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地方公共団体関係資料

愛媛県人権施策推進基本方針
情報の種類 地方公共団体関係資料
タイトル 愛媛県人権施策推進基本方針
時期 2004/12/01
主体名 愛媛県
【 内容 】

愛媛県人権施策推進基本方針


1. 人権施策推進基本方針策定の背景

(1)国内外の動向

20世紀における急速な科学の進歩は、人類社会に豊かさと快適さをもたらした反面、二度にわたる世界大戦は、かつてない規模で人々の生活を破壊し、その中で行われた大量虐殺や特定の民族への迫害などの人権侵害や人権抑圧に対する反省から、人権の保障が世界平和の基礎であり、国際社会全体で取り組むべき課題であるという考え方が主流となりました。

このようなことから、国際連合は、1948(昭和23)年12月10日、第3回の国連総会において「世界人権宣言」を採択し、「すべての人間は、生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である。人間は、理性と良心とを授けられており、互いに同胞の精神をもって行動しなければならない」と全世界に表明しました。

この「世界人権宣言」には、法的な拘束力はありませんでしたが、国際連合では、「国際人権規約」や「人種差別撤廃条約」、「女性差別撤廃条約」、「児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)*」など、人権保障のための条約が採択されたほか、国際婦人年や国際児童年、国際障害者年などの国際年を定めるなど、それぞれの課題を解決するための取り組みが進められております。

しかし、そのような取り組みにもかかわらず、人種、民族、宗教等に起因する地域紛争が多発し、人権が侵害される状況が続いてきたことから、1993(平成5)年にウィーンにおいて世界人権会議が開催され、人権教育の重要性が改めて提唱され、翌1994(平成6)年の国連総会において、1995(平成7)年~2004(平成16)年までの10年間を「人権教育のための国連10年」とするとともに、その具体的なプログラムとして「人権教育のための国連10年行動計画」を採択し、「人権という普遍的な文化*」を世界中に構築するための運動が進められることになりました。

一方、我が国においては、基本的人権の尊重を基本原理の一つとする日本国憲法の下で、「国際人権規約」をはじめとする人権関係諸条約を批准・加入するとともに、国政の全般にわたり、人権に関する諸制度の整備や施策が進められてきました。

そのような状況のもと、1965(昭和40)年の同和対策審議会答申*に基づき、1969(昭和44)年から、同和問題解決に向けての特別対策や同和教育が進められてきましたが、1996(平成8)年5月に、総務庁の審議会である※地域改善対策協議会が「同和問題の早期解決に向けた今後の方策の基本的なあり方」についての意見具申を行いました。

この意見具申では、地域改善対策事業を特別対策から一般対策へ移行して、教育、就労など、なお残された課題について、工夫しながら着実に実施していくとともに、今後の対策として、依然として存在している差別意識の解消を図るため、これまでの同和教育や啓発の成果とその手法の評価を踏まえ、すべての人の基本的人権を尊重していくための人権教育・人権啓発として再構築し、その中で同和問題を人権問題の重要な柱としてとらえながら、積極的に推進していくという方向づけを行っております。

また、その前年の1995(平成7)年には、「人権教育のための国連10年」が決議されたことを受けて、内閣総理大臣を本部長とする「人権教育のための国連10年推進本部」が設置され、1997(平成9)年に「人権教育のための国連10年に関する国内行動計画」が策定されるとともに、1996(平成8)年12月に、人権に関する施策の推進について、国の責務の明確化や必要な体制整備を目的とする「人権擁護施策推進法」が制定されました。

この法律に基づき設置された「人権擁護推進審議会」では、人権教育・啓発についての施策や人権救済制度のあり方について審議が行われ、その答申に基づき「人権教育及び啓発の推進に関する法律」が施行されるとともに、「人権擁護法案*」が国会に提出されるなど、人権尊重の理念の浸透や人権侵害に対する実効的な救済への取り組みが進められることになっております。

(2)県内の状況

本県では、女性、子ども、高齢者、障害者、同和問題、外国人、エイズ患者・HIV感染者*、ハンセン病*元患者等のそれぞれの人権分野ごとに、課題解決に向けての施策を進めてきました。そして、1997(平成9)年に国が策定した「人権教育のための国連10年に関する国内行動計画」を受けて、1999(平成11)年4月に、「人権教育のための国連10年」愛媛県推進本部を設置するとともに、2000(平成12)年3月に、「人権教育のための国連10年」愛媛県行動計画を策定し、「人権という普遍的な文化」の創造を目指して、あらゆる場を通じて、人権教育・啓発への取り組みを進めております。

また、県では、県民とともに人権が尊重される社会づくりの実現を進めるため、2001(平成13)年4月に「愛媛県人権尊重の社会づくり条例」を施行し、国や市町村及び関係団体と連携しながら、人権意識の高揚や人権擁護の推進のための施策を展開しております。

この条例には、人権施策の総合的な推進に関する基本方針を定めることや人権施策の推進に関する重要事項を調査協議するために、「愛媛県人権施策推進協議会」を設置することが定められており、2002(平成14)年11月に、同協議会から、知事に対して、「愛媛県における人権教育・啓発の推進等に関する意見」の提言がありました。

この提言に基づき、県では、2003(平成15)年4月に人権啓発の拠点として、県庁人権対策課内に愛媛県人権啓発センターを設置し、県民一人ひとりが人権を身近な問題として取り組めるよう効果的な施策の推進に努めています。

近年、国際化、少子高齢化の進展など、環境の急速な変化に伴い、人権問題は多様化、複雑化するとともに、インターネットの急速な普及など技術革新が進む中、新たな人権課題も生じております。

また、家庭内での児童や高齢者への虐待、配偶者への暴力などが社会問題化しており、地域や家庭、関係機関が連携し、解決に向けて総合的に取り組むことが必要とされるケースが多くなっております。

このような状況のもと、県民一人ひとりの人権意識の高揚に努めるとともに、市町村や関係団体と協働し、人権尊重の視点にたった行政を推進していきます。


2. 人権施策推進基本方針策定の考え方

(1)基本方針の性格

この基本方針は、県民一人ひとりが互いに人間の尊厳や権利を尊び、差別や偏見のない地域社会の実現を目指して制定した「愛媛県人権尊重の社会づくり条例」第5条の規定に基づき策定するものです。そして、県民自らが、人権尊重の社会づくりの担い手であるという認識のもとに、県や市町村、関係団体、NPO*などが協働して、人権意識の高揚や人権擁護にかかる取り組みを進めていくための基本的な考え方を示すものです。

また、2004(平成16)年を目標年次として、2000(平成12)年に策定した「人権教育のための国連10年」愛媛県行動計画を引き継ぎ、「人権という普遍的な文化」の創造を基本理念に、人権教育・啓発や人権擁護を総合的に推進するため、基本方針として策定することにいたしました。

この基本方針は、他の様々な施策に関する計画や方針の策定にあたって、準拠すべき基本指針としての性格を有するもので、県が推進するあらゆる行政の分野で、人権尊重の理念を浸透させていくものです。

なお、それぞれの実施施策については、県長期計画や各分野の個別計画及び各年度の予算の中で具現化することとします。

(2)基本方針の目指すもの

この基本方針では、互いに人間の尊厳や権利を尊び、安心して生き生きと暮らしていける地域社会の実現を目指しておりますが、このことは、県民一人ひとりが主体的、自立的に活動し、互いに支えあう「愛と心のネットワーク」づくりを進めることでもあります。そして、子どもからお年寄りまで一人ひとりが生活に生きがいを感じ、安心して暮らすことができる「ふるさと愛媛」を実現するため、「自己実現を尊重する」、「共同参画を保障する」、「共生社会を目指す」という3つのキーワードのもとに、人権施策を進めます。

キーワード1
自己実現を尊重する
人権が尊重される社会の実現のためには、一人ひとりの様々な生き方の可能性が否定されることがなく、その個性や能力を十分発揮できる機会の保障が重要です。お互いの自己実現を尊重していくためには、相手の立場に立って考え、行動することが求められており、すべての人が自分らしい生き方のできる、お互いの自己実現を尊重する地域社会の実現を目指します。

キーワード2
共同参画を保障する
人権が尊重される社会の実現のためには、性別や年齢、障害の有無などによって制約を受けることなく、誰もが地域社会の構成員として、あらゆる分野の活動への参画の保障が重要です。特に、政策決定の場に当事者が参加し、意見を表明できる機会が保障されることが求められており、すべての人が平等に参加できる地域社会の実現を目指します。

キーワード3
共生社会を目指す
人権が尊重される社会の実現のためには、すべての人が、それぞれの多様な文化や価値観を尊重し、それぞれの個性や生き方の違いを認め合い、共に生きているという認識や他人を思いやる心を持つことが大切です。すべての人が安心して暮らすことができる地域社会の実現を目指します。

(3)基本方針の見直し

この基本方針については、人権を取り巻く社会情勢の変化や新たに発生する人権課題に対応するため、「愛媛県人権施策推進協議会」での協議を踏まえ、必要に応じて見直しを行いますが、5年後の2009(平成21)年に、全面的な見直しを行うこととします。


3. 人権施策の推進方針

(1)人権教育・啓発の推進

1.あらゆる場を通じた人権教育・啓発の推進

人権意識を高めるためには、人権の意義や重要性が知識として身につくよう啓発を行うことはもちろんのこと、日常生活の中で人権への配慮が行動や態度に現れるよう、家庭や学校、地域社会、職場などあらゆる場を通じて、人権教育・啓発を推進します。

とりわけ、人権感覚は一朝一夕には身につくものではないことから、様々な人権問題について、生涯にわたり継続した学習ができるよう、子どもから大人まで、長期的な視点に立った、より実践的な学習活動を進めていきます。

学校における人権教育の推進
学校教育においては、教育活動全体を通じて、児童生徒が様々な人権問題の解決に向けた態度や行動力を身に付けることができるよう、人権尊重の意識を高めていくことが大切であり、人権教育は、単なる知識の伝達にとどまらず、命の大切さや他人の痛みが理解できる心、お互いの違いを認め合う心や豊かな人間性を培うことが必要です。

そのためには、人権感覚を磨き、一人ひとりの実践力を高めることが重要であり、子どもの発達段階に応じた人権学習の推進や高齢者や障害者、外国人との交流など、学校における様々な体験学習の充実に努めていきます。

また、人権教育の推進にあたっては、その担い手である教職員の資質の向上が不可欠であることから、教職員の人権に対する正しい理解や認識を深めるとともに、指導力の向上を図るための研修の充実に努め、学習プログラムや研修手法の研究など、学校現場における人権教育の推進を支援します。

地域、家庭における人権教育・啓発の推進
家庭はあらゆる教育の出発点であり、夫婦や親子の関係など、家族のふれあいを通して、他者への思いやりや生命の尊重、人間の尊厳など、人権に関する基本的な学習の場として、また、人格を形成する場として、重要な役割を果たしています。

しかし、少子化や核家族化、家族形態の多様化が進む中で、家庭における養育力や教育力が低下し、子どもや高齢者に対する虐待、配偶者等からの暴力(ドメスティック・バイオレンス(DV)*)、子どもの養育放棄など、近年、様々な人権問題が顕在化しています。

このような家庭の教育力の低下を補い、強化していくためには、学校、地域社会、NPO、各種団体などが相互に連携を深めることが大切です。そこで、様々な機会をとらえて、子育てや高齢者介護に関する学習機会の確保や情報提供を行うほか、子育てや家事などを固定的な役割分担意識にとらわれることなく、男女が協力して行えるような意識づくりを進めていきます。

また、人々の生活の場である地域社会は、日常出会う人々を通して、善悪の判断や生活習慣などを身に付けていく重要な学習の場であり、お互いの人権を尊重する意識や相手を思いやる心をはぐくむ役割があります。

これまで、公民館等の社会教育施設における講座の開設など、人権についての学習機会の提供やボランティア活動の推進など、学習活動が進められてきました。

これからも、家庭と学校、地域社会が連携し、地域に暮らす人々が生涯を通じて人権について学んでいけるよう、学習の場の提供や機会の充実を図るとともに、研修講師の派遣や学習プログラムの研究、指導者の養成など、社会教育における指導体制の充実に努めます。

職場における人権教育・啓発の推進

最近では、企業は社会を構成する一員、「企業市民」であるという考え方から、その社会的責任や社会貢献が重要視されており、企業の海外への進出が進む中、人権への理解や対応が重要性を増しています。

このような状況の中で、企業やその他の事業所においても、セクシュアル・ハラスメント*や職場での嫌がらせ、性別等による不当な差別などのない、働きやすい職場環境づくりを進めることが必要となっております。

また、障害者の法定雇用率の達成や高齢者の継続雇用、外国人の就業についての改善や、職場における男女共同参画社会の実現を目指すことが求められており、県では、人権啓発研修への講師派遣や研修会の開催などを通じて、職場における人権啓発活動に対する支援を行っていきます。

このほか、就職の機会均等を図るための公正な採用選考システムを確立していくことは大きな課題であり、今後とも、本人の適性や能力を引き出す観点にたった採用について、企業に対する啓発を進めていきます。

県民参加型の効果的な啓発活動の推進

県民一人ひとりが傍観者の立場でなく、人権学習の主体であるという認識のもと、自分自身の問題として人権を考えることができるよう、効果的な啓発活動を進めていきます。

特に、講義中心の知識習得型学習に加え、自分たちの考えを述べる場や実践する場を設けたワークショップやフィールドワークの開催、人権啓発川柳や人権啓発俳句の募集など、子どもから高齢者まで誰でも参加可能な体験型学習を推進します。

このほか、インターネットやマスメディアなど、視聴覚に直接訴え、県民の感性を揺さぶることは、効果的な啓発手法の一つとして重要であり、多様な媒体を活用した啓発活動に努めます。

継続的な情報発信の推進

効果的な人権学習を進めていくためには、愛媛県人権啓発センターのホームページの充実を図るとともに、映像ソフトの貸し出しを行う視聴覚ライブラリーの拡充など、啓発拠点としての愛媛県人権啓発センターの機能強化に努め、県民に対し、継続的な情報発信を行います。

また、人権問題の学習教材や人権に関する情報の収集を行うとともに、県民が親しみやすい啓発冊子の作成を行い、人権に対する正しい知識の普及に努めます。

2.特定の職業に従事する者に対する人権教育の推進

人権尊重の社会づくりを推進していくためには、県民一人ひとりが人権問題に対する正しい理解と認識を深めるとともに、人権感覚を磨くことが重要であり、あらゆる場を通じた人権教育を推進していくこととしております。とりわけ、公務員、教職員、警察職員、消防職員、保健、医療、福祉関係者、マスメディア関係者は、日頃から人権の擁護に深い関わりを持つ職業に従事しており、その職務の性質上、人権に配慮することが求められています。

これら特定の職業に従事する者への人権教育・啓発は、これまでも各機関や各職場において、それぞれ行われてきたところですが、今後とも人権尊重の理念の浸透が図られ、効果的な人権教育が行われるよう積極的な支援に努めます。

公務員

公務員は、国民全体の奉仕者として、憲法の基本理念である基本的人権の尊重を、その業務を通じて実施することが求められています。

特に、県や市町村行政においては、県民と直接接することが多く、様々な部署において、女性、子ども、障害者、高齢者、同和問題などの重要な人権課題に関わる施策を行っているほか、公権力の行使にあたる職員や個人情報に接する職員も多いことなどから、人権に配慮した行政を推進していくことが重要です。

このため、県では、職員一人ひとりが人権問題を自らの課題として受け止め、それぞれの職務において人権尊重の視点に立った対応ができるよう、県職員の階層ごとの研修カリキュラムに、人権教育を盛り込むほか、国、県の各機関や市町村に対する研修講師の派遣や人権教育・啓発に対する支援を積極的に行い、それぞれの職域において人権尊重の取り組みが進められるよう努めます。

教職員

子どもたちの人格形成や人権意識を高めるうえで、教職員の果たす役割は極めて重要であり、人権尊重の学校教育を推進するためには、教職員一人ひとりが豊かな人権感覚を身に付け、児童生徒の発達段階に応じた人権教育を実践していくことが必要です。

これまで、県教育委員会では、教職員が人権に関する正しい認識を深めるとともに、学校等の教育現場において、人権問題の解決を自らの課題として取り組めるよう、組織的かつ計画的に指導力の向上を目指した研修を実施するなど、資質の向上や啓発手法の研究に積極的に取り組んできました。今後とも、教職員が自己の社会的役割を自覚し、人権教育の主たる担い手として、地域や関係機関を巻き込んだ人権教育の実践ができるよう、参加体験型学習や学習教材の研究など、効果的な人権教育の推進に努めます。

警察職員

警察は、個人の生命、身体及び財産の保護、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締りなど、公共の安全と秩序の維持に当たることを責務としており、その任務の遂行にあたっては、人権に配慮した公正かつ適切な対応が求められています。

このため、警察職員に対する人権教育については、採用時の研修や各職場における研修を実施しているほか、被害者対策、外国人被疑者への対応など、実務を通じて必要とされる専門的な人権問題についても研修を行っており、今後とも警察職員の人権教育を推進します。

このほか、ストーカー被害やDVなどの対応として、犯罪被害者に対するカウンセラーや警察安全相談員を配置し、多様化する県民からの相談に対応できるよう体制の整備に努めます。

消防職員

消防職員は、県民の生命、身体の安全及び財産を火災等、各種災害から守ることを職務としており、その活動が県民の日常生活に密接に関わることから、個人のプライバシーや人権に配慮することが常に求められています。

このため、消防学校の教育カリキュラムの中に人権教育を組み入れて、人権意識の高揚を図っているところであり、今後ともその充実に努めるとともに、各市町村が行う人権教育や啓発研修についても支援を行います。

保健、医療、福祉関係者

保健、医療、福祉関係者は、生命や健康の維持・増進に関わる業務や高齢者、障害者の生活相談や介護などの業務に従事しており、その業務の遂行にあたっては、施設入所者や患者、その家族のプライバシーに対する配慮や人権を尊重する姿勢や行動が求められています。

しかし、近年、医療現場において、インフォームド・コンセント*の不足や医療事故時のトラブルが数多く報告されており、福祉施設等においても介護を提供する側の都合で、不当な拘束や不必要な管理が行われている事例も見受けられます。

以上のようなことから、保健、医療、福祉に従事する職員に対して、患者及び利用者本位の医療や介護について、正しい認識を深めることができるよう、職種や職域、あるいは、それぞれの職場における人権教育への取り組みを支援します。

マスメディア関係者

情報化の進展する現代社会において、新聞、テレビ、ラジオ等のマスメディアが果たす社会的役割は、ますます大きくなっており、県民の意識形成や価値判断に大きな影響を与えております。

また、人権教育・啓発の媒体として、県民の人権意識の高揚に貢献する一方で、一部には、個人の名誉やプライバシーを侵害したり、差別や偏見を助長したりするような報道も見受けられ、人権に配慮した報道に努めることが必要です。

このようなことから、マスメディア関係者には、日頃から人権感覚を養い、人権尊重の視点に立った取材や紙面づくり、番組制作を行うとともに、職場における自主的な人権教育が進められるよう要請します。

3.指導者等人材育成の促進

県民が日常生活の中で、人権に配慮した行動がとれるよう人権意識を高めていくためには、身近な学習の場において、様々な人との交流やふれあいを通じて、人権教育に広く参加できるよう環境を整えるとともに、人権教育・啓発に携わる指導者の養成が重要となります。

このため、愛媛県人権啓発センターでは、企業における公正採用選考人権啓発推進員*や市町村担当者、教職員、保健、医療、福祉関係者などを対象にした研修の実施や情報の提供を行い、日常生活の中で主体的に人権教育・啓発の推進が図られるよう、人材の育成に努めます。


(2)人権擁護

人権が侵害された場合の司法による救済や人権侵犯事件に対する法的救済は、国の専管事項でありますが、県としては、人権侵害を受けるおそれがある人に対する相談や解決のための助言など、県が実施可能な支援体制の整備を進めます。

1.人権救済制度の早期確立

人権侵害を受けた被害者への救済については、国の人権擁護推進審議会において、人権が侵害された場合に、迅速かつ簡易な方法で救済できるよう、新たな人権救済制度の創設が答申され、2002(平成14)年3月に人権擁護法案が国会に提出されましたが、まだ成立しておらず、人権救済制度の確立が大きな課題となっています。

人権尊重の社会づくりを進めるためには、人権が侵害された場合の救済制度の構築は不可欠であり、早期の制度創設と適切な運用を国に要望します。

2.人権擁護委員の活動支援

人権擁護委員は、地域住民の日常生活に接しながら、人権意識の高揚と人権侵害の防止に努めることを目的に、市町村長の推薦を受けて、法務大臣が委嘱しています。本県においても、関係機関との連携のもと、地域に根ざした啓発活動を積極的に行うなど、人権教育・啓発の担い手として大きな役割を果たしております。

近年、社会環境の変化に伴い、新たな人権課題への対応や専門的な知識が求められており、県では、人権擁護委員が行う資質向上のための研修や人権啓発活動について支援します。

3.人権相談の充実・強化

人権相談については、女性、子ども、高齢者、障害者、同和問題、外国人HIV感染者など、個別の人権課題ごとに、県や市町村、各団体等に相談窓口が設けられているほか、法務省松山地方法務局が人権侵害された場合の相談や電話相談事業を行う等、各機関で行われています。しかし、相談窓口がどこにあるのかわからない場合や複数の課題にまたがる場合、相談機関のたらいまわしが起こるおそれもあり、県民が相談しやすい体制を整備していく必要があります。

このため、愛媛県人権啓発センターを人権相談の総合的な窓口として位置付けるとともに、専門的な相談機関への紹介やその後のフォローアップを行うなど、県民からの人権相談が円滑に行われるよう努めます。

また、人権相談の内容は多種多様であり、また、専門性を要求される場合もあり、個々の相談窓口だけで対応困難な事例も想定されるので、窓口相互のネットワークの確立や相談員の資質向上に取り組みます。

このほか、それぞれの人権問題について相談支援を行うNPOや団体もあり、これらとも十分連携を図りながら、相談支援活動を進めます。

4.福祉サービスの苦情解決制度の円滑な運用

障害者、高齢者など、多くの社会福祉事業について、利用者が自らサービスを選択して利用する仕組みへと制度改正が行われており、利用者が直接、施設やサービス事業者に苦情を申し立てることができるようになっています。しかし、施設内での虐待や不当な差別的取扱いがあっても、サービスを受けている立場から、直接施設や事業者に苦情を申し立てることは、なかなか困難なものです。

福祉サービスの苦情解決制度として、各施設で、苦情を聞く第三者委員制度を設置することになっているほか、愛媛県社会福祉協議会内に「救ピット委員会」が設置され、苦情申し立て者と施設の双方から事情を聞き、必要に応じ、あっせんが行われることとなっております。県では、苦情解決機関や市町村等との連携を図り、福祉サービス利用者の権利擁護を進めます。

このほか、介護保険制度では、都道府県国民健康保険団体連合会が苦情処理の第三者機関として位置付けられ、市町村とともに苦情処理に当たることとなっておりますが、要介護者への虐待や不当な取扱いによる苦情の増加も予想されており、適切かつ円滑な運用が行われるよう、これら苦情処理を担当する職員の資質の向上や研修の支援に努めます。

5.愛媛県男女共同参画推進委員制度の適切な運用

「愛媛県男女共同参画推進条例」の施行により、2002(平成14)年10月から愛媛県男女共同参画推進委員を設置しています。この制度は、男女共同参画の推進に関する県の施策についての苦情を処理すること、また、性別による差別的取扱いその他の男女共同参画の推進を阻害する要因によって侵害された人権の救済を支援することを目的としたものです。このようなことについて、県民等は推進委員に申し出ることができ、推進委員は必要に応じて、関係者の協力のもとに調査を行ったうえで、助言、是正の要望等を行うことになっています。制度の活用を促進するとともに、適正な運用に努めることにより、人権擁護の取り組みの推進を図ります。

6.権利擁護への取り組みの推進

介護保険制度や身体障害者支援費制度の導入に伴い、多くの福祉サービスが、自らサービスを選択し契約を結んで利用する仕組みとなり、知的障害者や精神障害者、認知症高齢者*など、判断能力の不十分な方にも、福祉サービスの利用を保障していくことが課題となっています。また、悪徳商法や詐欺的取引の被害者になることも懸念されており、安心して生活できるよう相談支援活動を充実させることが必要となっています。

成年後見制度の適切な利用の推進

成年後見制度*は、自己決定権の尊重と本人の保護の調和を図ることを基本理念として、2000(平成12)年に施行された新しい制度であり、家庭裁判所が制度の相談窓口であるため、身近な相談窓口となりにくいことや費用の負担が大きいこともあって、まだ、制度への理解や利用は十分進んでいません。

最近、弁護士会や社会福祉士会、司法書士会などの関係団体が、この制度の利用についての相談活動を行い、徐々にその周知が進められてきましたが、今後とも、円滑かつ適切な成年後見制度の利用が進められるよう、関係機関とともに啓発活動を進めます。

福祉サービス利用援助事業の円滑な推進

愛媛県社会福祉協議会や県下5市の基幹的社会福祉協議会では、認知症の高齢者や知的障害者、精神障害者など、福祉サービスの利用や日常的な金銭管理に不安を持っている方に対して、介護保険の手続きなどサービス利用の援助や、預貯金の出し入れなどの金銭管理、年金証書や権利証などの書類の預かりサービスを行う福祉サービス利用援助事業が行われていますが、制度の浸透や援助を行う生活支援員の人材確保やその育成が課題となっています。

今後とも、市町村や社会福祉協議会など関係団体との連携を図り、障害者、高齢者が安心して生活が送れるよう、福祉サービスの利用や日常的な金銭管理などを支援する福祉サービス利用援助事業の円滑な推進を図ります。


4. 重要課題への対応

(1)女性

1.現状と課題

1999(平成11)年に施行された「男女共同参画社会基本法」では、男女が、互いにその人権を尊重しつつ責任も分かち合い、性別にかかわりなく、その個性と能力を十分に発揮することができる男女共同参画社会の実現を、21世紀の我が国社会を決定する最重要課題と位置付けるとともに、基本理念の一つとして男女の人権尊重を掲げています。

本県においても、「愛媛県男女共同参画推進条例」が2002(平成14)年に施行されるとともに、2010(平成22)年を目標年度とする「愛媛県男女共同参画計画 パートナーシップえひめ21」に沿って、男女共同参画に関する施策が総合的かつ計画的に推進されています。

また、条例に基づき2002(平成14)年10月には、県の施策について男女共同参画の観点から苦情がある場合や、性別による差別的取扱いなどにより人権が侵害された場合に申し出のできる「愛媛県男女共同参画推進委員」を第三者機関として設置し、県民からの申し出を公平・中立な立場に立って解決に当たっています。

一方、近年、配偶者等からの暴力(ドメスティック・バイオレンス(DV)。以下「DV」という。)やセクシュアル・ハラスメントなど、女性に対する暴力や性的嫌がらせは大きな社会問題となっており、人権侵害の根絶に向けた取り組みが求められています。また、今日においても「男性は仕事、女性は家庭」といった性別に基づく固定的な役割分担意識は根強く残っており、男女共同参画に向けた意識の改革を促していくことが求められています。

「男女雇用機会均等法」や「育児・介護休業法」などが整備され、女性の雇用機会の拡大や職場の環境整備が進められていますが、今後さらに女性の社会参画を促進するとともに、家庭生活と仕事、地域活動が両立する環境の整備や、労働の場における男女平等への取り組みが求められています。

2.施策の基本方向

男女の人権の尊重

身体的、性的、心理的暴力など女性に対するあらゆる暴力の根絶に向けて取り組むとともに、被害者の救済策の充実を図ります。また、人権への配慮を欠いた表現についての見直しや啓発活動等を通じて、互いの人権が共に尊重される社会の形成を促進します。

女性に対する暴力の根絶

性犯罪、売買春、DV、セクシュアル・ハラスメントなどあらゆる形態の女性に対する暴力への厳正な対処とともに、「女性に対する暴力をなくす運動」などの意識啓発や、教育研修等により暴力の発生を未然に防ぐ環境づくりを進めます。

DV等の被害者に対する救済策の充実

被害者の立場やプライバシーに十分配慮した相談やカウンセリング機能の拡充とともに、被害を届けやすい環境の整備を図ります。また、被害者の保護・救済及び社会復帰の支援に努めます。

男女の人権が共に尊重される社会づくり

性や暴力の表現について、メディアにおける人権尊重の自主的な取り組みを促すとともに、男女共同参画の視点に立った表現による情報発信に努めます。また、生涯にわたる性と生殖に関する健康・権利の概念についての意識啓発や学習機会の提供を通じて人権意識の浸透を図ります。

男女共同参画の視点に立った意識の改革

個人が主体的に生きるための多様な選択や能力発揮の妨げとなる性別に基づく固定観念について、その見直しを呼びかけていきます。また、学校では幅広い生き方ができる進路指導や男女平等観に立った教育を行うとともに、家庭や地域等における教育・学習を促進します。

男女共同参画の広報啓発活動の推進

性別に基づく固定的な役割分担意識の是正等について、多様な媒体の活用により、あらゆる機会を通じて効果的な広報啓発活動を推進するとともに、研修や会議などの学習機会や資料等の提供を通じて意識の改革を促進します。

また、男女共同参画に関する調査を実施し、県民意識の状況や施策に関する意見等を把握し、関係施策の立案や推進に反映します。

男女共同参画の視点に立った教育の推進

学校教育において、男女平等や男女の相互理解と協力のための教育内容の充実、指導者の理解促進を図るとともに、混合名簿の導入を推進するほか、保育や幼児教育の場でも男女共同参画について考える機会を与え、幼少時から男女平等意識が芽生えるよう努めます。

また、地域等における意識啓発や学習等を通じて、男女平等観に立った家庭教育や男女両性の自立を促進する社会教育を推進します。

あらゆる分野への男女共同参画の推進

意思決定の場などあらゆる分野への女性の参画を進めるとともに、女性の人材育成等に努めます。また、育児や介護など女性が多くを担ってきた分野について、男女がともに担っていけるよう家庭生活と仕事、地域活動が両立するような環境の整備を推進します。労働の場においては、男女均等な雇用環境の整備など男女共同参画を推進します。

女性の参画拡大

意識啓発等により各種団体等の代表や役員への女性の登用を促すとともに、県の審議会等における登用率40%の早期達成など行政における女性の参画拡大に取り組みます。また、女性の人材養成や生涯学習社会の構築等を通じて多様な能力を高め、あらゆる分野への積極的な女性の参画を促進します。

家庭生活と仕事、地域活動の両立支援

仕事と育児・介護の両立支援や地域活動への参画促進等により、男女が共に参画する家庭・地域づくりを推進します。また、育児を支援する環境の整備や高齢者や障害者を支える地域ケアシステムの構築等を推進します。

労働の場における男女平等の確保

関係機関と連携を図りながら、雇用の分野における男女均等な機会や待遇の確保、セクシュアル・ハラスメントの防止など、性差別を受けることなく、その能力が発揮できる雇用環境の整備を推進します。また、農林水産業等における女性の経営参画など男女共同参画を促進します。

(2)子ども

1.現状と課題

1947(昭和22)年に児童福祉法、1951(昭和26)年に「児童憲章」を制定し、子どもの人権尊重とその心身にわたる福祉の保障及び増進に関する各種施策を行ってきました。

1994(平成6)年には「児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)」を批准し、子どもを人権の主人公として尊重し、子どもも大人と同じ独立した人格を持つ権利の主体としてとらえ、子どもの人権を保障しています。また、多発する児童虐待から子どもを救済するための「児童虐待の防止等に関する法律」を2000(平成12)年に制定するなど、子どもの人権擁護に努めてきています。

しかしながら、少子化や核家族化の進行、家族形態の多様化など、子どもや子育て家庭の環境が大きく変化し、家庭や地域における子育て機能が低下しているほか、子育て家庭の孤立化、子どもの社会性の欠如などにより、いじめや体罰、児童虐待など子どもの人権侵害が深刻な問題となっています。

特に児童虐待については児童相談所への相談件数は急増し、2003(平成15)年度には県内でも虐待により子どもが死亡する事件が発生し、今まで以上に児童虐待防止対策が求められています。児童相談所の機能強化とともに関係機関相互の連携や情報交換を行うシステムにより、地域ぐるみで虐待に対応できるネットワークの構築が不可欠となっています。

2.施策の基本方向

地域における子育ての支援

 地域における子育て支援サービスの充実

子育て支援に関するシンポジウムやセミナー等の開催により、子どもの人権尊重の視点に立った子育て支援サービスの質向上や、人材の確保・養成に努めます。

 子育て支援のネットワークづくり

子育て支援サービス等の質の向上を図るため、先進的な子育て支援サービス等の情報収集及び情報提供を行います。

母性並びに乳児及び幼児の健康の確保及び増進

母子の健康を確保するため保健、医療、福祉及び教育の分野間の連携を図り、母子保健施策等を充実することにより、すべての子どもの発達を保障し、その健全な成長を促進します。

 母子保健対策の充実

妊娠・出産及び育児に関する情報提供、相談体制や周産期医療体制の充実、病児保育や障害児保育などの保育環境の充実により、母性保護と乳幼児の心と身体の健やかな発達の支援に努めます。

 「食育」の推進

望ましい食習慣の定着、食を通じた豊かな人間性の形成・家族関係づくりによる心身の健全育成を図るため、「食育」を推進します。

 思春期保健対策の充実

学童期・思春期における心の問題にかかる専門家の養成及び地域における相談体制の充実に努めます。

子どもの心身の健やかな成長に資する教育環境の整備

 子どもの生きる力の育成に向けた学校教育環境の整備

人権を尊重する豊かな心の育成、確かな学力の向上、健やかな身体の育成のための学校教育環境を整備するとともに、学校、家庭、地域及び関係機関のネットワークづくりを行います。

 家庭や地域の教育力の向上

子どもの発達段階に応じた家庭教育に関する学習機会や情報の提供を行う等、家庭教育への支援を充実します。また、学校、家庭及び地域が相互に連携し、子どもを権利の主体者として尊重し、子どもの豊かな人間性やたくましく生きる力をはぐくむための地域教育力の向上を図ります。

子育てを支援する生活環境の整備

 良質な住宅の確保と良好な居住環境の確保

公共賃貸住宅において子育て世帯の優先入居制度の活用を図るなど、子育てのための良質な居住環境を確保することにより、思いやりのある心豊かな家族関係を構築し子どもを健やかに育てます。

 子ども等の安全の確保

子どもを犯罪等の被害から守るため、関係機関・団体との情報交換や被害に遭わないための防犯講習の実施、緊急避難場所「まもるくんの家」等の防犯ボランティア活動の支援を行います。

 被害にあった子どもの保護の推進

犯罪、いじめ、児童虐待等により被害を受けた子どもの立ち直りを支援するためのカウンセリングの実施、保護者への助言等、関係機関と連携したきめの細かな支援を実施します。

児童虐待防止対策の充実

 児童虐待防止ネットワークの整備

虐待の早期発見、早期対応に向け、児童相談所を核とし、主任児童委員等の地域スタッフや警察、医療、教育等の関係機関が連携を図り、地域ぐるみで家庭支援を行う体制を整備し、虐待防止のためのネットワークづくりを推進します。

 児童相談所の機能強化

児童相談所の専門機能強化を目的として、法律や医療の専門家から指導・支援を得る体制を整備するとともに、職員の人権意識の高揚や資質向上を目的とした研修の充実を図ります。

 虐待予防の観点からの取り組み

保健所を核として、市町村や関係機関を構成員とした虐待の未然防止のためのネットワークを整備します。また、乳幼児健康診査や育児相談等の機会を活用し、子育てする親の育児支援を推進するとともに、民間団体やボランティア等とも有効に連携しながら、虐待の予防、早期発見、再発防止等に取り組みます。

(3)高齢者

1.現状と課題
我が国では、出生率の低下や平均寿命の伸びに伴い、世界に類のない速さで高齢化が進んでおります。

本県においても、高齢化率が23.0%(平成16年4月1日現在)と全国平均を4ポイント上回っており、介護保険における要介護認定者の出現率も18.1%(同上)と全国平均を約2ポイント上回る高齢先進県で、介護サービス利用者数や介護給付費も年々増加しています。

県では、2000(平成12)年に「高齢者保健福祉計画及び介護保険事業支援計画」を策定し、「高齢者が住み慣れた地域で生き生きと暮らせる社会づくり」を政策目標に掲げて諸施策を推進してきました。

しかしながら、就労の意志や能力があるにもかかわらず、高齢であることのみを理由に就労の機会が確保されなかったり、退職、子どもの独立、配偶者との死別といった生活環境の変化から生きがいを見失い、その結果社会参加や自己実現の機会が十分に保障されないといった問題があります。

また、認知症は、アルツハイマー病や脳梗塞などの病気により記憶障害を起こしたり、時間や場所などの判断が困難になったりするため、ちょっとしたストレスや環境の変化により、徘徊や攻撃的な言動を引き起こすことがあります。そのことが認知症についての偏見や無理解の一因になっていますが、馴染みの関係をつくり安心感を与える周囲の関わりができれば、その人らしい生活を取り戻せることが実証されており、これらの偏見や誤った理解の解消に努める必要があります。

このように、高齢者や高齢者介護を取り巻く環境は大きく変化していますが、高齢者がこれまで培った知識と経験を生かして社会参加する機会の確保や介護サービスの質の向上、認知症介護に対する取り組みなど、高齢者の権利擁護や高齢者の尊厳を支える地域づくりの推進が求められています。

2.施策の基本方向

高齢者の社会参加の促進と生きがい対策の充実

高齢者が地域社会を構成する重要な一員として、生きがいを持ち、安心して暮らせて、力を発揮できる社会システムの構築を目指します。

 積極的な社会参加と就業機会の確保

健康づくり、スポーツ・文化事業やボランティア等の社会活動について、活動内容の広報や参加しやすい環境づくりを進めるとともに、世代間交流、特に子どもとのふれあいや交流の場作りに努め、各世代が一体となった地域ぐるみの取り組みを促進します。

また、シルバー人材センターの機能強化と設置促進により、就労意識の高い高齢者に対して、長年培った知識、経験、能力に応じた多様な就業機会の確保を図ります。

 啓発活動・福祉教育の推進

学校教育の場で、高齢者に対する尊敬、感謝の心をはぐくみ、介護・福祉体験や高齢者との交流事業を進めるとともに、福祉人材養成研修において人権に関する理解を深めます。

高齢者の主体性を尊重したくらしの実現

判断能力が十分でない高齢者等の権利を保護し、支援します。

 高齢者虐待の防止

高齢者への暴力や介護放棄、経済的搾取などの虐待が問題となるなか、これらの人権侵害から高齢者を保護するため県高齢者総合相談センターで相談に応じるほか、在宅介護支援センターで高齢者虐待の早期発見、適切な対応が行われるよう市町村との連携に努めます。

 高齢消費者の安全対策の推進

高齢者が消費者トラブルに巻き込まれるおそれが増大するなか、人権侵害を及ぼす悪質商法などから高齢者を保護するため、県生活センターでの相談や高齢者出前講座の開催等による啓発活動を実施します。

介護サービス等の質の向上

高齢者の能力を活かしながら自立支援につながる介護サービスの提供に努め、個人として尊重され、その人らしく暮らしていけるよう「高齢者の尊厳を支えるケア」の確立を図るとともに、高齢者が要介護状態にならないよう、介護予防や地域全体による支え合い体制を構築し、高齢者の自立と生活の質の確保を図ります。

 介護サービスの評価と苦情処理体制の充実

利用者が事業者を選択する指標として、サービス事業者の評価と公表に向けた取り組みを検討していきます。また、利用者の苦情や事業者の要望等を把握するためサービス向上推進員制度*の充実を図るほか、利用者からの苦情等に迅速かつ適切に対応できるようサービス事業者、市町村、県国民健康保険団体連合会がそれぞれの役割を果たすよう指導します。

 保健・医療・福祉従事者の資質の向上

要介護者の自立支援に向けて、課題分析やその結果を踏まえたケアプラン、介護支援専門員に対する研修や情報提供を行うほか、介護サービス従事者の確保や研修の実施など、人材養成・研修体制の整備に努めます。特に、オムツの利用を見直す適切な排泄ケアの推進や、口から食べることを目指した口腔ケアの推進など、各施設や居宅サービス事業者が主体的に取り組めるよう、施設相互間の交流や職員の資質向上のための研修について支援します。

また、高齢者が身近な地域で支えあい、できる限り家庭や地域での生活が継続できるよう支援を行うため、在宅介護研修センターを設置し、介護ボランティアや介護家族を対象とした実践的な介護研修を行うほか、高齢者一人ひとりの尊厳を支えるケアの理念の普及に努めます。

 認知症に対する正しい理解の促進及び認知症介護研修の推進

認知症予防や認知症介護に関する教室を開催し、正しい知識や技術の普及に努めるとともに、認知症の高齢者に対する偏見をなくし、認知症疾患の早期発見につながるような普及啓発活動を推進します。

また、施設や居宅サービス事業者職員に対する認知症介護の実務者研修の実施や指導者養成研修への派遣など、認知症介護の質的向上を目指します。

 ユニットケアの導入及び身体拘束廃止の推進

施設は「生活の場」との観点から、これまでの集団処遇的なサービスから、より家庭に近い環境の下で、一人ひとりの生活のリズムを大切にしたケアを小規模で行う「ユニットケア*」の導入に努めるとともに、入所者の状況に応じたより良いケアを目指していく出発点として、身体拘束を行わない処遇の徹底を図ります。

 介護予防事業の効果的な実施

独居や高齢者のみの世帯等の在宅高齢者が健康で生きがいを持ち安心した生活を送れるよう、外出支援サービスや転倒骨折予防事業等の積極的な取組みを推進します。また、家族介護者の負担軽減のための家族介護支援事業を推進します。

生活環境の整備

安全で利便性の高い生活環境を整備するため、高齢者に配慮した住宅の整備を目指すとともに、在宅生活を実現するために不可欠な福祉機器・用具や住宅改修などのテクノエイドサービス*機能の強化を図ります。また、公共建築物、公共交通機関等のバリアフリー化及びその情報提供等を図るなど「人にやさしいまちづくり」を一層推進します。

(4)障害者

1.現状と課題

障害者を取り巻く情勢は、障害の重度化、重複化及び人口構造の高齢化等により大きく変化しており、障害者施策に対するニーズについても複雑かつ多様化しております。

このような中で、県では、1995(平成7)年3月に「愛媛県障害者計画」を策定し、「ノーマライゼーション*」の理念のもとに、「共に歩む地域づくり」を目指して障害者施策を推進するとともに、この計画の具体的実施計画である「愛媛県障害者施策重点実施計画」(県版障害者プラン)を定め、施策の展開に努めているところです。

今後とも、障害の有無にかかわらず、誰もが相互に人格と個性を尊重し支え合う「共生社会」を実現していくためには、障害者に対する誤解と偏見による根強い差別の解消をはじめ、障害者の自立と社会参加の促進やコミュニケーション手段、建物段差等の障壁の改善を図ることなどが課題となっています。

2.施策の基本方向

障害に関する正しい理解の普及啓発

障害者に対する差別は、誤解と偏見が主な要因となっていることから、関係団体と連携しながら、様々な機会を通して、障害に関する正しい理解と認識を深めるための普及啓発活動を推進します。

 障害者週間等を活用した普及啓発

障害者週間等を活用し、学校や一般県民から作文及びポスターを募集し表彰するほか、広く県民を対象とした講演会、研修会の開催やイベントの実施などにより普及啓発を図ります。

 障害者と地域との交流の促進

ボランティア団体と連携した各種地域行事への参加や障害者施設における地域との交流行事等を通じて、障害者と地域住民との交流・ふれあいを促進することにより障害者への理解を深めます。

一人ひとりの生きる力をはぐくむ障害児教育の推進

 障害児教育の充実
 学習障害(LD)*や注意欠陥/多動性障害(ADHD)*等を含むすべての障害のある子どもたちの生きる力をはぐくむため、福祉、医療、労働等関係機関と十分な連携を図りながら、一人ひとりの教育的ニーズを把握し、個々の障害の状況に応じたきめ細やかな教育的支援の充実に努めます。

 交流教育の推進

障害のある者と障害のない者が、同じ人間としてお互いを正しく理解し、共に助け合い、支えあって生きていく社会を構築していくため、保育所や幼稚園、学校や地域社会における交流を促進し、すべての子どもたちの社会性や豊かな人間性を育てる教育を推進します。

障害者の自立と社会参加の促進

障害者が誇りと尊厳、そして自立への志を持って社会生活が送れるよう、また、生活の質的向上が図れるよう自立と社会参加を促進し、誰もが明るく暮らせる社会づくりを進めます。

 地域における生活支援

障害者が、地域社会の一員として共に生活が送れるよう在宅福祉、施設福祉及び相談活動等の充実を図り、総合的な生活支援を目指すとともに、生活訓練の実施、コミュニケ-ション手段の確保、移動支援、スポーツ・芸術活動の振興などを促進し、障害者の地域生活を支援します。

 就業対策の推進

障害者の安定した就業、職業的自立を図るため、その能力や障害の状況に応じた職業能力開発の機会の確保に努めるとともに、授産施設や作業所等福祉的就労の場の整備を推進します。

 権利擁護の推進

障害者が、地域で安心して暮らせるよう権利擁護に係る相談等に対応するための常設相談窓口を設置するとともに、判断能力の不十分な障害者に対するサービス利用支援などを推進します。

障害者サービスの質の向上

障害者ニーズの複雑化、多様化等に伴い、福祉従事者等の資質の向上や人材の養成、確保を図るとともに、障害者の立場に立った良質かつ適切なサービスの提供に努めます。

 保健、医療、福祉従事者への研修、指導の強化

障害者ニーズの複雑化、多様化や各種サービスの拡充等に的確に対応するため、保健、医療、福祉従事者に対し、総合的な知識、技術の習得に係る各種研修等を実施するほか、人材の養成、確保に努めます。

 苦情解決体制の整備

サービスの提供に関する苦情に対し適切に対応することにより、障害者の権利を擁護するとともに、サービスが適正かつ円滑に利用できるよう苦情解決システムの整備を推進します。

 サービス評価制度の導入促進

障害者施設において、サービス提供の取り組みを検証し、さらに新たな改善を継続的に行うことにより、利用者主体の質の高いサービスの実現を目指し、サービス評価制度*の導入を促進します。

生活環境の整備

誰もが住みやすく人にやさしいまちづくりの整備を図るため、障害者の声を反映させながら、住宅、建築物、公共交通機関、歩行空間など生活空間のバリアフリー*化を推進するとともに、防災・防犯対策の推進にも努めます。

(5)同和問題

1.現状と課題

我が国固有の人権問題である同和問題は、憲法が保障する基本的人権に関わる重要な問題です。本県では、1969(昭和44)年に「同和対策事業特別措置法*」が制定されて以来、同和地区の生活環境の改善、教育の充実など積極的な取り組みを行ってきました。

その結果、生活環境の改善をはじめとする物的な基盤整備は概ね完了するなど、様々な面で存在していた較差は大幅に改善され、実態的差別*の解消はほぼ達成しました。

しかし、人々の観念や潜在意識にかかわる心理的差別*については、着実に解消に向けて進んではいるものの、結婚問題を中心に依然として根深い差別意識が存在しています。また、同和問題を口実とする不法、不当な行為や要求を行ういわゆる「えせ同和行為*」の横行が、同和問題に関する誤った意識を植え付けることになっているなど、解決しなければならない課題はまだ残っております。

今後は、この心理的差別の解消を目指し、これまでの同和教育や啓発活動によって積み上げられてきた成果とこれまでの手法への評価を踏まえて、他のさまざまな人権課題との関連を考慮しながら、教育・啓発を中心に同和問題の解決を目指していくことが必要です。

2.施策の基本方向

同和問題への正しい理解と認識を深めるための教育・啓発の推進

国は、1996(平成8)年5月の「地域改善対策協議会意見具申」を受け、同和問題に関する差別意識の解消に向けた教育及び啓発については、人権教育・啓発の事業として再構築して推進するとしています。

県においても、一般対策の中での同和行政の柱を、県民に対する「教育・啓発」と位置付け、県民すべての人が、家庭や職場等あらゆる日常生活の中で、自ら積極的に「差別をなくす」という人権意識・人権感覚をはぐくんでいけるよう、またその感性があらゆる差別の解消につなげていけるよう、教育・啓発の充実に努めます。

 学校教育、社会教育の推進

学校教育では、単に知的理解だけにとどめるのではなく、同和問題の解決を自らの課題としてとらえ、主体的に解決しようとする実践的態度を養います。取り組みにあたっては、人権感覚をはぐくむ学習活動の充実に努め、日常生活におけるあらゆる人権問題についても、同和問題との関連を的確に把握して、子どもや保護者の思いや願いに応じた指導をすることにより、学習効果を高めます。

社会教育では、同和問題の正しい理解を深め、自らの課題として差別意識の解消に主体的に取り組むことができるよう、多様な学習内容や方法等の創意工夫を図り、取り組みの一層の充実に努めます。また、家庭は、学校教育と社会教育との接点としての役割を果たす場でもあり、家族のふれあいの中で人権尊重の態度を醸成するために、保護者に対する学習機会の充実を図ります。

 差別意識解消に向けた啓発活動の推進

これまでの啓発は、ともすれば知的理解に偏りがちで、情操や感性に訴えて日常生活に十分生かされるまでには至っていない状況を踏まえ、これまで以上に感性に訴えかけ、身近な事例を取り上げるなど工夫を凝らしながら、人権問題に直感的に気づき、日常生活に生かされるような啓発に努めます。

特に研修会では、差別意識解消について、自ら考え、気づき、行動に移すことができるよう、また差別を生み出している社会的認識を変えていくような参画型・体験型研修の手法を積極的に取り入れて、人権尊重の立場からねばり強く展開します。

 地域における研修支援及び指導者の養成

地域における啓発は、住民に密着している※隣保館や公民館等社会教育施設の役割が極めて重要であることから、学校教育や社会教育との連携を図りながら、地域の実情に応じた啓発が実施されるよう、地域リーダーの育成や市町村の啓発活動に対する支援、講師の派遣、啓発資材の提供等を積極的に行います。

 企業における啓発の推進

企業において、積極的に啓発が行われるよう、関係行政機関が連携して、事業者や事業者団体に対する啓発指導を図るとともに、公正採用選考人権啓発推進員等の制度を活用して、指導者の養成と資質の向上を図ります。

また、啓発資料の作成、提供等を通して、企業における啓発活動が充実するよう支援に努めます。

 隣保事業及び各種相談活動の充実

隣保館が、地域社会全体の中で、福祉の向上や人権啓発の住民交流の拠点となるコミュニティーセンターとして、更なる人権啓発活動を推進できるよう、隣保館職員の資質向上のための各種研修の実施等隣保館への支援に努めます。

また、隣保館が設置されていない地域においては、広域隣保活動事業などにより、同和地区住民の相談に適切に対処するための体制整備を目的とした市町村の取り組みを支援するとともに、関係機関の連携強化に努めるなど、各種事業の充実を図ります。

 えせ同和行為の排除

えせ同和行為は、「同和問題はこわい、避けた方がよい」という人々の誤った意識に乗じ、同和問題を口実として、企業・官公署などに不当な要求を行うことをいいます。

このような行為は、これまでの教育・啓発の効果を覆し、同和問題に対する誤った意識を植え付けるなど、同和問題解決の大きな阻害要因となっています。

えせ同和行為に対処するには、何よりも誰もが同和問題を正しく理解することが重要です。このため県民への啓発に努めるとともに、こうした行為の排除に当たっては、法務局や警察等関係諸機関との緊密な連携を保ち、排除に向けてより一層の取り組みの強化を図ります。

就労の安定等生活支援の推進

行政施策等に関する情報提供や各種制度の活用を積極的に行うなど、就労の促進や較差解消に向けての取り組みを推進します。

 一般対策の積極的な活用

就労などの分野における残された課題解決については、地域の状況や事業の必要性の的確な把握に努めた上で、必要な一般施策によりその解決を図っていきます。

(6)外国人

1.現状と課題

本県は、わが国の交通運輸の要路である瀬戸内海に面しており、古くから朝鮮半島や中国大陸などアジア地域を中心に、海外との交流が盛んに行われてきました。また、近年の著しい国際化の進展や定期航空路線、定期貨物航路の開設等に伴い、多数の外国人が訪れるとともに、本県に在住する外国人も増加してきています。

本県における外国人登録者数は、2003(平成15)年末で、68ヶ国8,493人であり、10年前と比べると、国籍数は約1.5倍、人数は約2.1倍になっています。国籍別では、中国の増加が著しく、国籍別登録者数が1999(平成11)年末に第1位となり、2003(平成15)年末には全体の52.5%を占めています。次いで、韓国・朝鮮が第2位の19.5%になっています。また、中国及び韓国・朝鮮を含むアジア地域が全体の89.3%を占めており、この割合は次第に高くなっています。

国の「人権擁護推進審議会」の答申では、外国人の人権についての課題として、就労に際しての差別問題、入居・入店拒否問題、在日朝鮮人児童生徒への暴力や嫌がらせ、差別発言などの問題があると指摘しています。また、本県でも予告や説明のない解雇についての相談が寄せられています。

このような問題をなくすためには、外国人と日本人が、お互いに多様な文化や習慣、価値観等の違いを正しく認識した上で、国籍や民族を問わずすべての人が同じ人間として尊重し合い、共生できる地域社会の実現に努めることが必要です。

2.施策の基本方向

国際理解の促進と共生意識の醸成

世界のすべての人々が、基本的に有する人権を守り、尊重することは国際化時代の前提となるものです。このため、国際理解を促進し、世界的な視点から自己や地域を見つめることのできる態度を養うとともに、国際交流や国際協力の必要性・意義等について理解を深め、外国の人々と共に生きるという県民意識の醸成に努めます。

また、諸外国の生活文化を理解・尊重するとともに、異なる文化を持つ人々と協調して生きていく態度が育成されるよう、国際理解教育や外国語によるコミュニケーション能力を養う外国語教育の充実など国際化時代に対応した教育を、学校教育、社会教育双方の場において推進します。

 県民に対する啓発活動の実施

県の国際化の現状や方向等を県民向けにホームページで紹介する「愛媛の国際化」や、国際交流員によるセミナー、県国際交流協会による県民と外国人との交流イベント、異文化理解講座など各種交流事業を通じて、県民の異文化理解や在県外国人との相互理解を促進します。

 学校教育、社会教育の推進

学校教育においては、人権を大切にし、多様な文化を尊重し、共生の心を醸成する教育の推進に努めます。

社会教育においては、愛媛県国際交流協会による小、中学校との国際理解に関する連携事業や地域での国際理解指導者育成事業等を通じ、学校や地域と連携した国際理解の促進に努めます。

また、外国人学校の行う県民との交流事業の支援等を通じて、児童生徒と地域住民との交流の促進を図ります。

外国人が暮らしやすい地域社会づくりの推進

地域に住む外国人が、外国人であることを理由に不合理な差別や不便を被ることがないよう、医療、雇用、教育など様々な面で外国人の人権に配慮した制度・仕組みづくりに取り組むほか、生活に必要な情報の提供や相談体制の強化など、在県外国人が安心して快適に暮らすことができるよう支援します。

また、在県外国人が地域社会に円滑に溶け込むことができるよう県民との交流機会を拡大するとともに、各種行政施策に外国人の意見・ニーズを反映させるよう努めます。

 情報提供や相談体制の充実

在県外国人向け生活ガイドブックや各種窓口紹介パンフレットの作成、ホームページによる情報提供を行うとともに、愛媛県国際交流センターに専任の外国人生活相談員を設置し、各種相談に応じます。

また、日本語学習支援を行うほか、外国人の利用する各種施設や機関等の外国語広報資料や案内板、外国語対応機能等の充実を図ります。

 外国人労働者の相談等支援体制の充実

入国管理局、法務局、労働局、職業安定所、警察、弁護士会、医師会、大学など、愛媛県国際交流センターが運営する「外国人生活支援ネットワーク会議」の構成団体と連携し、就職相談、労働条件相談など各種相談・支援を行います。

外国人労働者の雇用主に対しては、事業主が考慮すべき事項を定めた国の基本指針である「外国人労働者の雇用・労働条件に関する指針」の周知を図ります。

 外国人の保健・福祉施策の推進

えひめ救急医療ネットによる救急病院の紹介等、外国人に対する保健・医療・福祉施策に関する情報提供に努めるとともに、国民健康保険等の医療保険制度への加入を促進します。

(7)エイズ患者・HIV感染者

1.現状と課題

エイズ患者・HIV感染者は、初めてエイズ患者が報告された1981(昭和56)年以降、世界中で増え続けており、国連エイズ合同計画(UNAIDS)によると、2003(平成15)年末現在の全世界の患者・感染者数は、約4,000万人に達し地球規模で感染が拡大する等深刻な状況です。

特に、世界のHIV感染者の70%、エイズによる死者の80%が、サハラ砂漠以南のアフリカに集中し、HIVの広がりは、貧困や失業、売買春、教育等と複雑に絡み合い、拍車をかける結果となっています。

わが国の状況も先進国といわれる国々の中で、日本のみエイズ患者・HIV感染者が増え続けており、新たな感染者の4割が10代~20代の若者です。今の日本の状況をとらえて、UNAIDSは、「日本の若者の性行動が大きく変化し、HIV感染の危険が増大している。」と警告しています。

HIVの感染力は弱く、しかも感染経路が限られているので、性行為以外の日常生活ではHIVに感染することはありませんが、感染者が増加している背景には、エイズ患者が初めて報告された当初の「エイズパニック」と呼ばれた頃に比べ、エイズに対する関心が薄らいでいる反面、性に関する情報の氾濫等によって、初めてセックスを経験する年齢が低くなってきていることや複数のパ-トナ-をもつ等、性行動が急速に活発化・多様化してきていることがあげられます。

また、HIV以外の性感染症にかかる若者の増加やコンド-ムを使用しない無防備なセックスが増える等、これまでの普及啓発が若者の予防行動に結びついていないことも、その理由にあげられます。

患者・感染者に対する医療体制は、体内のウイルスの増殖を抑える薬が次々と発見され、病気の進行を遅らせたり、発病しても回復することが可能になり、入院せずに在宅治療もできるまで進歩しています。

しかし、この病気が発見された当初は治療法もなく、過剰なまでにこの病気の恐ろしさが強調されたため、この病気と闘っている人に対する漠然とした恐怖や偏見、差別が助長されてきたきらいがあります。

このように、エイズに対する根強い偏見や差別が残っている社会では、HIV感染者の多くが周囲の人々に感染を知られたくないばかりに、保険医療制度を使わず、障害者認定申請もできずに高額な医療費を自己負担しているケ-スもあり、適切な時期に安心して医療を受けられない事態が生じています。

2.施策の基本方向

エイズに対する正しい知識の一層の浸透を図ることにより、社会全体の意識を向上させ、感染拡大を防止するとともに、患者・感染者に対する根強い偏見や差別を払拭し、安心して尊厳をもって暮らせる社会づくりを推進します。

感染拡大の防止、偏見・差別意識解消のための教育・啓発の推進

HIV感染の拡大が懸念されている状況を踏まえ、県民への感染防止に努めるとともに、エイズ患者・HIV感染者に対する誤解・偏見・差別の解消を図るため、パンフレット等の啓発資料・ホームページやエイズフォ-ラムイベントを通じて正しい知識の普及啓発を行うほか、学校・地域・家庭が一体となりエイズを含めた性教育・人権教育を推進します。

相談・支援体制の整備

エイズボランティア団体に業務を委託し、患者・感染者を効果的に支援するとともに、エイズ診療に取組む診療ネットワ-ク体制を構築し、安心して医療を受けられる環境づくりを行います。また、エイズカウンセラ-による相談等により社会生活を支援します。

(8)ハンセン病患者・元患者

1.現状と課題

ハンセン病は、らい菌によって体の皮膚と抹消神経が侵される感染症ですが、らい菌の感染力は極めて弱く、感染しても発病することは稀です。さらに、仮に発病しても効果的な治療法があり、完全に治る病気となっています。また、遺伝病ではありません。

このように、ハンセン病はもともとそんなに恐ろしい病気ではありませんでしたが、1996(平成8)年に「らい予防法*」が廃止されるまで、患者を療養所に一律に収容する隔離政策が取られてきたことにより、患者の人権を著しく侵害するとともに、この隔離政策、遺伝病であるとの誤解などから、人々が必要以上にこの病気を恐れ、偏見や差別を持ち、患者や家族に多大な精神的苦痛を与えてきました。

現在もなお、全国のハンセン病療養所において、患者や元患者の方々が数多く生活されていますが、ほとんどの場合、既に治癒しています。「らい予防法」の廃止により、自らの意思で療養所を退所することもできますが、現在でも残る社会の偏見や差別、高齢であること、長年の隔離施策のために療養所以外に知り合いがいないこと、目や手の障害などの後遺症により介護が必要な場合もあることなどの理由から、療養所を出てふるさとに帰ることが難しい現状があります。

2001(平成13)年5月11日、熊本地方裁判所は、「『らい予防法』違憲国家賠償請求事件」で原告勝訴の判決を下しました。国はハンセン病問題の早期解決のために控訴を断念し,ハンセン病の患者・元患者の名誉回復及び福祉増進などを図ることを目的とした「ハンセン病療養所入所者等に対する補償金の支給に関する法律」を制定しました。

これにより過去の人権侵害に対する補償という面でのハンセン病問題は一応の解決を見ましたが、ハンセン病を巡る問題の全面的な解決には、社会に残るハンセン病に対する偏見や差別を解消するとともに、療養所入所者の社会復帰を支援することにより、患者・元患者の方々が地域社会において、自由に幸せな生活を送ることができる環境を早急に整備することが重要です。

また、ハンセン病に対して犯してしまった過ちと同様の過ちを他の病気や障害において繰り返すことがないように、ハンセン病を巡る歴史を次世代に引き継ぐことが必要です。

2.施策の基本方向

ハンセン病に対する理解の不足に基づく偏見や差別意識を解消し、患者・元患者の方々が地域社会の構成員として安心して暮らしていくことのできる社会の実現に取り組みます。

また、ハンセン病に対して犯してしまった過ちと同様の過ちを繰り返さないためにも、ハンセン病についての正しい知識とハンセン病元患者等の人権尊重に対する理解を深めるための教育・啓発を推進します。さらに、日常生活に関する相談や住宅費、医療費及び介護費の助成等により、ハンセン病療養所入所者の社会復帰への各種支援を推進します。

社会復帰への支援

療養所からの退所者に対して,民間賃貸住宅に入居される場合の家賃の一部を助成するとともに、元患者の方々が安心して適切な医療・介護が受けられるよう、医療費及び介護費を助成します。

また、元患者の方々自身が持つ差別されることへの恐怖感や後遺症などについて十分配慮したうえで、個人個人の実情に応じた社会復帰への具体的な支援を行います。

名誉回復と偏見・差別意識解消のための教育・啓発の推進

ハンセン病に対する偏見と差別意識を解消するとともに元患者の名誉回復のため、パンフレット、ホームページ、療養所見学会などを通して正しい知識を習得するための教育・啓発に努めます。

ふるさととの交流

療養所入所者の方々の里帰りの機会や療養所見学などを利用し、入所者の方とふるさととの交流を深めます。

元患者の意向を踏まえた施策の推進

名誉回復、社会復帰支援、啓発活動などの施策の推進にあたっては,元患者の方々の意向が尊重されるよう、配慮していきます。

(9)その他の人権課題

1.犯罪被害者
犯罪被害者やその家族は、直接的な被害はもとより、それに付随する精神的、経済的被害を受けているほか、一部のマスメディアの過度の取材や報道による人権侵害などもあって、様々なストレスに苦しんでいる状況があります。

このようななかで、犯罪被害者等の支援、救済を図る法的整備も進められてきたところであり、今後とも司法、行政、民間団体との連携、協力の下、正しい認識や理解を深めるため、啓発活動を進めていきます。

2.刑を終えて出所した人
刑を終えて出所した人やその家族に対して、地域社会から拒否的な感情があり、前歴の噂が流布されることにより、経済的な生活の行き詰まりや本人の更正意欲がそがれるなど、これらの人々の社会復帰を困難なものにしていることがあります。

今後とも、保護司の人たちの活動支援などを通じて、啓発活動を進め、刑を終えて出所した人たちの立ち直りの支援に努めます。

3.アイヌの人々
アイヌの人々は、狩猟や漁労を中心とした暮らしを営む中で、独自の言語であるアイヌ語や「ユーカラ」などの口承文芸や古式舞踊など、豊かな文化をはぐくんできました。

明治時代になると、政府は、アイヌの人たちの日本国民への同化を目的に、1899(明治32)年に「北海道旧土人保護法*」を制定し、農業の奨励や医療や教育などの保護対策を進めようとしましたが、付与された土地が良好でない場合が多いことから、経済的にも社会的にも恵まれない立場に置かれ、アイヌの人々の伝統的生活習慣や文化が失われてきました。

この法律は、1997(平成9)年、「アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律」の施行に伴い廃止されましたが、現在も、アイヌの人たちに対する正しい理解や認識が不十分なため、結婚や就職における差別や偏見の存在も報告されており、アイヌの人々の民族としての誇りが尊重される社会の実現を図ることが大切です。

4.性的マイノリティ
同性愛など、性的マイノリティ*は、古くから日本の社会に存在しますが、明治期以降、性的なマイノリティがタブー視されてきたこともあり、自分の性的な指向を明らかにし、自分らしく生活できるための周囲の理解を得るには、今なお、多くの困難があり、不安や苦痛を抱えていると考えられます。

また、思春期において、多くの場合、性的指向や性同一性障害に気づき、悩んでいくものと考えられ、性的マイノリティに対する正しい理解を深めるためには、学校や家庭など、様々な場において幅広い啓発活動を進めることが重要となっております。

5.インターネットによる人権侵害
インターネットには、ホームページのような不特定多数の利用者に向けた情報発信、電子掲示板を利用したネットニュースのような不特定多数の利用者間の受発信があり、発信者に匿名性があることから、近年、プライバシーの侵害や差別を助長する表現等の掲載が増加しています。

しかし、違法・有害なインターネット上の掲載を規制する制度が不十分なこともあって、なかなか有効な対策が取れない状況であり、国に対して、法的措置を含め、適切な対策が講じられるよう要請していきます。

また、広く県民に向けて、利用者一人ひとりが人権を侵害するような情報をインターネット上に掲載しないよう啓発を行うほか、学校教育の現場においても、情報化の進展が社会にもたらす影響や情報モラルについて理解させるための教育を進めます。

以上のような課題のほかにも、ホームレスに対するいやがらせや集団暴行、その他、様々な人権問題が発生しており、今後とも、それぞれの課題に対応した施策と人権教育・啓発が必要となっております。


5. 推進体制

(1)県の推進体制

県が行うすべての業務について、人権に関わりのない仕事はなく、職員一人ひとりが人権尊重の視点に立った行政を推進していくことが求められております。このため、県のあらゆる行政分野で、人権尊重の理念を基礎とした取り組みを積極的に推進します。

全庁的な推進組織の構築

「愛媛県人権施策推進基本方針」に基づき、人権施策を推進するため、愛媛県人権施策推進本部を設置し、関係部局相互の連携・協力のもと、総合的かつ効果的な施策の推進に努めるとともに、愛媛県人権施策推進協議会の意見や提言を踏まえ、基本方針の適切な進行管理に努めます。

愛媛県人権啓発センターの機能強化

人権啓発活動の拠点として、2003(平成15)年4月に県庁人権対策課内に愛媛県人権啓発センターを設置し、人権の総合的な窓口として相談業務や調査研究を行うほか、指導者等の人材の養成、研修手法の検討や講師の派遣など、人権教育・啓発を推進しています。

今後とも、関係機関、市町村との連携を図りながら、県民の人権意識の高揚や人権擁護を進める拠点として、人権にかかる調査研究や啓発資材の開発、作成など、その機能や組織の充実に努め、人権施策を総合的かつ効果的に推進していきます。

(2)国及び市町村との連携

人権施策の推進にあたっては、国、県、市町村がそれぞれの立場から、様々な取り組みを行っており、人権尊重の社会づくりを進めていくためには、相互の緊密な連携のもと、協力体制を強化していくことが必要になっております。

このため、法務局や人権擁護委員などの国の機関や市町村等で構成する人権啓発活動ネットワーク協議会の連携を強化し、効果的な人権啓発活動を進めていきます。

特に、市町村は、県民に最も身近な地方公共団体であり、地域の実情に即したきめの細かい人権啓発活動を行うことにより、より大きな効果が期待されることから、市町村に対して、人権教育・啓発に関する情報提供や指導者の育成など、積極的な支援に努めます。

(3)NPO、各種団体等との協働

人権意識の高揚や人権擁護の推進については、行政だけでなく、各種団体やNPO、企業などの自主的、主体的な活動は不可欠であり、県や市町村がこれらの活動との連携を図り、協働して人権が尊重される社会の実現に努めます。

特に、近年、価値観の多様化や地域社会を取り巻く環境の変化に伴い、ボランティア活動やNPOに参画する人が増加し、地域づくりの担い手として、大きな役割を果たすようになっており、女性、子ども、障害者などの人権課題について、様々な活動をしているNPOやボランティア団体があります。

行政としても、これらの自主的な取り組みやノウハウを活かしていくことは、県民が主体的、自主的な活動により人権教育・啓発を推進する観点からも重要であり、県や市町村が行う人権啓発活動について、NPOの企画への参画や事業の共催などを含め、県民参加型の効果的な啓発活動が行えるよう、NPOとの協働を推進します。

(4)県民に期待される役割

人権が尊重される社会づくりの実現のためには、県民自らがその担い手であることを認識し、人権意識の高揚に努めることが重要です。

すべての人は平等であり、人権はすべての人に保障されていますが、人間は一人ひとり違っており、お互いを認め合い、思いやることができるよう、人権意識を高め、日常生活の行動に根付かせていかなければなりません。

このように、人権問題はまさに、一人ひとりの心の問題であり、生涯を通じて、常に学習していく姿勢が求められています。県民一人ひとりの主体的な行動によって、笑顔に満ちた地域社会の実現を目指しましょう。


用語解説

ア行

インフォームド・コンセント
説明と同意(informed-consent)のことで、医師は患者に対して、受ける治療内容の方法や意味、効果、危険性、その後の予想や治療にかかる費用について、十分にかつ、分かりやすく説明する義務があると言われております。また、その時、患者は自分の身体の中でどのようなことが起こっているのか知る権利があり、医師から十分な説明を受けて、疑問点を解消し納得したうえで治療を受けることに同意することを併せて、インフォームド・コンセントといいます。

HIV
ヒト免疫不全ウイルス(Human Immunodeficiency Virus)の略で、1983(昭和58)年に発見されました。HIVは感染力の弱いウイルスであり、HIV感染者の唾液や汗、尿を介しては感染しませんが、血液、精液、膣分泌液、母乳が体内に侵入することにより感染します。HIV感染による免疫力の低下は、緩慢に進行し、いわゆるエイズ(後天性免疫不全症候群、AIDS:Acquired Immunodeficiency Syndrome)の発症までには10年以上かかると言われます。近年、医学の進歩によりエイズの発症を遅らせたりする治療法が確立されています。

えせ同和行為
「同和問題はこわい、避けたほうがよい」という誤った意識がなお根強く残っていることに乗じ、企業や行政機関等を相手に、同和問題を口実にして利権を得るための不当な要求、不法な行為をいい、高額書籍の購入要求の事例が特に多く見られます。

NPO
非営利組織(Non‐ProfitOrganization)の略語で、株式会社や有限会社などと違い、営利を目的としない団体です。現在、日本では、市民が主体となって社会貢献活動を行っている団体を指してNPOと呼ぶことが多いようです。1998(平成10)年に、「特定非営利活動促進法」(通称「NPO法」が施行され、この法律に基づいて法人格を取得した団体は、特定非営利活動法人(NPO法人)と呼ばれています。

カ行

学習障害(LD)
学習障害とは、Learning Disabilities の訳語で、一般にその頭文字をとってLDと表記されます。この障害は、基本的には全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計算する又は推論する能力のうち、特定のものの習得と使用に著しい困難を示す様々な状態を指すものです。その原因としては、中枢神経系に何らかの機能障害があると推定されますが、視覚障害、聴覚障害、知的障害、情緒障害などの障害や、環境的な要因が直接の原因となるものではないとされています。

公正採用選考人権啓発推進員
事業所において、差別のない適正な採用選考システムを確立するために必要な知識、理解及び認識を深めることを目的に、一定規模以上(従業員の数が100人以上)の事業所に設置されており、その中心的な役割を担っています。

サ行

サービス向上推進員制度
身近な地域で公正かつ中立な立場で、介護サービスの利用者からの相談や要望を受け、介護サービス事業者に伝達する介護保険サービス向上推進員を設置し、介護サービスの質の向上に役立てる仕組みをいいます。

サービス評価制度(第三者評価)
第三者評価は、福祉サービス事業者でも利用者でもない(当該福祉サービスの当事者関係にない)第三者性を有する機関(=評価機関)が、事業者、利用者、必要があればその他に対するヒアリング、アンケート、訪問などによる調査に基づき、事業者の提供するサービスの質を客観的な立場から総合的に評価することをいいます。

第三者評価の目的は、①サービスの質の向上、②サービスの選択支援の2つであり、第三者評価により、事業者のサービス改善等の取組みを促進しサービスの質の向上を図るとともに、評価結果の公表により、各事業者のサービス情報を提供し、利用者が自分に合った質の高いサービスを選択し、利用できるよう支援を行うものです。

実態的差別
同和対策審議会答申1965(昭和40)年のなかで、「心理的差別」と区別して用いられた用語であり、「実態的差別とは、同和地区住民の生活実態に具現されている差別のことである。たとえば、就職・教育の機会均等が実質的に保障されず、政治に参与する権利が選挙などの機会に阻害され、一般行政諸施策がその対象から疎外されるなどの差別であり、劣悪な生活環境、特殊で低位の職業構成、平均値の数倍にのぼる高率の生活保護率、きわだって低い教育文化水準など同和地区の特徴として指摘される諸現象は、すべて差別の具現化である」と述べられています。

児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)
1989(平成元)年11月の国連総会で採択され、翌1990(平成2)年に発効した条約で、日本は1994(平成6)年に批准しています。

前文と本文54条からなり、すべての子どもたちを人権の主人公として尊重し、独立した人格を持つ権利主体として人権を保障するとともに、子どもは心身が発達途上にあることから、特別に保護し、発達を支援する必要があることを基本に、「生きる権利」「育つ権利」「守られる権利」「参加する権利」の4つの権利が定められています。

人権という普遍的文化
「人権教育のための国連10年」の活動は、地球上のどこにおいても人権が尊重されることを社会規範にしようとして進められてきたものであり、その基本理念である「人権という普遍的な文化」とは、人権についてお互いが理解し、尊重しあうことが暮らしの中の一つの文化(人権文化)として、当たり前になっている社会の在り方をいいます。

人権擁護法案
「人権擁護施策推進法」に基づき設置された人権擁護推進審議会から、被害者の視点から簡易・迅速・柔軟な救済を行うのに適した、行政による人権救済制度の整備が必要との答申を受け、法務省の外局として、人権委員会を設置し、相談や助言、調停、仲裁、勧告や訴訟援助などの救済手続を盛り込んだ人権擁護法案が2002(平成14)年3月8日に国会に法案が提出されました。この法案に対しては、メディア規制につながるという反発や人権委員会の独立性をめぐって、様々な議論があり、2003(平成15)年10月に廃案となっています。

心理的差別
同和対策審議会答申1965(昭和40)年のなかで、「実態的差別」と区別して用いられた用語であり、「心理的差別とは、人々の観念や意識のうちに潜在する差別であるが、それは言語や文字や行為を媒介として顕在化する。

たとえば、言葉や文字で封建的身分の賤称をあらわして侮蔑する差別、非合理的な偏見や嫌悪の感情によって交際を拒み、婚約を破棄するなどの行動にあらわれる差別である」と述べられています。

性的マイノリティ
同性愛者、半陰陽者(両性具有)、性同一性障害者など、異性愛が規範であるという考え方から外れていて、性をめぐって社会的に差別されるおそれのある人々の総称。全体的にみて少数者であることから、性的少数派といわれます。

成年後見制度
認知症高齢者、知的障害者など、判断能力が不十分な方々は、財産管理や契約などの法律行為を自分で行うことが困難であったり、悪徳商法の被害にあうおそれがあることから、このような人々の保護と支援を目的に、2000(平成12)年4月からスタートした制度。本人やその配偶者などが家庭裁判所に申し立てることにより、法律行為全般に関わる後見人、補佐人、補助人が選任される制度です。

セクシュアル・ハラスメント
一般的には、「性的嫌がらせ」を意味するものとされ、労働の場では、性的な言動に対する労働者の対応により、降格、減給など労働条件に不利益を受ける「対価型セクシュアル・ハラスメント」、性的な言動によって就業環境を害される(不必要に身体を触る、性的な噂の流布、人目に触れる場所へのわいせつなポスター等の掲示など)「環境型セクシュアル・ハラスメント」の2種類に分類されます。

セクシュアル・ハラスメントの中には単なる嫌がらせに止まらず、心身に支障を及ぼしたり、職場環境を悪化させて働く意欲を低下させたり、最悪の場合には労働者側が退職に追い込まれるといった深刻なケースも見受けられます。

タ行

地域改善対策協議会
同和行政について、政府に対し意見を具申するため設置された、総務庁の付属機関です。1982(昭和57)年に設置され、1996(平成8)年5月には、「同和問題の早期解決に向けた今後の方策の基本的な在り方について」の意見具申として、「今後、差別意識の解消に当たっては、これまでの同和教育や啓発の中で積み上げられてきた成果とその手法の評価を踏まえ、すべての人の基本的人権を尊重していくための人権教育、人権啓発として発展的に再構築すべきと考えられ、その中で、同和問題を人権問題の重要な柱として捉え、積極的に推進するべきである。」と述べられています。

注意欠陥/多動性障害(ADHD)
注意欠陥/多動性障害とは、Attention_ Deficit/Hyperactivity Disorderの訳語で、一般にその頭文字をとってADHDと表記されます。この障害は、年齢あるいは発達に不釣り合いな注意力又は衝動性、多動性を特徴とし、社会的な活動や学業の機能に支障をきたすもので、7歳以前に現れ、その状態が継続し、中枢神経系に何らかの要因による機能不全があると推定されています。

テクノエイドサービス
科学技術を意味するテクノロジーと、補助具を意味するエイドを組み合わせた和製英語で、福祉用具や住宅改修を活用したサービスを指しています。

同和対策事業特別措置法
同和地区の生活環境の改善、社会福祉の増進、産業の振興、職業の安定、教育の充実、人権擁護活動の強化など、必要な措置を総合的に実施することを目的として、1969(昭和44)年に制定された10年間の限時立法です。国は、33年間に本法も含めて3度にわたり特別措置法を制定し、生活環境の改善等、同和問題の解決のために積極的に取り組みました。

同和対策審議会答申
同和対策審議会は、「同和地区に関する社会的及び経済的諸問題を解決するための基本方策」について諮問を受け、約4年をかけて審議を行い、答申を行っています。同答申は、戦後の同和行政の大きな指針となっており、その中で、「同和問題の早急な解決は国の責務であり、同時に国民的課題である。」と述べています。

ドメスティック・バイオレンス(DV)
一般的には夫や恋人・パートナーなど「親密な」関係にある男性から女性に対して振るわれる暴力といった意味で使われています。殴る、蹴るといった「身体的暴力」だけでなく、話しかけても無視するといった「精神的暴力」、嫌がっているのに性行為を強要する「性的暴力」、生活費を渡さないといった「経済的暴力」など様々な暴力があります。またこれらが重なり合って起こることが少なくありません。

ナ・ハ行

認知症
これまで「痴呆」という用語で呼ばれてきた状態は、アルツハイマー病や脳梗塞などの病気により脳細胞が障害されて、大人になる過程で身に付けてきた認知機能(記憶、日時や場所や人の見当づけ、ものごとの判断等)が次第に低下し、自分らしい暮らしを自立して行うことが困難になっていくものです。

今では、早期に発見され、適切な医療やケアが提供されることで、本人や家族が体験する苦しみや生活上の困難、社会的な支援コストが大幅に軽減できることがわかってきています。しかし、従来用いられてきた「痴呆」という用語は、当事者や社会に侮辱感やあきらめを感じさせ、適切な理解と支援の普及を阻み、当事者と社会に多大な損失を生んできています。

今後、認知症の急増が確実と予想され、認知症の人への効果的かつ速やかな社会的支援が必要とされる現在、認知症の人への正しい理解と支援を広げるために、行政用語としては、平成16年12月24日以降、認知症を使用することになったものです。

ノーマライゼーション
障害者を特別視するのではなく、一般社会の中で普通の生活が送れるような条件を整えるべきで、共に生きる社会がノーマルな社会であるとの考え方です。

バリアフリー
障害のある人が社会生活をしていく上で障壁(バリア)となるものを除去するという意味で、もともと住宅建築用語で、段差等の物理的障壁の除去を指しますが、より広く障害者の社会参加を困難にしている社会的、制度的、心理的なすべての障壁の除去という意味でも用いられています。

ハンセン病
ハンセン病は、感染力の極めて弱い「らい菌」によって引き起こされる慢性の細菌感染症で、「らい病」と呼ばれ遺伝病のように考えられていた時代もありました。1873(明治6)年にらい菌を発見したノルウェ-のアルマウェル・ハンセン医師の名前をとり、現在は「ハンセン病」と呼ばれています。

かつては、感染によって手足等の抹消神経の麻痺や皮膚にさまざまな症状が起こり、病気が進むと顔や手足に後遺症が残ることから、不知の病と恐れられましたが、1943(昭和18)年に「プロミン」という治療薬がこの病気によく効くことが報告されて以来、完全に治る病気となりました。現在は、いくつか薬を組み合わせる多剤併用療法(MDT)療法がとられています。

北海道旧土人保護法
1897(明治32)年に、アイヌの人たちを日本国民に同化させることを目的に制定された法律で、土地の付与や農業の奨励、教育や医療の保護対策を行うものでしたが、付与される土地には良好な土地は少なく、その他の対策の成果を挙げることができませんでした。この法律は、戦後も法律として効力を持ち続け、1997(平成9)年、「アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律」の施行に伴い、廃止されました。

ヤ・ラ行

ユニットケア
ユニットケアとは、特別養護老人ホームなどの高齢者施設の居室を、いくつかのグループに分けて、それぞれをひとつの生活単位とし、少人数の家庭的な雰囲気の中でケアを行うものです。

厚生労働省では、2001(平成13)年9月に、入居者の尊厳を重視したケアを実現するため、個室・ユニットケアを特徴とする「小規模生活対応型の介護施設」としての特別養護老人ホーム(「新型特養」という。)の積極的な整備を進めることを打ち出し、今後整備する特別養護老人ホームについては、全室個室・ユニットケアを原則としていくこととしています。

らい予防法
国は、1907(明治40)年に「癩予防ニ関する件」という法律を制定して「浮浪らい」の患者を療養所に入れ一般者社会から隔離しました。1931(昭和6)年には新たに「癩予防法」が制定され、全国各地に国立療養所を設けて、全てハンセン病患者を強制的に隔離しようとする政策がとられ、1953(昭和28)年「らい予防法」の施行後も、この政策はおよそ90年間存続し続けました。

有効な治療薬が開発されてからは、強制隔離するほどの特別な病気ではなくなっていましたが、見直しが大きく遅れたことが結果として社会の偏見・差別を助長し、患者やその家族の方々に、はかり知れない苦難と苦痛を与えました。

1996(平成8)年「らい予防法」は廃止され、同時に療養所に入所されている方々の医療、福祉及び生活の維持を目的とした「らい予防法の廃止に関する法律」が施行されています。

隣保館
同和地区およびその周辺地域の住民を含めた地域社会全体の中で、福祉の向上や人権啓発のための住民交流の拠点となる地域に密着した福祉センター(コミュニティセンター)として、生活上の各種相談事業をはじめ社会福祉等に関する総合的な事業及び国民的課題としての人権・同和問題に対する理解を深めるための活動を行い、もって地域住民の生活の社会的、経済的、文化的改善向上を図るとともに、人権・同和問題の速やかな解決に資することを目的としています。


資料