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地方公共団体関係資料

鳥取県人権施策基本方針-第一次改訂-
情報の種類 地方公共団体関係資料
タイトル 鳥取県人権施策基本方針-第一次改訂-
時期 1997/04/01
主体名 鳥取県
【 内容 】

鳥取県人権施策基本方針
-第1次改訂-
16年3月
鳥取県

第1章 人権尊重の社会づくりへの道
 本県では平成8(1996)年7月に人権尊重の社会づくり条例を制定し、平成9(199
7)年4月、具体的な施策の方向を示すため、鳥取県人権施策基本方針を策定して、「人権先
進県づくり」を県政の主要な課題として取り組んできました。
 この鳥取県人権施策基本方針を基に、県政の様々な場面において人権尊重の視点に立った施
策の推進、人権教育・啓発の推進、相談・支援体制の整備や調査・研究の強化など積極的に取
り組んだことにより、県民の人権尊重への関心は徐々に高まり、その意識も変わってきたとい
えます。このような状況の中、これまで人権として理解されていなかった権利が認知された
り、新たな課題にも関心が及ぶようにもなりました。
 しかし、依然として、差別事象をはじめ、様々な人権侵害等が発生している現状がありま
す。また、鳥取県人権施策基本方針の中で個別に推進方針を定め、重点的に取り組んでいる同
和問題、女性、障害者、子ども、高齢者、外国人、病気にかかわっている人、プライバシーの
保護といった分野においてもその成果は決して十分であるとはいえません。
 このような諸情勢を踏まえ、これからの「人権が尊重される社会づくり」がどうあるべきか
を検討した上で、鳥取県人権施策基本方針の見直しを行うこととしました。
 今回の鳥取県人権施策基本方針(改訂版)は、国において策定された「人権教育・啓発に関
する基本計画」(平成14(2002)年3月)との整合性を持たせるとともに、これまで基
本方針と平行して人権教育・啓発の推進の指針としてきた「人権教育のための国連10年鳥
取県行動計画-これからの人権教育・啓発-」(平成11(1999)年2月)の趣旨も挿
入し、人権教育のための国連10年の終期である平成16(2004)年より後は、人権教育
・啓発も含めて県の人権施策の方向性を包括して示すものとなるよう策定しました。
 なお、見直しに当たっては、鳥取県人権尊重の社会づくり協議会や関係諸団体及びパブリッ
クコメント(注)等により多くの県民の方々の提言、意見等を取り入れています。
 この鳥取県人権施策基本方針は前回と同様に今後5年程度の期間をおき、社会情勢に即した
ものとするため、さらなる検討を行い、内容を一層充実させていくものとします。
 第1章では、国際社会及び国内、県内、市町村の人権に関する動きを明らかにし、その取組
の概要を示しています。
注)パブリックコメント:県が施策の立案等を行おうとする際にその案を公表し、広く県民の皆さんから意見や情報を提出していただく手続き。県は提出された意見等を考慮して最終的な意思決定を行う。

Ⅰ 国際的な動向
 昭和23(1948)年、国際連合において「世界人権宣言」が採択されました。その前
文では、「人類社会のすべての構成員の固有の尊厳と平等で譲ることのできない権利を承認
することは、世界における自由、正義及び平和の基礎である(略)」としており、またその
第1条においては、「すべての人間は、生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利
とについて平等である。」と宣言しています。
 この世界人権宣言の精神を実効あるものとするために、昭和40(1965)年に「あら
ゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約(人種差別撤廃条約)」、昭和41(196
6)年に「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」、同年に「市民的及び政治的
権利に関する国際規約」、昭和54(1979)年に「女子に対するあらゆる形態の差別の
撤廃に関する条約(女子差別撤廃条約)」、平成元年(1989)年に「児童の権利に関す
る条約(子どもの権利条約)」等、多くの条約や規約が採択されました。また、多くの議定
書の採択、宣言、国際年、行動計画等により、人権尊重、差別撤廃に向けた取組が進められ
てきました。
 特に近年では、第49回国際連合総会において、平成7(1995)年から平成16(2
004)年までの10年間を「人権教育のための国連10年」とする決議が採択され、「す
べての国家、先住民及び人種的、民族的、宗教的、言語的集団間の理解、寛容、ジェンダー
(注1)の平等並びに友好の促進」等を基調とした行動計画が示されました。この行動計画
は、各国政府に対して計画の実施に積極的な役割を果たすよう求めるものであり、その重要
性から平成17(2005)年以降も「第二次人権教育のための国連10年」として継続さ
れることを望む声もあがっています。
 また、国際連合主催で開催された反人種主義・差別撤廃会議(平成13(2001)年・
ダーバン)では、アフリカ人及びアフリカ系の人びと、先住民族、移住者、難民、ロマ、ス
ィンティ(注2)が具体的な被抑圧者として取り上げられており、会議でのNGO(注3)
の「宣言」と「行動計画」には「職業と世系に基づく差別」であるインド等に存在するダリ
ット(被差別カースト)の問題とともに、日本の部落差別に関する項目が盛り込まれるなど
様々な人権を保障し、擁護していこうという動きがおこっています。
 国際連合では、平成15(2003)年から平成24(2012)年までを「国際識字の
10年:すべての人に教育を」として宣言し、各国政府に対して積極的な役割を果たすよう
取組を始めました。
 しかし、こうした世界的な人権に対する取組が進む現在においても、世界の各地で、戦
争、貧困、人種・民族、宗教上の理由などから人々の人権が侵害され、生きがいの喪失はお
ろか、生命の危険にまでさらされているといった現状があり、特に社会的に弱い立場にある
女性や子どもなどが多く被害を受けています。
 日本に関しては、平成10(1998)年の国際連合人権委員会による総括所見や、平成
15(2003)年の国際連合女性差別撤廃委員会の勧告の中で、女性、外国人、同和問題
や子ども等にかかる未解決な問題の解決について勧告し、平成15(2003)年の国際連
合人権委員会では、拉致被害者に関する問題も重要な人権問題として取り上げています。
 国際連合、国家、企業、NGO、そして各個人が人権問題に積極的に取り組み、世界的な
規模で人類共通の課題として、努力を積み重ね、着実に人権尊重、差別撤廃への道を進むこ
とが望まれています。

注1)ジェンダー:(社会的成員に想定され2分割された)身体的性差に関連づけられた歴史的・社会的・文化的に形成される性差。
注2)ロマ、スィンティ:差別的に用いられることもある「ジプシー」と呼ばれてきた欧州最大の少数民族。かつてナチス支配のもと民族虐殺され、またバルカン半島での難民化など常に迫害された状況で暮らしてきた。
注3)NGO:Non-Govermental Organizationの略。国際協力等に携わる「非政府組織」「民間団体」。

Ⅱ 国内の動向
 我が国においては、昭和21(1946)年に平和主義、国民主権、基本的人権の尊重を
基本原理とする日本国憲法が公布され、基本的人権の尊重を具現化するため、世界的な動向
も踏まえながら、人権に関する各種法制度の整備など、多くの取組が進められてきました。
 昭和40(1965)年、同和対策審議会は内閣総理大臣の「同和地区に関する社会的及
び経済的諸問題を解決するための基本的方策」についての諮問に対し、「同和問題は人類普
遍の原理である人間の自由と平等に関する問題であり、日本国憲法によって保障された基本
的人権にかかわる課題である」とし、「未解決に放置することは断じて許されないことであ
り、早急な解決こそ国の責務であり、国民的課題である」とする答申を行いました。その答
申に基づき、昭和44(1969)年には「同和対策事業特別措置法」が制定され、以後名
称を変えながら平成14(2002)年まで33年間にわたり、同和問題解決のための取組
が進められてきました。
 その間、平成8(1996)年5月には、国の地域改善対策協議会の意見具申において、
「今後、差別意識の解消を図るに当たっては、これまでの同和教育や啓発活動の中で積み上
げられてきた成果とこれまでの手法への評価を踏まえ、すべての人の基本的人権を尊重して
いくための人権教育・人権啓発として発展的に再構築すべきと考えられる。」と提言されま
した。
 その前年の平成7(1995)年12月には、内閣総理大臣を本部長とする「人権教育の
ための国連10年」に関する推進本部が設置され、平成9(1997)年7月には国内行動
計画が策定され、その取組が進められています。
 そして、平成9(1997)年3月に「人権擁護施策推進法」が5年間の時限立法として
施行され、同法に基づいて法務省に人権擁護推進審議会が設置されました。この審議会で
は、法務大臣の諮問に応え「人権尊重の理念に関する国民相互の理解を深めるための教育及
び啓発に関する施策」及び「人権が侵害された場合における被害者の救済に関する施策」に
ついて審議され、教育及び啓発に関しては平成11(1999)年7月に答申が出されまし
た。
 平成12(2000)年12月「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律(人権教育・
啓発推進法)」が施行され、人権教育・啓発の推進は国と地方公共団体の責務であると定め
られました。そして、平成14(2002)年3月、同法に基づき国の「人権教育・啓発に
関する基本計画」が策定されました。
 救済に関しては、平成13(2001)年5月に「人権救済制度のありかた」、12月に
は「人権擁護委員制度の改革について」の答申が出されました。
 その他にも、「障害者基本法」(平成5(1993)年改正)や「男女共同参画社会基本
法」(平成11(1999)年)や「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保
等に関する法律(男女雇用機会均等法)」(平成11(1999)年改正)等の基本的人権
に関する法整備など多くの取組が進められ、同和問題、女性の人権問題、障害者の人権問題
など様々な問題を人権問題として捉え解決していこうとする動きとなっていきました。

Ⅲ 県内における取組
 県内においても、昭和44(1969)年の同和対策事業特別措置法の制定を契機とし
て、県、市町村、関係団体などが連携しつつ同和問題解決のための様々な取組を積極的に進
めてきました。
 そのような状況の中、県内の39市町村のすべてにおいて、平成5(1993)年から平
成7(1995)年の間に「部落差別をはじめとするあらゆる差別の撤廃等」に関する条例
が制定されました。
 また、各都道府県にもこのような差別撤廃等の条例制定の動きが起きる中、本県は、平成
8(1996)年7月、すべての人の人権を尊重することを基本理念とする「鳥取県人権尊
重の社会づくり条例」を全国に先駆けて制定しました。
 この条例を基に、平成9(1997)年4月に「鳥取県人権施策基本方針」を策定し、ま
た、平成11(1999)年2月には、人権教育・啓発の推進のため「人権教育のための国
連10年鳥取県行動計画-これからの人権教育・啓発-」を策定し、県の各施策を人権
の視点から総合的に取り組むこととしました。
 このような中で、人権に関する啓発・相談・研究などを専門的に行う「鳥取県人権文化セ
ンター」を平成9(1997)年11月に設立(平成11(1999)年4月社団法人化)
し、平成14(2002)年4月には、県民が生涯を通じて人権について学習し、人権尊重
の理念に対する理解を深めていくことを支援する人権学習、人権啓発の拠点施設として、
「鳥取県立人権ひろば21(ふらっと)」を鳥取市扇町に設置しました。
 また、人権に関わる施策をより効果的に推進するため、平成14(2002)年4月に人
権局を設置し推進体制の整備、強化をめざしています。

1 鳥取県人権尊重の社会づくり条例
 鳥取県人権尊重の社会づくり条例は、前文において、「すべての人間は、生まれながら
にして自由であり、かつ、尊厳及び権利について平等であり、人間として尊重され、基本
的人権の享有が保障されなければならない。これは、人類普遍の原理であり、自由と正義
と平和の基礎であり、かつ、法の下の平等及び基本的人権の保障を定めた日本国憲法の精
神にかなうものである。この理念の下に、お互いの人権が尊重され、誇りをもって生きる
ことができる差別と偏見のない社会が実現されなければならない。」と理念を掲げていま
す。
 また、人権尊重に関し、県、市町村及び県内に暮らすすべての者(注)の果たすべき責
務を努力規定として掲げ、その実現に向け、県内有識者による「鳥取県人権尊重の社会づ
くり協議会」を設置するとともにその意見を聴いて、鳥取県人権施策基本方針を策定する
ことを明らかにしています。
 本県における各施策は、この条例を基本とし、鳥取県人権施策基本方針に従って、人権
の視点から総合的に推進していきます。

注)県内に暮らすすべての者
「県内に暮らすすべての者」とは、条例の趣旨を踏まえ、日本国籍や住民登録の有無を問わず、また、自然人及び法人を含めたすべての者をいう。本書においては、単に「県民」と表記している場合もこの条例上の「県内に暮らすべての者」と同じ意味で使用されている。

2 鳥取県人権施策基本方針
 「鳥取県人権施策基本方針」(本書)は、人権尊重の社会づくり条例第5条に基づき、
人権施策の総合的な施策展開を図るため、人権施策を推進するに当たっての現状と課題、
今後の具体的方向性を明らかにするものです。
 条例の第5条第2項では、人権施策を積極的に推進するため、鳥取県人権施策基本方針
で、次の事項を定めることとしています。

① 人権尊重の基本理念
② 人権に関する意識の高揚に関すること
③ 差別実態の解消に向けた施策に関すること
④ 相談支援体制に関すること
⑤ 前3号に掲げるもののほか、人権尊重の社会づくりのための重要な施策に関するこ

⑥ 同和問題、女性の人権に関する問題、障害者の人権に関する問題などの人権に関す
る問題における分野ごとの施策に関すること
⑦ 前各号に掲げるもののほか、人権施策を推進するために必要な事項
 
 このうち、⑥で定めることとされている分野ごとの問題については、第4章「様々な分
野における施策の推進方針」の中に、同和問題、女性の人権問題、障害者の人権問題、子
どもの人権問題、高齢者の人権問題、外国人の人権問題、病気にかかわる人の人権問題、
個人プライバシーの保護を挙げており、同じく第4章にその他の人権問題としてアイヌの
人々、刑を終えて出所した人や罪や非行を犯した人、犯罪被害者やその家族、性的マイノ
リティの人権問題を挙げています。
 本県では、この鳥取県人権施策基本方針に基づく人権施策を推進するために、副知事を
会長とし、各部長で構成する「人権尊重の社会づくり委員会」及び、人権局長を幹事長と
し関係課長で構成する「人権尊重の社会づくり幹事会」を設置し、関係各部局間の横断的
な連携のもとに、県行政の各施策を人権の視点から総合的に推進しています。

3 人権教育のための国連10年鳥取県行動計画
 平成11(1999)年2月に策定した「人権教育のための国連10年鳥取県行動計
画-これからの人権教育・啓発-」は、国の国内行動計画や鳥取県人権施策基本方針に基
づき、県が実施する学校、家庭、地域、職場などの各場面における生涯を通じた人権教育
・啓発のあり方について、具体的、長期的な方向を示すものです。
 この鳥取県行動計画は、終期の設定がされていませんが、平成16(2004)年に人
権教育のための国連10年が終期を迎えるため、以後は、本書「鳥取県人権施策基本方
針」の第3章「人権施策の推進方向」で受け継ぎ、各種の施策と併せて人権教育・啓発の
推進を包括的に行っていくものとします。

Ⅳ 市町村の動向
 本県においては、県内のすべての市町村が「部落差別をはじめとする差別の撤廃等」に関
する条例を制定していますが、これに基づく総合計画・実施計画や人権教育のための国連1
0年市町村行動計画等は平成16年3月現在、6市町で策定されているにすぎません。
 一方、人権政策監、人権政策部、人権局など人権に関する行政組織が新設されたり、人権
センターなど人権に関連する施設の整備が行われるなど推進体制の積極的な動きもありま
す。
 平成12(2000)年4月「地方分権一括法」が施行され、地域の自立と独自性が要求
される今日、住民にとって最も身近な自治体である市町村が果たす役割はますます大きくな
ってきています。
 市町村合併が進む中で、これまでの同和対策の成果をどのように発展させるかが課題とな
っていますが、人権センター等を中心に人権尊重の町づくりを進めていこうとする動きも出
はじめています。

第2章 基本的な考え方
 人権は、歴史的には国家(各種公的権力を含む。)対個人の関係としての「第1世代の人
権」(国家権力から個人を守るべき権利)、国家による個人への保障としての「第2世代の人
権」と捉えられます。
 日本国憲法では、人種、信条、性別、社会的身分、門地などによって差別されないとする
「法の下の平等」、すべての国民が自由に生きるための「自由権」、また生存権、教育を受け
る権利、労働権などの「社会権」などが基本的人権として定められています。
 また、他者との取り扱いでの比較に見られる差別や不合理な格差から生じる不当な搾取、虐
待、圧迫等を受けることも重要な人権問題として捉えられています。
 近年では、国、県、市町村、NPO(注)等の様々な取組により、これまで人権として理解
されていなかった問題や社会の情報化、技術革新などの社会環境の変化から生じた新たな問題
が人権問題として認知されてきています。
 さらに国際的には、「第3世代の人権」と呼ばれる開発途上国を中心に主張されてきた民族
自決権、発展の権利、環境や資源に対する権利などが近年注目されており、その動向も、あわ
せて視野に入れておく必要があります。
 本県の施策が対象とすべき「人権」は、これらのあらゆる「人権」を視野に入れた幅広いも
のです。
 第2章では、このような人権を施策に反映していくため、人権全般に共通する基本理念を示
しています。

注)NPO:Non-Profit Organizationの略。民間非営利組織。営利を目的としない活動を行う民間の組織・団体のこと。

Ⅰ 人権尊重の基本理念
 人権が尊重される社会を築くためには、一人一人を大切にするという人権意識をあらゆる
場面に広げていくことが必要です。また、同時に差別実態や不合理な格差を解消しなければ
なりません。そして、各自が「自尊感情」を大切にし、自己実現ができる社会の実現に向け
て環境を整えることが重要です。
 すべての人が尊重される社会をつくるため、様々な施策を総合的に展開していく必要があ
ります。

1 自己実現を追求できる社会の構築
 人間は一人一人がそれぞれ異なった可能性を持っています。自分の人生を自ら決定して
生きるという「自己決定権」に基づいて、本当の「自分らしさ」を発揮できる社会、すな
わち自己実現が可能となる社会を構築していくことが必要です。
 そのためには、まず、第一に行政が人権侵害の実状、差別実態を正確に把握し、そうし
た人権侵害や差別を支えている社会構造の改廃に取り組まなければなりません。第二に各
人は、自分の人権のみならず他人の人権についても正しく理解し、その権利の行使に伴う
責任を自覚して、人権を相互に尊重し合うことが必要です。その際、特に少数者の人権が
侵害されないよう注意を払うことを忘れてはいけません。

2 差別実態の解消
 差別は大別して、人の心理面における差別(いわゆる差別意識)と、その差別意識に基
づく差別発言や差別的取扱いなどの差別行為、そして差別の結果として生じている差別実
態に分けることができます。このような差別が、各種制度や社会慣習などに起因している
と認められる場合には、その解消を図っていく必要があります。
 差別実態の是正はこれまでの取組である程度は進んできましたが、今なお差別の結果と
しての格差は現存している状況があります。
 例えば、同和地区の人の就労面、教育面や福祉面、ジェンダーに基づく女性の社会的地
位や取扱い、外国人に対する制度的な課題や様々な資格取得などにおける制限、また、こ
れらの人々の就職の機会や賃金などに見られる不合理な差別の実態などがあります。
 差別意識や、差別実態・格差は、過去の差別的な制度、取扱いが積み重ねられた結果と
の認識を持ち、県民の理解を高め、その解消に向けた施策を積極的に進めていきます。

3 ユニバーサルデザインの推進
 ユニバーサルデザインとは、「障害、年齢、性別、言語など人の差異に可能な限り無関
係に、誰にでも利用しやすいように製品、建物、環境などをデザインすること」です。も
ともと物づくりの視点から生まれた考え方ですが、近年では、物づくりにとどまることな
く、社会の仕組みや制度づくりをも含めて、地域社会全体にまで発展させていこうとする
動きもあります。即ち、スプーンやコップなどの物づくりから始まり、建物、道路、誰で
も参加出来るイベントやその情報、さらには交通システムや情報システムといった地域社
会づくりにまで拡大しつつあるといえます。
 ユニバーサルデザインは、製品や建物などのデザイン化という結果としての側面に視点
が置かれがちですが、すべての人が等しく社会の一員として尊重されるべきであるという
考え方が原点にあるといえます。即ち、ユニバーサルデザインを推進することは、一人一
人が尊重され、すべての人が自己実現を可能とする社会の実現をめざすことに他なりませ
んし、このことは、バリアフリー(注1)やノーマライゼーション(注2)の理念にもか
なうものです。
 本県では、このユニバーサルデザインの視点に立った施策を積極的に推進していくこと
とします。

注1)バリアフリー:社会生活をしていく上で、また社会参加をしていく上で障壁(バリア)となるものを除去すること。
注2)ノーマライゼーション:障害の有無や年齢にかかわらず、誰もが地域社会を構成する一員として、まわりの人々と同じような、当たり前の生活が営めるように条件を整えるべきであり、ともに生きる社
会こそ通常であるという考え方。

 上記3項目の基本理念をもとに、第3章及び第4章でその具体的な施策の方向性を示し
ていきます。

Ⅱ 人権尊重の視点に立った行政
 県が行う業務は、県内に暮らすすべての人々の人権にかかわるものです。全職員が人権に
関する十分な知識と理解、そして問題意識を持って業務にあたらなければなりません。職員
一人一人が、「人権行政」の担い手であることを絶えず意識しながら、それぞれの施策への
取組を進めることが大切です。業務の見直し、人権を尊重した接遇、申請などに対する迅速
な処理及び情報公開の適正運営などに取り組みます。
 こうした意識を職員一人一人が持ち、業務を遂行することによって、人権尊重の理念を県
内すべてに浸透させるよう努めます。
 また、人権尊重の視点に立った行政がなされているか、定期的な実態調査や年度ごとの取
りまとめを行い、その結果を少数意見にも十分に配慮した、住民本位の施策に反映していき
ます。

第3章 人権施策の推進方向
 県の行う施策はすべて人権に関わっています。この章では施策全般に共通する基本的な方向
性を示しています。

Ⅰ 人権教育・啓発の推進
 県民一人一人の人権が尊重され、差別や偏見のない社会の実現をめざすためには、行政は
人権教育・啓発を積極的に推進する必要があります。また、県民一人一人も人権問題に関心
を持ち、自らの問題として主体的に行動することが大切です。
 人権問題を単に知識として学ぶだけでなく、人権感覚に優れた行動を身につけるため、家
庭、地域、学校、職場などあらゆる場において様々な人権問題を視野にいれた人権教育・啓
発に取り組まなければなりません。
 多様化・複雑化する人権問題に対応していくため、これまで取り組んできた成果を踏まえ
ながら、新たな工夫や創意を凝らし、県民がより理解しやすい人権教育・啓発の推進をめざ
していきます。

1 人権教育・啓発を推進するための環境整備
(1)人権意識高揚のための環境づくり
① 現状と課題
 本県の具体的な人権教育・啓発の推進に当たっては、「鳥取県人権施策基本方針」及
び「人権教育のための国連10年鳥取県行動計画」に基づき、同和問題や女性の人権に
関する問題、障害者の人権に関する問題、子どもの人権に関する問題、高齢者の人権に
関する問題、県内在住外国人の人権に関する問題、病気にかかっている人の人権に関す
る問題、個人プライバシーの保護を人権問題の主要な8分野と位置付け、取組を行って
きました。近年では、犯罪被害者やその家族の問題、刑を終えて出所した人に関する問
題なども人権問題として捉えられ、さらには、性同一性障害者に関する問題やインター
ネットによる誹謗中傷、人の遺伝子情報に関する問題等も新たな人権問題として認知さ
れるようになってきています。
 平成9(1997)年に実施した「鳥取県人権意識調査」の結果によると、人々の意
識の中に差別や偏見が存在する人権分野としては、多くの人が同和地区の人々に対する
意識を挙げ、続いて障害者、女性という順になっています。また、平成12(200
0)年に実施した「同和問題についての県民意識調査」の人権に対する調査結果による
と、「自分自身の人権は守られている」(約7割)、「他人の人権を侵害したことはな
い」(約6割)、「どんな社会にも差別はつきものだ」(約5割)とそれぞれ回答して
おり、自分自身の問題として捉えていない現状がうかがえます。
 人権教育・啓発の推進のため、県内の人権に関する各種調査・研究を一層充実させ、
本県の実状を踏まえた具体的な啓発や指導の方法を開発する必要があります。
 (社)鳥取県人権文化センター、鳥取県立人権ひろば21(ふらっと)や鳥取県男女共
同参画センター(よりん彩)の設立をはじめ、県内各市町村においても体制の整備が進
められてきましたが、今後は、こうした機関をさらに充実整備し、その機能を活かして
いくことが求められています。

② 具体的施策の方向
 人権尊重の意識を高めていくためには、幼少期から高齢期までの生涯を通じ、個々の
理解度・到達度に応じて学校や家庭、地域、さらに職場において、様々な人権学習に主
体的に参加できる機会を提供することが大切です。
 また、これまで進められてきた同和教育・啓発の成果を、様々な人権分野の理解を深
めるための調査・研究に活かし、多様な人権教育・啓発の取組を推進していくことが必
要です。そのためには、中核となる機関の充実や機能強化を図ることが必要です。

◇学校教育においては、児童・生徒の発達段階や地域の実態に応じて、人権問題につい
ての体系的な知識の育成に努めてきたこれまでの取組を一層充実させるための指導内
容・方法の研究・開発に努めます。また、生命、健康、高齢化、男女平等、国際理
解、環境など幅広い視点から人権問題を捉え、理解度・到達度に応じて、体験的参加
型学習、フィールドワーク、交流学習など学習方法の工夫に努めます。

◇地域における人権教育・啓発においては、県民の主体的な学習意欲を喚起する啓発を
行うとともに、県民の理解度・到達度あるいは関心のある人権分野に応じて、主体的
に学習ができる各種講座や研修会の開催など、研修機会の充実と場の確保に努めま
す。この際、家庭においての人権教育との連携にも努めます。

◇家庭における人権教育においては、今後、人権教育・啓発の実践の場として家庭の重
要性がますます高まることから、学校や地域との連携を図り、保護者に対しての相談
体制の整備、子どもや保護者の理解度・到達度に応じた家庭教育の学習機会の提供等
に努めます。

◇人権教育・啓発の環境基盤の整備として、(社)鳥取県人権文化センター、(財)鳥取
県部落解放研究所や鳥取県同和教育推進協議会等と連携し、人権に関する調査研究体
制をさらに充実させ、長期的な視野に立ったより有効な人権教育・啓発の手法、幅広
い人権分野に関する啓発、施策のあり方について調査・研究を行います。

◇県は人権に関してその中核となる機関の施設整備、充実を図るとともにあわせて市町
村と各機関のネットワーク化を進めます。

(2)人材の養成
① 現状と課題
 人権教育・啓発に関する指導者等の養成については、同和問題を中心とする講師や指
導者が養成されてきました。
 また、女性リーダー研修会など継続的に実施し、主任児童委員の研修や児童館職員の
研修なども実施してきましたが、その成果は十分とはいえません。
 今後、様々な人権問題に対応するために、すべての分野について、専門的な指導者を
養成すること、とくに職場や地域で体験的参加型学習など新しい啓発手法も実践できる
指導者を養成していくことが必要となっています。

② 具体的施策の方向
 人権教育・啓発ができる指導者の養成と指導力の向上のため、様々な手法や研修、施
設、教材を用いて指導者の養成を図ることが必要です。
 人権教育・啓発の内容も理解度・到達度に応じ、自らの問題として取り組んでいける
よう様々な分野の内容にしていくことが重要です。
また、地域において身近なところで、人権教育・啓発を行う指導者が必要となりま
す。
 このため、幅広く人権問題について指導者の養成と指導力の向上が必要であり、さら
にそれらの指導者の養成が行える専門的な指導者やそのための研修施設、教材の整備も
行っていきます。

◇同和問題、女性、子どもなど個別の分野について、学習者それぞれの理解度・到達度
に応じた指導者の養成と、指導力の向上に努めます。

◇(社)鳥取県人権文化センター、(財)鳥取県部落解放研究所や鳥取県同和教育推進
協議会等と連携し、また鳥取県男女共同参画センターなどにおいて指導者や指導者講
師の養成に努め、併せて啓発教材、啓発手法の研究・開発に取り組みます。

◇公民館主事、PTA人権・同和教育推進委員会委員等を対象とした指導者養成に努め
ます。

(3)効果的な啓発・情報提供の充実
① 現状と課題
 人権啓発に関しては、従来からの自治体の広報誌、ポスター、新聞広告、啓発冊子等
に加え、県民が参加しやすいイベントの開催、NPO・民間団体等の人権啓発活動支
援、人権を題材とした漫画や写真の公募等、新たな方法も人権全般にわたって行われる
ようになってきました。
 しかし、研修等では、研修受講者にとって受け身的な講演や啓発映画の上映が多く、
それだけでは十分な啓発効果が得られていないという現状があります。このような課題
を考慮し、これまでの講演等の取り組みと併せて、啓発内容の一層の充実や手法の改善
を図っていくことが必要です。
 また、人権に関する正しい知識が身につけられるよう、受け手が活用しやすいように
情報を整理し、提供していく必要があります。

② 具体的施策の方向
 今後は、各人権分野に関する従来からの啓発に加え、人権の普遍的視点を踏まえた啓
発やその時々の社会情勢から浮かぶ新たな人権問題等についての啓発、セルフエスティ
ーム(注)を育てる啓発を行うなど、広がりや深まりのある啓発に努めます。
また、情報提供については、様々な人権分野からの豊富な情報の収集・提供や効果的
な情報提供媒体の活用等に努めます。

◇人権問題の基礎的な知識の普及に努めます。

◇セルフエスティームに関する啓発や、「国際理解教育」など幅広い視点からの啓発に
努めます。

◇ワークショップなど体験的参加型学習の導入に努めます。

◇(社)鳥取県人権文化センター、(財)鳥取県部落解放研究所、鳥取県同和教育推進協議
会等と協力して、鳥取県立人権ひろば21(ふらっと)の充実を図るなど、研修を受
ける人の目的に応じた研修教材の整備に努めます。

◇国、市町村、民間団体等の行う啓発と連携・協力した効果的な啓発に努めます。

◇(社)鳥取県人権文化センター等と協力して国内外の様々な人権に関する情報の積極的
収集・提供と、指導者人材バンクの充実など効果的な情報提供体制の整備に努めま
す。
◇NPO、企業等の人権教育・啓発に関する活動に対し支援します。

注)セルフエスティーム:自尊感情または自己肯定感情ともいう。「自分がかけがえのない大事な存在だ」という気持ちのことで、自分を否定するのではなく肯定的に認め、自分らしさに自信を持ち、自分を価値のあるものとして思えるようになること。自分が大切にされた経験がなければ、他人のことを大切にする
ことが難しいと言われている。

(4)国、市町村、民間団体等との連携
① 現状と課題
 本県では、国、市町村、民間団体等と連携・協力し、各種研修会や各種啓発イベント
の実施、学習情報の提供、教材の提供、講師等の派遣を通じて地域や職場における取組
を支援しています。今後は国や市町村の人権啓発機関等とさらに緊密な連携を保ちなが
ら、指導者、教材等の情報の共有化や人権教育・啓発事業の協働化などを推進していく
ことが重要になっています。また、そのための指導者を養成していくことも必要です。

② 具体的施策の方向
 人権教育・啓発を進めるに当たっては、国、県、市町村が、それぞれの役割を踏まえ
ながら、連携・協力体制の強化を図ることが大切です。また、民間団体、企業等とも連
携を密にし、指導者、教材等の情報を共有し、人権教育・啓発の効果的な推進に役立て
ることが大切です。

◇鳥取地方法務局や鳥取県人権擁護委員連合会などと連携した啓発事業の実施や相互の
情報交換の充実に努めます。

◇NPOや民間団体等と連携を強化し、自主的な人権教育・啓発の取組を支援するなど
その育成に努めます。

◇市町村や民間団体、企業等の自主的な取組に対しては、(社)鳥取県人権文化センター
等と協力し、研修事業の協働・支援や、教材の作成配布、講師の紹介等に努めます。

◇(社)鳥取県人権文化センター、(財)鳥取県部落解放研究所や鳥取県同和教育推進協議
会等と市町村の人権啓発機関等との情報ネットワーク化に努めます。

◇人権教育・啓発事業の協働化などを推進していくための指導者の養成に努めます。

2 あらゆる場を通じた人権教育・啓発の推進
(1)学校・幼稚園及び保育所における人権教育・保育の推進
① 現状と課題
 県内のすべての、小、中、高、盲、聾、養護学校、幼稚園及び保育所において、一人
一人の子どもの発達や進路の保障と教育の機会均等の実現及び、幼児、児童、生徒の部
落差別をはじめとする様々な差別や偏見を解消する意欲や態度を育てることをめざして
同和教育・同和保育に取り組んできました。例えば、加配保育士並びに加配教員制度の
活用及び奨学金制度の拡充など教育条件の整備に努めるとともに、差別や偏見の解消に
向けて地域の方への聞き取りや総合的な学習の時間を活用した取組も増えてきました。
 その結果、児童生徒の差別の不合理さについての理解や差別をなくさなければいけな
いという気持ちの高まりなどの成果が見られます。
 しかし、児童虐待やいじめ、不登校の問題など、子どもの人権にかかわる問題が新た
な人権問題として取り上げられてきました。また、近年の児童生徒による部落差別や障
害者差別などの差別や偏見の助長につながる差別発言等の発生にみられるように、個々
の児童生徒の理解や認識の深まりは、まだ十分とは言えない状況にあります。
 平成12(2000)年の「同和問題についての県民意識調査」によると、昭和50
(1975)年頃からすべての学校で同和教育が行われているにもかかわらず、高校で
の学習経験は25歳~34歳以下で4割程度、20歳~24歳では6割程度となってお
り、子どもたちの記憶に残らない実践だったのか、本当に実践が行われていない実態が
あるのか等の分析も含めて課題となっています。また、半数以上の県民が学校における
同和教育を肯定的にとらえているのものの、2割程度の県民が否定的にとらえていると
いう課題もあります。さらに、学習後の感想では知識面での理解や部落差別以外の差別
への気づきに成果があるものの、行動化や自分には関係ないととらえている県民も多い
ことが指摘されています。
 これらの課題解決に向けて、教職員・保育士は、これまでの同和教育・同和保育の取
組の成果を踏まえ、自らの人権問題に対しての認識や人権問題の解決に向けた教育実践
を問い直すとともに、児童生徒の人権意識を高めるための教育内容・保育内容・方法の
創造、家庭・地域との密接な連携等になお一層努めることが必要です。さらに、一貫性
のある体系的な教育・保育プログラムの整備・充実を図ることが重要です。併せて、幼
児・児童・生徒が人権の保障された環境の中で教育を受けることができるよう、子ども
に接する保育士、教職員をはじめとする一人一人の大人が、自らの人権問題についての
認識を深めるとともに人権意識の向上を図っていくことが重要です。
 そのため、教職員の人権教育・啓発を推進していくための資質、指導力の更なる向上
になお一層努める必要があります。
 併せて、児童虐待やいじめ、不登校の問題など、子どもの人権にかかわる問題を解決
し、幼児・児童・生徒の人権や教育権が保障されるようなお一層人権教育の推進を図る
ことが重要です。

② 具体的施策の方向
 子どもは権利の主体であり、生命や安全、人権の保障を最も大切にして教育・保育が
進められなければなりません。そのため、教職員・保育士は、子どもの発達段階に応じ
て、共感的な理解や「差別は許せない」という憤り、差別解消のための行動化を促す学
習や自分たちの人間関係を豊かにしていくことの大切さを実感できる学習、人としての
生き方に学ぶ学習を展開するなど、教育・保育の一層の充実に努めなければなりませ
ん。
 また、学校等は、子どもの人権尊重の意識や態度を着実に育てていくために、教職員
・保育士の資質及び指導力の一層の向上を図るとともに、家庭や地域における人権教育
の取組と緊密な連携を図る必要があります。

◇学校等のあらゆる教育・保育活動において、これまでの取組の成果を踏まえ、同和教
育・同和保育をさらに充実・深化・発展させ、人権が尊重される教育を着実に推進す
るよう努めます。

◇教職員・保育士の資質及び指導力の一層の向上を図るための研修の充実に努めます。

◇学校・幼稚園及び保育所間の連携システムを確立し、系統性・一貫性のある体系的な
人権教育・保育プログラムの整備・充実を図るように努めます。

◇人権学習の指導に当たっては、児童・生徒が人権問題を自分自身の問題として捉える
よう指導内容とその方法の改善・充実に努めます。

◇30人学級の施策の継続など教育条件の整備に努めます。

◇子どもの発達段階に応じて、人権問題を系統立てて発展的に学習できるように、(社)
鳥取県人権文化センター、(財)鳥取県部落解放研究所や鳥取県同和教育推進協議会
等と連携を図りながら、身近な問題を題材にした人権教育副読本やビデオ教材、各種
資料の作成・整備に努めます。

◇私立の幼稚園や中学校、高等学校、及び保育所における人権教育・保育については、
教育委員会と連携し、情報提供等に努めるとともに、各学校等が主体性を持って人権
教育・保育の推進に取り組まれるよう積極的に支援します。

◇幼児・児童・生徒が人権の保障された環境の中で教育を受けることができるよう、子
どもに接する教職員、保育士をはじめとする一人一人の大人が、自らの人権問題につ
いての認識を深めるとともに人権意識の向上に努めます。

(2)家庭における人権教育の推進
① 現状と課題
 いじめや不登校をはじめ、児童買春や児童虐待など子どもの人権に関わる様々な問題
や少年非行の増加、生活習慣の乱れなどの課題も生じてきています。これらの課題の解
決は、学校はもとより保護者や地域社会など子どもを取りまく社会全体に求められてい
る責任です。
 また、家庭は価値観の形成、豊かな人間関係や社会性を育むなど、子どもの人格形成
に大きな役割を果たしているため、人権教育の実践の場としてますます重要です。
 しかし、急速な少子化や核家族化などの家庭環境の変化に伴い、家庭の教育機能の低
下が危惧されたり、子どもの教育について悩みや不安を持つ家庭が増えています。
 平成13(2001)年、社会教育法の改正により、家庭教育に関する学習機会の充
実が求められています。そこで、保護者への学習機会の提供、子育て情報の提供、相談
体制の整備をはじめ、PTA等の学習・啓発活動を通して家庭における人権教育の充実
が図られるような支援が必要です。

② 具体的施策の方向
 人権が尊重された家庭が築かれるよう、学校や地域社会と連携しながら、相談体制の
整備を図る必要があります。
 また、保護者に対して子どもの成長や発達段階に応じて、生命の大切さや男女の平等
意識、コミュニケーションや自尊感情の育成など人間関係の基礎を育む学習機会や子育
て情報の提供を図る必要があります。

◇相談機関の相談員の資質の向上に向けた研修とともに気軽に相談できる相談体制の整
備に努めます。

◇各関係機関や市民活動を行っている団体と連携し、学習機会の充実に努めます。

◇市町村やPTA等における学習企画者の研修に努めます。

◇地域やPTA等における学習内容及び情報提供の充実を図り、家庭における人権教育
の支援に努めます。

◇テレビや新聞等を通しての人権啓発及び情報提供の充実に努めます。

◇国の「保育所保育指針」や県の「人権・同和保育の手引き」を基に、乳幼児の心身の
発達、家庭の実情に応じた適切な保育の実施に努めます。

◇完全学校週5日制に伴う地域での体験活動や家庭の教育を支援する取り組みの充実に
努めます。

(3)地域における人権教育・啓発の推進
① 現状と課題
 地域においては、公民館・隣保館等を活用して、同和問題や女性、障害者、子ども、
外国人などの人権に関する講演会や研修会が実施されてきました。
 また、市町村では、「部落差別をはじめとするあらゆる差別の撤廃等」に関する条例
を制定し、同和教育推進協議会等の同和教育の推進体制が整えられ、様々な人権問題に
ついての正しい理解、認識を育てる取組が進められています。
 地域における人権学習については、自主的な活動も徐々に広がりを見せつつあります
が、まだその参加意識が高いとはいえない状況であり、参加者が固定化したり、知識・
理解の段階でとどまり、人権問題を自分自身の問題として捉えきれていないという課題
があります。

② 具体的施策の方向
 地域において豊かで生きがいのある生活を送るためには、毎日の生活の中でお互いの
人権を尊重することが重要です。そのためには、様々な人権問題に対する理解と認識を
深め、差別を許さない人間関係の育成と人権尊重の精神に立った地域づくりをめざし、
住民が主体的に取り組むことができる学習機会の設定、推進体制の確立と指導者の確保
と指導力の向上を図っていく必要があります。

◇市町村が住民の実態を踏まえ、人権教育・啓発を推進できるよう、指導体制を充実す
るための取組に対して、その支援に努めます。

◇人権教育推進員をはじめ、地域に根ざした指導者の確保と指導力の向上の支援に努め
ます。

◇市町村が行う人権に関する学習活動のための教材、各種啓発資料の作成等を支援する
とともに、国内外の取組に関する情報の提供や指導者の派遣に努めます。

◇地域の生活課題を踏まえた学習プログラムや体験的参加型学習の導入などの工夫、充
実に努めます。

◇市町村の公民館講座等に人権教育・啓発を位置付けるよう働きかけるなど、生涯を通
じた学習機会の整備、充実に努めます。

◇(社)鳥取県人権文化センターや(財)鳥取県部落解放研究所、鳥取県同和教育推進
協議会をはじめ市町村の関係機関との連携や民間団体等との連携に努めます。

◇主体的な人権学習、地域に根ざした啓発活動に対して支援していきます。

(4)企業等における人権教育・啓発の推進
① 現状と課題
 本県においては、従業員10人以上の企業等に対し、公正採用選考人権啓発推進員の
選任を要請しており、企業等ではその推進員が中心となって、同和問題をはじめとした
人権問題に対する啓発や研修の実施などの取組が進められています。また、企業等が中
心となって同和問題企業連絡会が設立され、同和問題解決に向けた会員企業等に対する
研修や啓発資料の配布などの事業も実施されています。
 しかしながら、依然として企業等において差別事象や人権侵害が発生しているといっ
た現状があります。
 企業等は、地域社会の一員として、また多くの従業員の地域とのかかわり等様々な面
で社会的責任を担っています。一方、利益追求の面からもアメリカでのセクハラ訴訟の
例もあるように、人権に配慮した取組を行うことは重要です。

② 具体的施策の方向
 企業等は、地域の雇用の場を確保するという大きな役割を果たすと同時に、地域社会
の一員としての役割を担っています。働きやすい職場であるとともに、差別のないお互
いの人権を尊重しあえる職場づくりに取り組むことによって、企業等が信頼され、社会
的責任投資の対象となり、利益の向上に結びつくといった認識を定着させることが必要
です。そのためには、事業主が先頭に立って幹部や従業員に対する人権教育・啓発を積
極的に進める必要があります。

◇公正採用選考人権啓発推進員の選任企業等の増加に努めるとともに、推進員が職場内
で活動しやすい体制の整備を指導していきます。

◇企業等に人権教育の推進に関する計画の策定や推進体制の確立を指導していきます。

◇事業主及び幹部に対する人権教育・啓発を実施し、人権意識の向上を図ります。

◇すべての人の就職の機会均等を確保するため、公正な採用選考システムの確立を図る
よう企業等に対して指導・啓発を行います。

◇国、県、市町村等の各機関が連携を図りながら企業等に対して企業のもつ社会的責任
を果たすように指導・啓発を行い、必要に応じて企業訪問による指導・啓発を行いま
す。

◇(社)鳥取県人権文化センターや(財)鳥取県部落解放研究所、鳥取県同和教育推進協
議会等と連携して、企業等が実施する人権に関する研修等に活用できる人権啓発冊子
等を作成して配布するとともに、教材、研修手法、研修講師等の情報の提供を行いま
す。

◇企業等における人権教育・啓発の指導者を育成するため、研修内容や方法等の指導や
啓発を行うとともに、その活動に対して支援を行います。

◇欧米で導入され日本でも取組がはじまっている「社会的責任投資」や、企業の人権評
価システムなどの国際的な情勢の紹介を行い、求められている企業のあり方について
の情報提供を行います。

(5)特定の職業に従事する者に対する人権教育・啓発の推進
 公務員や医療・保健関係者などは、特に人権に関係の深い職業であることから人権教
育・啓発の取組を強化する必要があります。

① 医療・保健関係職員
〔現状と課題〕
 住民の健康と生命を守ることを使命とし、病気の予防や治療、介護、相談業務などに
携わっている医師、歯科医師、看護師、その他の医療技術者等のあらゆる医療・保健関
係者は、業務の遂行に当たっては、特に患者等の人権を尊重することの重要性を認識す
ることが大切です。
 病院等の医療機関においては、全職員を対象とした人権や接遇に関する職場研修が実
施され、医師や看護職員等に対して専門研修の中でも人権研修を実施し、医療保健関係
者の養成機関においても、患者等の人権への配慮を基本とする教育内容となっており、
人権に関する特別講義なども行われていますが、患者からの苦情も多い現状がありま
す。
 今後は、患者等への十分な説明と処置への同意の徹底やプライバシーへの配慮など人
権意識に基づいた業務を行うとともに、近年の科学・医療技術の発達による遺伝子治療
や臓器移植などの高度先進医療の分野で新たな人権問題の発生などもあり、人権への配
慮が一層求められます。

〔具体的施策の方向〕
◇医療・保健関係職員が、医師や看護師の倫理綱領などをもとに人権の重要性について
さらに理解を深め、患者等の人権に配慮した適切な処遇を行うよう関係団体等の協力
を得て人権に関する研修の充実に努めます。

◇医療・保健関係職員の養成機関等に対して人権に関する講義等の充実を働きかけま
す。

◇鳥取県医療相談支援センターは、患者等からの苦情相談について、医療機関と連携し
て迅速な対応に努めるとともに、相談事例の収集・分析を行い、医療機関や関係団体
に情報提供を行います。

② 福祉関係職員
〔現状と課題〕
 保育支援、高齢者・要介護者、障害者への福祉サービス等、様々な福祉サービスに携
わり、子どもから高齢者、障害者など様々な人と接する機会の多い福祉関係職員は、そ
の業務が子どもの健やかな成長や個人の生活や身体の安全、ひいては生命に関わる相談
などであることから、特に業務の遂行に当たっては、これらの人々に対する人権尊重の
重要性を認識することが大切です。
 社会福祉法人を対象にした職場研修をはじめ、民生委員や介護支援専門員等を対象と
した専門職研修の中でも人権に関する研修が実施されていますが、福祉サービス利用者
からの苦情も多い状況にあります。
 今後は、利用者等への十分な説明やプライバシーへの配慮など、人権意識に基づいた
業務が求められ、職員に対する研修の充実が求められます。

〔具体的施策の方向〕
◇民生委員、児童委員、社会福祉施設職員及び社会福祉協議会の職員等の福祉関係者を
対象とした人権問題に関する研修会の内容や手法をさらに充実し、人権教育・啓発に
努めます。

◇介護支援専門員、訪問介護員、介護福祉士等の研修や福祉関係職員の養成施設におけ
る人権に関する科目内容の充実について指導・助言を行います。

◇保育所の職員に対する人権教育の充実に努めます。

◇県立福祉人材研修センターで行われる研修において、人権教育の推進に努めます。

③ マスメディア関係者
〔現状と課題〕
 報道機関は、「報道の自由」「国民の知る権利」のもとに真実を報道することが使命
であると同時に、社会で果たす役割は大きく、人々の意識や行動に大きな影響力を持っ
ています。そのため、プライバシーや人権に十分配慮した報道を行うことは、報道機関
に課せられた社会的責務です。
 人権に配慮した報道のため、報道各社は社内にこうした問題を検討、検証する独自の
機関を設置するなど、自主的な対応を進めており、また、(社)日本新聞協会や(社)日本
民間放送連盟において、「新聞倫理綱領」や「放送倫理基本綱領」の制定、B R Oビーアールオー
(放送番組による人権侵害の救済機関)等を設置しています。
 これらを踏まえ、県は報道機関等の自主的な人権への取組を信頼し尊重するとともに
マスメディア関係者が人権の理解を一層深めることができるよう働きかけます。

〔具体的施策の方向〕
◇マスメディア関係者の人権教育のための自主的取組の一層の充実を要請します。

◇マスメディア関係者の自主的な取組に対しては、(社)鳥取県人権文化センターなどと
協力し、研修事業の実施や教材の作成配布、研修講師等の紹介など人権関連情報の提
供に努めます。

④ 教育関係者
〔現状と課題〕
 現在、子どものまわりでは、いじめや差別発言など人権にかかわる問題が多く発生し
ています。また、人間関係等の様々な不安による不登校、さらに、保護者等から深刻な
人権侵害を受け、死に至る子どもが増加しています。教育関係者にとって子どもの人権
を尊重した教育を積極的に推進するとともに、すべての人の人権を大切にする意識を持
ち実践できる子どもを育てることは最重点課題です。
 教育関係者としてすべての子どもに対し愛情を持って接することはもとより、様々な
人権問題について理解と認識を深め、人権教育を推進するための資質や指導力を一層向
上させる必要があります。また、人権の大切さについて指導していくに当たっては保護
者等の理解・連携を図ることも必要です。さらに、子どもがお互いを認め合う人間関係
を築き、それを一層深めるための指導を進めていかなければなりません。

〔具体的施策の方向〕
◇教育関係者の意識の向上のために、研修内容の充実に向けた先進的な取組等の情報提
供と指導を行います。

◇学校等における人権教育の推進を図るため、教育関係者に対する研修が計画的、体系
的に実施されるよう指導を行います。

◇(社)鳥取県人権文化センター等と協力し、人権関連の情報の提供に努めます。

注)ここでいう教育関係者とは、私立学校、各種学校、塾等の教育公務員以外の教育関係者をいう。

(6)公務員に対する人権研修
① 一般行政公務員
〔現状と課題〕
 公務員の業務は、多岐の分野にわたり、住民に深いかかわりを持っています。
 そのため、新規採用職員や新任管理・監督者等を対象とした研修機関での研修や職場
内での研修など様々な形態の研修に取り組んできました。職員一人一人が幅広い豊かな
人権感覚を身につけることは、人権尊重の視点に立って職務を遂行するうえで不可欠で
すが、現状は十分ではありません。
 また、地域社会の一員として、人権教育・啓発の推進に積極的な役割を担うため、市
町村の行う研修等について積極的に参加する必要があります。

〔具体的施策の方向〕
◇自治研修所等における人権研修の研修内容等を工夫し、新規採用者から管理、監督者
までその職務内容と職責に応じた幅広い人権問題について計画的、体系的な研修の実
施に努めます。

◇県職員に対する人権研修等を徹底するため、各課に「人権問題研修推進員」を設置
し、鳥取県職員人権問題研修実施要領による研修等を実施していきます。

◇人権問題研修推進員の養成に努め、自主研修の活性化とその推進の強化に努めます。

◇地域や市町村などが行う各種研修会等への積極的な参加を図ります。

② 教育公務員
〔現状と課題〕
 教育公務員は、幼児・児童・生徒の人権を積極的に保障するとともに人権意識を育て
ていかなければなりません。まず教育公務員としての自らの行動を見つめ直し人権意識
を高めるよう努めるとともに、同和問題をはじめとする様々な人権問題を自分自身の問
題であるとの認識を深めていくことが必要です。
 このことから、従来より、初任者研修、経験者研修、職務研修等の各種研修や授業研
究会等の各種研究会を県教育委員会、市町村教育委員会、各学校等で行っています。
 しかし、例えば同和教育の実践で大切な「差別の現実から深く学ぶ」、「全教科、全
領域で推進する」、「自らが置かれている社会的立場の自覚を深める」について、教育
公務員の捉え方が様々であったり、誤った捉え方をしている場合が一部に見受けられる
ことは大きな課題です。さらに、同和問題をはじめ様々な人権問題について学習したこ
とが、教育公務員はもとより、児童・生徒の日常生活により一層活きていくよう、指導
内容・方法の工夫改善に努めるとともに、PTAや地域の活動にも積極的に参加し、人
権尊重の意識や行動が実践されるよう努めなければなりません。

〔具体的施策の方向〕
◇教職員の意識を的確に把握し、人権意識の向上を図るとともに、同和問題をはじめと
する様々な人権問題について理解と認識を深めるための研修内容の充実に努めます。

◇幼児・児童・生徒が人権問題の解決を自分自身の問題であるとの認識を深めることが
できる人権教育を推進するため、指導内容・方法の改善充実を図ります。

◇管理職をはじめとする職務・職責に応じた研修会や、教職員の経験年数に応じた研修
会を計画的に実施するとともに研修内容の充実を図ります。

◇各学校で計画的な校内研修を実施するとともに、地域や市町村などが行う各種研究会
や研修会への積極的な参加を指導します。

③ 警察職員
〔現状と課題〕
 業務が住民の人権と直接に深いかかわりを持つ警察職員は、人権を尊重した警察活動
を徹底することが重要です。
 人権に配慮した警察活動を推進するため、「鳥取県警察職員職務倫理の基本」に基づ
く職務倫理教養及び「人権教育のための国連10年に関する国内行動計画」に掲げられ
た重点課題について、採用や昇任時等に行われる警察学校の教養として取り上げたり、
また職場研修や中堅職員等を対象とした特別研修などを継続的に実施しています。
 人権に関する教養は、同和問題、女性、障害者、子ども、高齢者、犯罪被害者等広範
にわたっていることから、全職員を対象に実施します。今後も引き続き、部門、職種、
年代に応じたきめ細やかな研修計画を立て、一層充実していく必要があります。

〔具体的施策の方向〕
◇人権を尊重した警察活動を徹底するため、「鳥取県警察職員職務倫理の基本」に基づ
く職務倫理教養の推進、公正かつ適切な住民応接活動を強化します。

◇職員の採用、昇任時に警察学校で行われる人権教育や各職場単位で行われる職場研修
など継続的に実施していきます。また、未受講者に対する人権教育を確実に実施する
など補完措置の徹底を図ることに努めます。

◇犯罪被害者、被拘置者、その他関係者の人権への配慮に重点をおいた人権教育を充実
します。

④ 消防職員
〔現状と課題〕
 業務が国民の生命と深いかかわりを持つ消防職員は、人権を尊重した活動が求められ
ます。県内の3消防局では、各広域行政管理組合、広域連合等が主催する研修会に積極
的に参加するとともに、所属(消防局、署)においてもそれぞれ研修を行っています。
 東部広域行政管理組合においては、人権・同和問題研修の推進計画を定め、3ヶ年計
画で継続研修を実施しています。
 しかし、不規則な勤務形態等により、特に外部研修については参加しにくいといった
現状から、研修環境の改善の必要があります。

〔具体的施策の方向〕
◇県立消防学校で行っている人権に関する研修内容の充実を図ります。

◇不規則な勤務形態に応じ、研修しやすい環境の整備に努めます。

◇地域や市町村、各団体などが行う各種研修等に積極的な参加を指導します。

⑤ 医療・保健関係公務員及び福祉関係公務員
〔現状と課題〕
 医療・保健関係公務員及び福祉関係公務員については、健康、生命に深くかかわる業
務であり、また、公務員としての立場も併せ持つことから、一層人権意識に配慮した行
動及び、適切な対応が求められます。
 医療及び福祉関係機関での職場研修に加え、医療・保健・福祉関係の専門職研修の中
でも人権研修を実施していますが、人権意識が十分に高まっているとはいえません。相
談等で訪れた患者や相談者に対し、配慮に欠けた対応によって、二次被害を与えること
も皆無ではありません。
 職場での研修において、人権意識の向上の視点を踏まえ研修内容の充実を図るととも
に専門職の一層の研修体制の整備を図る必要があります。

〔具体的施策の方向〕
◇現在実施している職員の採用時研修や職場研修などの人権に関する研修の充実に努め
ます。

◇医療関係者養成機関、福祉人材研修施設での研修の充実を図るなど一層の資質向上に
努めます。

⑥ 公務員と地域の関わり
 これまで述べたとおり、公務員の業務は多岐の分野にわたり、住民と深い関わりをも
っていることから、それぞれの行政分野及び地域において積極的に人権問題の解決に当
たる意欲と実践力を培うとともに、指導的役割を果たしていかなければなりません。
 そのため、職場における人権問題研修はもちろんのこと、地域や市町村・学校PTA
などで行われる各種研修会や各種事業へも積極的に参加するなど、地域により深く関わ
っていくことが必要です。

Ⅱ 相談・支援・救済制度の充実
1 現状と課題
 本県では行政に関する相談や、女性、子どもに関する相談をはじめ、各種の福祉相談な
ど相談機関を設置して対応していますが、相談内容によっては「どこに相談したらよいか
わからない」「たらい回しにあった」というようなことも起こっています。
 平成12年(2000)年5月に「「女性に対する暴力」関係機関連絡会」を、同年6
月に「鳥取県児童虐待防止関係機関連絡会」などを設置し相談機関の連携が強化されまし
たが、まだ十分とはいえません。
 女性に対する暴力や子ども、高齢者、障害者への虐待をはじめ、人権に関する相談件数
が増加し、相談内容も多様化するのに伴い、相談機関の一層の充実や救済制度の創設が求
められています。

2 具体的施策の方向
◇人権に関する様々な問題について気軽に相談できるよう相談機関やその活動内容等につ
いて周知、広報を行い必要な情報提供を行います。

◇複雑多様な人権問題に迅速かつ的確に対応できるよう国、市町村の関係機関やNPOな
どの民間団体との連携、協働について一層の強化を推進します。

◇相談、支援の実効性を高めるため、関係職員や相談員等に対する研修を行い資質の向上
を図ります。

◇侵害された人権の擁護・救済のあり方について検討を進め、実効性のある人権救済制度
の創設をめざします。

Ⅲ NPO、企業等との協働
1 現状と課題
 自主的、自発的に行われるNPO、企業等が行う人権に係る活動は、先駆性、柔軟性、
機動性に優れるなどその重要性が認識され、地域の様々な人権問題の解決に向けて、期待
されています。
 すべての人が地域の中でともに暮らし、ともに生きる社会を実現するため、児童虐待や
いじめ、ドメスティック・バイオレンス(注)等の潜在しやすい人権侵害を早期に発見し
適切な対応を図ることが重要であり、地域住民やNPO、企業等との協働による取組が求
められています。

注)ドメスティック・バイオレンス(DV)(domestic violence):一般的には「配偶者やパートナーなど親密な関係にある、またはあった人から加えられる暴力」のこと。平成13年4月に成立した「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」では、①被害者と加害者の関係が婚姻関係(事実婚も含む)に限定、②被害者の性別を問わない、ものを対象としている。

2 具体的施策の方向
 人権が尊重される社会づくりには、地域住民をはじめNPO、企業等あらゆる地域社会
の構成員による地域をあげての取組が必要です。
 児童虐待やいじめ、ドメスティック・バイオレンス等の潜在しやすい人権侵害の早期発
見や被害者の保護を図るため、地域の住民の連帯による取組を促進します。また、人権問
題に対する教育・啓発、相談・支援・救済などの取組を推進するため、NPO、企業等と
のパートナーシップを促進するとともに、各種情報の提供や活動の場の提供など、NP
O、企業等が社会貢献への意欲や、人権に関わる事業展開の意欲に結びつけるような、活
動しやすい環境づくりを促進します。

◇人権教育・啓発、相談・支援・救済などの人権関係の取組を推進するため、NPO、企
業等との連携を推進し、その活動を支援します。

◇高齢者、障害者をはじめすべての人が、自らの意思で自由に社会参加することができる
ように、建物、道路、交通機関のみならずあらゆる製品、あらゆるシステムが可能な限
り使いやすい、ユニバーサルデザインの考え方を取り入れた、誰もが住みよい社会をつ
くるため、NPO、企業等との協働を進めます。

◇人権尊重の理念を社会に定着させるため、社会経済の中心的な担い手である企業等に対
して、福祉分野や環境関連をはじめとする、様々な人権に関する取組への参画を働きか
けます。

第4章 様々な分野における施策の推進方針
 この章では、被差別者や社会的に弱い、あるいは不利な立場にある人に対する差別の撤廃と
平等な社会参加や差別の撤廃を基本目標に置き、特に個別に取り上げる課題として同和問題、
女性の人権問題、障害者の人権問題、子どもの人権問題、高齢者の人権問題、外国人の人権問
題、病気にかかわる人の人権問題、個人のプライバシーの保護、その他の人権問題に関して施
策の方向性を示しています。

Ⅰ 同和問題

1 これまでの動き
(1)国連、国の動向
① 国連の動向
 人種差別撤廃委員会に設置されている「人権の促進及び保護に関する小委員会」にお
いて、平成12(2000)年8月に「職業及び世系に基づく差別に関する決議」が採
択され、同小委員会は、関係政府に対して職業及び世系に関する差別を禁止し、救済を
図るための措置をとること、また、差別行為に対して刑事罰を含む処罰・制裁を行うこ
となどを勧告しました。
 人種差別撤廃条約に基づき日本が提出した定期報告書に対する人種差別撤廃委員会の
総括所見(平成13(2001)年3月に採択)では、上記決議の「世系」の文言に部
落の人々が含まれていることを掲げ、部落差別撤廃のための取組を行うよう勧告してい
ます。
 さらに、同委員会は、人種差別撤廃条約の対象に、日本の部落差別が含まれることを
強く示唆する内容の勧告を平成14(2002)年8月にも行い、日本に対し部落差別
をなくすための法的行政措置をとるよう求めています。
 同様に、「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」(A規約)や、「市民
的及び政治的権利に関する国際規約」(B規約)に基づき、日本が提出した定期報告書
に対する国連規約人権委員会の総括所見(A規約:平成13(2001)年8月、B規
約:平成10(1998)年11月)においても、部落差別をなくすために必要な措置
をとることが勧告されています。

② 国内の動向
 第1章の「Ⅱ 国内の動向」で述べたとおり、昭和40(1965)年の「同和対策
審議会答申(同対審答申)」を受けて、昭和44(1969)年に同和対策事業特別措
置法が制定されました。それ以後、何度かの法改正等を経ながら、生活環境の改善、産
業の振興、職業の安定、教育の充実、各種啓発・相談体制の強化、社会福祉の増進の各
分野で多岐にわたる施策が推進されてきました。
 33年間継続された「特別措置法」は、平成14(2002)年3月末をもって失効
しましたが、部落差別は依然として存在しており、その解決をめざす同和行政は今後も
積極的に推進されなければなりません。このため、平成14年度以降の具体的施策を進
めるに当たっては、必要な施策を所要の一般対策によって対応することとなりました。

(2)県内の取組
 本県では、国の特別措置法の成立以後、同和行政をより積極的に進めてきました。
この結果、同和地区の住環境は相当程度改善され、全体的に一定の進展がみられ、かつ
てあったような「劣悪な住環境が差別的な偏見を生み出す」という状況は、ほぼなくな
ってきています。しかし、なお未整備の事業や施策ニーズがあり、特に教育、就労、産
業等で解決すべき差別の実態が課題として残されています。
 一方、これまでの同和教育や各種の人権教育・啓発の取組とも相まって、県民の人権
意識は以前に比べ高まりが見られますが、結婚・就職における差別、差別発言や差別落
書きなどの差別事象も依然として発生しているなど、差別意識は根強く存在しており、
部落差別はいまだ解消されていない状況があります。
 このような状況の中で、県では平成8(1996)年に「人権尊重の社会づくり条
例」を制定し、それに基づく「鳥取県人権施策基本方針」の中で、同和問題を重要課題
として位置付け施策を推進してきました。そして、平成14(2002)年2月に「今
後の同和対策のあり方」を定め、国の特別措置法が失効しても差別があるかぎり同和問
題解決のために必要な施策について適切に対応していくこととし、今後も同和行政を積
極的に推進していくこととしました。
 各市町村においても、「部落差別をはじめあらゆる差別をなくする条例」等を基に
「同和対策総合計画」等の見直しや充実を行ったり、同和行政をはじめとするあらゆる
人権行政を組織的に取り扱うことができるよう、組織改正や機構改革が進んできていま
す。また、人権センターの設置や人権を柱とした市民活動への支援と協働の取組も始ま
ってきました。
 この流れを受けて、同和問題の解決のために取り組んできた市民活動やNPOなどに
おいても、同和問題の解決はもとより、その中で培ってきた活動をあらゆる人権分野に
広げていこうとする取組も徐々に現れてきました。

2 現状と課題
 平成12(2000)年に実施した県の「同和地区実態把握等調査」及び「同和問題に
ついての県民意識調査」の結果や今日の同和問題に関する実態と課題を整理すると次の点
が指摘されており、差別の結果として生じる格差や部落差別は依然として存在していま
す。
 まず、同和地区実態把握等調査の結果では、生活環境分野において道路整備事業など住
環境面を中心に改善されてきていますが、なお「下水道の整備」や地域福祉が推進されて
いる中「家屋のバリアフリー化」の面で大きな格差が残っていますし、未整備の事業や施
策ニーズもあります。これからの同和地区の実態を改善していく上で重要な課題となって
います。
 教育分野では、格差は縮まる傾向にあるものの「高等教育」への進学率の格差は依然と
して大きく、これまでの成果で上昇してきた高校進学率が下がる年度があり、高校生の
「中退率」が高い年度が多いなど、学力や進路保障において大きな課題があります。これ
らの根底には、厳しい生活状況と学力問題があります。
 就労、雇用や事業経営等においてもまだまだ不安定な状況にあり、就労、雇用の面では
失業、事業経営の面では倒産、廃業を余儀なくされるなど、経営状況の改善が進んでいな
いなどの問題があります。
 一方、県民意識調査の結果では、同和問題の解決に向けて一定の理解を示す回答が増え
てきており、教育・啓発の成果が現れています。しかし、一方では「差別の現実を知ると
ともに、差別の現実に学ぶ」という基本的認識が十分にできておらず、同和問題を「過去
の問題」とし、部落差別に無関心であったり差別を見ようとしない意識も見受けられ、県
民の意識に大きな進展が見られていません。また、学習したことが「差別を許さない」具
体的な行動へとつながっていないという問題もあります。
 これらは、同和問題を被差別の立場にいる人たちの問題と考えている県民が、かなり存
在しているという事実があるとともに、大多数が他人事の問題と考えてしまっている状況
によるものです。
 さらに、多発する教育分野での差別事象に現れているように、学校教育全体の中での
「学力保障・進路保障」や「仲間づくり」を基底とした「同和教育」の取組が、成果とし
て十分に現れていないなどの問題があります。

3 基本方針
(1)今後の同和問題に関する基本的方向
 今後の同和行政を推進していくに当たっては、平成8(1996)年の「地対協意見
具申」で述べられているとおり、行政が基本的人権の尊重という目標をしっかりと見据
え、様々な問題に対し地域の状況や事業の必要性の的確な把握に努め、真摯に施策を実
施していきます。
 「特別措置法」失効後の本県における同和行政の推進方針となる「今後の同和対策の
あり方」においては、差別がある限り同和問題解決のために、必要な施策について分権
時代にふさわしい地域の実情と課題に対応しながら適切に対応していくこととしていま
す。この中で「特別措置」から「一般施策」へ移行する際は、差別の実態や事業の必要
性の的確な把握に努め、①既存の一般施策を活用すること、②今までの施策をニーズに
合わせて手直しを行うこと、③新たなニーズには施策の創設も含めて適切に対応するこ
となど、これまでの成果が損なわれないように配慮しながら、必要な取組を講じていく
ことを定めました。
 今後は、この「今後の同和対策のあり方」を基本に、施策を推進していきます。

(2)個別分野の基本的方向
① 生活環境
 同和対策事業の推進により、住宅、道路といった基本的環境整備に関しては、一部に
取組が遅れている地域もありますが、同和地区と周辺地区の格差は相当改善され、これ
までの同和対策事業が一定の成果を上げています。しかし、「下水道の整備」や高齢
者、障害者等の家庭の「家屋のバリアフリー化」といった面で課題があります。例えば
下水道に関しては、人口の集中地区から整備を進めたこともあり、普及率が県平均を下
回っています。
 今後は、一部取組が遅れている地域や改善されていない課題や施策ニーズに取り組む
ことこそが重要であり、引き続き、同和地区の実態や課題に重点を置いた事業の整備を
行います。
 なお、事業の実施に当たっては、周辺地域と一体的な整備を行い、地域の特色を生か
したまちづくりを着実に進めることができるよう取り組みます。

② 教育
 同和地区の生徒の高等学校卒業者の進学率は徐々に向上しているものの、県平均に比
べてかなり低い状況です。これまで成果を上げてきた高校進学率も年度により変動があ
るものの近年低下している年度があります。また、進級できなかった者や中途退学者の
割合が県平均より高い年度が多くあります。この背景として、家庭の経済的問題、学校
・地域の教育力、児童・生徒の学力、生徒・保護者の進路意識などがあげられます。
 このことから、これらの課題解決をめざし、これまで保育所・幼稚園・学校・家庭・
地域が一体となって進めてきた取組の成果を損なわないように留意するとともに、同和
地区の児童・生徒の進路の保障の実現をめざして就学前からの一人一人の状況に応じた
同和保育や同和教育の取組がますます重要となってきています。これまでの鳥取県進学
奨励資金制度の成果を基に一般施策として新設された高等学校、高等専門学校を対象と
した鳥取県育英奨学資金制度や、子どもの発達段階に応じた適切な学力向上のための事
業の活用を図ります。
 現在、同和地区において取り組まれている識字教育については、「国連識字の10
年」も踏まえ、単に文字の読み書きができるようになるだけでなく、IT時代に対応で
きる力をつけることにより情報格差が生じないよう留意しながら、教育・文化・就労と
いった生活そのものの向上が図れるよう、整備や支援のための施策を推進していきま
す。

③ 就労
 同和地区の就労構造は、中高年齢者を中心に小規模な建設業への就労率が非常に高く
なっています。また、就労形態は不安定な日雇・臨時雇が多いという特徴も見られま
す。
 このため、特定新規学卒者就職促進奨励金による新規学卒者の支援、企業人権啓発相
談員等のきめ細かな活動、専修学校等奨学資金貸付金で実践的な専門的知識・技術を身
につけることにより、今後の就労状況の改善につなげます。
 なお、経済・雇用情勢の変動の激しい現状から、今後、必要に応じてそれぞれの施策
の評価等を行い、安定した就労構造が形成できるよう努力していきます。

④ 産業
 同和地区住民が経営する企業は、建設業を中心に偏った業種によって成り立ってお
り、経営基盤がぜい弱な個人経営や有限会社などの中小零細企業が多い状況です。こ
のため、その時々の景気等に左右されることが多く、現在の長引く不況下にあって失業
や倒産・廃業を余儀なくされたり、経営状況の改善が進んでいないという現状がありま
す。
 これらの状況の改善を図るため、地域の実情を十分に考慮しながら同和地区中小企業
特別融資制度の活用を図るとともに、経営指導員が行う経営指導等を活用することによ
り、産業の育成に的確に対応していきます。なお、今後は必要に応じてそれぞれの施策
の評価等を行い、経営改善に寄与する施策の実現に向け努力していきます。
 農業においては、農家一戸当たりの経営規模が小さく、農業従事者の高齢化、農業情
勢の悪化による施設の遊休化・老朽化などで離農する農家もあり、集落や農家個々の営
農意欲に差が生じています。
 このため、対象地域、農業団体及び行政機関が連携を図り、集落ごとに将来像を描い
た活性化プランを作成し、地域の実情に応じた条件整備を実施していきます。

⑤ 保健福祉
 同和地区においては、生活保護世帯、一人親家庭及び身体障害者の比率が高く、ま
た、中高年齢層を中心に健康状態の悪い人が多い状態にあります。
 このため、地域の実情等を考慮し、今後とも積極的に施策の充実を図り、隣保館や児
童館、老人憩の家等の福祉施設を有効に活用しながら施策を推進します。市町村におい
ても、それぞれの施設にふさわしい内容と方法により主体的に取り組むことが望まれて
います。
 特に、隣保館については、地域社会全体の中で福祉の向上や人権啓発をはじめ住民交
流の拠点となるコミュニティーセンターとして、生活上の各種相談事業や人権課題の解
決のための各種事業が総合的に展開されるよう市町村を支援していきます。

⑥ 教育啓発
 学校においては、児童・生徒の発達段階に応じながら同和教育が積極的に取り組まれ
てきました。その結果、県民意識調査では、20代、30代で小・中・高等学校で同和
問題について学習したとする回答が増加し、同和問題の解決に向けて一定の理解を示す
回答が増えるなど成果が現れています。しかし、大学・短大での取組は、まだまだ遅れ
ていること、同和問題について無関心であったり理解できない人がいるなど課題があり
ます。
 また、平成10(1998)年頃から、同和問題学習や部落史学習で学んだ江戸時代
の被差別身分を表す言葉や「被差別部落」という言葉を、自分たちの人間関係の中で序
列付けに使ったり、相手を攻撃・排除したりするために使用した差別事象が急増してい
ます。

◇児童・生徒が同和問題を正しく理解し、同和問題解決に取り組んでいけるよう、学校
における同和問題学習の内容や指導方法の工夫改善、及び児童・生徒の仲間づくりに
引き続き取り組みます。

◇差別事象の分析や教職員の認識の実態に基づいた研修の充実などにより、教職員の資
質・指導力の向上を図るとともに、家庭・地域との密接な連携等を一層図っていきま
す。

 地域等においては、市町村同和教育推進協議会等が主催する小地域懇談会や、公民館
での同和問題講座は、県民の意識を向上させるのに役立っていますが、同和問題を他人
事としてしか認識できない人がいること、出席者が固定化していること、特に若年層が
学習を積み重ねていきにくい状況にあること、また、十分実施されていない地域がある
などの課題があります。

◇身近な課題を取り上げたり、様々な人とのふれあいを通じて、人権意識や感覚が身に
付くような活動を行うなど、学習意欲を高めるよう創意工夫していきます。

◇家庭での教育機能を向上させるため、保護者に対する情報の提供や、地域・PTA等
における学習機会の充実を図ります。

◇地域の人材育成を図るとともに、PTAなど社会教育関係団体や自主学習グループな
どの自発的な市民活動を支援します。

◇講演会・研修会については、職種や地域性などに配慮して参加しやすくするよう取り
組んでいくとともに、その周知方法を工夫しながら今後も積極的に開催します。

◇公務員(教職員、警察職員なども含む)及び行政の外郭団体職員への研修は、同和問
題を率先して解決する指導的役割を担っていることから、今まで以上に内容の充実を
図ります。

◇行政や民間で設置されている人権センター、PTAやNPOなどの民間団体との連携
や協働を積極的に推進していくため、情報や活動場所の提供、情報機器の開放、活動
費の支援などを行います。

◇企業等においては、同和問題企業連絡会をはじめとする関係団体などと連携を図りな
がら、公正採用選考人権啓発推進員が中心となった事業所内研修を進めるほか、従業
員が地域の一員として地域懇談会や、保護者として学校での同和教育参観へ参加しや
すい状況をつくる取組等も行います。

◇部落解放月間での各種取組、差別落書きや発言等の未然防止対策、身元調査お断り運
動などの啓発活動に重点的に取り組むとともに、家庭内で自由な時間に読まれる県政
だより、市町村広報等も活用します。

◇結婚や就職に際しての身元調査によるプライバシーの侵害、差別落書き、差別発言、
インターネットを利用した誹謗中傷等の差別事象が後を絶たないことから、その根絶
に向けて迅速かつ適切に対応するとともに、同和問題に対する正しい認識と理解を深
めるため、広く啓発を行います。

◇同和問題を口実として高額の図書の購入など義務のないことを強要するえせ同和行為
については、法務局等と連携を強化しながら、県民や事業所等に対しそれを受け入れ
る行為の背景にある差別意識を解消し、正しい認識をもってもらうよう啓発を行いま
す。

◇(社)鳥取県人権文化センター、(財)鳥取県部落解放研究所、鳥取県同和教育推進協
議会など関係機関との連携、協働をさらに進めるとともに、これらの機関がその取組
を充実することができるよう支援していきます。

⑦ 相談・支援体制
 同和地区住民が人権侵害を受けた場合の相談先は「身近な人」が最も多く、人権相談
機関に対しての相談はほとんどない状況です。
 隣保館は、これまで同和地区住民の生活相談全般に深く関わってきており、今後もそ
の重要性が期待されているところです。このため、専門機関等との密接な連携をとりな
がら、その相談・支援体制の強化が図られるよう市町村を支援していきます。

Ⅱ 女性の人権問題
1 これまでの動き
(1)国連の動向
 国連総会では、性差別撤廃を世界的規模で取り組むために昭和50(1975)年を
「国際婦人年」とすることを決議し、「平等・発展・平和」の理念等の達成のために昭和
51(1976)年から10年間を「国連婦人の10年」と定めました。
 昭和54(1979)年には「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約
(女子差別撤廃条約)」、平成5(1993)年には、世界人権会議で「ウイーン宣言及び
行動計画」が採択されるなど、女性差別や暴力の撤廃に関する条約や宣言が決議され、平
成6(1994)年、カイロで開催された国連国際人口・開発会議では、リプロダクティ
ブ・ヘルス/ライツ(注)がとり上げられました。
 平成7(1995)年に北京で開催された「第4回世界女性会議」では、「ウイーン宣
言及び行動計画」に述べられている女性の人権についての基本原則の再確認とともに、実
質的な男女平等の推進とあらゆる分野への女性の全面的参加など38項目からなる「北京
宣言及び行動綱領」が全会一致で採択されるなど、女性の地位向上に向けたあらゆる取組
が行われています。

注)リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(reproductive health/rights)…性と生殖に関する健康と権利と訳され、個人、特に女性が生涯にわたって主体的に自らの身体と健康の保持増進と自己決定を図ること、そのための身体的、精神的、社会的な諸権利が基本的人権として保障されていること。

(2)国の動向
 昭和21(1946)年に「日本国憲法」が公布され、すべての国民は法の下に平等で
あるという理念と国際的な動向を勘案しつつ各法整備が進められてきました。昭和51
(1976)年、国連婦人の10年がはじまると、国は昭和52(1977)年に「国内
行動計画」を策定し、「国内行動計画前期重点目標」を決定しました。
 昭和60(1985)年に「男女雇用機会均等法(平成11(1999)改正)」を公
布し、「女子差別撤廃条約」を批准、平成11(1999)年に「男女共同参画社会基本
法」等の国内法を整備し、急速に男女共同参画社会の形成の促進に向けた取組が行われて
います。
 また、女性に対する暴力などの急増から、平成12(2000)年に「ストーカー行為等
の規制等に関する法律(ストーカー防止法)」、平成13(2001)年に「配偶者からの
暴力の防止及び被害者の保護に関する法律(DV防止法)」が施行されました。

(3)県の取組
 国の動向も勘案しながら、昭和60(1985)年「鳥取県婦人基本計画」、平成3
(1991)年「とっとり女性プラン」、平成8(1996)年「とっとり男女共同参画
プラン」などを策定しました。
 平成12(2000)年には、男女共同参画社会の実現をめざして、全国で5番目、議員
提案としては全国で初めて「鳥取県男女共同参画推進条例」を制定して、男女共同参画に
関する県民の苦情・不服を処理する「男女共同参画推進員」の設置や審議会等における女
性委員の登用を推進するなど、女性の人権をはじめとする女性問題の解決に向けた取組を
行っています。
 また、平成13(2001)年に「鳥取県男女共同参画センター(よりん彩)」を、平成
14(2002)年には、「鳥取県配偶者暴力相談支援センター」を開設しました。

2 現状と課題
(1)現状
 女性の人権問題は、これまで、被害女性の相談や届出に対する抵抗感から潜在化する傾
向にありましたが、近年、ドメスティック・バイオレンス(以下「DV」という。)やセ
クシュアル・ハラスメント、男女間の賃金格差や待遇の問題などは重大な人権問題である
との認識が高まっており、多くの相談や届出が寄せられるようになっています。
 平成14年度の県婦人相談所、市婦人相談員へのDV相談件数は379件、県婦人相談
所におけるDV被害者の一時保護は92人(委託一時保護を含む)と増加傾向にありま
す。
 平成11年に県が行った「男女共同参画意識調査」では、女性の約15%が直接または
身近なところで夫・パートナーからの暴力を経験し、約17%がセクシュアル・ハラスメ
ントを経験しています。
 また、「女性の人権が尊重されていないと感じること」では、買春・売春、援助交際、
職場におけるセクシュアル・ハラスメントなどが上位になっていますが、どの項目も過半
数を超えるものはなく、これらを女性の人権侵害として捉える意識は低いのが現状です。
 さらに、「平成14年度鳥取県県民ニーズ(意識・関心)調査」では、「男性は外で働
き女性は家庭を守る」という考え方については、男女とも「反対」「どちらかといえば反
対」という人が増えています。しかし、学校教育、職場、家庭生活、町内会・地域、社会
通念・慣習やしきたりなどでの男女の地位の平等感をみると、学校教育以外の各分野で男
性が優遇されていると感じる人の割合が高くなっています。

(2)課題
 DVやセクシュアル・ハラスメントなどの女性に対する暴力による人権侵害の発生を防
止するとともに、その背景にある男性優位の社会構造の改革、固定的な性別役割分担意識
や行動に現れている性による差別を解消する必要があります。
 そのためには、意識啓発にとどまらず、男女間で事実上の格差が生じている雇用形態・
賃金や政策・方針決定過程への参画などの機会の確保(積極的改善措置)を講じるなどの
取組が必要です。
 さらに、女性自身が「生命の尊重(自分を大切にする、自分らしい生き方)」という人
権意識を高めるとともに、女性の人権に関する社会の理解を深める必要があります。

3 基本方針
(1)今後の女性の人権に関する基本的方向
① 女性の人権擁護
 女性に対する暴力や性の商品化等の人権侵害の根絶に向けて、啓発活動や相談・保護
体制の充実を図ります。
 また、固定的な性別役割分担意識や性による差別の解消及び女性の人権に関する女性
自身や社会の理解を深めるため、家庭や学校、職場や地域社会等のあらゆる場面におい
て、男女の人権が尊重される教育の推進、広報啓発等により、人権尊重の視点に立った
男女平等意識の確立を図ります。

② 男女共同参画社会の実現
 女性の人権が擁護され、社会を構成する男女が対等な立場で個性豊かに生き生きと暮
らせる社会を形成するため、「男女共同参画社会基本法」及び「鳥取県男女共同参画推
進条例」に基づき、市町村や県民、事業者の理解と協力を得て、男女共同参画社会づく
りを推進します。

(参考)
<鳥取県男女共同参画推進条例の基本理念>
①男女が、互いにその人権を尊重する社会
②男女が、性別による差別を受けない社会
③男女が、互いの性を尊重し、性と生殖に関する健康と権利を認め合う社会
④男女が、社会のあらゆる分野で個性と能力を発揮できる機会が確保される社会
⑤男女が、自立した個人として自己の意思によって活動し、かつ責任を負う社会
⑥男女が、子の養育、家族の介護その他の家庭生活における活動の中で、対等な
役割を果たす社会
⑦男女が、政治活動、経済活動、地域活動その他の社会活動に対等な立場で参画
し、かつ、責任を分かち合う社会

(2)個別分野の基本的方向
① 生活・教育・意識啓発
ア 女性に対する暴力の根絶
 女性に対する暴力相談が増加しており、被害女性以外の家族にも深刻な影響及ぼして
いることから、女性に対する暴力が人権侵害であるという社会的な認識を徹底するとと
もに、被害者及び加害者の相談体制、被害者の保護・自立支援体制を充実します。
 鳥取県においては、民間シェルター等において先駆的な取組が行われていますが、都
道府県によって格差があることから、同様の取組が行われるよう全国に情報発信すると
ともに、国に対しても要望します。
 また、DV防止法の対象となっていない被害者の家族の保護体制や配偶者以外のパー
トナーからの暴力も保護対象とするよう、引き続き国に要望します。

イ 性の商品化・暴力表現の根絶
 性の商品化や暴力表現は、女性の人権侵害を助長するとともに、特に青少年の健全育
成にも深刻な影響を及ぼしている現状があります。
 このため、性の商品化、暴力表現を根絶するため、家庭や学校、職場や地域社会等で
教育・啓発等を行い、男女平等意識の確立を図ります。
 また、児童買春、児童ポルノの根絶に向け、少年少女が健やかに成長できる環境づく
りを目指した取組を推進し、メディアが自主的に女性の人権を尊重した表現や児童の権
利の保護及び青少年の健全育成に配慮した取組を行うよう働きかけます。

ウ 女性の家事労働に対する理解
 家庭において、家事、子育て、介護等を主に女性が担っている現状があります。就労
による有償活動と同様に、無償で行われるこのような労働を適正に評価するとともに、
その経済的、社会的な貢献と役割について理解を深め、同時に家事、子育て、介護等を
男女で担うための取組を推進します。

エ 教育・学習・普及啓発
 女性の人権に関する理解を深め、「男だから、女だから」という固定的な性別役割分
担意識が男女とともにその個性や能力を十分に発揮する機会を制約することがないよう
教育、学習、普及啓発を推進します。

② 保健福祉
ア リプロダクティブ・ヘルス/ライツの確立
 男女が相互に尊重しあい、対等な関係を築き、ともに自分自身の身体や健康に関わる
ことについて理解し、自己決定ができる環境が必要です。
 女性自身が「生命の尊重(自分を大切にする、自分らしい生き方)」という人権意識
を高めるとともに、もう一方の当事者である男性も妊娠や出産という女性の健康に関わ
る問題について、よく理解し尊重するための性教育を推進します。特に、20歳未満の
人工妊娠中絶実施率が全国上位という現状から、家庭や学校、地域が連携した取組を推
進します。
 また、女性の人権に関する問題として認識されるようになってきた「リプロダクティ
ブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康と権利)」の普及啓発を推進します。
 さらに、女性が健康を自己管理できるよう、健康教育や相談体制をはじめ生涯を通じ
た健康を支援する取組や、女性の健康に大きな影響を及ぼすHIV/エイズや性感染症
に対する取組を推進します。

イ 福祉
 一人親家庭、中でも母子家庭が増加しています。生活基盤が不安定な母子家庭及び寡
婦の自立を促進するための取組を推進します。
 また、高齢者人口の6割以上を女性が占めており、一人暮らしである場合も多くなっ
ています。家庭における高齢者虐待や施設等における不必要な身体拘束を廃止する取組
を推進します。

③ 就労・産業
ア セクシュアル・ハラスメントの防止
 職場におけるセクシュアル・ハラスメント防止対策実施率は過半数に達していませ
ん。セクシュアル・ハラスメントは女性の人権侵害であるという認識を徹底し、セクシ
ュアル・ハラスメントを生じさせる職場の構造、男性優位の就労体制の改革に取組みま
す。

イ 職業能力開発
 女性は職域に偏りが見られるため職業経験において不利な状況に置かれています。女
性の職業意識を育成し職業能力を開発するための取組を推進します。
 また、女性は新しい事業の起業に当たって技術方法の習得や資金確保等において不利
な状況に置かれているため、起業を志す女性を支援する取組を推進します。

ウ 雇用環境の改善
 パートタイム労働、派遣労働、在宅勤務等就業形態の多様化が進んでいます。
 また、女性の雇用形態は、男性に比べてパートタイムやアルバイトなどの非正規職員
の割合が高く、就職後も役職への登用や勤続年数の違いなどから男女間の給与額に格差
が生じています。募集、採用、配置、昇任、教育訓練などにおける男女格差の解消な
ど、機会均等な雇用環境を整備する取組を進めます。
 さらに、多様な働き方を支援し、男女ともに家庭と仕事が両立できる職場環境づくり
を進めるため、育児休業を取得しやすく職場復帰しやすい環境を整備することに努めま
す。

 上記のセクシュアル・ハラスメントの防止、職業能力開発、雇用・職場環境の改善の
ため、平成16年2月に創設された「鳥取県男女共同参画推進企業認定制度」により、
企業等における男女共同参画の取組を応援していきます。

エ 自営業における女性の役割の認識・評価
 農林水産業、商工業等の自営業に従事する女性は重要な役割を果たしていますが、そ
の役割が正しく認識、評価されているとは言えません。家族経営協定など自営業におけ
る女性の役割の適正な評価や就業条件の整備を推進します。

④ 相談・支援体制
 女性に対する暴力、セクシュアル・ハラスメントなど性暴力に関する相談において
は、迅速で効果的な支援を被害者の人権や安全に配慮しながら行うために、相談員の資
質向上と相談機関のネットワーク確立に向けた取組を推進します。
 また、女性が「いつでも、どこでも、なんでも」相談できるよう、公的相談機関の充
実を図ります。

⑤ 推進体制
 女性の人権が擁護され、社会を構成する男女が対等な立場で個性豊かに生き生きと暮
らせる社会を形成するため、行政、地域社会等のあらゆる分野における政策・方針決定
過程への女性の参画機会の拡大と女性の参画を促進するための環境を整備して、男女共
同参画社会の早期実現をめざします。
 また、女性の人権に関する市町村の取組を推進するとともに、女性に対する暴力の被
害者支援などについて重要な役割を果たしている民間支援団体をはじめ、各分野のNP
O、民間団体と連携を図ります。

Ⅲ 障害者の人権問題
1 これまでの動き
 障害者の人権については、昭和56(1981)年の完全参加と平等をテーマとした国
際障害者年を契機として、様々な施策が進められ、障害がある人もない人もお互いに助け
合い、ともに平等に社会の一員として生活し、活動するという「ノーマライゼーション」
の考え方も次第に普及してきています。
 国においては、平成5(1993)年に策定された障害者基本計画(障害者対策に関す
る新長期計画)の重点施策計画として、平成7(1995)年に、平成14年度までの7
か年の具体的な目標である「障害者プラン~ノーマライゼーション7か年戦略~」が策定
され、これに基づく施策が推進されてきました。平成14(2002)年12月には新し
い「障害者基本計画」及び「重点施策実施5か年計画」が策定され、総合的に施策を推進
することとされています。
 本県においても、平成5(1993)年に策定した「鳥取県障害者計画」、平成9(1
997)年に策定した「鳥取県障害者計画7か年重点計画」に基づき、障害当事者や関係
者の方の意見を聞きながら、ノーマライゼーションの理念の実現に向けた諸施策を進めて
きました。そして、平成16(2004)年度以降の障害者関係施策推進の指針となる新
たな鳥取県障害者計画を、平成16年度に策定することとしています。

2 現状と課題
 障害のある人もない人も、社会の対等な構成員としてお互いに尊重し、支え合う社会づ
くりを進めていくことが必要です。しかしながら、障害者を取り巻く社会環境には、障害
者の日常生活や社会参加、働く場の確保、情報収集などにおいて様々な障壁があり、障害
者が不自由や不利益を被ったり、様々な困難に直面せざるを得ない状況もなくなっていま
せん。特に、これまで障害者が自らの生活を自己選択・自己決定することには、様々な困
難が伴ってきました。実質的な選択肢が限られていることの結果、地域での生活を希望す
るにもかかわらず、入所施設や病院への入所・入院を続けざるを得ない人もあります。自
ら選び、決定することができる選択肢を増やすことにより、その自己実現を支援すること
が障害者の人権を尊重する社会にするためには不可欠です。
 本県は、ノーマライゼーションの理念の普及を図ってきましたが、障害者が地域で暮ら
すことが様々な困難をともなってきた結果、地域社会の構成員として障害者が活躍するこ
とができなかったと考えられます。障害者の地域での生活を支える様々な社会資源と環境
を整え、障害のある人もない人も同じように暮らす地域づくりを進めていくことによっ
て、ノーマライゼーションの理念の定着を図っていくことが必要です。
 また、障害や障害者に対する誤った認識や偏見から生じる差別も依然として存在してい
ます。障害は、誰にとっても無縁のものではありません。障害者が一人の人間として尊重
され、その権利が保障されるよう、障害者の人権施策をより一層推進していかなければな
りません。

3 基本方針
(1)今後の障害者の人権に関する基本的方向
 障害の有無にかかわらず、相互に人格と個性を尊重し支え合う共生社会の実現を図る
ため、啓発広報活動の推進や障害児教育の充実に積極的に取り組みます。
 また、当事者本位の考え方のもと、地域の中で障害者の人権が尊重され、障害のない
人と同じように暮らすためには一人一人の障害に応じた適切な支援が必要であることか
ら、相談支援体制の整備や福祉サービスの充実、就労の促進、暮らしやすいまちづくり
の推進を図るなど、障害者の自立生活のための地域基盤の整備を進めます。

(2)個別分野の基本的方向
① 啓発広報活動の推進
 ノーマライゼーションの理念を普及させるため、「障害者の日」をはじめとして各種
の広報や行事等を行い、機会を捉え、学校教育や地域での啓発活動を推進するととも
に、インターネット上に障害者理解のためのホームページを作成するなど、ITを積極
的に活用し理解の促進を図ります。
 また、障害者施策として取り組むことが求められる高次脳機能障害等についても、そ
の理解の促進に努めます。
 啓発広報は、次の事項に重点を置いて進めます。

◇障害者は、障害のない人と違った存在ではなく、同じ地域社会の構成員であるととも
に、一人の人間として基本的人権を等しく保障される権利を有していること。

◇障害があることによって差別や偏見を受ける理由がないこと。

◇障害者の問題は、すべての人の問題であり、一人一人がその解決に向けて努力しなけ
ればいけないこと。

② 相談・支援体制の整備
 障害児・者が、地域の中で育ち、また、豊かな生活を送れるよう、障害児・者のライ
フステージの変化に応じた連続性のある相談・支援体制の整備や、障害児・者が直面す
る療育・教育・生活・就労などの様々な課題を地域の関係機関が連携して解決につなげ
ていく仕組みづくりに取り組みます。
 また、成年後見制度や地域福祉権利擁護事業の活用促進をはじめとして、障害者の権
利擁護のための取組を進めます。

③ 福祉サービス等の充実
 地域で生活することを希望する障害者が障害の程度にかかわらず、その希望を実現で
きるように、居宅介護(ホームヘルプサービス)、グループホーム(注1)、デイサー
ビス(注2)等の在宅サービスの提供体制の確保と充実に取り組みます。
 施設サービスについては、施設等から地域生活への移行と施設機能の地域生活支援へ
の活用を促進します。また、現にある入所施設においては、大部屋の解消などプライバ
シーの確保を図るとともに、入所施設・通所施設の双方において障害の特性に対応した
サービスを提供できるようにするなど、サービスの質の向上を進めていきます。
 さらに、障害者が働いたり、日中活動を行う場としての小規模作業所等の設置運営や
当事者の主体的な活動、家族会活動の充実の支援、学習の場の提供、高次脳機能障害等
の従来の制度では対応できていないニーズへの対応にも努めます。

注1)グループホーム:地域の中で自立した生活を送るために、一般住宅で共同生活するもので、食事・健康管理等の日常生活に関する世話人が配置される。

注2)デイサービス:施設に通所して、入浴や食事の介護、機能訓練、社会交流などを進めるための支援を受けること。

④ 特別支援教育
 障害のある児童・生徒一人一人の社会的自立に向けて、各学校において個別の教育支
援計画を策定し、就学前から卒業までのそれぞれの段階に応じたきめ細かな指導を行い
ます。
 また、障害の種類や程度に応じた教育が東・中・西部の各生活圏域ごとに行えるよう
施設や設備の充実を図ります。
 盲・聾・養護学校では、教員の専門性の向上と施設設備の整備、医療・福祉・労働と
の連携を一層図るとともに、地域の特別支援教育のセンターとしての機能を充実しま
す。
 さらに、LD(学習障害)、ADHD(注意欠陥多動性障害)、高機能自閉症を含め
た障害のある児童・生徒の多様な教育的ニーズを把握し、適切な教育を受けることがで
きるように、小・中学校にも専門性のある教員を配置するとともに、教員の養成・研
修、支援体制の整備に努めます。
 地域に開かれた学校づくりや学校や地域における交流活動を積極的に行い、障害のあ
る児童・生徒に対する啓発理解を推進するとともに、児童・生徒の社会性や豊かな人間
性を育みます。

⑤ 就労の促進
 障害者の雇用を進めるために、関係機関と連携して、事業主へ障害者雇用や法定雇用
率制度の啓発を行い、障害者の雇用の場の確保に努めます。
 また、関係機関と連携しながら、障害者自身の職業能力や就労意欲を高めるために、
県立高等技術専門学校が障害者を対象とした職業訓練に新たに取り組むとともに事業主
に委託して実施する職場適応訓練を充実します。
 さらに、障害者の就業、生活の一体的な支援と就職後の職場適応の支援などを行う
「障害者就業・生活支援センター」の東・中部地区への設置促進を図り、東・中・西部
の各生活圏域ごとに事業主と障害者双方に対して相談や助言を行えるような体制を整備
します。
 障害者の福祉的就労の場である授産施設や作業所についても、その活動を支援する
ため「鳥取県障害者就労事業振興センター」を関係者の参画を得て設立するとともに、
そのセンターを中心とした技術開発、販売促進等を支援するネットワークの構築を図り
ます。

⑥ 暮らしやすいまちづくりの推進
 「鳥取県福祉のまちづくり条例」等に基づき、障害の有無、年齢、性別等にかかわら
ず、誰もが安心してあらゆる分野の活動に参加できるよう、行政・事業者・県民がそれ
ぞれの責務を果たしながら、ユニバーサルデザインに配慮しつつ建築物、歩道(道路)、
公共交通機関、公共工作物(案内標識等)などバリアフリーな生活環境の改善・整備を促
進します。
 さらに、障害者が安心して生活できる公営住宅等の公的な住宅の供給を今後も進め、
民間住宅についてもバリアフリーなど安心して住むことができる住宅の改修や建設を支
援します。
 また、障害者が講座、研修会、各種イベント等に自由に参加し、楽しむことができる
よう、障害に配慮したイベントの手引きの普及を図るなど、イベント等のバリアフリー
化を推進します。

⑦ 精神保健福祉の推進
 精神障害に対する正しい知識の普及啓発を進め、心の不調時の早期受診につながるよ
う努めるとともに、病状に応じた適切な医療の確保に努めます。特に、本人の同意に基
づいた入院については、原則として開放的な環境での処遇を行うとともに、本人の同意
に基づかない入院については、行動制限が人権の観点からも必要最小限の範囲で適切に
行われるようにし、できる限りよい環境において医療を受けられるようにしていきま
す。
 また、精神障害者の地域での生活を支援する体制の整備を図り、医療機関、市町村、
保健所等が連携して精神障害者の自立支援のための取組を進めます。とりわけ、条件が
整えば退院可能とされる入院者の社会復帰を目指し、小規模作業所、グループホームな
ど地域の社会資源を充実するなどにより、円滑な退院を促進していきます。

Ⅳ 子どもの人権問題
1 これまでの動き
 昭和22(1947)年の児童福祉法制定、昭和26(1951)年の児童憲章制定に
より、児童は人として尊ばれ、社会の一員として重んぜられ、よい環境の中で育てられな
ければならないとする児童の権利の基本理念が定められました。そして、1989(平成
元)年国連総会において「児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)」が採択され、
平成6(1994)年に批准されました。
 平成11(1999)年に「少子化対策推進基本方針」に基づく重点施策の具体的実施
計画として「新エンゼルプラン」が国において策定され、地域での子ども(注)を育てる
教育環境の整備や学校で子どもたちがのびのびと育つ教育環境の実現等の取組5方針が示
されました。
 平成12(2000)年には、社会問題になっている児童虐待を防止するために「児童
虐待の防止等に関する法律(児童虐待防止法)」が制定されました。
 また、平成15(2003)年に、次の世代を担う子どもが、健やかに生まれ育つ環境
を整備するため「次世代育成支援対策推進法」が制定されました。
 県においては、平成12(2000)年に「やさしさとたくましさを併せ持つ子どもた
ちを育てるために」を基本理念とした「21世紀鳥取県教育ビジョン」を策定するととも
に、平成13(2001)年には「発信!とりっ子応援ビジョン'21」を策定し、子ども
を安心して産み育てやすい社会にするために、みんなで子どもの「育ち」と「子育て」を
応援する社会づくりをめざし、取り組んでいるところです。
 また、平成15(2003)年1月には、「とっとり21世紀青少年育成基本構想」を
策定し、子どもの健全な育成のために大人の果たすべき役割の明確化とこれからの青少年
施策のあり方等の方向づけを行いました。さらに、平成16(2004)年3月には「子
どもの権利条約普及推進行動計画」を策定し、学校、家庭、社会での子どもの権利の理解
を進めることとしています。

注)子ども:原則として18歳未満あるいは高校生までを対象とする。

2 現状と課題
(1)社会の現状
 児童福祉法や児童憲章の制定後50年余が経過し、また、平成6(1994)年の
「児童の権利に関する条約」が批准された後においても、なお、子どもを保護者(親)
の従属物としてしか見ず、権利の主体として尊重しない家庭や、保護者の義務である子
どもの発達段階に応じた適切な教育が行われない家庭が見られます。
 核家族化や少子化などの進行により、地域の中で子ども同士のふれあう機会が減少
し、地域社会のつながりも希薄になってきています。それに伴い子育てに悩みを抱える
家庭が増加し、身体的虐待・ネグレクト(注)など児童虐待等の相談件数も急増していま
す。
 また、児童売春・薬物乱用など子どもの健全な発達を阻害する社会環境の悪化も進ん
でいます。
 これらの原因の一つとして児童福祉法や児童憲章のみならず、「児童の権利に関する
条約」の意義・内容について、普及が不十分であることが考えられます。
また、子育てに家族全体で関わることへの理解や協力が得られはじめていますが、社
会への周知という点ではまだ不十分だと考えられます。

(注)ネグレクト:子どもの健康を損うほどの不適切な養育(食事を与えない、服を着がえさせない等)や子どもにとって必要な情緒的欲求に応えない(愛情遮断等)ことなど、保護者としての監護を著しく怠ること。

(2)家庭、地域社会、学校・保育所等の状況
① 家庭
 固定的な性別役割分担意識や家庭より仕事を優先する考え方が根強く残る中で、核家
族化や都市化の進行に伴い、支え合う、助け合うと言った地域の共同体意識の消失等に
より、特に母親へ子育ての負担が集中する傾向があり、子育て不安を解消できない保護
者が増えています。
 そのため、本来家庭で培うべき基本的生活習慣を学校・保育所等に求める保護者が増
えてきています。

② 地域社会
 地域の子育て力の低下、家庭の地域での孤立化により「大人と子ども」「子どもと子
ども」の関わりが希薄になっています。
 一方、平成14(2002)年から学校週5日制が完全実施されたことを受けて、町
内会活動等地域活動による土曜日の子どもの居場所づくりの動きが出始めています。

③ 学校・保育所等
 学校・保育所等では、保護者の夜型の生活習慣の影響により子どもの睡眠不足や朝食
をとらないままでの登校・登園など、子どもに基本的生活習慣を身につけさせる上で不
適切な状況が見受けられます。
 また、学校では不登校、問題行動など様々な課題や、いじめ等による人権侵害の発生
が見られます。

3 基本方針
(1)今後の子どもの人権に関する基本的方向
① 子どもの利益の最大限の尊重
 憲法、児童福祉法、児童憲章や児童の権利に関する条約等において子どもに保障され
ている各種の権利を守り、「児童の最善の利益」が具現化される社会の実現をめざしま
す。「児童の権利に関する条約」の意義やその内容について市町村・学校・NPO等と
連携しながらその普及に努めます。

② 子育て環境づくり施策の推進
 子どもを産み育てやすい社会づくりを推進するため、行政(県、市町村)、企業、地
域及び県民(家庭、個人)がそれぞれの立場で「みんなで子どもが育つ環境を整え、子
育てを応援しよう」という行動指針「発信!とりっ子応援ビジョン’21」を平成13
(2001)年に策定し、地域やそれぞれの立場の特性にあった取組について支援して
いるところです。
 今後、このビジョンや「とっとり21世紀青少年育成基本構想」、「健康とっとり2
1」などの計画に基づき、福祉・保健・医療、教育、労働等すべての分野で子育て支援
や子どもの健全な成長のための施策を推進します。
 また、次世代育成支援対策推進法(平成15(2003)年)に基づき、平成16
(2004)年度中に県と市町村がそれぞれ作成する次世代育成支援のための地域行動
計画については、子どもの視点を十分に考えながら策定を進めます。

(2) 個別分野の基本的方向
① 子どもの権利を守るための意識啓発
 「児童の権利に関する条約」では、「児童の最善の利益が主として考慮される。(第
3条)」など、各種の権利が宣言されています。
 しかし、児童虐待など子どもの人権を侵害する事件が多発するなど、この条約の趣旨
が十分理解されているとは言えません。
 このため、この条約の趣旨を踏まえ、県・市町村や学校、地域を通じて、この条約の
普及啓発を行っていきます。
 また、権利の主体者である子どもに対して、権利条約についての学習を行い、自らの
権利についての理解を深め、年齢や発達段階に応じて、一人一人の意思や意見が一層尊
重される社会づくりを進めます。
 さらに、子どもを保護・指導する場合には、子どもの権利について説明をし、自己選
択権や自己決定権を尊重するよう努めます。

② 福祉保健
ア 児童虐待防止対策
 急増する児童虐待の防止、早期発見及び適切な対応を図るため、関係機関のネットワ
ーク化を促進し、職務上児童福祉・医療に関わる者に対する研修を重ねるとともに、市
町村、学校を通じて、家庭・地域への意識啓発を進めます。虐待者の多くは実の親であ
るという実態からも、育児不安を取り除くための相談体制の整備や地域で支え合う環境
づくりを推進していきます。
 また、将来親になったときに、子育てを楽しみ、健全に育成することができるよう
に、低年齢から乳幼児と関わる機会を設け、その成長に合わせた体験と学習の場を提供
するように努めます。

イ 要保護児童対策
 子どもの人権を著しく侵害する児童虐待等の行為を防止するとともに、要保護児童の
早期発見・通報に適切な対応を行います。そして緊急保護などの措置や被害にあった子
ども及びその保護者に対する必要な指導・心のケア等を行い、だれでも気軽に相談でき
る体制の整備も行っていきます。
 また、児童の保護に当たっては、個別のケースに応じた適切な指導・援助ができるよ
う、職員の資質向上や体制の整備を推進していきます。
 更に、障害のある子どもが、地域でいきいきと暮らすことができるよう、障害のある
子どもとその保護者の様々な相談に応じる体制やサービスの提供の充実を図っていきま
す。

ウ 保育サービスの充実
 子育てに関して気軽に相談できる体制づくりや、安心して子どもを預けることができ
る、また、子育てしながら働き続けることができるようにするため、保育所で行う延長
保育や休日保育、病院等で実施する病後児保育、児童館や学校などを利用して実施する
放課後児童クラブなどの充実を進めていきます。
 また、地域子育て支援センターにおいて、育児相談に応じたり子育てサークルの支援
などを行います。さらに、ファミリー・サポート・センターや保育サポーターなど地域
の保育関連サービスの充実を進めます。
 子どもの健全な発達のため、保育者や保育サービス関係者の研修を行い、保育の質の
一層の向上を図ります。これらの取組を、家庭、学校、地域、行政が協力して行えるよ
うな社会の仕組みづくりをめざします。

エ 母性、乳幼児の健康増進対策の推進
 子どもの健やかな発育・発達のために、病気や障害の早期発見及び発達面やしつけ、
保護者の育児不安への助言についての適切なアドバイスを行うなど支援していきます
 安全な出産及び出生後救命救急が必要な場合等に対応するため、新生児や妊産婦に適
切な対応を実施できるように周産期医療の一層の充実を図ります。
 市町村の乳幼児健診や保健所の発達相談事業等により、子どもの成長発達を見守ると
ともに、保護者への育児支援に努めます。

オ 保健指導の充実
 妊産婦、乳幼児や思春期を迎えた児童・生徒や保護者などを対象とした健康教育、保
健指導の充実を図ります。
・妊産婦:喫煙や飲酒が妊婦や胎児に大きな影響を与えることから、妊婦やその
家族に対しての相談、指導の充実を図ります。
・乳幼児:乳幼児期から正しい生活習慣(食事・運動・睡眠など)の確立が図ら
れるよう保護者を通じて知識の普及を図ります。
・思春期:身体面及び精神面における発達が非常に大きい時期であるため、身体
の発達や性についての正しい知識の普及を図ります。

カ 子どもの心の健康づくり対策及び児童環境基盤整備の推進
 子どもの心の健康づくり対策として、母親の育児不安等の解消を図るとともに児童虐
待等の社会的問題に早期に対応するための体制整備を推進します。
 乳幼児健診の場に心理相談員、保育士などのスタッフを配置することで様々な視点で
の育児支援に努めます。
 児童環境づくり基盤整備として、子どもに有害な環境への対策、子どもが参加できる
活動の提供等子育て支援の組織活動の育成に努めます。

キ 薬物乱用防止対策の充実と性的搾取からの保護
 近年、薬物乱用は低年齢化しており、子どもの薬物乱用を防止するためには教育、医
療、取締など関係機関との連携した取組が必要です。
 この取組として、薬物の恐ろしさ、乱用による体に及ぼす影響などの知識普及のた
め、各種啓発運動・月間及び講習会等による啓発活動、さらに、公民館活動等と連携し
地域に根ざした啓発活動を充実させていきます。
 また、再乱用防止のため保護者及び関係機関と連携を図りながら指導・助言を行うと
ともに、薬物に関連する問題に対する相談体制の充実を図ります。
 インターネットや携帯電話を利用した児童買春・児童ポルノ、児童売春といった児童
の商業的性的搾取が問題になっています。そのため、児童の心身の成長に重大な影響を
与える行為を未然に防ぐことができるよう、児童の権利に関する理解を深めるための教
育や啓発に努めます。

③ 教育分野
ア 望ましい人間関係づくりの推進
 子どもが、安心して生活し、学習や運動に取り組み、自分の可能性を広げていく上
で、豊かな人間関係づくりは大切なものです。
 家庭における家族相互の信頼関係を基盤として、幼児期には自然体験や社会体験を、
学校ではそれらの基礎の上に、友だち同士や大人との関係をさらに広げていけるよう支
援していきます。また、学校、家庭そして地域の連携の中で子どもの豊かな人間関係づ
くりを進めていける学校づくり、家庭づくり、地域づくりを進めていきます。

イ 基礎学力の確実な定着
 変化の激しい社会を生きていく上において子どもに基礎学力を確実に身につけ、あわ
せて社会の変化に主体的に対応できる力を育んでいくことが大切です。
 家庭においても、学校との連携を図りながら、子どもの学習習慣や興味・関心を育ん
でいくことが求められます。
 学校においては、繰り返し学習や少人数指導などのきめ細かな指導により、一人一人
に応じた学習指導の充実を図ることとともに、総合的な学習の時間などにおいて、体験
的・問題解決的学習等をとおして、自ら学び自ら考える力の育成を図ります。
 また、読書の習慣づくりや児童・生徒の基礎学力の実態に応じた指導の充実、家庭・
地域への情報提供などを通して、学校、家庭、地域が連携した取組を進めます。

ウ 一人一人の子どもを大切にする学校、家庭、社会づくり
 学校、家庭、地域社会において、子どもが社会の大切な一員であることを正しく学ぶ
機会が保障される必要があります。特に、学校においては、教科学習や日々の生活の中
で、一人一人が人権を尊重し、自分自身と周りの人たちを大切にする態度を育んでいけ
るよう配慮していきます。
 また、自分の権利について正しく学習し、様々な人権問題についての理解を深め、子
どもの人権意識を育んで行くために、生活の中にある身近な人権問題を通して学ぶ人権
学習の工夫・改善に努めます。

エ 一人一人の子どもの自己実現に向けて
 これからの社会を担っていく子どもが、自分の適性や、興味・関心に応じて自分の進
路を主体的に選択し、自己実現に向けて伸び伸びと力を発揮できる社会づくりが求めら
れます。
 学校においても、職場体験・上級学校体験の活動を通じて、自分が希望する進路を自
ら実現しようとする学習活動を推進します。また、いじめ、不登校、問題行動など、様
々な不安や悩みを持つ子どもには、一人一人の心に寄り添ったきめ細かな支援が行える
よう、各郡市に適応指導教室を設置するなど、相談体制の充実に努めます。

④ 思春期の子ども(青少年)の健全育成
 子どもの健全な育成のために、大人は子ども一人一人の思いや願いに耳を傾け、必要
な指導や助言を行うなどの責任を果たしながら、その主体性を尊重し、成長を支援する
とともに、ともに歩みともに未来を築く姿勢が大切です。
 そのために、子どもの自主的な活動の支援、様々な体験の機会の提供、また有害な環
境への対策、様々な活動の場を子どもに開かれたものにし、社会貢献活動を推進するこ
となどを行っていきます。
 また、家庭においては、子どもを温かく育む家庭づくりや教育の場としての家庭づく
りを、学校においては、児童・生徒と教職員、学校と家庭と地域社会との信頼関係に基
づいた学校づくりを推進していきます。そして、子ども自ら行う地域づくりなどの活動
を支援するとともに、子どもの意見も取り入れた施策を推進していきます。
 これらの子どもの健全育成を図る施策は、関係者や青少年育成団体などの関係機関と
連携しながら推進していきます。

⑤ 生活環境改善
ア みんなで子育てを支援していく意識づくり
 子どもを産み、育てやすい社会を作るために、県・市町村、地域社会、学校、家庭、
企業等、それぞれの立場での取組に加え、保育サービスの充実、放課後児童クラブの設
立促進、児童館など(社会資源の)活用等社会全体で子育てを支援することが必要で
す。
 そのため、それぞれの分野での取組を支援し、みんなで子育てを支援する気運を高め
ていきます。特に、家庭においては家事や子育ての負担が母親に偏らないよう、また、
子育ての責任を分かち合うよう父親の子育て参加等の意識啓発を行います。

イ 子育て家庭にやさしいまちづくり
 「鳥取県福祉のまちづくり条例」に基づき、不特定多数の人が利用する公共的施設
に、授乳やおむつ替えのできる場所の設置等、乳幼児連れの家族が安心して外出でき、
安全に行動できるよう生活環境の整備を進めます。

ウ 子育てを応援する職場環境づくり
 働く男女が安心して子どもを産み健やかに育てるために、育児休業を取得しやすく職
場復帰しやすい環境を整備することに努めます。さらに多様な働き方を支援し、男女と
もに家庭と仕事が両立できる職場環境づくりを進めます。
 また、次世代育成支援対策推進法により、より一層の職場環境づくりが求められてい
ます。県も率先して安心して子どもを産み育てやすい職場環境づくりに取り組んでいき
ます。

エ 安全な自然環境の中での発達保障
 近年、環境ホルモンや有害な食品添加物等が問題化しており、生命や健康に重大な影
響があることが指摘されています。このことは、子育てをする上で、また、子どもたち
が安全に生きる権利を保障する意味で大きな問題となっています。
 鳥取県の恵まれた自然環境を活かしながら、子どもの生活環境を守るための取組とし
て地産地消等の推進を含めた施策をより一層行っていくことが必要です。

Ⅴ 高齢者の人権問題
1 これまでの動き
 我が国の人口構造の高齢化は極めて急速に進行しており、諸外国もかつて経験したこ
とのない本格的な高齢社会が目前に迫っています。
 国においては、高齢社会対策基本法の基本理念である「公正で活力があり、自立と連
帯の精神に立脚した豊かな社会」を構築するため、平成13(2001)年12月に閣
議決定した高齢社会対策大綱に基づき、各種施策の総合的な推進に取り組んでいます。
 また、高齢者が社会においていきいきと生活を送るための条件、支援が必要な高齢者
に対する社会としての対応のあり方を考えるために、介護保険制度の見直しを含め高齢
者介護、生活支援等のあり方が検討されています。

2 現状と課題
 本県は、全国に先駆けて高齢化が進んでいます。平成15(2003)年10月時点
の65歳以上高齢者数は14万3千人、高齢化率(全体に占める65歳以上高齢者の割
合)は23.4%となっており、高齢化率は全国で8番目に高くなっています。今後、
さらに高齢化は進み、平成22(2010)年には高齢化率が25%を超えて、県民4
人に1人は高齢者と推測されます。
 こうした高齢者の多くは、元気で自立した日常生活を送っていますが、生涯を健康で
生きがいを持ちながら、地域社会の中で積極的な役割を果たしていくことができる社会
の実現が求められています。
 また、高齢化の進展に併せて、身体能力の低下、痴呆の症状等による介護が必要な人
も増えています。平成12年から始まった介護保険制度において、県内で現在2万人以
上の人が要介護(要支援)認定を受けており、その多くが在宅又は施設において介護サ
ービスを受けていますが、痴呆性高齢者に対する不適切なケアや身体拘束の問題を始
め、高齢者が家族等から受ける身体的虐待や介護放棄、経済的虐待など高齢者の人権を
考える上で新たな課題も表面化してきています。
 平成13年に実施した高齢者実態調査の結果によると、高齢者の多くは、住み慣れた
家庭や地域でいつまでも暮らし続けたいと希望している限り、地域社会で自立した生活
を前提とした介護基盤の整備が必要となっています。
 本県では、介護保健制度の円滑な運用と老人保健福祉施策の推進を図るため、「介護
保険事業支援計画・老人保健福祉計画」を策定しており、第2期(平成15年(200
3)年~平成19(2007)年)の計画策定においては、①サービスの基盤整備と質
的向上②地域における生活支援体制の構築③介護予防・疾病予防の推進④痴呆性高齢者
に対する総合的な施策の推進⑤高齢者の社会参加と就労問題の解決に向けた取組を推進
します。

3 基本方針
(1)今後の高齢者の人権に関する基本的方向
 「高齢者」といってもそれぞれ大きな個人差があります。まずこの点をしっかり理解
し、そして、これまで社会を支えてきた高齢者に対し敬意を持って接していくよう啓発
を行います。
 高齢者が社会を構成する重要な一員として、地域の中で積極的な役割を果たしていく
ことができる社会を実現するため社会活動への参加促進、就労機会の確保、老人クラブ
やボランティア団体等への活動支援を行い、高齢者の価値観や自主性を尊重しながら社
会参加しやすい環境づくりに取り組み、高齢者の自己実現を支援していきます。
 一方、体が弱ったり介護を必要とする状態になっても、できる限り住み慣れた地域や
家庭で自立した生活を送ることができるように、適切な保健・医療・福祉の各種サービ
スを提供していきます。
 また、痴呆に対する理解と正しい知識の普及啓発を行っていくほか、身体拘束、虐待
等から高齢者の人権を守るため、相談窓口の整備や啓発等に努めていきます。

(2)個別分野の基本的方向
① 生活環境
 生涯を通じて安定したゆとりある生活環境の確保を図るため、高齢者が可能な限り住
み慣れた自宅において生活できるように、高齢者の自立や介護に配慮した住宅の改修に
対して助成を行うとともに、一人暮らしの高齢者が増加していく中で、日常生活への支
援体制、病気等緊急時の通報体制の整備を進めていきます。
 さらに、「鳥取県福祉のまちづくり条例」等に基づき、障害の有無、年齢、性別にか
かわず、誰もが安心してあらゆる分野の活動に参加できるよう、行政・事業者・県民が
それぞれの責務を果たしながら、ユニバーサルデザインに配慮しつつ建築物、歩道(道
路)、公共交通機関、公共工作物(案内標識)などバリアフリーな生活環境の改善・整
備を促進します。

② 生涯学習
 価値観が多様化する中で、高齢者においても社会の変化に対応して絶えず新しい知識
や技術を習得することが重要であり、高齢者大学校や公民館での学習講座など、今後と
も、高齢者を対象とした多様な学習機会の充実を図って、新しい知識や情報の提供に努
めていきます。

③ 就労
 高齢者が長年培った知識、経験、技術を有効に活用し、高齢者がその意欲と能力に応
じた多様な形態による雇用・就業機会を確保することが重要です。
 そこで、定年の引き上げや継続雇用制度の導入等による65歳までの安定した雇用の
確保及び再就職の促進についての啓発を図るとともに、地域における高齢者の臨時的か
つ短期的な就業機会の提供を行うシルバー人材センターが全市町村で設置されるよう働
きかけを行うなど、高齢者の就労促進に努めていきます。

④ 社会参加
 高齢者自身が、自らの経験と知識を生かしながら社会における役割を見出し、生きが
いを持って積極的に社会参加できるようにすることが求められています。
 地域において社会奉仕活動等を実施している老人クラブの充実・活性化を図るととも
に、高齢者の持つ豊かな知識、経験、技能を生かして社会活動を行う高齢者グループに
対する支援を行っていきます。
 また、ボランティア活動に対する興味・関心は年々高まっていることから、シルバー
ボランティアの養成を行い、ボランティア活動を通じて高齢者の生きがいづくりと社会
参加を促進していきます。

⑤ 保健福祉
 高齢者の多様な保健・福祉に対するニーズに対応するため、県及び市町村は「介護保
険事業(支援)計画・老人保健福祉計画」に基づき、良質な介護サービス基盤の計画的
な整備と健康・生きがいづくり、介護予防、生活支援対策の積極的な取組を促進してい
きます。
 介護を必要とする高齢者に対しては、できる限り住み慣れた地域や家庭において自立
した生活が送れるようにするため訪問介護、通所介護、短期入所生活介護等の在宅サー
ビスの充実を図るなど必要な施策を展開し、高齢者等が利用しやすい介護保険制度の推
進を図ります。
 また、高齢者が要介護状態にならないようにするため、介護予防や生活支援のための
各種老人保健・福祉サービスの提供に努めていきます。
 さらに、高齢者等に対して「寝たきりゼロ10か条」や「8020ハチイチニイマル運動」のさらなる
普及促進を図るとともに、閉じこもり防止や生きがい活動を推進することにより、「健
康とっとり計画」の推進と健康づくりへの積極的な取組を促進します。

⑥ 意識啓発
 長年にわたり社会を支え、貢献してきた高齢者に対して尊敬の念を持って接するとと
もに、高齢者の意思が尊重されるよう意識啓発を行います。
 また、介護が必要となった高齢者が適切なサービスを選択できるよう、介護保険制度
をはじめ各種の保健福祉制度を幅広く周知していきます。
 さらに、家庭での介護の役割が女性に偏重していることから、男女がともに介護の責
任を担っていくという意識の醸成に努めていきます。

⑦ 相談・支援体制
 社会の高齢化に併せて、今後、高齢者を取り巻く様々な問題が出てくることが予想さ
れることから、保健・福祉・法律等の相談に応じる「高齢者総合相談センター」の普及
啓発に努めるとともに、住民に身近な「在宅介護支援センター」等における相談・支援
体制の整備・充実を図っていきます。
 要介護高齢者に対する身体拘束や痴呆性高齢者の介護など専門的な相談体制の充実を
図るとともに、痴呆性高齢者等の権利を擁護するため、成年後見制度、地域福祉権利擁
護事業の周知に努めます。
 さらに、介護サービスを含む保健福祉サービスの利用者が適切なサービスを選択でき
るよう、的確な情報の提供に努めるとともに、サービスの質についての第三者評価の普
及・定着を図ります。

⑧ 高齢者虐待への対応
 高齢者が受ける虐待は、家庭内や施設内で起きることから表面化しにくく、これまで
実態把握が不十分でした。このため、在宅介護支援センターや居宅介護支援事業所な
ど、虐待に接する可能性が高い機関等を対象として県内全域での高齢者虐待の実態把握
に努めていきます。
 また、高齢者虐待の具体的な事例を踏まえながら、地域の関係機関等による援助や介
入のあり方、連携方策など高齢者虐待の解決のための研究を進めていくとともに、保
健、医療、福祉関係者を対象とした啓発活動に努めます。
 さらに、関係機関と連携を図りながら高齢者虐待の相談窓口の設置をはじめ、相談・
支援体制の整備を図ります。

Ⅵ 外国人の人権問題
1 これまでの動き
 平成8(1996)年に「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する条約」(人種差別撤
廃条約)が国内において発効しました。また、平成9(1997)年、「人権教育のため
の国連10年」に関する国内行動計画が定められました。これらは人種差別や外国人差別
等あらゆる差別の解消のためのさらなる取組や国際的視野に立って、一人一人の人権が尊
重される真に豊かでゆとりのある人権国家を実現を求めています。
 また、平成10(1998)年に国連の児童の権利に関する委員会から、児童の権利に
関する条約(子どもの権利条約)に関する日本の報告に対して、韓国・朝鮮籍の生徒の大
学進学への不平等なアクセスに懸念が示され、このような差別的取扱いの調査と排除が勧
告されました。さらに平成16(2004)年にも外国人学校卒業者の大学進学資格基準
の拡大は不十分と懸念されるとともに、マイノリティ(注)の子ども達の自己の文化の享
受等の機会の拡大が勧告されています。
 平成11(1999)年には外国人登録法の一部改正により、指紋押捺制度の全廃など
が盛り込まれました。さらに、平成12(2000)年には、国、地方公共団体及び国民
の責務を明らかにした「人権教育及び人権啓発に関する法律」が成立し、平成14(20
02)年には、この法律に基づき「人権教育・啓発に関する基本計画」が策定されまし
た。
 基本計画では、外国人に対する偏見や差別意識を解消し、外国人の持つ文化や多様性を
受け入れ、国際的視野に立って一人一人の人権が尊重されるために、啓発、教育、相談な
どの取組を積極的に推進することが示されました。

注)マイノリティ:少数者のこと。

2 現状と課題
 県内には約4,400人の外国人が暮らしており、これは県人口の約0.7%となってい
ます。そのうち3分の1を、韓国・朝鮮籍の人が占めていますが、多くは過去の我が国に
よる植民地支配など様々な歴史的経緯によって我が国に定住するようになった人たちとそ
の子孫です。
 一方、留学・就学や教育・国際業務などをはじめとする様々な目的で県内に居住してい
る外国人の数は増加しつつあります。とりわけ、県内企業での研修を目的とした中国から
の外国人が急増しており、最近5年間で約3倍の増加となっています。
 また、米子-ソウル便の就航等に伴い、主に観光目的などで一時的に県内に滞在する外
国人の数も増加傾向にある中、国際的な視点に立った人権尊重社会をつくるため、地域に
おける国際化の取組を進めていく必要があります。
 このような状況の中、県や市町村、(財)鳥取県国際交流財団では、国際理解を推進す
るための講座や国際的な人権をテーマとした啓発イベント等を開催するとともに、外国人
が安心して暮らしていけるよう、日本語講座の開催、外国人の生活相談窓口の設置、外国
語表記による生活情報の提供等に取り組んでいます。
 しかしながら、歴史的・地理的に関係が深いアジアの近隣諸国と日本との関係や韓国・
朝鮮籍の人が日本で暮らすようになった歴史的経緯、その実情等、国際社会に対する理解
と認識は未だ十分とは言えない面があります。また、近年の在住外国人の増加に伴って、
日常生活に関わる様々な分野での問題も生じてきています。
 在住外国人は、納税等社会的な義務も日本人と同等に果たし、共存共栄している地域住
民です。そうした外国人の人権を尊重するためにも、日本人が異なる文化や宗教、価値観
などを学び認めることにより相互理解を深め、同じ地域の一員としてともに安心・快適に
暮らせる環境づくりが必要です。また、在住外国人が、自らの民族文化を身につけ、文化
的誇りをもてるようにすることも必要です。

3 基本方針
(1)今後の外国人の人権に関する基本的方向
 生活のあらゆる場面において人種、民族や生活習慣、宗教の違い等に起因する差別や偏
見を解消するため、県民が国際社会の一員として人権を尊重する意識を身に付け行動する
よう啓発に努めます。
 特に、歴史的・地理的に関係が深いアジア近隣諸国の取り巻く環境や、外国人の価値
観、文化、習慣についての理解を促進するよう取り組みます。
 また、外国人が日常生活を送る上で必要な保健・医療・福祉、住宅、労働、教育などの
各種施策を推進するとともに、施策の推進に当たっては、外国人に配慮した情報提供や相
談体制の充実に努めます。
 併せて、人道的な面での施策のあり方も含めた外国人に対する各種制度の調査・研究を
進め、外国人が暮らしやすい環境づくりのための施策を総合的に推進していきます。

(2)個別分野の基本的方向
① 啓発
 外国人に対する差別や偏見の解消に向けた啓発を進め、国際的な人権意識の醸成を図
ります。
 なかでも、韓国・朝鮮籍の人が置かれてきた歴史的経緯や環境に対する認識は未だ十
分ではないという現状に加え、近年、中国をはじめとする諸外国からの在住者が増加し
ている中、異なる習慣・文化などについての理解が十分に進んでいないことが、差別や
偏見を解消できない一因と考えられます。
 このため、在住外国人の協力も得ながら差別や偏見の実情を把握するとともに、市町
村、(財)鳥取県国際交流財団や民間国際交流団体等と連携しながら、国際問題講演会や
国際理解講座を開催するほか、公民館活動や地域活動において地域住民と外国人との交
流を図る事業などを実施し、国際理解を深める機会の充実に努めます。

② 情報提供・生活相談
 生活情報が手に入らないために外国人が不利益を受けることがないよう、外国語によ
る身近な生活情報の提供に努めるとともに、市町村、(財)鳥取県国際交流財団や民間
国際交流団体等と連携して外国人にも配慮した情報提供や案内表示の充実に取り組みま
す。
 また、外国人による相談窓口の開設など、外国人が相談しやすい体制の充実を図ると
ともにその周知に努めます。

③ 保健医療福祉
 医療、保健、育児・保育、DV被害者支援、児童虐待防止対策、生活保護、健康保
険、介護保険、公的年金などのサービスは、地域において安心して生活するための基盤
であることから、外国人も国の制度や地方公共団体の施策の対象となっています。
 このため、これらの制度の内容や実施機関あるいは相談窓口が分からないため必要な
サービスが受けられなかったということのないよう、外国人に配慮した情報提供を行っ
ていきます。
 また、日本語で意思疎通が十分にできない外国人がサービスの利用や窓口で相談する
際の支援として、市町村、(財)鳥取県国際交流財団や民間国際交流団体等と連携しなが
ら、通訳ボランティアの人材確保を図るとともに、実際に支援が必要となった際の連絡
体制づくりに努めます。
 なお、韓国・朝鮮籍の人をはじめとする在住外国人の中には、制度上国民年金の支給
対象とならない人々が存在していることから、この問題の解決に向けて国に働きかけを
行うとともに、引き続き市町村に対する支援を行っていきます。

④ 就労
 外国人の就労について、日本人と平等に扱われないなどの問題が生じないよう、国と
も緊密な連携を図りながら、事業主等に十分啓発を行うとともに、企業内部における人
権意識の高揚を目指します。
 近年、増加傾向にある外国人研修生に対しては、円滑な研修の実施を図るため、商工
団体等と連携して労働環境の整備等に配慮していきます。
 また、相談窓口の広報等、外国人の就労に当たって特に配慮が必要な事項について
も、関係機関と連携しながら推進を図ります。

⑤ 住宅
 外国人の民間住宅への入居については、契約当事者間の判断によるものの、外国人で
あるために入居が断わられるというのは人権上大きな問題であることから、啓発冊子の
配布や研修の実施等による宅地建物取引業者等への啓発に努めます。
 また、入居にかかわるトラブル・相談に対して、業界団体で自主的に迅速な解決が図
られるよう働きかけを行っていきます。

⑥ 教育
 学校教育や社会教育の中で、国際理解教育を推進します。特に、歴史的・地理的に関
係の深いアジアの近隣諸国については、我が国との歴史的な事実を適切に指導していく
とともに、青少年をはじめとした様々な世代での直接的な交流を一層活発に行うことな
どにより、外国人の生活や文化についての理解を深めていきます。
 また、本県の学校に就学する外国人の児童・生徒の学習支援及び人権を尊重した教育
を進めるとともに、それぞれの国の言語や文化等の民族に関する学習についても配慮し
ていきます。
 併せて、乳幼児期は人権を尊重する心を育てるための基礎づくりの時期であることか
ら、保育所においても、県が作成した「人権・同和保育の手引」を活用し、外国人との
交流等を通して、園児たちが互いの違いを認め合い一人一人の人権を尊重する心を育ん
でいくような環境づくりに努めます。

⑦ 行政への参画
 県においては、平成12(2000)年度から、警察官などの一部の職種を除いて、
採用に当たっての国籍要件を撤廃したところですが、引き続き、公務員の任用に関する
基本原則を踏まえつつ、外国人採用の機会の拡充に努めるとともに、県内の地方自治体
に対しても、県の状況や基本方針の趣旨などの情報を提供し、理解を求めていきます。
 また、県民の意見を県政の施策推進に活かしていく観点から、外国人の意見も求めて
いく必要があり、審議会等の委員の選任に当たって、審議会等の設置目的を踏まえて外
国人を含めた人材の登用に努めていくほか、各種の機会を捉え、意見交換等の場を設け
ます。
 永住外国人の「地方参政権」の問題についても、地域づくりに当たって住民投票に地
域住民として参加することが行われつつありますが、地方参政権の付与に関しては、今
後透明性の高い十分な議論が行われることが望まれています。

Ⅶ 病気にかかわる人(注)の人権問題

注)「病気にかかわる人」とは「病気にかかっている人など」のほか、医療・保健関係職員など病気にかかわる業務に従事している者をいう。ここでは、病気から生じる様々な人権問題を総体としてとらえるためにこのような表現とした。

1 これまでの動き
 国が平成9(1997)年に策定した「人権教育のための国連10年」に関する国内行
動計画において、HIV感染、ハンセン病について、差別や偏見を除去し、正しい知識を
普及して、理解を深めるための教育・啓発活動を推進することとされました。
 さらに、平成14(2002)年3月の「人権教育・啓発に関する基本計画」において
HIV感染者・ハンセン病患者等の人権課題に対する取組を推進することとしています。
 HIV感染者は、無知、無理解による偏見から医療現場での診療拒否や無断検診のほか
に、就職差別や職場解雇、アパートへの入居拒否などの人権侵害を受けてきました。
WHOでは、昭和63(1988)年に12月1日を「世界エイズデー」に定めること
とし、エイズ患者・HIV感染者に対する差別や偏見の解消に向けての活動を始めまし
た。その活動は、国連合同エイズ計画(UNAIDS)として継承されています。
 国、県ともに「世界エイズデー」の期間前後に重点的に普及啓発を行うとともに、県で
は、担当部局や福祉保健局の窓口での相談体制を整えることにより、差別や偏見を解消
し、正しい知識を普及することに努めています。
 また、ハンセン病にかかった人は、平成8(1996)年の「らい予防法の廃止に関す
る法律」が施行されるまでは、療養所への隔離という誤った政策がとられてきたため、多
くの人が施設入所により、地域社会はもちろん家族との関係が絶たれるなどの苛酷で不当
な人権侵害を受けてきました。
 さらに、患者の家族は、就職や結婚を拒まれて、一家が離散することもあるなどの人権
侵害を受けましたし、ハンセン病であることを隠して療養所へ入所しなかった人は適切な
医療が受けられないなどの苦しみを受けました。
 国では、毎年6月に「ハンセン病を正しく理解する週間」をもうけ、普及啓発活動に重
点的に取り組んできましたが、平成13(2001)年5月の熊本地裁判決の確定後、ハ
ンセン病患者や患者だった方に対する損失補償や名誉回復及び福祉増進に一層力を入れて
きています。
 本県では、戦前「無らい県運動」を積極的に推進し差別意識を助長したことに対する反
省もあり、昭和39(1964)年全国ではじめてハンセン病療養所の入所者の里帰りを
実現しました。また、平成8年のらい予防法の廃止を機会にふるさと交流事業を始めハン
セン病療養所の入所者との交流を深めました。
 平成13(2001)年の熊本地裁判決後には、知事が「無らい県運動」を実施した県
の責任について公式に謝罪するなど、ハンセン病患者や患者だった方に対する差別や偏見
の解消に向けて鋭意取り組むとともに、ハンセン病療養所入所者に対する里帰り支援など
をより積極的に進めています。
 このような流れの中、講演会や学習会、パネル展の開催、療養所への訪問などにより普
及啓発活動と療養所入所者との交流の拡大を推進するとともに、平成13(2001)年
8月に人権教育副読本「-ハンセン病への理解を深め、差別や偏見をなくすため-ふるさ
とへ、そして人々の心へかかれ大橋」を、平成14(2002)年6月には、ハンセン病
の歴史を後世へ正しく伝えるためにハンセン病資料集「風紋のあかり」を刊行していま
す。

2 現状と課題
 病気について正しい知識と理解が足りないことや、病気にかかっている人やかかった人
及びその家族(以下「病気にかかっている人など」という。)に対する人権尊重の意識が
十分でないため、HIV等の感染者やハンセン病にかかった人たちに対しての偏見に基づ
く差別などにみられるような、病気にかかわる様々な人権侵害を生じてきました。
 病気にかかっている人などの人権が侵害されることがないように、病気についての正し
い知識を学び理解することが必要です。そして、偏見を除去し差別をなくすための取組や
プライバシーの保護が徹底され、安心して医療を受けられるようにすることが必要です。
 また、医療情報が患者に対して正確に伝えられ、患者の納得・同意のもとに医療が行わ
れることや、医療や福祉の現場での心ない言葉の暴力を無くすことも必要です。

3 基本方針
(1)病気にかかわる人の人権に関する基本的方向
 病気にかかっている人などが決して差別や偏見を受けることなく、尊厳を傷つけられ
ることなく、すべての人々の人権が尊重される社会づくりの取組を進めます。
 特に、無知や無理解から、差別や偏見を受けるおそれの高い病気に関して、正しい知
識と理解を図るための取組を進めます。とりわけ、従来から重点的に取り組んできた
「世界エイズデー」や「ハンセン病を正しく理解する週間」などの機会を活かして、普
及啓発活動を進めます。
 また、医療や福祉の現場などで病気にかかっている人などと接する医療・保健関係職
員に対しては、患者の人権とプライバシーの保護については特段に配慮することを喚起
し、病気にかかっている人などの立場に立った医療・福祉サービス提供体制の整備を推
進します。
 一方、最近では患者側の人権を重視し、医療・保健関係職員と患者や家族との話合い
を十分に行い、場合によっては主治医以外の医師から現在の診断や治療についての意見
(セカンドオピニオン)を踏まえ、患者や家族が病気や治療方法など正しく理解したうえ
で、信頼関係に基づき納得した医療が提供される「納得医療」(インフォームドコンセ
ント)が望まれており、これについても推進していきます。

(2)個別分野の基本的方向
① 生活環境
 病気にかかっている人が、容易に医療機関の情報を得られ、患者自らが希望する医療
機関で安心して医療サービスが受けられるよう医療機関ごとの医療機能の情報公開を進
めます。
 また、病気や障害と付き合いながら日常生活の質を落とさないことが重要になってき
ていることから、医療と保健・福祉が一体となったサービスの提供を推進します。
 特に、専門的な医療を必要とする患者については、生活の質等を考慮し、できる限り
自宅や日常生活圏内において、医療や福祉サービスを受けられるよう、医療・保健・福
祉のそれぞれの分野の連携を強化します。
 また、ハンセン病にかかった人々のように、病気が治癒しても社会から差別や偏見を
受けてきた人々に対しては、差別や偏見を受けたり感じることのない環境が醸成される
ように努めます。

② 意識啓発
 病気に関する無知、無理解や病気を他人事と考える無関心な態度が、病気にかかって
いる人などに対する差別にもつながっているところから、流言飛語に惑わされず真実を
見極めるための正しい知識の普及を推進します。
 あわせて、いたずらに不安を抱いたり、病気にかかっていること、病気にかかったこ
とやその家族であることを理由に、いじめや不当な取扱いをすることがないよう意識啓
発を促進していきます。
 また、「納得医療」(インフォームドコンセント)が確立されるように医療関係者へ
の啓発を行っていきます。
 さらに、医療・保健関係職員は病気にかかっている人などにあからさまな言葉の暴力
を振ってはならないことは当然であり、病気にかかっている人は不安定な心理状態に陥
りがちで、無配慮な一言により人権侵害を生じかねないことを肝に銘じて、健康な人と
接する時以上に言葉遣いや言葉の内容に配慮すべきことを意識する必要があります。
そのため、医療や福祉の現場などで言葉の暴力が振るわれないよう意識啓発に努めま
す。
 なお、病気にかかっている人などのプライバシーの保護についても、特段の配慮をす
るように医療・保健関係職員の意識啓発に努めます。

③ 教育
 病気にかかっている人などに対する差別や偏見をなくすため、病気に対する正しい知
識と理解、病気にかかっている人などへの思いやりの心を育む、福祉教育や人権教育を
推進するとともに、教材の充実にも努めます。
 特に、学校での人権教育においては、HIV等の感染症、ハンセン病、難病などにつ
いての正しい知識を学習し、差別と偏見の解消に努めます。

④ 就労
 HIV等の感染症や難病にかかっていることを理由にした解雇や不採用等の不利益が
生じないよう、事業所に対し、公正採用選考人権啓発推進員を設置し適正な人事管理体
制及び採用選考方法の確立を図ることを呼びかけたり、この推進員への研修を実施する
等関係機関と連携して啓発に努めます。

⑤ 相談・支援体制
 病気にかかっている人などは、経済的負担のみならず肉体的、精神的に様々な負担を
負います。
 この負担を軽減するために、市町村や県の福祉保健局などにおける相談・支援体制の
充実に努めます。相談・支援に当たっては病気にかかっている人などが、医療機関や第
三者機関で適切な相談や支援が受けられるよう、患者の病歴や病状などの個人情報の保
護を徹底します。
 また、相談・支援窓口の存在、内容についての情報提供に努めるとともに、医療機関
などにおいても相談体制が一層充実するように働きかけます。

Ⅷ 個人のプライバシーの保護
1 これまでの動き
 今日の情報処理及び通信技術を背景とした情報化社会の進展により、情報はますます大
量に蓄積され、広範囲な収集、利用、提供が行われています。民間部門はもとより、公的
部門においても、多様化する行政需要に的確に対応するとともに事務事業を効率化し、行
政サービスを向上させるため、コンピュータによる各種情報の処理、集積が著しく進んで
います。
 情報化社会は、生活に豊かさと便利さがもたらされる反面、個人の情報が本人の知らな
い間に広範かつ体系的に収集、利用され、その情報が外部に漏えいするといったプライバ
シー侵害のおそれが指摘されています。
 現に、民間部門において、信用取引の増加や消費者ニーズの把握、効率的な宣伝活動の
ために、個人情報が商品化され、その提供行為が営業としてなされ、また、信用情報や顧
客データの盗用や横流しが行われるなど、個人情報の不正な取扱いによる事件も頻発して
います。
 また、インターネットの国内利用者が、平成14年末の人口普及率で54%、世帯普及
率で81%と、急速に増加を続けています。インターネットは、電子メールやホームペー
ジ、電子掲示板等、いずれも発信者に匿名性があり、情報発信が技術的・心理的に容易で
あるといったことから、他人の誹謗中傷や差別を助長するといった情報が掲載されるな
ど、人権にかかわる問題も発生しています。
 また、個人情報の不適正な取り扱いは、民間部門にとどまりません。公的部門において
も、一部自治体における住民情報の漏えいや国の行政機関における情報公開の開示請求者
のリスト作成などといった憂慮すべき問題が起きています。
 こうした中で、住民の意識においても、プライバシーについての権利意識や危機意識が
高まっており、また、プライバシーという言葉も、従来の「一人にしておいてもらうこ
と」にとどまらず「自己に関する情報の流れを自らコントロールすること」といった意味
合いがより強くなっています。
 このようなプライバシーをめぐる諸状況の変化を背景にして、平成15(2003)年
5月、国において、個人情報全般についての保護に関し基本的かつ具体的なルールを定め
る「個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)」が制定されました。平成17(2
005)年4月までに施行されることとなっています。

2 現状と課題
 人により他人に知られたくない自分の情報の範囲は様々で、法的にも社会的にも、必ず
しも明確ではありません。
 そこで、一般的に、特定の個人が識別される情報を個人情報と位置づけ、個人情報の保
護をプライバシーの保護とすることとされています。よって、この方針では個人情報の保
護という表現をしますが、それは、プライバシーの保護を目的とする意味で使用します。

(1)現在の個人情報保護施策
① 個人情報の保護に関する法律
 個人情報保護法は、国内における個人情報についての全般的な保護措置を規定するも
のであり、個人情報の保護についての極めて重要なルールであるといえます。その内容
は、国、地方公共団体の個人情報の保護の基本方針を定めたのはもちろん、国民の膨大
な個人情報を取り扱う事業者に関し具体的な規制を行うものであって、大きな効果を生
むことが期待されています。

② 行政機関の保有する個人情報
 個人情報保護法に合わせ、平成15(2003)年に「行政機関の保有する個人情報
の保護に関する法律」が制定されました。これにより国の行政機関において取り扱われ
ている個人情報について保護措置が講じられました。
 一方、本県では、既に平成11(1999)年3月鳥取県個人情報保護条例を制定
し、県が取り扱う個人情報等の保護を図っています。
 その内容は、県が個人情報を取り扱う事務について、当該事務の名称、目的、取り扱
う個人情報の項目、収集や提供の方法等を記録した登録簿を備え、閲覧に供する一方、
個人情報の収集、管理、提供及び廃棄の手続きにおいて県が遵守しなければならない事
項を定めるとともに、住民による自己情報の開示請求権や訂正請求権、また、県の不適
正な取扱いに対する是正の申出などを規定しています。
 県の職員はこの条例を遵守し、個人情報を適正に取り扱わねばならないことが定めら
れています。
 また、個人情報保護条例以外にも、県の職員には、地方公務員法等に定められた守秘
義務等の規定により、秘密の保護等が義務づけられており、個人情報の保護が図られて
います。
 さらに、県の業務が電子化されていく中で、電子情報の取扱いが特に重要となってき
ています。県は、個人情報保護条例の規定を遵守するとともに、システムの構築・運用
に当たってはアクセス制御等のセキュリティを確保するため、「鳥取県情報システム管
理要綱」を定めました。この要綱では県の情報システムや県が取り扱う電子データなど
の機密の保持、正確性や完全性の維持、適正な使用を図るための物理的及び人的な対策
を掲げています。

③ 民間部門における個人情報の保護
 平成17年4月までに施行される個人情報保護法では、民間事業者の個人情報の保護
について一定のルールを定めていますが、個人情報保護法が施行されるまでは、大多数
の事業については、事業者の自主的な取組に委ねられているのが実情です。
 現在実施されている民間部門の個人情報保護では、「貸金業の規制等に関する法律」
(平成12(2000)年)や「割賦販売法」(平成14(2002)年改正)、「特
定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(平成
13(2001)年)等に、目的外使用の禁止やデータの正確性の確保等に関する規定
が設けられ、事業者ごと保護義務が課されています。
 本県においては、個人情報保護条例の規定により「事業者が個人情報を取り扱う際に
準拠すべき指針」を作成し、事業者に対し指導や助言を行っていますが、これらは、事
業者の自主的な取組を支援することに重きを置いています。

3 基本方針
(1)今後の個人のプライバシー保護に関する基本的な方向
 新たに制定された個人情報保護法により、国、地方公共団体の個人情報保護の基本方針
や事業者の個人情報保護の具体的な根拠規定が定められました。平成17年4月に施行さ
れるこの法律の運用が、今後の個人情報保護にとって極めて重要なものといえます。これ
により官民上げてのプライバシーの保護が一層推進されることが求められています。
 本県においても、個人情報保護法、県個人情報保護条例、その他の法令の規定により、
県が取り扱う個人情報の一層の保護を図るとともに、県民や民間事業者が行う個人情報の
保護の支援に努めていきます。県における個人情報処理に対する信頼を確保するととも
に、県と事業者、県民が協力して個人情報保護に取り組むことにより、その実効性を高め
ていきます。

(2)個別分野の基本的方向
① 県が取り扱う個人情報の保護
 県が取り扱う個人情報については、個人情報保護法の基本方針を踏まえ、個人情報保
護条例の規定を遵守し、それぞれの施策を通じて個人情報の保護を図っていきます。
 電子情報については、セキュリティポリシーを守り、情報セキュリティに関する権限
や責任及び遵守すべき事項を、職員等に対して周知及び徹底を図ることにより、個人情
報の漏えい等を防いでいきます。システムの構築・運用に当たっても、情報システムを
設置する施設への不正な立ち入り防止やアクセス制御等によりセキュリティの一層の確
保を図ります。
 また、情報システム監査人等による情報システムのセキュリティ調査を定期的に実施
し、情報システムの管理運用のあり方を見直していきます。

② 市町村が取り扱う個人情報の保護
 多くの市町村では「個人情報保護条例」を制定し、個人情報の保護を図っています
が、依然として「電子計算組織に係る個人保護条例」にとどまっている市町村もあり、
制度面での一層の充実が期待されます。
 さらに今後、電子政府・電子自治体の進展により国、県、市町村及び住民との間で電
子情報の流れが活発になることが予想され、技術面でのセキュリティ対策や職員研修も
必要となってきます。
 県は、市町村が行う個人情報の保護について協力していきます。

③ 民間事業者が取り扱う個人情報の保護
 事業者がその事業活動を行うに当たっては、県は、個人情報保護法や県個人情報保護
条例、他の法令等の規定に基づき、事業者が個人情報の保護の重要性を認識し、適正な
業務が行われるよう、法令等に定められた支援等の事務を適正に行い、必要な意識啓発
に努めていきます。
 次に民間で取り扱われる個人情報の中の主なものについて述べることにします。

ア インターネットの個人情報の取り扱いについて
 インターネットは、世界のどこからでもアクセス可能なものであり、ホームページや
掲示板への悪質な掲示を容易に行うことができる状況にあります。そこで県民や企業へ
の意識啓発を積極的に推進することが一層重要となります。
 インターネット利用者やプロバイダー等に対して、個人のプライバシーや名誉に関す
る正しい理解を深めるため、啓発活動を推進し、また、各教育機関等においては,イン
ターネット上の誤った情報や偏った情報をめぐる問題を含め、情報化の進展が社会にも
たらす影響について知り、情報の収集・発信における個人の責任や情報モラルについて
理解させるための教育等の充実を図っていきます。

イ 商品の販売等に伴う個人情報の取り扱いについて
 商品等の販売などの商行為においては、卒業名簿、社員名簿などから個人情報が収集
されたり、顧客情報などが本人同意のないまま、目的外に利用されたり外部に提供され
たりすることが、なかば公然となされているものがあります。新聞報道等がされる漏え
い事件等はもちろんですが、普段の営業行為において個人情報のやりとりが当たり前の
ようにされていることは大きな問題です。これらの業者の行為に対しては、個人情報保
護法が適正に運用されなければなりません。また県民も自分の個人情報を適切に管理し
ていくことが必要となります。

ウ 報道機関等の個人情報の取り扱いについて
 個人情報保護法では、報道機関等メディアの個人情報の取り扱いについては、規制の
対象外とされ、報道機関等の自主的な取組が尊重されることとなりました。
 報道機関等は、憲法で保障された表現の自由を根拠とする報道・取材等の自由に関す
る権利に基づき、また、国民の知る権利に奉仕することを目的に報道・取材等の活動を
行っていますが、同時に、国民のプライバシーを尊重し適正な報道等を行うことは、報
道機関等に課せられた社会的な責務です。
 報道機関等は、プライバシーを侵害するおそれのある情報については、その報道を綿
密な配慮のもとに行うとともに、図らずもプライバシーの被害が発生した場合に備え、
被害救済についての自主的な責任制度を検討していくべきです。
 県は、報道機関等の自主的な個人情報保護の取組を信頼し尊重するとともに、県が報
道機関等に提供する個人情報については、プライバシーの保護を図りながら情報公開に
努め、適正な広報活動を行っていきます。

エ 身元調査について
 本人に関する情報を本人の了解なく調査し、その内容により、就職や結婚において不
利益が生じることになる身元調査については、その行為自体が差別行為であると同時
に、プライバシーの著しい侵害であることは明らかです。
 事業者や県民が自ら身元調査を行ったり、依頼したりすることはもちろん、調査に応
じたり、答えたりすること自体が本人のプライバシーを著しく侵害するものであるとい
うことを、事業者や県民に対し広く啓発していく必要があります。

④ 学校教育における個人情報の保護
 学校教育における個人情報の保護については、児童・生徒に係る個人情報を適正に取
扱うことと、児童・生徒へのプライバシーに関する学習機会を充実することが重要です。
 児童・生徒に係る個人情報は、適切な学習指導及び生活指導を行うために、その収集が
不可欠であり、また関係機関等との連携を図る上において情報提供が必要な場合もありま
す。
 しかし、これらの情報は、児童・生徒及びその保護者の了解なしに蓄積されるものもあ
り、学校や教職員には、情報の適正な収集、管理及び提供の認識が必要となります。
 そこで、児童・生徒の個人情報の適正な取扱いについて、教職員の認識を深めるよう研
修や体制整備などに努めます。
 また、児童・生徒が、自分たちの生活の中でのプライバシーに関し学習するとともに、
プライバシーの侵害は人権に関わる問題であるという認識を深めていくことが必要です。
 県は、プライバシー尊重のための学習機会を充実させるとともに、他の人権とともに
学習の充実を図っていきます。

⑤ 県民が取り扱う個人情報の保護
 個人情報の保護が図られるためには、県民がお互いのプライバシーを尊重するという
意識が極めて重要です。県は施策の実施に当たり、県民が他人及び自己の個人情報を尊
重できるよう必要な意識啓発に努めていきます。
 また、市町村などが社会教育事業において実施している小地域懇談会や広報誌等で、
プライバシー保護に関する内容を取り上げて学習活動や啓発活動が行われるよう支援し
ていきます。
 しかし、県の施策だけで県民のプライバシーを保護することはできません。
 県民は、自ら人権感覚を磨き、自己と他のプライバシーを守るよう心掛けていくこと
が強く求められています。

Ⅸ その他の人権問題
 その他の人権問題として、次のような課題が存在しております。これらの人権問題について
は、国として啓発がなされたり、法律などが制定されているものもありますが十分とはいえま
せん。
 県民には、認知度の低いものもあり、新たな人権問題として正しく理解できるよう啓発等を
推進していきます。また、今後の社会の展開に伴う新たな人権問題として取り扱われるものに
ついても、その解消のため啓発や支援を検討していきます。

1 アイヌの人々
 アイヌの人々は、北海道を中心に先住していた民族であり、固有の言語や伝統的な生活
習慣など独自の豊かな文化をもった民族です。
 アイヌの人々が、憲法の下で平等を保障された国民として、その人権が擁護されなけれ
ばならないのは当然のことです。しかし、歴史や文化への無関心や誤った認識から、就職
や結婚等において差別や偏見が依然として存在しています。
 また、過去の同化政策などにより、伝統的生活を支えてきた狩猟や漁労が制限、禁止さ
れたうえ、アイヌ語の使用や独自の風習も禁止されるなどにより民族独自の文化が失われ
ていきました。
 このような現状を踏まえ、アイヌの人々の民族としての誇りが尊重される社会の実現を
図るとともに、我が国の多様な文化の発展に寄与することを目的として、平成9(199
7)年に、「アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関す
る法律」が制定され、知識の普及及び啓発を図るための施策が推進されています。

2 刑を終えて出所した人や罪や非行を犯した人
 刑を終えて出所した人や罪や非行を犯した人に対して偏見があり、就職に際しての差別
問題のほか、住居等の確保の困難や、悪意のある噂の流布などの問題が起きています。こ
れらの人々の社会復帰は、本人に更生意欲がある場合においても、根強い偏見や差別意識
により極めて厳しい状況です。そのため、これらの人々が社会の一員として円滑な生活を
営むためには、本人の強い更生意欲とあわせて家族、職場、地域社会の理解と協力が必要
です。

3 犯罪被害者やその家族
 近年、犯罪被害者やその家族の人権問題に対する配慮と保護を図ることが課題となって
います。平成12(2000)年、「犯罪被害者等の保護を図るための刑事手続きに付随
する措置に関する法律」の制定、刑事訴訟法や検察審査法、少年法の改正等の一連の法的
措置によって、司法手続きにおける改善が図られました。さらに平成13(2001)年
には犯罪被害者等給付金支給法が改正されたところであり、制度の適正な運用が求められ
ています。
 また、犯罪被害者をめぐる問題としては、マスメディアによる行き過ぎた報道によるプ
ライバシー侵害や、名誉毀損、過剰な取材による私生活の平穏の侵害等があります。犯罪
被害者等は、その置かれた状況や負担の重さから、泣き寝入りせざるを得ない場合が少な
くありません。こうしたことから、マスメディアの自主的な取組を喚起するなどの啓発活
動を推進する必要があります。

4 性的マイノリティ
 心と体の性が一致しない性同一性障害者、性的指向に係る同性愛者、先天的に身体上の
性別が不明瞭である者(インターセックス)など、いわゆる性的マイノリティは、社会的
に異質なものとして、嫌がらせや侮蔑的な言動、雇用面においての制限や差別、性の区分
を前提にした社会生活上の制約など様々な問題があり、この解消に向けた取組が必要とな
っています。
 鳥取市など県内4市では、性に関する差別と偏見をなくすため、行政文書などから不要
な性別記載を削除するなど市町村独自の取組が始まりました。平成15(2003)年7
月には、「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(性同一性障害者性別特例
法)」が成立し、戸籍上の性別変更が可能となりましたが、変更には「現に子どもがいな
いこと」など適用条件の問題が指摘されており、適用除外を求める動きもでています。ま
た、性同一性障害に関しては診療を受けられる医療機関が限られているなど、医療福祉分
野で検討すべき点もあります。