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人権に関するデータベース

全国の地方公共団体をはじめ、国、国連関係機関等における人権関係の情報を調べることができます。

研修講義資料

東京会場 講義5 平成23年9月15日(木)

「人身取引被害者の最終目的地としてのニッポンの課題」

著者
藤原 志帆子
寄稿日(掲載日)
2012/03/28


 
 皆さんこんにちは。ポラリスプロジェクトの藤原です。本日はよろしくお願いいたします。私たち自身の活動が日本でやっと7年目を迎えたところなのですが、まだまだやるべきことが多くあります。ここにいらっしゃる多分多くの方が、人身取引という問題を日本の人権問題として考えたことがある方は少ないと思います。この問題は、タイやフィリピンなどで起こっていることなのだろうとか、昔でいう身売りとかそういう問題ではないだろうか。というような形でとらえてしまうことが一般的です。
 それを全国から研修に来られている皆様のお力をお借りして、私たちの身近にある、私たちの大切な人も巻き込まれてしまうかもしれない可能性がある重要な問題としてとらえて、啓発を広げていくことにご協力いただけたらと思います。そのためにも、私たちの組織はたくさんの被害者の声や情報を持っていますので、ぜひ使っていただけたらと思います。

  それでは、私たちの活動が人身取引にあっている被害者をどのような方法で助けているのかをご説明します。 日本の性風俗産業では、搾取するための人身取引がかなり横行しています。被害者の多くは、若い女性や外国人の女性になりますが、男の子の被害もあります。児童ポルノ被害ではかなり男の子の被害が上がってきています。 それでは、活動紹介を兼ね、私たちが出会った2人の女性、1人は少女ですけども──の話を映像とともに聞いてもらいたいと思います。
 それでは、DVDビデオをお願いします。

  〔ビデオ上映〕

  人身売買、人身取引という犯罪は、被害者の人たちが犯罪行為をさせられていることが多いです。売春であるとか、不法就労です。働いている会社などは普通の紡績企業であったり、農業、漁業だったりするかもしれませんが、働いている本人は不法就労者のこともあります。仕事をする資格がなかったり、日本にいる資格がなかったりすることが多いので、行政や警察などに行きにくいのです。とても孤立しやすいし、相談したいと思ってもポラリスのようなNGOに相談をしに来ることが限界です。相談の一歩を踏み出すことが困難です。
 「では、私たちと一緒に行政に助けてもらおう」と言って行政に繋がろうとしても自ら遠のいてしまう人もいます。
 被害者の方をどうにかして怖がらせないようにし、私たちを信頼してもらうことが大切になります。「あなたは犯罪の被害者です。被害者にはこういう支援が提供できますし、絶対に逮捕なんてあり得ません」と説明すること。そういうきちっとした被害者保護があることを理解してから、初めてその方たちは口を開いてくれるし、色々な情報を聞かせてくれます。被害者からは、加害者側の情報がもらえますので、被害者の保護という観点が非常に大事です。行政には、私たちのような民間団体が情報提供をすることが多いので、行政の皆様が私たちを大事なパートナーとして見てくださることがとても大切になると思います。

  私たちの活動は大きく分けて3つあります。その中で一番大切にしているのが、人身取引の情報提供専用の電話相談ホットラインです。こちらは被害者だけはではなく、弁護士や行政書士など、さまざまな方が電話をかけてこられます。「今、こういう人が弁護士事務所の窓口に来ているけれどどうすればいいでしょうか?」だとか、あるいは性風俗産業に通っているお客さんのから、「お店で働いている女性がひどい状況にあっているようだけれども、どうも抜け出せないようだ」とか、あるいは海外のNGOから、「本人の家族から相談があり日本の○○市に居るらしいけど、見つけられないか?」というような相談など、ほぼ毎日1件新しい相談が入ってきます。そういうNGOならではの相談を受けています。
 このような被害者の声であるとか、今、実際にどんなことが起きているのか。ということですが、人身取引の加害者側は1円でも多くこの産業で儲けようとしているので、日々、状況が変化します。海外から連れてくる国籍の女性も半年ごとに違ってきていますし、すごくトレンドがあります。そういった意味でも、行政などと情報共有をしていかなければいけませんので、警察や入国管理局、福祉関係者の方たちに、人身取引の現状はこうなっている。ということを知っていただき、意識を向上してもらいたいと思っております。 この問題は、被害者たちが本国に強制送還となったり、売春をしたとして逮捕されてしまうことがすごく多いので、現場に携わる人たちの意識を変えてもらいたいと思います。実際に行政の研修にも呼ばれてお話をしたりしています。

 人身取引問題については、社会的な啓発がまだ足りていません。ですので、この問題を日本に暮らす私たちのすぐ隣で起きているかもしれない人権問題として考えてもらうため、毎月、東京でセミナーを開催したり、毎年1回大きなシンポジウムや映画会を実施したりしています。また、企業と一緒にコラボレーションしてさまざまなイベントをやっています。これはほとんどがボランティアの社会人と学生が運営してくれているのですが、そういった活動もしています。
  お手元の資料をご覧ください。私たちの組織は、もともとはアメリカ人の2人の若者が、自分達の通っている大学のすぐ近くで人身売買の事件が発生したことを知ったことをきっかけに、立ち上げたものです。今では、ポラリスプロジェクトという団体はアメリカで一番大きい反人身売買のNGOになりまして、政府から委託され、24時間無料の多言語相談ができるホットラインを運営しています。スタッフが50人ぐらいの大きな団体ですが、色々なところから賞を頂いたり、運営資金を企業などから頂いたりしています。米国政府も助成はしていますが、半分は自分たちでお金を集めなければいけない。という形なので、さまざまなところに協力して頂きながら運営をしています。
 私自身も、このポラリスプロジェクトにかかわったのは大学を卒業してからです。この団体にすごく共感をしてボランティアから始めました。
  ちなみにポラリスという言葉の意味は何ですか?とよく聞かれるのですが、“北極星”という意味があります。いつも北の空で光っている北極星は、アメリカの人にとっては自由の象徴というふうに見ている人が多いらしいです。 今現在起きている人身取引をなくしていこうと、組織が立ち上がったのが9年前ですが、日本に組織を持ってきたのが7年前です。日本におけるこの問題が、もしかしたらアメリカ以上にひどいのではないかと私自身は思っております。
  どうして、人が人を取引するのかというと、やはりお金が絡んでくるからです。売春、労働、臓器売買など、方法は何でも構わないけれどとにかくお金儲けができればいい。闇産業などやってはいけない行為でも構わないから、がっぽり儲けたい。というようなことが根底にあると思います。

  画像をご覧下さい。これは日本ではあまり見かけないかもしれませんが、街頭で売春している写真です。ミニスカートを履いた女性がいます。ここに停まっている車は、この場所で女性を買うことができることがわかっているので、ゆっくり回ってこの通りを進んでいるわけです。このように、さまざまな国で行われている直接目に見える売春というのも、人身売買の被害者が強制的にさせられているのかもしれません。ポラリスでは、このように街頭で売春をしているという状況というのは、人身取引産業の中でもかなり搾取されやすい女性が集まっていると考えています。
  この女性たちには、15分おきに彼女がちゃんと通りに立っているかどうかを監視してる人たちがついています。彼女がちゃんと働いているのか自転車で見回っているような光景は、日本の繁華街でも見られます。誰かに管理されて売春をしているかもしれません。全部が全部ではありませんが、皆さんが思っているよりもはるかに高い確率で人身売買というのは売春産業で起きています。
  それから、搾取としては子どもも多いです。多分、南アジアのほう、インドやスリランカだと思いますが、子どもの児童労働です。じゅうたん作りなどは、子どものほうが、手先が器用であるなどのさまざまな理由から、子どもたちがかなりの労働力として使われているのを皆さんさまざまなメディアでご存じかと思います。子どもがいかに同意していたとしても、国際法上はこのような労働力に、特に危険な労働にさせるということは人身取引の一形態としてとらえています。
  これはまた別の外国の写真ですが、かなり有名なアメリカのジーンズメーカーの工場です。こちらでつくられている一流ジーンズは、10代の子どもたちの手でつくられています。このような状況が世界中にあります。例えば、ダイヤモンドであるとか、ポットであるとかコーヒーやチョコレートであるとか、私たちが毎日使うさまざまな物が、実は人身売買された子どもたちの労働でつくられているかもしれません。ということを私たち消費者は考えなければいけません。私たちが需要を生み出しているのです。その需要に応えようとして、加害者が人身売買に動いているということを考えたら、私たち日本人消費者も責任を果たしていかなければいけないのではないかと考えます。

  次に日本の事例を紹介します。これは私たちの活動する都内の写真です。夜の繁華街ですね。最近は以前のようにネオンがチカチカしていませんけれども、かなり大きな産業です。
  先ほどお見せしたような売春行為は目に見えるものですが、最近はデリバリーヘルスだとか、そういうふうなところで被害者が発見されています。こういったものも人身売買の一つです。
 実は人身取引という問題は、地域差がほとんどありません。別に歌舞伎町だから起きているというわけではないのです。北海道でも人身取引がありますし、業種では農業や紡績業などもあります。今日もここへ来る前に、四国の本当に小さな町で起きている事件の伝電話相談を受けていました。
 ですので、人身取引は売春産業だけではありません。この写真のようにきれいな田んぼのあるような風景の傍らで操業している紡績企業では、研修生制度と呼ばれる制度を利用して、アジアのさまざまな国から若い男女が来て働いています。ここでは労働者として認められていないような状況がずっと続いていました。時給が200円、300円という低賃金であったため、人身取引である、と企業側が2010年に国連に名指しで通報され、勧告を受けてしまった。というようなことがありましたがこれが現状です、制度自体は少しずつよくなってきていますが、未だにかなりの産業でこのような労働力を使わないとやっていけないこともあり、研修生制度など、今ある日本の公的制度が悪用されてしまっている状況でもあります。
  人身取引というのは、労働させたり売春をさせたりすることと、日本ではあまり聞きませんが臓器売買が目的で人を利用して搾取したりする。ということが人身売買、人身取引であると国際法上はとらえられています。
 労働目的であったり、臓器売買目的であったり、売春や性的搾取目的で人は取引されます。特に性的搾取目的の人身売買というのは一番儲かるのですよね。例えば、1人当たり1時間半買春させたお金と、1時間ほど労働させたお金を比べると、やはり性を売るほうがかなりのリターンがあります。というわけで、性的搾取の割合というのは本当にすさまじいですし、他諸外国だったら若い子どもたちが売られてしまうこともあります。日本ではそこまでいかなくても、かなりの数の女性や子どもたちが国籍は関係なく、自分の意思ではないところで働かされていますが、男性もいます。男児、男性の被害者も今までにちゃんと数人、警察で確認されていますので、誰でも被害になり得る犯罪だと思っています。

 それでは、簡単に人身取引の成り立ちというか、どのようにお金を儲けているのか。という説明をします。個人が一人で人を一人支配しようと思ったらなかなかできるものではないので、何人かがお金儲けをしようという形であることがほとんどです。簡単に言いますとお金の流れとしては、被害者をリクルートする人間がいます。「日本でいい仕事あるよ。」であるとか、新宿に家出してきたような子たちに対して、「水商売だけど、あなたはまだ17歳かもしれないけど、寮もあるしいい仕事だからうち来て働きなよ」と誘ったりします。そして、性風俗産業などと契約をして働かされてしまう。というようなことも多々あるわけです。特に夏休み中は本当に増えます。
 このように、リクルートをする人間がいて、最終的に被害者を搾取するお店や工場などに連れていく。そして、その働く場所のオーナー側から金品を得る。という流れで、被害者1人につき、さまざまな人間がかかわっていることがあります。
 特に海外の女性、男性たちが日本に連れてこられる場合、フィリピンだとかタイの場合は、まず日本に住んでいる在日の本国出身の方たちが、ちょっとしたお金儲けのお小遣い稼ぎのために、加害者側から依頼されて「今度日本に帰国する時に一緒に2、3人女性を連れてくるから、空港からちゃんと連れてきてくれないか。」という形で、日本に来てから空港から逃げ出さないように見守る役を、5万、10万円を貰って引き受ける。というようなことをしたりします。また、空港からそれぞれのスナックだったりパブに送り届けるような役割をする運転手をアルバイトでやったりもします。さまざまな人間がお金を貰ってかかわっています。後はパスポート偽造する専門の業者もいるので、そういったところも人身売買の加害者側になります。このように被害者には、渡航費、紹介料、仲介料などかなりのお金が加算されていきますが、加害者側はその分を働かせて搾取していきます。
 先ほどのビデオでも紹介しましたが、銃器、鉄砲の取引や、薬物の取引というのは、いわゆる闇産業ですが、その中で人身取引、ヒューマントラフィッキングと英語でいいますが、トラフィッキングという犯罪自体が世界第2の犯罪産業として急速に成長してしまっているということは国連の報告でもなされています。
  被害者の8割は女性で子どもはその半分。18歳以下の子どもたちが被害者の半分というふうにいわれています。そして被害者の数は、1,200万人とも2,700万人というふうにいわれています。
  ILOの統計では、搾取的な状況にある強制労働をさせられている人々の数が2億人いると報告しています。
 日本に対しては国際的な批判といいますか、さまざまな助言などがこれまでにありました。その流れを見てみますと、まず初めは、児童ポルノ・児童買春法ができる前の話です。日本人が子どもたちを買春しに海外に行っている。子どもを買うのは先進国の我々ですが、その子どもたちを供給するためにタイやフィリピン国内で人身売買が行われている。

 日本では絶対できない8歳、9歳の子どもとセックスをするようなことが需要としてあるのがおかしいのではないか。と、日本はスウェーデンで開催際された国際会議において名指しで批判されたこともありました。
  2001年には、日本で、子どもたちの性的搾取、特に商業的な性的搾取をなくすことを目的とした政府主導の会議が開催されました。そういう流れもあって、児童ポルノ・児童買春禁止法が2001年にできました。
  また、同じ年にヒューマンライツウォッチという国際的に有名な団体が、「被害者が日本に送られてきている。」という情報をもとに、タイの女性を100人ぐらいインタビューしましたが、日本に来て売春をさせられて、多くの人がHIVになってエイズになって死んでしまった。そういう報告書が出されました。
  1990年代は、日本の人身取引、特にそのころはタイやフィリピンが多かったのですが、すごく問題になっていた時期がありました。
 タイ出身の被害者女性が、絶望の中、直属で搾取をしていた性風俗店のオーナーを殺すという事件が何と4件ぐらい日本中で起こったのも90年代でした。その後、ILOから日本の人身取引に関する大きな報告が出たこともあり、人身売買廃絶運動をリードしてきたアメリカは、日本を監視対象国としました。その後も日本は被害者の保護、加害者の訴追、予防に関しても最低限の対処もしていない国として、アメリカ国務省のレポートでは毎年、第2ランクとなっています。ほとんどの先進国は第1ランクなのです。今は韓国も台湾も第1ランクです。でも、日本だけはずっと第2ランクで、2004年にはずっと下の監視対象国まで落ちてしまいました。
 2010年には、国連が日本の人身売買の状況や研修生制度の強制労働の部分について、政府や被害者をお世話する女性センターの方やNGOから聞き取りをし、特別報告書をまとめました。
  こういった形で、かなり世界的には日本の状況が報道や報告されているにも関わらず、日本国内で実際どうなっているのか。という話が国内でなかなか出てこない状況があります。
 実際に日本でどのくらい人身取引が行われているかといいますと、これは政府の統計ですが、本当に氷山の一角だと思っていただいて結構です。実際に警察の方もそう言っています。人身取引の件数はこの10年間で500件にも至っていないです。これは実際に認定されたものです。認定されたということは、被害者が警察か入管のどちらかに行って認められたものです。今まで私たちの団体は、相談を5年間やって100人以上助けておりますが、その中のほぼ一、二割しか認定者に入っていません。なぜかいいますと、先程説明したように、被害者の方々は被害者として認定されたくない。早く国に帰りたい。という人がすごく多いのです。彼女たちの安全が確認された後に法執行機関であったり、警察に情報提供をするのでは状況としてはもう遅いのですよね。ですので、被害者のための支援体制ができていないからこそ被害者が警察に協力をしないという状況が続いているのが残念ですが、この認定件数に入らないで、埋もれてしまった人たちがたくさんいるということです。国籍としては、タイ、フィリピン、インドネシア、コロンビア。コロンビアは女性たちが特に美しいということで有名らしいです。コーヒーやドラッグのマイクロ取引もすごく有名なところですが、日本の暴力団とコロンビアのマフィアが結びついて、麻薬を取引するより、女性を取引したほうがよっぽど儲かるということに気づいたらしく、1990年代からら数千人以上が取引されています。皆さんもしかしたらご存じかもしれませんが、ある1人のブローカーが捕まったときは、400人以上のコロンビア人女性を日本で取引して、ものすごく劣悪な環境で働かせていました。ストリップクラブであるとか、1時間に数人のお客さんを取らなければいけない、そういうような売春をさせられていました。これはブローカー1人によって搾取された事件ですが、彼は売り物の女の子が逃げ出さないように、1人1人の裸を全部撮影し、逃げ出した場合はその写真をコロンビアで全部ばらまいて、逃げても見つけ出してまたすぐに違うところに売り飛ばすということをしていました。
 その男が捕まったときの刑罰は、日本で1年と2か月しか実刑を受けませんでした。400人の女性たちを取引したにもかかわらず、軽い実刑で済むということです。このような状況が続いていました。
 そんな状況から今は少し法律も変わりました。合法であった興業ビザ、エンターテイナービザって、皆さん聞いたことはあまりないと思いますが、例えば韓流スターの人たちが日本に来るときに、ダンサーやシンガーなど、いわゆる芸能人の方たちが来るときに使うことが多いものです。このビザをこれをしばらくの間、業界団体が悪用していたのです。もちろん入管も黙認していたのですけども。このビザを使って来るのがなぜかフィリピン人の10代、20代の女性で、この人たちが芸能人として来日するのです。小さなステージのあるフィリピンパブに派遣され、ちょっとしたダンスやショーがあるのかもしれないけれども、この人たちが芸能人ビザを使って入国していました。このビザは6か月ごとなど、更新しなければいけないものです。芸能人ビザを使う人が全部ではありませんが、この中の一部の人たちが私たちのところに命からがら逃げ出してくるなど、相談がかなりありました。2003年~4年のことです。一番多いときで一年間に8万人の若い女性が来日しましたが、これについても国際的にものすごい批判があり、今はかなり減ってきています。それでもまだ1年に5,000人ぐらいフィリピンの若い女性がこのビザを使って来日しています。なかなかこの制度自体にメスを入れるのは難しいようです。

 今日、会場に来る前に私が相談を受けていた案件ですが、警察の方に「四国の○○市で、ある女性が性産業のオーナーにわけのわからない契約を無理やりさせられて、女性をホテルやお客の自宅に届けて買春をさせるデリバリーヘルスという、サービスを強制的にさせられているようなのです」と話をしたところ、警察の方は「何で逃げ出さないのかねえ」と言うのです。
  そもそも被害者の取り巻く状況というのは、DV被害に遭っている被害者の状況に似ているので、被害者は非常な恐怖心を持っています。「おまえはこういう存在だから、こういうことしかできないんだ。ここにいるだけありがたいと思え。」と言われて売春させられたりするのです。

  あとは、本来なら、もっと大金を稼げることができるウエイトレスとして働かせて貰えると言われて来たにもかかわらず、手取り4、5万しか貰えないような、携帯電話の部品工場で働かされている。というようなこともあります。自分が馬鹿な決断をしてしまった結果こうなってしまったため、後悔して自分自身を恥ずかしい。と思い卑下することによりなかなか現状から逃げ出そうと思わない人が多いわけです。何度も何度も説得して、「大丈夫だよ」だとか、「確かにちょっとあまりいい決断じゃなかったかもしれないけども、今、置かれている状況は絶対に犯罪被害なんですよ」ということを説明して納得してもらえないと、逃げ出したいとなかなか思わないのですね。
 先ほどのビデオにありましたように、女の子の中にも、本当に酷い目にあったり、どうしても我慢ができない状況になってからやっと逃げ出してくるということが多いのです。
 しかしながら被害者を保護するための情報自体が被害者自身にあまりにも届いていません。「どういうことだと保護されるのか。」だとか、「私たちは誰が守ってくれるのか。」であるとか、そういった情報が欠落しているので怖くて逃げ出せないし、逃げ出さない。ということが続いています。資料に書いてあるような外的要因です。束縛されている、監禁されているなどです。
 最近は貯金の強要というのもあります。「契約が終わったら全部お金を払うよ。」であるとか、加害者が「お金をなくしちゃいけないから、一緒に住んでいる女の子たちに取られちゃいけないから、こちらで貯金しておいてあげるよ。」と言いくるめたりします。中には、貯金通帳をオーナーが預かって、毎月2、3万円貯金してくれるような、とても親切なオーナーもいるのですが、それはごく一部です。このようなことで逃げ出せなくなる人たちもいました。
 外的要因ももちろんたくさんありますが、私たちがすごく気をつかうのは内的な要因です。被害者自身が搾取や身体的暴力、言葉の暴力を受けた結果、「私なんか…。僕なんか…。」と自分自身を卑下することがすごく多いのです。その辺の気持ちを取り除くことが、私たちカウンセラーの力の見せどころなのですが、なかなか難しいです。被害者の保護制度自体がしっかりしてくれることを願って、今、政府との交渉をしています。

  人身取引、人身売買の被害や実際に犯罪自体に関しては、さまざまな誤解があるので、なかなか国民一人一人に広まっていきません。例えば、「人身取引の被害者は今の状況を抜け出して助けられたいと思っているのなら、何ですぐ電話してこないんだ?」というふうに思うと思います。先程の繰り返しになりますが、被害者自身は自分を犯罪の被害者だと認識していないのです。ときには、「私は人身売買の被害者だ」と言って来る人もたまにいます。でもその人は搾取的な状況から抜け出して2、3年経っている方がほとんどです。今現在の生活が、「何かおかしい。本当に苦しい、どうしてこんなめにあっているのかわからない」。だけれども、自分が被害にあっているということを認識してないのです。自分のせいでこうなってしまった。とか、まさか自分が置かれている状況が犯罪被害なのだということを理解している人はなかなかいません。
  あとは、そもそも被害に遭う人は、途上国のへき地の出身であったり、児童養護施設などで育った子どもたちなど、あまり社会的に恵まれてない人が多いのです。
 その他には、私たちの相談の中では比較的裕福な日本人の子どもの話ですが、両親ともに歯医者というとても裕福な家に生れたものの、愛情が足りない。あなたは大切な存在なんだよ。ということを言われないで、スパルタ教育を受けて育ったお子さんが家出してしまって、大都会で大人に騙されて売春をさせられてしまう。というようなこともあります。
 また、フィリピンで法律事務所の秘書をしていたという方もいました。社会的に裕福な人たちも、フィリピン国内で法律事務所の秘書をして月給数万円を儲けるよりも、日本で皿洗いをしても、それで15万円貰えるなら日本に来るよ。というわけです。そこで騙されてしまうというような状況もあります。
  あと、「本人が自分の仕事内容や待遇をあらかじめ知っていれば被害者ではないのではないか?」というようなことを、警察の方もおしゃるのですが、確かに自分自身が売春や労働に合意していることもあります。元々、売春などを自分たちの母国でやっていた人もいます。しかし、日本に来てからの待遇は合意した内容とほとんど違っていることが多いのです。フィリピンでは、自分の好きなときに働いていたので、日本でも同じふうにできるのかと思ったら、日本ではノルマ5人の人と売春しなければいけない。ノルマを達成しないと暴力をふるわれたり、罰金として新たな借金が覆いかぶさってくるようなことがあります。きちんと働いても、6か月間毎日休まずに働かないと罰金や契約が延長してしまうなど、わけのわからない就労条件が日本に着いた途端に付いて回る。というようなことがあります。でも、その場合は同意にはなりませんよね。日本に行ってみたら自分が考えていたものと全然違う環境だった。ということを被害者はよく語ります。

 被害者は、先程言ったみたいに、犯罪を犯してしまっていることもあります。不法入国だったり、偽造パスポートを使っているので、当初から加害者の力により、犯罪を犯しているわけです。
 最近の傾向としては、政府もすごくポリシーを持って対処しているので、不法入国だとか滞在資格の偽造などがなかなかできなくなっています。
  そのようなことで、今何が起こっているかというと、加害者ブローカーたちが、例えばフィリピンやタイの日系の子どもたちを人身売買するとか、結婚ビザを使って日本人の配偶者として来日した人を売春させたりしています。そういった形で正規の滞在資格を持っている人もかなり増えていますが、これは警察の統計から見ても明らかです。だから、一見、日本の名前を持っていて普通に働いている日本人として見えるけれども、そういう人も被害者になっているのがここ2、3年の状況です。
 あと、最初に人身取引は地下経済、地下産業の犯罪産業というふうに言いましたが、売春は日本では違法ですよね。しかし、売春とはちょっと違う性的サービスである性風俗産業は合法ですが、その部分で人身取引が行われています。私たちが普通に歩いている繁華街の中で人身売買が起きているわけです。それから紡績産業などでも行われています。特に労働者として日本に来ている外国人が多い地域に行くと、そこには日本を支える紡績企業があったりします。
 あとは農業などです。今回の東日本大震災でも、かなり漁業に携わっていたフィリピンや中国の研修生も被災されました。そこの産業を支えていたのは若き研修生たちです。研修生全員が搾取にあっているわけではないですけが、そういうさまざまな日本を支える第1次産業の中で人身売買が行われているということを知っていただけたらと思います。

 性風俗産業の話しに戻りますが、売春ではないけれども、さまざまな性的サービスが行われているこの産業についてはなかなか話しにくい問題です。グレーゾーンの話ですが、ポラリスの活動はあえてここを話さないと問題の本質がわからないのでお話します。
 どの国でも性を売るという産業はありますよね。でも、日本の場合はとてもそれがすごく多様化し日常化しています。
 市場規模としては、この産業は国内総生産の1%、2%、3%くらいの規模になっているというふうに言われているほど結構な規模です。
  こういう状況だからこそ人身取引が起こりやすい。デリバリーヘルスという、女の子をお客さんの家やホテルに届けるサービスは、風営法が緩和されてからすごく流行しています。一般的な性風俗サービスの一つですが、2010年では約1万6,000件の届出があります。例えば、2万件の店が、女の子を1日にお客を4人取らせて週に6回働かせたとします。それを毎日やった場合、1年間で約300億を儲けることができます。これがきちんとした形でしている商売だったらいいのですが、このようにグレーゾーンの産業なので人身取引が起こり得るわけです。最近の傾向としては、外国人被害者がどんどんデリバリーヘルス形態の業種から上がってきています。このように、見えないところで行われている買春に近い産業でとても大きなお金が動くため、人身売買が行われています。
  この産業に対する考えについてはさておき、考えなければいけないのは、合法化している産業の中で人身売買が行われてしまっているという事実を私たちは知らなければいけないし、何らかの形で対策をとらなければいけないということです。
 私たちNGOは、デリバリーヘルスといったものが開業できることになってしまったことによって、被害者との接点がなくなってしまいました。警察もどこに事務所を構えているのかわからないし、その事務所から女の子が派遣されるわけですから、なかなか被害者との接点が取れないわけです。
  デリバリーヘルスは届出制なので誰でも届け出たらつくれるものですが、すごく簡単にそんな届出を受理してしまっていいのかな、と私は思います。この問題は私たち組織として、警察に提言していかなければいけないことだと思っています。

  それでは、ここで私たちの被害者の声をご紹介したいと思います。いかに人身取引の被害者が孤立しているのかということですが、14歳や17歳の日本人少女が孤立して、誰にも相談できずにネットで人に相談するということに似ています。
 外国人の被害者というのは、まず日本語が読めません。日本語が読めないと日本のどこにいるのかもわかりません。あるフィリピンの方は、実は岐阜で発見したのですが、本人は、東京にいる、ずっと東京にいる。と言っていました。成田空港に着いてから車に乗せられた後、列車に乗ってこの場所についたが、ここは東京だと言われたそうです。しかし、実際にいたのは岐阜でした。新幹線に乗って現地に向かい、警察と共同で助けました。この人の場合は、親戚に電話することができ、人づてにポラリスを教えてもらっていため、私たちが何度か交渉して保護することができたケースです。
 人身売買という問題は地域差がありません。私も色々なところで講演にお呼ばれすることがあって行くのですが、そこで講演するときには、その地方で過去の人身売買の状況を調べて紹介しようと思ってリサーチすると、必ず1、2件あります。人身売買といっている場合もあるし、強制売春といっている場合もありますが、必ず出てきます。温泉街にも風俗店はありますので、私たちの活動をどんどん全国に広げていかないと、もしくは全国で同様の活動をするような人たちを応援していかないといけないな、と思います。

 私たちは海外NGOと連携を取っています。なぜかというと、海外NGOは行政と手を取り合ってものすごくすばらしい活動をしているので、学ぶことがたくさんあるからです。海外の施設を視察させていただくことによりいい連携関係ができますが、そこで出会った韓国NGOからの緊急支援を依頼されたケースをご紹介します。
  韓国NGOから、「東京の店舗型風俗店で働かされている女性が、持病ですごく弱っているので病院に行きたいけど行くことができない。かなり衰弱しているので、マンションの場所を教えるので緊急で助けてほしい」という要請がありました。そこで、韓国語を話せるスタッフから彼女に連絡を取ってもらいその女性の家に行きましたが、被害者の彼女からは「加害者がとても凶悪な感じでとても恐ろしいので、警察には言ってほしくない」と、警察を介した保護は拒否されました。
  今現在、この被害者の情報は韓国警察と日本の警察に届けられていますが、当初、彼女自身が警察に言いたくないということだったため、NGOだけで救出したケースです。この時は韓国大使館が全面協力してくれました。救出したとき、この女性はものすごく痩せていました。本当に痩せて、内臓の病気で腰が弱くなってしまって、立てないほどやせ細っていたのですけれども、彼女の手帳を見ると、会いにいった前日までお客さんをいっぱい取らされていました。毎日毎日お客さんを取らされていました。そんな状況なので、私たちが韓国語を話せる医者を探して病院に連れ行き、シェルターも私たちのお金で入所させて、2、3週間後に韓国大使館の人を通じて羽田空港から帰国しました。このようなケースへの対処は、今の状況ですと私たちの持ち出し費用で行うことが多いです。被害者ということが認定されないと被害者の医療費とか渡航費などは出ないのです。本当にそういうことばかりなので、費用が課題となっています。
  先ほどの彼女自身は、今、韓国でやっと立ち直ってきています。体は元気になっているのですが、まだブローカーが怖いということで、保護機関で保護されているそうです。まだ若い20代後半の女性でした。

  次は日本人の女の子の話しをご紹介します。すごくまれなケースかもしれませんが、毎年何回かこういう事件があります。子どもたち同士での売春強要です。
 14歳の女の子が、ちょっと上の世代の遊び仲間から、態度が悪いと因縁をつけられたあげく、出会い系サイトで売春を強要させられるという事件ありました。初め、グループ内のお姉さんたちが援助交際をしていましたが、遊ぶためのお金を儲けるためには、自分たちが援助交際するよりも、グループ内の弱い立場の子たちをそそのかせて援助交際をやらせればいいんだ。という理由から、彼女自身が13歳のときに売春をさせられ、2か月間で60人のお客さんを取らされました。彼女はそれまでに性的な体験をしたことがなく、初めてのセックス体験が自分のおじいちゃんぐらいのおじさんだったということで、精神的にものすごく大きなダメージを受けていました。
  警察が彼女を買った買春者を芋づる式に逮捕したところ、彼女のことが判明して、それとともに彼女を働かせて搾取していた不良グループが見つかって、保護されました。
  それからしばらくしてポラリスのインターネットサイトにある「女の子のためのSOSサイト」というところを通して彼女から話を聞きました。「ポラリスさんのホームページにあったあの事件の当事者とは、実は私なんですよ。あの頃からしばらく経ったけども、気持ちも晴れることない。テレビで援助交際や買春という言葉が出ると、夜ずっと泣いてしまう」とか、「ナンパされるとそのままついていってしまったりしてしまう」とか、「自分の体を大切にできなくなってしまった」と、かなり不安定な状況でした。今も定期的に会っています。2年前の話なので高校生になっているのですが、今はすごく落ち着いてきました。何せ若いんですね、彼女は。可能性がいっぱいですし、いろいろないい大人やいい友達が周りにいることによって、何度でも立ち直れます。しかし、親も学校も警察が彼女の家に来るまで事件に気がつきませんでしたし、親も学校も、今はこの事件に蓋をしておこう、忘れたほうがいい。と言うため、友達も自分に起こった事件を知らない状況なのです。誰にも話ができないからポラリスに連絡してくる。という感じなんですよね。このようなケースがすごく多いのではないかと思います。
 今、子どもたちのことで、すごく足りてないと思うことをお話しします。児童相談所というのは、虐待児、0歳とか3歳、4歳とかの低年齢の子どもたちを対応することで一生懸命ですけれども、このように、性的搾取に遭ってしまった15歳、16歳のハイティーンと呼ばれる子どもたちに対するケアというのも大切です。しかし、どこの児童相談所も1人のケースワーカーが何十件も案件を抱えていることが多いので、なかなかケアが行き届かないのが現状だと思われます。
 しかも、商業的な性的搾取に遭ってしまった子は、大人からはトラブルメーカーというように見えるぐらい、男性関係も派手だったり、規律や門限を守らなかったり、携帯電話を禁止されるような施設になんかに入りたくない。そういうような形で周囲をかき回してしまうので、なかなかケアも大変なのですが、こういう子たちこそ、今後、大人の階段を上がっていくために何らかの手助けが必要なのではないかと思います。ポラリスのような、お茶を飲みながら話しができるような場所でもいいですので、そういうところがたくさんあればいいなと思います。
 人身取引の中でも、子どもたちへの商業的性的搾取というのはかなり深刻で、日本の場合を先ほど少しお話しましたけども、5,000件以上も買春雇用や未成年を性産業で働かせるという事件が起きています。児童ポルノに関しては、去年、おととしの数字になりますが、この時点でも過去最悪と言われていたのに、今年も過去最高と言われ、どんどん悪くなっていっています。被害に遭う子どもたちというのも児童ポルノの場合16%が小学生以下と、すごく低年齢化しています。
 児童ポルノというのは、児童買春の現場でつくられることもあります。皆さん、児童ポルノというものは、普通の子どもたちの裸の画像のものを思い浮かべると思いますが、裸だけのものもありますけれど、子どもを性的に虐待する記録です。そういったものが簡単に取引きできてしまうわけですが、今現在、日本は主要経済的先進国の中でも個人で画像を収集する単純所持については禁止されていないので、例えば、私の目の前にあるパソコンに何万枚と子どもたちのレイプ画像やわいせつ画像があったとしても逮捕されないのですよね。
  昨日、京都府で個人的な画像の単純所持についても、府として禁止するという条例が出されたというニュースがあったところですが。
 被害に遭った子どもたちの声を直接聞き取るために、「ポラリス 私のからだは私だけのもの」というサイトを立ち上げました。ちょっと女の子っぽいサイトになってしまったのですが、男の子も利用できるようにちゃんとサイトを変えていかなければいけないなと思います。男の子のほうが、自分が性的な被害に遭ってしまったときに、他の人に言いづらいということがあります。ですので、先ほどビデオで取り上げていた子どもみたいに、自暴自棄になって自分の被害状況を「2ちゃんねる」に上げてしまったり、自分のとてもプライベートで困っていることを「mixi」に上げてしまったり、といったことをしてしまう前に、この掲示板をちょっと見てくれたら、同じように悩んでいる子たちがどういうふうに対処してるのかがわかるようなQ&Aがありますので、子どもたちに使ってもらいたいと思います。ぜひ皆さんも、機会があったら私たちのサイトを見てもらえたら嬉しいです。
 このような子どもたちの相談がここ2、3年でかなり増えてきておりますが、私たちの活動は、被害者の相談が一番大事です。その相談の声を利用して、支援者や警察の方たち、それから今日の皆さんのようにそれぞれの自治体で人権啓発を担当されてる方たちと情報共有をして、一緒に、人身取引が私たち一人一人の問題として考えていくことができるような、そういう枠組みやシステムがつくっていけたらいいなと思っています。

  これまでに、相談電話は1,100件以上の通報が入っています。被害者も100人以上支援しました。支援といいましても、私たちの団体は被害者が寝泊まりできるような施設もないとても小さな団体なので、基本的には、それぞれの関係機関に繋げるということしかできていません。事務所が東京なので、都内や埼玉、神奈川など、本当に関東のごく一部の支援先の情報しかありません。そこで皆さんにお願いです。例えば、皆さんの地元で何か起きたときに、例えばタガログ語で対処ができるような信頼できる団体がある。人権相談ができる施設がここにあるよ。というような情報をぜひ教えていただけたらと思います。
 警察への同行であるとか、衣食住の支援というのは他の団体にお願いして、連携先が見つからないような被害者の場合は私たちが立てかえるという形の支援をずっとやってきています。
  被害者100人以上のうち、30人ぐらいは日本人ですが、あとはほとんど外国人です。
 警察や入管、福祉関係者の研修というのもかなり頻繁にさせていただいております。最近は子どもたちへ対する児童買春の強要や性的搾取被害がとても多いということもあって、そういった側面から日本の子どもたちの状況を話してほしいという要望もあります。
 私たちの団体には、フィリピン、タイ、最近だとアメリカ人の人も多く相談が来ます。アメリカやオーストラリアの女性からの相談もあって、なかなか状況は深刻なのですが、そういうような声を利用して、本日のような研修をさせていただいています。
 地方自治体の青少年課や児童養護施設からは、子どもたちに対して、性教育と一緒に人身売買問題の話をしてほしいと言われます。例えば、児童養護施設だとか児童自立支援施設などにいる子どもたちは、子どもたち自身がすごく社会的なセフティネットからこぼれ落ちやすいため、ゆくゆくホストやホステスとして働くようになってしまったりすることがあります。18歳で施設から放り出されてしまうような状況にあるため、人身売買が起こり得るような産業に流れていってしまわないよう、職員さんがポラリスを呼んでくださったりします。「自分たちを大切にする」と言葉で言ってしまうとすごく軽々しいですけれども、子どもたちに直に話すことが一番楽しいし、私たちの話を、目を大きく開けてとてもよく聞いてくれます。このような活動も毎年少しずつやっています。

 画面をご覧下さい。人身取引防止のために、私たち1人1人ができることとして、「こんな風景に見覚えがありませんか?」というものを書いてみました。というのは、私たち自身が日ごろの生活の中で見聞きしていることが、もしかしたら人身売買の現場になっているかもしれない。ということを考えてもらうためです。
  実際に私たちへの相談の中には、例えば、「近所に外国人女性が何人かで住んでるようなアパートがある」ということを言われる方が結構多いです。もしかしたら、そのアパートが被害者の寮になっているのかもしれません。違法な売春産業の場合は、看板を出してないところもありますので、そのアパートが売春産業の温床になっているのかもしれません。このようなことや、「駅前でもかなり年齢差のあるようなカップルがホテルに入っていくのを見かけるので、もしかしたら出会い系サイトだとかさまざまものを使って、強制的に売春などをさせられてのるかもしれない」。このようなことは、見かけてもなかなか通報できないと思うのですが、そういったサポートでも結構ですので、電話相談の他にメールもありますので、利用してほしいと思います。
 特におもしろいのは、外国人の方からの相談で、私たちが普通に生活していると気づかないような風景に関して、あれ何かおかしいよな、あそこは何なんだろう?というような情報を教えてくれます。例えば、「何人ものフィリピン人女性が小さなアパートに同居してるんだけど、朝早く帰って来たのになんでまた夕方に出ていくんだろう?変だな?」と思って、リサーチしてみたら人身売買という言葉が引っかかったので、ポラリスに電話をした。というようなことも結構、日本全国からあります。米軍の人なども結構電話してくれるのです。それが実際に人身売買の摘発につながった場合もあります。
  私たちの相談電話番号はこちらの青い紙にも書かれています。一応フリーダイヤルで多言語対応と書いてありますけど、今のところ韓国語と英語だけです。でも、スペイン語とタガログ語も、ボランティアの方が時間を見つけてこちらからかけ直すという形になりますが、相談可能です。
 被害を受けている人たちにとっては、外部とのかかわりが数少ないかもしれません。実際に、タバコを買いに行くお店のおばさんだけが、外の人とふれあう機会だった。という人もいます。希望を見失って誰とも目を合わすことすらも怖くなっている人たちに対して、他の人がちょっと目をかけるようにする。ちょっと挨拶するだけでも、新しい会話のきっかけになるかもしれません。 私たちは被害者の方たちが出すかすかなサインを見逃さない社会をつくっていきたいですし、そのためのきっかけづくりや広報もすごく必要なので、ぜひ皆さんと一緒にやっていけたらと思います。

  画面に映っているのは、日本ではありませんが、実際に警察の方が被害者を識別するときに使う質問事項です。「どんな仕事をしていますか?家に自由に帰宅できますか?自由に持ち場を離れられますか?とか、宿舎の窓や寮に外からかぎがかかっていますか?」など、そういったことを警察や入管の方が聞いて被害者の認定をしているというのが各国の現状です。日本もこういったものを警察内でも個人レベルでやっている方もいらっしゃいますが、全体的にしているわけではありません。この質問は簡単に覚えておけるものなので、皆さんもぜひ覚えといてくれたらな、と思います。被害者にはいろいろな質問しないとなかなか搾取されている状況は見えてこないと思います。

  私たちは、行政からお金をもらっていない形で運営をしているので、外資系企業や化粧品会社などの寄附金を利用しています。あと1人1人の寄附がものすごく助かっています。
 相談電話をしておりますが、本来であれば行政と協力していきたいと思うところですので、私たちの活動もどんどん広げていかなければいけない。そのためには行政と一緒に人身取引防止の制度づくりからやっていかなければいけないと思います。
 今年の11月に、アメリカや韓国から、人身売買問題を現場の最先端で取り組んでいる警察の方や検察官の方々をお呼びして大きなシンポジウムを開催します。小さな団体ですけれども、人身取引問題をクリアするために、被害者の声を生かして政策提言しようと頑張っていきたいと思いますので、皆さんも私たちのリソースを活用して利用して、ぜひ多くの方に伝えていっていただいたらと思います。本日はどうもありがとうございました。(拍手)