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人権に関するデータベース

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地方公共団体関係資料

埼玉県人権施策推進指針
情報の種類 地方公共団体関係資料
タイトル 埼玉県人権施策推進指針
時期 2002/03/01
主体名 埼玉県
【 内容 】

埼玉県人権施策推進指針


第1章 基本的考え方

 1 指針策定の背景

(1) 国際的な潮流
 20世紀に二度にわたる世界大戦の惨禍を経験して、世界平和と安全の確保は世界の共通の願いとなり、昭和20年(1945年)に国際連合が設立されました。「国連憲章」では、「基本的人権と人間の尊厳及び価値と男女及び大小各国の同権とに関する信念をあらためて確認」した上で、第一条に「国際社会の平和及び安全を維持すること」を目的として明記しています。
さらに、第3回国連総会(昭和23年(1948年)12月10日)で、「世界人権宣言」を採択しました。前文において、「加盟国は、国際連合と協力して、人権及び基本的自由の普遍的な尊重及び遵守の促進を達成することを誓約」し、「すべての人民とすべての国とが達成すべき共通の基準」としました。
第一条では、「すべての人間は、生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である。人間は、理性と良心とを授けられており、互いに同胞の精神をもって行動しなければならない。」と規定しています。
 この世界人権宣言の精神を実現するために、「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」、「国際人権規約」、「難民の地位に関する条約」「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」、「児童の権利に関する条約」等の個別の人権保障のための条約が採択され、その数は現在26にのぼっています。
こうした条約の採択による取組だけでなく、国際年の設定や国連特別総会等による取組も行われてきました。
国際婦人年(1975年)や「国連婦人の10年」(1976~1985年)は、女性の地位向上への取組を世界規模の動きとし、さらに、「第4回世界女性会議」(1995年)や国連特別総会「女性2000年会議」は、女性問題を人権問題として明確に位置づけ、人権問題としての取組が一層強化されました。また、国際障害者年(1982年)や「国連障害者の10年」(1983~1992年)は、障害者の社会への完全参加と平等の確保を呼びかけ、ノーマライゼーションの理念の普及に努めてきました。
さらに、国際先住民年(1993年)を契機に先住民を巡る議論が活発化し、国際高齢者年(1999年)では、高齢者の人権についての認識が深められてきました。
このような様々な取組にも関わらず、東西冷戦構造の崩壊後も、人種、民族、宗教の対立あるいは政治的背景や経済的背景に起因する地域紛争や局地的戦争、テロや迫害等の人権侵害事件は跡を断たない状態が続いています。
 このような厳しい国際社会の諸問題を受けて、平成5年(1993年)、ウィーンにおける世界人権会議で「ウィーン宣言及び行動計画」を採択しました。この会議では、これまでの人権教育の潮流を再認識し、女性、子ども、高齢者、少数者、難民、先住民、極貧の人々、HIV感染者あるいはエイズ患者、並びに他の社会的弱者の人権の強化を強調し、そのための実効ある行動として人権教育の展開を示しました。
 これを受けて、平成6年(1994年)の第49回国連総会では、平成7年(1995年)から平成16年(2004年)までの10年間を「人権教育のための国連10年」とする決議が採択され、世界各国において「人権教育」を積極的に推進するよう「人権教育のための国連10年行動計画」が示されました。
 

(2) 国内の動向
 昭和22年(1947年)に制定された日本国憲法は、基本的人権の尊重を大きな柱とし、侵すことのできないものであると保障しています。いいかえますと、我が国の憲法は、我が国の人権宣言であるとも言えます。
 その後、教育基本法や障害者基本法等の各種法律によって、基本的人権の擁護が実行に移されてきました。
 また、「国際人権規約」、「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」、「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」、「児童の権利に関する条約」等を批准し、国際的人権擁護の潮流に沿う方向で人権施策の充実及び普及が図られてきました。
 「人権教育のための国連10年」の取組では、内閣総理大臣を本部長とする「人権教育のための国連10年推進本部」が設置され、「『人権教育のための国連10年』国内行動計画」を、平成9年(1997年)7月に策定しました。
 この国内行動計画は、新しい概念である「人権という普遍的文化」の構築を目指し、そのためには、学校、社会、企業等あらゆる場を通じて人権教育を展開すること、そして、あらゆる人をその対象とすること、特に公務員、教員、警察官等の「特定職業従事者」に対しては取組を強化する旨が明記されました。さらに、重要課題への対応をあげ、女性、子ども、高齢者、障害者、同和問題、アイヌの人々、外国人、HIV感染者等、刑を終えて出所した人が例示されました。
 また、同和問題に関しては、総務庁の審議会である地域改善対策協議会が、平成8年(1996年)5月に「同和問題の早期解決に向けた今後の方策の基本的な在り方について」と題する意見具申を行いました。
 冒頭に、各地で地域紛争が多発して多くの犠牲者がでていることに触れ「紛争の背景は一概には言えないが、人種や民族間の対立や偏見、そして差別の存在が大きな原因の一つであると思われる。こうした中で、人類は、『平和のないところに人権は存在し得ない』、『人権のないところに平和は存在し得ない』という大きな教訓を得た。」と述べて、「21世紀は『人権の世紀』」と呼んでいます。
 特別対策による地域改善対策事業は、平成9年(1997年)3月をもって終了するという基本姿勢を示した後、今後の対策については、「差別意識の解消に向けた教育及び啓発の推進」及び「人権侵害による被害の救済等の対応の充実強化」に焦点を絞り、同和問題から広く人権問題への発展を方向づけました。
 また、高齢社会対策基本法をはじめ、アイヌの文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律、男女共同参画社会基本法、児童虐待の防止等に関する法律、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律など、人権の視点から種々の法律の制定や改正が行われています。
 さらに、人権擁護に関する施策の推進について、国の責務を明らかにするとともに、必要な体制を整備し、もって人権の擁護に資することを目的とした「人権擁護施策推進法」が、平成9年(1997年)3月から5年の限時法として施行されました。
 この法律に基づいて、「人権擁護推進審議会」が設置され、「人権尊重の理念に関する国民相互の理解を深めるための教育及び啓発に関する施策の総合的な推進に関する基本的事項」及び「人権が侵害された場合における被害者の救済に関する施策の充実に関する基本的事項」について審議され、前者は、平成11年(1999年)7月に、後者は、平成13年(2001年)5月にそれぞれ答申がありました。
 現在、人権救済制度の在り方について、様々な議論が展開されています。
 平成12年(2000年)12月、人権の擁護に資することを目的として「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」が施行されました。第5条では、地方公共団体の責務を定め、「国との連携を図りつつ、その地域の実情を踏まえ、人権教育及び人権啓発に関する施策を策定し、及び実施する責務を有する。」とされ、第7条では、国は人権教育及び人権啓発に関する基本的な計画を策定しなければならないと規定されました。
 人権が尊重される社会の実現に向けて、地方公共団体の役割はますます重要となってきています。

 (3) 埼玉県における取組
 埼玉県では、埼玉県長期ビジョンや埼玉県新5か年計画において、「人権尊重の社会づくり」を目指して、同和問題の解決をはじめ、差別のない明るい社会を実現するための「差別を許さない県民運動」の推進、社会全体で子育てを支援する環境づくりを図るための「子どもの人権を尊重する社会づくり」の推進等、様々な施策を推進してきました。
 さらに、男女共同参画に関する苦情処理制度を盛り込んだ男女共同参画推進条例の制定、高齢者の権利擁護等を定めた「埼玉県高齢者保健福祉計画(彩の国ゴールドプラン21)」やバリアフリー社会を目指した「彩の国障害者プラン」の策定等、新たな条例や計画を策定してまいりました。
 しかしながら、今なお様々な偏見や差別、児童等に対する虐待などの人権問題が跡を絶たず、国際化、少子・高齢化、技術革新など時代環境の変化の急速な進展に伴い、人権問題は多様化、複雑化するとともに、プライバシーをめぐる問題など新たな人権課題が生じています。
 そこで、平成14年(2001年)2月に、「彩の国5か年計画21」を新たに策定し、「すべての県民がお互いの人権を尊重しながら共に生きる社会」の実現を目指して、「人権が尊重される環境づくり」、「差別を許さない県民運動の推進」、「女性に対する暴力の根絶と安全の確保」や「児童虐待の防止」「子どもの権利を大切にする社会づくり」に取り組んでいくこととしました。
 また、平成13年(2001年)4月、庁内に「埼玉県人権政策推進会議」を設置し、全庁あげて「人権尊重」の視点を基本においた行政運営を行うとともに、人権施策を総合的かつ効率的に推進してまいりました。
 さらに、県が取り組むべき人権課題や施策展開の方向性などを明らかにした人権施策の基本的な指針を策定することとし、平成13年(2001年)5月に学識経験者からなる「埼玉県人権施策推進懇話会」を設置し、10月30日に提言をいただきました。この間、6月に県民の意見を求め、さらに、12月に「埼玉県人権施策推進指針(仮称)」試案を公表し、県民コメントを実施して、多くの提言等をいただきました。こうした提言等を踏まえ、平成14年3月、「埼玉県人権施策推進指針」を策定しました。
 平成13年(2001年)7月に行った「人権に関する意識調査」結果では、「今の日本社会において、どのくらい基本的人権が尊重されているか」との問いに、半数以上の者が「尊重されている」と回答する一方で、「尊重されていない」と回答する者も4割を超えていました。また、「人権尊重の意識は、10年前に比べて高くなっているか」との問いに、「やや高くなっている」との回答が39.6%ともっとも多い一方で、「変わっていない」との回答も31.4%ありました。「本人や、身の回りの人の人権が侵害されたと感じたことがあるか」との問いに、約3割の者が「ある」と回答しています。

 2 人権施策の基本理念
   人権施策の基本理念は、「すべての県民がお互いの人権を尊重しながら共に生きる社会を実現する」ことです。
   このような人権尊重社会は、次の3つがともに実現した社会をいいます。

  (1) 一人一人が個人として尊重される社会
 人権とは、すべての人間が生まれながらにしてもっている権利で、人間が人間らしく生きていくための、誰からも侵されることのない基本的な権利です。一人一人が尊厳をもったかけがえのない存在として尊重される社会の実現を目指します。
  (2) 機会の平等が保障され、一人一人の個性や能力が発揮できる社会
 すべて人は平等であって、性別、年齢、障害、社会的身分、門地、民族等によって差別されず、それぞれ一人一人の個性や能力を十分に発揮する機会が確保されている社会の実現を目指します。
さらに、社会的支援を必要とする女性、高齢者、障害者等が地域社会の中で自立できる環境の整った社会を目指します。
  (3) 一人一人の多様性を認め合い、共に生きる社会
 それぞれの人格や個性を認め、お互いの違いを尊重しあう社会を目指します。特に、国際化が進展する中で、様々な文化を理解し、お互いの個性を尊重し合いながら、共に生きる社会の実現を目指します。 

 3 人権施策推進に当たっての視点
 県は、前記2の「すべての県民がお互いの人権を尊重しながら共に生きる社会を実現する」ために、県政のあらゆる分野で人権の尊重を基調において施策を推進します。
 人権施策の推進に当たっては、次の3つの視点に重点をおいて総合的に展開します。
 さらに、女性、子ども、高齢者、障害者、同和問題、外国人、HIV感染者等、犯罪被害者やその家族、アイヌの人々などを重点的に取り組むべき分野別人権課題とし、同様に3つの視点に重点をおいて、その方向性を明らかにし施策を展開します。

 (1)「人権教育・人権啓発」
 県民が、様々な場を通じて、人権尊重の理念に対する理解を深め、これを体得することができるよう、多様な機会の提供、効果的な手法の採用などによる人権教育・人権啓発を推進します。
 また、公務員一人一人が人権行政の担い手であることを積極的に意識して、人権尊重の理念に基づき日常の職務が行われるよう研修の充実を図ります。

 (2)「相談・支援」
 県民が、人権に関する様々な問題について気軽に相談できるよう、各相談機関の充実や周知を図るとともに、現に人権侵害を受けている人や受けるおそれのある人に対し、問題の早期解決が図られるよう、相談、権利擁護や自立支援、一時保護などの取組を充実していきます。

 (3)「県民、NPO、企業等と協働した地域づくり」
 一人一人の人権が尊重される地域社会づくりのためには、県民、NPO、企業等の多様な地域社会の構成員が相互に連携を図り、あらゆる分野で幅広い取組が必要です。行政、県民、NPO、企業などがパートナーシップを確立し、社会の連帯により広く人権を支える仕組みをつくります。

 ※ 人権教育とは、「人権尊重の精神の涵養を目的とする教育活動」をいいます。
   人権啓発とは、「県民の間に人権尊重の理念を普及させ、及びそれに対する県民の理解を深めることを目的とする広報その他の啓発活動で、人権教育を除いたもの」をいいます。


 4 指針の性格
(1) 人権尊重の視点に基づいた行政運営を行うに当たっての施策展開の基本的な考え方を示すものです。
(2) 多様かつ複雑な人権問題に対応するため、総合的な人権施策の体系化を図るとともに、分野別人権施策の方向性を明らかにし、人権施策を効果的かつ効率的に実現するためのものです。
(3) 県民をはじめNPOや企業、市町村などに対して県の人権施策の方向性を示し、人権が尊重される社会づくりのための連携や協働により、人権施策の推進を図るものです。
(4) 県職員一人一人が人権尊重の視点に立った行政運営を行うよう、それぞれの人権意識の高揚を図るものです。
(5) 「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」や「人権教育のための国連10年」に関する国内行動計画の趣旨に積極的に対応するものです。
(6) 県の総合計画である「埼玉県長期ビジョン」、「彩の国5か年計画21」を踏まえるとともに、県の部門別計画等と密接に関連を持ったものです。


 5 目標年次
 人権施策を推進するためには、長期的視点に立ち持続的に取り組んでいく必要があることから、概ね平成23年(2011年)までの10年間を見通したものとします。
 なお、社会情勢等の変化を踏まえ、必要に応じて見直しを行います。


第2章 人権施策の推進方向
 Ⅰ 人権教育・人権啓発
   1 人権教育

 本県においては、「人権を尊重する教育の推進」を教育行政の重点施策に位置付けて、人権尊重の観点に立った学校教育の推進、同和教育の推進、障害児理解教育の推進、男女共同参画社会の確立に向けた教育の推進を図ってきました。 今後は、その成果を踏まえ、様々な人権問題の解決を目指し、学校、家庭、地域社会を通じて、幼児、児童生徒をはじめ広く県民に人権尊重の精神を培う人権教育を総合的に推進します。
 そこで、次のとおり基本的な方針を定め、人権教育を推進します。

ア 県民が主体となる人権教育
 県民一人一人が、人権が尊重される社会を確立する担い手であることを認識し、一人一人が人権問題に関する正しい理解を深め、その解決に主体的に取り組めるよう人権教育を推進します。
イ 生涯を通じた人権教育
 生涯学習の視点に立って、幼児期からの発達段階を踏まえ、学校教育、社会教育において、相互に連携を図りつつ、県民一人一人の生涯を通じて、人権教育を推進します。
ウ 人権感覚を培う人権教育
 県民一人一人が人権を尊重することの重要性を正しく認識し、人権への配慮が態度や行動に現れるような人権感覚を身に付けた県民の育成を図る人権教育を推進します。
エ 共生の心を醸成する人権教育
 自他の人権について正しく理解し、その権利の行使に伴う責任を自覚して、人権を尊重し合う共生社会を築くため、人権への意識を高め、自己実現の権利や多様な考えを認め合うなど、共生の心を醸成する人権教育を推進します。
 
 この方針に基づき、すべての人の基本的人権が尊重される彩の国づくりを目指し、女性、子ども、高齢者、障害者、同和問題、外国人、HIV感染者等、犯罪被害者やその家族、アイヌの人々などに関する課題を解決するために、学校教育、社会教育における人権教育を推進します。
 また、同和教育については、これまで積み上げられてきた成果と手法への評価を踏まえ、人権教育の中に位置づけて推進します。


(1)学校教育における人権教育

 【現状と課題】
 学校教育においては、子どもたちの発達段階に即しながら、各教科等の特質に応じ、全教育活動を通じて人権尊重の意識を高め、一人一人を大切にする教育を推進することが必要です。
 これまで、学校では人権に関する様々な課題について、子どもたちが授業で学習したり、クラスで話し合ったりするなど、発達段階に応じた取組が行われてきました。しかし、いじめの問題などに見られるように、子どもたちに相手の立場に立った考え方や人権意識が十分浸透していない面が見られます。
 このような中、生命を大切にし、自他の人格を尊重し、個性を認め合う心、正義感や公正さを重んじる心など、豊かな人間性を育成することが必要です。

【施策の展開方向】
 子どもたちの発達段階に即しながら、各教科等の特質に応じ、全教育活動を通じて一人一人を大切にする教育を推進し、基本的人権を尊重し主体的にあらゆる人権問題を解決しようとする子どもたちの育成を目指します。

① 全教育活動を通じての人権教育の推進
 人権教育の視点に立ち、教科や道徳、特別活動、総合的な学習の時間などで、目標や内容を明確にするとともに、相互の関連を図りながら、人権に対する感性や人権感覚を育てます。 

ア 互いに尊重し助け合う心と態度を育てる教育活動の推進
  自他の個性を認め合い、共に学ぶことや活動することの大切さ、やり遂げた成就感や満足感を味わうことのできる教育活動を推進し、互いに尊重 し助け合う心と態度を育てます。
イ 体験的な活動の充実と家庭や地域社会との連携
  子どもたちの発達の特性を踏まえ、家庭や地域社会との連携を図りながら、ボランティア活動や自然体験活動、高齢者や障害者等との交流などの 豊かな体験の機会の充実を図り、人権を尊重する心と態度を育てます。
ウ 幼稚園、小・中学校及び高等学校の連携による人権教育の推進
  幼稚園、小・中学校及び高等学校の教育の関連について配慮し、人権を 尊重する心と態度を育てます。特に、幼児期の教育については人間形成の 基礎を培う重要な役割を担っていることを踏まえ、幼稚園と保育所、小学 校との一層の連携と人権尊重の精神の芽を伸ばし育てる指導の工夫に努めます。 

② 人権教育の研究推進
  人権を尊重する心と態度を育てるための教育の在り方について、幅広い観点から実践的な研究を行い、人権教育に関する指導方法等の工夫・改善を図ります。

③ 教育相談体制の充実
  相談員の配置やカウンセラーの派遣など、子どもたちの理解を深め、いつでも相談できる体制の充実に努めます。

④ 教職員に対する研修会等の充実
  人権に関する研修会の実施や学習資料、指導資料などの作成・配布、人権教育の研究指定校による実践的な取組、体罰根絶に向けた研修などにより、教職員の資質や指導力の向上を図ります。


(2)社会教育における人権教育

【現状と課題】
 社会教育においては、生涯学習の視点に立って、公民館等の社会教育施設を中心に学級・講座の開設や交流活動など、人権に関する多様な学習機会が提供されてきました。参加者は、様々な人権問題について学びながら、人権が尊重される社会の実現に向けて努力してきました。しかし、知識伝達型の講義形式の学習に偏りがちであったことや指導者が固定しがちであったことなどから、ともすると参加者の意欲が減退しているなどの問題が指摘されています。
 このような中、生涯にわたって人権に関する多様な学習機会の一層の充実を図るために、学習意欲を喚起する学習プログラムを開発・提供していくことが必要です。

【施策の展開方向】
 社会教育における講座や研修会の内容として、参加体験型学習を取り上げるなどして、身近な課題についての意見交換をすることにより、日常生活において態度や行動に現れるような人権感覚が身に付くような学習機会の提供に努めます。また、人権に関し幅広い識見のある人材を活用するなど、指導体制の充実を図るとともに人権教育の指導者の養成を図ります。

① 生涯学習における人権教育の推進 
  一人一人がお互いの人権を尊重し合う共生社会を実現するため、地域住民の人権意識を高める学習機会を提供したり、参加・交流を促進する事業を実施するなど、生涯を通じて学習できる人権教育の充実を図ります。

② 人権教育の学習資料の開発・提供
  様々な人権問題の理解の促進を図る学習教材を目的に応じて開発します。 また、学習が単に知識の習得にとどまらず、社会の構成員としての責任を自覚し、実践活動に結び付くよう、多様な手法を活用した人権に関する学習資料を開発・提供します。

③ 家庭教育における人権感覚の定着と支援体制の充実
  人権教育は家庭から始まります。家庭教育において生命の大切さや人権を守ることを親が教えることにより、豊かな心や人権を尊重する態度を身につけさせることが大切です。そのため、子育てに関する相談体制の整備、親子のふれあいを深めることができる体験活動等の充実、及び家庭教育に関する学習機会の充実を図ります。

④ 人権教育指導者の養成と研修の充実
  学校、家庭、地域社会が一体となって総合的な取組を行うためには、指導者の養成と充実を図ることが重要です。人権尊重の精神を普及させ、人権問題の解決に向けて理解から行動へ結びつく研修会等を充実するとともに指導者の養成を図ります。

2 人権啓発

【現状と課題】
 人権啓発は、同和問題、女性、障害者に関する啓発活動等をはじめとして、それぞれの人権課題ごとにテレビや新聞など広告媒体による啓発、冊子やポスターなどによる啓発、講演会などイベント開催による啓発等を実施してきました。
 その結果「人権の尊重」という社会の大きな潮流とも相まって、人権意識の高揚に一定の成果がみられたところです。
 今後の人権啓発は、一人一人が自分自身の課題として、人権尊重の理念についての理解を十分深めるよう、より効果的に推進することが必要です。

【施策の展開方向】
 様々な人権問題を解決し、人権が尊重される社会を実現することを目的として、人権尊重の思想が地域に広く定着するよう啓発活動を推進します。
 国、市町村、県民、NPO、企業、マスメディアなどと連携した啓発活動をより一層推進します。
 県民が、様々な場を通じて人権尊重の理念に対する理解を深め、これを体得することができるよう、多様な機会の提供や効果的な手法の採用などによる啓発活動を推進します。
 人権に関わりの深い職業に従事する者への啓発や研修を、それぞれの職務、職場に応じて効果的に推進します。

① 県民への啓発
 人権教育・啓発活動体制の充実を図るとともに、国、市町村、県民、NPO、企業、マスメディア等とのネットワーク化を図り、効果的に啓発活動を推進します。
 そのため、「彩の国ヒューマンネットワーク(仮称)」(※1)の設立や「埼玉県人権啓発活動ネットワーク協議会」(※2)の充実を図り啓発活動を実施します。
 また、「人権啓発活動地域ネットワーク協議会」(※3)や市町村、NPO、企業などが行う啓発活動を支援します。
 人権週間にかかわる各種イベントの開催など総合的な啓発活動を実施するとともに、各課題別の啓発活動を展開します。
 人権啓発活動に関する情報収集・提供を充実します。
 より多くの県民に効率的に周知を図るため、マスメディアを積極的に活用した効果的な啓発活動を推進します。

 ※1 彩の国ヒューマンネットワーク(仮称)
 県民、NPO、企業など多様な主体が連携して、人権啓発活動などを行うために設立を予定している組織。
 ※2 埼玉県人権啓発活動ネットワーク協議会
 さいたま地方法務局、県、埼玉県人権擁護委員連合会で構成された、人権啓発活動を行う組織。
 ※3 人権啓発活動地域ネットワーク協議会
   さいたま地方法務局または地方法務局の支局の管轄地域ごとに、法務局、市町村、人権擁護委員協議会などで構成された人権啓発活動を行う組織。平成13年度末現在、さいたま地方法務局及び4地方法務局支局(大宮、川越、越谷、所沢)の5管内に設置されている。

② 企業等への啓発
  人権尊重の意識の高い職場づくりや人権を大切にした会社づくりが進むよう、各種業界団体や経営者等に対する啓発活動を推進します。
  企業の自主的な取組を支援するため、啓発冊子の発行など情報提供に努めます。
また、採用にあたっては公正な採用選考の確立を図り、就職の機会均等に取り組むよう啓発活動を推進します。

③ 人権に関わりの深い職業に従事する者への啓発
 医療、保健、福祉関係者を養成する学校や養成施設のほか、医療機関、社会福祉施設その他の関係団体等に対して、人権に関する教育・研修の充実を働きかけていきます。マスメディア関係者は、人権尊重の視点に立った紙面作り、番組作りが必要であることから、職場における自主的で、積極的な研修等の取組を要請していきます。

④ NPO等との連携強化
  NPO等との連携強化を図り、情報提供等の支援をし啓発活動を促進します。

⑤ 啓発活動の研究
  啓発効果があがるような、新たな啓発活動の在り方について研究していきます。


3 職員に対する人権研修

【現状と課題】
 公務員の仕事は人権に深い関わりを持つことから、従来から研修機関での研修や職場内研修など様々な形態で取り組んできましたが、人権尊重の理念を理解し、その意識が行動に現れるよう、より一層の研修が求められています。

【施策の展開方向】
 すべての職員が人権尊重の理念に基づき日常の職務を行うよう、それぞれの職務に応じた人権に関する研修をより一層充実します。
 また、研修に当たっては、様々な人権問題や差別問題を取り上げるなど、職 員が自らの問題としてとらえ、考えるような研修手法を工夫していきます。

① 行政職員
 行政職員一人一人には、常に人権的配慮が必要であることから、それぞれの業務において適切な対応が行えるよう、人権に関する研修の充実を図ります。
 また、地域社会の一員として、人権教育・啓発の推進に積極的な役割を担うよう、職員の意識改革に努めます。

② 教職員
 すべての教科、道徳、特別活動、総合的な学習の時間等の場面で指導できるよう資質の向上を目指し、あらゆる人権に関する教育のための研修を充実し、指導者である教職員の人権意識の向上を図ります。

③ 警察職員
 警察職員は人権に配慮した公正で適切な職務の遂行が必要であることから、「職務倫理の基本」に基づく職務倫理教育の推進、適切な市民応接活動の強化など人権への配慮に重点を置いた教育訓練を充実させ、人権意識の高揚を図ります。

④ 消防職員
 消防職員は、職務上、人権やプライバシーに関わる活動が必要であることから、県消防学校で行う人権に関する研修を充実します。
  市町村や一部事務組合が消防団員に対して行う人権に関する研修の取組を促進します。

⑤ 医療関係職員
 医療関係職員の業務の遂行にあたっては、インフォームド・コンセント(※)の徹底や自己決定の尊重、プライバシーへの配慮など、人権意識に基づいた行動が必要であることから、患者の立場に立ったサービスを提供できるよう、人権に関する研修を充実します。

   ※ インフォームド・コンセント(informed consent)
      患者に病状や治療目的などを説明し、同意を得た上で治療をすること。

⑥ 福祉・保健関係職員
 福祉・保健関係職員の業務の遂行に当たっては、個人のプライバシーの十分な配慮や人間の尊厳に対する認識など、人権意識に根ざした行動が必要であることから、人権に関する研修を充実します。


 Ⅱ 相談・支援

【現状と課題】
 県では、行政に関する相談や県民生活に関する民事や家庭問題等についての総合相談窓口を設置して相談を行ってます。また、女性や子どもに関する相談をはじめ、障害者、高齢者、HIV感染者等の各種の福祉相談、外国人のための相談、犯罪被害者などに対する相談など個別的な課題ごとに相談機関を設置して対応しています。特に、男女共同参画に関する苦情処理制度の創設、痴呆性高齢者、障害者のための権利擁護相談の実施、子どもの権利救済機関の設置検討など支援、救済に向けた取組も始まっています。
 しかしながら、女性に対する暴力や子ども、高齢者、障害者への虐待をはじめ、人権に関する相談件数が増加するとともに相談内容の多様化に伴い、相談機関の一層の充実が求められています。
 さらに、複雑、多様化する人権問題に対して、迅速かつ総合的に対応することが求められています。
 また、人権侵害に対する相談・支援・救済は、法務局や人権擁護委員により実施され、また、NPO等の民間団体も大きな役割を担っていますが、県の関係機関等との連携が十分に図られているとはいえません。国、県、市町村、NPO等の民間団体が相互の特性を生かし、十分な連携を図っていくことが課題となっています。

【施策の展開方向】
 県民が、人権に関する様々な問題について気軽に相談できるよう、各相談機関の充実や周知を図るとともに、関係職員や相談員の資質の向上に取り組みます。
 女性への暴力、子ども、高齢者、障害者への虐待などのさまざま人権侵害を早期に解決するため、解決のための助言や一時的な保護を行うなど、相談・支援・救済体制の充実を図ります。
 また、痴呆性高齢者、知的障害者、精神障害者などに対する権利擁護や権利擁護の援助を図ります。
 さらに、複雑、多様な人権問題に、迅速かつ総合的に対応できるよう、国、市町村、その他の関係機関を含めそれぞれの相談機関等がネットワーク化を図るなど連携強化の取組を推進します。
 また、効果的な相談・支援施策を実施していくためには、迅速性、柔軟性に優れたNPO等の民間団体と一層の連携を図っていきます。

 ① 相談機関相互の連携強化
 人権問題の早期解決を目指し、県の関係機関をはじめ、法務局などの国の関係機関、市町村、人権擁護委員連合会、NPO等の人権に関係する相談、支援機関等がネットワーク化を図り、連携強化に努めます。

 ② 相談機関の充実
 県民が、人権に関する様々な問題について気軽に利用できるよう、各相談機関の充実や活動内容の県民への周知を図ります。
 さらに、相談窓口機関が研修、交流を行い、関係職員や相談員の資質の向上を図ります。

 ③ 保護・支援の充実
 人権侵害を受けている女性、子ども等に対しては、緊急な相談に応じ、一時保護機能と自立等の支援を充実します。
 また、痴呆性高齢者、知的障害者、精神障害者などの権利擁護や権利行使の援助を図ります。

 ④ 救済(苦情解決等)に向けた取組の充実
 女性への権利侵害等に対する苦情処理制度の充実を図るとともに、児童虐待やいじめなど子どもへの権利侵害に対処する機関を早期に設置します。
さらに、高齢者、障害者など、福祉サービスの利用に関する苦情に対応するための体制の充実を図ります。
 なお、国においては、人権擁護推進審議会の答申を踏まえ、人権侵害を受けた被害者の救済に当たる組織体制等が検討されていますが、県では、これらの機関とそれぞれの役割分担を踏まえ、連携協力関係を深めていきます。

 ⑤ NPO等との連携強化
 NPO等と連携強化を図り、相談体制の充実を促進します。

 Ⅲ 県民、NPO、企業等と協働した地域づくり

【現状と課題】
 県内各地で、県民、NPO、企業などの地域社会を構成する多様な主体による人権が尊重される地域づくりが進められていますが、より一層の取組が期待されます。
 児童虐待やいじめ、DV(ドメスティック・バイオレンス)等の潜在しやすい人権侵害の早期発見や保護を図るためには、地域の住民の連帯による取組が求められています。
 自主的、自発的に行われる県民やNPO、企業等が行う人権に係る活動は、地域の様々な人権問題の解決に向けて、先駆性、柔軟性、機動性に優れるなどその重要性が認識されてきています。
 女性、子ども、高齢者や障害者などを含むすべての社会の構成員が地域の中で共に暮らし、共に生きる社会の実現が求められています。

【施策の展開方向】
 県民、NPO、企業などの地域社会の構成員が相互に連携を図り、あらゆる分野で一人一人の人権が尊重される地域社会の実現を目指します。人権が尊重される社会づくりの基本は、地域住民をはじめ、NPO、企業などあらゆる地域社会の構成員による地域をあげての人権を尊重する取組です。
児童虐待やいじめ、DV(ドメスティック・バイオレンス)等の潜在しやすい人権侵害の早期発見や保護を図るため、地域住民の連帯による取組を促進します。
 人権問題に対する教育・啓発、相談・支援などの取組を推進するため、県民やNPO、企業とのパートナーシップを促進するとともに、各種情報の提供や活動の場の提供など、県民やNPO、企業等が活動しやすい環境づくりを一層推進します。
 年齢、性別、国籍、障害の有無などの様々な違いを越えて、誰にもやさしく、生活しやすいまちづくりを進めるなど、誰もが安心して暮らせる社会環境をつくります。

 ① あらゆる分野で人権が尊重される社会の実現
 県民一人一人の人権が尊重される地域社会の実現を目指して、県民、NPO、企業など地域社会の構成員がともに連携して取り組みます。
 そのため、「彩の国ヒューマンネットワーク(仮称)」の設立や「埼玉県人権啓発活動ネットワーク協議会」の充実を図り啓発活動を実施します。
 ② NPO、ボランティア等との連携強化
 人権教育・人権啓発、相談・支援などの人権関係の取組を促進するため、NPO、企業などとの連携を推進します。
 NPOやボランティアなどの活動を促進するため、情報提供や活動の場の提供などの支援を推進します。
 ③ 住民参加による地域社会づくりの促進
 いつでもだれもがボランティア活動などに参加できる基盤を整備し、子ども、高齢者、障害者などの生活を身近な地域でともに支え合う地域社会づくりに取り組みます。
 地域住民のボランティアへの参加を促進するため、ボランティア学習などの取組を支援します。
 ④ 福祉のまちづくりの推進
 高齢者、障害者をはじめすべての人が自らの意思で自由に移動し、社会参加することができるように、建物、道路、交通機関等のバリアーをなくすとともに、ユニバーサルデザインの考え方も取り入れた誰もが住みよい福祉のまちづくりを推進します。


第3章 分野別人権施策の推進 

1 女 性

【現状と課題】
 人々の意識や行動、社会の習慣・慣行の中には、未だに女性に対する差別や偏見、男女の役割に対する固定的な考え方に基づくものが見受けられます。
 セクシュアル・ハラスメント、性犯罪、売買春、職場での差別的な処遇等の課題も多く残されています。
 さらに、夫・パートナーからの暴力やストーカー行為など、女性に対する暴力が深刻化するとともに、インターネット等のメディアによる性・暴力表現などの女性の人権を侵害する情報が増加しています。
男女が社会的、文化的に形成された性別の概念にとらわれず、その個性と能力を十分に発揮し、あらゆる分野に対等に参画できる男女共同参画社会を実現するために、今後さらに、積極的に関係機関、企業等との連携を図りながら、啓発・教育、相談、支援等の施策を総合的に推進します。
さらに、生涯にわたる性と生殖に関する健康と権利が尊重されることを旨として、男女共同参画を推進します。

【施策の展開方向】
男女の人権を尊重する意識を深く根づかせるため、啓発活動を効果的に展開します。
女性に対するあらゆる暴力は、女性の人権に直接関わる深刻な問題であり、社会的・構造的な問題として捉えて対応していきます。
 あらゆる暴力の発生を防ぎ又は被害者への支援のため、暴力の形態に応じた幅広い取組を総合的に推進します。
固定的な役割分担意識にとらわれず、多様な生き方の中から自らの生き方を主体的に選択できるよう、雇用の分野における男女の均等な機会と待遇の確保、育児・介護等の環境整備や子育て支援などを推進します。
 メディアにおける女性の人権の尊重を確保するため、自主的取組を促していきます。
 生涯にわたる性と生殖に関する健康と権利の尊重について、広く啓発します。

① 啓発活動の推進
  男女共同参画社会の早期実現のための啓発活動を、県民、NPO、企業、マスメディア、教育関係機関等との連携を図りながら、全県的な広がりを持った取組として積極的に展開します。
  緊急な課題である夫・パートナーからの暴力やセクシュアル・ハラスメント等のあらゆる女性に対する暴力の防止に向けた啓発活動は、関係機関、団体等との連携を図りつつ組織的に展開します。
② あらゆる暴力から女性を守るための相談、支援体制の充実
 夫・パートナーからの暴力、セクシュアル・ハラスメント、性犯罪、売買春、ストーカー行為等のあらゆる暴力から女性を守るために、暴力の形態に応じた迅速で適切な対応が図れるよう、警察、福祉事務所、婦人相談所、児童相談所、市町村、医療機関、NPO、弁護士等の幅広い関係者による相互の連携を図り、相談、保護、自立支援への取組を強化するとともに、公立シェルターの充実を図ります。
  女性の保護、救済を行っている民間シェルターの運営に対しては、経済的な支援を含め様々な支援のあり方を検討します。
 セクシュアル・ハラスメントの防止は、雇用の場以外の、例えば学校、医療・社会福祉施設、地域社会などでも、その防止のための取組が進められるよう支援します。
③ 多様な生き方を選択できる条件整備
  雇用主に対して啓発活動を積極的に行うとともに、働くことを中心に女性の社会参加を積極的に支援するための事業を実施し、男女の均等な機会と待遇の確保を図ります。
  さらに、子育て・介護の社会的支援を図るとともに、特に、ひとり親家庭に対する自立のための支援を推進します。
④ メディアにおける女性の人権の確保
  メディアにおける女性の人権の尊重を確保するため、自主的取組を促進します。

 2 子ども

【現状と課題】
 「児童の権利に関する条約」は、子どもを権利の主体として位置付け、子どもの尊厳や生存、保護、発達などの権利を保障しています。
 しかしながら、少子化や核家族化の進行、家庭の養育機能の低下、価値観の多様化、情報化の進展など子どもたちを取り巻く社会環境が大きく変化し、子どもをめぐる問題も複雑、多様化しています。
 こうした中で、児童虐待、いじめ・体罰、不登校、有害情報の氾濫や性の商品化など、子どもの権利に関する重大な問題が発生しています。
 
【施策の展開方向】
 子どもを基本的人権が保障された存在、権利を行使する主体であると認識し、しつけの対象とみるだけでなく、子どもの人権を尊重する社会づくりを推進します。
 特に、児童虐待、いじめ・体罰、児童買春・児童ポルノなどの深刻な権利侵害に対しては、福祉、保健、教育、警察などの関係機関が家庭や地域と連携し、子どもの人権が尊重され、保護されるような環境をつくります。

① 子どもの人権を尊重する啓発活動及び教育の推進
  子どもの権利擁護を図るため、県民に対しあらゆる機会を通じて、子どもの権利を守るための啓発活動を推進するとともに、子どもの権利に関する条例や宣言等について検討を進めます。
  また、幼児期から子どもの発達段階に応じ、自分や他人の人権を大切にする心を育てます。特に、幼児期は、人間形成の重要な時期であり、保育所、幼稚園、小学校が一層の連携を図り、人権尊重の精神の芽を育てます。
② 児童虐待防止の取組の推進
  児童虐待の未然防止と早期救済を図るため、県民に対しあらゆる機会を通じて、虐待防止に関する幅広い普及・啓発活動を推進します。
  また、児童相談所を始めとする相談、支援体制の充実を図るとともに子どもや家庭との関わりの深い児童相談所、保健所、保育所、学校、医療機関などの関係機関や民間団体との連携強化を図ります。
③ いじめ・体罰などの問題に関する取組の推進
  いじめ・体罰などの問題は、子どもの人権にかかる重大な問題であるとの認識に立ち、その防止や解決に向けての取組を一層推進します。
  このため、研修を通じて教員の資質や能力の向上を図るとともに、児童生徒や保護者などへの相談体制を充実し、関係機関との連携強化を図ります。
④ 性に関する問題の解決に向けた性教育の充実
  性情報の氾濫、性の逸脱行動、性被害の増加などの性に関する様々な問題の解決を図ります。
  そこで、学校における性教育の充実を図り、性に関する問題を自ら考え、主体的に判断し、望ましい行動がとれるようにしていきます。
⑤ 児童買春・児童ポルノの防止に向けた取組の推進
  児童買春、児童ポルノといった児童の性的搾取の防止等へ積極的に取り組みます。
⑥ 子育て支援の充実
  子育てを社会全体で支援するシステムの充実を図ります。
⑦ 児童の保護と自立支援の充実
  虐待などの権利侵害を受けている児童や家庭での養育が困難な児童に対する相談機能や保護施設の充実を図ります。
  保護に当たっては子どもの人権への配慮、処遇の充実を図ります。
⑧ 子どもの権利救済機関の早期設置
  児童虐待やいじめなど深刻化する子どもに対する権利侵害事案に対処するため、「子どもの権利救済機関」の早期設置に努めます。

3 高齢者

【現状と課題】
 急速に進行する人口の高齢化に伴い、様々な問題が生じています。
 高齢者への身体的・精神的虐待や介護放棄、財産面での権利侵害などが懸念されています。さらに、高齢者に対する悪徳商法や財産奪取などの犯罪や事故が増加しています。
 また、高齢者を年齢などにより一律に弱者と見るような誤った理解が高齢者に対する偏見や差別を生むことや、年齢制限等により、高齢者の働く場が十分に確保されていないことなどが指摘されています。
 高齢者が、住み慣れた地域で、生きがいを持ち、安心して生涯を送ることができる社会の構築が課題となっています。

【施策の展開方向】
 高齢者が自らの意志に基づき、知識や経験を活かして、家庭や地域の中で積極的な役割を果たしていける環境づくりを推進します。
 介護サービスの選択・利用や自主活動の展開、就業などあらゆる生活の場面において、高齢者の主体性が尊重されるよう支援します。
 高齢者の生活のすべての場面において権利の擁護が図られるよう支援します。
 特に、判断能力が不十分な痴呆性高齢者の権利の擁護についての方策を推進します。

① 啓発活動・福祉教育の推進
  子どもから高齢者までの幅広い世代がふれあい、交流する「世代間交流」施策を進めるなど、福祉教育の推進に努めます。また、広く県民に高齢者の福祉について関心と理解が深まるよう、啓発に努めます。
  特に、痴呆性高齢者についての正しい理解の普及を図ります。
② 介護サービスの充実
  介護全般に関する相談業務を行う在宅介護支援センターなどを活用し、総合的な相談体制の充実に努めます。
  介護保険サービス等に関する苦情に対応するため、相談及び解決のための体制を充実します。
  高齢者が利用する介護保険施設等において、身体拘束やその他利用者の行動を制限する行為をすることのないよう、施設等の取組を一層支援します。
③ 単身高齢者等への支援の推進
  単身高齢者や高齢者のみの世帯の状況を把握するとともに、地域での見守り活動や事故等の防止を推進します。
④ 痴呆性高齢者に対する権利擁護の推進及びケアの充実
  痴呆性高齢者などの権利擁護に関する専門的な相談・援助体制を充実します。特に、福祉サービスの利用援助や成年後見制度の利用を促進します。
  また、住み慣れた家庭的な環境のもとで安心して生活できる痴呆性老人グループホームの整備を一層促進します。
⑤ 福祉のまちづくりの推進
  高齢者、障害者をはじめすべての人が自らの意思で自由に移動し、社会参加することができるように、建物、道路、交通機関等のバリアーをなくすとともに、ユニバーサルデザインの考え方も取り入れて、誰もが住みよい福祉のまちづくりを推進します。
⑥ 高齢者の主体的な活動を支援するための方策の推進
  すべての高齢者が、地域社会の中で様々な活動を展開できるよう支援します。
  さらに、健康で意欲と能力がある限り年齢にかかわりなく働くことができるよう就業機会の確保など雇用対策を推進します。
  市町村やNPOなどの行う高齢者の自立支援等の取組を側面的に支援します。


 4 障害者

【現状と課題】
 障害のある人に対する偏見や差別意識等のこころの障壁、建築物や歩道の段差などの物理的な障壁、文化・情報面での障壁、資格・免許等を制限する制度面での障壁など、障害のある人が地域社会に住み、社会生活のすべてに平等に参加するために取り除かなければならない多くの障壁があります。
 また、施設や医療機関内での身体拘束や虐待などが指摘されるなど、意思表明の困難な人々の基本的人権の擁護にも問題があります。

【施策の展開方向】
 様々な障壁を取り除き、障害がある人が他の人々と同様に一人の人間として尊重されるよう、人権擁護施策を一層推進します。
 県民一人一人が障害に対する肯定的な理解を進め、地域で共に生き生活する上で、障害者に対する偏見や差別意識などを除去していきます。
 障害があっても社会のすべての分野に参加できるよう、共に学び働く場の確保、情報提供の充実、まちづくり等地域生活を支援する施策を推進します。
 特に、人権の課題として、知的障害者、精神障害者など、判断能力の不十分な方に対しては、権利の行使、権利擁護の一層の強化を図ります。

① 啓発活動の推進
  障害に対する肯定的積極的な理解を深め、障害のある人の人権が無視、軽視されがちな現状の認識を深めるため、普及・啓発を推進します。
  特に精神障害に関する正しい知識について、普及・啓発を推進します。
② 障害児教育の充実
  障害のある児童生徒一人一人が、持てる力を発揮できるよう教員の専門性や資質の向上を図ります。
  学校教育における障害児理解教育や交流教育を充実します。
③ 権利擁護の推進
   障害者が日常の様々な場面で不当・不利な扱いを受けることがなく、権利の行使が行えるよう、専門的な相談・援助体制を充実します。特に、福祉サービスの利用援助や成年後見制度の利用を促進します。
④ 施設入所者等の人権擁護の推進
  施設入所者が権利として、適切なサービスを受けられるように支援します。
  利用者が施設の利用に際して、適切な情報が得られるシステム、入所者がサービスに対して、苦情を申し出て解決を図る制度やサービス提供に関する評価制度等を構築します。
⑤ 地域での生活支援の充実
 平成15年から、行政機関による措置制度から利用者がサービスを利用し契約する制度になることもあり、一層の相談体制やホームヘルパー等在宅サービスの整備充実を図ります。
⑥ 総合的な雇用対策の促進
  障害の種類や程度に応じたきめ細やかな雇用対策を展開します。
⑦ 福祉のまちづくりの推進
  高齢者、障害者をはじめすべての人が自らの意思で自由に移動し、社会参加することができるように、建物、道路、交通機関等のバリアーをなくすとともに、ユニバーサルデザインの考え方も取り入れて、誰もが住みよい福祉のまちづくりを推進します。 
  聴覚障害者等へのコミュニケーション支援など障害の程度や種類に対応したきめ細やかな情報のバリアフリー化を推進します。
⑧ NPO、ボランティア等との連携
  NPO、ボランティアなどが行う障害者支援などの取組を側面的に支援します。


5 同和問題

【現状と課題】
 我が国固有の人権問題である同和問題は、憲法が保障する基本的人権の侵害に係る重要な問題です。
 1969(昭和44)年に「同和対策事業特別措置法」が制定されて以来、同和地区の生活環境の改善、社会福祉の増進、産業の振興、職業の安定、教育の充実など積極的な取組を図ってきました。
 その結果、生活環境の改善をはじめとする物的な基盤整備は概ね完了するなど、様々な面で存在していた格差は大幅に改善され、実態的差別の解消はほぼ達成しました。
 しかし、人々の観念や意識のうちに潜在する心理的差別については、着実に解消に向けて進んでいるものの、結婚や就職などの面で、時として差別事象が発生しています。また、同和問題を口実とする不法、不当な行為や要求を行ういわゆる「えせ同和行為」の横行が、同和問題に対する誤った意識を植え付けることになっているなど、解決しなければならない課題はまだ残されているのが現状です。
 今後は、この心理的差別の解消を目指し、これまでの同和教育や啓発活動に よって積み上げられてきた成果とこれまでの手法への評価を踏まえて、他のさまざまな人権課題との関連を考慮しながら教育・啓発を中心に同和問題の解決を目指していくことが必要です。

【施策の展開方向】
 同和問題の早期解決を図り、差別のない明るい社会を実現するため、県民総ぐるみで「差別を許さない県民運動」を積極的に推進し、人権意識の高揚に努めます。また、心理的差別の解消のため、同和問題に対する正しい理解と認識が深まるよう創意工夫を凝らした教育・啓発活動を推進します。
 また、これまでの啓発の成果を損ない、同和問題解決の大きな阻害要因となっている「えせ同和行為」の排除に向けた取組に努めます。

① 心理的差別の解消に向けた啓発活動の推進
 「差別を許さない県民運動」を中心として効果的な啓発活動を推進します。そのためには、同和問題をさまざまな人権課題と関連づけて県民の理解と協力を得られよう努めます。
 えせ同和行為の排除に向けて関係機関との連携を密にし、啓発に努めます。
② 同和教育の推進
 同和問題に対する正しい理解を図り、部落差別をなくしていくことのできる人間を育成するために、同和教育を人権教育の重要課題として位置づけ、学校、家庭、社会の緊密な連携を図りつつ、児童生徒の発達段階に応じた適切な教育を推進します。


6 外国人

【現状と課題】
 交通手段や通信機器の急速な進歩により、人、モノ、情報の流れが国境を超えて拡大し、社会、経済、文化のあらゆる面で国際社会の相互依存関係が深まっています。
 本県における外国人登録者は、この10年間で約1.8倍に急増し、平成13年12月末現在で92,595人と、県人口の1%を超えるに至っています。
 こうした中、我が国の歴史的経緯に由来する在日韓国・朝鮮人等の問題のほか、人種や言語、宗教、習慣等への理解不足による偏見や差別も見受けられます。
 外国籍県民を地域の一員として受け入れ、国際理解を深めるとともに、外国籍の人たちも安心して生活できる環境づくりが求められています。

【施策の展開方向】
 県民が、異なる文化や価値観を認め、互いに尊重し合える意識を育んでいくことができる環境づくりを進めます。
 国籍や文化の違いにかかわらず、誰もが県民の一員として尊重されるとともに、地域の豊かさを享受できる環境づくりを進め、外国籍県民も快適で生き生きとした生活を送れる社会づくりを進めます。
 
① 国際理解の推進
  埼玉の明日を担う青少年が、世界を肌で感じ、広い視野に立って行動できる国際感覚を育む「国際性をはぐくむ教育」を推進します。
  外国人との交流などを通じて偏見や差別をなくすため、県民が国際理解を深める機会の提供等を図ります。
② 情報提供・生活相談の充実
  外国人が快適な生活を送れるようにするため、各種広報媒体を使った外国語による生活情報の提供や生活相談を充実します。
③ 外国人が暮らしやすい環境づくりの推進
  外国人の意見や要望を県政に反映させるための制度を充実します。
  外国人が地域で生き生きと暮らせるようにするため、日本語学習の機会の提供等の支援を行います。
  外国人の住居探しの困難を緩和するため、住居に関する情報の提供や助言などの支援を充実します。
  外国人労働者の適正な就労の確保と不法就労の防止を図るため、事業主等に対する啓発・相談事業を推進します。
  犯罪の被害者や困り事で警察を訪れる外国人に適切に対応するため、警察職員の語学力の向上等を図ります。
  外国人児童の民間保育所への受入れを支援します。
  外国人救急患者に係る医療機関の円滑な受入れを確保します。
④ NPO、ボランティア等との連携
  NPO、ボランティア等と相互に連携できる体制づくりを進め、一体となった取組を推進します。

7 HIV感染者等

【現状と課題】 
 エイズ患者・HIV感染者に対する誤解と偏見はまだ十分に解消されたとはいえず、感染したことが明らかになると退職を余儀なくされたり施設への入所が拒否される場合もあります。
 エイズについての正しい知識・理解の普及に努めるとともに、主な感染経路が性的交渉であることを考えると、単なる対処療法的でなく人権問題を踏まえた上で、性教育の一環としてエイズに関する適切な指導を行っていきます。
 ハンセン病やその他の感染症の患者についても、患者等の人権に配慮した医療・福祉サービスの提供、感染症予防や普及啓発活動を行っていますが、まだ十分理解されたとはいえません。
 難病は原因が不明で治療方法が未だ確立されていない疾患であり、一日も早い原因究明と治療の確立とともに、今後は、患者の生活の質の向上を目指します。
 プライバシーへの十分な配慮等、患者等が安心して医療が受けられるための医療環境の整備を図ります。

【施策の展開方向】
 正しい知識の啓発・教育活動は、人権擁護と社会復帰の促進の視点から、患者や家族等の人権に十分に配慮しながら推進します。
 医師会や各種相談機関等との連携を強化してネットワーク化をすすめ、相談・支援体制の充実を図ります。
 患者や感染者が、安心して総合的な医療を受けることができる医療環境の整備、社会の構成員として地域社会で生活しやすい環境の整備、社会資源の充実を図ります。

① 正しい知識の普及・啓発
  患者やその家族等の人権に十分配慮し、関係機関、企業、団体等との連携を図りながら、正しい知識の啓発、教育活動を展開して、感染者の就業支援等の生活の質の向上に努めます。
  学校教育において、より人権尊重に配慮した教育活動を展開します。
② 相談・支援体制の充実
  医師会や各種相談機関等との連携を強化しネットワーク化をすすめ、相談、支援体制の充実を図ります。
③ プライバシー等に十分配慮した医療環境の整備
  患者等個人のプライバシーへの十分な配慮やインフォームド・コンセントを徹底し、患者等が安心して医療が受けられるための医療環境の整備を促進します。


8 犯罪被害者やその家族

【現状と課題】
 犯罪被害者やその家族は、直接的な被害のみならず、これに付随して生じる精神的、経済的被害等様々な被害を受けている場合が多く、マスメディアの行き過ぎた取材や報道などによって人権が侵害される場合もあります。
 最近、「犯罪被害者等の保護を図るための刑事手続きに付随する措置に関する法律」及び「犯罪被害者等給付金の支給等に関する法律」等が施行され、犯罪被害者等の保護や救済枠拡大、国民が利用しやすい司法制度の実現等に向けた取組が始まりました。
 しかし、犯罪被害者に対する各種の支援体制は未だ十分とはいえず、今後も行政・司法・民間の多くの機関・団体が被害者支援に取り組み、被害者の人権の保障を図るとともに、県民が犯罪の被害にあった人の置かれている状況を理解し、支援に協力していくことが必要です。

【施策の展開方向】
 犯罪被害者の現状や支援の必要性について、県民が認識を深めるための啓発活動を推進します。
 犯罪被害者の相談機関、支援関係の諸機関や民間団体等が、相互に連携を強化し支援体制の強化を図り、被害者支援活動を効果的に推進します。
 マスメディアによる人権侵害に関しては、メディア側の自主規制による対応が図られるよう理解を求めていきます。 

① 啓発活動の推進
  犯罪被害者の現状や支援の必要性について、県民が認識を深めるための啓発活動を推進します。
② 相談・支援体制の充実
  国や地方公共団体の関係機関と医師等専門家、弁護士会等とが相互に連携を強化して、相談、支援体制の強化を図ります。
③ 再被害の防止
  犯罪の被害者やその家族が、検挙した犯罪の加害者により再び危害を加えられる事態を防止するため、必要な措置を講じます。
④ NPO、ボランティア等との連携
  犯罪被害者を支援する民間団体等と連携し、犯罪被害者及びその家族が抱える精神的、身体的、経済的問題等に対する効果的な支援体制を推進します。
⑤ マスメディア側の自主規制への期待
  マスメディアによる人権侵害に関しては、メディア側の自主規制による対応が図られるよう理解を求めていきます。

9 アイヌの人々

【現状と課題】
 我が国の少数民族であるアイヌの人々は、アイヌ語やユーカラ(アイヌの伝承による叙事詩で、神々等の物語に旋律をつけて歌われるもの)をはじめとする口承文芸(口づての伝承によって、語り歌い継がれてきた文芸)など自然との関わりの中で、様々な固有の文化を育んできました。
 しかしながら、アイヌ民族であることを理由として、アイヌの人々は結婚や就職などで様々な差別を受け、経済的にも困難な状況に置かれてきました。また、独自の言語を話せる人も極めて少数となり、アイヌ民族独自の文化が失われつつあります。
 1993年(平成5年)の「国際先住民年」以来、国連における先住民をめぐる議論が活発化し、平成7年、国は「ウタリ対策のあり方に関する有識者懇談会」を設置しました。その報告書を踏まえ、平成9年7月「アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律」が施行されました。
 このような経緯を踏まえ、アイヌの人々の民族としての誇りが尊重される社会の実現を図ります。
   
【施策の展開方向】
 アイヌの人々に関する歴史や伝統、文化などについての理解不足により生じる偏見や差別をなくすため、アイヌ文化等に対する正しい理解を促進し、アイヌの人々の民族としての誇りが尊重される社会の実現を図ります。
 また、アイヌの人々の人権問題を図るための啓発等の推進に当たっては、国や市町村、NPO等との連携を図ります。

① 啓発活動の推進
  アイヌの人々に対する偏見や差別を解消し、その固有の文化や伝統に対する正しい認識と理解を深めるための啓発活動を、国や市町村、NPO等との連携を図りながら推進します。


10 様々な人権問題

【現状と課題】
 前述の9つの重点的に取り組むべき分野別の人権課題の外にも、次にあげるような人権問題が存在します。
 また、今後、新たに生じる人権問題等についても、それぞれの問題の状況に応じた取り組みが必要となってきます。

(1)刑を終えて出所した人
   刑を終えて出所した人やその家族に対する地域社会からの偏見や就労の問題があります。
(2)性同一性障害など
   性同一性障害のある人々などに対する雇用面における制限や差別、性の区分を前提とした社会生活上の制約などの問題があります。
(3)ホームレス
   野宿生活者その他安定した居住の場所を有しない者、いわゆるホームレスは、その自立を妨げる様々な要因があり、住居の確保や暴行を受けるなどの問題が生じています。
(4)インターネット上の電子掲示板やホ-ムページへの差別的情報の掲示
   匿名性を悪用して、基本的人権を侵害する書き込みが増加しています。
(5)プライバシーの侵害
   犯罪被疑者やその家族、少年事件などの加害者本人へのマスメディアの行き過ぎた取材や報道によるプライバシーの侵害等が指摘されています。
(6)その他
   貧困で苦しむ人々の問題があります。

【施策の展開方向】
 様々な人権問題は、人権尊重の視点から適切な啓発・教育活動を推進するとともに、NPO、ボランティア等と連携して、効果的な相談・支援活動を積極的に推進します。
 性同一性障害等を理由とする差別の解消に向け、適切な対応を図ります。
 ホームレスの問題は、人権の視点からその解決に向けて適切な対応を図ります。
 インターネットによる人権侵害に対しては、新たに成立した「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」の趣旨や個人のプライバシー、名誉に関する正しい知識理解を深めるための教育・啓発活動を推進します。
 法的措置等の必要なものについては、国に要望していきます。
 また、性的指向を理由とする差別など、新たに生じる人権問題については、その解決に向けて適切な対応が図られるよう、論議を進めてまいります。


第4章 人権施策の推進に向けて

1 推進体制
 人権施策の推進に当たっては、全庁的な推進体制である「埼玉県人権政策推進会議」において、関係部局相互の密接な連携のもと総合的かつ効果的な推進に努めるとともに、関係部局においては、この指針の趣旨を踏まえ、諸施策を積極的に推進します。
また、人権に関する教育・啓発、相談体制の充実強化を図り、人権施策を効果的に推進します。

2 国、市町村、民間団体等との連携
 人権施策の推進に当たっては、国、市町村等の行政機関及び民間団体等との緊密な連携を図り、相互の協力体制を強化した幅広い取組が必要です。
 このため、法務省(さいたま地方法務局)や埼玉県人権擁護委員連合会とともに設立した「埼玉県人権啓発活動ネットワーク協議会」をはじめ、人権にかかわる機関と連携・協力して人権に関する取組を推進します。
 また、市町村は県民にとって最も身近な地方公共団体であり、地域の実情に即したきめ細かい取組を行うことが期待されます。県は、市町村との連携を図りながら人権に関する情報提供や助言を行うなど市町村が実施する取組を支援します。 さらに、「彩の国ヒューマンネットワーク(仮称)」の設置などを通じて、県民、NPO、企業などとの連携を図るとともに、その活動しやすい環境づくりを一層推進します。