もが障壁を感じることのない生活環境をつくることを目指した京都市みやこユニバー
サルデザイン推進条例に基づく取組の推進
・ ユニバーサルデザインの考え方に基づき,建築,公共交通機関,道路,公園等の施設
や設備を安全かつ円滑に利用することができるバリアフリー化を推進
18
【同和問題】
1 これまでの動向
本市の同和対策事業は,大正8(1919)年,全国に先駆けて旧同和地区内に託児所を
設置したことに始まる。本格的には,昭和26(1951)年のオールロマンス事件を契機と
して,翌年に「今後における同和施策運営要綱」を策定し,同和問題の解決を本市の最
重点課題の一つとして位置付け,市政全般にわたる取組を開始した。
国の同和対策事業は,昭和40(1965)年の同和対策審議会答申を踏まえて施行された
昭和44(1969)年の「同和対策事業特別措置法」,昭和57(1982)年の「地域改善対策
特別措置法」,昭和62(1987)年の「地域改善対策特定事業に係る国の財政上の特別措置
に関する法律(以下「地対財特法」という。)」によって,環境改善をはじめ教育,保健,
福祉,就労,啓発等の施策が推進されてきた。
本市においては,昭和44(1969)年,同和対策事業特別措置法が制定されたことを受
けて,本市の各部局の取組方針を明記した「京都市同和対策長期計画」を策定し,同和
対策事業の量的な拡大と質的な充実を図った。昭和62(1987)年には,それまで実施し
てきた事業を総合的に点検し,同和問題の解決に至るまでの基本的指針として「同和問
題の解決を目指す京都市総合計画(案)」を策定し,これに基づき,環境の改善,教育の
充実,職業安定対策,隣保館を拠点とする各種施策及び市民啓発活動を基本5施策とし
て取組を推進してきた。
その後,平成8(1996)年5月に,地対財特法期限後における同和問題の早期解決に
向けた取組の在り方について,地域改善対策協議会から意見具申が出された。国におい
ては,それを踏まえ,地域改善対策特定事業について,平成14(2002)年3月の地対財
特法の失効に伴いすべて終了し,以後は,旧同和地区以外の地域と同様に,地域の状況
や事業の必要性に応じ所要の施策が講じられることになった。
本市においても,同和問題の解決に向けた長年の取組と旧同和地区住民,関係団体等
の努力とがあいまって,旧同和地区の住環境や住民の生活実態が大きく改善され,同和
行政が大きな成果を挙げてきたことを踏まえ,地対財特法の期限である平成13(2001)
年度末に特別施策としての同和対策事業を終結した。そして,同和問題を解決するうえ
で残された課題については,平成14(2002)年1月に策定した「特別施策としての同和
対策事業の終結とその後の取組」に基づき,一般施策の実施により,課題の解決に取り
組むこととした。
2 現状と課題
特別施策としての同和対策事業は,同和問題の解決の重要性と緊急性から,施策の対
象を旧同和地区又は住民に限定し,一般施策を補完する特別措置として実施してきたと
ころであり,旧同和地区住民,関係団体との努力とがあいまって,その住環境や生活実
態は大きく改善され,このことを踏まえ,本市は,平成14(2002)年3月末をもって特
別施策としての同和対策事業,すなわち同和行政を終結した。
これまでの取組により,同和問題の解決に向けて大きく前進し,市民の間で人権尊重
の意識は着実に定着しつつある。一方,インターネット上の掲示板等への悪質な書込み
や戸籍等の不正取得など,人権侵害につながるおそれのある行為が見受けられ,これら
19
への適切な対応が求められている。
あわせて,長年の同和問題の解決に向けた取組は,成果とともに負の側面を生み出し
てきたことも事実であり,そのことが,市民の間に同和行政に対する不信感を生み出し,
同和問題の真の解決のための支障となっているため,本市は,平成20(2008)年3月に
「京都市同和行政終結後の行政の在り方総点検委員会」(以下,「総点検委員会」という。)
を設置し,同和行政終結後の行政の在り方について総点検し,必要な改革,見直しを行
うこととした。
総点検委員会においては,本市が検討をお願いした6つの項目(①自立促進援助金制
度の見直しについて,②コミュニティセンターの在り方について,③改良住宅の管理・
運営及び建て替えの在り方について,④崇仁地区における環境改善について,⑤市立浴
場等の地区施設の在り方について,⑥市民意識の向上に向けた人権教育・啓発の在り方
について)のうち,同和奨学金とともに運用されてきた自立促進援助金制度について,
平成20(2008)年8月,その廃止を求める中間報告をとりまとめた。さらに,平成21(2009)
年3月,その他の5項目と今後の行政の在り方について,見直し・改善や行政の刷新を
求める報告書を本市に提出した。
これらの報告書に基づき,本市では次の取組を進めている。
① 自立促進援助金制度の見直しについては,平成20(2008)年12 月,自立促進援助
金制度を廃止したうえで,同和奨学金の返還を求める際の債務の取扱いに関する条
例を制定し,借受者に対し理解を求める取り組みを進めている。
② コミュニティセンターの在り方については,平成23(2011)年3月末をもってコミ
ュニティセンターを廃止し,全市民的な観点から様々な行政課題や市民ニーズに応
じた施設へと転用を検討している。
③ 改良住宅の管理については,直ちに公営住宅との差を解消し,改良住宅の建て替え
に当っては,これまでと同様の建て替えでなく,多様な住宅の供給を推進すること
としている。
④ 崇仁地区における環境改善については,将来ビジョンや新たな土地の利活用などの
検討として,市民や地元まちづくり組織の代表,有識者で構成する「京都市崇仁地
区将来ビジョン検討委員会」を設けて,検討を開始している。
⑤ 市立浴場等の地区施設の在り方については,市立浴場につき,入浴料改定による民
間浴場との料金格差の是正を実施しており,学習施設・保健所分室につき,事業の
廃止を行うとともに,全市民的観点からの転用の検討を開始している。
⑥ 市民意識の向上に向けた人権教育・啓発の在り方については,市民啓発と企業啓発
との統合による効果的,効率的な人権啓発推進体制の整備を行っている。
3 今後の施策の在り方
今後とも,報告書で示されたオープンな(開かれた)行政,オーディナリーな(あら
ゆる意味において特別でない,普通の)行政,行政の行政依存からの脱却という3つの
視点に基づき今後の行政の在り方を刷新することにより,市民の共感と理解を得ながら,
一般施策を的確に実施し,今日までの大きな成果を損なうことがないよう取組を進める。
20
(教育・啓発)
・ 保護者との連携の下,一人一人の子どもたちの豊かに伸びる可能性を引き出し,主体
的な生きる力をつける保育の推進
・ すべての子どもたちの自立と家庭の教育力向上の支援など,人権教育としての取組の
一層の充実
・ 「人権教育指導資料集」を効果的に活用した,人権問題解決への実践的態度の基礎の
育成
・ 市民一人一人が人権尊重を日々の生活で実践し,人権問題の解決に向けて主体的な役
割を果たすことを目指した効果的な啓発活動の推進
・ 講演会など様々な手法による学習機会の提供
・ NPOの活動に対する支援など市民の自主的な学習活動の促進
・ 企業等における就職の機会均等を保障する公正な採用選考を促進するための啓発活動
の推進
・ 市民啓発と企業啓発の一体的な推進,身近な行政機関である区役所,個別の課題に応
じた専門機関での取組など,行政内部や関係機関の連携による効果的,効率的な啓発活
動の実施
21
【外国人・外国籍市民】
1 これまでの動向
昭和23(1948)年に国際的な人権の普遍性について宣言した「世界人権宣言」が国連
総会で採択されたのを受け,「国際人権規約」をはじめ,「難民条約」,「女子差別撤廃条
約」,「人種差別撤廃条約」,「移住労働者条約」などの人権に関する条約が国連において
採択された。
我が国においても,昭和54(1979)年に「国際人権規約」を批准した。昭和56(1981)
年には「難民条約」を批准し,これに伴い,国民年金法や児童扶養手当法等の社会保障
関係法令から国籍要件を撤廃するなどの法整備が行われた。昭和55(1980)年には「女
子差別撤廃条約」に署名した後,昭和59(1984)年に国籍法を改定し,従来の父系血統
主義から父母両系主義に改めた。平成7(1995)年には,「人種差別撤廃条約」に加入した。
また,平成12(2000)年には外国人登録法の改正により指紋押捺制度の全廃などが実
現し,平成16(2004)年には,学校教育法施行規則の改正により,外国人学校(一部を
除く)卒業生への大学入学資格が付与されるなど,在住外国人の法的地位と権利擁護の
ための法整備が行われている。
本市では,平成9(1997)年に「京都市国際化推進大綱」を策定し,本市に暮らす外
国籍の人々を国籍の異なる市民であるという意味で,「外国籍市民」と位置付け,すべて
の人々の人権を尊重し,「共に生きる社会」を築くことを基本的な考えとして示した。平
成10(1998)年には,外国籍市民の市政への参加を促進することを目的に,外国籍市民
に関する諸問題について調査・審議し,本市が取り組むべき課題などについて意見を求
める機関として「京都市外国籍市民施策懇話会」を設置した。平成13(2001)年には,
本市一般職の採用に係る国籍要件を緩和し,平成16(2004)年度からは医療通訳派遣事業,
平成19(2007)年度からは外国籍市民行政サービス利用等通訳・相談事業を実施するなど,
多文化共生社会の実現に向けた取組を進めている。
平成20(2008)年度には,大綱策定から10 年が経過し,新しく市内に居住する外国人の
増加等,本市の国際化を取り巻く環境が変化していることから,こうした変化に適切に
対応するため,国際化の新たな指針となる「京都市国際化推進プラン」を策定した。
学校教育においては,平成4(1992)年に策定した「京都市立学校外国人教育方針」
の下,すべての児童・生徒が国や民族の違いを認め,相互の主体性を尊重し,共に生き
る国際協調の精神を養うことを目指した取組を進めている。
また,平成21(2009)年3 月には,日本国籍をもつ「韓国・朝鮮にルーツをもつ児童・
生徒」をはじめ,中国・アジアなどからの新たな渡日外国人や外国にルーツをもつ児童・
生徒の増加などの状況を踏まえ,「外国人教育の充実に向けた取組の推進について」を,
学校・園に通知し,取組の充実を図っている。
2 現状と課題
本市人口の約3%を占める外国人登録者数のうち,約6割が韓国・朝鮮籍である。近
年は,留学生や就学生,中国からの帰国者の家族等をはじめ,新しく市内に居住する外
国人が増加している。また,外国籍市民に加え,日本国籍を取得した人や日本人との国
際結婚により生まれた子どもなど,日本国籍を持ちながら,外国にルーツをもつ人々も
22
たくさん暮らしている。
外国籍市民は,教育,就職,住宅,福祉をはじめ,生活の様々な面において,外国籍
であるという理由だけで差別や不利益を受けるという問題がある。また,新しく市内に
居住する外国人の増加に伴って,言葉や文化の違いに起因する様々な問題が一層顕在化
してきている。
3 今後の施策の在り方
「京都市国際化推進プラン」に基づき,国籍や文化の違いを超えて,お互いを理解し,
尊重し合う「多文化共生社会」の実現に向けて着実に取り組む。従来の施策は,外国籍
の人々を対象としていたが,今後は,外国籍の人だけでなく,外国にルーツをもつ全て
の人が暮らしやすく,活躍できるまちづくりを行う。
(保育・学校教育)
・ 子どもたち同士が文化の違いを認め合い,お互いを尊重し合える心を育てる保育の推
進,外国の絵本など,乳幼児期から多様な文化に触れる取組の推進
・ 我が国や様々な国の文化,伝統を理解,尊重し,それぞれの主体性を認め合う態度の
育成,多文化共生の精神のかん養
・ 外国籍及び外国にルーツをもつ児童・生徒の民族的,文化的アイデンティティを大切
にするとともに,一人一人の自己実現に向けた学力の向上と個性の伸張を目指した取組
の推進,また,小・中・高の連携による将来を見据えた進路指導の充実
・ 日本語指導を必要とする児童・生徒や新たな渡日外国人等について,日本語能力や生
活習慣の違いなどを認識した日本語の習得,生活適応促進などの取組の推進
・ 一時的に滞在する外国人児童・生徒について,学力の定着と円滑な日常生活を目指し
た,日本語指導のボランティア講師,担任,家庭の連携による取組の推進
(就労)
・ 就職の機会均等を保障した公正な採用選考や働きやすい職場づくりの推進
・ 留学生に対する就職支援
(情報提供・相談)
・ 行政情報・生活情報の多言語化,情報提供方法の多様化の推進
・ 法律相談や出入国管理相談をはじめとする専門的な相談・対応体制の充実等,相談事
業の充実
(交流の促進)
・ 異文化理解の促進,多文化共生社会の実現を目的とする外国籍市民等も含めたすべて
の市民が交流できる機会の提供
(啓発)
・ 講演会の開催やメディア,印刷物等を利用した啓発活動の推進
23
(市政参画)
・ 外国籍市民等に関する諸問題について調査・審議し,本市が取り組むべき課題等につ
いて意見を述べる「京都市多文化施策懇話会」の運営を中心とした,外国籍市民等の市
政参画の促進
24
【感染症患者等】
1 これまでの動向
(HIV感染者,エイズ患者等)
昭和63(1988)年,WHOは世界的レベルでのエイズまん延防止と患者・感染者に対
する差別・偏見の解消を図ることを目的として,12 月1日を“World AIDS DAY”(世界エ
イズデー)と定め,エイズに関する啓発活動等の実施を提唱した。平成8(1996)年よ
り,WHOに代わって,国連のエイズ対策の総合調整を行うこととなったUNAIDS
(国連合同エイズ計画)もこの活動を継承している。
本市では正しい知識と患者・感染者の人権擁護のための普及啓発の推進を図るため,
平成7(1995)年に「京都市エイズ対策基本方針」を策定した。また,UNAIDSが
提唱する「世界エイズデー」に賛同し,12 月1日を中心にエイズに関する正しい知識等
についての普及活動を積極的に推進し,エイズまん延防止及び患者・感染者に対する差
別・偏見の解消に努めている。
(ハンセン病患者・元患者)
ハンセン病の原因となるライ菌は非常に感染力が弱く,現在,国内ではほとんど新規
患者の発生はない。また,万一ハンセン病にかかっても,治療法も確立し,根治可能な
病気となっている。
にもかかわらず,ハンセン病患者・元患者等は,発病した患者の外見上の特徴から特
殊な病気として扱われるとともに,平成8年に「らい予防法」が廃止されるまで,同法
に基づく隔離政策により,地域社会において平穏に生活することを妨げられ,身体及び
財産に係る被害その他社会生活全般にわたる人権上の制限,差別等を受けることを余儀
なくされてきた。
2 現状と課題
(HIV感染者,エイズ患者等)
世界各国でHIV感染者・エイズ患者が急増する中,我が国におけるHIV感染者・
エイズ患者の数も,増加傾向が見られ,積極的な予防施策を講じることが急がれている。
また,エイズに関する誤解や他人事とする意識等により,患者・感染者及びその家族
が,診療拒否,採用拒否,解雇,賃貸住宅への入居拒否等不当な扱いを受けるなどの問
題が生じている。
(ハンセン病患者・元患者)
国は,「らい予防法」を平成8年に廃止するとともに,平成13(2001)年にはハンセン
病患者に対する国の損害賠償責任を認めた下級審判決が出され,ハンセン病療養所入所
者等に対する補償金の支給等に関する法律が定められた。
さらに,ハンセン病患者・元患者等が地域社会から孤立することなく良好かつ平穏な
生活を営むことができるようにするための基盤整備に取り組みながら福祉の増進,名誉
の回復等を図っていく「ハンセン病問題の解決の促進に関する法律」が平成21年度に
施行されることとなり,ようやくハンセン病患者の人権救済が現実のものとなりつつあ
25
る。
今後とも,更に人権救済が図られるよう,病気の正しい理解や,差別を解消していく
努力が求められている。
3 今後の施策の在り方
様々な感染症については,感染した方を社会から切り離すといった視点でとらえるの
ではなく,患者等が差別や偏見を受けない社会を実現するために,いたずらに感染症を
恐れず,疾病や感染症の正しい知識及び感染予防策を普及啓発することが重要である。
更に,患者等の人権を尊重し,一人一人が安心して医療を受けて早期に社会に復帰で
きる等の健康な生活を営むことができる権利,個人の意思の尊重,自らの個人情報を知
る権利と守る権利等に配慮する。
(支援)
・ 患者・感染者が安心して受けられる医療体制の確立
・ 市民がより検査・相談を受けやすい体制づくりの推進
(教育)
・ 子どもたちの性に関する意識や実態の把握に基づく,生命尊重,男女平等の精神を踏
まえた性教育・エイズ教育の推進
(啓発)
・ マスメディア等を活用した正しい知識の普及と,患者・感染者の人権擁護についての
広域的な啓発の推進,若年層を中心とした感染防止のための啓発強化
・ 外国語冊子の作成による,外国人に対する啓発の推進
・ 企業等における社員教育の場や社内広報媒体等を使った正しい知識の普及,患者・感
染者のプライバシー保護と人権擁護についての啓発の促進
26
【ホームレス】
1 これまでの動向
ホームレスとは,都市公園,河川,道路,駅舎その他の施設を故なく起居の場所とし,
日常生活を営んでいる者をいう。平成21(2009)年1月に国により実施された調査によ
ると,全国504 市区町村におけるホームレスの数は15,759 人であり,本市においても335
人が確認されている。これは政令指定都市(東京都23 区を含む)の中で,7番目に多い
状況となっている。
平成14(2002)年8月に「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」が施行さ
れ,平成15(2003)年7月,国においては,「ホームレスの自立の支援等に関する基本方
針」が策定された。
平成16(2004)年8月,本市においては,「京都市ホームレス自立支援等実施計画」を
策定し,自立に向けた支援等を積極的に推進してきた。
基本方針が策定後5年を経過したことから,国においては平成20 年7月に見直しがな
された。本市においても,平成21(2009)年3月に実施計画の見直しを行い,引き続き,
ホームレスの自立に向けた支援等を推進している。
2 現状と課題
厳しい経済情勢等により,自立の意思がありながらホームレスとなることを余儀なく
されている人々が多数存在する。就業の機会がないために失業状態にあったり,食事の
確保や健康面での問題を抱えるなど,健康で文化的な生活を送ることができない状況に
ある。また,ホームレスとなった人々に対する暴力や嫌がらせ,偏見や差別意識による
排除等,人権にかかわる重大な問題が発生している。
3 今後の施策の在り方
・ 就業機会の確保をはじめ,安定した居住場所,保健及び医療の確保,生活に関する相
談や指導など,関係行政機関の密接な連携による個々のホームレスの状況に応じた自立
支援施策の推進
・ 元ホームレスが居宅生活後,地域に馴染めず,再びホームレスとなることがないよう,
居宅生活を継続するための支援施策を推進
・ ホームレスの実情についての理解の促進を目的とした人権研修会の開催等による地域
での人権啓発・教育の推進
・ ホームレスに対する支援活動を実施している各種民間団体等との積極的な意見交換や
情報交換
27
【その他の課題】
1 現状と課題
先に掲げた重要課題のほか,社会情勢の変化等に伴い,人権に関する様々な課題が見
受けられるようになっている。
(性同一性障害及び性的指向)
・ 性同一性障害とは,生まれながらの自分の体の性と心の性が一致せず,その食い違い
に苦しむ状況をいい,認知はされつつあるが,まだまだ社会の理解は低いのが現状であ
る。そのため,社会生活の様々な場面で偏見や差別にさらされ,当事者自身が精神的な
苦痛を受けるだけでなく,社会参加が困難な状況に置かれている。
また,同性愛者への差別といった性的指向にかかる問題も生じている。
(犯罪被害者等)
・ 犯罪は犯罪被害者等に対する重大な人権侵害であるのは当然のことながら,マスメデ
ィアの行き過ぎた報道によるプライバシーの侵害や名誉毀損,過剰な取材による私生活
の平穏の侵害などの二次的な被害も問題となっている。
(刑を終えて出所した人)
・ 本人の真摯な更生の意欲がある場合でも,一般の人の意識の中に根強い偏見や差別意
識があり,就職に際しての差別や住居等の確保の困難など,社会復帰を目指す人たちに
とって厳しい現実がある。
(アイヌの人々)
・ 民族としての歴史やアイヌ語,独自の伝統,文化に対する理解と認識が不足し,アイ
ヌの人々の民族としての存在や誇りを尊重する考え方が欠如していることなどがある。
(プライバシーの侵害)
・ 現代の情報化社会においては,当人の意思とは無関係に個人情報が処理されるなど,
自己に関する情報をコントロールする権利が侵害されるおそれが高まっている。実際に,
行政,民間を問わず年齢や家族構成などの個人情報が漏えいしたり,それらが商品化さ
れて不正に取り扱われるという問題が発生している。
また,身元調査のように差別的な行為につながる,加重的な人権侵害が引き起こされ
ている。
(インターネットによる人権侵害)
・ インターネット利用者の急激な増加により,ホームページにおける不特定多数の利用
者に向けた情報発信や電子掲示板を利用した不特定多数の利用者による,若しくは,特
定利用者間における情報の交換等において,他人を誹謗中傷する表現や差別を助長する
表現等が一方的に掲載されるなど,重大な人権侵害が頻発している。いったんホームペ
ージに記載されると,短期間のうちに広まるという情報化社会特有の深刻な状況にある。
28
(婚外子・ひとり親家庭)
・ 婚外子(非嫡出子)については,法制度上の問題も指摘されているところであるが,
依然として社会の中に差別が残っている。
また,ひとり親家庭についても,就業面等で厳しい状況に置かれている問題などがあ
る。
2 今後の施策の在り方
これらの様々な人権課題については,「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する
法律」や「犯罪被害者等基本法」,「アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知
識の普及及び啓発に関する法律」,「個人情報の保護に関する法律」,「特定電気通信役務
提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」,「母子及び寡婦福祉
法」が制定されているなど,対応が図られているものもあるが,依然として社会的な認
知度が低いことも考えられる。また,人権は,社会の変化等に伴い,多様な広がりを持
つことから,新たな動きにも目を向けていく必要がある。
様々な人権課題について正しく理解され,その速やかな解決が図られるよう,今後と
も積極的に教育・啓発活動を推進するとともに,当事者の言葉も受け止めながら,可能
なものから条例の制定を含めた制度の改善等を行うなど,社会全体で支え,共に将来に
目を向けて歩んでいける社会を築いていくことで,意識だけでなく実際の社会生活にか
かわる面での改善にも取り組む。
29
第3章 施策の推進と重点項目
ここでは,各人権施策についての基本的な考え方や施策を推進するに当たって重点を
置く項目等を示す。また,提言で示された事業例を踏まえ,重点項目を推進していくう
えで必要な具体的な取組項目を掲げ,これを推進していく。
1 教育・啓発
(1) 人権教育・啓発について
ア 人権教育・啓発の目的
人権教育・啓発の目的は,生涯学習の視点から,乳幼児から高齢者に至るそれ
ぞれの段階における多様な教育・啓発活動を通じて,市民一人一人が自らの人権
の大切さを十分に認識するとともに,すべての人の人権を尊重することの重要性
を正しく認識し,他人の人権を尊重する行動がとれるようにすることにある。
つまり「人権とは何か」,「人権の尊重とはどういうことか」,「人権が侵害され
た場合に,これを排除し,救済するための制度がどのようになっているか」等に
ついての正しい認識を持つとともに,それらの認識が日常生活の中で,その態度
面,行動面等において確実に根付くようにすることが目的といえる。
最終的には,人権が尊重される社会環境の整備や仕組みづくりが行われること
で,人権尊重の社会が市民自らの手で自立的に継続,発展することが望ましい姿
といえる。
イ これまでの取組
本市における人権教育・啓発については,基本計画に示す方針の下,行動計画
を中心に取組を推進してきた。行動計画は,国連の「人権教育のための国連10 年
行動計画」及び国の「「人権教育のための国連10 年」に関する国内行動計画」の
取組と協調し,本市において人権教育・啓発を総合的に推進することを目的とし
て策定したものである。
行動計画には,人権尊重の精神のかん養及び理念の普及や各人権課題の解決の
ための取組などを掲げるとともに,第3章「人権教育の推進計画」において,実
施,達成すべき78 の具体的取組を掲げた。行動計画は平成16(2004)年12 月に取
組期限を迎えるまでに,計画に掲げた78 項目の具体的取組については,計画期間
中にすべての項目について着手,実施しており,実施計画という側面での目的は
達成できたといえる。その中では,ワークショップ形式の啓発事業や市民公募事
業などの新たな手法も導入しており,事業手法の拡大や充実という点で特に成果
があったといえる。
また,「≪学校における≫人権教育をすすめるにあたって」を平成14(2002)年5
月に策定し,子どもたち一人一人を徹底的に大切にする本市教育の豊かな伝統を
受け継ぎながら,「人権という普遍的文化」の担い手の育成を目的とした多彩な取
組を展開してきた。
30
(2) 重点項目
これまでの取組を踏まえ,今後,人権教育・啓発を推進するに当たり重点を置く
項目を挙げる。
ア 人権教育
(ア) 家庭教育
家庭における取組は,乳幼児期からの豊かな情操や思いやり,生命を大切
にする心,善悪の判断など人間形成の基礎を育むうえで重要な役割を果たし,
すべての教育の出発点である。
特に親自身が偏見を持たず差別をしないことなどを,日常生活を通じて自
らの姿をもって子どもに示していくことが重要であることから,親子共に人
権感覚が身に付くような家庭教育に関する親の学習機会の充実や情報の提供
を図る必要がある。また,子育てに不安や悩みを抱える親等への支援体制等
の充実を図る。
(イ) 学校等における人権教育
〔保育所・幼稚園〕
保育所や幼稚園においては,豊かに伸びていく可能性を秘めている子ども
たちが,現在を最も良く生き,望ましい未来を作り出す力の基礎を培うこと
を目標として,「子どもの権利条約」を踏まえ,子どもを指導や保護の対象と
してとらえるのではなく,保育の主体は子どもであるとの視点に立って,子
どもの自主性や意欲を引き出し,子ども自身が選択することを重視した保育
を行う。
〔学校〕
人権教育は生涯にわたるものであり,学校だけでなく家庭,地域そして社
会全体で取り組まれるべきものであるが,生涯学習の基礎を培う学校教育が,
その過程において果たすべき役割は大きい。
学校における人権教育というと,ともすれば「人権とは何か」,「人権は尊
重されるべきである」といった人権一般についての知識・理解を中心とした
教育と受け止められがちであるが,本来,学校での人権教育は「自らの進路
を切り拓き,自立して生活できること」また「人権の大切さを理解し,人権
尊重を規範とした日常の行動を取ることができる子どもの育成」を目指し,
学校におけるあらゆる取組を通じて行われるものである。
人権は個人の尊厳の保持と可能性の伸展であるという基本的な考え方に照
らしても,すべての子どもはそれぞれに豊かな可能性を持っており,その可
能性の最大限の開花を図ることが,学校教育における最重要課題といえる。
自ら進路を切り拓き,自立して生活するためには,社会の中でその個性と
能力を発揮できるよう,確かな学力の定着と進路の保障に努めることが重要
である。
31
しかしながら,同和問題をはじめとする人権問題に起因する家庭・地域の
教育条件の不十分さなど,本人の責に帰さない様々な制約により,個性や能
力が十分に伸ばしきれていない子どもたちが存在する。常に目の前の子ども
の実態から出発し,その実態を生み出している背景の理解のうえに立って,
そうした子どもたちに焦点を当て,その主体的努力を引き出し,自己実現に
向けた自立を支援する取組を推進していく。
また,人権の大切さを理解し,人権尊重を規範とした行動を日常化するた
めには,人権尊重という普遍的な視点に立った指導と,それぞれの人権問題
の固有の歴史的経緯や社会的背景・課題を踏まえた指導が必要であり,子ど
もたちの発達段階に応じて,人権に対する認識をより深められるような指導
を推進していく。
更に,学校において子どもたちが自ら人権について積極的に学ぶことは,
自らの言動を振り返らせ,生き方を具体的に高めるとともに,子どもたちの
そのような学ぶ姿に触れることが保護者に対する大きな啓発となっているこ
とから,既に取り組んでいる事例も含め,今後も積極的に推進する。
(ウ) 社会教育
社会教育においては,生涯学習の振興のための各種施策を通じて,人権に
関する学習の一層の充実を図る。特に,保護者の意識や行動は子どもの人権
意識や行動に大きな影響を与えることから,学校等で行われる保護者対象の
人権学習やPTAが取り組む学習活動に対し支援を行う。人権に関する学習
においては,単に人権問題を知識として学ぶだけではなく,日常生活におい
て態度や行動に現われるような人権感覚を養うことが求められている。また,
様々な事情で基本的な文字の読み書きを学ぶ機会が保障されなかった人が存
在することについても,人権にかかわる問題として位置付け,その解決を図
るための取組を進めていく。
施策の推進に当たっては,地域の実情に応じて,関係機関やNPO等と連
携しながら,社会教育施設等を中心とした多様な学習機会の提供,子ども,
高齢者,障害者等との交流の機会の充実や,市民の参加意欲を高めるような
学習プログラムの充実,指導者の養成などを行う。
イ 人権啓発
(ア) 広報
人権に関する市民への広報は,市民にとって人権の尊重や人権問題に気付
き,人権意識を深めるための機会を作る手段として重要な役割を担っている。
市民が知りたい情報が手に入れやすいこと,また,行政が対象に応じてきめ
細かな情報発信,情報提供を行うことは,人権施策に限らずあらゆる施策の
基本ともいえるものである。
広報は,広く市民に周知できるという点がメリットとして挙げられる一方
で,情報の流れが一方的であることが多く,効果が目に見えにくいことや,
32
情報格差が生じるおそれがある。また,市民一般を対象とすることが多いた
め,対象を絞ったより効果的な発信が行いにくいことなどがデメリットとし
て挙げられる。
広報においては,関心が薄い市民に対していかに効果的に働きかけるかと
いう点を重視して行う。
a 情報発信の強化(ITの活用)
従来の広報媒体も含め,多様な手法を用い,より効果的な広報活動がで
きるよう,庁内の調整機能を高め,市全体の広報活動を戦略的に行う。
また,近年の情報通信技術(IT)の発達は目ざましいものがあり,イ
ンターネットを利用した情報収集,情報発信は急速に市民生活に定着しつ
つあるといえることから,そのメリットが期待できるものについては,情
報通信技術の積極的な活用を図っていく。
インターネットが主に若年層を中心に定着していることからも,関心が
薄いとされている若年層への働きかけという面でも効果が期待できると思
われる。
〔具体的な取組項目〕
◆ 人権施策に関する総合的な情報を提供するホームページの開設
(イ) 学習機会の提供
学習機会の提供は,人権の大切さに気付き,更に主体的に取組を深めたい
と思う市民に対し,人権についての理解を深めるための様々な機会を提供す
るものであり,人権感覚を磨き,人権問題解決のための力を培うものとして
重要である。
これまでに,各種の講座や講演会,人権にゆかりのある名所旧跡でのフィ
ールドワークなど,多種多様な方法で行っており,既に市民の間に定着して
いる事業もある。
学習機会の提供における課題としては,啓発テーマの偏りや参加者層の固
定化傾向,市民のより積極的な参加意識の高揚などが挙げられる。
学習機会の提供では,市民の関心をひきつけるテーマの設定や,人権の大
切さが実感できるための様々な工夫,また,市民自らが人権尊重のまちづく
りのために行動するという更なるステップへ結び付けるという視点でのより
効果的な手法を検討する。
a 身近な場における啓発活動の充実
人権が市民一人一人の日常的なものであるということを実感するために
は,啓発が市民の日常に近い場所や内容で行われることが有効であると考
えられる。
これまでにも,区民ぐるみ組織を中心とした取組など,より地域に密着
した形で啓発事業を推進しているが,地域の実情に応じたきめ細かな取組
33
を行うという観点からも,今後一層,区役所・支所をはじめとする市民に
より身近な場所における啓発活動の充実を図る。そのため区役所と各関係
部局との効果的,効率的な連携や役割分担を図りながら積極的に取組を推
進する。
また,地域における人権啓発の指導者を育て,支援していくことは,人
権尊重のまちづくりの輪を大きく広げることにつながることから,今後も
一層の充実を図る。
〔具体的な取組項目〕
◆ 区役所・支所等における啓発事業の一層の充実
◆ 地域における人権啓発リーダーの養成,活用の充実
b 交流事業の推進と参加・体験型事業の充実
人と人との交流は,他者の存在を理解し認め合う心を育み,豊かな人間
関係に基づく地域社会の基礎となるものであり,人と人との関係が希薄化
する現代社会にあって極めて重要なものである。
人権施策において,人権問題を抱える当事者と積極的に交流することで,
人権に関する一段と深い理解や人権問題に対する共感が得られると考えら
れることから,交流事業を効果的な啓発手法の一つとして積極的に推進す
る。
また,NPO等で試みられている先進的な取組なども参考にしながら,
ロールプレイングなどのワークショップ形式の事業をはじめとした参加・
体験型啓発事業の充実に努める。
〔具体的な取組項目〕
◆ 障害のある人,高齢者,外国籍市民等との交流事業の推進
◆ ワークショップ形式などの参加・体験型事業の充実
(ウ) 市民の自主的な取組の支援
人権尊重のまちづくりは,市民一人一人が自らのこととして考え,担わな
ければ達成できない。人権尊重のまちづくりのために市民自らが行う人権啓
発活動への支援は,市民の間に人権尊重が文化として根付き,発展していく
ために不可欠であり,人権尊重のまちづくりへの市民参加,市民による自治
の活性化の基礎となるものである。
これまで,地域における啓発事業に区民が参加する区民ぐるみ組織の活動
をはじめとして,様々な取組を行っているが,区民の一層の自立的な活動の
促進,講座等で養成した市民啓発リーダーが自ら指導者となって活躍できる
場づくり,行政の支援を離れた自主的に行われる取組に関する情報の把握な
どの課題が挙げられる。
これらの課題に取り組むとともに,市民の自主性を最大限に尊重し,また,
市民の自立性を損なわないように留意しながら,人権啓発に関する市民の自
主的な取組に対し,今後一層の支援を行う。
34
a 市民活動,NPO等への支援の充実
近年の市民参加やNPO活動の発展を踏まえ,更に市民活動等の取組へ
の支援の充実に努める。
また,市民活動が活発になりつつある現在では,むしろ市民の取組に積
極的に学ぶという視点をもって,常に市民活動等の動向に注意を払いなが
ら,先進的な取組等に対しても積極的な支援に努める。
なお,市民活動への支援は,市民の自主性,自立性を高めるような方向
で行うこととし,支援を行うことが,かえって市民の精神的,経済的な自
立を損なうことのないよう留意する。
〔具体的な取組項目〕
◆ 市民,NPO等が行う人権啓発活動への支援の充実
b 企業啓発及び企業における取組への支援
企業は,その企業活動を通じ市民生活と密接にかかわっている。また,
公正な採用を含めた人権尊重を基盤とする企業活動,企業内における人権
尊重の気風の醸成は,市民から信頼される企業として不可欠であり,人権
尊重の取組は企業の社会的責任として,積極的に推進されるべきである。
更に,企業には地域における啓発活動や市民活動との協働など,地域社
会の一員として積極的な役割を果たすことも期待されている。
これまでにも企業に対する啓発及び企業の自主的な取組に対する支援を
行っているが,引き続き,積極的に推進する。
c 大学,研究機関等との連携の強化と若者の活躍の場づくり
京都は歴史都市をはじめ様々な顔を持っているが,大学のまちとしても
有名である。特に,最近は,大学と企業,地域との共同による取組が活発
である。この京都の特色の一つといえる大学や世界人権問題研究センター
をはじめとする研究機関の集積を,人権啓発においても積極的に活用を図
る。
また,大学のまちは若者が集まるまちでもある。将来のまちづくりの担
い手である若者が人権尊重のまちづくりを進めるうえで中心的な役割を担
っていくためにも,啓発事業等において若者が積極的に参加できる場の創
出に努める。
更に,大学には多数の留学生が学んでいるが,例えば,国際化時代にお
ける共生という今日的なテーマを考える際には,外国人留学生との交流は
欠かせない。若い世代への啓発,また,若者の市民参加という観点からも,
大学生をはじめとする若者との対話や連携の下,効果的な取組を推進し,
ひいては人権施策全体の活性化を図る。
〔具体的な取組項目〕
◆ 人権啓発に関する大学や研究機関との連携
◆ (財)世界人権問題研究センターの一層の活用
35
2 保障
(1) 人権の保障について
人権が尊重される社会は,国籍,年齢,性別,障害の有無などに関わらず,すべ
ての人の尊厳が守られ,可能性が発揮できる社会である。しかし,残念ながら現実
には,他の人には保障されている人権が十分に保障されず,虐待や差別,また,社
会参加の阻害など,人権侵害を受けている人や,人権が侵されやすい状況にある人々
が存在している。
これらの人権上の問題の解決のためには「人権教育・啓発」,「人権相談・救済」
とともに,ソフト・ハードの両面において,それらの人々の置かれている状況等の
改善を図る「人権保障」の取組が必要となる。
人権の保障においては,従来から,女性,子ども,障害者など,各課題の状況に
応じ,福祉的な施策を中心として様々な取組を推進してきた。今後の人権保障の推
進に当たっては,各課題の社会的な背景やこれまでの成果等を踏まえつつ,時代の
変化に応じた的確な取組を推進する。
また,国際化,情報化等の進展に伴って,新たな課題も生じてきていることから,
それらについても的確な対応を図っていく。
更に,課題が明らかになっている人々だけではなく,人権が十分に享有できてい
ないことを訴えることができずにいる人々も存在しているということを常に意識し,
それらの人々が声を上げやすい仕組みや条件の整備を図っていく。
人権保障についての具体的な施策については,基本的にはそれぞれの各重要課題
における分野別計画等の取組に基づき推進するが,全市的な観点として,本計画に
示した人権の基本的考え方や,人権施策推進の基本方針等に基づき推進する(各重
要課題における人権保障に関する課題や施策の在り方については,第2章に示す。)。
36
3 相談・救済
(1) 人権相談・救済について
人権尊重の精神が生活に根付くためには,人権を侵害されている人の様々な相談
を受け,救済が必要な場合には適切な救済機関による人権救済が受けられるような
社会の仕組みが必要となる。女性,子どもをはじめとして,基本的な人権が侵害さ
れやすい各人権課題については,これまでにも,国において救済にかかわる法制度
が整備されつつある。
救済に係る被害者の法的救済や加害者に対する罰則等については,法律に基づく
ものであることから,基本的には国が法制度を整備する必要があるが,自治体行政
には,このような救済に関する制度を円滑に利用できるような相談体制の構築が求
められている。
本市では,これまで各人権課題を担当する部局や区役所等において,法律相談を
はじめ各種の相談業務を行ってきており,今後も,これらの相談業務を人権にかか
わる施策として明確に位置づけ,人権尊重の視点をもって,市民の目線で適切な対
応を行っていく。
各人権課題への対応については,国の法制度等の整備と歩調を合わせ,人権課題
ごとに関係機関のネットワークの構築が図られつつあるが,今後は,更に,複数の
分野にまたがる相談への対応をはじめとして,効果的,効率的に対応できるような
体制の構築を図っていく。
また,このような人権相談が有効に機能できるようにするため,国の法整備の状
況を十分に検証したうえで,人権救済の仕組みについても検討する。
(2) 重点項目
ア 人権相談・救済に関する総合的なネットワークの構築
人権問題が複雑化,多様化する現在では,一つの相談窓口において相談者の抱
える問題が解決するとは限らず,複数の機関の連携が必要になる場合がある。ま
た,各相談窓口において受け付けた相談の中で,他の適切な相談・救済機関の対
応が必要な場合には,円滑につながるような仕組みが必要となる。
相談・救済機関の連携は,いくつかの人権課題において既に取り組んでいるが,
今後も,人権上の問題や侵害が起こった場合にきめ細かい対応を行うためには,
総合性と専門性の双方が必要となってくる。
このようなことから,市の各種の相談・救済機関をはじめとして,国,京都府
など他の行政機関や弁護士会,司法書士会などの関連機関,NPO等との広範な
連携の下,相談・救済に関する総合的なネットワークの構築を図る。
〔具体的な取組項目〕
◆ 人権相談・救済ネットワーク(仮称)の構築
イ 相談機関等の周知
人権上の問題が起こった場合に,市民はまずどこに相談すればよいかという問
題に直面するため,市民が抱えている問題について最も適切な機関に相談できる
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よう,相談機関,窓口について十分な周知を図る。
また,国,京都府,京都市,NPO等の実施主体の垣根を越えて周知や連携に
努め,どの機関,団体に行っても適切に相談,救済につながる仕組みづくりを行
う。
〔具体的な取組項目〕
◆ 相談・救済に関する機関や制度をまとめた相談マップ(仮称)の作成・普及
ウ 教育・啓発との連携
人権上の問題についてどこに相談すればよいかを知っている人,また,自分の
抱えている問題が,人権上の問題であることを知っている人が身近にいることは,
市民にとって非常に心強い。人権上の問題について,相談・救済機関まで的確に
つなぐことのできる市民を多く養成することが,相談や救済制度を市民に身近な
ものにする有力な手段であると考えられる。
市民向けの啓発や啓発リーダーの養成講座等において,ネットワークの機能を
中心に,人権侵害の現状や相談,救済制度等の知識,更には,プライバシーの保
護について,市民が研修できる機会を設ける。
〔具体的な取組項目〕
◆ 人権相談や人権侵害への対応に関する市民への周知の充実
◆ 人権啓発リーダー養成講座等における人権相談・救済の内容についての研修
エ 信頼性の向上
市民から相談を受けた場合に,縦割り組織の弊害として,いわゆる「たらい回
し」が問題になることがある。
総合的なネットワークを構築し,各種機関相互の有機的な連携を図ることによ
り,たらい回しをなくすよう取組を進める。
また,迅速,丁寧な対応はもちろんのことであるが,プライバシーの侵害,相
談先における二次被害などを起こしてはならない。市民の信頼を得るためには,
窓口となる職員の資質の向上が不可欠であることから,相談・救済機関に従事す
る職員の研修の充実を図る。
更に,各種機関を利用した結果,市民にとって納得のいくものであったかとい
うフォローアップを可能な限り行うことが,信頼性の向上にとって有効であると
考えられることから,相談者のプライバシー保護等に配慮しつつ,フォローアッ
プ方策の研究を行う。
〔具体的な取組項目〕
◆ 人権相談・救済機関に従事する職員研修の充実
◆ 相談・救済に係るフォローアップ方策の研究
オ 情報収集及び提供の充実
市民生活全体として今どのような人権上の問題が起こっているのかということ
については,個々の相談機関だけで十分に把握できるものではない。時代と共に
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変化する人権問題に的確に対応するためには,様々な人権課題において発生して
いる問題とそれに対する対応についての幅広い情報の収集が不可欠であることか
ら,ネットワークを活用して情報を共有し,相談・救済機関全体としてのレベル
アップを図る。
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第4章 計画の推進
1 推進体制と職員研修
(1) 推進体制
本市においては,人権に関する諸施策の総合的な推進を目的とした「人権文化推
進会議」や,各局・区等において人権行政を推進する任務を持った「人権行政推進
主任」を設置し,人権の視点から市政を推進する体制を構築してきた。
本計画に基づく人権施策については,全庁的な組織としての人権文化推進会議を
中心に,関係部局間で緊密な連携をとりながら,総合的,効果的な推進を図ってい
く。
また,各局・区等において企画,実施する事業をより効果的に推進するため,人
権の視点から庁内の調整を行う部局の機能の強化を図る。
〔具体的な取組項目〕
◆ 人権文化推進会議の機能強化
◆ 人権の視点から庁内の調整を行う機能の強化
(2) 職員研修
行動計画においては,職員研修について,具体的な取組項目に掲げるとともに,
職員研修所における研修をはじめ,業務に即した研修,各職場における取組,研修
教材や資料の充実を図ってきた。
本市が人権施策を推進するに当たっては,職員一人一人が人権の尊重を基礎とし
て行動することが厳しく求められることから,不断に職員の研修に努める。
職員の研修に当たっては,それぞれの業務に対応した研修をはじめ,参加・体験
型の研修など,より研修効果が高まるような工夫を行うとともに,それぞれの研修
の効果についても把握し,より効果的な研修方法について研究する。
〔具体的な取組項目〕
◆ アンケート等職員研修に関する効果の把握
◆ より効果的な研修プログラムの研究,開発や柔軟な研修の実施
2 関係機関,関係団体等との連携
人権尊重のまちづくりは,国,京都府などの行政機関をはじめ,企業,NPOなど様々
な主体により推進されている。本市全体として人権施策を効果的,効率的に推進するた
めには,様々な主体の役割や責任を明確にしつつ,互いに連携することが効果的である。
既に京都府内を行政区域とする国の行政機関,京都府及び京都市で構成する「京都人
権啓発行政連絡協議会」や,京都府,京都市,人権擁護委員,商工会議所等からなる「京
都人権啓発推進会議」などを組織し,連携を図っているが,今後も,それぞれの役割を
踏まえつつ,幅広い連携,協力を行う。
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3 進行管理と評価
(1) 進行管理
この計画に掲げる施策について,毎年度,具体的な事業計画書を作成し,施策の
実施状況の点検を行う。
また,先進的な事業をはじめ,本市の人権に係る取組を市民に分かりやすく発信
する仕組みづくりにも努め,人権施策の進ちょく状況が市民に確実に伝わるような
工夫を行う。
〔具体的な取組項目〕
◆ 人権施策の進ちょく状況を示す「京都市人権レポート(仮称)」の作成
(2) 評価
人権施策を総合的,戦略的に推進するためには,取組の実績だけではなく,どの
ような成果があったかという視点での評価が不可欠である。人権に関する評価は難
しい面が多いが,より効果的な人権施策の推進に資するよう,客観性を担保しつつ,
できる限り分かりやすく評価を行う。
基本的には,近年本市が構築した行政評価制度(政策評価制度及び事務事業評価
制度)の充実を図る中で,人権施策に関する評価の精度を高めていくとともに,必
要に応じて人権施策に関する調査を行うなど,より的確な評価につながる情報の収
集等にも努める。
更に,より一層の客観性の向上を図るため,外部の視点で施策の点検等を行う仕
組みづくりについても検討する。
〔具体的な取組項目〕
◆ 外部の視点で施策を点検する「京都市人権文化推進懇話会(仮称)」の設置
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京都市人権文化推進計画(改訂版)