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人権に関するデータベース

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研修講義資料

広島会場 講義4 平成24年10月18日(木)

「女性の人権 女性への暴力をなくすために」

著者
大津 恵子
寄稿日(掲載日)
2013/02/18



 皆様、こんにちは。まず、たくさんの男性の方々がこんなに来られているとは思いもしませんでした。私が発表しますシンポジウムでは、大体8割が女性なのです。私の話は女性に対する暴力ですから、そのシンポジウムにふらっといらっしゃる男性の方たちはほとんど下を向いてしまいます。しかしながら、今日はぜひ、人権侵害である女性に対する暴力のことを学んで、現場の中で生かしていただきますようよろしくお願いします。ですから、下を向かないで結構ですよ。
 私は日本キリスト教婦人矯風会の理事をしております。日本キリスト教婦人矯風会という名前を聞いたことはありますでしょうか。ほとんどないですね。実は、日本キリスト教婦人矯風会は明治の中ごろにできた女性の人権団体なのです。平和の問題や、それから女性の人権、たばこと酒の害(アディクション)、についての3つを柱にして活動している団体です。
 1986年、キリスト教婦人矯風会が100周年の記念のときに、さて、何をしようかと、全国におります会員たちが考えたそうです。
 ちょうどそのころ、80年代の後半から、日本にフィリピンやタイ、そのほかの国の外国籍女性たちが日本に来た時期でもあります。そこで、婦人矯風会は、外国籍女性の支援で何かできるのではないかと考えました。当時、かつて東京で働いている女性たちや学生たちを受け入れていた施設が空いていましたので、その施設を利用して何とか外国籍女性の一時緊急避難をする場所をつくったらどうかということになりまして、女性の家HELPができました。
 女性の家HELPは、「助けてくれ」のHELPなのですが、その意味は、Hはハウス、Eはエマージェンシー(緊急)、Lはラブ、Pがピースです。「愛と平和のある緊急避難所」が女性の家HELPの意味です。
 そのHELPは、国籍を問わない、そして在留資格を問わない、女性であればだれでも利用ができる緊急避難所です。ですから、80年代の後半から90年代いっぱいまで、約400人近い、フィリピンやタイなどの女性たちがこのHELPを利用しました。そして、10年前にステップハウスができました。HELPは一時緊急避難所ですから、緊急に避難する人を2週間から3週間ぐらい受け入れています。しかしながら、最近は2か月、3か月の人が多くなったのです。一方、そのステップハウスというのは、6か月から1年、最長では2年ぐらい入ることができるところです。一時緊急避難所とは違い、自立のための支援をしているのがステップハウスです。そのかわり、そこは子どもが入ることはできません。単身者のみです。ちなみに日本キリスト教婦人矯風会は全国で10か所ぐらい、関連施設を持っております。
 さて、これからDVの話になります。皆様はきっとDVについてはご存じであると思っております。一体どういうことが起こっているのかというのを細かく皆さんにお伝えしていくのが、私の役目だと思います。
 夫や恋人のような親密な関係にある、またはあった男性から女性への暴力。身体的、精神的、性的、経済的、文化的暴力というのがすべて含まれます。
 文化的?と思われるでしょうが、実はこれは女性の家HELPから出た言葉です。女性の家HELPでは、日本人も外国籍も、暴力によるものは緊急一時保護をされます。そのときに外国籍女性の方が、「私はこういうふうな暴力を受けた」と証言されます。その話を聞くと、自分の名前―、例えばタイだったらタイ人の名前があるのに、夫はアキコとかハルコとか、日本的な名前を呼び、自分の名前を呼んでくれたことがない。それから、家の中ではタイ語やタガログ語、ほかの自分の国の言葉を一切使うなと言われ、日本語だけの使用を強要されます。国の友だちをつくるな。日本人とでもあまり友だちをつくるな。それから、料理は日本料理だけ。自分の国の料理はつくるな。働くな。
 被害女性は、日本に来て日本人と結婚して、家庭の中で妻として夫と一緒にやっていけると思ったのに、あらゆることで自分を否定されてしまう。確かに日本語だけを話すと、その人は日本語がとても上手になります。しかし、自分の国の言葉を失うというのはその人にとっては大変なことだと思うのです。そういう中で、例えばHELPに逃げてきた人で私が関わった方ですが、話をさせてくれといって加害男性が電話を掛けてきて、うちのやつをどこへやったと言うので、うちのやつって誰ですかと聞いたら、ハルコだというのです。ハルコなんていう人は知りませんといって、その方は日本人ですかと聞いたら、いや、外国人だと。外国人だったら外国人の名前があるでしょうと聞いたら、そんなものは忘れてしまった、何ていう名前か知らないと加害男性は言うのです。でも、それはおかしいですよねと言って、その夫と話し合うのです。その人の国籍や文化を否定する、それが文化的暴力です。
 DV防止法では、暴力を防止し、被害者の保護をすることを国及び地方公共団体の責務とすると書かれています。個人的、プライベートの問題とされがちであったDVを社会的な問題としています。また、前文においてDVは犯罪となる行為を含む重大な人権侵害であるにもかかわらず、被害者の救済が必ずしも十分に行われてこなかった。と明記されています。
 さて、なぜ男性は暴力を振るうのだろうか。暴力って何だろう。女性と男性へのテストが、皆さんの資料の中に1枚入っていると思います。これは、男性も女性も回答できるものですが、私たちが使うときは、女性と男性を分けて質問をしております。10ほどの質問ですが、きょうは帰るまでにこれをチェックしておいてください。チェックリストを、DVの被害者、加害者に出してみてください。その中で、その人は一体どの項目に当たっているかを見ていただけたらと思います。怖い思いをさせるなら、それは暴力であると書いています。不自由な思いをさせるなら、それは暴力である。暴力の目的はコントロールです。怖がらせ操ろうとするDV加害者を「バタラー」と呼んでいます。沼崎一郎さんという東北大学の先生で、アメリカで女性への暴力の問題を研究している方がおります。その方が簡単な冊子をつくりました。男性が書かれた本ですですので、ほんとうに共感したのですが、暴力を振るうほうに問題があると思うと書かれています。暴力は、夫に問題があるので暴力を振るうのではないか。DVの加害者は男性だけだと思うのは違いまして、最近では、女性も夫に暴力を振るうと報告が出ております。
 パートナーを自分のものと思うのは当然だと。。結婚したら、結婚した相手は自分のものになるわけです。ですから、その中で暴力を振るうというのは、相手方が自分の言うようにしないとき、暴力を振るうのは当たり前だと思っています。男性たちの中には、妻に対する教育として暴力をふるっているということを訴える方たちが多くいました。
 暴力というのがどういう形で女性たち、または、最近では男性に振るわれるのか。ほとんどは女性が暴力を振るわれているケースが多いのですが、そのことをチェックリストで見ていただけたらいいと思います。
 2001年、DV防止法が議員立法で成立いたしました。それから11年たちました。その中で、2004年と2007年に改定されております。最近では第3次改定を、私たちのような女性団体が望んでおります。
 第3次改定の目玉は、配偶者のところに配偶者等と「等」を入れていただきたいということです。配偶者等からの暴力となれば、結婚した相手は当然のこと、同性間で一緒に過ごしていく人たち、恋人という関係でも保護命令を出すことができます。
 DV防止法は議員立法なのですが、HELPでもこの議員立法ができるときに協力いたしました。それは、議員の人たちに、DVというもの、ドメスティック・バイオレンス、配偶者からの暴力がどういうものであるのかというのを、被害者の女性たちからヒアリングしていただいたのです。それまで、日本ではこんなものはないと言っていた男性たちが多かった。夫婦げんかはあるのかもしれないが、DVに当たるものはないと言っていた議員の人たちに、実際に被害者の女性たちから話を聞いてもらいました。どんな状況の中でDVが起こるのかということを、被害者1人1人に話していただいたのですが、議員の人たちはそのことによってどんどんと理解が深まっていきました。
 私たちは、被害者の人たちの証言を聞いたり、話していただくチャンスがあります。本当はこの中に1人、DVに関しての証言をしてくださる方がいたら、もっと皆様は理解できると思います。残念ながら今日は私しかおりませんので、ぜひ皆様には考えていただくチャンスを与えたいと思います。
 最近の内閣府の調査の中で、最初は何らかの暴力を受けている人は5人に1人と出てきたのが、最終的には3人に1人の人たちが何らかの暴力を受けたと結果が出ています。その中でも、身体的、心理的、精神的の、その中のいずれか1つを受けたことが何度もあるということを言っている女性たちがいます。被害の経験や被害者は相手から離れて生活を始めるのに当たって、当面生活するのにはお金がかかるし、自分の体調や気持ちが回復していないなど、さまざまな困難な状況にあるようです。
 配偶者間における刑法犯罪。殺人、傷害、暴行の被害者の91.5%が女性です。被害者のほとんどは、全国で210か所ある配偶者暴力相談支援センターに相談に行きます。その配偶者暴力相談支援センターの報告によると、20人に1人の子どもが暴力を目撃し、40人に1人は自分と同様に子どもも暴力を受けております。また、3日に1人、夫から女性が殺されているという報告が出ております。これを警察庁の方に、3日に1人、暴力によって女性が亡くなっていますよと言ったら、そんなことはないと言われたのですが、これは警察庁が出した統計です。それほどに、女性が夫から、恋人から殺されているという状況があるのです。
 この問題は、社会的な大きな問題ですので、これを防ぐにはどうしたらいいのかを、皆さんと一緒に考えていきたいと思います。
 まずは子どもへの影響です。身体的暴力の加害経験のある人の4人に1人。男性の加害経験者の5人に1人は、18歳になるまでに親から殴る・蹴るなどの身体的暴力を受けております。最近、DVに関する本が日本語でも英語でも出ておりますので、HELPに避難しているお母さんたちが、それを読んだときに、私の子どもは夫のような子どもになりますかと言われたのです。そのとき私は、なるともなりませんとも答えられないのです。それぐらい、子どもに対する影響はあります。そういう中で、絶対にありませんとも言えないし、ありますともいえないので、あなたの子どもさんをほんとうに愛して育てたら、子どもはあなたの愛に応えていきます。もし暴力を振るうような加害行動があったときは、必ずいろいろな方に連絡し、そしてカウンセリング等を受けてくださいということを伝えます。
 今回、大阪の阪南で全国女性シェルターネットの会議が開かれました。その中で、子どものときに父親から暴力をふるわれた男性が証言をいたしました。その方は今現在、子どもたちに対して絵本を書いたり、子どもたちに話しに行ったりする活動をされているそうです。その方が証言された分科会では、もう涙涙で話を聞いたと、私の友だちが言っていました。その方は親からずっと暴力を受けていて、そしてその親から離れてお母さんと一緒になって生活しているときに、自分は絶対に父親のような男性にはなりたくないと。自分は父親とは違うと一生懸命心の中で思っていました。しかし、中学・高校と生活していく中で、何かあったときに、はっと思うとやっぱり手を出してしまう。自分の弟を殴ってしまう、友だちを殴ってしまう。だから彼自身はすごく落ち込んで、カウンセリングを受け、そしてさらに、同じ境遇で苦労されている方をサポート支援しようと心がけられるようになった。それぐらい、目に見えない連鎖があるということを訴えられました。
 その男性がおっしゃるには、そういう子どもたちがたくさん出ないようにするには、被害を受けた子どもたちはできるだけ早くカウンセリングを受けるなり、サポートを受けることが大切であると。それが加害者を増やさないことになると、その男性が言っておりました。
 殴られる妻にも問題があるとよく聞かれますが、本当にそうなのでしょうか。私は、やっとの思いで夫から逃れてHELPに来た65歳くらいの女性に会いました。なぜ60を過ぎてHELPに来たのですかと聞くと、子どもたちもやっと自立したので、もう自分だけの問題になった。私が暴力を振るわれるのにもう耐えられなくなったので、地域の福祉事務所を通してHELPに来たと言うのです。私は、その方に、あなたは息子さんや娘さんとお話ししたのですかと聞きますと、ちゃんと話をしておきたいと言うので、HELPに子どもさんたちを呼ぶわけにはいかないので、私が知っている他のところで、その子どもさんとお母さんは会われました。
 その子どもさんは30半ばになっていらっしゃるのですが、息子さんはやっとのことで緊急避難所に来ることができたお母さんに対して、お母さん、よく出て来たな、なんで今まで我慢したのと言いました。娘さんは、こんな遅くまで我慢する必要はなかったと言いました。息子さんは続けて言いました。父親が暴力をふるっているときに、お母さんとの間に入ってお母さんが殴られるのを阻止して、自分も殴られてきた。ある時などはこの父親を殺そうと思った。だけど、殺したらお母さんや妹たちもそのことによって苦しむので、自分は父親を殺すのをやめた。それに対しては本当に長いこと苦しんだと。
 お母さんは、あなたたちのために私は我慢したのよと言いました。就職のとき、結婚のとき、片親だったらあなたたちが困るでしょう、だから私は家を出ないで今まで頑張ってきたのと。そうすると息子と娘さんは、そんな必要はなかった、本当にもっと早く出てくれればよかったとおっしゃいました。 加害者は社会のあらゆる層にいます。加害者は10歳代から80歳代まで。
 保護命令というのはDV防止法の目玉です。今までこういう法律はありませんでした。DV防止法ができることによって、暴力を受けて生命身体に重大な被害を受ける恐れがあるというときに、裁判所は保護命令を申し立てることができます。接近禁止と退去命令。しかし、これはまた女性たちにとって大きな問題となります。女性たちは言います、私たちがなぜ住みなれた家を離れてどこかに行かなければならないのですかと。加害者の男性のほうがどこかへ行けばいいわけですよねって。なぜ自分が名前を変えて、そして住所地を明かさないでひっそりと生活する必要があるのですか。いつもいつも夫からの追跡におびえるような、なぜ私たち被害者がそのような思いをしなければならないのですかとよく言われます。しかし、今の法律の中ではそうしかできないのです。接近禁止命令の6か月の間に、被害者は自分の身辺を整理して、そして退去命令で夫が来ないときに荷物をまとめ、夫がわからないところの地で生活しなければなりません。そういうお手伝いも、私たち緊急避難所でやります。
 一番大変なのは、暴力団の組織犯罪のほうに入っている夫たちが、組織、暴力団の手を借りて女性を追跡することです。女性は転々と逃げて、最終的には北の果てにいる人もいます。あるところに行ったのに、なぜわかったのかがわからないのですが、男性が来て、被害者の人は泣く泣くそこの場所を出たということもありました。
 それともう1つは、被害者の女性が夫に連絡している場合があります。HELPでは、危ない人については携帯電話を預かります。今の携帯はさまざまな操作ができますよね。ある人は、いろんなところを通った後に、今自分はこういうところにいますと夫にメールを送っていました。そして夫はその場所を突きとめてHELPに来たことがあります。ですので、危機管理をしっかりとしないと見つかってしまうことがあるのです。
 今日は皆さんにニュースレターは持ってこなかったのですが、HELPのニュースレターには電話番号が書いてあります。03-3368-8855という電話番号です。03というからすぐにわかりますね。東京です。局番3368というと、また地域が狭まる。その地域が狭まったところで、加害男性はこのあたりにいるのではないかと見定めて、その地域の交番に、実は妻と子どもがいなくなった、妻はお金を持ってないのでとても心配しているんですといって、泣いて交番のお巡りさんに訴えたケースがありました。ですので、交番のお巡りさんは、この近くに慈愛寮というのがあると。教会の施設で女性が出産前、出産後入ることができる保護施設なのですが、そこに行って聞いてみたらどうかと、親切にも教えてあげたのです。
 また、婦人矯風会の敷地は広いのですが、そこに行ってみると、あるところから子どもの声が聞こえてきました。ここにいるに違いないと思って、その男性は探して探して、あるフェンスのところに来ます。そこは玄関のところにモニターのテレビがついていて、誰が来たのかわかるようになっています。そこに来て「●●ちゃーん」と叫びました。そうすると、本当に運悪く、その子どもさんがたまたまその日にほかのところから保護されてきていました。その声を聞いた時、子どもたちは震えましたし、お母さんはパニックになり体が震えて、しゃがんでしまいました。そこで私は、すぐに警察に連絡をしまして、ここから一歩も入ることはできないからとお母さんに言いましたが、結局、荷物をまとめてまた違うところに行くことになりました。
 私たちはそれ以来、他の民間シェルターとの連携をより密にとるようになり、もし加害者が被害者のもとに来た場合、すみやかに他のシェルターに移れるように、しております。
 DV法が改定された時、配偶者からの暴力の定義が拡大されました。最初は身体的暴力だけだったのですが、それに精神的暴力が含まれ、また、離婚後も元夫からの暴力があれば適用されることになりました。以前、HELPにいた女性が保護命令の申し立てをしたのですが、暴力を受けて病院へ行って家に帰らなかったとき、夫が勝手に離婚届を役所に出してしまいました。当然、夫婦関係は解消されたと見なされて保護命令が出なくなってしまったのですが、この改定の中で、そういう人たちに対しても、離婚後も保護命令が出るようになりました。また同時に、子どもへの保護命令も出るようになりました。
 職務関係者による配慮も必要です。DV防止法の第二十三条には、配偶者の暴力に係わる被害者の保護、捜査、裁判等に職務上関係のある者は、その職務を行うにあたり、被害者の心身の状況、その置かれている環境等を踏まえ、被害者の国籍、障害の有無を問わず人権を尊重するとともに、その安全の確保及び秘密の保持に十分な配慮をしなければならない、と書かれています。
 この第二十三条というのは、私たちシェルターにとってとても大きな条文です。というのは、その中に「被害者の国籍、障害の有無を問わず」とあり、外国籍の方たちもこの保護命令でDV防止が適用されることがきちっと明記をされているのです。それまでは、外国籍の方が警察に電話しても、警察の対応がものすごく悪かったのです。「あなた、外国人でしょう。あなたが日本にいられるのは日本人の夫がいるから。だから我慢しなさい」と帰された例がたくさんあります。ですから、この第二十三条により、外国籍であっても日本人であっても、きちんとその対応がなされなければならないということです。
 保護命令ではファクスとか電話、メールも原則禁止になりました。HELPに入ってこられる方に、被害者の夫が、それこそ何十回、何百回もメールを送ってきたり電話をかけたりするのです。私たちが被害者女性の電話を預かるのは、その連絡を被害者女性が見たとき、夫からまた電話があった、夫がこう言ってきたと、心が騒がないはずはないと思うのです。「悪かった、二度と暴力は振るわない、子どもたちを大切にする」ともう毎回毎回メールで送られてくるのです。そうなったときに、HELPからやっぱり帰りますといって帰られる方もいます。そのときには必ず、また暴力が起こりますよということをその女性に伝えます。しかし、暴力が起こったときにあきらめてはだめですよ。逃げることができるので、警察でもいいですけど、もしあなたがここの場所を言わなければ、またHELPに入ることができますと。場所を言ったらだめですよと。しかし、夫に追及され、HELPの場所を言ったために、帰ってからその男性から何回も電話が入ることもあります。そうすると、その女性たちはHELPに入ることはできなくなります。
 外国籍女性については、タイ語ができるスタッフ、タガログ語ができるスタッフ、スペイン語、英語ができるスタッフがいる場所というのは、HELP以外、そうありません。自分の国の言葉で支援を受けられることほど、その被害者の人たちにとって居心地がいいところはないのです。ですから、あなたがもし外国籍の方であるなら、あなたがもしここへ来たいと思うのなら、絶対に夫にここの場所を言ってはいけませんよと言って、入ってもらいます。夫のお母さんからは、うちの嫁がお世話になったということを聞いています、どうも帰ってこないのですが、あなたのところに行っておりませんかという電話がかかって来ることもあります。その場合、私たちは、さあ、知りませんと言いますが、その女性がもし帰ってくるなら、快く受け入れてください、帰ってこなければ、女性が夫の暴力にもう我慢できなくなったということですので、そのことは受けとめてくださいとお母さんには伝えます。
 市町村でも、やはり暴力の防止に努めなければならないという都道府県基本計画があります。基本計画の中に配偶者暴力相談支援センターと同じような役割を果たすことが入っております。被害者の緊急時における安全の確保及び一時保護を行うことが明記されております。
 ここで1つ、DVへのイメージ『人間彫刻』を通して考えるということを、皆さんに少し考えていただきます。先ほど、DV被害者を数人紹介いたしました。ここではいろんな職の関係者の方がいらっしゃいますので、その職の関係者の方にDVのイメージを自分の中で描いていただきたいのです。一体どういうことがDVなのだろうかと、現代のさまざまな人たちが、例えば裁判員になったり警察官になったり、学校の先生とか、それからDV夫になったり被害者になったり家族になったりする。先ず彫刻ですからそれぞれ役割を持ってその人物が静止します。イメージを持った後、その中で、みんながそれぞれの担当になって短い劇をやりました。皆さんの演技は上手なのですが、そのときに裁判官の役になった人たち。裁判官らしくというので、DVの人たちが来たときに保護命令を出さなければならないことや、いろいろなことを考えさせられる。警察官になった人は、警察の中にDVの被害者が来たときにどういう対応をするのか。今、全国で女性の警察官はできるだけ多く準備をしてDVの被害者に当たっていらっしゃると聞いています。しかしながら、女性の警察官は全体の中で5.6%~6%ぐらいです。10%ぐらいにはしなければならないと思っているのですが、それでも女性の警察官は少ないと思います。ほとんどの場合、男性の警察官がDVの方たちに接するのですが、どこでも、シェルターネットのシンポジウムで1つの分科会を開かなければならないぐらいに、警察官による二次被害は調査の中で出てきています。多くの女性たちが警察官によって二次被害を受けた。警察官に何度も何度も訴えても、我慢しなさいといって帰されたとか、そういう報告が出ています。そうすると、警察官の方々にも教育をしていただかないといけないかなと思うのです。そういうことで、それぞれのイメージを持っていただきたい。父親として、また職場の中でこういう問題が起こったということで相談されたとき。女性の方から、実は家庭の中で夫からの暴力でとても苦しんでいるのですといって皆様に相談されたとき、皆様はどういう対応をなさいますか。それをきちっと考えていただきたいのです。
 統計上、3人に1人は被害経験を持っているので、職場や友達、近所で何人の人たちが暴力を受けているのか。さまざまなところで暴力に対しての心構えを持っていただきたいのです。
 もちろん、家庭は閉ざされた空間です。その中で起こる暴力は見えません。それこそ会社では、近所では、あんないい夫が、とてもソフトな夫がそんなことするわけがないと思われます。ところが、中に入ってみると、中に入ったときに妻に対して、子どもに対して暴力を振るうということが出てきます。これは私のトラウマ経験なのですが、中学生のときに、自分の姉の家に行ったとき、隣の家から子どもさんの泣き声と、ものすごい音と、そして「助けて。助けて」という声を聞いた憶えがあるのです。それが本当に耳の中に残っています。それで、今、電話相談で男性たちの相談を受けると、とても私のこころが騒ぐのです。怖いのです。もしかしたら男性が加害者であるかもしれないと。カウンセラーの方は、私に対し、あなた、小さいときにそういう被害を受けた経験はありませんかといわれます。どう思い返しても、自分の家庭の中では起こっていません。次の日に隣のお子さんの顔を見ているのですが、ただそのときに聞こえた「助けて」という声や物音を聞いたときのショックが、心の中にしまわれていて、それがトラウマになっているのです。たった1日のことなのに、それがずっと心に眠っているということを、最近になってカウンセラーの方から指摘され、はっと思ったことがあります。
 そういう意味では、被害者の人たちがトラウマやPTSD、そういう記憶を持ってこられているということを考える必要があると思います。
 不平等な関係の中でDVは起こっています。性差別の問題。性差別が存在するところにDV犯罪が存在します。DVは特別なカップルに起こる暴力ではありません。職業、学歴、年齢、国籍を問わず、あらゆるところにDVは存在するのです。裁判官であっても学校の先生であっても、警察官であっても、いろんなところで起こっているので、職業は関係ないことは、私たちは調査の中でわかっています。
 殴る、蹴る、髪を引っ張る、物を投げる、かむ、縛る、首を絞める、やけどをさせる、けがを放置する。このような身体的暴力を受けた女性たちが緊急避難所に来られると、骨折をしている人もいれば、あらゆるところがアザだらけになっている人もいます。骨折やアザなど身体的暴力で受けた外傷は、時間をかければ治るのです。最初は青くなっているアザが、黄色くなり、3週間ぐらい経つと随分きれいになり、よかったねと言うのですが、心の傷は治りません。それは長くその女性たちが苦しめられる原因になっています。ですから、DVの被害者の中で精神科のカウンセラーにかかる人たちは本当に多く、そういう意味では、暴力をなくすということが私たちの課題であると思っています。
 精神的暴力も同じです。暴力に当たりますかと電話で問われたことがあります。どんな暴力ですかと聞いたら、「おまえはばかだ」「能力がない」「何もできない」など、何かをやっては小言を言われ、それが時々つらくなるときがあるんですと言われたので、それも暴力ですよと伝えます。無視するとかどなる、脅す、人前で侮辱するとか、「死ね」とか「何もできないやつ」といって人格を否定したり、不貞を疑ったりする、これも精神的暴力です。
 最近ではよく、自分の妻がかわいがっているペットを虐待する。それこそネコやイヌが殺されたりする。虐待される人たちの中には、逃げるとき、ペットと一緒に逃げたいと思い方もいます。ペットはだめでしょうかと聞かれることが多いのですが、残念ながらペットまで受け入れるシェルターは少ないです。広い場所があるところではペットも受け入れるところもあるかもしれないのですが、ほとんどのところではペットは受け入れてくれません。
 次に、性的暴力については、性行為の強要、避妊に協力しない、望まない妊娠、中絶、出産させるなどがあります。卑猥な映像を無理やり見せるということもよく言われております。実際、医者からもう子どもを産んだらいけませんと言われているにもかかわらず、避妊に協力してくれないと訴える女性がいます。
 経済的暴力というのは、生活費を渡さない、就労させない、家計の自由を与えない、借金を負わせるなどです。毎日毎日お金は渡されるのですが買い物をすると、おつりとレシートは夫に返さなければならず、細かくチェックされ問題がなければOKをもらえる。これですと、彼女の自由なお金というものがありません。いつもコントロールされている。お金までコントロールされている。それから、自分で自分のお金は稼ぎたいと思って就職したのだけれども、夫が勝手に就職先に来て、あしたから妻は来させませんといってやめさせた夫もいました。
 子どもを利用した暴力もあります。子どもに悪口を吹き込むケースは多いです。今、離婚の結果、子どもが父親の元に行く例があります。父親が経済的に豊かであるとか、子どもの世話をおじいさん、おばあさんがすることができることで子どもが父親のところへ行ってしまうのです。父親に親権があっても、子どもは時々面会で母親と会うことはできるのですが、父親が母親の悪口をさんざん言っていることもあり、それで子どもはだんだんと、母親のことを、お母さんと呼ぶのがつらくなっていったという話もありました。
 社会的暴力は、行動を監視する、親戚・友人との交際を制限する、外出や電話・メールを細かくチェックするなどがあります。これもコントロールの1つです。
 DVは公的機関、専門機関に相談することができます。あなたは1人じゃありませんということを、その当事者の方たちや子どもたちに伝えるのが大切だと思います。
 次に、DV家庭における子どもの問題についてお話します。DVを目撃した子どもたちに調査した結果、「自分への暴力より他の家族に対する暴力のほうが怖かった」「どなった声を聞くとびくついた」「なぜ自分の父は、こうなんだろう、死ねばいいのに」「母が泣くのがつらくてそれしか覚えていない」「なぜ母は、こんな父といるんだろう」といった意見が出てきています。家庭内における暴力の中で、子どもたちはその家庭の中にいられなくなり、罪を犯してしまうことがあります。例えば、家に帰るのが嫌になったら、外で過ごしてしまう。そうすると学校にも行けなくなるということになる。学校へ行けなくなったらどこへ行くのかというと、悪い仲間と過ごすしかなかったりします。そういうDVが行われている家庭で育った子どもたちの犯罪率は、アメリカでは高い数字になっています。日本でも少し統計を取るようになってきています。HELPで、父親に対してもものすごいののしりを言っている子どもがいました。ほとんど2週間か3週間すると、子どもたちは精神的に安定していくのです。子どもというのはスタッフと一緒に遊ぶ中で精神が安定していくのですが、人に憎しみを抱き、母親に対しても暴言を吐く、父親に対しては殺してやると言う子どもたちがいます。その中で、子どものケアに対しては私たちのシェルターでもさまざまなセラピーをやっております。ダンスセラピーや絵を描いたり、アロマテラピーなどを一緒にやって、子どもたちとお母さんのケアをするようにいたしております。
 女性と子どもへの性的暴力については、DV家庭で育った子の約6%が性的虐待被害に遭っていました。毎年350人以上の子どもたちが、DV家庭で身近な大人たち、特に実の父からの性的虐待に遭っていることになります。そのうち、深刻な継続的な暴力被害は10%といわれています。性暴力被害の対策としては、早期性教育と発見の必要性があります。しかし、性暴力被害当事者に有効な支援は今のところありません。最近、特にこの性的暴力を受ける子どもたちに出会っているので、私たち民間シェルターでも、調査の結果、何とかケアしていかなければならないとなりました。電話相談でも、父親から性的な虐待を受けていると相談されたりします。それから、60歳代を超えているのに、自分が子どものときに父親から暴力を受けた、そのことによってずっといまだに苦しんでいるという方もいらっしゃいました。また、父親が最近亡くなったのですが、父親はなぜ亡くなるのに私に対して謝ってくれなかったのかと苦しむ方もいらっしゃいます。ですから、性暴力でできた傷は、長期間、消しがたいものになってしまいますのでできるだけ早くにケアをすることが大切です。
  ここからは、与えられた時間の中で少し国際結婚の話をさせていただきます。皆様は日本の中で国際結婚をした人たちがどのくらいいらっしゃるか知っている方はいますでしょうか。今、2006年の統計を見ると4万4,701組で、日本で結婚する16組に1組が国際結婚です。外国籍同士の結婚を合わせると15組に1組になります。2006年に日本で生まれた赤ちゃんのうち、31人に1人が、両親あるいは片方の親が外国人です。ですから、そのくらいたくさんの人たちが国際結婚をされている。一番多いのがアジアの人たちです。タイ、フィリピン、インドネシア、中国、韓国。それから中南米ではコロンビア。そして、ヨーロッパの人たちもいます。アメリカ、ドイツ、ルーマニア。もうさまざまな人たちが日本人と結婚しています。
 国際結婚で生まれてくる子どもたちは国際人です。子どもたちは多文化、多民族共生社会の結合点であると、移住労働者と連帯するネットワークが提言を出しております。国際結婚の中で、最近、人身取引に当たる偽装結婚が行われています。夫が日本人で妻が外国籍の国際結婚は、80年代には農村や過疎地の「嫁」不足とあっせん業者の問題がありました。このような過疎地のあっせん料を払った夫から、家の跡継ぎを産む役割、老父母の介護など、結婚が実態として人身売買となっている場合があります。夫との間の言葉の問題や文化、生活様式の違いの上に、世代のギャップなどもあり、移住女性がストレスと孤立感によって、小浜というところでは殺人事件が起こっております。
 国際結婚をする女性たちは、ブローカー(あっせん業者)の手によって日本で男性とお見合いをしたりする。そのお見合いをするのも数日程度で、すぐ結婚して日本に移住させられる。その中には、結婚の名を借りた売春が行われたりしています。そのお金はブローカーが搾取しているケースも多いです。 偽装結婚は警察も注目しております。しかしながら、女性たちの中で、本当に自分は日本人男性と結婚するために日本に来たと言っている女性たちも多いです。ですから、捕まったときに警察が調査をしまして、この女性は人身取引の被害者なのかそうでないのかきちんと調べます。女性たちは、自分は国で盛大な結婚をして日本に来た。だけども、夫が求めていたのは嫁としてではなく、子どもを産むとか働きに出してそのお金を得るとか、違う目的で自分を使っていたということが話されています。この国際結婚はなかなか見えてこなくて、電話相談の中にはそれは結婚には当たらないかもしれないので、警察にいって相談してきてくださいということを伝えます。私たちは、警察に連絡して、こういう方がうちに来られているから、ぜひ被害者として相談所に入所するとかできるようにお願いしますと言っています。
 外国籍の被害者の一番の問題というのは言葉です。一にも二にも三にも言葉の問題です。今、皆様のお手元に外国籍の電話相談の、これは局番が0120で始まる案内で7か国言語に対応しています。これは日本語も含まれています。0120-279-338(つなぐ・ささえる)です。その後、1番の日本語の生活相談か、2番の7か国言語の外国籍相談かを選べるような形になっています。ちなみに、今、コロンビアやスペインなど、いわゆる日系人の方の相談がものすごく増えております。
 その中で、日系人の人たちの問題とは、一体何でしょうか。2世、3世の方となると、20年以上日本にいらっしゃる方もいます。その方の問題の多くは、日本語ができないことです。20年以上も生活しているのに、なぜ日本語ができないのだろうと、私たちは頭を抱えますが、それは、1つのコミュニティで日系人の人と生活していたので、日本語を話す必要がなかったのです。しかし、いざ仕事がなくなった、病気になった、交通事故に遭うなどといった問題を抱えた時に、役所に行くには日本語を話せないといけないですよね。ところが、日本語ができない。こういった方に対しての言葉のサポートを、2番の外国籍相談でやっております。例えば今現在、駅にいてお金が300円しかないのです、どうしたらいいですかといったときに、今日1日はどこかで寝てくださいと、明日になったらあなたのところに、私たちから派遣したその地域にいる支援する人たちがあなたのところに参りますから、今日1日は我慢して待っていてくださいと言います。交通事故の相談には弁護士を相談者のもとに向かわせます。必要であれば、役所も一緒についていきます。このように、外国籍の方の電話相談は電話だけではおさまりません。どうしてもその人たちに付き添って、アフターケアをしなければならない人たちの問題があるのです。それが2番の窓口です。
 外国籍の方が何か問題があれば、ここに電話してもらいますと、それぞれの地域にいる電話相談の方が対応し、そして何が問題であるかをしっかりと検討してくれます。
 ただし、7か国言語ですので、その他の言語はありません。しかしながら、他の言語は、全国に外国籍の方を支援する団体が100ぐらいありますので、対応のできる団体の連絡先を教えるようにしております。外国籍相談は毎日は16時から22時まで、対応しております。
 ちなみに、3番は日本国籍の女性のための相談窓口で、1番とともに24時間、電話相談を受けています。4番がセクシャル・マイノリティ、5番が自殺防止となっており、専門の人たちがこの窓口に来ております。
 今、一番の問題は、日本人の相談窓口につながりにくくなっていることです。常に電話がかかってきています。私もしばらく1番と3番を担当しましたが、置いたと思ったらすぐに電話がかかる。女性相談も、全国33か所で受けていますので、女性の方は心の問題でもDVの問題でもこの番号につながりますと支援を受けられます。ですので、何度も何度も電話してください。あきらめないことが大切とお伝えしてください。これは厚生労働省から、1年の認定事業として受けております。この相談窓口ができたことで、ほんとうに多くの方たちが助かっていると思うのですが、これが来年で終わってしまうと大変なことになります。引き続き、来年も再来年も継続して支援をしていただかなければなりません。 次に、日本語教育の必要性についてお話します。これは本当に必要です。日本人と結婚した外国籍の方たちに日本語教育をしないと、子どもたちの教育にも影響を与えてしまうからです。最近、韓国に行きましたときに、移住者の問題についてさまざまな施設を見学に行きまして、そして話を聞きました。韓国では、移住者の家庭には支援者が家庭にまで行って韓国語の勉強を教えるそうです。そこはすごいなと思います。ですから、日本でもそのくらいの取り組みが必要だと思います。日本に住む外国籍の子どもたちのほとんどは日本語を話します。将来、日本の国を背負って立つ子どもたちです。その子どもたちに対しての支援が不十分ではないでしょうか。ですから、皆さんには教育の問題も考えていただければありがたいです。
 また、就労支援の必要性についての話ですが、仕事がないということは、最初は生活保護に頼るしかありません。ですが、仕事ができれば、生活保護を受けている状況から抜け出したいと思っている人たちが多いですから、就労の支援が大切なのです。女性たちが、外国籍の方たちが、日本の中で生活していくのは本当に大変ですと言っています、ほんとにそうだろうなと思います。
 ご清聴ありがとうございました。

質疑応答
【質問】  先生のお話をお聞きしながら、あまり自分の近くで加害というものがないものですから、少しお聞きしたいなと思うのですが、DVの加害男性なのですが、1つには自分の体験というものが反映されているといった特徴もあるかと思うのですが、先生が関わってこられて、何かDVの加害者に共通する特徴というようなものはあるでしょうか。
【大津】  難しいですが加害者の母親方に聞きますと、父親からの暴力を受けていたと言われることがあります。しかし、それはすべてではありません。
 よく、アルコール依存と暴力ということがよく言われると思うのですが、アルコール依存症であるから暴力を振るうということにはなりません。アルコール依存になっている人たちの中でも、暴力を振るわない人たちもいます。しかし、暴力を振るう人たちもいます。私の知っている被害者の人で、夫がアルコール依存症だったものですから、いつも夫がお酒を飲んだときにあなたは暴力を振るわれるのですか、と聞いたら、そうではないと言いました。お酒を飲んでいると、確かに絡んできたりするのですが、それがそのまま暴力にはつながっていなくて、かえって素面で、お酒を飲んでいないときが怖いというのです。ですから、よくお酒と暴力の関係性というのを言われる方もいるのですが、決してそうではないと思います。
 ただ、DVは日本のジェンダーの問題だとよく言われます。男というのは強いものでなければならない、男が上で女が下という考え方です。そのような教育をされてきますと、例えば妻が何か一言言っただけで、男性としての沽券に関わるということで怒り出すということがあります。自分が、家庭の中では長であるから、管理しなければならないと思い込んで過ごしてきたのだと思います。その話を聞くと、やはり世代連鎖はあると思います。父親がそういう母親をつくった、母親は一切文句を言わなかった。そのような家庭の中で育ってきているから、妻が文句を言うのは許せない。だから暴力を振るう。先ほど言ったみたいに、しつけ。自分はしつけで妻を殴ったりする。だからこれは当然のことだと言われた人もいます。
 一方、今、男性のシェルターというのは1か所もありません。女性のシェルターは全国に、婦人相談所、民間のシェルターを合わせ100もあります。その中で、男性のシェルターはないということは、男性の方々はシェルターは必要でないと思っていらっしゃることになります。海外のシェルターには男性のシェルターが必ずあります。それは人身取引の被害者になった人たちがそこに入ることもあります。私は、男性が男性のための相談所をぜひつくっていただきたいと思っています。私たち女性が生活相談すると、相談者の男性たちは、相談先が女性であることがわかったとき、しつこさというのか何というのか。この男性は女性に対して暴力を振るう人だろうなという印象を受ける人もいます。そのようなときは、女性ではなくて男性がきちっとその男性相談者に向き合っていければと思っています。私が相談でいわれるのは、妻は出ていってしまった、子どもたちも出ていってしまった、今自分はひとりである、さみしいということで相談をされるのですが、男性の方は男性のための相談にきちっと乗ることが必要だと思うのです。私自身は二足のわらじは履けないです。私は女性からの相談はきちっと受けられますが、先ほど、私にはトラウマがあるとカウンセラーが言ったと言いましたが、男性の相談対応は怖いのです。それでも受けてはいますが、途中でしんどくなることもあります。男性の方が男性の相談をされれば、なぜ暴力を振るうことになっていったのか、じっくりと聞くことができますし、その暴力を振るった男性に対して、反省の必要がありますねとか、さまざまなアドバイスをすることができると思います。

【大津】  私から追加説明があります。
 DV証明書というのを、皆さん、ご存じですか。DVを受けた方が警察か、婦人相談所に相談をすると、DV証明書を発行してもらえます。それは1日や2日で出されることもありますけれども、5日かかることもあります。
 新しい入管法が7月にできました。例えば外国籍の方は、夫と別れて住所を変えたり、離婚をしたりして住んでいるところから家を出たときには、直ちに当事者の方が入管に行って新しい住所地を言わなければならないのです。しかし、DVの方たちは住所地を言えません。そのときに必要になってくるのがDV証明なのです。そのDV証明を婦人相談所からもらい、そして入管でこの証明を見せ、夫からの暴力で今は住所地を移していませんということを伝えると、きちっと入管が配慮をいたします。外国籍だった女性たちは、そういうことがわからないので、入管に行くのが怖い怖いといって行かないのですが、入管ではきちっと話を聞いてくれますので、そういうことも1つ知識として入れていただきたいと思います。
 日本人の場合は、夫からのDVから逃げて婦人相談所に行きます。例えば保護命令でも、婦人相談所でDV証明書を発行してもらって裁判所に行ったりすると、それがきちっと記録として残され、早く保護命令が出ると言われていますので、そういうことも覚えておいてください。DV証明書というものがあるということをぜひ覚えていただきたいと思います。
 それから、日本人女性では、最近、配偶者からの暴力の被害者の保護に関する証明書というものが出ております。それに関しては、自分が被害に遭ったことを届け出ることができるようになっております。そのDVに関する公的機関が発行する証明が先ほどのDV証明なのです。一時保護の利用や相談のみの利用がある場合は、配偶者からの暴力の被害者の保護に関する証明書を発行してもらいます。
 いくつかのことが新しく内閣府から出ておりますので、インターネットで内閣府のDVに関する資料を検索していただきますと、いろいろなものが出てまいります。例えば、2012年9月26日に総務省自治行政局住民制度課が住民基本台帳に関する通知を出しております。「ドメスティック・バイオレンス、ストーカー行為等の被害者の保護のための措置に係る支援措置申出書の様式の変更と児童虐待等の被害者の支援措置に関する留意点について」というものですが、住民基本台帳でも、住所地が明かせない人たちに対してきちっと配慮されております。「住民基本台帳事務における支援措置申出書」というものもありますので、ぜひインターネットで調べてみてください。
 もう1点、女性たちが一番気をつけなければならないことに、郵便の転送手続きがあります。郵便局で転送届けを出されたときに、郵便局でどこに住所を移動しているかということがわかったら、夫が自分は夫であるということで、郵便がどこに転送されるかということがわかることがありますので、必ずその点は気をつけていただきたいです。
 それから、夫が子どもたちに品物を、弁護士を通してプレゼントする。その中にGPSという探知機のようなものが入っていたことがあります。私のところでは、子どもの誕生日に自転車を夫が贈りたいというので、直接には来ませんで、弁護士事務所に届きました。弁護士は、箱で送ってくる場合、箱をひっくり返してチェックすることはありますが、自転車のわからないところにあったのでしょう。自転車を子どもの元に届けましたら、それでどこにいるかがわかり、朝、学校へ行くときにその子どもを連れ去ろうとしました。子どもは嫌がったために無理やり連れ去ろうとしたものですから、車に押し込んだときに骨折してしまいました。ですから、プレゼントには注意をしなければならないということを、私たちは身にしみて感じております。
 調停のときの書類に、被害者の人たちの住所地が書かれています。裁判所で調停するとき、被害者の住所が書かれているので、相手の弁護士は見ようと思ったら見えますし、本人も見ようと思ったら見えるので、そのときは黒塗りにしてお渡しするように頼みます。消印も、どこから送られたかということも気をつけないといけないです。子どもに関するものや銀行引き落とし、それぞれのいろいろなことに気を配る必要があると思われます。
 避難所でも、直接郵便物を加害者関係からもらうことはまずありません。弁護士を通していろいろなものが届けられるようになっています。それでもやっぱり知れ渡ってしまうということに関しては、細心の注意を払っております。
 以上です。
 はい。ちょっと言い忘れたものだけお話ししました。
ありがとうございました。