メニュー

人権に関するデータベース

全国の地方公共団体をはじめ、国、国連関係機関等における人権関係の情報を調べることができます。

条約や法律

その他 人権に関する条約や法律

地方公共団体関係資料

島根県人権施策推進基本方針(第一次改定)
情報の種類 地方公共団体関係資料
タイトル 島根県人権施策推進基本方針(第一次改定)
時期 2000/09/01
主体名 島根県
【 内容 】

島根県人権施策推進基本方針
(第一次改定)


-人権教育・啓発の推進のために


平成20年10月

島根県


はじめに

「島根県人権施策推進基本方針」につきましては、県の人権教育・啓発を総合的かつ効果的に推進
するための指針として平成12年9月に策定し、以来、この基本方針に基づいて、様々な人権課題の
解決に努めてまいりました。

しかしながら、近年、児童・高齢者への虐待や女性への暴力など対応の強化が求められる課題に加
え、インターネットによる人権侵害など新たな分野の課題が発生しています。一方、人権施策に関す
る新たな法律・条例等の制定や改正が行われ、基本方針策定後の人権施策を取り巻く状況は、大きな
変化を見せております。

県では、こうした新たな課題、新たな施策の方向に対応するため、基本方針を改定することとし、
有識者を委員とする島根県人権施策推進協議会において、2年間にわたって協議を重ねるとともに、
パブリックコメントの実施により、県民の皆様のご意見をいただき、このほど、「島根県人権施策推
進基本方針(第一次改定)」を策定いたしました。

21世紀は人権の世紀と言われますが、この改定を機に今一度、初心に返り、「人権の世紀」にふ
さわしい、一人ひとりの人権が尊重される、差別や偏見のない明るい社会の実現に向けて、国・市町
村・民間団体等と連携して取り組んでまいります。県民の皆様にも、人権問題を自分自身の問題とし
て捉え、自らが人権が尊重される社会を築き上げる担い手であることを認識していただき、その実現
に主体的に取り組んでいただきますようお願いいたします。

終わりに、今回の基本方針の改定にあたり、熱心なご審議を賜りました島根県人権施策推進協議会
の委員の皆様をはじめ、貴重なご意見をいただきました皆様方に心から感謝申し上げます。

平成20年10月

島根県知事溝口善兵衛


第1章 総論

Ⅰ.基本方針改定の趣旨
 県では、国内外の動向を踏まえ、「人権の世紀」といわれる21世紀に向けて、2000(平成12)年
に「島根県人権施策推進基本方針(以下「基本方針」という。)」を策定し、県が進める人権教育・
啓発の現状と課題及び施策の基本的方向を明らかにして、人権施策の総合的・効果的な推進に努め
てきました。
 この結果、県民の人権問題に対する関心は高まってきましたが、依然として、女性や子ども、高
齢者、障害のある人、同和問題、外国人など、様々な人権問題が発生しています。
 また、近年は、「*ドメスティック・バイオレンス(DV)」や児童・高齢者への虐待など、より
対応の強化が求められる課題に加え、性同一性障害者の人権やインターネット上での人権侵害など、
新たな分野の課題が顕在化しています。
 このため、今後とも、様々な人権問題の解決に向け、人権教育・啓発のより積極的な取組が求め
られている状況にあります。
 今回は、これまでの取組の成果や課題を踏まえ、2000(平成12)年に策定した「基本方針」の理
念を継承しつつも、前回策定後の法令・計画などの動きや新たな課題への対応を含め改定を行いま
した。
 なお、「基本方針」の改定にあたっては、パブリックコメントによる意見、市町村や関係諸団体
をはじめとする多方面からの意見等を踏まえ、数次にわたる「島根県人権施策推進協議会」におけ
る協議・審議を重ねるなど、幅広く意見を集約しました。

Ⅱ.基本方針策定の背景
1.国際的な潮流
 20世紀において、二度にわたる悲惨な世界大戦を経験した人類は、1945(昭和20)年に「国際の
平和及び安全を維持・・・人権及び基本的自由を尊重するように助長奨励する(国際連合憲章第1
章)」ことを目的として国際連合(以下「国連」という。)を設立しました。また、同年、連合国教
育文化会議において、「国際連合憲章」の目的を実現するため、諸国民の教育、科学、文化の協力
と交流を通じて、国際平和と人類の福祉の促進を目的とする「ユネスコ憲章」が採択されました。
そして、1948(昭和23)年の第3回国連総会において、すべての人民とすべての国とが達成すべき
人権の共通の基準を定めた「世界人権宣言」が採択されました。
 国連は、その後、「世界人権宣言」を実効あるものにするため、1966(昭和41)年の「*国際人
権規約」をはじめ、「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約(人種差別撤廃条約)」、「女
子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約(女子差別撤廃条約)」、「児童の権利に関する条
約(子どもの権利条約)」など、多くの人権に関する条約を採択しました。
 また、「国際婦人年」、「国際児童年」、「国際障害者年」、「国際高齢者年」など、重要なテーマご
とに国際年を定めるとともに、それぞれの課題に重点的に対応するため、「国連婦人の10年」、「国
連障害者の10年」などの国際の10年の取組も展開されました。
 しかしながら、東西対立の冷戦構造の崩壊とともに、世界各地で地域紛争や民族紛争が起こり、
これに伴う顕著な人権侵害や難民の発生など、深刻な問題が表面化しました。こうした中で、人類
は、「平和のないところに人権は存在し得ず、人権のないところに平和は存在し得ない。人権尊重
が平和の基礎である。」という教訓を得、国際社会全体で人権問題の解決に向けて取り組む機運が
高まりました。
 1993(平成5)年には、世界人権宣言45周年を機に、これまでの人権活動の成果を検証し、現在
直面している問題、今後進むべき方向を協議することを目的として、ウィーンにおいて世界人権会
議が開催され、すべての人権が普遍的であり、人権が国際的関心事であることが確認されるととも
に、人権教育の重要性が強調されました。
 このような経緯を経て、1994(平成6)年には、人権問題を総合的に調整する国連人権高等弁務
官が創設され、同年の第49回国連総会では、1995(平成7)年から2004(平成16)年までの10年間を
「人権教育のための国連10年」とする決議とともに、人権についての意識を高め、理解を深めるた
めの具体的プログラムとしての「人権教育のための国連10年行動計画」が採択され、人権という普
遍的文化を世界中に構築するための取組が開始されました。この「行動計画」の取組により、人権
教育の方向が示され、各国において国内行動計画の策定など、様々な取組が推進されてきました。
 さらには、2004(平成16)年の第59回国連総会において、人権教育がすべての国で取り組まれる
よう「人権教育のための国連10年行動計画」の後継の取組として、「人権教育のための世界計画」
を2005(平成17)年から開始する決議が採択され、2007(平成19)年までの3年間において、「初等
・中等教育における人権教育」の推進に重点をおいた取組が行われました。

2.国の取組
 我が国においては、1947(昭和22)年に「基本的人権の尊重」を基本原理とする日本国憲法が施
行され、1956(昭和31)年には、国連に加盟して、国際社会の仲間入りを果たしました。
 そして、「国際人権規約」をはじめ、「女子差別撤廃条約」、「子どもの権利条約」、「人種差別撤廃
条約」など、多くの人権に関する諸条約を批准するとともに、国連が提唱する「国際婦人年」、「国
際児童年」、「国際障害者年」などの各種国際年について積極的に取り組みながら、国際的な人権保
障の潮流に沿った方向で人権施策の充実・普及を図ってきました。また、我が国固有の人権問題で
ある同和問題について、1965(昭和40)年の同和対策審議会答申に基づく取組を進めてきました。
 さらに、「人権教育のための国連10年」決議を受けて、1997(平成9)年に「人権教育のための国
連10年」に関する国内行動計画を策定し、関係府省での取組が開始されました。
 一方、1997(平成9)年に人権擁護施策の推進を国の責務と定めた「人権擁護施策推進法」が施行
され、同法に基づき設置された「人権擁護推進審議会」において、1999(平成11)年には、人権教育
・啓発の基本的事項について、また、2001(平成13)年には、人権侵害の場合の救済施策についての
答申が出されました。
 このうち、人権教育・啓発に関する施策については、2000(平成12)年に「人権教育及び人権啓発
の推進に関する法律」が制定され、同法においては、人権教育・啓発の推進は国と地方公共団体の
責務であると規定されました。これに基づき、2002(平成14)年には、「人権教育・啓発に関する基
本計画」が策定されました。
 このほかにも、「男女共同参画社会基本法」、「児童虐待の防止等に関する法律(児童虐待防止法)」、
「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律(DV防止法)」、「犯罪被害者等基本法」、
「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律(高齢者虐待防止法)」、「障害
者自立支援法」など、個別の人権関係法の制定により、21世紀を人権の世紀にふさわしいものとす
るための様々な取組が積極的に進められています。
 また、2008(平成20)年には、「人権教育の指導方法等の在り方について(第三次とりまとめ)」
が公表され、人権教育の指導方法や教材など学校における人権教育の一層の推進を図るための取組
も進められています。

3.県の取組
 県においても、女性や子ども、高齢者、障害のある人、同和問題、外国人などの様々な人権問題
について、個別の分野ごとに計画やプランを策定するなど、関係部局を中心に国や市町村、関係諸
団体等と連携しながら、それぞれの課題解決のため、計画的に各種施策に取り組んできました。
 こうした取組や国内外の動きを踏まえ、今後、人権尊重の意識を高めていくための取組が必要で
あるとの認識に立ち、1998(平成10)年に人権施策の総合的・効果的な推進を図るため、庁内に「島
根県人権施策推進会議」を設置しました。また、1999(平成11)年には、「人権問題に関する県民意
識調査」(以下「県民意識調査」という。)を実施するとともに、人権施策の推進に関する基本的方
向や施策のあり方について幅広く県民の意見を求めるため、有識者で組織する「島根県人権施策推
進協議会」を設置しました。
 そして、「県民意識調査」の結果や関係諸団体の意見要望等を踏まえて、「島根県人権施策推進協
議会」及び「島根県人権施策推進会議」において協議・審議を重ねるなど、様々な角度から検討を
加え、2000(平成12)年に「基本方針」を策定し、一人ひとりの人権が尊重される社会の実現を目
指して、人権教育・啓発の総合的な取組を積極的に推進してきました。
 しかしながら、依然として、差別や虐待などの人権侵害が後を絶たないなど、多くの課題が残さ
れており、また、国際化や情報化、少子高齢化など、社会環境の急速な変化を背景に、新たに発生
した人権問題や前回策定後の新たな動きである法令・計画などに対応することが必要であることか
ら、今回、「基本方針」を改定することとしました。
 今後とも、県においては、同和問題などの具体的な人権課題に即した個別的な視点からのアプロ
ーチに加え、法の下の平等、個人の尊重といった人権一般の普遍的な視点からのアプローチにより、
人権尊重の意識の高揚を図り、様々な人権問題の解決に向けて取り組んでいきます。

Ⅲ.基本理念
1.基本的な考え
 この「基本方針」は、一人ひとりの個性や違いを尊重し、様々な文化や多様性を認め合い、すべ
ての人の人権が尊重され、共に支え合う「共生の心」の醸成に努めるとともに、人権が人々の思考
や行動の基準として日常生活に根付き、次の世代に引き継いでいかれるような「人権という普遍的
な文化」の創造を理念とするものです。
 そして、県民一人ひとりに人権の意義や重要性が知識として身に付くとともに、相手の立場に立
って理解することができるような人権感覚が十分身に付くことを目指すものです。
 そのため、人権教育・啓発の実施主体としての重要な責務を負っている県は、すべての人々に対
して、学校や家庭、職場、地域など、あらゆる場において、人権教育・啓発が行われるよう今後取
り組むべき施策を明らかにし、人権に視点を置いた総合的な取組を推進していきます。
 さらに、人権に関わりの深い特定の職業に従事する者に対して、人権教育に重点的に取り組むと
ともに、女性や子ども、高齢者、障害のある人、同和問題、外国人などの様々な人権問題について
は、「個別の人権課題」として取り上げていきます。
 また、年齢や性別、障害、言語など、人の差異に可能な限り無関係に、すべての人が等しく社会
の一員として尊重され、自己表現を可能とする社会の実現を目指すため、「*ユニバーサルデザイ
ン」の思想が行動の規範となるよう、その考え方の普及に努めていきます。
 なお、人権が尊重され、擁護される社会は、県民や企業、NPOなどの団体、行政等が一体とな
って、あらゆる努力によって築き上げられるものです。
 そのためには、県民自らが人権問題を自分自身の問題として捉え、人権尊重社会確立の担い手で
あることを認識し、人権尊重に向けた主体的な取組を期待するものです。

2.基本方針の性格
 この「基本方針」は、2000(平成12)年に策定した「基本方針」を継承・発展させ、2008(平成2
0)年に策定された「島根総合発展計画」との整合性を保ち、今後の中・長期的な人権教育・啓発の
基本的方向を明らかにするとともに、県が実施する人権施策の推進に係る基本的な指針となるもの
です。
 また、この「基本方針」は、国が策定した「人権教育のための国連10年に関する国内行動計画」
及び「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」第5条(地方公共団体の責務)の趣旨に対応す
る行動計画でもあります。
 さらに、市町村をはじめ、企業やNPOなどの団体等にあっては、この「基本方針」の趣旨に沿
った自主的な取組を期待するものです。
 なお、この「基本方針」は、社会情勢等の変化に応じて、必要な見直しを行います。

《*ドメスティック・バイオレンス(DV)》
 「配偶者やパートナーなど親密な関係にある人からふるわれる暴力」で、犯罪にもなる重大な人権侵害であるとともに、個人の尊厳を害するものであり、決して許されるものではありません。

《*国際人権規約》
 次の二つの規約をいう。
1.「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」略称A規約、「社会的基本権」といわれる。教
育を受ける権利、社会保障を受ける権利、労働に関する権利等が規定されている。
2.「市民的及び政治的権利に関する国際規約」略称B規約、「自由権的基本権」といわれる。生命に関
する権利、思想・良心・信教の自由、言論の自由、集会・結社の自由等が規定されている。

《*ユニバーサルデザイン》
 ユニバーサル=普遍的な、全体の、という言葉が示しているように、「すべての人のためのデザイン」を意味し、年齢や障害の有無などに関わらず、最初からできるだけ多くの人が利用可能であるようにデザインすることをいいます。


第2章 各論

Ⅰ.あらゆる場を通じた人権教育・啓発の推進
 人権教育について、国連の「人権教育のための世界計画」行動計画では、「知識の共有、技術の
伝達、及び態度の形成を通じ、人権という普遍的な文化を構築するために行う」ものとしています。
この人権教育を進めるためには、次の4つの側面からの取組が重要です。

①人権のための教育・・・人権の尊重を目的とする教育のことです。全教育活動の中で人権尊重
と人権確立を目指すものです。
②人権としての教育・・・教育権としての人権を保障する教育のことです。例えば、困難な条件
を抱えている子どもをはじめとする全ての子どもが学習できるような
取組をしていくことです。
③人権についての教育・・人権を内容とした教育のことです。人権についての考え方や人権に関
する条約、子どもや女性、高齢者、障害のある人、同和問題等の様々
な人権問題について理解と認識を深める教育です。
④人権を通じての教育・・人権が大切にされる環境の中での教育のことです。人権という価値観
にふさわしい方法や雰囲気のもとで教育が進められることをいいま
す。
 これらの側面を大切にし、学校や家庭、職場、地域など、あらゆる場を通じて、県民一人ひとり
の人権を尊重する意識を高め、差別を見抜き、差別をなくす実践力を培う人権教育・啓発を進めて
いきます。

1.学校教育等における人権教育の推進
 幼児期からの発達の段階や地域の実情等を踏まえ、人権尊重についての理解を深める指導を行う
とともに、家庭や地域と連携しながら、一人ひとりの子どもの学ぶ権利が保障された学校・学級づ
くりを進めることにより、互いの人権を尊重し、望ましい人間関係を築いていこうとする意識・意
欲を高めます。
 また、幼稚園・小学校・中学校・高等学校・特別支援学校の各学校段階の連携を進め、教材や指
導方法の工夫改善を図ることにより、豊かな人間性を育むとともに、学習意欲や学力の向上を目指
し、様々な人権課題に対する理解を深め、「いじめ」をはじめとした身近な問題の解決に向けて、
主体的に取り組もうとする実践的な態度を育てます。
 指導にあたっては、教職員自身が自らの人権意識を高めることを基に、「進路保障」など、これ
まで培われた同和教育の成果や手法を生かしていきます。また、「人権教育の指導方法等の在り方
について(第三次とりまとめ)」の学校での効果的な活用を進めます。

①保育所、幼稚園における人権教育の推進
 乳幼児期は、人間形成の基礎を培う極めて重要な時期です。一人ひとりの子どもの個性を十分に
理解し、発達の段階や個性に応じた教育(保育)を実施します。保育所では、「人との関わりの中
で、人に対する愛情と信頼感、そして人権を大切にする心を育てる保育(保育所保育指針)」を進
めることにより、保育内容の充実を図っていきます。
 また、幼稚園でも、「幼稚園教育要領」に基づき、人間性豊かな成長を目指して、人権意識の芽
生えを育む教育を進めます。

②初等中等教育における人権教育の推進
 小学校・中学校・高等学校・特別支援学校においては、教育活動全体を通じて、一人ひとりの学
習権を保障した上で、子どもの発達の段階を踏まえつつ、個に応じた指導を徹底し、主体的に問題
を解決する力や豊かな人間性を育み、「生きる力」を育成していきます。
 また、自らの生活や生き方と結びつけながら、広い視野から人権尊重と共生社会についての理解
と認識を深めるための取組も進めていきます。
 さらに、私立学校における人権教育推進体制確立のための支援を行います。

③研究指定校等における指導内容・方法の充実
 幼稚園・小学校・中学校・高等学校・特別支援学校の中から、人権・同和教育研究校(園)を指
定し、教材や指導方法の工夫改善などの実践的な研究を行い、その成果を公表することにより人権
教育の推進を図ります。
 また、あわせて指定校(園)のPTAの人権教育活動を育成し、地域への成果の波及を図ります。
 さらに、高等学校・特別支援学校の地域別研究会を開催し、研究・協議することにより地域別の
実情を把握した人権教育を推進します。

④高等教育機関等における人権教育の推進
 大学等の高等教育機関等での人権教育の推進を支援するとともに、教職員の人権問題についての
理解と対応を求めていきます。
 なお、県立大学においては、大学独自の教育・研究活動を尊重しながら、新入学生を対象とした
基本的な人権教育の実施など、人権教育の推進に努めます。

2.社会教育における人権教育の推進
 社会教育においては、すべての人々の人権が真に尊重される社会の実現を目指し、人権を重要な
課題として取り上げ、家庭教育の充実も考慮しながら、人権に関する学習機会の場を確保し、内容
の充実・改善を図る必要があります。その中で、人権問題を単に知識として学ぶだけではなく、日
常生活において、態度や行動に表れるような人権感覚を養っていくことが求められます。
 今後も、幼児から高齢者に至る幅広い層を対象に、学校や家庭、地域社会との連携を図りながら、
生涯にわたって人権問題に関する多様な学習機会の充実と啓発の推進を図ります。

①様々な場での学習機会の提供
 公民館や図書館、博物館などの社会教育施設を拠点として、生涯学習の講座等が開催されていま
すが、学校やNPO等の民間団体との連携を図りながら、今後も継続して人権に関する多様な学習
機会の提供を図るとともに、人権に関する学習意欲を高めるための指導方法の研究・開発及びその
普及に努めます。

②指導者の養成、学習情報の提供等
 市町村の行政担当者や公民館長、地区内学習グループ代表者、青年団体や女性団体の代表者など
を対象とした研修や講座を開設し、実践的な指導者の養成、地域中核指導者としての資質向上を目
指します。
 また、人権啓発推進センター及び生涯学習推進センターにおいて、人権教育・啓発に関する視聴
覚教材の貸出、学習機会・指導者に関する情報の提供を行います。

3.家庭における人権教育の推進
 家庭は、すべての教育の出発点であり、人格形成の基盤として人権意識を育む上で極めて重要な
役割を果たすものです。
 親が持っている人権感覚は、その態度や行動を通じて子どもに伝わるものであり、親自身が他人
に対して偏見を持たず、差別をしないことなどを日常生活の中で、子どもに示していくことが必要
です。
 そこで、関係行政機関や民間団体、学校等が相互に連携しながら、人権感覚が身に付くことを目
指した家庭教育に関する学習機会の充実や情報の提供に努めるとともに、子育てに不安や悩みを抱
える親等への相談体制の充実など、家庭教育への支援に努めます。

4.企業や地域社会における人権教育・啓発の推進
 企業や地域社会においても、人権思想の普及・高揚を図るための人権教育・啓発を推進し、人権
尊重の意識の醸成に努めます。

①企業等における人権教育・啓発の推進
 企業等が持続的発展を遂げていくためには、社会的責任(CSR)を果たしていくことが極めて
重要となっています。CSR活動とは、法令遵守に加え、企業等の自発的活動として、人権尊重や
環境保護など、様々な活動に誠実かつ積極的に取り組むことにより、社会の一員として、その責任
を果たしていくことです。
 企業等には、そうした取組の一環として、公正な採用を促進するとともに、公正な配置・昇進な
ど、人権の尊重を確保するよう一層の努力が望まれています。
 県内の一部の地域では、企業等において、人権・同和問題連絡協議会が組織され、自主的・計画
的・継続的な人権教育・啓発が行われています。県は、こうした企業等の取組を踏まえ、島根労働
局とも連携し、企業等トップ研修などの公正な採用選考についての啓発や人権に関する各種資料の
作成・提供を行うとともに、自主的に行われる研修等へ講師を派遣するなど、その取組を支援しま
す。

②地域社会における人権啓発の推進
 「世界人権宣言」などの人権関係国際文書の趣旨や国、県の人権施策、人権問題の現状など、人
権に関する様々な情報を広く県民に提供し、人権の尊重についての正しい理解と認識を深めるとと
もに、人権感覚を身に付けてもらうため、啓発資料の作成、インターネットや新聞・テレビなどの
マスメディア、広告媒体としての公共交通機関を活用した広報活動を展開します。
 また、幼児から大人まで参加体験できる人権啓発フェスティバル等の県民参加型のイベントを開
催するなど、効果的な啓発に取り組みます。
 さらに、自主的に人権問題に取り組むNPO等の民間の団体を人権教育・啓発の重要な担い手と
して位置付け、「みんなで学ぶ人権事業」の活用を働きかけ、その活動を支援するとともに、連携
・協力した取組を進めます。

5.特定職業従事者に対する人権教育の推進
 人権尊重の意識醸成にあたっては、人権に関わりの深い特定の職業に従事する人に対して、人権
教育に関する取組を強化することが大切です。
そこで、こうした職業に従事する人に対する人権教育の充実に努めます。

①公務員
 行政に携わるすべての職員には、公務員としての自覚と使命感を持つとともに、人権の保障が行
政の根幹であることを認識し、常に人権尊重の視点に立って、それぞれの職務の遂行に努めること
が不可欠です。
 このため、県においては、人権・同和問題職場研修推進員による職場内での人権教育の推進を行
うほか、各地域毎に行政職員や新規採用職員を対象にした研修会を実施しています。
 また、自治研修所では、県職員と市町村職員を対象に、新規採用時から管理職登用時までのほぼ
全課程における研修において、人権・同和問題の科目を設定しています。
 こうした重層的・複層的な研修の実施により、公務員が同和問題をはじめとした様々な人権問題
を正しく認識し、それぞれの行政において、適切な対応が行えるよう人権教育を充実します。
 このほか、住民の代表者である地方議会議員についても、人権教育への積極的な取組を要請しま
す。

②教職員
 学校教育においては、子どもの人権が保障された中で、常に人権尊重の視点に立って、指導する
ことが不可欠です。
 このため、人権教育の推進にあたっては、指導者である教職員の人権意識を高めることが重要で
す。これまでも教職員に対しては、研修会や講演会等を通して教職員の資質の向上を図っています
が、今後も、研修内容の充実と情報提供に努め、人権意識を高める取組を推進します。
 また、私立学校、国立学校の教職員に対する研修の実施を支援します。

③警察職員
 警察職員については、被害者、被疑者その他関係者の人権に配慮した警察活動を徹底するため、
職務倫理や人権問題について研修します。警察学校での採用時研修や専門研修に、「人権を尊重し、
公正かつ親切に職務を執行すること」などを定めた「職務倫理の基本」の実践に向けた授業や、被
害者支援の授業などを取り入れ人権意識の高揚に努めます。


④医療関係者
 県立病院においては、すべての職員が参加する職場内研修を実施しています。今後も、患者等に
対する「*インフォームド・コンセント」の徹底やプライバシーの尊重、個人情報の保護など、患
者の人権に配慮した医療が提供されるよう研修の充実に努めます。
 また、県立の看護師養成施設においても、人権意識を高めるための教育を推進していきます。
その他の医療関係者養成施設での人権教育の充実や医師会、歯科医師会等の関係団体での人権研
修の充実を引き続き要請します。

⑤福祉関係者
 地域において様々な生活相談への支援を行っている民生委員・児童委員は、その活動を行うにあ
たって、個人の人格を尊重し、その身上に関する秘密を守ることが特に重要です。
 このため、各種の機会を通じて人権研修を行っていますが、特に、新任者に対しては、民生委員
・児童委員活動の基本として、社会奉仕の精神の堅持とともに、基本的な人権の尊重が重要である
ことを周知しています。今後も、県民生児童委員協議会と連携を強化し、人権に関する情報の提供
など、人権研修の充実に努め、資質向上と活動の充実・強化を図ります。
 福祉関係職員に対しては、県社会福祉協議会が実施する福祉サービス事業従事者の各種研修にお
いて、人権研修が実施されており、今後も、利用者の立場に立った福祉サービスの充実が図られる
よう研修の充実を働きかけていきます。
 また、保育施設職員に対しては、保育士研修・保育従事者研修で引き続き人権研修を行い「人権
を大切にする心を育てる」保育の実践を促進するとともに、各保育施設に対しても人権研修への積
極的な参加などを働きかけていきます。
 さらに、児童厚生施設職員に対しては、「*ノーマライゼーション」の理念の啓発など、人権研
修を実施します。
 一方、児童養護施設等に対しては、児童の人権に関する研修の継続的実施について支援していき
ます。

⑥消防職員
 消防職員については、常に人権尊重の視点に立って業務を遂行することが必要であり、そのため、
消防学校の初任教育や幹部教育において人権に関する講座を設け教育を進めます。
 また、職場における人権研修の実施や講演会への参加等について、消防本部に対し要請します。

⑦マスメディア関係者
 情報化が進展する今日、人権教育・啓発の媒体としてのマスメディアの果たす役割は非常に大き
いものがあります。
 また、マスメディアは、人々の人間形成や社会の風潮にも大きな影響力を持っていることから、
マスメディアに従事する関係者において人権教育が自主的に取り組まれるよう要請します。

《*インフォームド・コンセント》
 医学的処置や治療に先立って、医師が患者に対し病状や治療目的、危険度などにつ
いて、必要な情報を提供し、患者の同意を得た上で治療等を行うこと。

《*ノーマライゼーション》
 障害のある人もない人も、学校や家庭、職場、地域社会の人々のくらしの中で、互
いに尊重し、支え合いながらともに生活する社会こそあたり前の社会であるという考え
方。

Ⅱ.各人権課題に対する取組
1.女性
(1)現状と課題
 国連では、性差別の禁止について、「国際連合憲章」や「世界人権宣言」、「*国際人権規約」に
おいて繰り返し確認されています。
 特に、1967(昭和42)年に採択された「女子に対するあらゆる差別の撤廃に関する宣言(女子差別
撤廃宣言)」では、「女子に対する差別は、基本的に不正であり、人間の尊厳に対する侵犯である」
と規定されました。
 その後、「国際婦人年」の宣言、「国連婦人の10年」の設定、「女子差別撤廃条約」の採択、5回
にわたる世界的規模の女性会議での宣言や行動計画の採択など、女性問題への取組が進められてい
ます。
 我が国では、こうした動きを受け、「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等女
性労働者の福祉の増進に関する法律(男女雇用機会均等法)」の施行等、国内法や制度の整備、内
閣総理大臣を本部長とする男女共同参画推進本部の設置、「男女共同参画2000年プラン」の策定な
ど、男女平等の実現に向けた政策が進んできました。
 1999(平成11)年、男女共同参画社会の形成に関する取組を、総合的かつ計画的に推進することを
目的とした「男女共同参画社会基本法」が公布・施行され、2000(平成12)年には、「男女共同参画
基本計画」が策定されました。
 県では、「男女共同参画社会基本法」に基づく基本計画である「島根県男女共同参画計画(しまね
パートナープラン21)」を2001(平成13)年に策定し、施策の総合的・計画的な展開を図ることとし
ました。
 翌2002(平成14)年には、「島根県男女共同参画推進条例」を制定するとともに、「DV防止法」、「次
世代育成支援対策推進法」に基づく計画を順次策定するなど、男女共同参画社会の実現を目指すた
めの環境づくりを進めています。
 県が実施した「人権問題に関する県民意識調査(2004(平成16)年)」においては、「女性に対す
る差別や人権侵害は、ほとんど存在しない」と答えた人は、わずか4.4%であり、社会や地域に残
るしきたりや慣習をはじめとして、女性に対する様々な差別や人権侵害があると多くの人が感じて
います。このことからもうかがえるように、島根県では、性別による固定的な役割分担意識等から
くる職場や家庭、地域等での男女差別が依然として根強く残っています。
 また、近年、「*セクシュアル・ハラスメント」や女性への暴力も顕在化してきました。啓発、
広報、学習・研修や「*ドメスティック・バイオレンス(DV)」対応の体制など、多くの取り組
むべき課題があります。

(2)施策の基本的方向
 県では、「島根県男女共同参画計画(しまねパートナープラン21)」を2006(平成18)年に改定し、
これに基づき、様々な施策を総合的・計画的に実施しているところです。
 今後とも、「男女共同参画社会基本法」の理念である「男女の人権の尊重」、「社会における制度
又は慣行についての配慮」、「政策等の立案及び決定の共同参画」、「家庭生活における活動と他の活
動の両立」、「国際的協調」の視点に立った取組を、行政と民間が一体となって総合的・効果的に進
めます。

①男女平等を推進する教育・啓発
 小学校・中学校・高等学校・特別支援学校においては、職業生活や社会参加において、男女が対
等な構成員であることや男女が協力して家族の一員としての役割を果たし、家庭を築くことの重要
性などについて、指導の充実を進めます。
 また、男女共同参画センター「あすてらす」において、男女共同参画セミナー等の学習研修事業
を行うほか、マスメディアを用いた広報や啓発情報誌などを通じて、男女共同参画社会形成に向け
ての学習や啓発を積極的に進めます。

②男女共同参画社会の形成促進
 2006(平成18)年に改定した「島根県男女共同参画計画」(2006~2010)では、「あらゆる世代での
男女共同参画意識の普及・定着」、「男女が共に、家庭(子育て・介護等)と仕事・地域活動を両立す
ることができる環境づくり」、「女性が様々な分野にチャレンジし、活躍できるような社会づくり」、
「配偶者からの暴力と被害者保護のための対策の充実強化」を、特に、重点的に取り組むものとし
て掲げています。
 そのために、「あすてらす」を拠点として、啓発広報や情報提供、地域リーダーの養成等に取り
組むとともに、女性グループの自発的な活動を積極的に支援していきます。
 また、市町村、関係団体、地域住民と連携・協力し、学校や家庭、職場、地域などのあらゆる分
野における男女共同参画の推進に努めます。
 さらに、国や関係団体と連携して、「改正男女雇用機会均等法」や「育児休業・介護休業等育児
又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(育児・介護休業法)」などの法令の周知・啓発に
努め、セクシュアル・ハラスメントの防止など、男女が働きやすい職場環境の整備を図るとともに、
子育て中の女性や母子家庭の母等の再就職、仕事と育児の両立などが図れるよう、就職や両立のた
めの支援に取り組みます。

③DV等女性に対する暴力防止の取組
 「島根県DV対策基本計画」(2005~2008)に基づき、DVを防止し、DV被害者支援に係る施
策を総合的に実施するための取組を進めてきたところですが、2008(平成20)年に施行された「改
正DV防止法」及び国の基本方針に即して、同年には、新しい「島根県DV対策基本計画」(2008~2011)を策定しました。
 この計画で、「配偶者からの暴力のない社会」を目指すことを基本理念の一つとし、また、「DV
は、犯罪となる行為をも含む重大な人権侵害であること」を基本的視点の一つとして掲げました。
DVのない社会を実現するためには、県民一人ひとりがDVに関する正しい理解を深め、DVは
重大な人権侵害であることを認識し、DVを根絶する社会的気運を醸成することが必要です。
 そのために、県民に対する啓発・広報を充実するとともに、学校や家庭、職場、地域での教育の
充実や職員等に対する研修の充実を進めます。
 また、市町村に対して、DV対策基本計画の策定や女性に対する暴力をなくす運動の取組につい
て積極的に働きかけます。

④DV等暴力被害女性への支援
 被害者が自立し、安心して地域で生活するためには、就業の促進、住宅の確保のほか様々な支援
制度の活用等が必要です。女性相談センターで一時保護した被害者が、一時保護施設を退所する際
に経済的自立を図りやすいよう「配偶者等からの暴力被害者自立支援金貸付制度」の活用を図った
り、生活保護制度や母子・寡婦福祉資金等の円滑な活用が図られるよう関係機関との連携を強化す
るなど、被害者の自立支援を行います。
 また、被害者にきめ細かに対応するために、被害者に対する支援活動を行っている民間団体との
連携や、県の機関、市町村、司法機関、民間団体等で構成する「女性に対する暴力対策関係機関連
絡会」の充実を図ります。

⑤相談体制の充実
 県民又は事業者からの性別による差別的取扱い、その他の男女共同参画を阻害する行為について
の相談に対して、国、県、市町村等の関係機関が相互に連携し、適切な対応を図ります。
 DVを含む様々な女性の問題については、女性相談センターや児童相談所に女性相談員を配置し
て、DV被害者や女性からの相談に応じています。
 また、「改正DV防止法」で、市町村における「配偶者暴力相談支援センター」の設置が努力義
務として規定されたことにより、今後は、市町村の役割が期待されます。住民に最も身近な所での
相談が可能となるよう市町村に対して、相談窓口の設置を働きかけるなど、相談体制の充実を図り
ます。
 県民の悩みや不安を解消するため、警察本部に「警察相談センター」を、各警察署に警察安全相
談係を設置して、24時間体制で県民からの相談へ対応しています。受理した相談のうち、警察で対
応できるものについては、事件化や指導・助言に努めているほか、相談窓口を有する関係機関と連
携して解決に努めています。
 また、警察に寄せられる相談に対応する職員に対しては、法律や専門的知識の研修を行うことに
より対応能力の向上を図ります。

《*国際人権規約》
 6ページを参照のこと。

《*ドメスティック・バイオレンス(DV)》
 6ページを参照のこと。

《*セクシャル・ハラスメント》
 相手を不快にさせる性的な言動をいいます。身体への不必要な接触、性的なうわさの流布、衆目に触れる場所へのわいせつな写真の掲示なども含まれます。セクシャル・ハラスメントに該当するかどうかは、基本的には言動の受け手がそれを不快に感じるかどうかによって決まります。

2.子ども
(1)現状と課題
 21世紀を担う子どもたちが心身ともに健やかに育つことは、県民すべての願いであり、子どもは
人格をもった一人の人間として尊重されなければなりません。子ども一人ひとりが基本的人権の権
利主体であることを理解し、子ども自身の声に耳を傾けることが必要です。
 1947(昭和22)年、我が国では、「児童福祉法」が制定され、児童の育成・保護という観点から様
々な施策が展開されています。さらに、4年後には、「児童憲章」で「児童は人として尊ばれ、社
会の一員として重んじられ、よい環境の中で育てられる」ことが宣言されました。
 また、1989(平成元)年に国連で採択された「子どもの権利条約」では、子どもを権利の主体とし
て、子どもの成長、発達を保障するため、親をはじめ社会全体が最善の努力をすることが明記され
ています。
 しかし、近年、我が国では、少子化や核家族化、都市化の進行など、社会環境が大きく変化し、
子どもをめぐる問題も複雑・多様化しています。いじめや体罰など、子どもの人権が侵害される事
例が後を絶たず、不登校や家庭へのひきこもりなどの問題が深刻化しています。また、児童虐待問
題も深刻化しており、幼い命が失われる痛ましい事件も発生しています。
 さらに、携帯電話の急速な普及に伴い、子どもがインターネット上に氾濫する違法・有害情報に
容易にアクセスできる状況となっており、出会い系サイトによる性被害や学校裏サイトによる人権
被害など、子どもの心身をむしばむ新たな社会現象もみられます。
 こうした状況の中、1999(平成11)年には、「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童
の保護等に関する法律(児童買春、児童ポルノ禁止法)」が制定され、児童買春や児童ポルノに係
る行為等を処罰するとともに、これらの行為等により心身に有害な影響を受けた子どもの保護のた
めの措置等を定めることにより、子どもの権利擁護を図ることとされました。
 また、2000(平成12)年には、「児童虐待防止法」が制定され、子どもの人権を著しく侵害する児
童虐待を禁止するとともに、児童虐待の防止に関する国及び地方公共団体の責務、児童虐待を受け
た子どもの保護及び自立の支援のための措置等を定めるなど、子どもの人権擁護の動きが本格的に
始まりました。
 さらに、2003(平成15)年には、有害サイトの利用に起因する犯罪から子どもたちを保護するこ
とを目的とした「インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法
律(出会い系サイト規制法)」が施行され、2008(平成20)年には、インターネット上の有害情報
から子どもを守るため、「青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境整備法」が成
立しました。

(2)施策の基本的方向
 2003(平成15)年に成立した「次世代育成支援対策推進法」に基づき、2005(平成17)年に「島根県
次世代育成支援行動計画〔前期計画〕(しまねっ子すくすくプラン)」を策定しました。
 このプランは、すべての子どもと子育て家庭を対象に、次世代育成支援対策を集中的・計画的・
総合的に進めていくもので、「しまねエンゼルプラン」を発展的に継承するものです。
 その基本理念の一つに「しまねの未来を担うたくましい子どもの育ちの実現」を掲げ、子どもの
人権を守り、子どもにとって最善の利益が図られるよう、特に、児童虐待防止対策と長期的視点か
ら「次代の親」となる人の育成を重点的に進めることとしています。
 関係する機関・民間団体はもとより、学校や家庭、地域などが連携と協働のもとに、教育や意識
啓発、相談・支援体制の充実など、「子どもが健やかに生まれ育つ環境づくり」を進めていきます。

①「子どもの権利条約」などの理解促進
 小学校・中学校・高等学校・特別支援学校において、子ども自身が権利の主体者であるという観
点から、教職員に対し、人を大切にした教育指導が行われるよう「子どもの権利条約」の周知徹底
を図ります。
 また、社会科、公民科等の教科や道徳、特別活動等の中で、子どもに対しても学習の場を設定し
ます。さらに、保護者に対し、この条約についての理解の促進を図ります。

②いじめ問題への取組
 いじめは、子どもの人権に関わる重要な問題であり、学校のみならず家庭など、社会全体で取り
組むことが大切です。
 このため、県教育委員会では、「いじめ110番」などの電話相談体制の整備や専門的・実践的研修
を実施して、教職員の資質向上に努め、学校における生徒指導体制や教育相談の整備を図ります。

③不登校への取組
 不登校は、「学校での学ぶ権利」を奪うという、子どもにとっては基本的な権利保障に関わるこ
とであると同時に、将来の子どもの進路にも関わることです。
 このため、不登校の子どもに対しては、指導・相談や学習支援・情報提供等の本人の進路形成に
資するような対応をしていきます。その際には、公的機関のみならず、民間施設やNPO等と積極
的に連携します。

④乳幼児や児童への虐待防止の取組
 県内各市町村に設置している要保護児童対策地域協議会において、関係機関が連携し、児童虐待
の予防、早期発見・早期対応から自立支援にいたるまでの総合的な相談と支援を実施していきます。
 また、虐待防止に関する幅広い啓発・広報活動を進めるとともに、保護者に対する支援等の充実
に取り組みます。
 さらに、住民に、より身近な民生委員・児童委員や市町村相談担当職員に対する研修を継続的に
実施するとともに、児童相談所の専門性の向上を図ることにより、地域が一体となって、児童の虐
待防止に取り組む環境づくりを推進していきます。

⑤健全育成に向けての取組
 近年、島根県においても、図書やビデオ、インターネット等を通じた有害情報の拡大が問題とな
っており、子どもをこれらの有害環境から守ることは大人の責任です。
 このため、「島根県青少年の健全な育成に関する条例」等に基づく環境浄化の取組を、より一層
強化するとともに、青少年育成島根県民会議と密接な連携を図りながら、普及啓発及び民間活動支
援等を行うことにより、行政や民間団体、家庭、地域が一体となった子どもの健全育成の取組を推
進していきます。

⑥相談体制の充実
 学校にスクールカウンセラーや「子どもと親の相談員」(小学校)を配置するとともに、学校や
関係機関の相談担当者を対象とした研修会を開催し、資質向上及び各相談機関の連携強化に努めま
す。
 児童相談所及び市町村児童家庭相談窓口においては、子どもに関する様々な相談に応じ、要保護
児童対策地域協議会を中心とした相談支援体制の充実を図ります。
 警察本部に設置の「ヤングテレホン」及び各警察署の「少年相談窓口」においては、子どもに関
する各種相談に応じながら、子どもの健全育成活動や保護対策等への取組を推進します。
 また、県内4か所(松江市、出雲市、浜田市、益田市)に設置している「子ども支援センター」
では、様々な問題を抱える子どもや保護者からの相談に対応するほか、地域ボランティア等と連携
した子どもへの支援活動を推進します。




3.高齢者
(1)現状と課題
 我が国では、2006(平成18)年における高齢者の割合が20.8%と5人に1人、75歳以上の高齢者
は10人に1人という「本格的な高齢社会」を迎えています。
 2006(平成18)年の「日本の将来推計人口」によると、島根県では、今後も人口減少が進み、高
齢者の割合は、30年後には40%近くまで高まるとされていますが、高齢者人口は、20万人程度でほ
ぼ一定で推移すると推計されています。
 また、島根県では、2005(平成17)年の高齢者の一人暮らし世帯数が、1990(平成2)年比で約
1.8倍、2005(平成17)年の高齢者夫婦のみ世帯数は、1990(平成2)年比で約2倍と急増してい
ます。
 こうした状況の中、介護サービスや介護予防の取組の充実、高齢者の権利擁護の推進、高齢者が
地域で活躍できる環境の整備など、県民誰もが高齢期を安心して過ごせるような社会の実現を図る
ことは重要な政策課題です。
 とりわけ、島根県は、全国に先駆けて高齢化が進行しており、高齢者が「自立と尊厳」を持てる
21世紀の社会を率先してつくり上げていくことが求められています。

(2)施策の基本的方向
 少子高齢社会における持続可能な社会システムを新たに構築するため、地域活動を支える高齢者
の育成を図るなど、高齢者が社会参加活動の中で生きがいを醸成できるような環境づくりに取り組
み、高齢者が支える側に立ち、地域社会の担い手として活躍するような「新たな共助の仕組みづく
り」を進めます。
 あわせて、高齢者一人ひとりの権利が尊重され、住み慣れた地域で安心して、その人らしい生活
が送れるような環境づくりを進めます。

①福祉教育、意識啓発の推進
 一人ひとりが心豊かで健やかに暮らせる福祉社会を実現していくためには、福祉の心を実践する
態度に結びつけることが必要であり、学校においては、子どもに対する実践的福祉教育を推進する
ことが大切です。
 このため、1997(平成9)年に策定した「福祉教育の推進に関する基本的な指針」に基づき、1999(平成11)年に「福祉教育指導資料」を作成しました。この資料を十分に活用して、生命を尊重する
心や思いやりの心を育てたり、参加・交流型のボランティア活動などを進めます。
 また、「老人週間」を中心に、高齢者の長寿と健康を祝福するとともに、高齢者が多年にわたり
社会の進展に寄与してきた人として、かつ、豊富な知識と経験を有する人として敬愛されるよう周
知し、高齢者の生きがいと健康づくりへの意識高揚を促進します。

②就労対策の推進
 豊かで活力のある社会を実現していくためには、高齢者の意欲と能力に応じた雇用の機会確保が
重要です。高齢者が持つ豊富な経験や技術、知識が、職場や地域活動に活かされ、自らの生活安定
と生き甲斐、あるいは地域社会に一定の役割を果たすことができるように支援していくことが求め
られています。
 そのため、島根労働局と連携して、事業主に対し、高齢者の就職の機会確保のための啓発を積極
的に進めるとともに、臨時的・短期的な仕事を希望する高齢者が就労できるようシルバー人材セン
ター等に対して、指導・支援を行います。

③高齢者の尊厳を支えるケアの推進
 2000(平成12)年から実施された介護保険制度により、措置から契約への移行、選択と権利の保
障、保健・医療・福祉サービスの一体的提供など、高齢者介護のあり方は大きく変容しましたが、
近年は、認知症高齢者や一人暮らし高齢者の増加、権利擁護への要請の高まりなど、高齢者を取り
巻く環境はさらに変化しています。
 こうした状況を踏まえ、たとえ介護を必要とする状態になっても、その人らしい生活を自分の意
志で送ることを可能とすること、すなわち、「高齢者の尊厳を支えるケア」の実現を目指し、2006(平成18)年には、「介護保険制度の見直し」や「高齢者虐待防止法」が施行されました。
 このため、市町村や関係団体との連携のもと、介護サービスの充実や介護予防・地域ケアの推進、
高齢者虐待の未然防止・早期対応や「*成年後見制度」活用など、実効性ある権利擁護の仕組みづ
くりを図ります。

④新たな共助の仕組みづくりの推進
 少子高齢社会においては、地域活動において元気な高齢者の活躍が不可欠であり、スポーツ・芸
術活動などにより高齢者の元気を醸成し、地域活動を支える人材の育成を図り、自主的な高齢者の
グループ活動や社会参加活動を通じて、生活の質の向上を追求できるような環境づくりを目指しま
す。
 また、老人クラブの活動支援やいきいきファンド事業などにより、自主的な元気高齢者グループ
の活動を活性化し、高齢者が中心となって活躍する新たな共助の仕組みづくりに取り組みます。

⑤権利擁護の推進
 認知症高齢者など、判断能力が十分でない人が、地域で安心して暮らせるよう福祉サービス利用
の手続きや通帳の預かり、代金の支払いなどを代行する「日常生活自立支援事業」を実施していま
す。各市町村に支援を行う生活支援員を置くとともに、県内9市町の基幹的社会福祉協議会に支援
の調整等を担当する専門員を配置し、さらに、県社会福祉協議会のバックアップにより、この取組
を推進しています。
 「日常生活自立支援事業」における相談や契約件数は、累増しており、権利を擁護する社会的な
支援制度として、引き続き定着と普及に取り組みます。
 また、高齢化が進む中で、財産等に関する法律行為が代行できるよう、家庭裁判所の審判による
「*成年後見制度」の利用も重要であり、地域福祉を担う市町村社会福祉協議会が、本人の生活・
医療・健康に関する手続の代行などの身上監護も含めた観点で、法人として後見にあたる取組を強
化していきます。

《*成年後見制度》
 認知症や知的障害、精神障害などの理由で判断能力の不十分な方々は、不動産や預貯金などの財産を管理したり、身のまわりの世話のために、介護などのサービスや施設への入所に関する契約を結んだり、遺産分割の協議をしたりする必要があっても、自分でこれらのことをするのが難しい場合があります。
 また、自分に不利益な契約であってもよく判断ができずに契約を結んでしまい、悪徳商法の被害にあうおそれもあります。このような判断能力の不十分な方々を、保護し、支援するのが成年後見制度です。

4.障害のある人
(1)現状と課題
 障害のある人が、住み慣れた地域社会の中で自立して生活するとともに、社会に参加し、障害の
ない人と同等の活動ができる社会を実現するためには、在宅サービスの充実や「*バリアフリー」
の促進など、多くの取り組むべき課題があります。
 国においては、「障害者基本法」をはじめ、「障害者自立支援法」などに基づき、各種障害者施策
が講じられています。2003(平成15)年には、計画期間を2003(平成15)年から2012(平成24)年
までの10年間とする「新障害者計画」及び、その計画の「重点施策実施5か年計画(新障害者プラ
ン)」(2003~2007)が策定され、障害のある人の生活全般にわたる施策が総合的に行われています。
 また、2004(平成16)年の「障害者基本法」の改正により、法の基本的理念に障害を理由とする
差別の禁止等が初めて明示されました。2007(平成19)年に内閣府が行った「障害者に関する世論調
査」において、法の改正の周知度及び障害を理由とする差別や偏見の有無について調査を実施した
ところ、周知については過半数に届かず、また、約8割以上の人が「障害を理由とする差別や偏見
がある」と回答しています。
 障害を理由とする差別や偏見をなくしていくためには、障害のある人一人ひとりが基本的人権の
権利主体であることを理解し、障害のある人自身の声に耳を傾け、時間をかけて障害や障害のある
人に対する理解と認識を深めていくことが何よりも重要であり、今後とも、「障害者週間」等の機
会を捉え、一層、啓発を進めていくことが必要です。

(2)施策の基本的方向
 障害のある人もない人も共に支え合う地域社会の中で、県民誰もが住みたい地域で安心して暮ら
すことができ、自分らしい生活をすることができる社会を創ることを基本理念として、2003(平成
15)年に策定した「島根県障害者計画(島根はつらつプラン)(2003~2012)年」及び2006(平成1
8)年に策定した、その実施計画である「島根県障害福祉計画」に基づき、国や市町村と連携を図
りながら、障害者施策を推進しているところです。
 また、1998(平成10)年に高齢者や障害のある人等が暮らしやすいまちは、すべての人が暮らしや
すいまちであるとの認識に立ち、高齢者や障害のある人等の行動を妨げている様々な障壁を取り除
くことを目的として、「島根県ひとにやさしいまちづくり条例」を制定し、施策を推進しています。
 2006(平成18)年には、国において、高齢者や障害のある人等の日常生活及び社会生活における
移動上及び施設の利用上の利便性及び安全性の向上の促進を図り、公共の福祉の増進に資すること
を目的として、「高齢者、身体障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(新バリアフリー法)」
が制定され、バリアフリーの一層の推進が図られることとなりました。今後も、障害のある人等に
対する理解と認識が深まるよう教育・啓発を推進します。
 さらに、障害のある人が地域において、自立した生活ができるよう障害のある人の雇用を促進し
て、職業の安定を図るための取組を推進します。

①「ノーマライゼーション」の理念の普及啓発
 「障害者週間」、「人権週間」及び「精神保健福祉普及運動」を中心に、障害のある人や関係団体、
市町村等と連携して、「心の輪を広げる体験作文・障害者週間の日のポスター」募集などの啓発事
業や公共施設の利用料の減免などを実施し、障害のある人との交流を進めるとともに、障害及び障
害のある人に対する正しい理解を深め、「*ノーマライゼーション」の理念や誰もが相互に人格と
個性を尊重し、支え合う「共生社会」の理念の一層の定着を図ります。
 また、県広報誌やマスメディアを活用した啓発・広報活動を積極的に推進します。

②障害のある人の理解を深めるための福祉教育の推進
 小学校・中学校・高等学校・特別支援学校において、障害のある子どもたちと障害のない子ども
たちとの交流及び共同学習を進めるとともに、ボランティア活動など福祉教育を実施し、障害のあ
る人等に対する理解を深めます。
 また、各学校においては、教職員自身が福祉教育に関心や理解を持ち、子どもたちを指導すると
ともに、自らも福祉活動に参加し、体験するための福祉教育推進体制を整備するほか、教職員の福
祉教育に関する研修プログラムの企画・実施などに努めます。

③障害のある人の地域での自立生活の支援
 障害のある人が、地域において人権や個性を尊重され、安心して自立した日常生活や社会生活を
営むことができるように、障害者相談支援事業をはじめとした相談体制の整備を図るとともに、「障
害者自立支援法」に基づいた各種障害福祉サービスや地域生活支援事業の充実を図ります。
 また、障害のある人の就労の促進を図るため、障害者就労移行支援事業所や障害者就業・生活支
援センターを中心に、就労支援のための取組を着実に行うとともに、労働、福祉、教育等の関係団
体による連携組織を設置し、各分野が一体となった取組を推進します。
 さらに、障害のある人の雇用を促進して職業の安定を図るため、「障害者の雇用の促進等に関す
る法律(障害者雇用促進法)」において、障害者雇用率制度が設けられ、事業主に一定数以上の身
体障害者又は知的障害者を雇用することが義務付けられており、関係機関と連携して事業主や県民
の理解と協力を推進するとともに、障害者委託訓練など障害のある人の就業促進に向けた多様な職
業訓練を実施します。

④権利擁護の推進
 知的障害者や精神障害者など、判断能力が十分でない人が、地域で安心して暮らせるよう福祉サ
ービス利用の手続きや通帳の預かり、代金の支払いなどを代行する「日常生活自立支援事業」を実
施しています。各市町村に支援を行う生活支援員を置くとともに、県内9市町の基幹的社会福祉協
議会に支援の調整等を担当する専門員を配置し、さらに、県社会福祉協議会のバックアップにより、
この取組を推進しています。
 「日常生活自立支援事業」における相談や契約件数は、累増しており、権利を擁護する社会的な
支援制度として、引き続き定着と普及に取り組みます。
 また、財産等に関する法律行為が代行できるよう、家庭裁判所の審判による「*成年後見制度」
の利用も重要であり、地域福祉を担う市町村社会福祉協議会が、本人の生活・医療・健康に関する
手続の代行などの身上監護も含めた観点で、法人として後見にあたる取組を強化していきます。

《*バリアフリー》
 障害のある人が、社会生活をしていく上で障壁(バリア)となるものを除去すると
いう意味。段差等の物理的障壁の除去をいうことが多いが、より広く障害者の社会参
加を困難にしている社会的・制度的・心理的な全ての障壁の除去という意味でも用い
ます。

《*ノーマライゼーション》
 12ページ参照のこと。

《*成年後見制度》
 23ページ参照のこと。

5.同和問題
(1)現状と課題
 1965(昭和40)年の「同和対策審議会答申」は、「同和問題は人類普遍の原理である人間の自由
と平等に関する問題であり、日本国憲法によって保障された基本的人権に関わる課題」と位置付け、
「その早急な解決こそ国の責務であり、同時に国民的課題である」との基本認識を示しました。そ
して、「現代社会においても、なお著しく基本的人権を侵害され、特に、近代社会の原理として何
人にも保障されている市民的権利と自由を完全に保障されていないという、もっとも深刻にして重
大な社会問題である。」と述べています。
 この答申を踏まえ、同和問題の早期解決に向けて、1969(昭和44)年に「同和対策事業特別措置
法」が施行されて以来、33年間に3度にわたり制定された「特別措置法」に基づき、国、地方公共
団体が一体となって、生活環境の改善、社会福祉の増進、産業の振興、職業の安定、教育の充実、
人権擁護活動の強化などの施策が実施されてきました。
 島根県においても、これまで同和問題の解決を県政の重要課題として位置付け、差別意識を解消
するための教育・啓発活動の推進をはじめ、同和地区における教育の充実、雇用の促進、経営の安
定、生活環境の改善などの対策を積極的に推進してきました。
 また、1994(平成6)年には、「島根県同和対策推進計画」を策定し、心理的差別の解消、人権
意識の高揚に努めるとともに、同和地区における経済力の向上、住民の生活の安定及び福祉の向上
を図り、差別のない明るい社会の実現に努めてきたところです。
 こうした取組と地区住民の自主的な努力により、生活環境の改善をはじめとする物的な基盤整備
は概ね完了するなど、着実に成果を上げ、様々な面で存在していた較差は大きく改善されました。
また、県民の同和問題に対する理解と認識も深まり、全般的には、着実に進展を見ているところで
す。
 このように、「特別措置法」に基づく特別対策は、概ねその目的が達成できる状況となったこと
から、2002(平成14)年3月末をもって終了し、残された課題については、一般対策により対応す
ることになりました。
 しかし、1999(平成11)年の国の「人権擁護推進審議会答申」において、同和問題に関する国民
の差別意識は、「着実に解消に向けて進んでいるが、結婚問題を中心に、地域により程度の差はあ
るものの依然として根深く存在している」と述べられており、心理的差別の解消については、今な
お、十分とは言い難い状況にあります。
 県が実施した「人権問題に関する県民意識調査(2004(平成16)年)」における結婚に関する調
査では、「仮にあなたのお子さんの結婚しようとする相手が、同和地区の人であるとわかった場合、
あなたはどうしますか」の質問に対して、条件付きを含め「結婚を認めない」が8.0%、「親として
は反対するが、子どもの意志が強ければ仕方がない」が38.5%となっており、46.5%の人が反対の
意思を示しています。1999(平成11)年の前回調査(51.1%)と比べれば下回っているものの、未
だに結婚問題について、差別意識が社会の中に根深く存在していることが認められます。
 また、教育や就労、産業面においても解決しなければいけない課題が残されています。
 一方、採用選考時において、家庭環境、親の職業等を聴取するなど、身元調査とも考えられる問
題事象や同和問題を口実に不法、不当な行為や要求を行う、いわゆる「えせ同和行為」などの同和
問題の解決を阻害する問題も発生しています。
 さらに、近年、インターネットを悪用した差別事象や行政書士による戸籍謄本の不正取得など、
新たな問題も全国的に起こっており、今なお、差別事象は後を絶たない状況にあります。
 こうしたことから、今後も、同和問題に対する県民の正しい理解と認識を深め、問題解決への主
体的な取組を促進するため、教育・啓発を中心として取り組んでいく必要があります。
 なお、今回の基本方針の改定にあたり、「島根県同和対策推進計画」を廃止し、同和問題解決の
ための基本的な考え方については、この基本方針に盛り込みました。

(2)施策の基本的方向
 「特別措置法」に基づく特別対策は、2002(平成14)年3月末をもって終了しましたが、法の失
効が同和問題解決に向けての取組の終結を意味するものではなく、今後も、必要な事業については、
地域の実情や事業の必要性に応じ、これまでの施策の成果が損なわれることのないよう一般対策を
有効かつ適切に活用し推進していきます。
 また、今後の同和問題に関する差別意識の解消にあたっては、1996(平成8)年の「地域改善対
策協議会意見具申」を尊重し、同和問題を人権問題の重要な柱として捉え、固有の経緯等を十分認
識しつつ、これまでの同和教育や啓発の中で積み上げられてきた取組の成果と、これまでの手法へ
の評価や研究の成果を踏まえ、民間団体等と連携を図り、なお一層、効果的な教育・啓発などを積
極的に推進します。

①差別意識解消に向けた教育・啓発の推進
 学校教育においては、まず教職員自身が同和問題の解決を自らの課題として捉え、全教育活動を
通じて、子どもの人権意識を高め、差別をなくす実践力を培います。
 社会教育においては、同和問題についての正しい理解を深め、自らの課題として、差別意識の解
消に取り組むことができるように、学習内容や方法等の創意工夫を図ります。課題解決に向けて、
学校や家庭、地域社会が一体となった取組になるように、さらに、連携を図りながら教育・啓発を
進めていきます。
 また、「差別をなくす強調月間(7月12日~8月11日)」において、同和問題解決のための啓発広
報を集中的に実施するなど、マスメディアを活用した各種啓発や講演会等の開催、各種啓発資料の
作成など、全県的かつ集中的な啓発活動を行います。
 これらの教育・啓発にあたっては、今までに蓄積されてきた成果への評価を行うとともに、啓発
内容や手法に一層の創意工夫を加え、また、ワークショップなどの参加体験型の研修形態を積極的
に行うなど、自らの課題として捉えることができるような教育・啓発を推進します。

②就労問題への取組
 就職の機会均等を確保し、雇用を促進して職業の安定を図ることは、同和問題解決のための重要
課題の一つです。
 就職に関する差別をなくすため、島根労働局など、関係機関と連携し、企業や団体等に対して、
公正な採用選考を阻害する身元調査、面接時における本籍や家族の職業等についての不適切な質問
及び書類要請など、就職差別につながる行為をしないよう啓発に努めるとともに、就職困難者等の
積極的な採用について、事業主の理解と協力を求めていきます。

③進路保障・就学援助への取組
 教育と就職の機会均等を完全に保障し、生活の安定と地位の向上を図ることは、同和問題解決の
ための中心的課題です。
 子どもが、高等学校、大学への進学や就労などの選択において、希望する進路に進めるようにす
るため、一人ひとりの実態を把握し、自らの進路をたくましく切り拓いていこうとする態度や能力
を身に付けていくよう学力の向上と進路保障の取組を推進します。
 また、就学援助のための迅速な情報提供に努め、奨学資金をはじめ、各種制度の周知と活用の促
進を図ります。

④生活環境への取組
 これまでの取組により、住宅や道路など、生活の根幹に関わる環境整備については、様々な面で
存在していた較差は大きく改善されてきました。
 今後は、すべての人が住み慣れた地域で、また、安全な生活環境で安心して暮らせることが大切
であることから、定住の促進や高齢社会への対応、安全で安心な住まいなどの人権が尊重されるま
ちづくりに対して支援を行います。
 また、事業の実施にあたっては、地域の実情や事業の必要性を的確に把握の上、事業を推進して
いきます。

⑤産業振興への取組
 産業振興を図り、地域住民の経済的水準の向上につなげていくことは、同和問題の根本的解決を
図るための課題の一つです。
 今後、商工業の振興を図るため、個別企業の経営指導、融資制度の利用促進、技術向上のための
研修、起業や新規事業進出への支援などを行います。
 また、農林水産業を振興するため、生産基盤及び加工流通施設等の整備を推進するとともに、営
農指導活動を展開します。

⑥隣保館活動への支援及び相談機能の充実
 隣保館は、地域住民の生活実態やニーズに応じて、生活支援や自立促進などを総合的に実施する
ことにより、同和問題の早期解決を図るための地域活動の拠点として設置されました。
 その結果、周辺地域を含めた地域社会全体の中で、啓発活動や相談活動、教養文化活動を通じて、
地域住民の社会的・経済的・文化的向上と同和問題の解決に取り組み、同和問題に関する正しい理
解と認識が深まるなど、一定の成果を上げてきました。
 今後も、隣保館が福祉の向上や人権教育・啓発の住民交流の拠点となる開かれたコミュニティセ
ンターとして、地域住民のニーズを的確に把握の上、その生活課題に応じて、各種相談事業、地域
福祉事業、啓発及び広報活動、交流促進事業など、その他広範な事業を総合的に推進できるよう支
援します。
 また、隣保館が設置されていない地域においては、社会教育施設である公民館などを活用した広
域隣保活動事業などにより、生活上の各種相談事業等を通じて、地域住民の生活課題等を的確に把
握し、適切に各種事業が推進できるよう支援します。

⑦「えせ同和行為」の排除
 「えせ同和行為」は、「同和問題はこわい問題であり、避けた方がよい」という人々の誤った意
識に乗じ、同和問題を口実にして、企業・官公署などに不当な要求を行うことをいいます。
 このような行為は、同和問題に対する誤った意識を植え付けるなど、これまで積み重ねてきた同
和問題についての教育・啓発効果を一挙に覆し、同和問題の解決に真剣に取り組んでいる人々や同
和関係者に対するイメージを著しく損ねるものであり、同和問題解決の大きな阻害要因となってい
ます。
 「えせ同和行為」に対処するには、何よりも誰もが同和問題を正しく理解することが重要です。
このため、県民への啓発に努めるとともに、こうした行為の排除にあたっては、松江地方法務局
や警察など、関係機関と緊密な連携を保ち、より一層、その取組の強化を図ります。

6.外国人
(1)現状と課題
 県では、1989(平成元)年に「国際交流」と「国際協力」を推進するために韓国慶尚北道と姉妹提
携して以降、ロシア沿海地方、中国寧夏回族自治区、吉林省とも友好提携等を行い、学術、文化、
経済、農業、環境などの分野で交流は協力へと広がってきています。また、学校や市民団体等によ
るいわゆる草の根交流も増えています。
 1980(昭和55)年代以降、経済活動のグローバル化や1990(平成2)年の「出入国管理及び難民
認定法(入管法)」の改正により、我が国で生活する外国人住民は年々増加しています。
 島根県における外国人登録者数も年々増加する傾向にあり、1990(平成2)年12月末には2,000人だ
ったものが、2007(平成19)年12月末には6,189人と3倍以上になっています。また、社会情勢の変
化に伴い、外国人住民の国籍別割合も変化があり、1990(平成2)年12月末には韓国・朝鮮67%、フ
ィリピン14%、中国10%、その他9%だったものが、2007(平成19)年12月末には中国40%、ブラジ
ル21%、韓国・朝鮮14%、フィリピン14%、その他7%となっています。これは全国の傾向と概ね
同様な変化です。今までの「国際交流」・「国際協力」に加え、外国人住民も地域社会の構成員とし
て、共に生きていく多文化共生社会づくりの推進が求められています。
 そのような状況の中、総務省による「多文化共生の推進に関する研究会報告書」(2006(平成18)
・2007(平成19)年)では、外国人住民を取り巻く課題として、住居や仕事を探す外国人住民に対
する差別や、日本語を理解できないことで情報や知識が不足し、行政サービスを含む様々なサービ
スを受けることができないなどの課題があることを指摘しています。また、県においても、2000(平
成12)年及び2005(平成17)年に県内在住外国人の実態調査を行い、全国と同様な課題があると認識
しています。

(2)施策の基本的方向
 「国際交流」・「国際協力」の広がりや外国人住民の増加に伴い、他の国の人やその文化に接する
機会も増えてきます。他の国の文化を自らの文化の価値観で一方的に評価するのではなく、それぞ
れの文化が独自に培ってきた価値観を認め合い、多様な文化を持つ人々が排除し合うことなく、同
じ地域に暮らす住民として、「共に生きる」社会の構築、すなわち、「多文化共生社会」の構築に協
力し合うことが求められています。
 このため、外国人住民についての理解促進並びに外国人住民の自立及び社会参画の機会づくりを
進めます。

①外国人住民への理解啓発の推進
 県内の外国人住民の数は、年々増加してきており、その国籍も多様化してきています。
 このような状況の中で、全ての住民が、安心して暮らせる「しまねづくり」を推進していくため
に、学校や家庭、職場、地域などにおいて、外国人住民に対する正しい理解を育み、差別や偏見の
解消のための啓発に努めます。

②多文化共生社会づくりの推進
 国籍に関わらず全ての県民が、共生できる多文化共生社会を推進するため、県内の在住外国人の
実態調査を定期的に実施し、調査結果を諸施策に反映させます。
 また、県内市町村や地域の民間交流団体と連携を深めるとともに、しまね国際センターとの連携
による地域通訳ボランティアの養成など、多文化共生社会の実現を目指します。

③外国人のための労働環境の整備
 外国人労働者がその能力を有効に発揮しながら就労できるよう、国と連携し各企業における適正
な雇用・労働条件の確保と不法就労の防止に取り組みます。

④外国人のための相談体制の充実
 県内在住外国人には、言語の問題や文化摩擦、話し相手の不足など、多くの悩みがあり、しまね
国際センターにおいて、ボランティアとの連携も図りながら、相談体制を充実させ課題の解決に取
り組みます。

7.患者及び感染者等
(1)現状と課題
 国が策定した「人権教育のための国連10年」に関する国内行動計画には、ハンセン病、HIV(ヒ
ト免疫不全ウィルス)感染者とエイズ患者に対する差別や偏見が重要課題の一つとして取り上げら
れています。
 ハンセン病患者は、1996(平成8)年に「らい予防法」が廃止されるまで、療養所への強制隔離
という基本的な考え方が継続されるなど、患者本人や家族、親族までが差別や偏見を受けてきまし
た。
 また、HIV感染者等は、医療、福祉など、積極的に保護され支援されるべき人々ですが、医療
の拒否、就職や入学の拒否、職場の解雇などの人権問題が指摘されています。
 さらに、赤痢や腸管出血性大腸菌(O-157等)などの感染症患者も、偏見から生じるいじめや
職場などに居づらくなるなどの人権問題が発生しており、今後、新たな感染症の発生による患者に
対しても、同様な問題が起こることが危惧されます。
 このほか、膠原病などの難病患者も、病気に対する理解の乏しさなどにより、心ない言葉をかけ
られたり、就労が困難であったり、療養環境が十分でないなど、社会生活の難しさが指摘されてい
ます。

(2)施策の基本的方向
 ハンセン病に対する社会の理解は、「らい予防法」が1996(平成8)年に廃止されて以来、大きく進
みました。しかし、未だに、偏見や差別が残っている中で、2008(平成20)年に「ハンセン病問題
の解決の促進に関する法律(ハンセン病問題基本法)」が成立したことから、県としても、法の基
本理念にのっとり、入所者等の福祉の増進を図るとともに、県民がハンセン病問題を通して、人権
尊重の意識を高めることができるよう施策を推進します。
 そして、感染症患者の人権を重視した「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法
律(感染症新法)」が2006(平成18)年に一部改正されました。県としても、この法律の趣旨に沿っ
て、感染症等に関する正しい知識の普及等の広報活動を進めるなどの施策を推進します。
 また、難病については、その多くが原因不明で治療法も確立されておらず、生涯にわたって治療
が必要な中で、患者自らの意志で、その人らしい生活が送れるような支援が求められており、相談
・支援体制の充実や難病に対する正しい知識の普及を図り、職場や地域で患者や家族を支える社会
づくりに努めます。

①ハンセン病に関する正しい知識の普及・啓発の推進
 ハンセン病療養所入所者の里帰りや訪問・交流などを事業とする島根県藤楓協会の活動を支援
し、入所者の体験談などをひとりでも多くの県民に伝える活動に取り組むなど、あらゆる機会を通
じて、ハンセン病に関する正しい知識の普及に努めます。

②HIV感染者等に対する差別・偏見是正のための教育・啓発の推進
 小学校・中学校・高等学校・特別支援学校においては、エイズを予防する能力や態度を育てると
ともに、エイズに対するいたずらな不安や偏見・差別を解消するため、人間尊重、男女平等の精神
に基づくエイズ(性)教育を、家庭や地域と連携して推進します。
 このほか、各保健所と県教育委員会が連携し、小学校・中学校・高等学校を訪問して、エイズに
ついての正しい理解と認識を深める講座を開設します。
 また、「エイズフォーラム」を開催し、県民に対して、エイズに対する正しい知識の普及を図る
とともに、「世界エイズデー」(12月1日)にあわせてリーフレットなどを配布し、啓発に努めます。

③感染症に関する正しい知識の普及・啓発の推進
 感染症に対する差別や偏見の解消のため、報道機関に協力を求めるなど、あらゆる機会を通じて、
感染症に関する正しい知識の普及に努めます。
 また、感染症の患者等を社会から切り離す視点ではなく、感染症の予防と患者等の人権尊重を両
立させる観点から、患者個人の意志や人権を尊重し、入院の措置がとられた場合は、良質かつ適切
な医療を提供し、早期に社会に復帰できるよう努めます。

④難病患者等への支援
 難病患者及び家族に対する専門医療相談や就労相談、訪問相談などを実施するほか、患者家族の
会のネットワークづくりなどの活動に対する支援を行います。
 また、「難病フォーラム」等を地域の実情を踏まえて開催するとともに、患者家族を支える組織
の育成やボランティアとの連携づくりを支援します。

⑤インフォームド・コンセントの普及
 医師会等医療関係団体における研修の場や医療機関を対象とした「医療安全研修会」等の機会を
利用して、インフォームド・コンセントの推進に関する啓発等に努めます。
 インフォームド・コンセントに関する苦情については、島根県医療安全支援センター事業として
医療対策課及び各保健所に設置している「医療安全相談窓口」において対応し、必要に応じて患者
又は医療機関へ助言を行います。

8.犯罪被害者とその家族
(1)現状と課題
我が国では、1974(昭和49)年のいわゆる三菱重工ビル爆破事件がきっかけとなり、犯罪被害者
等に対する公的経済支援制度の確立を求める声が高まったことを受け、1980(昭和55)年に「犯罪被
害者等給付金の支給等に関する法律」が制定され、犯罪被害者等の精神的、経済的負担の緩和が図
られるようになりました。
その後、様々な被害者支援の動きが活発化し、総合的な取組を求める犯罪被害者等の声に応える
ために、犯罪被害者等の権利利益の保護が図られる社会の実現に向け、政治主導による基本法制定
の動きが始まり、2004(平成16)年「犯罪被害者等基本法」が議員立法により成立、2005(平成17)年
施行されました。
この法律では、犯罪被害者等のための施策に関し、基本理念を定め、国、地方公共団体、国民の
責務を明らかにするとともに、犯罪被害者等のための施策の基本となる事項が定められ、犯罪被害
者等の権利利益の保護を図ることが目的とされています。
また、政府は、「犯罪被害者等基本法」で定めることとされた、総合的かつ長期的に講ずべき犯
罪被害者等のための施策の大綱となる「犯罪被害者等基本計画」を2005(平成17)年閣議決定しま
した。
この基本計画では、犯罪被害者等が直面する、生命、身体、財産上の直接的な被害、精神的ショ
ック、医療費の負担、失職や転職を余儀なくされることによる経済的困窮、あるいは「*PTSD(心的外傷後ストレス障害)」などの精神的被害を支援するため、258の具体的施策の推進を図るこ
ととされています。
県においても、このような動向を踏まえ、2006(平成18)年に施行した「島根県犯罪のない安全で
安心なまちづくり条例」及び「島根県犯罪のない安全で安心なまちづくり基本計画」において、犯
罪被害者等支援の推進を図ることとしています。

(2)施策の基本的方向
「犯罪被害者等基本法」により、犯罪被害者等への支援が、国、地方公共団体、国民の責務とさ
れたことから、社会全体で犯罪被害者等を支援していくことが求められています。
県では、犯罪被害者等の視点に立ち、そのニーズに応えるため、「島根県犯罪のない安全で安心
なまちづくり基本計画」に基づき、広報・啓発や相談窓口の設置、支援体制の整備に関し、関係課
等との連携により次の施策を推進します。

①広報・啓発の推進
社会全体で犯罪被害者等を支援していくという気運を醸成するため、関係機関と連携して、犯罪
被害者等による講演会の開催や各種マスメディア等を活用した広報啓発活動を実施するなど、県民
に対し、犯罪被害者等が置かれている状況を理解してもらう活動を展開します。

②相談窓口の設置
 犯罪被害者等からの相談については、総合的窓口としての「島根県犯罪被害者等支援総合窓口」
や「警察総合相談電話」のほか、「性犯罪110番」、「ストーカー相談電話」、「ヤングテレホン」、「暴力団相談電話」、「女性相談交番」など、その内容に対応した各種相談窓口を設置しています。
 こうした窓口の周知を図り、利用を呼びかけるとともに、迅速・的確な相談対応を行うことによ
り犯罪被害者等への支援に努めます。

③支援体制の整備
(ア)犯罪被害者等への支援活動の推進
 犯罪被害者等の様々な負担を軽減するため、捜査状況などの情報提供やカウンセリングなどの実
施、犯罪被害者等給付金の支給や遺体搬送費等の公費負担、再被害防止のための非常通報装置の設
置や貸出用携帯電話の整備による安全の確保などの各種施策を適切に推進します。
 また、これらの施策の推進にあたっては、犯罪被害者等に最初に接することとなる警察職員が、
捜査の過程において、犯罪被害者等に二次的被害を与えることのないように努めるほか、犯罪被害
者等の心情を理解するため、警察職員に対する研修会や講演会等を開催します。

(イ)関係機関・団体との連携強化
 犯罪被害者等が、再び平穏な生活を取り戻すためには、被害直後から中・長期にわたって、その
ニーズに応じた支援を途切れなく受けられることが重要です。
 民間団体による相談受理や検察庁・裁判所等への付き添い等の直接的な支援や、同じような経験
を持つ犯罪被害者等で構成する自助グループの支援活動は、きめ細かで迅速な対応を可能にするも
ので、途切れのない支援を行う上で欠くことのできないものであり、こうした民間被害者支援団体
や自助グループへの支援に努めます。
 また、犯罪被害者等の幅広いニーズに対応するため、県の機関、市町村、司法機関、民間団体等
により組織している「島根県被害者支援連絡協議会」や県内全域で結成されている地域単位の「被
害者支援地域ネットワーク」との連携を図り、犯罪被害者等の視点に立った支援を行います。

《PTSD(心的外傷後ストレス障害)》
 外傷後ストレス障害( posttraumatic stress disorder;PTSD)は、突然の衝撃的出来事を経験することによって生じる、特徴的な精神障害です。この PTSDが持つ他の精神障害にない特色は、明らかな原因の存在が規定されているという点で、 PTSDの診断のためには災害、戦闘体験、犯罪被害など、強い恐怖感を伴う体験があるということが、必要条件となります。

9.刑を終えて出所した人等
(1)現状と課題
 刑を終えて出所した人が、社会の一員として立ち直ろうとしていることに対し、誤った認識や偏
見が更生を妨げ人権の侵害につながる場合があります。また、その家族の人権が侵害されることも
あります。
 このため、刑を終えて出所した人については、その被害者の立場にも配慮しながら、再び同じ地
域社会の一員として円滑な社会復帰の促進を図ることが必要です。
 こうした考えに立ち、「更生保護制度」が整備され、国家公務員である保護観察官をはじめ、民
間の篤志家である保護司や協力事業主などが刑を終えて出所した人の社会復帰に向けた支援を行っ
ています。

(2)施策の基本的方向
 刑を終えて出所した人が、社会の一員として円滑な社会復帰をするためには、社会全体の支援と
県民一人ひとりの理解と協力が必要です。
 このため、刑を終えて出所した人や、その家族の人権が侵害されることのないよう差別や偏見の
解消に向け、関係機関、関係団体と連携・協力して啓発に努め、温かく受け入れる地域社会づくり
を進めます。

10.インターネットによる人権侵害
(1)現状と課題
 高度情報化の進展に伴うパソコンやインターネットの普及により、情報の収集・発信やコミュニ
ケーションにおける利便性は大きく向上し、多くの人々が、効率的で豊かな社会生活を享受できる
ようになりました。
 しかし、その一方で、他人のプライバシーを侵害したり、名誉を毀損するような悪質な情報発信
が行われたり、犯罪や差別の助長にもつながる有害情報が掲載されるなど、ネット社会における匿
名性を悪用した深刻な人権侵害問題が全国的に多発しています。
 こうした状況を踏まえ、国は、インターネットでの情報の流通によって人権侵害が発生した場合
のプロバイダ等の責任範囲や発信者情報の開示を請求する権利を定めた「特定電気通信役務提供者
の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(プロバイダ責任制限法)」を制定し、2002(平成14)年に施行しました。
 また、これにあわせて、「プロバイダ責任制限法名誉毀損・プライバシー関係ガイドライン」を
作成することにより、重大な人権侵害事案に関しては、法務省人権擁護機関が直接プロバイダ等に
書き込みの削除依頼を行うようにするなど、個人情報の適正な取り扱いの徹底や被害者の迅速な救
済に向けた法整備を進めています。
 県としても、インターネットの特性を悪用した人権侵害問題について、早急に対応すべき重要課
題であるという認識に立ち、早期発見・拡大防止のための取組を進めていきます。

(2)施策の基本的方向
 法務局や市町村、関係機関等との連携を深めることにより、インターネットによる人権侵害の早
期発見を図り、「プロバイダ責任制限法」の趣旨を踏まえた迅速な削除依頼を行うなど、被害の拡
大防止に努めます。
 また、県民一人ひとりが、情報化社会がもたらす影響について、人権擁護の視点に立った正しい
知識を身に付け、情報の収集・発信における個人の責任や遵守すべき情報モラルについての理解を
深められるよう啓発を推進します。

11.性同一性障害者の人権
(1)現状と課題
 性同一性障害とは、生物学的な性別(身体の性)と心理的な性別(心の性)との間に食い違いが
生じた状態のことをいい、世界保健機関(WHO)の国際疾病分類の中に位置付けられています。
我が国においては、1997(平成9)年に「性同一性障害の診断と治療に関するガイドライン」が
策定され、医学的治療の対象となっています。
 また、2004(平成16)年には、「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(性同一性
障害者特例法)」が施行され、性別の変更も認められるようになりました。
 しかしながら、性同一性障害の治療が可能な医療機関の整備は、十分とは言えません。また、「性
同一性障害者特例法」による性別変更の要件のうち、「現に子がいないこと」は、2008(平成20)
年の法改正により、「現に未成年の子がいないこと」に緩和されましたが、他にも性別適合手術を
終えていることなどの要件を満たす必要があり、性別の変更は容易ではありません。
 性同一性障害を抱える人々は、その障害に対する周囲の理解が不足しているため、差別や偏見の
眼差しで見られることが多く、就職や住宅を借りる際、また、銀行などの窓口での応対など、社会
生活を送る上で様々な困難に直面しています。

(2)施策の基本的方向
 性同一性障害について、この問題の解決に取り組む民間の団体とも連携・協力して、正しい理解
の促進と差別や偏見の解消に向けた啓発に取り組むとともに、社会の正しい理解のもとで、自分ら
しい生活を営むことができるよう環境の整備に努めます。

12.様々な人権課題
(1)プライバシーの保護
 プライバシーをめぐる問題は、個人の尊厳と基本的人権に関わる重要な問題であり、個人のプラ
イバシーを最大限保護することが必要です。
 しかし、近年の情報通信社会の進展に伴い、様々な分野で個人情報を利用したサービスが提供さ
れ、社会生活が大変便利なものになっている反面、個人情報の取扱いやプライバシーの侵害に対す
る不安が高まってきました。
 このような状況を踏まえ、個人の権利利益を保護するために、県においては、2002(平成14)年
に「島根県個人情報保護条例」を、国においても、2005(平成17)年に「個人情報の保護に関する
法律」及び「行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律」を全面施行し、官民を通じて、個
人情報保護制度が整備されました。
 今後も、これらの法令等に基づき、個人の権利利益の保護を図っていきます。

(2)「ひのえうま」などの迷信
 古くから日本社会に存在する迷信や因習の中には、「ひのえうま」や「つきもの」など、非科学
的で根拠のないものであるにもかかわらず、それを理由とした差別や人権侵害が行われるものがあ
ります。なかでも「きつねもち」は、島根県特有の迷信として一定の地域にみられ、今もなお、差
別意識が残されています。
 こうした問題についても、様々な機会を通じて、差別や偏見をなくす啓発に努めます。

(3)アイヌの人々
 アイヌの人々は、北海道を中心に先住していた民族であり、固有の言語や伝統的な生活習慣など、
独自の豊かな文化をもった民族です。
 しかし、過去の同化政策などにより、伝統的生活を支えてきた狩猟や漁労が制限又は禁止された
うえ、アイヌ語の使用や独自の風習も禁止されるなど、民族独自の文化が失われていきました。
 こうしたアイヌの人々の歴史や文化への無関心や誤った認識から、差別や偏見が依然として存在
しています。
 このため、アイヌの人々の民族としての誇りが尊重される社会の実現を図るとともに、我が国の
多様な文化の発展に寄与することを目的として、1997(平成9)年に「アイヌ文化の振興並びにア
イヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律」が制定されました。
 また、2008(平成20)年には、アイヌ民族を先住民族と認め、地位向上などの総合的な施策に取
り組むことを政府に求めるため、「アイヌ民族を先住民族とすることを求める決議」が国会で採択
されました。
 こうした法律や決議の趣旨に沿って、アイヌの人々への理解と認識が深まるよう啓発に努めます。

(4)北朝鮮当局によって拉致された被害者等
 北朝鮮に拉致された日本人は、2002(平成14)年に帰国が実現した5名のほか、日本政府が拉致
被害者と認定している者を含め、被害者の数は100名とも200名とも言われています。
 国においては、2006(平成18)年に「拉致問題その他北朝鮮当局による人権侵害問題への対処に
関する法律」を制定し、問題の解決に向け対処しており、地方自治体においても国民世論の啓発を
図るよう求められています。
 このため、国や市町村と連携を図りつつ、拉致問題その他北朝鮮当局による人権侵害問題に関す
る啓発活動に努めます。

(5)ホームレスの人権
 ホームレスとなっている人々の理由として、失業や疾病による収入の減少、貧困、借金などの背
景があり、年齢層も中高年だけでなく、若年層や女性にも広がってきていると言われています。
 こうしたホームレスの人々の生活の自立を支援するため、2002(平成14)年に「ホームレスの自
立の支援等に関する特別措置法」が制定され、また、2003(平成15)年には、「ホームレスの実態
に関する全国調査」が実施されました。
 この全国調査における県内実態では、ホームレスと確認できた人は少数に留まりますが、これま
で経済的な自立や生活自立のため、生活保護制度による支援を行っており、今後も、毎年度実施さ
れる全国調査における県内状況を踏まえながら、必要な個別支援、相談対応等を行うとともに、様
々な人々の生活を支援するため、関係機関との連携や地域福祉等の推進に取り組みます。

(6)人身取引(トラフィッキング)事件の適切な対応
 国連において、2000(平成12)年に「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約を補足する
人(特に女性および児童)の取引を防止し、抑止し及び処罰するための議定書(国際組織犯罪防止
条約人身取引議定書)」が採択されています。
 我が国においても、風俗営業所等が雇用している外国人に、売春を強要するなどの反社会的行為
が発生しており、刑法の人身売買罪や売春防止法違反及び入管法違反(不法就労助長罪)等で検挙
される事件が後を絶ちません。
 人身取引を撲滅するため、入国管理局との連携を図りながら、外国人パブ等風俗営業所等におけ
る違法行為の取締りを強化します。
 また、人身取引の撲滅が国際的に重要な課題であり、我が国が受け入れ国として非難されている
現状について、県民への啓発に努めるとともに、被害者からの相談や保護を求めやすい環境づくり
を推進します。

(7)日本に帰国した中国残留邦人とその家族
 中国残留邦人は、昭和20年当時、中国の東北地方(旧満州地区)に居住していた開拓団などの日
本人のうち、第二次世界大戦末期の混乱により、肉親と離別するなどの事情から、終戦後も中国に
とどまることを余儀なくされた方々で、帰国までに長期間を要したことから、多くの方が、言葉、
生活習慣、就労等の面で様々な困難に直面することになりました。
 このため、日本に帰国した中国残留邦人とその家族については、その正しい認識と理解を進め、
自立指導員や自立支援通訳の派遣など、地域社会における早期自立の促進及び生活の安定に努めま
す。

(8)性的指向(同性愛など)に係る問題
 性的指向とは、性的意識や恋愛感情が同性に向くのか異性に向くのかという、人間の性に関わる
意識や感覚のことをいいます。そして、性の指向は人によって一様ではありません。
 しかし、性愛の対象として、異性にではなく同性や両性に対して愛情を抱く人々は、少数である
がために差別や偏見の眼差しで見られたり、場合によっては職場を追われることさえあります。
 我が国においては、性的指向に関わる差別や人権侵害が存在していること、また、それが解決さ
れなければならない問題であるという認識は定着していません。
 こうした差別を解消するためには、私たち一人ひとりが個性の一つとして性的指向を捉えていく
必要があります。
 このため、性的指向について理解と認識を深めるよう啓発に努めていきます。

(9)その他の人権課題
 その他この基本方針に掲げていない様々な人権課題や、今後新たに対応すべき人権課題などに対
して、あらゆる機会を通じて、人権意識の高揚を図り、差別や偏見をなくしていくための施策の推
進に努めます。

Ⅲ.施策の推進
1.推進体制とフォローアップ
 人権問題の解決は、県民の人権意識の高まりを背景に、ますます重要な課題になってきており、
教育・啓発の必要性も一段と高まっています。
 こうした中、県では、人権教育・啓発を総合的・効果的に推進することを目的として、2003(平
成15)年に松江市に人権啓発推進センターを、さらに、2006(平成18)年には、浜田市にも同様の
センターを設置して体制の整備を図り、人権情報の収集・提供や啓発・研修の実施、指導者の養成、
人権相談、調査研究などの事業を行っています。
 今後とも、これらのセンターを拠点として、一層の人権教育・啓発の推進に努めていきます。
 この「基本方針」の推進にあたっては、女性や子ども、高齢者、障害のある人、同和問題、外国
人など、個別の人権課題を所管する部局の取組はもとより、全庁的な推進組織である「島根県人権
施策推進会議」において、関係部局間の密接な連携のもとに諸施策を実施するとともに、毎年の推
進状況をフォローアップしていきます。
 また、「島根県人権施策推進協議会」の提言を取り入れながら、実効ある推進を図っていきます。

2.国や市町村との連携・協力
 人権教育・啓発を効果的に推進していくためには、国、市町村と県が、それぞれの役割に応じて
協力し合い、連携していくことが重要です。
 そのため、松江地方法務局、県及び関係団体で構成する県レベルの「島根県人権啓発活動ネット
ワーク協議会」並びに松江地方法務局、各支局、その管内の市町村及び県で構成する「地域人権啓
発活動ネットワーク協議会」での連携を強化し、効果的な人権教育・啓発を進めていきます。
 また、市町村は、地域住民と最も身近に接していることから、地域の実情に応じた、きめ細かな
人権教育・啓発を進める実施主体です。県と市町村の役割を明確にしながら、市町村に対する情報
提供や市町村における人権教育・啓発の指針の策定支援などを行うとともに、十分な連携を図りな
がら取組を進めていきます。

3.民間との協働の推進
 県内には、自ら学習会を主宰したり、人権侵害を受けている当事者の支援を行うなど、人権教育
・啓発に自主的に取り組むNPO等の民間の活動が生まれています。
 こうした民間の活動は、草の根的な運動として県民の共感を呼び、県や市町村が取り組んでいな
い先駆的事業展開や住民ニーズ・地域課題への柔軟な対応などの成果を挙げています。
 今後は、こうした民間の団体も島根県の人権教育・啓発の重要な担い手として位置付け、これら
の活動を支援するとともに、連携・協力して、課題解決に対する県民の関心や参加意欲を高めてい
く取組を進めます。