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人権に関するデータベース

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地方公共団体関係資料

人権教育・啓発推進指針
情報の種類 地方公共団体関係資料
タイトル 人権教育・啓発推進指針
時期 2002/03/01
主体名 広島市
関連URL http://www.town.kimino.wakayama.jp/
【 内容 】

人権教育・啓発推進指針



はじめに 

広島市は、被爆都市の使命として、この地球上において核兵器による悲劇が繰り返されることがないよう、被爆者及び平和を願うすべての人々とともに、核兵器の廃絶と世界恒久平和の実現に力を注いでまいりました。
 しかし、冷戦の終了後も核保有国は依然として核兵器を国威と抑止力とみなし、ヒロシマの体験が十分に認識されていない実態があります。さらに、地球上には戦争や紛争の課題にとどまらず飢餓や貧困、人権抑圧、放射線被曝、環境破壊などに苦しむ人々が多く存在しています。とりわけテロとその報復という循環は、地球上いかなる都市でも起こり得るほど緊迫感を増してきています。
 今、世界のすべての人々が生存と自由を確保し、それぞれの幸福を追求する権利、すなわち人権の尊重が、すべての国々の政府のみならずすべての人々の行動基準となることが国際的に強く期待されています。
 私は、21世紀最初の平和宣言において、被爆の廃墟から再生を果たした広島が、21世紀において世界の人々に生きる勇気と希望をもたらす存在となるよう、「人道都市」の創造をめざすことを明らかにしました。人道都市とは、優しさと豊かな明日への想像力やエネルギーに満ちた都市、誰にとっても憩いやくつろぎの居場所がある都市、万人のための故郷になるような都市です。そして互いの人権を尊重し合い、共に生きる社会の形成に向けて行動する市民が暮らす都市でもあります。
 このような広島市を創造するため、人権教育・啓発の方向性を明らかにした「広島市人権教育・啓発推進指針」を策定しました。
 広島市は、すべての市民の人権の不可分性と相互依存性を認識し、この指針を人権尊重意識の高揚と差別のない社会の実現、さらには、人道都市形成への第一歩として位置付け、市民とともに、各種の施策をより積極的に推進してまいります。
 最後に、この指針の策定に当たりまして、貴重な御意見をお寄せくださった市民の皆様に心から感謝申し上げます。

  平成14年(2002年)3月
広 島 市 長  秋 葉 忠 利 


第1部 人権教育・啓発の考え方

第1章 指針策定の必要性

 世界最初の原子爆弾によって破壊しつくされた広島市は、「平和のないところに人権は存在し得ない」「人権のないところに平和は存在し得ない」という20世紀の教訓を自らの悲惨な体験から得ました。そのため、本市は、平和とは、単に戦争がない状態にとどまらず、安全で良好な環境のもとに人類が共存し、一人ひとりが尊厳を保って人間らしく生活することができる状態ととらえ、「国際平和文化都市」を都市像に掲げ、人間としての尊厳に基づく権利の尊重を市政の重要な柱としてきました。
 そして、本市は、平成10年(1998年)、被爆50周年を経て次の新しい時代の都市づくりを進めるため策定した新しい広島市基本構想において、「広島のアイデンティティの形成」を掲げました。それを具体的に推進するため、平成11年(1999年)11月に第4次広島市基本計画を策定し、「広島のアイデンティティ形成のための取組」の一つとして、「共に生きる人づくり・まちづくり/平和都市にふさわしい人づくり」を次のとおり掲げ、理想とする広島らしい都市の姿や市民の生活を実現していくことをめざしています。

1 豊かな感性と創造性を持った人づくり

 生命を尊び、生きる喜びを心から分かち合い、経済発展がもたらした物質的な豊かさを享受するだけでなく、精神的な豊かさを大切にすることができる豊かな感性と創造性を持った人づくりを推進する。

2 すべての人を思いやることのできる人づくり

 すべての市民が等しく人間として尊重され、自立し、品格のある人間が行動するまちをめざし、市民のモラルやマナー、ホスピタリティ(すべての人に心を込めて接する態度)の向上に取り組むなど、人を思いやることのできる温かい心を持った人づくりを推進する。

3 国際感覚の高揚

 国際社会の一員であることを自覚し、日本文化への理解を深め、世界の人々との交流やふれあいを通じて多様な文化や価値観を理解し、認め合えることができるよう、そして、日常生活の中においても、地球的視野を持ち、考え、行動していくことができるよう、市民の国際感覚の高揚に取り組む。


 また、新世紀を迎えた平成13年(2001年)8月6日の平和宣言では、「『戦争の世紀』の生き証人であるヒロシマは、21世紀を核兵器のない『平和と人道の世紀』にするため、全力を尽くすことを宣言」し、広島は「人道都市」として大きく羽ばたく意志を示しました。
 このような本市の目標を達成するためには、これまでの手法を漫然と繰り返すのではなく、社会情勢の変化に応じて、市民と行政による協働の理念に基づく取組や広域的な連携の促進並びに体制の整備など、新たな視点を加えた取組が必要になっています。特に、同和問題をはじめ女性、障害者などにかかわる様々な人権問題の解決に向けた個別の教育・啓発の取組は、人権問題が今後ますます複雑化、多様化するのに対応し、これまでの教育や啓発活動の中で積み上げられてきた成果とこれまでの手法を踏まえ、すべての人の基本的人権を尊重していくための人権教育・啓発として、発展的に再構築する必要があります。
 したがって、本市は「21世紀は人権の世紀」をキーワードとし、新たな視点を加え、総合的な施策の方向性を明らかにした人権教育・啓発推進指針を策定するものです。
 なお、平成12年(2000年)12月には、「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」が公布されました。この法律では、わが国における人権の尊重の緊要性に関する認識の高まりと、社会的身分、門地、人種、信条または性別による不当な差別の発生等の人権侵害の現状やその他の人権擁護に関する国内外の情勢を考慮し、国や地方公共団体において、人権教育及び人権啓発に関する施策を策定することが責務であると規定されています。


第2章 指針策定の背景

1 人権教育・啓発をめぐる国内外の動向
 (1) 国際的動向

 20世紀、世界は二度にわたる世界大戦の惨禍を体験し、その苦しみを通じて、平和の実現のためには基本的人権の保障が不可欠であり、そのための国際的保障が必要と認識するに至りました。そして、昭和23年(1948年)、国際連合(国連)は、「世界人権宣言」を採択しました。
 以来、国連はこの宣言の内容を具体化するため、「国際人権規約」や「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」「児童の権利に関する条約」など、人権に関する数多くの条約を採択するとともに、「国際婦人年」や「国際児童年」「国際障害者年」「国際高齢者年」など、各種の国際年を定め、世界規模での普及と協調行動を提唱してきました。
 このような様々な取組にもかかわらず、冷戦構造の終了という東西対立の崩壊後も、世界各地で地域紛争やこれに伴う顕著な人権侵害、難民発生など、深刻な問題が起きています。
 しかし、一方で東西対立の崩壊は、国際社会全体での議論を可能とする環境を創り出し、人権に取り組む気運が高まりました。
 こうした中、平成5年(1993年)、世界人権宣言採択45周年を機に、これまでの人権活動の成果を検証し、現在直面している問題、今後進むべき方向を協議することを目的としてウィーンで世界人権会議が開催されました。この会議を受け、国連は人権に対する取組をさらに強化し、平成6年(1994年)には人権問題を総合的に調整する役割を担う人権高等弁務官を創設したほか、平成7年(1995年)から平成16年(2004年)までの10年間を「人権教育のための国連10年」と宣言する決議を行い、世界中の国々が人権教育の普及等に取り組むことなどを内容とする「人権教育のための国連10年行動計画」を採択しました。

 (2) 国内の状況

 わが国は、昭和22年(1947年)に「国民主権」「平和主義」「基本的人権の尊重」を理念とする日本国憲法を施行し、以後、民法の改正や教育基本法の制定などの法整備を行いました。また、昭和27年(1952年)、「日本国との平和条約」(サンフランシスコ平和条約)が発効し、その中でわが国は国連加盟の申請とともに世界人権宣言の目的を実現するために努力することを宣言しています。
 昭和31年(1956年)には、わが国の国連加盟が承認され、その後、国際社会の一員として「国際人権規約」「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」「児童の権利に関する条約」「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」「拷問及びその他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰の禁止に関する条約」などの条約を批准してきました。さらに「国連婦人の10年国内行動計画」や「障害者対策に関する長期計画」などの計画を策定し、以降、国際及び国内の情勢に即してそれらの計画の見直しをはじめ、国際社会と協調しつつ、女性、子ども、高齢者等の人権にかかわる取組を推進しています。
 特にわが国の固有の人権問題である同和問題の解決のため、昭和40年(1965年)の同和対策審議会答申を受け、昭和44年(1969年)に「同和対策事業特別措置法」を施行し、以降数次にわたる法制定を経て、特別対策を実施してきました。
 また「人権教育のための国連10年」に関わって、政府は、平成9年(1997年)、「人権教育のための国連10年に関する国内行動計画」を策定しました。この国内行動計画では、人権という普遍的文化を構築することをめざして、地方公共団体等の協力を得ながら、あらゆる場を通じて人権教育を推進すること、人権にかかわりの深い特定の職業に従事する者に対する取組を強化すること、女性、子ども、高齢者、障害者、同和問題、アイヌの人々、外国人、HIV感染者等、刑を終えて出所した人などの人権にかかわる問題を重要課題として積極的に取り組むことにしています。
 そして、平成12年(2000年)12月、「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」が成立しました。この法律では、人権教育とは「人権尊重の精神の涵養を目的とする教育活動」をいい、人権啓発とは「国民の間に人権尊重の理念を普及させ、及びそれに対する国民の理解を深めることを目的とする広報その他の啓発活動(人権教育を除く)」と定義しています。その上で、人権教育及び人権啓発に関する施策の推進について国と地方公共団体の責務を明らかにしています。


2 人権に関する現状
 (1) 人権に関する広島市民の意識

 日本社会全体で、人やものの移動の増大、情報通信の高度化、技術革新の進展、少子・高齢化の進行、国際化の進展、家族形態の変化、女性の社会進出などにより価値観や生活意識の変容が急速に進み、市民の生活環境や人と人とのかかわり方が大きく変化してきています。
 こうした社会の流れは、市民に対して一人ひとりの主体性、自立性を重視する意識を定着させ、個人の権利を尊重する気風をはぐくんできた反面、人間関係が希薄になってくるにつれて、自分のわがままだけを主張し、他人の権利に配慮しない傾向や自分の権利行使に責任を持たないなどの状況も生じさせています。また、本来、社会生活におけるルールや市民道徳とかマナーの中で解決されるべき事柄が人権問題として提起されることも起きています。
 人権をめぐる市民の意識について、広島市市民局が平成12年(2000年)に実施した「市民人権意識調査」でみると、次のようになっています。
ア.日本国憲法で保障されている基本的人権については、「知っている」と答えた人が89%。
イ.自分にとって人権は、「重要なもの」と「やや重要なもの」と答えた人を合わせると80%。
ウ.「今、私たちの社会は基本的人権が尊重されている社会であると思いますか」という問いに  対しては、「いちがいには言えない」と「そう思わない」と答えた人を合わせると77%。
エ.「市民の人権意識は10年前に比べて高くなっていると思いますか」という問いに対しては、「いちがいには言えない」と「そう思わない」と答えた人を合わせると49%。
オ.「この1~2年でご自分の人権を侵害されたと思ったことがありますか」という問いに対しては、「ある」と答えた人が25%。
カ.「公的な人権擁護機関として、法務局に人権相談所や人権擁護委員が置かれていることを知っていますか」という問いに対しては、「知っている」と答えた人が55%。
キ.あなたの身のまわりにある重要な人権問題をたずねた問いに対しては、「社会全般に関すること」51%、「障害者に関すること」51%、「プライバシーに関すること」49%、「女性に関すること」40%、「子どもに関すること」38%、「高齢者に関すること」37%、「同和問題に関すること」32%、「HIV感染者等に関すること」30%、「日本で暮らす外国人に関すること」27%、「その他」1%など(複数回答)。
ク.人権意識を高めるための取組のあり方をたずねた問いに対しては、「学校教育の中で、人権を尊重する心を育てる教育に力を入れる」68%、「家庭の中で人権尊重の心を育てる取組を行う」63%、「行政が人権意識を高めるための啓発活動を積極的に推進する」42%、「町内会など地域での取組を充実させる」24%、「企業(職場)における取組を充実させる」18%、「人権問題に取り組む民間団体を充実させる」18%など(複数回答)。
 以上から、市民は人権について高い関心を示しながらも、日常生活の中では人権を尊重する態度や行動が十分ではないとし、行政施策や市民自らの取組など様々な活動を行う必要性を指摘している状況が伺えます。

 (2) 国内の人権問題の状況

 人権は、人間が生まれながらにして持つ尊厳に基づく権利であり、どのような場面にあっても、最も尊重されるべきものです。
 この権利は、人間社会の長い歴史の中で、人々が努力し獲得してきた成果であって、侵すことのできない永久の権利となっています。しかし、これまでの経済や工業の発展が、地球規模で深刻な環境破壊・環境汚染をもたらし、人類だけでなく、地球上に生きとし生けるものすべての生存さえも脅かしかねない状況に陥っています。そのため、今や地球の狭さと限られた資源の中では、人々を取り巻くあらゆる環境と共生していくという考え方を持たなければ、人権の尊重もあり得ない時代を迎えています。
 一方、全国の法務局及び地方法務局が平成11年(1999年)に受理した人権侵犯事件は、17,478件と公表されています。この内訳は、暴行虐待、名誉・信用等に対する侵犯など私人等の侵犯事件は16,449件、公務員等の侵犯事件は 1,029件となっています。
 こうした状況を受けて、人権擁護推進審議会第一次答申(平成11年(1999年)7月、「人権尊重の理念に関する国民相互の理解を深めるための教育及び啓発に関する施策の総合的な推進に関する基本的事項について」)は、わが国の人権に関する現状について、国内外からの国の諸制度や諸施策そのもののあり方に対する人権の視点からの批判的意見も含め、公権力と国民との関係や国民相互の関係において様々な人権問題が存在するとした上で、主な人権上の課題を次のように整理しています。

ア.女性
 女性に関する課題として、人々の意識の中に形成された固定的役割分担意識等からくる、就職の際や職場における昇進の際の男女差別の問題のほか、セクシュアル・ハラスメント、家庭内における暴力などの問題がある。
イ.子ども
 子どもに関する課題として、子どもたちの間のいじめは依然として憂慮すべき状況にあるほか、教師による児童生徒への体罰も後を絶たない。また、親による子どもへの虐待なども深刻化しつつある。
ウ.高齢者
 高齢者に関する課題として、わが国における平均寿命の大幅な伸びや少子化などを背景として社会の高齢化が急速に進む中、就職に際しての差別の問題のほか、介護を要する高齢者に対する家庭や施設における身体的・心理的虐待や高齢者の財産を本人に無断でその家族等が処分するなどの問題がある。
エ.障害者
 障害者に関する課題として、就職に際しての差別の問題のほか、障害者への入居・入店拒否などの問題が依然として存在しており、さらに、施設内における知的障害者等に対する身体的虐待事件の多発などが近時目を引く。
オ.同和問題
 同和問題に関する課題として、同和問題に関する国民の差別意識は、特に昭和40年の同和対策推進審議会答申以降の同和教育及び啓発活動の推進等により着実に解消に向けて進んでいるが、結婚問題を中心に、地域により程度の差はあるものの依然として根深く存在している。就職に際しての差別の問題や同和関係者に対する差別発言、差別落書などの問題もある。
カ.アイヌの人々
 アイヌの人々に関する課題として、結婚や就職に際しての差別の問題のほか、差別発言などの問題がある。
キ.外国人
 外国人に関する課題として、諸外国との人的・物的交流が飛躍的に拡大し、わが国に在留する外国人が増えつつある中、就労に際しての差別の問題のほか、外国人への入居・入店拒否など様々な問題がある。また、在日朝鮮人児童生徒への暴力や嫌がらせなどの事件や差別発言などの問題もある。
ク.HIV感染者等
 HIV感染者やハンセン病の患者及び元患者に関する課題として、日常生活や職場・医療現場における差別の問題のほか、マスメディアの報道によるプライバシーの侵害などの問題がある。
ケ.刑を終えて出所した人
 刑を終えて出所した人に関する課題として、就職に際しての差別の問題のほか、悪意のある噂の流布などの問題がある。
 これらの課題に関しては、国、都道府県、市町村のそれぞれの行政対象区域と機能に応じて、地域の実情を踏まえた適切な取組が必要です。

 人権擁護推進審議会第一次答申が指摘した主な課題の他にも、多くの人権課題が提起されています。
 最近、犯罪被害者やその家族の人権が課題となっています。被害者やその家族は直接的な被害のみならず、精神面、生活面、経済面等において様々な被害を受け、その後の司法の過程において、いわゆる2次被害を受けて精神的被害がさらに深くなる例や、マスメディアの報道等において人権が侵害されるといった例も指摘されます。
 犯罪の被疑者やその家族及び犯罪者の家族に対する名誉やプライバシーの侵害、偏見の問題もあります。
 HIV感染以外の感染症の患者等についても、予断や偏見に基づく差別的対応が問題になっています。
 性同一性障害のある人や同性愛者をめぐって様々な問題が提起されています。
 個人情報の流出・漏えいやインターネットによるプライバシーの侵害が大きな社会問題となっています。プライバシーの問題については、市民が安心して社会生活を営む上で重要な、個人の権益の保護に関する様々な問題が含まれています。
 ホームレスの人々の状況についても様々な人権問題が指摘されています。
 一方、日本人が海外に出る機会が拡大するにつれて、長期滞在から帰国した児童生徒の人権や海外に暮らす日本人の人権の保護についても問題が提起されてきています。
 さらに、環境を人権の観点からとらえる動きや医療分野での知る権利、自己決定権にかかわる問題やインターネットなど情報技術の発達の恩恵を受けられない場合の情報格差等が、新たな人権問題として主張されるようになってきています。

 このようにわが国には様々な人権上の課題が存在します。こうした課題が指摘されるようになってきた背景のひとつとして、自分の有する権利への自覚が高まってきたことをあげることができるでしょう。つまり、今まで意識されなかった事柄が、人権上の課題として意識されてきたということです。
 一方、人権擁護推進審議会第一次答申は、次のような問題点も指摘しています。
 まず、人々の中に見られる同質性・均一性を重視しがちな性向や非合理的または因習的な意識、物の豊かさを追い求め心の豊かさを軽視する社会風潮、社会における人間関係の希薄化の傾向などが人権問題を生み出すこと。そして、国際化、情報化、高齢化、少子化等の社会の急激な変化などが人権問題を複雑化させること。さらに、国民一人ひとりに、個々の人権上の課題に関して正しく理解し、物事を合理的に判断する心構えが十分に備わっていないことが、それぞれの課題で問題になっている差別や偏見につながっている側面があるということです。


第3章 指針の基本的な考え方

1 指針の基本理念

 この指針は、第4次広島市基本計画の部門計画として、本市の人権教育・啓発にかかわる施策の方向を明らかにすることを目的とし、人間の尊厳が脅かされることなく、自律した存在としての個人が、権利行使に伴う責任を自覚し、相互に認め合い、支え合う人権尊重社会の形成をめざすものです。

2 人権教育・啓発がめざす広島市の方向

 (1)  互いの人権を尊重し合い、「共に生きる社会」の形成に向けて行動する市民が暮らす広島をめざし、学校教育や社会教育、市民啓発の充実・強化を図ります。

 (2)  すべての市民の基本的人権を尊重していくという観点から、女性、子ども、高齢者の人権など、「人権教育のための国連10年に関する国内行動計画」において提起されている重要課題については、広島市の実態に即し、「世界人権宣言」や「国際人権規約」「児童の権利に関する条約」等の理念、内容を踏まえた総合的かつ効果的な教育及び啓発を推進します。

3 人権教育・啓発の展開

 (1) 公共性の視点

 本市の行う人権教育・啓発は、公の事業として、思想及び良心の自由など市民一人ひとりの人権を尊重しながら、公共の福祉との調和を図ること、すなわち公共性の視点を踏まえて推進します。

 (2) 総合的かつ効果的な推進

 現在の人権問題は、女性、子ども、高齢者などの人権問題に見られるように、それぞれが複雑に絡み合ったり、新たな問題が生じたりして、複雑化、多様化しています。
 このため、人権教育・啓発の推進に当たっては、それぞれ個別的な視点からのアプローチとともに、法の下の平等、個人の尊重といった普遍的な視点からのアプローチにも留意して、市民の人権意識の涵養や社会的な気運の醸成などを総合的かつ効果的に推進していく必要があります。
 すでに障害者基本計画等により施策を実施している課題については、この指針の基本理念に留意して、それぞれの施策体系のもとで必要な施策を行います。
 課題が複雑に絡み合ったり、これまでの施策と手法では対応が困難な新たな問題については、庁内に連絡調整機関を設置し、適切な施策を実施します。

 (3) 多様な主体との協働

 人権尊重社会を形成するためには、行政の取組とともに、市民、企業、NPO等各種団体が行う多様で多角的な活動が欠かせません。そのため、情報の提供・公開やネットワーク化の促進などを通じて自主的な活動の支援を行い、このような多様な主体と行政が協働して取り組んでいく関係を築き上げます。

4 人権教育・啓発事業の評価と見直し

 人権教育・啓発を実効あるものとするため、本市が行う施策について、社会環境の変化を踏まえながら、効果等に関する評価・検討を継続的に行い、その結果を事業の推進に反映させるとともに、必要に応じて指針の見直しを行います。
 また、事業の効果を評価するため、市民の満足度を重要なポイントとして、施策の効果を評価する分かりやすい指標(ベンチマーク)を研究し設定します。


第4章 指針の推進

1 広島市の庁内推進体制

 本市における様々な施策との整合性並びに行財政資源の有効活用を図りながら、個別の人権上の課題の枠組みを超えた取組を進めるため、市長をトップとした全庁的な人権教育・啓発の推進体制(広島市人権教育・啓発推進本部/仮称)を整備します。
 その推進体制の中では、教育、啓発や研修などに共通する課題や新たな人権上の課題への対応など、本指針を具体的に推進するためのプロジェクト組織を設置します。

2 市民等との連携

 市民、企業、NPO等各種団体や多様な実施主体との間に、適切な役割分担とパートナーシップ(対等な協力関係)を構築するとともに、それぞれの自主的な取組を促します。
 また、国・県や市町村はそれぞれ法制度上の責任区分に基づいて課題に取り組んでいるため、人権問題の解決に向けた国・県及び近隣市町村とのネットワークを強化します。


第2部 人権教育・啓発の具体的な取組

第1章 教育

 日本国憲法及び教育基本法の精神にのっとり、生涯学習の視点に立ち、幼児期からの各発達段階に応じて、学校教育及び社会教育が相互に連携を図って、児童生徒や地域の実態に即した総合的な取組を進めます。また、人権教育を進めるに当たっては、政治運動や社会運動との関係を明確に区別し、教育の中立性を確保することにも留意します。


1 現 状
 これまでの学校教育では、児童生徒の人権尊重の意識を高める取組を推進するため、研究推進校における先進的な研究・実践を全市的に普及させるよう努めながら、加えて教職員の指導力向上のための校内研修の充実を図るなどの取組を行ってきました。
 また、社会教育においては、公民館等の社会教育施設を中心に、人権に関する学習機会の提供に努めるとともに、社会教育指導者を対象にした研修等を通じて、指導者の資質の向上も図ってきました。
 しかし、学校教育の取組について、ともすれば知的理解にとどまり、児童生徒に人権感覚が十分に身についていないなど指導方法の問題、あるいは人権尊重の理念が教職員に十分に行きわたらないままに指導が行われている等の問題が指摘されています。また、社会教育の取組については、学習の形式・方法が知識伝達型に偏っていること及び指導者や参加者が固定化しがちであることなどの課題が指摘されています。


2 施策展開の基本的な考え方
 本市は、人間として生きていくために必要な資質を、学校・家庭・地域社会が一体となって育んでいく新しい教育を推進します。
 こうした教育の推進の中で、「人権教育のための国連10年に関する国内行動計画」や人権擁護推進審議会第一次答申などを踏まえ、人権という普遍的文化の構築をめざす総合的な取組を進めます。
 学校教育においては、児童生徒の発達段階に応じながら、それぞれの学校教育活動全体を通じて人権尊重の意識を高め、一人ひとりを大切にした教育を進めます。その際、人権尊重の精神の育成、学力の向上をめざした基礎・基本の習得、自尊感情の育成の三点を重視し、指導内容や方法の改善及び研修や相談体制の充実を図るとともに、ボランティア活動や自然とふれあう活動、高齢者や障害者等との交流活動などの多様な体験活動の機会を充実することに留意します。
 社会教育においては、各種の施策を通じて、日常生活における態度や行動と結びついて人権感覚が磨かれるよう、人権に関する学習活動を支援します。その際、参加体験型の学習の導入や各種資料の活用によって学習者の意欲を喚起するとともに、多様な学習機会の提供と指導者の養成及び資質の向上を図ることに留意します。


3 施策の体系
【1 学校教育における人権教育の推進】
 (1)  内容・方法の充実
  ア 教職員用指導資料の作成
   学校の教職員による指導に役立つよう、人権教育に関する指導資料を作成します。
  イ 児童生徒用学習資料の作成
   人権尊重の意識を高めるための児童生徒用学習資料を作成・配布します。
  ウ 保護者用学習資料の作成
   保護者の理解を深めるための保護者用学習資料を作成・配布します。
  エ 資料の整備・提供
   人権教育のための研究資料の収集・整備を行うとともに、教育関係者に視聴覚資料等の貸出しを行います。

 (2)  研究・実践の充実
  ア 教職員研修の充実
   様々な人権上の課題に関する教職員の理解と認識を深めるための研修等を実施します。
  イ 豊かな体験活動の機会の充実
   ボランティア活動などの社会体験や自然体験、高齢者・障害者等との交流の機会など、豊かな体験の機会の充実を図ります。
  ウ 研究推進校等の人権教育事業の実施
   人権教育に関する基礎的・実践的な研究等を行う学校の活動を支援します。
  エ 研究・実践の情報公開
   人権教育に関する学校の取組内容を家庭・地域・関係機関等に情報提供し、開かれた教育の推進に努めます。

 (3)  教育相談体制の充実
  ア 教育相談の実施
   青少年総合相談センターでの面談や教育相談員による相談等を実施します。また、関係する諸機関との連携を強化します。
  イ  いじめ・不登校等への対応
   ふれあい教室の運営やスクールサポート員の派遣等を実施し、いじめ・不登校の防止や解消を図ります。
  ウ スクールカウンセラーの配置
   臨床心理の専門家等をスクールカウンセラーとして中学校等に配置します。

【2 社会教育における人権教育の推進】
 (1)  内容・方法の充実
  ア 参加体験型の学習プログラムの開発
   学習意欲を高めるような参加体験型の学習プログラムの開発を図り、その普及に努めます。
  イ 各種資料の作成・提供
   各種講座等や家庭教育の充実のために活用できる各種資料を作成・配布します。

 (2)  多様な学習機会の提供
  ア 人権教育講座の開催
   公民館を中心とした社会教育施設において、人権教育講座を開催します。
  イ 各種講座等の実施
   企業やNPO等各種団体と連携し、人権に関する様々な講座等を実施します。また、学校と連携し、多様な体験活動の機会の充実を図ります。

 (3)  指導体制の充実
  ア 指導者養成講座の開催
   各地域において、人権教育を推進していく指導者を養成するための講座を開催します。
  イ 各種指導者研修の実施
   人権教育を推進する指導者の資質の向上を図るための各種研修を実施します。


第2章 啓発

 誰もが本来、「自分を大切に思う心」、他者に対する「優しさ」や「思いやり」、あるいは「社会に貢献したいと思う気持ち」などを持っています。啓発とは、これらの感性に訴えかけ、人権についての知識をひらきおこして理解を深めることです。
 本市では、地域の実態を踏まえながら、人権尊重の理念の普及・高揚を図るため、情報提供・広報活動・研修などの啓発事業を実施します。
 なお、啓発に当たっては、市民一人ひとりに、人権の意義やその重要性が理解され、他人の人権を大切にすることや、権利行使に当たって自分の行動に責任を持つことなどの意識が、日常的な態度や行動に現れるよう効果的に行います。


1 現 状
 人権に関する啓発活動は、国の人権擁護機関(人権擁護委員を含む)をはじめ、地域に密着した行政を担う県や市、人権の専門分野において大きな役割を果たしている民間団体やマスコミなど、様々な実施主体が行っています。
 しかし、これまでの啓発活動は、方法や内容にマンネリ化傾向があり、様々な実施主体がバラバラに実施して相互の間で連携が不足したり、活動の周知が十分でないなどが問題点として指摘されています。
 こうしたことを背景にして、人権に対する市民の関心が高くなっているにもかかわらず、日常の態度や行動の中に人権尊重の理念が十分に定着したとは言えない状況があります。


2 施策展開の基本的な考え方
 本市は、すべての部局で情報の共有に努めるとともに、国・県や近隣市町村及び関係公益法人と連携・協力して啓発を進めます。また多様な主体とのパートナーシップを構築し、協働して啓発を進めます。
 啓発の手法については、法の下の平等、個人の尊重といった普遍的な視点からのアプローチと、「人権教育のための国連10年に関する国内行動計画」で重要課題とされている女性、子ども、高齢者などの人権上の課題を視野に入れた個別的な視点からアプローチする手法とを組み合わせて効果的な啓発を行います。その際、これまで取り組んできた啓発活動の成果と手法への評価を踏まえます。
 さらに、市民の感性に訴えかける手法等を研究・開発します。
 また、対象となる人々に合わせた啓発や、マスメディアなど多様な媒体を活用した啓発を行っていきます。
 人権啓発は、市民一人ひとりの心のあり方にかかわるため、施策の展開に当たっては、思想及び良心の自由を尊重しながら押しつけにならないように留意して啓発活動を展開します。



3 施策の体系
【1 市民・企業などへの啓発】
 (1)  市民への啓発
  ア 啓発行事の実施
   ● 総合的な人権啓発事業
  人権週間行事等で総合的な啓発事業を実施します。
 その際、国・県・近隣市町村とのネットワークやNPO等各種団体との連携を推進します。
   ● 各分野における啓発事業
     各分野の週間行事等や「ふれ愛プラザ」等を活用した専門的・個別的分野からの啓発事業を実施します。
   ● その他の啓発活動
     街頭啓発事業やマスコミを活用した事業等を実施します。
  イ 啓発資料の作成
   ● 啓発資料作成検討委員会
     啓発効果を高めるため、関係各局担当者による検討委員会において、啓発資料の研究を行います。
   ●総合的な人権啓発資料の作成等
     「世界人権宣言」「国際人権規約」等国際的文書を規範として、総合的な人権に関する資料を作成し、
    市民・各種団体等に配布します。
  ウ 各分野における啓発資料の作成
    総合的な人権啓発と連携して、啓発効果を高めるため、女性、子ども、高齢者など分野別の啓発資料を作成し、
    必要に応じた配布をします。
  エ 講演会等の実施
    市民の関心や理解に応じて人権講演会等の事業を実施します。
  オ その他の啓発事業の実施
    バリアフリー促進の協議など法令等に応じた啓発事業を行います。

 (2)  企業等への啓発
  ア 企業団体への啓発   
    人権尊重の理念に沿った事業活動を展開するよう企業団体に対して啓発を行います。
  イ 企業向け啓発冊子の発行   
    企業等で行う啓発活動を支援するため、啓発資料を発行します。
  ウ 就職・就労問題への取組   
    公正な採用選考、女性の雇用促進等の啓発を行います。
  エ 個人情報保護の啓発   
    広島市個人情報保護条例に基づく事業者等への啓発を行います。
  オ 男女共同参画推進の啓発   
    広島市男女共同参画推進条例に基づく事業者等への啓発を行います。

 (3)  啓発体制の充実
  ア 人権啓発ホームページの開設
    啓発の普及のためホームページを開設します。
  イ 人権啓発拠点の整備の検討   
    啓発の効果を高めるための情報提供・研究・交流のあり方を検討します。
  ウ 人権啓発指導員の派遣   
    人権啓発指導員を企業や各種団体等に派遣し、その研修を支援します。

【2 啓発活動の支援】
 (1)  人権啓発リーダーの養成
    企業やNPO等各種団体で行う啓発活動を支援するため、人権啓発リーダーを養成します。

 (2)  人権啓発の手引書等の作成
  ア 人権啓発の手引書の作成   
    指導のためのマニュアル等を作成します。
  イ 人権啓発資料の作成   
    人権啓発研修の場で活用できる資料等を作成します。
 (3)  人権に関する団体活動の支援   
    広島人権擁護委員協議会等の活動を支援します。

【3 啓発手法等の研究・開発】
 (1)  啓発手法の研究・開発
  ア 広島県人権啓発活動ネットワーク協議会
    広島法務局、広島県、広島県人権擁護委員連合会と連携して、啓発活動の新たな手法の研究・開発をします。
  イ 広島地域人権啓発活動ネットワーク協議会
    広島市、近隣町村、広島人権擁護委員協議会と連携して、啓発活動の新たな手法の研究・開発をします。
  ウ 人権上の課題にかかわる組織等
    次の各組織においても、人権啓発活動の手法等について研究します。
    ・広島市外国人市民施策懇談会
    ・広島市男女共同参画審議会
    ・広島市男女共同参画推進本部
    ・広島県福祉のまちづくりに係る担当者会議
    ・広島県福祉のまちづくり推進協議会
    ・人がやさしいまち推進本部

 (2)  その他計画等
  ア 男女共同参画プラン
  イ 児童育成計画
  ウ 高齢社会対策長期指針
  エ 高齢者保健福祉計画
  オ 障害者基本計画
  カ 風景づくりマスタープラン「広島市の魅力ある風景づくりに関する基本的な方針」
  キ 21世紀教育改革推進総合プラン検討会議提言
  ク 新広島市青少年基本計画

 (3)  市民意識調査等の実施
  人権教育・啓発に関する市民ニーズの把握に努めます。


第3章 研修

 行政の仕事はすべて人権に深いかかわりを持つことから、職員一人ひとりが、自ら率先して、人権問題について正しい理解と認識を持ち、自分の課題として取り上げていくとともに、国際平和文化都市広島にふさわしい国際的視点に立った人権感覚を身につけることが求められています。そのため、全体の奉仕者として、市民の立場に立って考え行動できる高い倫理と士気を持った職員の育成に向けて、職員研修を推進します。

1 現 状
 人権問題に関する研修としては、職員が自発的に取り組む「自主研修」や各職場で行われる「職場研修」をはじめとして、それらを補完し、支援していくための職場外研修として、市の研修機関等において、各種の研修を実施しています。
 今後とも人権上の課題を的確にとらえた研修の一層の充実が求められています。


2 施策展開の基本的な考え方
 本市は、人権尊重の理念に基づき日常の職務が行われるよう、職務に応じた人権に関する研修を総合的に実施します。
 また、職員が人権に配慮して職務が進められるよう、要綱等の整備を行うとともに、手引となる職務マニュアル等を作成します。


3 施策の体系
【1 職務に応じた人権問題に関する研修】
 (1)  一般職員の研修
   「人権教育のための国連10年に関する国内行動計画」の重要課題やその他本市の実態に即した人権上の課題等に共通する
   普遍的な問題について体系的な研修を行います。

 (2)  学校教育・社会教育関係職員の研修
   関係公益法人等と連携しながら、「人権教育のための国連10年に関する国内行動計画」の重要課題や学校・家庭・地域等の
   実態をふまえた人権上の課題等についての体系的な研修を行います。

 (3)  医療・保健関係職員の研修
   人権の重要性を認識し、患者・市民の立場に立ったサービスを提供できるよう研修を行います。

 (4)  福祉関係職員の研修
   関係公益法人等と連携しながら、女性、子ども、高齢者等の人権に関する課題について理解と認識を深め、豊かな人権感覚を
   養う研修を行います。

 (5)  高齢者の医療・福祉にかかわる職員の研修
   関係公益法人等と連携しながら、職員が患者や利用者の人権の重要性を認識し、人権意識の高揚が図られるよう研修を行います。

 (6)  消防職員の研修
   職員の人権意識の高揚が図られるよう新任者研修、監督者研修などの研修を行います。

 (7)  その他の研修
   関係公益法人等職員の人権意識高揚に向けた研修を積極的に支援するとともに、人権擁護委員、行政相談員、民生委員・児童委員等
   各種委員の研修活動を支援します。


【2 人権に配慮した職務の遂行】
 (1)  人権に配慮した要綱等の作成
   「人権に配慮した要綱等を作成整備し、職員へ周知徹底を図ります。

 (2) 職場ごとの人権に配慮した職務マニュアルの作成
   人権に配慮した職務の遂行のため、職場研修用のマニュアル等を作成整備します。


用語解説

国際人権規約
 世界人権宣言の精神に基づき、それを法的拘束力を持つよう条約化したもの。昭和41年(1966年)12月に国連総会で採択された条約。「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(A規約)」「市民的及び政治的権利に関する国際規約(B規約)」「市民的及び政治的権利に関する国際規約についての選択議定書」の3つの条約の総称。日本はA規約・B規約について、昭和54年(1979年)6月に批准している。

女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約
 昭和54年(1979年)12月に国連総会で採択された条約。男女平等の原則に基づき、政治的、経済的、社会的、文化的、市民的その他あらゆる分野における女子に対する差別の撤廃について包括的に規定している。日本は昭和60年(1985年)に批准した。

児童の権利に関する条約
 平成元年(1989年)11月に国連総会で採択された条約。18歳未満のすべての者を対象に、生命に対する固有の権利、思想の自由、社会保障の権利、教育についての権利等について包括的に規定している。日本は平成6年(1994年)に批准した。

国際年
 特定のテーマに関して、その重要性の周知や課題の解決などに、国連が重点的に取り組むことを設定する年。様々なキャンペーンや関連事業が展開され、世界的な取組の大きな契機となる。

 国際婦人年 昭和50年(1975年)
  女性の地位向上を目指す契機となるよう提唱した年。

 国際児童年 昭和54年(1979年)
  児童の権利の保障を目指す契機となるよう提唱した年。

 国際障害者年 昭和56年(1981年)
  障害者の完全参加と平等を目指す契機となるよう提唱した年。

 国際高齢者年 平成11年(1999年)
  高齢者を含むすべての世代のための活力ある社会を築くことを目指す契機となるよう提唱した年。

世界人権会議
 世界人権宣言45周年を契機に、平成5年(1993年)に国連がウィーンで開催した会議。冷戦が終わり新しい国際秩序が模索される中で、すべての人権が普遍的であり、人権が正当な国際的関心事であることを確認し、人権教育の重要性を強調した。

人権高等弁務官
 世界人権会議の勧告を受け、平成6年(1994年)に創設された。スイスのジュネーブに事務所を置き、国連事務総長の下で、人権問題を総合的に調整する役割を担う。主な任務は、人権の実効的な享有及び発展の権利の実現、促進、保護と人権侵害に対する権限を有する包括的なもの。

あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約
 昭和40年(1965年)12月に国連総会で採択された条約。締結国が人権及び基本的自由の平等を確保するため、あらゆる形態の人種差別を撤廃する政策等を、すべての適法な方法により遅滞なくとることを主な内容にしている。日本は平成7年(1995年)12月に締結している。

拷問及びその他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰の禁止に関する条約
 昭和59年(1984年)12月に国連総会で採択された条約。拷問の範囲を明確にし、締結国に拷問防止のための法的諸義務を課すとともに、拷問禁止に関する委員会を設けて、国際的に監視していくことを内容にしてる。日本は平成11年(1999年)6月に締結している。

国連婦人の10年国内行動計画
 国連は性差別撤廃に世界的規模で取り組むために、昭和50年(1975)年を国際婦人年とし、昭和51年(1976年)~昭和60年(1985年)の10年間を、「平等・発展・平和」の理念及び世界行動計画の目標達成のための期間と位置付け、女性の地位向上のための取組を各国に求めた。日本では昭和52年(1977年)1月に国内行動計画が策定され、計画期間を今後10年間(昭和52年~昭和61年)とした。これ以降、日本の男女共同参画の取組は、国連を中心とした世界規模の動きと連動して進められている。

障害者対策に関する長期計画
 国連では障害者の「完全参加と平等」のために、昭和56年(1981年)を国際障害者年、昭和58年(1983年)~平成4年(1992年)を国連・障害者の10年とし、障害者が社会生活に完全に参加し、障害のない人と同等の生活を享受する権利の実現をめざした。日本では昭和57年(1982年)3月に、障害者対策に関する長期計画を決定し、政府各省をはじめ各地方公共団体はこれに準拠し、それぞれの立場で障害者対策の新たな計画の立案と実施の方向をうちだすことにした。

同和対策審議会答申
 昭和36年(1961年)、総理府に同和対策審議会が設置され、内閣総理大臣より「同和地区に関する社会的及び経済的諸問題を解決するための基本的方策」について諮問をうけ、昭和40年(1965年)に審議した結果をまとめた答申が出された。同和問題の解決は国の責務であり、国民的課題であるとしている。

人権教育のための国連10年
 平成6年(1994年)12月の国連総会において、平成7年(1995年)~平成16年(2004年)までの10年間を、「人権教育のための国連10年」とすることが決議された。人権教育を「知識と技術の伝授及び態度の形成を通じ、人権という普遍的文化を構築するために行う研修、普及及び広報努力」と定義し、各国に様々な活動を行うことを提唱している。
 これを受けて日本では、平成9年(1997年)7月に、「人権教育のための国連10年国内行動計画」が、同推進本部(本部長:内閣総理大臣)より出された。

人権という普遍的文化
 原文は、「a universal culture of human rights」で、「人権文化」とも訳される。 「人権教育のための国連10年」は、その目的を「人権という普遍的文化を構築するため」と定義している。人権教育の推進によって、すべての個人が、相互に人権の意義及びその尊重と共存の重要性について、理性及び感性の両面から理解を深めるとともに、自分の人権と同様に他人の人権をも尊重するという行動様式が社会の隅々まで浸透している状況を築き上げることをめざす。

人権擁護推進審議会
 人権擁護施策推進法に基づいて、平成9年(1997年)3月に設置された。
 法務大臣、文部科学大臣、総務大臣又は関係各大臣の諮問に応じ、「人権尊重の理念に関する国民相互の理解を深めるための教育及び啓発に関する施策の総合的な推進に関する基本的事項」を調査協議し、平成11年(1999年)に第一次答申がだされた。
 また、法務大臣の諮問に応じ、「人権が侵害された場合における被害者の救済に関する施策の充実に関する基本的事項」を調査協議し、平成13年(2001年)7月に第二次答申がだされた。

セクシャル・ハラスメント
 労働省がまとめたセクシャル・ハラスメントの定義は、「相手方の意に反して、性的な性質の言動を行い、それに対する反応によって仕事をする上で一定の不利益を与えられたり、それを繰り返すことによって就業環境を著しく悪化させること」である。平成11年(1999年)4月に改正された男女雇用機会均等法では、職場でのセクシャル・ハラスメントの防止を事業主に義務付けている。

NPO(民間非営利団体・民間公益組織)
 Non Profit Organizationの略で、利益を追求することを主な目的としない自立した活動組織。財政規模の小さい非営利組織の法人格取得を容易にする特定非営利活動促進法(NPO法)が、平成10年(1998年)12月に施行された。

自尊感情
 自尊感情とは、「self-esteem(セルフエスティーム)」の訳語とも言われ、「自分をかけがえのない存在と考える感情」「自分を価値ある存在と肯定的にとらえる気持ち」(自己有用感、自己肯定感)であり、人間が外界や他者と力強く関わる主体となるための心理的土台、と説明されている。政府の青少年問題審議会答申の中でも、「他人を尊重し思いやる気持ちは、自分がかけがえのない存在であることの自覚に根ざす」と述べられている。

人権擁護機関 人権擁護委員
 国民の基本的人権を守るために、国の機関として、法務省人権擁護局とその下部組織である法務局、地方法務局及びその支局、それに法務大臣が委嘱する人権擁護委員が置かれている。これらをまとめて法務省の人権擁護機関という。人権擁護委員は各市町村の地域住民の中にあって人権擁護活動の任務を持つ。

人権週間
 国連は昭和23年(1948年)の第3回総会で世界人権宣言が採択されたのを記念して、12月10日を人権デーと定めるとともに、すべての加盟国にこれを記念する行事を実施するよう呼びかけている。日本では12月10日の人権デーを最終日とする一週間を「人権週間」と定め、人権尊重思想の普及・高揚のための啓発活動を全国的に展開している。

バリアフリー
 障害のある人が社会生活をしていく上で、障壁(バリア)となるものを除去するという意味で、もともと住宅建築用語で登場し、段差等の物理的な障壁の除去をいうことが多いが、より広く障害者の社会参加を困難にしている社会的、制度的、心理的なすべての障壁の除去という意味でも用いられる。

広島市個人情報保護条例
 個人情報の収集方法や提供方法などの制限を規定し、個人情報の適正な管理を行うことにより伝統的・消極的な意味のプライバシーの権利の保護を図るほか、広島市が保有する個人情報の開示及び訂正などの積極的な意味のプライバシーの権利の保障をすることにより、個人の権利利益を保護するとともに、公正で信頼される市政の運営に資することを目的として定められているものである。
 この条例には、市長の責務として事業者及び市民に対する個人情報保護の意識啓発に努めることが規定され、また、事業者の責務として、個人情報の取扱いに当たり個人の権利利益を侵害しないよう努めること、個人情報の保護に関する市の施策に協力することが規定されている。

広島市男女共同参画推進条例
 広島市が、市民からの意見聴取や広島市男女共同参画協議会の審議結果等を踏まえ、平成13年(2001年)9月28日に公布、施行した条例。男女共同参画の推進について基本理念を定め、本市、市民、事業者の責務を明らかにするとともに、男女共同参画の推進に関する施策の基本となる事項を定めることにより、本市における男女共同参画社会の実現を図ることを目的としている。

広島県人権啓発活動ネットワーク協議会
 人権啓発活動は、法務省の人権擁護機関、都道府県、市町村などの実施主体がそれぞれの役割を踏まえながら総合的に推進していくことが必要であるとの考え方から、各啓発実施主体間でネットワークを充実させることを目的として、平成10年度(1998年度)から3年間で全国の都道府県に県単位の人権啓発活動ネットワーク協議会が設置されていった。また平成12年度(2000年度)から市町村レベルにも地域ネットワーク協議会を拡げている。
 広島県では平成10年(1998年)11月26日に、広島法務局、広島県、広島市、広島県人権擁護委員連合会を構成員として、広島県人権啓発活動ネットワーク協議会が発足し、さらに平成12年(2000年)8月21日に、広島法務局、広島人権擁護委員協議会、広島市、近隣11町村を構成員として、広島地域人権啓発活動ネットワーク協議会が発足した。

広島市外国人市民施策懇談会
 外国人市民の市政参加を促進し、市民と行政、外国人市民と日本人市民の協働による多分化共生社会づくりを推進するため、平成13年(2001年)5月に設置された。外国人市民施策に関する諸問題について協議し、市長に報告又は意見を述べることにしている。

広島市男女共同参画審議会
 広島市男女共同参画推進条例に基づき、平成13年(2001年)9月28日に設置された。市長の諮問に応じ、男女共同参画の推進に関する施策及び男女共同参画の推進に影響を及ぼすと認められる施策並びに市長が必要と認める事項について審議し、又は建議することを所掌事務としている。なお、この審議会の設置に伴い、既存の広島市男女共同参画協議会は廃止された。

広島市男女共同参画推進本部
 広島市が、平成4年(1997年)4月に設置した庁内における推進体制で、市長を本部長とし、三役、局長等で構成している。広島市における男女共同参画社会の形成の促進に係る総合的な企画及び調整、施策の推進、その他目的達成に必要な事項を所掌事務としている。

人がやさしいまち推進本部
 高齢者や障害者をはじめ市民の誰もが互いに尊重しあい、助け合いながら健康で安心して暮らせるまちづくりを推進するため、広島市が、平成7年度(1995年度)に設置した全市横断的な組織であり、市長が本部長を、また、助役及び収入役が副本部長を務めている。

男女共同参画プラン
 広島市が、平成9年(1997年)3月に、女性問題の解決に向けたより総合的で体系的な施策推進のための指針となるよう策定した計画で、概ね平成22年度(2010年度)までを計画期間としている。

児童育成計画
 近年、子どもや家庭をとりまく環境は、少子高齢化の進行や核家族化の進展などにより大きく変化してきており、子育て支援のための新たな取組が重要な課題となっている。本市では、平成10年度(1998年度)に、子育て支援施策を総合的、計画的に推進するための基本的な指針として児童育成計画を策定し、子育てを社会全体でやさしく支えるまちづくりに取り組んでいる。

高齢社会対策長期指針
 第4次広島市基本計画の部門計画として、本格的な高齢社会を迎えつつある本市の行政運営の基本的方針を示す「広島市高齢社会対策長期指針」を策定し、総合的、計画的な高齢社会対策を推進するもの。この指針は、21世紀初頭10年の平成22(2010)年度までを計画期間とし、高齢社会に対応した施策の基本的考え方を整理し、その方向性を示し、また、保健・医療・福祉のみならず、生涯学習、就業、住宅、交通、まちづくりなど幅広い分野において取り組むべき課題と主要な施策を整理・体系化したもの。

高齢者保健福祉計画
 高齢者の保健・医療・福祉サービスの確保や生きがいづくりなど、地域の高齢者にかかわる保健福祉施策の全般に関して総合的に定める中期計画で、介護保険事業計画を包含するものである。

障害者基本計画
 障害者施策を総合的・計画的に推進していくため、障害者基本法に定める市町村障害者計画として策定したもので、ノーマライゼーションの理念のもとに、「一人ひとりが輝き、人がやさしいまちをめざして」を基本目標に、「バリアフリー化(無障壁化)の推進」、「地域生活の支援」、「社会活動の支援」の3つの柱をもとに具体的な施策を示したものである。

風景づくりマスタープラン
「広島市の魅力ある風景づくりに関する基本的な方針」
  「風景づくりマスタープラン」は、「第4次広島市基本計画」を上位計画とした、市民・企業等と行政が協働して、広島のアイデンティティの形成に向けた、さらには、時代の潮流を踏まえ、将来を見据えた、21世紀の新たな風景づくりに取り組んでいくための部門計画。
 このプランの前段部分にあたる「広島市の魅力ある風景づくりに関する基本的な方針」は、広島市全域を対象として、魅力ある風景づくりのための基本方針と施策展開の方向を示すもの。平成14年(2002年)1月策定。この方針の中で、案内誘導サインなど街の言語表現の多言語化の推進など、「多文化共生のまち」を実現する高質かつ多様な都市環境の創造を掲げている。
 引き続き、具体的な施策を展開するための「広島市の魅力ある風景づくり基本計画(仮称)」を策定する予定。

21世紀教育改革推進総合プラン検討会議提言
 広島の独自性を発揮し、市民に信頼され、子どもが躍動する、広島らしい新しい教育を創造するため、多面的・総合的に議論を重ねてまとめられたものである。
 この提言では、広島の新しい教育が目指すものとして、「心身ともにたくましく、思いやりのある人」を基本理念とし、子どもたちに、生きるための基礎・基本をしっかりと身につけさせ、「規範性、感性、体力、コミュニケーション能力」の4つの力をバランスよく備えさせることが必要であり、これらは、多彩な経験、子ども同士の学び合いのつながり、さらに、学校・家庭・地域のあらゆる場面での多くの人々とのつながりの中で、より豊かで確かな力となる、との基本的な考え方が示されている。

新広島市青少年基本計画
 21世紀における広島市のまちづくりの担い手となる青少年の育成・成長支援について、目標とする青少年像を掲げ、その実現に向けて、家庭・学校・地域社会が連携して、青少年の育成・成長支援を推進していくための施策を盛り込んだ計画である。第4次広島市基本計画の部門計画であり、目標年次も同様に平成22年(2010年)としている。