メニュー

人権に関するデータベース

全国の地方公共団体をはじめ、国、国連関係機関等における人権関係の情報を調べることができます。

研修講義資料

名古屋会場 講義1 平成23年10月19日(水)

「震災における心のケアと人権」

著者
柳原 理枝子
寄稿日(掲載日)
2012/03/28


 
 皆様こんにちは。本日、この90分間、災害時における心のケアを担当させていただきます、株式会社ハートセラピーの柳原と申します。よろしくお願いいたします。
 簡単に自己紹介をさせていただきますと、私は看護師として、東京にあります大学病院で、がん患者さんのケアを中心に、十数年勤務していました。その後、企業の健康管理室で、心の相談や、体のメタボリックシンドロームの有所見者の方への指導などを行ってまいりました。
 その企業の中におりました時分に、心の病「うつ病」が非常に年々増加しているということを痛感し「心の病を減らしたい」と言う想いから起業しまして、現在はメンタルヘルスの予防と、個人のカウンセリングを行っております。また現在、人権問題にもなっております、セクシャルハラスメントやパワーハラスメントを防止するための研修やコンサルティングなども行っております。
 今回は震災についてということですが、私どもには数人カウンセラーがおりますが、数名のカウンセラーも実際に被災地に参りまして、ボランティア活動などをしてまいりました。私は直接ボランティア活動を残念ながらできていないのですが、被災地で心のケアをするための講義などを中心にしております。本日はなるべく事例なども踏まえてお話ししたいなと思います。
 では、早速、皆さんお手元のレジメ、こちらのスクリーンに映っているものと同じものだと思いますので、ごらんになりやすいほうをごらんください。
 東日本大震災ということで、3月11日に非常に我々が本当に想像できないほどのすさまじい地震と津波が起きてしまいました。そして犠牲者のが、このデータでは9月3日なのですが10月12日、先日のデータでは死亡者数が1万5,822件、そして行方不明者が3,897人と発表されていました。
 実際、全国民の方が心を痛めるような事態になったわけですが、私もそのころは東京におりましたが、東京でも震度5でしたので、私は13階にいたのでかなり揺れまして、ひとりでいましたので、棚が倒れそうになったり、東京でさえもすごく恐怖に襲われました。心の中で「死にたくない、死にたくない」なんて思ってしまいました。
 そして今現在は、地震はおさまっているわけですが、風評被害とか放射能汚染によって、また多くの方が故郷に帰れなかったり、また、心ない差別的な発言を受けています。ですから本日の人権問題にも大きくかかわってくると思われます。
 そして、今回は心のケアというところですので、実際にこうしたことが起きますと、ちょうど震災が3月に起きてから半年ぐらい過ぎまして、いよいよ今時分からが人によっては一番心が病んできてしまういう時期になりますので、ここからが特に心のケアが重要だと、精神科のお医者様方も申しております。
 その辺のご説明を詳しくいたします。
 こちらは、震災を受けてからの時間の経過と被災地の心の動きという表ですが、1番の事例のところですね、茫然自失期、震災直後は茫然自失期というものになります。そしてハネムーン期がありまして、一度ですからハイムーン期で上がって、そしてまた徐々に下がって幻滅期、最終的には、そちらの図には書いてないのですが、復権期とか復興期という、そういった期になります。人間の心の動きです。
 詳しくお話しします。茫然自失期というのは災害直後から数日間です。個人差があります。こういったときは非常に皆さん、私もそうでしたが、恐怖体験のため無感覚とか感情が一時的に欠如してしまったりとか、茫然自失とよく言いますがそういった状態です。
 今回も非常に多かったのですが、先日もNHKのドキュメンタリー番組でも取り上げていました。震災があって津波が来るぞという状況を知っているのにもかかわらず、周りの方々、ご近所の方々を助けにおうちに戻られた方が、津波に巻き込まれてお亡くなりになってしまったというようなお話がありましたが、これは、人間として割とよくこういった事態に起こり得る現象であります。つまり、危険な目に遭って、神経が非常に過敏になってしまいますと、前頭葉が興奮してしまうわけです。ちょっと麻痺するのです。正常な判断ができるようなところが麻痺してきてしまいますので、何かできるのではないかとか、そういった考えが浮かんでしまい、危険も顧みずに、行動的に飛び込んでしまうという方が出てきます。
 そして次です。ハネムーン期、これは災害発生数日後から数週間、数カ月間とよく言われておりますが、皆さん、今回の震災の被災地の避難場所の方々を中継とかでも拝見していても、やはり最初のうちは非常に皆さん連帯感に結ばれていて、何とかしていこうと、「頑張ります」というような発言が非常に多かったです。そういった時期が必ずあります。地域全体がつながりを感じて、温かい心で一緒に頑張っていこうという気持ちになるというわけです。こういった時期も必要は必要です。
 ただし、この時期に、例えば我々のような外部の者とかが、その方に対して「大丈夫?」と声をかけた場合に、ハネムーン期に大丈夫と言われた場合は、割と多くの方が「大丈夫です」と答えるのです。本当は大丈夫じゃないのですが、何か大丈夫な気になってしまうといいますか。なので、このときに、もし仮に大丈夫と言われていても、それから数カ月たってから聞いてみると、実はそのときは大丈夫じゃない、つまりこの幻滅期ですね、ということがありますから注意が必要です。
 幻滅期はこれも個人差ありますが、災害発生数週間とか数カ月後から復興期にかけて起きると言われております。だんだん疲れてくる、人間疲れてきますし、また、いろいろな行政に対する不満とか、だんだんマスコミとかそういったところからも少し忘れ去られてきてしまったりしますと、何か取り残された気持ちになったり、どうなるのだろうといういろいろな不安や不満が襲ってくるというわけです。当然のことですね。
 ただ、この時期にはやはり個人差があります。状況によって。被害を受けた程度とか、お家が全壊した方とかに比べても、お家がきちっとある方のほうが気持ち的にも安心しますし、あと、地域づくりに参加することで、生活再建の自信が向上して、フラッシュバックという嫌な思い、津波などの嫌な記憶が徐々に薄れて、精神的に安定する人もいれば、逆に、復興から取り残されて、みずからのお家が全部なくなってしまったとか、お身内の方がお亡くなりになってしまったとかいうことで、復興から取り残されて、精神的な支えなどを失った場合には、その後もストレスの多い生活が続いていくという場合もあります。ですからこのあたり、ちょうど幻滅期あたりから、人によって状況によって変わってくるわけです。心のあり方も。
 そして、復権期、復興期です。そういったことになっていくというわけです。
 次です。これは別に被災者にかかわらず我々全員に当てはまるのですが、ストレスってそもそも何ですかという話がよくあるわけなのですが、ストレスというのは、私たち働いている人とか働いてない人でも、だれでも生きていればストレスというのはあります。いろいろな人間関係とか過重労働とか、あとはいろいろなプライベートで悩み事があるとか、そういったことがあります。
 この真ん中にある青いものは心です。よく心を心理学の世界では丸いボールに例えます。普通は丸いボールの心にいろいろなストレッサー、ストレス要因のことをストレッサーと言うのですが、ストレッサーが圧力をかけボールが歪んでいく、歪んだ部分にストレスがかかっていると言います。つまり、キューッという緊張した状態になるわけです。こういう状態のままいますといろいろな病気になってしまいます。
 今、最近は企業でも行政でも、こういったいわゆるうつ病が非常にふえているので、それを予防するために社員の皆さんに対してメンタルヘルスや、ストレスと上手につき合う方法の勉強などを研修で取り入れているところもふえていて、こういったお話、今からお話しすることをしています。
 やはり、ストレスと上手につき合う方法を知っておくと、いざストレスがたくさんかかってきたときにも上手にコントロールすることができるわけです。きょうの後半に実際に皆さんにリラクゼーション体験していただきますが、呼吸法というものをします。それはすごくストレスに対して体が上手につき合える方法ですので、被災者の方にもすごくお勧めですし、もちろん我々も日ごろからしておくとすごくいいものになっています。
 今回は被災者の方々は、人によって心の状況も違うと申しましたが、やはりこのストレッサーが1つの場合と2つ、3つ、4つと重なっている場合は全然へこみ具合も違ってくるわけです。例えば今回、危険度とか生活環境ですね、安定した生活環境ができない場合、そういった変化などが重なるほどこのストレスも大きくなってきてしまうというわけです。
 ですからこそ、やはり一番大切なのは、被災者に対して安全な場所を提供するということ。また、我々も、もしそういったことがあるときには、どこが安全な場所であるだろうかということを日ごろから把握しておくということも必要になるわけです。
 そしてこちらの今のストレスについてのお話しですが、ストレスによる身体変化というものです。ちなみに皆様、皆様自身、ストレスを今抱えてる、感じてるという方は手を挙げてください。はい、ありがとうございます。4分1ぐらいでした。今の方々も、もしかしたら安全なのですよ、安心なのですね。といいますのは、皆様のお手元の資料で、冊子のほうに入っている資料に「簡易式ストレスチェック表」というのがあります。
 せっかくですから行ってみましょうか。「簡易式ストレスチェック表」は、ヘルスカウンセリング協会の宗像教授らが考案したものなのですが、今現在の皆さんのストレス度をはかることができるものです。
 お手元に用意できましたでしょうか。あなたの1週間を振り返って、当てはまる項目に丸をつけてその点数を加算しましょう。1から20までそれぞれ「なし」とか書いてありますので、そのとおりに当てはまったところに丸つけてみてください。最終的に完全に合計点を出してください。ではお時間をとりますのでお願いします。──まだの方は続けていただいて、結構です。
 では回答を見ていきたいと思います。35点以下だった方は手を挙げてください。割と多いですね。4分の1ぐらいかしら、ありがとうございます。この方たちはこの程度ならば問題のないストレスレベルと書いてありますが、ここで要注意なのは、本人が無自覚でも慢性的な身体の症状、肩こり、頭痛、胃の痛み、これが何て書いてあるかといいますと、ストレス反応というのは心理面と行動面と身体面に出ると言われておりまして、人によってその出方はさまざまです。こちらの診断では心理面に出るストレス反応なのです。ですので、こちらの心理面には出ていなくても、もしかしたらこの身体面に出ている場合には注意が必要というわけです。こういった症状です。また、例えば下痢と便秘を繰り返しているとか、あとは耳鳴りがしているとか、そのようなことです。
 また、やめたくてもやめられない行動の症状。これは行動面に出ている場合です。アルコールを飲まずにはいられないとか、お菓子をしきりに食べるとか、たばこを吸う、喫煙量が多いとか、あとは買い物依存症と言いまして、町に行くと買い物せずにはいられないとか。そんなような依存症的な症状に出ている場合があります。そういったときには、もしかしたらストレスがかかっているかなというふうに思っていただくとよろしいと思います。
 私がかかわっていたうつ病の方も、5年ほど前から買い物依存症だったそうなのですが、病院には行ってなかったので依存症かどうか本人もわかっていなく、町に行くと買い物せずにはいられないという状況で、何かおかしいなと思いながらもそのまま買い物を続けていて、そして、3年ほど前に、周りの方から見ておかしいから病院に行ったほうがいいのじゃないかと勧められて、病院に行ったらうつ病と言われたということでした。その本人が言うわけです。うつ病と診断されてから、つまりストレスによっていっぱい買い物していたのだということがわかったので、そうしましたら買い物依存症のほうもだんだんよくなってきたとおっしゃっていました。つまり本人はストレスに気づいていないという状況だったわけです。
 それでは36点から48点の方、手を挙げてください。はい、ありがとうございます。3分の1ぐらいですか。この人たちはちょっとためてきておりますのでリラックスする時間、また呼吸法をぜひ、きょうお教えしますのでご利用ください。
 それから49点以上だった方は手を挙げてください。ありがとうございます。少なめですね。この方たちは、ストレスを随分ため込んでお疲れだと思いますので、なかなかお忙しいと思いますが、ちょっと注意が必要ですから、もし何か悩み事があるようでしたら早めにどなたかに相談するとか、もしくはストレス解消で何かリラクゼーションを受けるとか、ちょっとお休みしてみるとか、自分の健康を振り返っていただきたいなと思います。
 何が言いたかったかといいますと、先ほど手を挙げていただいたときに、手を挙げてなかったが、ストレス度がこの点数じゃ足りなかった方いらっしゃると思うのですよ。結構多いのです、そういう方が。
 それはなぜかという話がこちらの図です。「警告反応期」というのはストレスを受ける行動です。ストレッサーを受けてキュッとこうなってきますと、当初は自覚症状がこのようにあるのですが、それは日にちがそのまま、忙しいかなとか、ストレスどうにもならないかなということで、ひとりで悩みを抱えこみ、そのままにしていますと「抵抗期」というときになります。「抵抗期」になりますとここで注意なのは、自覚症状が一たん消えてしまいます。自覚症状は消えるのですが、実は体の生命維持にとても大切なホルモンとか自律神経とか、そういったものがストレスと無意識のうちに闘ってくれています。ですので、体はもう適応エネルギーが多大に消費していて、だんだんお疲れになってしまうというわけです。先ほど手を挙げなかったが、実は点数が高い方は、もしかしたらそういったところがあるかもしれないので注意が必要というわけです。
 さらにそのままにしていますと「疲はい期」というものになります。今、被災者の方々で一生懸命頑張っておられますので、こういった「疲はい期」になってしまう方が非常に多くなっているのではないかということで心配しているというわけです。そうなりますと適応の限界、免疫力低下で風邪を引きやすくなったり、また、いろいろさまざまな病気になりやすくなってしまうというわけです。
 ですので、ストレスは気づくのが一番大切だと言われています。ですから本日このストレスチェック表をお渡ししましたので、皆さん、1カ月に1回ぐらいはストレスケアをしていただいて、自分自身のストレスなどにもちゃんと気づいていただいて、何かのときにはだれかに相談したり、そういったお互い助け合うようなことをしていただければいいなと思います。頑張り屋さんだと無理してしまいますので、それはくれぐれも気をつけていただきたいと思います。
 では、また被災関係のお話に戻ります。
 ASDと書いてありますが、これは急性ストレス障害の略語です。これは別に病気ではなくてだれでもかかり得るものです。主に生死にかかわるような要因で心に傷を負ったような経験をした後、これによって神経症状が数週間ないし数カ月間続くというものなのですが、主な症状としましては3つあります。
 まず1つが「追体験」=フラッシュバック。割と有名だと思うのですが、嫌な心に傷を負った出来事が悪夢のように何回も思い出されたりとか、ふと何か別のことをしていたのに急にふっと思い出したり、今回の場合ですと、例えば地震のときのあの揺れたときの怖い思いとか、津波に巻き込まれそうになった思いとか、そういったことを思い出してしまうというような症状です。
 別に震災だけじゃなくても、例えば私はハラスメントの研修をしていますが、ハラスメントの被害者なども、やはり、例えば、上司から毎日のように暴言を吐かれたりとか、そういったような経験をずっと繰り返しますと、例えばPTSDとかうつ病になってしまった後、お家にいても、お家で何かしていても、上司からすごく大きな声で怒鳴られたり人格を否定されたようなせりふがぱっと浮かんできて涙が出てくる、人と会うのが怖いというような状況になっている方がいます。
 次に「回避」です。これは、心の傷に関する出来事や関連する事柄を避けようとする傾向。そして「過覚醒」です。神経が高ぶった状況が続いて不眠、不満などがあらわれる、強くあらわれる症状です。
 もう少しゆっくり説明します。フラッシュバックについては大丈夫だと思いますので、回避症状についてお話しします。
 これは今、わかりやすく示したつもりなのですが、このぎざぎざ模様がいわゆる津波の記憶です。周りが心になるわけなのですが、心の内側にさらにバリアを張ってつらい記憶が出ないようにします。ここですね。外から見ると一見、何か落ちついているように見えたりとかして、心に傷も何も負ってないように見えることもあります。ただし、本人は記憶を出ないようにしているので、無意識のうちに出ないようにしているのですが、実はすごくつらい思いがたくさんこの中にあるわけですね、心の中に。
 本人の症状としては、例えば周囲の人と交流を持てなかったり、例えば今、被災地でいろんなイベントとかいろいろ行っていますよね。元気になるための。ですけれど、そういった交流会には一切参加しなかったりとか、また、将来のこととかも全く考えられなくなってしまったりとか、あとは、つらい思いが部分的に思い出せないとか、そんなような症状に出ている方もいらっしゃいます。
 そういったことで、自分の中に閉じ込めてしまいますので、嫌な記憶が全くその後もずっと整理されなくて考え方、認知というのは物事の受けとめ方とか考え方のことですが、そういった考え方とか受けとめ方にもゆがみ、マイナス思考とか、ゆがみが生じてしまったり、罪悪感などが生じてしまったりします。
 もう一つの過覚醒というのは何かといいますと、同じく嫌な記憶はぎざぎざで示されていますが、意識と心の外側に今度はバリアを張りまして、新しい刺激が来ることをブロックします。人とか音とか光と書いてまいすけど。例えば対人恐怖症の方などは人を避けるとか、明るい光のもとに行けなくて引きこもって暗いところにいらっしゃるとか、あと、小さなことでも過剰に反応するとかあります。恐らく想像しやすいのは、もし皆さんが、仮に今皆さん一人一人がだれかから命をねらわれているというふうに想像した場合に、こんなところで研修受けいてる場合じゃないですよね。多分、ここにいらしていても音に反応したりか、何か落ちつきなくなるとか集中できませんよね。そういった状況です。
 こういったことになりますと、いらいらして怒りやすくなってしまったりとか集中力が欠けてしまったり、そういう音とかそういったことに非常に過敏に過剰に反応して落ちつきがないと、そういうような症状になってきます。
 この過覚醒、つまりは普通よりも非常に敏感になってしまっている状況なので、こういうときにどうしたらいいかというお話なのですが、アルコールはだめです。こういう状況になると何か気持ちを落ちつかせるために、今被災者の方々もアルコールがとても心配なのですが、アルコールをとって落ちつかせようとする方がいます。眠れないからアルコールをとろうとか。そうすると、アルコールは脳の神経を逆に活性させてしまう、興奮させてしまいますので逆効果になります。ですから一時的に睡眠薬を飲んだほうがいいと言われています。また、そのほかにカフェイン、カフェインもやはり過覚醒になってしまいますので、よろしくないです。
 いいのはやはりリラックスです。ですから後ほどお伝えする呼吸法をしていただくとか、あとは、被災地だとなかなか最初は難しかったと思いますけど、おふろにゆっくりつかっていただくとか、あとはストレッチとかをして筋肉を動かす。ストレスをためると筋肉が硬くなりますので、ストレッチなどしてリラックスする。ヨガとかありますよね。そういうようなことをしていただくのがよろしいです。あと、いい香りをかぐとか、アロマの香り。気持ちが落ちつくような香りをかいだり、落ちつくような音楽を聞いたりとか、そういったことがよろしいです。
 こういった症状は正常に見られる症状です。だれでもそういう非常に命の危険に負うような場面に出くわせればだれでも起きます。ただ、正常な反応なのですが、これが、文献によってちょっと違うのですが、文献ですと1カ月以上こういう症状が続くとPTSDだと書いてあるものが多いのですが、この辺何かちょっとあいまいな部分もございまして、精神科の先生からお話伺いますと、1カ月ぐらいだとだれでも続いていて、3カ月以上とか半年以上続く場合にPTSDだとおっしゃる先生方も多いので、この辺がやはり症状の程度とか、個人差もあると思います。ただ、やはりこういった状況が続く場合にはPTSDと言われるわけです。心的外傷ストレス障害です。危うく死ぬまたは重症を負うような出来事に遭ったときに起こる心の傷がもとになってストレス障害を起こすということで、症状は先ほどの代表的なASDのときに出てきた代表的な3つがあります。そのほかにもありますけど。
 ちなみに、中越沖地震がありました。数年前に新潟で。そのときのデータがあるのですが、PTSDと思われる人の割合なのですが、震災があってから1年後が5人に1人がPTSDと思われる人がいたそうです。2年後が6人に1人がPTSDじゃないかと思われる人がいたそうです。3年後には7人に1人がいたと言われております。この割合なのですが、精神科の先生は非常に多い割合とおっしゃっております。
 ストレス反応による4つの特徴と書いていますが、今の代表的な3つの過覚醒とか回避症状とか追体験などから、細かく言えばこういういろいろな4つの身体的特徴や精神的特徴、思考的特徴、行動的特徴などが、人によってあらわれ方は違いますけども起きてくる可能性があります。
 特に行動的特徴のところに書いてあります深酒ですね。先ほど説明しましたがお酒に走ってしまうというのが非常に、今現在も問題になっておりますし、また、甘いものをとりすぎて太ってしまうという方も割とおられます。あと、集中力が低下したり無気力になったりしてしまうことによって、事故やけがも増えてくると言われております。
 あと持病がある方です。例えば、糖尿病とか関節リュウマチとかいろいろありますが、あと精神疾患もありますが、持病がある方は本当悪化するおそれがあるので注意しなければいけないというふうに、周りの方及び本人も注意しなければいけないと言われています。今回はお薬が足りなくて困ったというお話もありましたね。ですから、日ごろからちょっと多めに薬を処方してもらっておくのがいいのではないかという話もその後出ておりますが。
 あと、私が実際かかわっているうつ病の患者さんたちも、うつ病がすごくよくなってきていたにもかかわらず、その方は東京に住んでいる方ですが、今回の地震によってうつ症状がまた悪くなってしまったという方が数人おられました。私、大学生のカウンセリングもしていますが、結構大学生も眠れなくなってしまったとか、皆さん東京に住んでいる大学生なのですが、眠れなくなってしまったとか、非常に不安だということで相談に来られる件数もふえました。
 先日得た情報なのですが、岩手県のほうで心と体の訴えというのを、延べ4,000人の方々に調査したそうなのですが、心と体にどんな症状が出ているかというものです。4カ月、3月11日から7月の11日ぐらいまでです。この4カ月間までは一番多い症状、皆さんが出てくる症状としては、第1位が「不眠」でした。第2位が「不安や恐怖」でした。そして第3位が「いらいら感」でした。こういう自覚症状が今、岩手県の被災者の方々から出た話です。
 これは4カ月以降、つまり7月の12日以降のデータなのですが、変わりまして一番増えてきたものですね。増えてきたものが一番多かったのは「抑うつ」状態です。うつ気分です。ずっと憂つみたいになる。また、2番目に多く出ているのが「喪失感」、失う気持ちです。そして3番目が「アルコール」です。4番目が「自責感」、自分を責める感です。抑うつ、喪失感、アルコール、自責感になっています。
 つまりは、ほぼ半年たちましたので、こういった抑うつ、アルコール、喪失感や自責感、この辺を特に注意して心のケアをしていかなければいけないということが言えるわけです。
 もちろん、総体的にこの半年間、全体的に見ますと、やはり一番多いのは不眠で2番目が不安と恐怖で、3番目が抑うつ感となっておりますが、4カ月以降にそういう抑うつ、喪失感、アルコール、自責感が、今までは低かったのが上がってきたということです。
 心のケアとしてまずセルフケアです。自分自身の健康は自分で守るというのがやはり一番大切なところですので、まずは自分で行えることをお話ししたいと思います。
 まず、自分で行える対応法としましては、ひとりで過ごさないということです。なるべくだれかと一緒に過ごす。やはり、今、被災地の方々も今仮設住宅とかに移りまして、今からが孤立化していくというところがあるわけなのですが、やはり孤立化していく人のほうがストレスももちろん大きいので、PTSDにもなりやすいと言われています。ひとり暮らしの方はなるべく家族や友人と連絡をとっていただきたいのですが、実際そういうふうなことができない方もいらっしゃいますので、そういう方々に対しては今被災地のほうでは、被災直後から精神保健福祉センターの方々が心のサポートチームというものをつくっておりまして、被災の翌日から活動をされているのですが、そういった方々は今も仮設住宅のほうなどにもそのメンバーが訪問して、なるべくひとりにさせないようにというか、相談に乗れるような環境づくりを一生懸命されているそうです。
 今、心のサポートチームの話が出ましたのでお話ししますと、岩手県では30チームの心のサポートチームがいらっしゃるということで、今までに2,800件のそういったサポート対応をしているというお話を先日されておりました。
 サポートチームのメンバーとしては医師とか保健師、あと臨床心理士とか、また、精神保健福祉士とか、そういった方々がメンバーになって、みんなで協力して震災の翌日からサポートをしていらっしゃるということです。
 話が戻ります。また、相談できる相手は複数確保するというのは何かといいますと、一人の人に絞っていますと、やっぱりその一人の人が疲れてしまうこともありますので、なるべく多くの人がいたほうがいいわけです。また、同じような体験した人々と話し合うということがすごく大切です。先ほど出てきました回避症状などありますと、どうしても自分の中にこもってしまったり、もともと人に頼るのが苦手な方とか、そういった方はどうしてもひとりで抱え込みやすいのですけど、やはり本当は、なるべくそういったつらい経験などはお互いに話を話題に出して、あのときこうだったねとか、そういったことは話し合ったほうがいいと言われております。そのほうが心の整理がつきやすいのです。
 また、深呼吸です。これは後ほどお伝えしますけど、そういうリラックスの対処方法を事前に知っておくということ。また、人から何か親切なことを受けたときには、大丈夫ですではなくて、素直にこういったときには受け入れるということです。
 そして、さっきの症状が2週間以上続くようであれば専門医受診を検討と書いてありますけど、ここは先ほども申し上げましたけども個人差とか症状の程度によって、余りにも程度がひどい場合にはそういうふうに、2週間以上でなく専門医受診しても全くそれはいいのですが、先ほどの3つの症状などは代表的な3つの症状はだれでも起こる症状でもありますので、1カ月以上とか二、三カ月も続くようであれば行っていただければ、程度によって行っていただければなと思います。基本は我慢し過ぎないことです。早めに予防として行っていただいてもいいわけですから、別に専門医に早く行っちゃったから、怒られるということもございませんので、逆に行かないほうが心配ですから、安心のために行っていただいてもいいかなと思います。
 そして適度な運動です。ストレッチもそうですし、ウォーキングとかラジオ体操とか、そういったことをしていただかないとよくないですね。ストレス解消にもなります。また、お子さんの場合は余計、なおさらのことこういった運動はさせるほうがよいと言われております。
 緊急支援の基本的なあり方というのは、これは、今度はセルフケアではなくて周りの人、支援する側のお話をここからはしたいと思います。
 まず、当り前のことですけど、心理的な支援の前にライフラインの確保と書いてありますが、もちろん、ライフラインが確保されていないと、幾ら話聞きますよなんて言われても、実際、生活できなければ困るわけですから、被災地の方々は本当に最初のうちは、朝は乾パン、夕食はインスタントラーメンというような状況だった方がたくさんいらしたそうです。そういう状況、やはり食事とか、あとは体が休められる場所とか、そういったところの確保がとても重要になります。安心感と安全感を取り戻し、人とのつながりを確認させていくというわけで、孤立させないで、もし孤立しているような人がいれば声をかけて周囲でサポートするということです。
 心のケアをする上の課題としましては、ストレス障害は回復可能です。ですので、ケアと予防ですし、PTSDは予防することが可能です。ASDはだれでも、急性ストレス障害はだれでもなりますが、その後のこういったサポートとか、あと自分自身が人と話すとか、リラクゼーション法を取り入れるとか、そういったことによってPTSDは防ぐことはできます。
 心の傷を受けた人は、割とみずからケアを受けたがらない方も多いということとか、これは課題ですね。あとは、一時的には社会的関心が高まっても、時間の経過とともに忘れ去られていってしまったりとか、あとは個人も社会もトラウマを忘れたがったり回避したがるというところが課題と言われています。
 皆さん自身が支援者になった場合の心構えということです。
 実はまた私は週末から三重県へ研修で伺うのですが、三重県の県庁のご担当の方も、先日ひどい台風の被害がありましたよね、雨がすごく多くて土砂崩れとか。熊野市のほうで大変な被害を受けているということで、三重県庁とそのご担当の方が、今ちょうど、まさに今日もそうなのですが、5日から熊野市のほうに出向いて支援してくるとおっしゃっていました。いろんなお手伝いをしてくるということです。ですから我々、いつ、だれが被災者にもなるかもしれないし支援者になるかもしれないわけなので、心構えは今のうちに学んでおくとよろしいわけです。
 まず、被災者にさらなる害を与えないということです。変な質問をしてしまったりとか、そういったことで追い詰めたり、また、被災者の心理を理解するということです。理解するためには、聞くということです。いろいろ質問するのではなくて、向こうが話したいことを聞くということが大切になります。「傾聴」と言いますが、人の話を心から聴く、耳を傾ける、傾けると書いて、あとは「みみへん」に「十四」の「心」と書く「聴く」という字なのですが、こちらの聴くという聞き方です。傾聴。相手の心を理解するというのは、なかなか本人でないと難しいですよね。どんな場面でも。そういった違った、つまり我々一人一人、ここにお集まりの皆さんいろんな物事に対する受けとめ方とか考え方とか違って当り前ですよね。ですから、自分の考え方を相手に押しつけてもいけないわけです。勝手な憶測はいけないわけです。そういったことをせずに支援していくためには、傾聴という方法で聞いていただきたいというわけです。「みみへん」に十四の心の聴くということ。つまりは、五感をフルに使って相手の話を心から聴いていくという聞き方。これが傾聴法です。これは後ほどご説明しますが、こういった聞き方で相手の話を聞いていくと、おのずと被災者の心理を理解することができます。
 そして、被災者の心理に対する自分の反応も理解する。例えば被災者の話をいろいろ聞いていたら、何か自分が不安になってしまったという方もいらっしゃると思います。そういった場合に、そういう不安を何か、自分は支援者だからこんな不安を抱えていてはいけないのだなということで、取り除こう取り除こうと思ってはいけないのですね。そういった不安な気持ちとか、逆にこちらが何かすごく悲しくなってしまったり落ち込んでしまったりとか、そうした気持ちがあるのだったらば、それを受け入れて、「あ、今自分も何か話を聞いていてすごく不安になっているのだな」とか、「ちょっと落ちつかなくなっているのだな」という気持ちを受け入れていただければいいかと思います。そこがポイントになります。
 ですので、その次の図なのですが、自分は何ができるか、できないかということを考えると書いてありますが、人によって、やはり適材適所というのもありますが、そういった被災者からの例えば窓口担当者、被災者から直接いろいろな悩みとか不安とか怒りとかを聞いても、安定して聞ける人、こちらが精神的に安定して聞ける方と、そういう話を聞くと、何か動揺したりパニックになったりしてしまう方等いらっしゃると思うのです。ですので、自分自身が、ちょっとそういう話を聞いていると冷静になれなくなってしまうという方は、窓口担当者から外れていただいて後方支援をするとか、そういうことも知っておく必要があると思います。自分の傾向です。無理にそういう方を窓口担当にすると、逆に被災者の方に迷惑かけてしまったり不安にさせてしまったりすることがありますので、その辺はお互いに係の人同士で考えて、適材適所していったほうがいいよろしいかと思います。
 また、ほかの支援はどこで受けられるか情報収集するというのは、これはいろいろな機関がいろいろな方法で、例えばお金の問題はこちらとか、心の問題はこちらとか、家の改善についてはこちらとかありますので、あいまいな返事はしないで、わからないことはわからないできちっと調べてから伝えるとか、そういった必要があります。
 また、ご自身、皆さん自身がそういったことで、だれでもお話を聞いてればプラスな気持ちには最初はなれないと思いますので、ストレスはたまると思います。ため込まないように適度に休憩を入れたりリラックスしたりとか、オンとオフの切りかえですね。これは仕事をしている人もそうですけど、仕事しているときはオン、おうちに帰ったらオフで、もう仕事のことはなるべく考えないとかそういうコツ、オンとオフの切りかえができると上手にストレスためずにいられます。また、ひとりで抱え込まない、ここすごく大切ですね。初めから何回か申していますけど、だれかに相談するということです。支援者同士も。
 そして、周囲から見た病気のサインなのですけど、これは意外に本人、被災者の本人は先ほどの警告反応期、抵抗期とございましたが、時間がない場合があるわけです。当初、被災者の方々がインタビューされると、「頑張ります」みたいなそういった言葉を皆さんおっしゃっていました。ああいう方たちは「頑張らなければ」、「ここは何とかしなければ」という思いが強いので、とりあえず生きるということに夢中になりますので、ストレスに気づかなかったり、ストレスに気づいてもどうにもならなかったりいということもあるわけです。ですので、やはり周りの方が気づいてあげることも必要です。本人が気づかないこともあります。本人のイエローサインはこういう症状ですので、もしこういうような症状があった場合には何をすればいいかといえば傾聴です。声をかけていただければなと思います。
 こちらは具体的な被災者への対応ということで、言ってほしいこととしてほしいこと、逆に言ってほしくないこととしてほしくないことを図にまとめました。
 ここに書いてあるここは読んでいただければいいのですが、ピックアップしまして、「頑張れ」とは余り言わないでいただきたいと。で、本人が「頑張ります」と言っても、「頑張ってね」というのは言わないようにということです。つまり、先日も実際に被災地の方とお話ししたのですが、その方はやはり被災を受けてから友人が電話してきて、「頑張ってね」と言われたそうなのです。それがすごく嫌な思をいしたそうなのです。「自分はこんなに頑張っているのに、これ以上頑張るのか」、そんなふうに受けとめてしまったそうなのです。ですから、その友人に対しては、そのときに「そんなこと言わないでよ」と言うとけんかになるので言わなかったそうなのですが、とにかく嫌な気分になったそうなので、こういう「頑張れと」か「頑張ってね」ということはなしです。逆に、普段どおり接してほしいということでした。
 また、同情もしてほしくないということです。これお子さんに対してもです。「かわいそうにね」とか、「つらかったでしょう」とか、「大変だったでしょう」とか、そういったことをついつい言ってしまいそうなのですけども、特に「大変だったでしょう」とか、「つらかったでしょう」ということは。でも、そういったことも言わないほうがよろしいかと。人によってはなのですが、こう言われて、「何がわかるのよ」と、こういうふうに思ってしまう。先ほどお話しした回避症状の中で、記憶を自分の中に閉じ込めて、それによって整理されないで認知がゆがんだり、つまりマイナス思考になりやすいという話ししましたが、これは正常な反応として、だれでもああいう目に遭えばマイナス思考的になりやすいのです。なので、通常であれば「大変だったでしょう」とか言われると、「そうなのよ」とか、心配してくれているんだと通常だったら思えるところが、こういう目に遭っていますと、マイナスにとられてしまいがちなわけなのです。
 ですからここは、余計なそういうことは言わないで、「もし、何か困っていることがあったら何でも言ってね」とか、「いつでも力になるからね」と、いつでも支援しますよと言う気持ちを伝えて、あとは傾聴していただくのがよろしいかなと思います。
 あと、家族の方が亡くなられている人に対して、その方に対して、「あなたは生きていてよかったね」というもなしですね。皆さん大丈夫だと思いますが、やはり家族の方が亡くなられている方は、そういうふうに言われますと、自分だけが助かって自責の念で後悔とかそういった思いが強いので、そういったことも言わないように。
 例えば「傾聴ボランティア」とかといって、被災者のところに行って話を聞く方もいらっしゃいますが、そういうときに、「どんな思いをしたのですか」とか、つらかった思いの話をお互いにするといいというのがあるものですから、余り知識がないと、「具体的にどういう目に遭ったのですか」なんて聞いてしまう方がいらっしゃるのですけれど、それはだめです。まず普通の話をしていて、それで向こうがこちらを信頼してきて、つらかった話をしてみようかなと思ったら聞いてあげるというぐらいにしたほうがよろしいですね。無理に何もつらい思いを話させたほうがいいのだとか、そういうことはしないでいただきたいと思います。
 そして、特に支援を必要とする人々。遺族とか、行方不明者の家族ですね。とても不安になっていますので。またお子さんです。そして高齢者です。やはり中越地震、新潟の中越地震の経験からも、高齢者になるほど心身の不調が多いというデータがあります。ですから高齢者注意が必要です。特に認知症の方とか、ここは課題なのですけど、認知症の方が被災の避難場所で余計に落ちつかなくなってしまって、うろうろしてしまったりとか騒いでしまったりとかいうこともあったそうなのです。不安が大きくなってしまいますから。ですので、そういう方々に対してどうしていくかということも今後の課題です。
 日ごろから相談できる人がいることはもちろんなのですが、震災とかになってしまいますと、日ごろそんなことができる方がどこにいるかわからないとかいうこともありますので、そういう意味では先ほどお話しした心のサポートチームとかそういった方に臨時で相談していただいてもいいのかなとは思います。もちろんその方たちが気づけば声をかけてくれますけど。
 あと、障害のある方。発達障害ですね。発達障害の場合は環境の変化に非常に弱いわけです。いわゆる環境の変化に敏感といいますか。で、そういったときに適応がなかなかしづらいので、今回も震災によって、あのお子さんは発達障害じゃないかと気づかれたというケースも割とあるそうです。そういう方に対してのかかわり方とか、環境の変化に対してどのように安心させるかとか、そういったところもこれからの課題だというふうに専門家の方々がおっしゃっています。
 あと外国人の方です。外国人の方でやはり言葉が通じないとかいろいろありますし、地震を経験したことがない方とかもいらっしゃいますので、日本人よりも非常に不安に思ってしまいます。こちらに対しては国際交流協会というところが、日本語以外の支援の仕方とか会話、クエスチョン、こういうふうに質問されたときはこういうふうに答えようとか、そんなようなマニュアルなども出していますので、ご興味のある方はそちらの国際交流協会のホームページなどもごらんになっていただくと、外国人に対する支援は勉強になると思います。
 そして、今、遺族の方というお話でしたが、これは何も震災を受けた方だけではなくて、家族や友人、恋人などを亡くされた方へのケア、「グリーフケア」とも言いますが、その話を少ししておきたいと思います。
 こういった段階で急性期、中期、回復期というふうに経過していきます。急性期のときはショックで頭が真っ白で、もう激しく深い悲しみですね。通常、一、二週間と言われているのですが、あの段階では「しっかりしなさい」とか「頑張って」とか、そういった言葉だけは有害です。泣いている人に対してはどんどん泣かせるのが必要であって、「こんなことで泣くのはやめなさい」とかというのは言ってはいけないというわけです。
 また中期です。これは数週間から1年。個人差はあるのですけど。このときは、今よりずっと亡くなった方に対して心がとらわれてしまう段階ですので、何か急にはしゃいだりとか、ずーっとだんだんやる気がしなかったりとか、人によって症状はさまざまです。こういう状況にも、早く元気になれとか、あなたの人生はこれからだとか、そういったことは言わない、せかさないということですね。これもやはり傾聴です。
 そして回復期は、人生はこれから自分の人生があるのだということで、新しい目標をつくって、新しい友だちとかつくって、精神的にも安定して、お亡くなりになった方についてのお話なども落ちついてできるようになってくる時期ですが、一貫して間違いがないのは、傾聴で相手の心に寄り添って話を聞いていくという対応が間違いありません。余計なこちらの憶測で言葉がけ、励まそうと思ったり、ねぎらおうと思ったりして言葉がけするよりも、傾聴して、相手の気持ちに寄り添うことが必要です。ですので、共感と傾聴が大切、回復をあせらないことと書いてあるけど、まさにそういったことです。
 では、ここから子どもについてのお話なのですが、被災による子どもの反応ということで、今回も宮古のほうでは津波が10メートルぐらい来まして、そこでは本当に大変だったことなのですが、50人ほどのお子さんが両親を亡くされてしまったということです。本当に痛ましいのですが。両親を亡くされた子どもはもちろんのことですが、両親が顕在な方も、子どもたちはこういう症状が出ます。
 幼児や低学年の児童、高学年の児童、中学生と分けております。幼児や低学年の児童は、特に自分の中の不安とか心の揺れが身体の症状として出ることが多いです。地震に対しては、災害に対しては、怖いものとか迫ってきたものというふうにとらえているお子さんが多いそうです。地震とか津波とかではなくて。ですから、身体の症状として出ることが多いので、夜泣きとか子ども返りとか指しゃぶりとかおもらしとか、そのような症状に出ます。
 また、高学年児童になりますと反抗的になったり集中力が低下したりとか、何か急に我がままになってしまったりとかいうこともあります。中学生ぐらいになりますと、心の揺れのほうが大きくなってきます。ですので、やはり反抗的になったり、集中力が低下したりとか、喜怒哀楽が少なくなってしまったりとか、そういったことに出てきます。あとは常に落ち込んだり、異常に元気そうになってしまったりということもあります。
 実際に半年たった今ぐらいから症状が出てくるお子さんがいらっしゃるみたいで、先日相談にいらした方も、半年たってから急にお子さんが夜中に泣きじゃくるようになっちゃったりとか、うなされたりとか、そういうような症状が出たそうです。
 それは何かといいますと、お子さんは割と大人の反応を見ていますので、身近なご家族の方が不安だとかいろいろ、親御さんがすごい不安でいっぱい状態になっているときというのは、その子によりますが、今お話しした子の場合ですと、恐らく自分は我慢して出さなかったわけですね。で、ようやく親御さんがちょっと少し落ちついてきたところで、ようやく自分の症状を出せるようになったということがあります。お子さんは我慢している場合が多いので、一見、表情では笑顔でにこにこしていて「子どもの笑顔に励まされました」なんて被災地のいろいろなテレビとかでも映像が映っていましたが、ああいうふうに笑顔になっているお子さんも、実は裏の面ではかなり傷ついていたり落ち込んでいたりということもあります。ダメージは必ず全員が受けていると思ったほうがよろしいので、笑顔に惑わされてはだめといいますか、大丈夫というふうに思ってはだめです。悲しみまで顔に出るかどうかということは限らないわけです。
 というようなところから考えまして、お子さんへのかかわり方なのですが、まずはなるべく一緒にいる時間をできるだけ持つように。子ども返りしてもしっかりしなさいとか言うのではなくて、ちゃんと添い寝をするとか、そういうことです。不安がっていれば抱きしめてあげて、スキンシップが大切です。やはり体に触れる、背中をなでるとか頭をなでるとか抱きしめるとか、そういったスキンシップしますと、セロトニンというものが活性化されます。セロトニンはいろんな神経伝達物質なのですけど、うつ病の患者さんはセロトニンがすごく少なくなってしまっていますので、悲しい状況になるとずっと悲しいわけです。セロトニンが通常の量あると、悲しいことがあってもまた浮上できるのです。うつ病の患者さんはセロトニンを少なくさせないような薬を飲みます。ですので、セロトニンを活発にするためにスキンシップは効果的と言われていますので、ぜひしていただきたいですし、また、これは私の知り合いがそうだったのですが、地震のときに母親が「わあ、怖い」と騒いでしまいました。 そうしましたら子どもが眠れなくなってしまったということがありました。お母さんも人間ですから、騒いでしまう可能性もあるわけですけど、お子さんがいるときには強い母親になっていただいて、大声では怖がらないということが大切です。逆に、「大丈夫よ」と言っていただきたいわけです。
 また、話を聞き会話を持つ。気を遣うお子さんもいますので、無理をしないようにと気を遣う。食事や睡眠のリズム、これは基本的に規則的にとるように。なかなか避難場所だと難しかったと思いますけども、そうはいっても、なるべく夜は早い時間に寝かせるとか、そういった必要があります。寝なくてもとりあえず横にしてください。
 また、今回、被災地ではないお子さんたちも、連日のように恐ろしい映像が流れていましたので、それによって心に傷を負ってしまったお子さんたちも結構多いと言われていて、報道に対して今後課題だというふうに言われているのですが、やはり、そういった映像はなるべく見せないようにするということです。悪夢になってしまうわけです。実際、自分が地震に遭ったような気持ちになってしまうわけです。大人もそうでしたよね。やはり、毎回連日流れてきますと何か怖かったですし、私もしばらくは、ちょっとでも揺れると、何か急に怖くなってしまったりということありました。まさにあれは過覚醒だと思うのですが、そういったことが子どもですと余計にあるわけです。
 また、楽しい音楽を聞かせたりDVDなどを見せたりとか、あとは遊びですね。いろいろ好きな遊びをさせてあげるということも大切です。無理に遊ばせる必要もないのですが。本人がやりたいことをすると。あと、地震遊びとか波ごっことかする子がいるという話なのですが、そういったときに、「やめなさい」とは言わないようにと言われています。そういったときもさせておくということです。それによって心の傷を修復させているという効果があるのです。あと、さっきも言いましたけど、共感はいいですけどお子さんに対して同情はしないということです。そういう気持ちは伝わってしまいます。子どもは敏感なので。
 皆さんがもし現場に行って子どもの話を聞くとしたら、先ほどの大人と同じですが、普通の話をしていただいて、「あのとき怖かったでしょう」とか、思い出させるような話ではなく、あなたの好きなものは何なのとか、好きな食べ物は何なのとか、趣味は何なのとか、そういう話が、つまりは「あなたに関心がありますよ」というような、そういう日常的な話から声をかけていただいて、そうすると、だんだん相手の子どもは、あ、私とか僕に興味があるのだなということで、いろいろ話してきます。そうするとだんだん信頼関係ができるわけです。信頼関係ができてくると、お子さんによってはつらかった思いとか、そういった話とかもすると思いますので、無理に聞き出さないで、普段どおりの話をしていればいいというふうに言われています。
 あと、ここに書いてないのですけど、小さなことでも褒めるということです。特にこういった怖い思いをした後には、お手伝いしてくれれば「ありがとうね」とか、何かしてくれれば、「すごいね」みたいな具体的にいいところを褒めたり。そういう心地よくなるような言葉をかけていただきたいなと思います。
 次に、こちらでかかわりの最後ですけど、実際に支援者の方々で、消防隊とか警察の方とか看護師さんとかお医者さんとかいろんな方がらっしゃいますが、こういった方々は、非常にストレスをためやすい状況で、既に皆さん燃えつき症候群になってしまったりする可能性もありますので、こういった方々に出やすい症状も書いてありますが、何が大切かといいますと、やはり休憩時間をしっかりとるということと、シフト制などを組んでいただいて、交代でちゃんと休みはとらないと、人間ですから病気になってしまいます。
 また、もともと責任感の強い方々なので、できなかったことに注目して、自分は力不足だとか責めてしまう傾向があるのです。そういった方々は、できたこと、小さいことでもいいからできたことに目を向けるということが大切です。お互いにです。また、例えばこういった方々でも人間ですから怖かったり、悲しかったり、つらかったりとかあるわけです。そういった気持ちはお互いに我慢しないで、ミーティングのときとかを使って仲間に伝え合うことが必要と言われています。大人だからそんな弱みを言ってしまったらいけないとか思いがちなのですけど、ぜひ弱みは言い合っていただきたいというわけです。また、上手に自分自身のストレスを発散し、休憩をするということです。
 そして、実際にこういった今回の心のケアサポートチームというのがありましたが、そういうところは精神保健福祉センターというのが全国にありますので、いざというときには、恐らくこの名古屋でも精神保健福祉センターがそういうサポートチームなどをつくって心のケアを中心にしていくと思います。
 また、ボランティアをしたい場合には、社会福祉協議会というところに連絡してください。社会福祉協議会のホームページを見ていただくと、現在もいろいろなボランティアを募集しています。
 ここからあと後半30分ぐらいはストレス解消法についてのお話などをします。
 まず考え方の切りかえというのは、どうしてもマイナス思考になりやすいので、そういうときにはなるべくよい点を見つけるとか、できたことを見つけるとか、そういったことが必要になります。また、ひとりで悩んでいるとどんどん悪い方向にいきますので、ぜひ、第三者に話して、違った考え方を入れる。同じ出来事でも人によって違いますので、違った考え方を自分の中に取り入れて、あ、そうか、そういう考え方もできるのかということでプラスにしていただきたいと思います。
 また、今日はお時間がないのでお話しできないのですけど、認知療法というものも今はありますが、そんなのも考え方の切りかえでは有効ということで、最近はよくNHKなどでも取り上げられて、本屋さんに行くと認知療法という、セルフケアでできる認知療法の本なども出ています。有名なのは大野先生というお医者さんが書いた認知療法の本などはわかりやすくて有名と言われていますので、もし考え方がマイナス思考でいろいろ悩みやすい方がいらしたら、そういう本を読むのもいいかなと思います。
 では呼吸法について行います。呼吸法はホルモンのバランスとかあと自律神経、抵抗期のときに闘ってくれる、そういったものを整える方法です。座禅で黙とうと同じですね。簡単です。鼻から息を吸って、息を吸ったときにおなかが膨らむ、口から息を長くゆっくり、ふうーっと吐き切って、吐き切ったときにおなかがへこむ、腹式呼吸を繰り返すというそれだけのものです。寝てはいけないのです。半分寝そうな感じですね。ぼーっとするところが漂います。時間的には、別に被災を受けた方じゃなくても通常我々、毎日本当は行うといいのですけど1日3回ぐらいです。朝昼晩とか行っていただけると本当はいいですね。そこまでできなかったならば、緊張しているときとか不安が多いときとかに行っていただけるといいし、あとは不眠症の方ですね。眠れない方は寝る前にお布団の上でしていただくと眠れます。
 では、方法をご説明しますが、まず、呼吸法は消去運動というのをします。というのは、呼吸法をした頭が働くとぼーっとした状態ですから切りかえる運動をします。一緒にちょっと消去運動を練習します。両手を前に出してください。グーパーを5回します。1、2、3、4、5。次、腕引きを5回動かします。1、2、3、4、5。そして背伸びをします。背広とかきつかったら脱いでいただいて、眼鏡とかもリラックスするのには邪魔なのでとっていただいて、なるべくネクタイとかも緩めていただいて、楽な感じになってください。今の消去運動は目をつぶったまま行います。で、私が目を開いてくださいと言ったら目を開きます。そこで2回します。昼間起きているときにするときは消去運動をして切りかえをしていただく。夜眠れないときに行うときは消去運動しないでそのまま寝ていただくということです。
 呼吸法はホルモンバランス、自律神経を整えるだけじゃなくて、先ほどちょっと登場したセロトニンですね。セロトニンを活性化する働きもありますので、うつ病予防にもいいと言われています。つまり、ストレス解消にいいと言われていますので、ぜひ、これは本当に取り入れるといいかなと思います。
 では、皆さんちょっと楽な姿勢で座ってください。ただし後ろによっかからないで、背もたれはこのくらいのところまでにしていただいて、膝の間に握りこぶしが1個入るぐらい開いていただいて、両手はおもむろに太股にぽんと置いてください。
 では皆さん、始める前に、筋肉が緊張してるとだめなので、肩凝ってる方は少しくるくる回したり首を回したり横に倒したりして、少し肩とか首とかの力を抜いてください。本当はストレッチをしてからすると効果的です。
 では、先ほどの姿勢になっていただいて目を閉じてください。深く呼吸を繰り返します。鼻から息を吸って、力をながーくゆっくり息を吐き切ります。息を吸ったときおなかが膨らみます。吐いたときおなかがへこみます。繰り返します。息を吸って、ゆっくりと長く吐き切ります。息を吐き切ると、吸わなくても自然に空気が入ってきます。そのまま呼吸の数を数えてください。ご自身のペースでいいので、深呼吸の数を1回、2回、3回、4回、呼吸の数を数えていったら頭がぼーっとしてきます。しばらくその状態を楽しんでください。気持ちがだんだん落ちついてきます。
 それでは目を閉じたまま消去運動をします。閉じたままグーパーを5回します。1、2、3、4、5。腕引き寄せを5回します。1、2、3、4、5。背伸びを2回します。まず1回目です。脱力。もう1回です。はい、脱力。そうしましたら、気持ちよく目を開いてください。ご自分のペースで。はい、おはようございます。今、皆さんの自律神経とホルモンバランスは回復しましたので。
 簡単にできますので、ぜひ。今のは3分間でした。3分間でももう少し長く感じたのではないでしょうか。そうなのです。私の知り合いの看護師は、勤務中ナースステーションではちょっとこれをしづらいので、トイレの座るほうに行ってそこで行っていると。やっぱり緊張する仕事ですので、そういうふうにも言っていました。ぜひ、ストレッチした後にこの呼吸法を行うと非常にいいかなと思います。
 被災者の方にもこういった呼吸法を教えていただけるといいかなと思いますし、不安や緊張が強い方はぜひこれを取り入れてください。
 では最後です。双方向のコミュニケーションと書いてあります。きょうはコミュニケーション研修ではないので、ポイントだけざっと話ししますが、先ほど傾聴という話が出てきました。そこを中心に話したいと思います。
 双方向のコミュニケーションというのは、私はメンタルヘルス研修やハラスメント研修で必ず最後のほうで語るところです。やはりこの辺が非常に大切になります。なぜかといえば、一方通行のコミュニケーションをしていると、お互いに誤解されたり気持ちが伝わらなかったり、そうしたことで仕事もうまくいかなかったり、人間関係がストレスになったりするわけです。
 自己表現と他者理解とありますが、自分のことを伝えるときや表現するときは、できるだけ正確に伝える努力が必要です。ここはいつも怠りがちです。何度も申していますけど、我々みんな受けとめ方、考え方が違いますので、自分自身がわかっていると思っても相手はわかってなかったりとか、このぐらいの説明でよいだろうと思っていても、相手はもっと説明してくれないと理解できなかったりということがあるわけです。ですので、仮にもし被災地とかで何かを伝えるときとか説明するときとかも、こういった相手にわかりやすく説明する努力が必要になるわけです。
 また、他者理解です。これは傾聴です。相手と自分は違うので、相手の心というのは思い込みで想像してはいけませんので、できるだけ相手の立場に沿って理解する努力が必要というわけです。お互いそれぞれ違った人間同士ですから、そういった努力が相互に必要なわけです。
 聞くというポイントということで傾聴のポイントをお話しします。ご自身は芸能レポーターではありませんので、ご自身が聞きたいことではなくて、相手が話したいことをゆっくり丁寧に聞いていくということです。特に被災者の方などに対しては穏やかにゆっくりと丁寧に、日ごろの話すスピードよりもちょっとゆっくりめで、落ちついたような声とトーンで聞いていただけるといいと思います。
 また、肯定的に話を聞くというのは何かといいますと、自分のイメージや、自分の考えと違ったことを言われるとすぐに否定してしまう人がいます。「でも」とか「しかし」とか。「でも」、「しかし」は使わないようにと書いてありますけど、あちらは促しの接続詞ではなくて否定的な接続詞と言われています。
 ですので、まず自分の意見と違っても、自分の意見はとりあえず脇に置いといてください。前に出さないようにしてください。自分の意見は脇に置いといて、とりあえずは、あ、なるほど、この人はこういうふうに思っているのだなとか、この人はこういう考えなのだなということで、相手の立場になって話を聞くということが必要です。意見を聞く。
 きちっと相手の話を聞いて聞いて聞いて、聞き終わりましたらいよいよ自分の意見を最後に出すわけです。「私はこんなふうに考えるのですが、どう思いますか」とか、「私はもしあなたの立場だったらこんなふうに今回すると思いますけど、どうでしょうかね」とか、「皆さんはどう思いますか」とか、これ会議の場面でも使えますし、相談の場面でも使えますし、どんな場面でも使えるのですけども、私がというアイメッセージと、どう思われますかとかどう考えますかというフィードバックですね、ここが大切なのです。フィードバックとアイメッセージです。意見が違うことを言うときとか何かアドバイスするときには、こういったアイメッセージとフィードバックを必ずすると。そうすると、自己主張したときとか聞いているときとかでも、相手がもし誤解をしていれば、そこで相手が違う答えしてきますので、また説明し直すこともできますし、また、こういうふうに言われれば、反対意見だとしても相手も嫌な気持ちにはならないわけです。建設的な話し合いができるというわけです。
 また、アドバイスを急がないということです。だから、反対意見を言うときとかアドバイスをすぐ言う人いますけど、そういうのは後回しにするということです。アドバイスはできなくてもいいぐらいです。
 また、「でも」、「しかし」を使わないかわりに、促しの接続詞というのがあるのですけど、それは、「なるほど」とか、「そうか」とか、「それで」とか、「それから」とか、そういった促しの接続詞を聞くときには使っていただきたいなと思います。「なるほど」、「そうか」、「それで」とかですね。あと、うなずきとか相づちです。
 相手の立場に立って聞くことを共感と言います。共感を示す方法で一番いいのは、カウンセラーが必ず使う方法なのですが、気持ちを繰り返すということです。ですから、被災者の方の話とかを聞いていて、こういうこと、こういうことでつらかったのですとか、悲しかったのですとか、何かいても立ってもいられないですとか、そういうせりふ、気持ちの部分が出たら、その気持ちのせりふはあえてこちらも言葉にしてその方に伝えます。そうすると相手は、あ、この人は私の気持ちわかってくれるだろうと思うのですね。で心を開きます。ですので、「あ、○○さんはそういうことでつらい思いをしてきたのですね」とか、「そういうことで今ちょっと不安でいっぱいなのですね」とか、そんなふうにして返します。かえって相手が言葉で言わなくても、表情とか態度でもわかるときもあります。何かすごくつらそうにしていたら、「随分つらい思いしてきたのですね」とか、そういうときは言ってもいいわけです。
 ですから、心から聴くということは、自然にそういう相手の感情とかも察しられますし、伝えられますし、こっちも表情も同じようになると思います。
 時々、研修で褒め合いワークとかするのです。傾聴法の研修で、グループワークで褒め合ってくださいみたいな。そういうワークをすると、みんな大体すごいにこにこしながら話をして、お互いに話す方も聞く方もにこにこするのですね、自然に。つまりは楽しい話、うれしい話のときには自然に笑顔になります。逆に、つらい話を聞いていると人間は相手もだんだんつらい顔になります。それはつまり自然に皆さんが意識しないうちに共感しているわけです。
 それから、伝えるときのポイントです。人に何か説明するときのポイントですけど、自分がわかっているからこのぐらいでいいだろうという思い込みはやめていただいて、具体的に伝えるということです。
 また、相手のタイプに合わせる。これは部下指導のときとかもそうですが、人によっていろいろ仕事を覚えるスピードも違ったりとか、考え方が違います。ですので、相手のタイプに合わせる。時々自分と比較して、自分が例えば部下指導で言えば、自分が2年目のときにはあのぐらいできていたのに、この後輩はできてないからということで、自分と比較していらいらする人いますけど、そういった自分と比較というのはやめていただきたいなと思います。人によって違うわけです。
 また、感情的にならないというところは、この辺は感情的になって伝えると大体言いたいことは伝わりませんので、深呼吸していただいてから伝えるということです。冷静に何か紙に書いて、伝えたいことをまとめてから伝える。
 また、要点は1つに絞る。何か伝えるにしても、例えば叱るときにしても、あれやこれやという方がいらっしゃるのですけど、それも大体伝わりませんので、言いたいことは1つに的を絞って伝えるということです。
 あとは、具体的なところで専門用語とか使わないことです。特にお年寄りにかかわるときに、横文字とか、パソコンの難しい用語使ってしまったり、私も言われてわからないのですが、ITに詳しい方だとかだと言いますね。なかなかこっちも理解できなくても、わかりませんと言わないで、面倒くさいから、はいはいとかうなずいちゃうのですが、やはりそういう専門用語とか横文字は使わないようにするということです。
 そしてフィードバックする。これは先ほどのアイメッセージとフィードバックです。伝えるときもきちっとフィードバックして、相手の考えや意見を聞くようにするということです。理解しているかどうかを確認するということです。
 こういった努力が双方に会話をするときには必要です。ですので、被災地でお子さんにかかわるときとかお年寄りにかかわるときとか、ご家族が亡くなられている方にかかわるときとか、いろいろな相手のタイプといいますか状況が違うと思いますので、そういった状況やタイプに合わせて話、説明するにしても、聞くにしても、相手のタイプに合わせるということが非常に大切になってきます。
 そういうことで、本日は以上でこちらから一方的にお話しするだけになってしまって、とても申しわけなのですが、90分間のお話は終わりです。皆様ご清聴どうもありがとうございました。(拍手)

(補足説明)
○(柳原里枝子) 本当に皆さん、こういったことは事前にこうやって学んでおきますと、いざというときにも役立ちますし、先ほどの双方向のコミュニケーションはどんな場面でも役立ちますので、ちょっと頭の片隅にポイントだけでも置いといていただければなと思います。
 では、あと、実際に向こうの心のサポートチームの方に伺ったのですが、やはり、実際にサポートしていて一番大切であると思ったことが専門家同士の連携だったそうです。だから、やっぱり、日ごろの仕事からお互いに連携をとっておくということが、よりよいサービスもできるし、人間として、つながりなんて言葉も言われていますが、すごく重要だということを痛感したというふうにおっしゃっていますので、ぜひ、我々も仕事するときに変なしがらみとかではなく、お互いに連携して、お互いに違った人の意見も傾聴しながらつながって頑張っていければなと思います。どうもありがとうございました。(拍手)(敬称略)