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人権に関するデータベース

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地方公共団体関係資料

佐賀県人権教育・啓発基本方針
情報の種類 地方公共団体関係資料
タイトル 佐賀県人権教育・啓発基本方針
時期 1999/03/01
主体名 佐賀県
関連URL http://www.city.kainan.lg.jp/
【 内容 】

人権文化あふれる佐賀県をめざして
佐賀県人権教育・啓発基本方針
(改訂版)

第1章 基本的な考え方
1 「佐賀県人権教育・啓発基本方針」の見直しの趣旨等
県では、平成10年(1998年)3月、県民の人権意識を高め、すべての県
民が自らの課題として人権問題に取り組み、差別や偏見のない、すべての人々の
人権が尊重される社会を実現するため、「佐賀県人権の尊重に関する条例」を制定
しました。
この条例に基づき、平成11年(1999年)3月には、21世紀を「人権の
世紀」とし、国内外の人権尊重に関する動向やこれまでの本県における人権教育・
啓発の状況を踏まえ、共生社会の実現に向け県民と共に積極的に取り組むための
指針となる「佐賀県人権教育・啓発基本方針」を策定することにより、本県が進
める人権教育・啓発について、その現状と課題及び具体的施策の方向を明らかに
して、その推進を図ってきたところです。
また、この基本方針は、人権教育・啓発について、長期的な方向性を示す基本
計画としての性格を有するものであると同時に「人権教育のための国連10年」
の取組を本県において推進していくための佐賀県の行動計画として位置づけてき
たところであり、その終期である平成16年(2004年)を当面の目標年とし
て推進してきました。
しかしながら、この基本方針に基づき、同和問題をはじめとして、女性、子ど
も、高齢者、障害者、外国人などに関わるさまざまな人権問題の解決を目指して、
県民への人権教育・啓発を推進してきたところではありますが、今日なお、同和
問題や高齢者、障害者の問題をはじめさまざまな人権問題が発生しており、近年
は、特にドメスティック・バイオレンス(DV)や児童虐待、また新たな課題と
してインターネットの急速な普及を背景にして、ホームページや電子掲示板の匿
名性を悪用した人権侵害などが顕在化しています。
さらには、犯罪被害者とその家族、ホームレス、性同一性障害者の人権、また
個人情報の保護といった新たな分野の課題が生じているところです。
このため、今後とも人権教育・啓発のより一層の積極的な取組が求められてい
る状況にあります。
今回は、これまでの成果や課題を踏まえ、現在の基本方針を継承・発展させ、
さらには新たな課題への対応を含め、人権教育・啓発を総合的かつ効果的に推進
していくための見直しを行いました。具体的には、前回策定後の新たな動きであ
る法令や計画等(※注57ページ参照)を踏まえた内容となっております。
なお、今回基本方針の見直しに際しては、「人権教育及び人権啓発の推進に関す
る法律」に基づき、平成14年(2004年)3月に策定された国の「人権教育・
啓発に関する基本計画」との整合性を持たせるとともに、新たに「犯罪被害者等」
や「難病患者等」の関係団体の委員を加え、数次に亘る人権教育・啓発推進懇話
会の開催、さらに関係諸団体及びパブリックコメント等により多くの県民の方々
の提言、意見を採り入れています。
今後、各計画等の改定の際には、人権尊重の視点を一層盛り込むことにより、
人権教育・啓発を総合的に推進することとします。

2 人権をめぐる国内外の動向
(1) 国際的な動向
多くの人命が失われた二度の世界大戦により、人権の保障が世界平和の基礎
であることが認識されるようになり、人権を国際的に保障することが必要と考
えられるようになりました。
第二次世界大戦が終結に向かう中で、昭和20年(1945年)に「国際の
平和及び安全を維持・・・人権及び基本的自由を尊重するように助長奨励する
(国連憲章第1章)」ことを目的として、国連が設立されました。
この国連の昭和23年(1948年)の第3回総会おいて、すべての人民と
すべての国が達成すべき人権の基準を定めた「世界人権宣言」が採択されまし
た。
世界人権宣言が採択された後、国連では、この宣言に実効性を付与させるた
めの「国際人権規約」が昭和41年(1966年)に採択されたのをはじめ、「難
民の地位に関する条約」「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条
約」「児童の権利に関する条約」など23の人権関係諸条約が採択されました。
また、女性や障害者等の重要なテーマごとに「国際婦人年」「国際児童年」「国
際障害者年」「国際識字年」などの国際年を定め、それぞれの課題を解決するた
めの取組が展開されました。
このような国際社会での取組にもかかわらず、東西の冷戦終了後、世界各地
での地域紛争やこれに伴う顕著な人権侵害、難民発生など深刻な問題が表面化
しましたが、一方で東西対立の崩壊は、国際社会全体での論議を可能にする環
境をつくり出し、人権問題の解決に向けて取り組む気運が高まりました。
平成5年(1993年)には、世界人権宣言45周年を機に、これまでの人
権活動の成果を検証し、現在直面している問題、今後進むべき方向を協議する
ことを目的としてウィ-ンにおいて世界人権会議が開催されました。
この会議では、すべての人権が普遍的であり、人権が国際的関心事であるこ
とが確認されるとともに、人権教育の必要性が強調されました。
その後、国連としての人権に関する取り組みが強化され、平成6年(1994
年)には人権問題を総合的に調整する国連人権高等弁務官が創設されました。
そして、平成6年(1994年)の第49回国連総会では、平成7年(1995
年)から平成16年(2004年)までの10年間を「人権教育のための国連10
年」とする決議が採択されるとともに人権についての意識を高め、理解を深め
るための具体的戦略・プログラムを述べた「人権教育のための国連10年行動
計画」が採択され、人権という普遍的文化を世界中に構築するための取組が開
始されました。この「人権教育のための国連10年」の取組により、人権教育
の推進の方向がつくられ、各国において国内行動計画の策定や人権センターの
設立など、様々な取組が推進されてきました。
さらには、平成16年(2004年)の第59回国連総会において、人権教
育がすべての国で取り組まれるよう、「人権教育のための国連10年」の取組を
継承する「人権教育世界プログラム」を平成17年(2005年)から開始す
る決議が採択され、21世紀を人権の世紀とするための取組が推進されていま
す。

(2) 国内の動向
戦後、昭和21年(1946年)に、わが国では「国民主権」「平和主義」そ
して「基本的人権の尊重」を理念とする日本国憲法が公布されました。
昭和31年(1956年)には国連に加入し、国際社会の仲間入りを果たし、
国連が提唱する「国際婦人年」や「国際障害者年」などの各種国際年について
積極的な取組を行ってきました。
また、人権をめぐる国際的潮流のなかで、わが国は、国際社会の一員として
「国際人権規約」をはじめ「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する
条約」、「児童の権利に関する条約」、「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する
国際条約」など9つの人権に関する諸条約を批准するとともに「障害者基本法」
「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等、女子労働者の福祉
の増進に関する法律」(以下「男女雇用機会均等法」という。)などの国内法が
整備され、広く国民的な課題として基本的人権の擁護・尊重と人権思想・人権
意識の普及に向けての取組が進められてきました。
一方、我が国固有の人権問題である同和問題についても、同和問題の早期解
決を求める国民的な意識と運動の盛り上がりを背景に「同和対策審議会」が設
置され、昭和40年(1965年)に「同和対策審議会答申」が出され、昭和
44年(1969年)に「同和対策事業特別措置法」が施行されて以来、3つ
の特別法に基づき、平成14年(2002年)3月まで33年にわたる特別対
策が実施されてきました。
その間、平成8年(1996年)5月には、国の地域改善対策協議会の意見
具申において、「今後、差別意識の解消を図るに当たっては、これまでの同和教
育や啓発活動の中で積み上げられてきた成果とこれまでの手法への評価を踏ま
え、すべての人の基本的人権を尊重していくための人権教育・人権啓発として
発展的に再構築すべきと考えられる。」と提言されました。
また、その前年の平成7年(1995年)12月には、「人権教育のための国
連10年」について、政府は内閣総理大臣を本部長とする「人権教育のための
国連10年推進本部」を設置し、平成9年(1997年)7月、国内行動計画
を策定しました。
そして、平成9年(1997年)3月に人権擁護施策の推進を国の責務と定
めた「人権擁護施策推進法」が施行されたところであり、同法に基づく「人権
擁護推進審議会」において、平成11年(1999年)7月には「人権教育・
啓発の総合的推進に関する基本的事項」、また平成13年(2001年)5月に
は「人権侵害の被害者救済施策の充実に関する基本的事項」の答申が出されま
した。
このうち、人権教育及び人権啓発に関する施策については、平成12年
(2000年)12月に「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」(平成12
年法律第147号)(以下、「人権教育・啓発推進法」という。)」が制定され、
同法においては、人権教育・啓発の推進は国と地方公共団体の責務であると規
定されました。これに基づき、国では、平成14年(2002年)3月には、「人
権教育・啓発に関する基本計画」(以下「基本計画」という。)が策定されまし
た。
さらに、人権侵害の被害者救済施策については、国において現在検討されて
います。

(3) 本県での取組
県では、これまで同和問題をはじめとして、女性、子ども、高齢者、障害者、
外国人などに関するさまざまな人権問題の解消を県の行政施策の重要な課題と
して取り組んできました。
同和問題については、昭和44年(1969年)の同和対策事業特別措置法
の施行以来、同和問題の早期解決に向け、各種事業を積極的に展開してきたと
ころです。庁内組織である佐賀県同和対策推進協議会において関係各部局相互
の連絡調整を図る一方、昭和54年(1979年)に県、市町村及び関係機関
等で組織する(社)佐賀県部落解放推進協議会を設立するなど、同和問題の早
期解決に向け、国・市町村、関係団体などと一体となって施策の推進を図って
きました。
教育に関しては、昭和44年(1969年)に「佐賀県同和教育の基本方針」
を策定し、学校教育及び社会教育における同和教育を推進してきました。
そして、昭和45年(1970年)には佐賀県同和教育研究会が、昭和49
年(1974年)には佐賀県社会同和教育研究会が結成され、同和教育の研究・
実践活動が行われました。
さらに、平成16年(2004年)には佐賀県人権・同和教育研究会と佐賀
県社会人権・同和教育研究会とを一本化して、佐賀県人権・同和教育研究協議
会が設立され、学校同和教育と社会同和教育との連携を深め、これまでの同和
教育の研究・実践活動をより充実させるとともに、人権・同和教育の一層の推
進を図っているところです。
啓発に関しては、県民の同和問題に関する正しい理解と認識を深めるため、
県広報紙やテレビ・ラジオ等各種媒体を利用した広報及び研修用冊子・リーフ
レット等の啓発資料を作成配布するなどの啓発活動を行ってきました。
そして、平成3年(1991年)には8月を同和問題啓発強調月間と定め、
市町村や関係機関と連携し、同和問題の啓発に関する事業を集中的に実施して
きました。
また、平成8年度から県民が気軽に参加できる啓発事業として、人権・同和
問題講演会や、啓発パネルの展示などを一体的に実施する「ふれあい人権フェ
スタ」を市町村と連携して実施するなど、一層の積極的な取組を行っていると
ころです。
このような中、県では平成10年(1998年)3月、県民の人権意識を高
め、すべての県民が自らの課題として人権問題に取り組み、差別や偏見のない、
すべての人々の人権が尊重される社会の実現を図るため、「佐賀県人権の尊重に
関する条例」を制定しました。さらには、平成9年 (1997年)に国が策定し
た「人権教育のための国連10年に関する国内行動計画」を受けて、平成10
年(1998年)年4月に、「人権教育のための国連10年」佐賀県推進本部を
設置するとともに、平成11年(1999年)3月に、「人権教育のための国連
10年佐賀県行動計画」となる「佐賀県人権教育・啓発基本方針」を策定し、
「人権という普遍的な文化」を県民生活の中に定着させ、発展させていくこと
を目標として、あらゆる場を通じて、人権教育・啓発への取組を進めておりま
す。
この結果、本県における人権に関する教育・啓発は、市町村、学校や地域社
会、職場など多くの関係機関・団体等との連携のもとで進められ、人権問題の
解決に向けた取組は、一定の成果を得ていますが、同和問題における差別事象
の発生やドメスティック・バイオレンス(DV)や児童虐待など、いまだ多く
の課題が残されています。
今後、人権問題の解消に当たっては、単なる知識のみにとどまらず、県民一
人ひとりが自らの問題として取り組む姿勢がこれまで以上に重要であると考え
られます。

3 基本方針の基本理念
(1) 基本理念―共生社会の実現
今日、世界では、人、物、情報などが国境を越えて自由に行き交うボーダレ
ス化が進んでいると同時に今なお、世界各地において地域紛争が発生し、飢餓
や難民問題、テロなど深刻な人権問題が後を絶ちません。私たちの周りでも、
児童虐待、配偶者等への身体的・精神的な暴力であるドメスティック・バイオ
レンス(DV)などの重大な人権侵害事例が認められ、また、同和地区出身者
や障害者、ハンセン病元患者、HIV感染者などに対する偏見や差別意識も完
全には解消されているとは言い難く、県民の生活にかかわるあらゆる場面で、
依然として人権に関する深刻な問題が数多く発生しており、「人権が尊重され
る社会」を実現することが大きな課題となっています。
また、これまで大量生産・大量消費・大量廃棄型の生活は、地球の温暖化や
オゾン層の破壊、酸性雨、森林破壊、砂漠化などの原因となり、人類の存亡に
関わる地球規模の環境問題も一層深刻となっています。
このように人権問題や環境問題など地球的取組が求められている21世紀に
おいて、私たちは、日常の行動が世界につながっていることを認識して、一人
ひとりが地球的視野から考え、行動する「地球市民」としての自覚をもち、人
と人、人と自然、都市と農村、国と国などがお互いに認め合い、共生して行く
ことが必要になっています。
日本国憲法第14条に「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、
性別、社会的身分又は門地により・・・差別されない」と規定されています。
人は、それぞれに異なる生活文化を持ち、個性や価値観も違います。また
民族や国籍の異なるさまざまな人々が共に暮らしています。
しかし、わが国においては、これらの違いを否定して同質化を求めたり、同
質なものの中に、違いや序列を作り出して排除するような状況がみられます。
一人ひとりの個性、違いを尊重し、さまざまな文化、多様性を認め合い、交
流を深める「共生」の心が求められています。
基本方針では、性別、国籍、世代などさまざまな違いを越えて、すべての人
の人権が尊重され、共に支え合い、共に生きることができる「共生社会」の実
現をめざすことを基本理念とします。
そのため、次の3つの社会づくりを推進します。

ア 一人ひとりが個人として尊重される差別のない社会
個人の尊厳が尊重され、誰からも差別や偏見、そして暴力を受けない安心
して生きていける社会の実現をめざします。

イ 一人ひとりが個性や能力を十分に発揮する機会が保障される社会
すべての人は平等であって、性別や年齢、障害の有無などによって差別さ
れず、一人ひとりのさまざまな個性や生き方の可能性を大切にし、個性や能
力を十分発揮できる機会が保障されている社会の実現をめざします。

ウ 一人ひとりが個性を尊重され、誰もが自分らしく生きられる社会
人権が尊重される社会の実現のためには、すべての人が、それぞれの個性
や生き方等の違いを認め合い、多様な文化や価値観を尊重することが必要で
あり、自分を大切にすると同時に他人を思いやる心を持って共に生きていく
社会の実現をめざします。

以上の3つの社会づくりをすべて実現することにより、基本理念である《す
べての人の人権が尊重され、共に支え合い、共に生きることができる「共生社
会」の実現》をめざしていきます。
この基本理念を今後の人権施策に反映させるとともに、国や市町、CSO等
の民間団体、地域住民、企業等との協力・連携を推進します。

(2) 目標―人権文化の創造(人権という普遍的文化の構築)
すべての人間は、人として生きていくための何人も侵すことのできない権利
を生まれながらにして持っています。この人権は、すべての人の尊厳と平等に
立脚したものであり、人権の尊重は人類普遍の原理として、わが国の憲法の基
本的理念の一つとなっています。
基本的人権の尊重は、すべての国民に憲法によって保障されたものですが、
人権尊重を今日の社会のすみずみまで根づかせるためには、すべての人が人権
尊重を日常生活のあらゆる場面で意識していくこと、そしてそのような人権意
識のもとに積極的に社会に関わっていくことが必要です。
自らの生き方を大切にしながら、他者の人権を尊重すること、また、相互理
解を深めることによって育まれる共生意識というべきものを、人々の日常の生
活の営みのなかに定着させ、社会の習慣にまで広げ普及させることが、普遍的
文化の創造と考えることができます。
基本方針においては、このような人権という普遍的文化を県民生活の中に定
着させ、発展させていくことを目標としています。

(3) 基本姿勢―生涯を通した人権教育・啓発
人権文化を広く県民生活に普及定着させるためには、人権教育・啓発を人権
に関する知識の普及にとどまらず、県民が主体的に人権について学び、行動し
ていくことを目標とする必要があります。
「人権教育のための国連10年・決議」においては、「人権教育は情報提供す
るだけでなく、発達のあらゆる段階及び社会のあらゆる階層にある人々が、あ
らゆる社会において、他者の尊厳の尊重及びその尊重を保障するための手段と
方法を学ぶための、生涯を通じての総合的なプロセスを構築するべきである」
とされましたが、県民の人権に対する関心は多様で、その程度もさまざまです。
したがって、県民が生涯を通じて、人権問題を身近な学習課題の一つとして
とらえることができるように、また、一人ひとりの学習が知識の修得から人権
尊重のための取組へと高められるように、学習の場、学習の方法、学習テーマ
の設定などを工夫することが求められています。
そのため、人権教育・啓発を生涯を通じた重要なテーマとしてとらえ、県民
の学習活動を効果的に推進することとします。

4 基本方針の性格
(1) 「佐賀県人権の尊重に関する条例」及び現在の基本方針(「人権教育のための国
連10年佐賀県行動計画」)」を継承・発展させ、今後の中・長期的な人権施策
の基本的な方向を明らかにするものであり、県のさまざまな施策の取組に当た
っては、この基本方針を尊重し推進するものとします。

(2) この基本方針の見直し及び推進をもって、「人権教育及び人権啓発の推進に関
する法律」第5条の規定(地方公共団体の責務)及び国の「人権教育・啓発に
関する基本計画」の趣旨に対応するものです。


第2章 人権施策の推進方向
1 人権の視点に立った行政の推進
県が行うすべての業務は、「福祉」、「健康」、「安全・安心」、「環境」などさまざ
まな分野で、県内に暮らす住民などの人権と関わっています。
このため、県は、人権尊重の視点に立った行政の積極的な推進に取り組みます。
また、職員一人ひとりは、人権問題を自分自身の問題として捉え、常に職務や
研修を通じて、人権意識の高揚に努めるとともに、人権尊重の視点に立った行政
の推進者として職務を遂行します。

2 あらゆる場を通じた人権教育・啓発の推進
人権が尊重され、差別や偏見のない社会の実現には、子どもから大人まであら
ゆる年齢層に対する人権教育・啓発を行うことが大変重要です。
幼児期から、命を大切にする心や基本的に守らなければならない社会のルール
に気付かせ、他人の痛みが理解できる心、違いを認め合いお互いを大切にする心
など、人間形成の基礎となる豊かな情操や思いやりを育むことは、その後の成長
に応じた人権教育を行う上で、重要な役割を担っています。
このため、本県においては、家庭、地域社会、学校、職場などあらゆる場や機
会をとらえて、従来の知識習得型の学習から、人権に関する知識が態度や行動に
結びつくような体験的参加型学習へと、人権教育・啓発の重点を移し、地域社会
において人権教育を推進していく指導者の育成や資質の向上を図りながら、同和
問題や女性、子ども、高齢者、障害者などすべての人々の人権が尊重・擁護され、
差別のない明るい社会を形成するために、さまざまな人権教育・啓発を行い、県
民の人権意識の高揚に取り組みます。

(1) 家庭や地域社会
【家庭における現状と課題】
家庭教育はすべての教育の出発点であり、幼児期から豊かな情操や思いやり、
生命を大切にする心、善悪の判断、生活習慣やマナーを身につけるなど、人間
形成の基礎を育む上で重要な役割を担っています。
しかし、近年、核家族化や少子高齢化などの家庭環境の変化に伴い、家庭に
おける人間的かかわりの大きな変化や、家庭の教育機能が低下していることが
指摘されており、子どもの自主性や主体性を育てる上で、子育てや家庭のあり
方等に不安を抱える家庭も増加しています。
また、家庭内において、子どもや高齢者に対する暴力や虐待などさまざまな
人権侵害の問題も生じています。本来家庭は、個人の生命や人権の尊さを認識
させ、基本的な生活習慣や社会性を身につけさせるなど、人格形成の最も基盤
となる場です。家庭において育まれる人権意識の重要性を考慮すると、学校、
地域社会やCSO等とも相互に連携し、家庭の教育機能の向上を図るための支
援体制を確立していく必要があります。

【具体的な施策の方向】
このため、次の施策を推進します。

ア すべての教育の出発点である家庭教育の充実を図るため、家庭教育に関す
る保護者への学習機会や情報提供の充実を図ります。

イ 子育てその他、家庭教育に関する不安や悩みを抱える親などへの相談体制
の整備を図ります。

ウ 児童、高齢者虐待等に対する相談活動を充実し、防止のための教育・啓発
の推進を図ります。

【地域社会における現状と課題】
地域社会は、そこが人々の生活の場であることから、家庭と同様に、お互い
の人権を尊重する意識や他人に対する思いやりの心を育む役割があります。そ
のため、家庭と学校、地域社会が連携して、子どもをはじめとした地域で暮ら
す人々への学習の場の提供や機会の充実を図ることが大切です。
これまで、地域社会における人権に関する学習は、同和問題をはじめとした
各分野にわたる人権問題の解消を図る啓発や研修会、講演会が公民館等の学
級・講座として行われ、また、県においても、指導者の育成、テレビ、ラジオ、
新聞等のマスメディアを活用した人権啓発、啓発パンフレット等の配布、啓発
映画の放送、視聴覚ライブラリーの整備・充実等に努めてきました。
その結果、県民の同和問題・人権問題に対する理解と認識は深まってはいる
ものの、まだ十分とは言えず、地域社会において、それぞれの人権問題に関す
る取組の一層の充実に向けて、これまで以上に学校・家庭・地域社会が一体と
なった取組が必要です。
そのためには、CSO等の民間団体と連携・協働を図りながら、地域の活動
や学校教育活動などあらゆる場を活用し、生涯学習の観点から各世代に応じた
人権教育・啓発の取組を推進していくとともに、人権問題を知識として学ぶだ
けではなく、日常生活において態度や行動に表れるような人権感覚の涵養を図
ることが大切です。
また、市町村合併で誕生した新たな地域の人権教育・啓発活動については、
これまでの各種教育・啓発や研究事業等の成果や課題を踏まえ、同和問題をは
じめとした各分野にわたる人権問題の解消に向けて一体的な推進を図ることが
重要です。

【具体的な施策の方向】
このため、次の施策を推進します。

ア 人権に関する学習活動を支援するため、地域社会において人権教育・啓発
を先頭に立って推進していく指導者の育成及び資質の向上を図るとともに、
各種資料、パンフレット等の作成配布に努めます。また、市町が地域の実態
を踏まえ実施する人権教育・啓発活動は、県民一人ひとりの人権意識を深め
るのに非常に重要であり、市町村合併等による新たな枠組みでの教育・啓発
の取組については、地域における人権教育・啓発の在り方についての調査研
究の成果等を踏まえ、人権意識の高揚に向けた積極的な支援に努めます。

イ 地域住民にとって身近な公民館をはじめとする社会教育施設や県立女性セ
ンター・生涯学習センター「アバンセ」を拠点として、同和問題をはじめさ
まざまな人権問題についての学級・講座を開設し、地域住民の人権意識を高
める学習機会の提供に努め、生涯学習の視点に立った人権教育の充実を図り
ます。

ウ 地域の実態に応じ、市町が実施する学級・講座等における人権教育が充実
するような学習プログラムを開発するなど、学習内容の充実や教材作成の支
援をするための情報の提供に努めます。
また、今日の高度情報化社会に対応し、各種のマスメディアを利用した情
報・視聴覚教材の提供やテレビ放送の充実を図るとともに、視聴覚ライブラ
リーの整備・充実に努めます。

エ 青少年の豊かな人間性を育むため、学校教育との連携を図りつつ、ボラン
ティア活動など社会奉仕体験活動、自然体験活動等の体験活動や、高齢者・
障害者・外国人等との交流の機会の充実を図ります。

オ PTAや婦人会などのCSO等民間団体が、人権教育・啓発の担い手とし
て、地域の活動や学校などさまざまな場を通じて連携・協働して人権教育・
啓発を推進することができるように支援し、学校・家庭・地域社会が一体と
なった人権教育・啓発の推進を図ります。

(2) 学校
【現状と課題】
学校教育においては、発達段階に応じてすべての幼児児童生徒が、生き生き
と自分の無限の可能性を伸ばし、よりよい社会人としての能力・態度・豊かな
感性を身につけ、健康でたくましい心身をつくるとともに、子どもたち自らが
「差別を見抜き、差別をなくしていこう」とする確かな人権感覚を育てることが
必要です。
就学前教育では、幼児の発達の状況に応じ全教育活動を通して、お互いに人
権を尊重し合う心情や態度の芽生えを育てるような保育・教育への取り組みが
なされています。
また、小・中・高等学校においては、人権問題について基本的な理解と解決
のため学校教育活動全体を通じて人権尊重意識を高め、人権尊重の精神を育む
ための教育が行われています。
個別の人権問題である、同和問題をはじめとして女性・子ども・高齢者・障
害者などさまざまな課題についても、幼児児童生徒の心を耕しながら、その正
しい理解により偏見と差別をなくす取組を進めてきたところです。
しかし、こうした取組にもかかわらず、最近でもいじめや差別事象等が発生
しており、相手の立場に立った考え方などが知的理解にとどまり、児童生徒に
人権感覚が十分に身に付いていないなどの問題があります。そのため、これま
での同和教育の成果を生かしながら、人権教育を単なる知識の伝達にとどめる
のではなく、幼児児童生徒の発達段階に応じて、子どもたちが自らの人権につ
いて考え、生命の大切さや他人への思いやり、お互いの人格を尊重し個性を認
めあう心、正義感や公平さを重んじる心などを理解し、人権問題を解決するた
めの豊かな人間性を培うことが必要であり、今後は単に理解だけでなく、態度
や行動に現れるための学習内容を構築する必要があります。
また、国際化が進む中、多様な民族、国籍の人々の人権を尊重する意識を培
うことも大切です。さらに、大学・短大・専門学校等における人権教育が積極
的に推進されるよう促すことも重要です。
なお、これを指導する教職員にも、人権尊重の理念について十分な認識が不
可欠であり、自らの言動が児童生徒の人権を侵害することのないよう人権意識
の高揚や資質の向上が必要となります。学校や教育委員会等において、人権尊
重の理念のもとに一層の人権教育の推進がなされるよう効果的な研修を実施す
ることが必要です。

【具体的な施策の方向】
このため、次の施策を推進します。

ア 人権教育においては、人権の意義や正しい知識とともに、このことが態度
や行動に現れるような人権感覚を身につけることが大切です。このため、教
科・領域における人権教育だけでなく、子どもの発達段階に合わせて、学校
でのすべての生活を通して人権尊重が高まるような学習内容の構築に努めま
す。また、幼児児童生徒の実態を踏まえ、興味・関心を高めながら、生活の
課題をテーマとした参加・体験的な学習を積極的に取り入れるなど効果的な
学習方法の改善・工夫を図ります。

イ 各種指定研究の成果や各種研修会の取組も有効に活用しながら、人権教育
を進めるための効果的な教材の開発や学校・家庭・地域社会が一体となった
人権教育推進の在り方等を学校教育や社会教育の場に広げることで人権教育
の充実を図ります。

ウ 人権感覚に満ちあふれる幼児児童生徒の育成のためには、教職員の意識や
資質の向上が最も重要です。このため教職員の人権意識の高揚を図りながら、
本県の実情や種々の人権問題に対応した計画的・実践的な研修の充実に努め
ます。

エ 社会性や豊かな人間性を育むためボランティア活動など社会奉仕体験活動、
自然体験活動をはじめ、勤労生産体験活動、職業体験活動、芸術文化体験活
動や、高齢者、障害者、外国人などとの交流を積極的に推進し、多様な体験
活動の機会の充実を図り、幼児期からの人権感覚の醸成に努めます。

オ 人権教育においても、学校・家庭・地域社会がそれぞれの教育機能を十分
に発揮し一体となった取組があってはじめて効果が期待できます。
特に、幼児児童生徒に対する人権教育をより効果のあるものにするには、
家庭において保護者が人権問題を正しく理解したうえで子どもに接すること
が大切です。
そのため、PTAをはじめとして、ボランティア、NPO、公民館等のCSO活動との協働や家庭・地域社会との連携を一層深めながら、人権教育の
充実を図ります。

カ 大学・短大・専門学校等へ積極的に情報を提供するとともに、人権に関す
る教育・啓発活動の充実を要請します。

(3) 職場
【現状と課題】
社会の重要な課題としてのさまざまな人権を取り巻く環境も大きく変化する
中で、企業等も社会を構成する一員として、人権問題について無関心ではいら
れない時代となったと言われています。
企業等は、社会性や公共性を有しており、その社会的責任を自覚し、人権が
尊重される職場づくりや人権尊重の視点に根ざした企業活動を進めることが求
められています。
そのため、企業等には、積極的に従業員への人権問題の研修に努めるととも
に、地域における人権啓発活動、各種イベントなどへの積極的な参加・協力が
期待されています。
しかしながら、採用選考時の身元調査による出身地や国籍等による不公正な
採用選考、採用や業務内容における男女差別、賃金や昇進等における男女格差、
また、高齢者の継続雇用の問題、就職が困難とされる障害のある人などの雇用
問題、さらに職場におけるセクシュアル・ハラスメントなど、企業における人
権に関する認識は残念ながら未だに十分とは言えない面があります。
企業等においては、職業選択の自由、雇用機会の均等を確保するために、雇
用主が同和問題をはじめとする人権問題についての正しい理解と認識に立った
公正な採用選考が行われる必要があり、また、職場における性別をはじめとす
る、さまざまな差別的な扱いが行われないよう、今後もより一層の人権教育へ
の取組が必要となっています。

【具体的施策の方向】
このため、次の施策を推進します。

ア 企業等での啓発を推進するため、商工団体・農林水産業団体の役職員、社
会福祉・医療施設の経営者等に対して、積極的な啓発・研修に取り組むよう、
適切な助言、指導を行います。
また、企業等での社員研修等に人権教育・啓発に関する情報や資料を提供
します。

イ 門地・国籍・性別などの違い、年齢、障害の有無等を超えて、すべての人
の就職の機会均等が図られるよう啓発を進めるとともに、就業を促進するた
めの職業相談や職業能力開発の取組を促進します。

ウ 従業員の採用、選考に最も影響力をもつ企業のトップクラスに対する研修
の充実を図ります。

エ セクシュアル・ハラスメントの防止や固定的な性別役割分担意識の解消な
ど、人権が尊重される明るい職場づくりが求められていることから、職場単
位の自主的な研修を促進します。

3 特定の職業に従事する者に対する人権教育・啓発の推進
一人ひとりの人権が尊重される社会を実現するためには、あらゆる人々を対象
に人権教育の取組を進める必要がありますが、とりわけ、行政職員、教職員・社
会教育関係職員、警察職員、医療・保健関係者、福祉関係者、消防職員、マスメ
ディア関係者は、日ごろから人権の擁護に深い関わりを持つ職業に従事しており、
その職務の性質上、人権に配慮することが求められています。
そこで、以下のとおり、特定の職業の従事者に対し研修等、人権教育・啓発の
充実を図ります。

(1) 行政職員
行政職員は、全体の奉仕者である公務員としての自覚を持ち、憲法の基本理
念のひとつである基本的人権の尊重を行政施策を通じて具体化する責務を有し
ています。
職員一人ひとりが、同和問題をはじめとするあらゆる人権問題に対する正し
い理解と認識を深め、自らの問題として、それぞれの分野において人権問題の
解決に積極的に取り組む判断力と実践力を高めていくことが重要です。
このため、同和問題をはじめとする人権問題に対する職員の正しい理解と認
識を深め、職員一人ひとりが常に人権尊重の視点に立って職務を遂行できるよ
うにすることはもちろん、女性、子ども、高齢者、障害者、外国人等と接する
機会の多い職員など、個々の職務内容に応じたきめ細かな人権感覚を身につけ
ることができるよう、職務内容に応じた人権・同和問題研修を推進し、各種研
修教材の整備及び情報の提供を行い、各種研修会への参加や職場研修など各種
研修の充実を図ります。

(2) 教職員・社会教育関係職員
差別と偏見のない真に人権を尊重する意識を社会に根づかせるには、教育の
果たす役割は極めて大きいものがあります。
したがって、教育に携わる教職員は、その使命感を自覚し、自らの人権意識
を磨きながら幼児児童生徒が学校教育のあらゆる場を通じて、人権を尊重する
意欲や態度を身につけることができるように育成する取組を進めることが肝要
です。
そのため、学校における人権教育の推進には、各学校における日常的な研修
を基本としながら、教職員自らが豊かな人権感覚を持ち実践するとともに、研
修等を通じて同和問題など様々な人権問題についての理解と認識を深め、幼児
児童生徒が持つ課題や実態に即して効果的な人権教育の実践ができるよう人権
学習についての知識・技能の一層の向上を図ります。
また、その際には、教職員自身がさまざまな体験を通じて視野を広げるよう
な機会の充実を図ります。
さらに、社会教育主事や公民館主事など社会教育関係職員については、幅広
く人権問題に対する理解と認識を深め、人権にかかわる問題の解決に資するこ
とができるよう、人権意識を高める研修の充実を図ります。

(3) 警察職員
警察は、その職務の性質上、人権に深く関わる事例が多く、全ての警察職員
が豊かな人権感覚を身につけることが重要であり、警察職員として必要な人権
に関する知識の涵養を図り、基本的人権を尊重した活動を今後とも徹底します。
そのため、人権を尊重し、公正かつ親切に職務を執行することなどを内容とす
る「警察職員の職務倫理及び服務に関する規則」に則り、適切な市民応接活動
を一層推進するとともに、職務に精励します。
また、被害者、被疑者その他の関係者の人権に配慮した職務執行が行えるよ
う職場及び警察学校において人権感覚をさらに深めるため、教養訓練に努めま
す。

(4) 医療・保健関係者
高齢化の進展や、慢性疾患を中心とした疾病構造の変化、医療の質の向上に
対する国民の要望の高まりなど、昨今の我が国の医療をとりまく環境は著しく
変化してきています。
こうした中で、良質かつ適正な医療サービスが提供されるためには、医療従
事者の確保と資質の向上が重要な課題であり、卒前教育から国家試験、生涯教
育に至るまで一貫した医療従事者養成が必要となっています。
今日、医療現場では、個々の疾患に着目した治療のみならず、患者の状態全
体に着目した全人的な医療の重要性が指摘されています。
医療は、患者の立場を尊重し、医療の担い手と受ける者との信頼関係に基づ
き提供されることが基本であり、医療提供に当たっての患者や地域住民への医
療に関する情報提供を進めることは、重要な課題であります。
医師、歯科医師、薬剤師、看護師、保健師、その他医療技術者等あらゆる医
療・保健従事者は、人々の健康と命を守ることを使命とし、さまざまな疾病の
予防や治療、介護、相談業務を担っています。
業務の遂行に当たっては、患者や要介護者の人権を尊重するとともに、プラ
イバシーへの配慮や病歴等診療情報等の個人情報の保護に努めるなど、人権意
識に根ざした行動が求められています。
そのため、職員の採用時の研修や職場研修、接遇研修などで、同和問題をは
じめ人権にかかわる研修を実施し、医療・保健従事者の人権意識の高揚に今後
も努めます。
また、インフォームド・コンセント(患者に対する十分な説明と同意)が患
者の人権尊重の観点からも重要であることから、医師・看護師等医療関係者に
対する研修等の充実が図られるよう関係機関・団体へ働きかけを行います。

(5) 福祉関係者
福祉担当行政職員、民生委員・児童委員、社会福祉施設職員、社会福祉協議
会職員その他社会福祉事業従事者、また、新たに福祉分野に進出した株式会社
等民間事業者などは、高齢者、障害者、子ども等の生活相談や介護業務などに
直接携わっています。
例えば、訪問介護員(ホームヘルパー)や施設職員は、高齢者等の生活相談
や身体介護等に直接従事していることから、個人情報を知り得る機会が多く、
また一方、高齢者等は介護サービスを必要とする立場にあることが多く、人権
が侵害される事態が生ずることがあることが考えられます。
このように福祉関係者は社会的に弱い立場におかれている人々と接する機会
が多く、このため、職務の遂行に当たっては、人権の尊重や個人のプライバシ
ーへの配慮など高い職業的倫理が求められています。
こうした認識に立ち、特に地域とのつながりの深い民生委員・児童委員の研
修会や社会福祉施設職員及び社会福祉協議会職員の研修会のカリキュラムの中
に同和問題研修を組み入れるなど、社会福祉事業従事者の人権意識の普及・高
揚に努めています。
今後もこれらの研修会を人権の視点から充実させるとともに、行政の福祉担
当の新任職員や指導監督職員等の研修会に人権に関するカリキュラムを組み入
れ、施設職員の職場研修においても人権教育を実施するなど、福祉関係者すべ
ての人権意識の普及・高揚を図ります。

(6) 消防職員
消防職員は、県民の生命、身体及び財産を火災から保護するとともに、火災
又は地震等の災害による被害を軽減するという、人権そのものの擁護を職務と
しており、緊急時はもとより、平時においても、社会の安寧秩序を保持し、公
共の福祉の増進に努める必要があります。
消防職員の研修は、県消防学校と所属する一部事務組合等で実施しており、
県消防学校においては、採用後の初任科研修で同和問題研修をカリキュラムと
して組み入れています。
今後とも、消防職員が人権に関する正しい理解と認識のもとに、各種消防業
務において適切な対応を行うため、県消防学校での人権についての学習機会の
充実を図ります。

(7) マスメディア関係者
高度情報化が進展する現代社会において、テレビ、ラジオ、新聞等のマスメ
ディアが果たす社会的な役割はますます大きくなっており、その特性から、人
権に関する県民意識の醸成に大きな影響力を持っています。
たとえば、同和問題やさまざまな人権問題等をテーマとして記事や番組に取
り上げ、読者や視聴者の人権意識の高揚に大きな役割を果たしています。
また、一方では、個人の名誉やプライバシーを侵害したり、偏見や差別を助
長する内容の誤った報道がなされた場合などは、その権利侵害は非常に大きな
ものとなる恐れがあります。
そのため、正確な情報を国民に提供するというマスメディアの公共的使命を
踏まえ、人権尊重の視点に立脚した取材活動や紙面・番組の編集を行うように、
社員及び関係者の人権教育を一層充実させるなど自主的な取組が期待されます。

4 人権教育・啓発を担う指導者の育成・活用等の推進
(1) 地域において人権教育・啓発を担う人材の育成や指導者の資質の向上を図る
ことは、人権教育の推進を図る上で極めて重要です。そのため、地域で活動し
ているリーダーや人権分野の指導員等を対象に、地域住民が人権問題を自らの
課題としてとらえることができるような指導方法等について、研修会や講座等
を実施するとともに、これら指導者等に対して、種々の人権問題について課題
の解決が図れるような情報の提供等に努めます。

(2) 地域等で活動しているCSO等との交流・連携により、新たな地域の指導者
の人材発掘に努めます。

(3) 人権問題を総合的に取り上げ、単に人権問題を知識として学ぶだけでなく、
日常生活において、態度や行動に現れるような人権感覚の高揚に向けて、参加
者が主体的に参加できる効果的な学習プログラムの作成・普及を図ります。

5 相談・支援・救済の推進
すべての県民のあらゆる人権問題に迅速かつ適切に対応できるために、県民の
利用しやすい相談・支援・救済の体制の整備充実を図ります。

(1) 相談・支援体制の充実・強化
本県では、人権に関する相談に対応するため、女性や子ども、高齢者に関す
る相談をはじめ、障害者の権利擁護に関する相談、外国人の生活相談、HIV・
エイズや難病等に関する相談、犯罪被害者等に関する相談など各種相談窓口を
設置して対応しています。
しかし、人権意識の高揚などによる相談件数の増加や内容の多様化・複雑化
などにより、相談・支援体制の充実強化や相談窓口に関する情報の提供が求め
られていることから、以下のような取組を推進します。

ア 県民が戸惑うことなく、速やかに人権に関わる相談をできるようにするた
め人権相談総合窓口を設置するとともに、県及び市町の広報誌やホームペー
ジなどのさまざまな広報媒体を用いて相談・支援に関する制度や、各種相談・
支援機関の情報の積極的な提供を図ります。

イ 県民の誰もが容易に、また、安心して気軽に相談できるように、当事者の
立場に立ったプライバシーの保護、相談の場所や時間、方法などを十分考慮
しながら、相談・支援体制の充実を図ります。

ウ 県の各相談・支援機関が、人権に関するさまざまな相談について、迅速か
つ適切に対応できるように、各相談員や関係職員に対し研修を行い資質の向
上を図ります。

エ 近年の社会情勢の変化に伴い、人権問題は多様化・複雑化するとともに、
新たな人権問題も生じるなど、ますます相談・支援が重要になると考えられ
ます。
そのため、今後は国をはじめ、市町の機関、弁護士会、CSOなどとの地
域に根ざした相互の連携・協力を図ります。

(2) 救済体制の整備
現在、人権侵害に対する被害者の救済については、地方法務局及び人権擁護
委員による人権相談や人権侵犯事件の調査処理、最終的な紛争解決手段である
裁判制度のほか、労働問題、公害、児童虐待等の分野においては裁判制度を補
完する制度や被害者保護のための特別の仕組みがあります。
本県では、ドメスティック・バイオレンス(DV)や児童虐待などにより、
緊急に避難や保護の必要な女性や子どもについては、佐賀県DV総合対策セン
ターや児童相談所等が一時保護や就労生活支援など自立支援の取組を行ってい
るほか、さまざまな分野で設置している各種相談機関において、それぞれ専門
性を持った対応により救済を図っています。
しかしながら、既存の救済制度だけでは、現在の多様化・複雑化する人権問
題について、簡易、迅速、柔軟な対応や傷つけられた被害者の心を満たす真の
意味での被害者の救済とは言えないところがあり、行政による新たな救済制度
を整備することが必要と考えられます。
このような認識のもと、人権擁護推進審議会が平成13年(2001年)5
月に出した「人権救済制度の在り方について(答申)」に基づく実効性のある救
済制度を、必要な法的措置を含め、早期に整備するよう国に対して要望してい
るところです。

第3章 分野別施策の推進
1 同和問題
【現状と課題】
同和問題は、わが国固有の人権問題であり、その本質については、昭和40年
(1965年)の同和対策審議会の答申では、「同和問題とは、日本社会の歴史的発
展の過程において形成された身分階層構造に基づく差別により、日本国民の一部
の集団が経済的・社会的・文化的に低位の状態におかれ、現代社会においても、
なお著しく基本的人権を侵害され、特に、近代社会の原理として何人にも保障さ
れている市民的権利と自由を完全に保障されていないという、もっとも深刻にし
て重大な社会問題である。」と述べています。
この答申を踏まえ、同和問題の早期解決に向けて、昭和44年(1969年)の
「同和対策事業特別措置法」の施行以来、33年間に3度にわたり制定された特
別措置法に基づき、国・県・関係市町村が一体となって、同和地区及び同和関係
者を対象とした生活環境の改善、産業の振興、職業の安定、教育の充実、人権擁
護活動の強化、社会福祉の増進等に関する事業を実施してきました。
県では、同和地区の住宅、道路などの生活環境の改善をはじめとする物的な基
盤整備を総合的に推進し、また、差別意識の解消のための教育・啓発についても
積極的に実施してきたところです。
その結果、全体的には着実な成果を収め、長期にわたる同和対策事業により、
概ね基盤整備は完了するなどさまざまな面で存在していた格差は大幅に改善され
ました。
一方、教育や啓発の取組については、偏見や差別意識の解消に向けて着実に進
んでいるところですが、未だに結婚問題や身元調査を中心に依然として、不合理
な風習、因習等による偏見や差別意識が残っている現状があります。また、県内
の学校現場では、歴史の学習等で学んだ身分をあらわす言葉の重みを十分認識し
ないまま使用する差別事象が発生するなど、未だ残された課題もあります。
学校教育においては、教職員の研修の充実に努めるとともに「佐賀県同和教育
の基本方針」等に基づき同和問題を基底において他の人権問題も取り上げながら、
幼児児童生徒の人権意識の高揚を図り、一人ひとりが人間として真に尊ばれる社
会の形成を目指して取組を進めてきました。中でも、社会科担当と学級担任との
連携や進路保障の課題克服に向けた取組は、徐々に広がりと深まりを見せていま
すが、一方、同和地区生徒の高校・大学等への進学率での格差は改善の経過はた
どってきたものの、依然として存在しており、児童生徒の学力や進路の面でも課
題を残しています。
社会教育においては、「佐賀県同和教育の基本方針」等に基づき、民主的な社会
を実現するための重要課題である同和問題を解決するため、あらゆる機会に人権
尊重を基調とした取組を推進してきました。
その結果、各種の研修会で同和問題に関する講座の開設や研修会参加者間での
熱心な討議が行われるようになってきました。しかし、研修会への参加者の固定
化等、同和問題を地域の学習課題として取り組みきれていない現状が未だに見受
けられます。
広く県民一般を対象とした啓発としては、同和問題講演会開催、ふれあい人権
フェスタの開催、県広報誌や新聞・テレビ・ラジオ・ポスターをはじめ、映画館
における広告などの各種媒体の活用を図るとともに、企業等の研修会に対する講
師派遣や、啓発映画・ビデオの貸与など、各種啓発事業を実施してきました。
とりわけ、8月を「同和問題啓発強調月間」として定め、市町村との連携によ
る講演会の開催等、重点的に啓発活動を行い、差別のない基本的人権が尊重され
る社会の実現に努めてきました。この結果、県民の同和問題に対する基本的理解
や人権意識の高揚など一定の成果がみられます。
しかしながら、近年は、インターネット等を利用した差別的情報の書き込みな
どが顕在化するなどしており、今後も、県民一人ひとりの同和問題の正しい理解
と認識を深め、問題解決への主体的な取組を促進するため、なお一層効果的な啓
発に努める必要があります。
また、雇用においては、公正な採用選考システムの確立の指導や差別のない雇
用に向けた企業に対する啓発活動により、就職差別の問題は解消されつつありま
すが、引き続き、企業における雇用主や採用担当者に対して同和問題に対する正
しい理解と認識を深めるよう、一層の人権教育・人権啓発の取組が必要となって
います。

【具体的施策の方向】
平成8年(1996年)5月の地域改善対策協議会意見具申を尊重し、今後の同
和問題に関する差別意識の解消を図るに当たっては、これまでの同和教育や啓発
活動の中で積み上げられてきた取組の成果と手法への評価や各種研究の成果を踏
まえ、すべての県民の基本的人権を尊重していくための人権教育、人権啓発とし
て発展的に再構築し、その中で同和問題を人権問題の重要な柱としてとらえ、な
お一層効果的な人権教育・人権啓発を積極的に推進します。
また、特別措置法に基づく特別対策は、概ねその目的が達成されたことから、
法期限の平成14年(2002年)3月末日をもって終了しましたが、これまでの
同和行政の成果を大切にしながら、今後は、教育、就労等のなお残された課題に
ついて、差別意識の解消に向けた人権教育・人権啓発を積極的に推進するととも
に、一般対策を有効かつ適切に活用するなど各種支援を推進していくこととして
います。

(1) 学校教育における推進
学校教育においては、教職員が同和問題を自らの課題としてとらえ、全教育
活動を通じた人権尊重の教育と研究活動を推進し、この解消を目指した実践に
努めます。
具体的には、地域社会の同和問題に対する認識の実情や幼児児童生徒の発達
段階や意識を十分踏まえ、同和問題の科学的・合理的な理解に基づいて幼児期
から段階的に学習内容に即して人権尊重の芽を育み、不合理な部落差別を許さ
ない子どもの育成に努めます。
その際、同和問題にきちんと向かいあうため心を耕しながら、実践を進めま
す。併せて、就学前教育の推進や進路保障等の取組を一層推進し同和教育の充
実を図ります。
また、同和地区児童・生徒の実態を正しく踏まえながら、学力格差の是正、
進路指導の充実を図りその発達の可能性を十分伸ばすように努めます。

(2) 社会教育における推進
社会教育においては、自主的・自発的な学習活動を基盤とする生涯学習の観
点から、県民一人ひとりが同和問題を自らの課題として受けとめ、同和問題の
解決に主体的に取り組めるような施策の一層の充実を図る必要があります。
そのために地域住民にとって、身近な公民館をはじめとする社会教育施設を
拠点とした学習機会の充実をはじめ、学習者のニーズに応じ、参加体験型の学
習教材の作成や効果的な学習内容・方法の創意工夫等を進めます。
また、これらの施策を推進していくための指導者の育成に努めます。
さらに、同和問題の解決に向けては、以前にも増して学校・家庭・地域社会
が一体となった取組が求められていることから、今後とも三者が相互に連携を
図りながら、この問題についての理解と認識が、一層深まるような教育の推進
を図ります。

(3) 差別意識の解消に向けた啓発活動の推進
ア 県民への啓発の推進
県民一人ひとりが基本的人権を尊重し、同和問題に対する正しい理解と認
識を深め、差別の解消に向けて主体的に取り組むことができるよう啓発活動
を積極的に推進します。
このため、同和問題啓発強調月間(8月)や人権週間(12月4日から10
日)を中心に、同和問題に対する正しい理解と認識を深め、差別の解消に向け
て主体的に取り組むことができるよう講演会の開催やマスメディアを活用し
た啓発活動を行うとともに、今後は差別意識の解消について、自ら考え、気
づき、行動することができるように参加体験型の研修の手法を積極的に取り
入れ、人権尊重の視点からねばり強く県民への啓発を推進します。

イ 研修の充実
行政関係職員は、基本的人権を尊重し、同和問題をはじめとするあらゆる
人権問題に対する正しい理解と認識を一層深め、自らの課題としてその解決
に積極的に取り組んでいく役割を担っています。
このため、重要な研修課題として同和問題を位置付け、管理職員研修や職
場研修等を計画的に実施することとしています。

(4) 企業等への啓発の推進
同和地区住民の就職の機会均等を確保し、雇用を促進して職業の安定を図る
ことは、同和問題解決のための重要課題です。
このことから、雇用主が同和問題について正しい理解と認識のもとに、差別
のない公正な採用・選考を行うことが必要不可欠です。
このため、次のような取組を行い、企業等への啓発を推進します。

ア 企業・団体等での啓発を推進するため、商工団体・農林水産業団体等の役
職員、社会福祉・医療施設の経営者等に対して、積極的な啓発・研修に取り
組むよう、適切な指導・助言を行います。

イ 差別のない明るい職場づくりを進めるため、国が実施する公正採用選考人
権啓発推進員の設置促進及び計画的・継続的な研修や従業員への研修の充実
が図られるよう、国との協力・連携を図ります。

ウ 公正な採用選考システムの確立を図るためには、従業員の採用・選考に最
も影響力をもつ企業のトップクラスが同和問題に対する正しい理解と認識を
深めることが重要であることから、企業のトップクラスに対する研修の充実
を図ります。

(5) えせ同和行為の排除
えせ同和行為は、その行為自体が問題とされ排除されるべきものであるだけ
でなく、差別意識の解消に向けた教育や啓発の効果を覆し、同和問題の解決に
真剣に取り組んでいる人々や、同和関係者に対する県民のイメージを著しく損
ねるものです。
そして、県民に対して、この問題に対する誤った意識を植え付けることにも
なり、同和問題解決の大きな阻害要因となっています。
えせ同和行為に対しては、同和問題を正しく理解することが何よりも重要で
あるとともに、不当な要求には毅然とした態度を取ることが大切です。
このため、県民への啓発に努めるとともに、こうした行為の排除に当たって
は、法務局、警察等関係機関と連携し、なお一層の取組の強化を図ります。

(6) 隣保館事業の推進
隣保館については、周辺地域を含めた地域社会全体の中で、福祉の向上や人
権啓発のための住民交流の拠点となる開かれたコミュニティーセンターとして
の役割を担っているところですが、今後も隣保館において、住民の交流を促進
し、相談事業をはじめ、社会福祉等に関する総合的な活動や人権・同和問題に
対する理解を深めるための各種啓発事業を推進できるよう、適切な指導・助言
を行います。

(7) 差別による被害者の救済
同和問題を理由とする結婚や就職等における差別、インターネット上の差別
書き込みなど、悪質な差別事象が発生した場合は、国、市町等と連携し、迅速
かつ適切に対応するとともに、関係者に対し正しい認識と理解を深めるための
啓発活動を行います。
また、佐賀地方法務局、県、市町等関係機関、関係団体の連携により、人権
相談の促進を図ります。

2 女性
【現状と課題】
日本国憲法に、男女平等の理念がうたわれてから60年。わが国では、国際社
会における取組とも連動しながら、男女平等の実現に向けた様々な取組が着実に
進められてきました。
その成果として、平成11年(1999年)に男女共同参画社会基本法が制定
され、翌12年(2000年)に策定された男女共同参画基本計画のもと男女共
同参画社会の形成に向けた取組が進められています。
本県では、平成13年(2001年)3月に「佐賀県男女共同参画基本計画」
を策定、同年10月には「佐賀県男女共同参画推進条例」を制定し、県立女性セ
ンター「アバンセ」を拠点に各種施策を展開してきました。
その結果、平成16 年(2004年)の県民意識調査では、「夫は仕事、妻は
家庭」という考え(性的役割分担意識)に同意しない人の割合が増加し、およそ
3分の2を占めるようになりました。
しかし、一方で7割を超える人が「社会通念、慣習、しきたり」、「政治の場」、
「職場」において男女平等でないと感じています。
また、就業女性の半数以上はパートなどの周縁的労働であり、男女賃金格差な
ど、女性の経済的自立を阻む目に見える差別と、「男だから、女だから」という性
による区別や男女の役割を固定的にとらえる社会習慣、行動様式が生み出す目に
見えない差別が地域、家庭、職場、メディア等に現存しています。
社会のあらゆる分野に男女が平等に参画し、個性と能力を生かすことができる
社会を形成するためには、男女の不平等がさまざまな場に現存することを認識し、
男女平等意識を定着させることが大切です。
また、女性の人権を著しく侵害するドメスティック・バイオレンス(DV)、セ
クシュアル・ハラスメント、ストーカー行為、性犯罪などの女性に対する暴力を
許さない社会の意識を醸成することが大切です。

【具体的施策の方向】
県では、「佐賀県男女共同参画基本計画」の基本方向を踏まえ、県民意識の中に、
男女がお互いの人権を尊重し、真の男女平等意識の定着を図り、男女共同参画社
会を形成するための以下の取組を積極的に進めます。

(1) 男女共同参画社会の形成を支える男女平等意識の定着
ア 啓発活動の推進
男女共同参画社会をつくるためには、家庭、職場、地域社会に今なお根強
く残っている性別役割分担意識の払拭や慣習・慣行の見直しなど、男女の生
き方の選択を狭めている社会的・文化的につくられた性差(ジェンダー)観を
是正する必要があります。
したがって、男女共同参画社会の形成へ向けた講演会、シンポジウム、フ
ォーラム等の開催や啓発・広報活動を充実させ、男女平等の県民意識を定着
させるとともに、推進のためのリーダーを育成し、社会的機運の醸成に努め
ます。

イ 男女平等を基本とする教育・学習の推進
男女平等意識と人権尊重についての認識や価値観は、幼いときから家庭、
学校、地域社会の中で形成されることから、家庭、学校、社会教育において、
発達段階に応じた男女平等の教育及び指導を一層推進します。
また、学校、家庭、社会教育において、性は人権であり、暴力は人権侵害
であるという考えに基づき、男女が相互の人間性の尊重、生命の尊厳につい
て学習するなど人権としての性教育の充実を図ります。

ウ 総合的な男女共同参画行政の推進
男女共同参画社会の早期実現に向けて、佐賀県男女共同参画推進会議を中
心に全庁的な取組を一層推進します。
同時に、地域住民に最も身近な市町において、総合的な男女共同参画行政
推進のため、専管部署の設置及び男女共同参画基本計画の策定について要請
するとともに、県、市町、団体、企業間の連携に努めます。

(2) 男女共同参画による新しい地域社会の実現
ア 政策方針決定過程への女性の参画の推進
女性が経済、社会、文化その他あらゆる分野に男性と同等に参画し、持てる
能力を十分に発揮することは、調和のとれた社会発展に極めて重要なことで
す。
近年、女性の社会への参画は急速に進んでいますが、女性が政策・方針決定
過程に参画している割合は、今なお、低いのが現状です。
このため、各種審議会・委員会等への女性委員の登用促進及び県における
女性職員(教職員を含む)の職域の拡大や役職への登用を促進します。
また、市町、企業、団体等に対しても、女性の積極的登用について要請すると
ともに啓発活動を推進します。

イ 地域活動における男女共同参画の推進
福祉分野でのCSO活動等は、地域社会における様々な問題に取り組む活
動であり、その大半は女性によって支えられていますが、こうした活動団体の
リーダーやトップは男性が多く、その運営や方針決定には女性の参画が少な
いのが現状です。
明るく住みよい社会をつくるには、男女が共にこうした活動に取り組んで
いくことが重要であり、男性の参画の少ない分野への男性の参画を働きかけ
るとともに、地域のリーダーへの女性の登用を促進するため、女性リーダーの
育成に努めます。

ウ 女性センターの充実
女性センター「アバンセ」では、男女共同参画社会の実現に向けて、県内
女性の自主的活動・交流の促進、女性問題に関する情報の提供、研修、女性に関
する相談などの事業を展開しています。さらに、平成14年(2002年)
には、同センターを「配偶者暴力相談支援センター」に位置づけ、また平成
16年(2004年)には、センター内に「DV総合対策センター」を設置
したところです。
今後も、女性の自立と活動を支援する総合的機能を備えた拠点施設として、
生涯学習センター等の併設機関との連携を図りながら、一層の充実を図りま
す。

(3) 働く場における男女共同参画の実現
ア 雇用における環境整備
「男女雇用機会均等法」が施行されて20年を経過しました。この間、女
性雇用者数の大幅な増加、勤続年数の伸長、職域の拡大等がみられ、女性の
就業に関する国民一般の意識や企業の取組も大きく変化しており、企業側の
雇用管理の見直しもなされてきています。
しかし一方で、男女間の賃金格差に見られるように、実態として男女間に
差が出ている状況も見受けられます。
雇用における男女の均等な機会と待遇の確保に向けて、女性の社会参画と
同時に、男性の家庭・地域参画を促進する取組を通して、男女が就労と家庭・
地域生活を両立できる環境づくりのための啓発に努めます。
また、セクシュアル・ハラスメントのない職場づくりのため、啓発や防止
に向けた取組を推進し、県が県内企業のモデルとなるよう職員に対する研修
を積極的に実施します。

イ 農林漁業及び商工自営業における環境整備
本県における農業就業人口の52%を女性が占め、主体的に作業に従事し
ており、漁業においても、加工・販売や地域活性化の取組等、女性の果たす
役割が高まっています。
また、商工自営業に従事する女性は、事業経営だけでなく、地域振興の推
進者として地域商工業の発展に大きく貢献しています。
このように、女性が生産、経営活動と生活の両面を担っているにもかかわ
らず、組合、団体等の方針決定の場への女性の参画は少ないのが現状です。
このため、女性の生産技術、経営管理能力の向上を促すとともに、方針決定
の場への女性の積極的登用を働きかけます。

(4) 女性の人権が擁護される社会の形成
ア 女性に対するあらゆる暴力の根絶
ドメスティック・バイオレンス(DV)やセクシュアル・ハラスメント、
ストーカー、売買春、人身取引、性犯罪等の女性に対する暴力は、女性の基
本的人権を侵害するものであり、被害を受けた女性や社会に対して深刻な影
響を及ぼしています。
また、これらの被害が潜在化する傾向を持っていることが問題の解決をよ
り難しくしています。
県DV総合対策センター機能の充実・強化を図り、「佐賀県DV被害者支援
基本計画」の円滑かつ着実な推進により、啓発、相談・支援体制の拡充、被
害者支援の推進に努めます。
売買春や性犯罪等に対する厳正な取締りはもとより、被害女性の人権に配
慮した事情聴取を行うとともに、相談等に携わる職員の教育訓練の充実を図
ります。

イ メディア等における女性の人権尊重
活字・映像やインターネットをはじめとするメディア等によってもたらさ
れる情報の影響は、情報通信が一層高度化している中で、これまで以上に拡
大するものと予想されます。現在、女性の性的側面や女性に対する暴力をこ
とさら強調したり、性別に基づく固定観念を助長するような情報を伝達して
いるメディア等があることは否定できません。女性の人権に配慮するよう、
県民への周知を図る必要があります。
また、刊行物の作成やインターネットでの情報発信は、男女共同参画の視
点に立って行うよう、市町や事業者等に対して働きかけます。

ウ 生涯を通じた女性の健康支援
妊娠や出産の可能性をもつ女性は、思春期から更年期に至るライフサイク
ルを通じて男性とは異なる健康上の問題に直面します。こうした問題の重要
性について、広く社会全体の認識が高まり、積極的な取組が行われるよう機
運の醸成を図ります。
また、家庭、学校、地域において、女性のリプロダクティブ・ヘルス/ラ
イツ(性と生殖に関する健康・権利)の確立のための普及・啓発と学習機会
の提供に努めます。

3 子ども
【現状と課題】
これから21世紀の社会を担っていく子どもたちは、情報化、国際化など目ま
ぐるしい時代の変化に的確に対応できるしなやかさ、たくましさが求められてい
ます。
しかし、近年の少子化や核家族化の一層の進行などにより、家庭の教育力の低
下や地域社会のつながりの希薄化など、子どもが育まれる家庭や地域を取り巻く
環境は大きく変化しており、子どもをめぐる問題も多様化しています。
少子化により、子どもの一人遊び等が増え、兄弟姉妹が切磋琢磨する機会が減
るとともに、地域では、異年齢やさまざまな立場の子ども同士の集団での活動に
よるふれあいを通じた人間関係の形成が行われにくくなっています。
このような子どもたちの側の「集団の中でもまれる」機会や「人と人の間で育
つ」機会の減少は、子どもの健全な発達を阻害する要因となっています。
また、家庭においては、子どもが権利の主体者であることの理解は進んではき
ているものの、子どもに対する過保護や甘やかしが多くなる一方、保護者が子ど
もをあたかも私物であるかのごとく支配するという親子観が残っている家庭も存
在し、子どもの権利と保護者の責任について一層の啓発が必要になっています。
さらに、核家族化の進行により別居親族の援助を受けられなかったり、地域か
ら孤立することによって若い親が育児不安を抱えるという問題も生じています。
こうした状況の中で、助けを求めることを知らない児童を保護者等が身体的虐
待や心理的虐待、あるいは育児放棄などの児童虐待により、死にまで至らしめる
痛ましい事件が多発しており、家庭はもとより、社会全体で子育てに取り組む環
境づくりや安心して子どもを産み育てられる社会づくりが重要になっています。
一方、学校では、いじめや暴力行為及び不登校は、おおむね減少傾向にあるも
のの、今後も学校教育及び家庭や地域社会における社会教育の両面からその防止
や解決に向けて個々に応じたきめ細やかな対応が課題となっています。
保育所等児童福祉施設や幼稚園では、ややもすれば、子ども集団の管理や規則
が先行し、子どもの個々のニーズに配慮した処遇が行われにくい状況が生じやす
いとの指摘がなされています。このため、家庭や地域社会と連携して、子どもの
健全な心身の発達を図り、他の乳幼児とのかかわりの中で人権を大切にする心を
はぐくむなど適切な対応をする必要があります。
また、不特定多数のものが購入・利用できる有害な図書やビデオ等の氾濫、有
害広告物の放置、覚醒剤等薬物の乱用といった問題、さらには、第三者による子
どもへの暴行なども発生しています。
日本国憲法においては、基本的人権の尊重を基本理念に掲げており、これに基
づく教育基本法、児童福祉法、児童憲章は、その基本的理念として、すべての子
どもの人格を認め、尊重し、その健やかな育成を図ることを社会全体の責務とし
ています。
また、平成6年(1994年)4月に我が国が批准した「児童の権利に関する
条約」では、子どもを権利の主体として認め、子どもの成長、発達を保障するた
め、保護者をはじめ社会全体が最善の努力をすることが明記されていますが、こ
れらは、いずれも十分に周知されていない状況にあります。
県では、平成16年(2004年)3月に「佐賀県新エンゼルプラン」におい
て、明日を担う子どもの健全育成や子育ての支援等に関する施策の推進方向をと
りまとめました。
平成17年(2005年)3月には、「佐賀県新エンゼルプラン」を具体化する
計画として「佐賀県次世代育成支援地域行動計画」を策定し、「子育てにやさしい
社会を創る」ため、計画に掲げる各種施策の実施や数値目標の達成に取り組んで
います。
今後、地方公共団体のみならず、保護者や学校、地域等社会全体に対し、これ
らの趣旨についてさらに周知を図るとともに、相互に連携を図りながら、子ども
の人権の尊重及び擁護に向けた取組を推進する必要があります。

【具体的施策の方向】
(1) 啓発活動の推進
これまで、毎年5月5日のこどもの日から1週間の「児童福祉週間」を中心
に、児童福祉の理念の一層の周知と児童を取り巻く諸問題に対する社会的関心
の喚起を図るため、「児童福祉週間」標語の募集、児童福祉施設に入所している
子どもの作品展やこいのぼり運動等の各種事業を通じ、普及・啓発に努めてき
ました。
今後も引き続き、県民だより、テレビ、新聞等の広報媒体を利用した啓発活
動を展開するとともに、児童福祉週間関連事業や各種研修会等を実施するなど、
家庭、学校、児童福祉施設、地域社会等社会全体への児童福祉の理念の普及、
啓発に努めます。

(2) 児童生徒の権利に関する理念の教育・啓発
子どもが人種、性、出身などで差別されることなく、権利の主体として認め
られ、将来の社会を担う子どもの成長、発達を保障するため、家庭をはじめ社
会が最善の努力をすることが必要です。
「児童の権利に関する条約」については、学校教育において児童生徒に趣旨
を理解させるとともに一人ひとりの良さを生かし、個を大切にする教育が一層
行われるよう、その趣旨・内容を教職員に周知徹底します。
また、児童福祉関係者に対し、研修会等の場を利用して、条約の周知を図る
とともに、県民に対しても啓発に努めます。

(3) いじめ問題等への取組
いじめ問題をはじめ不登校、体罰等の問題は、児童生徒の人権にかかわる重
大な問題であるとの認識に立って、その防止や解決に向け取り組む必要があり
ます。
そのためには、学校では、一人ひとりの児童生徒を大切にした教育活動を展
開するとともに、家庭や地域社会、関係機関との連携を積極的に進め、社会全
体が一体となって取り組みます。
また、学校生活における教育相談や不登校児童生徒の社会生活への適応を図
るためにスクールカウンセラーを配置するとともに、子育てに対する支援等を
図るために、教育訪問アドバイザー事業など各種相談事業を実施し、教育相談
体制の充実を図ります。

(4) 児童虐待防止等への取組
保護者等の養育力不足などにより虐待されている子どもについては、家庭に
おける問題発生を早期に、また的確に把握し、真に子どもの利益になる処遇を
実現することが重要であるため、市町、児童相談所、保健福祉事務所等関係機
関や、主任児童委員、民生・児童委員が連携し、児童や家庭に対する支援を一
層進めます。また、児童虐待問題に適切に対応するため、市町、及び児童相談
所や保健福祉事務所をはじめ保育所、幼稚園、病院など子どもや家庭との関わ
りが深い機関・団体等が一体となって取り組みます。

(5) 健全育成に向けての取組
子どもを有害な図書やビデオ、広告物等に加え、さまざまなメディアによる
有害な環境から守ることは重要な課題です。そのために、佐賀県青少年健全育
成条例をはじめとする関係法令等の効果的な運用に努め、関係業界に対して自
粛・自制の取組要請を強化していくとともに、広く啓発活動を展開し、家庭や
学校、地域住民が関係機関や青少年育成団体と一致協力して、子どもの健全な
育成にとって有害な環境の除去に取り組みます。
また、児童の健全育成の活動の拠点となる児童館・児童センターの整備や野
外活動や集団宿泊活動など、子どもが異年齢児との交流や、生活体験、自然体
験などを行う場の確保に努めます。
さらに、地域における子どもたちの自主的な活動は、子どもたちがさまざま
な体験を積む上で大事な役割を果たしており、これらの活動に対して、文化、
スポーツ、福祉等さまざまな分野のボランティアとして、子どもたちの活動の
育成指導に当たる人材の確保を促進します。

(6) 被害少年への支援など
近年、インターネットの出会い系サイトを利用した児童買春をはじめとして、
児童の心身に有害な影響を与える行為をさせる犯罪や、少年の福祉を害する犯
罪が増加し、これらの犯罪の被害に遭う子どもの数も増加しています。
このため、関係機関と連携して犯罪の被害に遭った少年の立直り支援を行う
とともに、このような犯罪の取締りを推進し、被害少年の保護を図ります。
また、犯罪等の被害に遭った少年等が気軽に相談できる電話相談等を、福祉、
保健、教育、警察の各機関で幅広く実施し、子どもが相談しやすい体制づくり
を促進します。

(7) 児童の性的被害の防止及び思春期における性教育の充実
性被害等の弱者である子どもの安全を確保するために、子ども及び保護者の
犯罪意識、性に対する正しい理解と知識の普及を高めるための広報啓発を実施
します。
また、学校、企業、CSOとの連携の下、思春期の児童・生徒を対象に結婚、
妊娠、出産、育児及びエイズをはじめとする性行為感染症の予防などに関する
保健教育講座を開催し、また、性に関する科学的な知識の習得と生命の尊厳や
母性の社会的機能としての重要性を認識させるため、発達段階に応じた教育及
び情報提供に努めます。

(8) 適切な保育
保育所は、親の就労等により保育に欠ける子どもに対し、健康、安全で情緒
の安定した生活ができる環境を用意し、家庭と連携しながら家庭教育の補完を
担い、健全な心身の発達を図ります。
保育所保育指針における「人権を大切にする心を育てる」ため、この指針に
基づき、保護者と連携をとりながら、子どもの年齢や心身の発達に応じた適切
な保育を実施します。

(9) 子どもの安全・安心の確保
子どもが日常生活の中で、暴行や傷害、わいせつ行為などの犯罪の被害者と
なるケースが増加し、学校や使い慣れた通学路でも必ずしも安全とは言えなく
なっています。
このため、犯罪に関する適切な情報の提供や「こども110番の家」の設置
促進、児童生徒の登下校時におけるパトロール等防犯ボランティア活動を推進
し、学校、家庭、地域社会等が一体となって防犯意識の高揚や子どもに対する
防犯指導の強化による犯罪被害の防止を図ります。

(10) 相談体制の充実
日本国憲法や児童福祉法にいうまでもなく、子どもも一人の人間として、そ
の人権が尊重され、守られなければなりません。
このため、児童相談所や保健福祉事務所、教育センター等の子どもや家庭に
関する各相談機関と市町の相談窓口との相互の連携を強化します。
また、子どもの人権専門委員、人権擁護委員、主任児童委員、民生委員・児
童委員、学校、家庭児童相談員、保健センター、保育所などが連携を深め、地
域ぐるみで子どもの人権相談の体制を築くよう努めます。

4 高齢者
【現状と課題】
わが国は世界一の長寿国ですが、21世紀の半ばには、国民の3人に1人が
65歳以上の高齢者という、極めて高齢化の進んだ社会になるものと予測されて
います。本県の高齢化は、全国より数年先行している状況にあり、今後、高齢化
率はさらに高まるものと予測されます。
高齢化の進行とともに、今後、75歳以上の後期高齢者が大幅に増加するものと
見込まれ、寝たきりや認知症等の介護を必要とする高齢者の増加が予想されてい
ます。
平成12年(2000年)に創設された介護保険制度により介護サービスの社
会化が進んでいますが、要介護者を抱える家族の心身の負担はまだまだ重いもの
があり、中には、介護を要する高齢者に対する虐待や介護が放棄されたりする事
態も生じています。
また、高齢者に対する悪質商法や財産奪取等といった高齢者の権利が不当に侵
害される問題も生じているところです。
人間、歳をとり、高齢期に入れば、程度の差はあっても身体の調子が悪くなっ
たり、判断能力や運動機能が低下し、認知症や寝たきりなどで介護が必要になる
場合もありますが、それまでに果たしてきた家庭や社会への務めや貢献は正当に
評価され、当然敬意が払われるべきものです。
また、高齢化の進展に伴い、高齢者が、長くなった高齢期間を心身の健康を維持
しつつ、「個人の尊厳」と「生きがい」を持って、社会の一員として充実した生涯
を送り、たとえ介護が必要な状態になっても、個人として尊重され、その人らしい、
自立した安らぎのある生活が送れるようにすることが大切です。このため、本県
では明るく活力のある豊かな長寿社会を目指して、「さがゴールドプラン21」を
策定し、高齢者保健福祉施策の総合的かつ効果的な推進を図って来たところです。
今後は、高齢者問題に対する理解を深め、高齢社会に生きる人間としての自覚を
高めるなど高齢者の人権が尊重され、高齢者が住み慣れた地域で健康で生きがい
を持ち、長年にわたり培ってきた豊かな知識・経験等を活かして社会参加し、安
心していきいきと暮らすことができる社会の実現を目指し、人権教育や啓発を推
進する必要があります。

【具体的施策の方向】
県では、高齢社会を迎える中で、高齢者の人権問題に対する理解を深めるため、
世代間の相互理解を深める教育・啓発を推進し、全ての高齢者が住み慣れた地域
で健康で生きがいを持ち、安心していきいきと暮らすことができるよう、以下の取
組を積極的に進めます。

(1) 啓発活動の推進
高齢者が多年にわたり、社会の進展に寄与してきた者として、敬愛されるとと
もに高齢者の一人ひとりが社会の構成員として尊重されるために、高齢者の人
格や人権に十分配慮する必要があることについて、県民の意識の高揚に努める
ことが必要です。

ア 「老人の日・老人週間」における行事を通じ、高齢者福祉についての県民
の関心と理解の促進が図られるよう努めるとともに、佐賀県長寿社会振興財
団による「さがねんりんピック」の開催、高齢者スポーツ活動の支援、広く
県民に対し高齢者のいきいきとした姿を紹介する、いきいき情報誌「ハーモ
ニー」の発行に対する支援を通じて高齢者の社会活動についての県民への啓
発に努めます。

イ 高齢社会の到来に伴い、多世代が理解し尊重しあう多世代共存社会が望ま
れているところから、世代間交流を日常的に推進することが重要になってい
ます。
高齢者と児童生徒等他世代とのイベントやシンポジウムの開催等の事業を
通じ高齢者と若い世代との相互理解や連帯感を深め、世代間の交流機会が充
実するよう努めます。

(2) 学校における福祉教育の推進
学校教育において、生徒が、高齢社会に関する知識や福祉・介護等の問題に
ついて理解を深め、高齢者への福祉・介護等について主体的に行動できる態度
が育成されるよう努めます。具体的には地域社会の福祉分野で熱心に活動して
いる人の講師派遣や在宅福祉サービス等の体験活動を通じて、高齢者に対する
福祉教育の充実を図っています。
今後とも、福祉施設などの訪問、学校行事への高齢者の招待、心の交流に関
する教育講演会等を通じて、福祉教育の推進に取り組みます。

(3) 高齢者の学習機会の整備、社会条件等
地域住民に身近なレベルで「明るい長寿社会」の実現を図るため設置した佐
賀県長寿社会振興財団による高齢者大学の運営・シニアリーダー(高齢者指導
者)の養成や佐賀県老人クラブ連合会や市町が実践する事業に対して積極的に
支援するなど、学習機会の充実や老人クラブ活動の充実などの条件整備により、
高齢者の積極的な地域社会活動への参加を促し、自ら生きがいのある豊かな人
生を創造できるよう努めます。

(4) 高齢者の雇用、就業機会の確保
本格的な高齢社会と人生80年時代を迎え、明るく活力のある豊かな長寿社会
を維持していくためには、高齢者の意欲と能力に応じた雇用機会の確保が重要
な課題となっています。
高齢者が長年にわたり培ってきた知識、経験等を活かして活躍できる社会を
実現するため、多様な形態による雇用・就業機会の確保のための啓発活動など
に取り組みます。

(5) 高齢者の就業機会の確保に向けた能力の開発
高齢者が職業生活の中で培ってきた知識や技能等を生かし、高齢者の特性に
配慮した訓練技法や、高齢者の多様な就業ニーズを考慮した訓練科等の開発を
推進されるよう啓発に努めます。

(6) 農山漁村の高齢者の生涯現役支援
農林漁業においては、若年層の流出もあって県全体より約10年先行した形
で高齢化が進んでおり、21世紀に向けて、農山漁村高齢者が、意欲や体力に
応じて、それぞれの地域の中で生きがいを持って、暮らしていけるような条件
づくりに取り組んでいくことが極めて重要となっています。
高齢者の豊かな経験や技術を活かした軽量野菜等の産地づくりや、農林水産
物の加工・販売活動、農業体験や食農教育活動における指導、地元農産物や地
域食文化の伝承活動を通して、農山漁村の高齢者が、いきいきと活躍できる農
山漁村社会づくりを支援していきます。

(7) 高齢者虐待防止への取組
養護者による身体への暴行や介護放棄等の高齢者虐待問題は、高齢者の尊厳
の保持にとって虐待を防止することが極めて重要であるため、「高齢者の虐待防
止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」が制定され、平成18年4
月から施行されました。
虐待の定義や虐待発見者の通報義務など、この法律の広報啓発に努めるとと
もに、市町、地域包括支援センター、介護保険事業者等の関係機関と連携して
虐待の早期発見、解決に努めます。
また、介護保険法の施行に伴い、介護保険施設等においては、身体拘束が原
則廃止され、佐賀県身体拘束ゼロ作戦推進会議において「身体拘束ゼロさが宣
言」が決議されました。今後とも高齢者の心身の状況に対する理解を深め、介
護保険施設等ほか関係団体や利用者・家族と連携し、身体拘束の廃止の推進に
努めます。

(8) 相談体制の充実
介護や支援を要する高齢者の増加、介護期間の長期化などに伴い、要介護高
齢者に対する虐待は深刻な問題となっています。また、加齢等により判断能力
が低下した高齢者の増加に伴い、財産管理なども問題となっています。
高齢者に対する虐待その他人権侵害の発生などの救済や未然防止を図るため、
地域包括支援センターや佐賀県シルバー情報相談センターによる相談体制の充
実に努めます。

5 障害者
【現状と課題】
わが国の障害者は、身体障害者が352万人、知的障害者が46万人、精神障
害者が258万人と推計されています。
障害や障害者に対する理解と認識は深まってきてはいますが、一方では、障害
者に対する「いじめ」、「偏見」、「権利侵害」などの事例も生じています。
特に、精神障害者については、いまだに社会的な誤解や偏見が見られるなど、
障害者に対する理解と認識は十分と言えない面があります。
本県の障害者福祉については、昭和56年(1981年)の「国際障害者年」と
昭和58年(1983年)から始まる「国連・障害者の10年」並びに、そのあと
を受けた「アジア太平洋障害者年」に対応して、昭和57年(1982年)に「佐
賀国際障害者年長期行動計画」、平成6年(1994年)には「佐賀県障害者施策に
関する新長期行動計画~やさしさ広げるふれあいプラン~」を策定、さらに平成
10年(1998年)1月に新長期行動計画の重点実施計画である「佐賀県障害者プ
ラン(ともに生き分かちあう社会をめざして)」を策定し、「ノーマライゼーショ
ン」や「リハビリテーション」の理念を基本理念とし、障害者施策の総合的な推
進に取り組んできました。
これらの取組により、障害者施策の基本理念である障害がある人も家庭や地域
で通常の生活ができるようにする社会づくり(ノーマライゼーション)の理念も、
県民の間に徐々に浸透し、障害者自身のさまざまな社会活動への取組も活発化し、
生活の質の向上への意識も高まるなど、一定の成果をあげてきました。
しかしながら、障害や障害者に対する理解や認識がなお不十分であるなど、障
害者の自立や社会参加を阻む障壁(バリアー)が依然として存在しており、障害
者の「完全参加と平等」を目指すという観点から必ずしも十分な状況にあるとは
いえません。
また、障害者の地域移行の進展や高齢化によって障害のある人の増加などが予
測される中で、すべての人にとって障害や障害者の問題が自分の問題であるとい
う認識を持つことが必要となってきています。
県では、この様な状況を踏まえ、「ノーマライゼーション」や「リハビリテーシ
ョン」の理念を継承するとともに、さらに、障害者施策の一層の推進を図るため、
平成16年(2004年)3月に「佐賀県新障害者プラン(地域での自立生活に
向けて)」を策定し、その中で、障害や障害者に対する偏見や差別の意識など「心
の壁」を取り除くための人権教育や啓発活動の推進に取り組んでいます。

【具体的施策の方向】
障害のある人が将来に夢を持って、健康で安心して、安全に障害のない人と同
じように普通の暮らしを送り続けることができる地域社会、またその持てる能力
を十分に発揮しながら、社会の一員としてあらゆる分野に参加、参画することが
できる共生社会を実現することを目的とした「佐賀県新障害者プラン」の基本的
な方向を踏まえ、特に、障害者は自立した主体的存在であることが損なわれない
よう、次のような施策を推進します。

(1) 啓発活動の推進
これまで、障害や障害者に対する県民の正しい理解と認識を深めるため、「障
害者週間」(12月3日から9日)を中心に「人権週間」「障害者雇用促進月間」
「精神保健福祉普及運動」などの時期を捉えて、県の広報誌やテレビ、ラジオ、
新聞等により啓発広報を実施したほか、記念集会や障害者作品展、一般県民か
らの啓発作文・ポスターの募集を行ってきました。
今後も県民だより等の広報媒体の活用やテレビ、ラジオ、新聞等のマスメデ
ィアの協力を得ながら広報活動を展開するとともに、障害者週間推進関連事業
により、普及、啓発に努めます。

(2) 障害者への理解を深めるための福祉教育の推進
学校や地域における交流及び共同学習の実施は、障害のある子どもに対する
理解と認識を促進するうえで大きなものがあります。

ア 盲・ろう・養護学校の児童生徒と地域の人々や小・中学校等の児童生徒と
の交流及び共同学習の推進を図ります。

イ 児童生徒の学校外活動として、障害のある児童生徒が障害のない児童生徒
と共に参加する自然体験や生活体験活動等に取り組みます。

ウ 教育関係者や児童生徒に対するボランティア活動の啓発や体験・交流活動
等の推進を図ります。
また、学校や地域における講習会の開催、並びに教育関係者及び保護者等
に対する啓発事業を推進します。

(3) ボランティア活動の推進
ボランティア活動は、誰もが対等な関係で共に学び、ふれあい、喜び悲しみ
を分かち合いたいという共生の意義をより深く理解することができる良い機会
ともなります。

ア ボランティア養成やボランティア活動を推進し、障害者への理解と交流の
促進を図ります。

イ 障害者に対しても、その適性と能力に応じたボランティア活動の啓発や体
験・交流活動等を推進します。

(4) 障害者スポーツ・レクリェーションの振興等
障害者スポーツは、障害のある人が個々の能力や個性を発揮しながら豊かで
生きがいのある生活を実現するために非常に重要であるとともに、障害や障害
者に対する理解の増進と関心を高めることにも大きく寄与すると考えられます。

ア 障害者団体等が開催するスポーツ大会を支援するとともに全国大会に参加
する障害者を支援します。

イ 障害者スポーツ団体が実施するスポーツ教室への、より多くの障害者の参
加とボランティアの積極的な参加が図られるよう、PRを行うとともに、ス
ポーツ団体やボランティアセンターなどの関係機関との連携を強化します。

(5) 精神保健福祉事業の推進
最近の社会構造、人間関係の複雑化等にともなうストレスの増大により心の
健康を損なう人が増加しています。
精神障害者の社会復帰、社会参加を促進していくためには、精神障害者に関
する社会的偏見や誤解を是正して(心のバリアフリー)、地域住民が障害者とと
もに暮らしていける地域づくりを促進していく必要があります。
このため、精神保健福祉関係業務に従事する職員を対象とした研修の充実に
努めるとともに、地域住民に対する正しい知識の普及や交流会の実施を推進し
ます。

(6) 障害者の社会参加、職業的自立の促進
障害者の生活の質の向上や就労を含めた社会参加を促進するため、パソコン
教室の開催など障害者のパソコン活用能力の向上を目指して事業に取り組みま
す。
また、障害者の職業的自立を促進するため、県民、とりわけ雇用主の関心と
理解を深めるため、障害者雇用支援月間を中心に、障害者の就職相談会、啓発
パレード等、啓発活動を積極的に推進します。
また、障害者の職業能力開発を促進するための職業訓練にも、積極的に取り
組みます。

(7) 相談体制の充実
住民のもっとも身近な市町において、障害の種別等にかかわらず、幅広い相
談に適切に応じられる相談支援体制が整備されるよう支援します。
また、障害者に対する虐待等の人権侵害からの救済を図るため、障害者と接
する機会の多い障害者関係の相談員に対する研修、啓発を充実します。
さらに、障害者の権利擁護に係る相談等に対応するため、常設窓口を設置し、
内容に応じて専門相談を行う障害者110番事業を実施し相談体制の充実強化
に努めます。

6 外国人
【現状と課題】
近年の急速な国際化の進展により、諸外国との人的及び物的交流が飛躍的に拡
大し、日本に在住する外国人の数が増え続けています。佐賀県においても同様で、
本県における外国人登録者数は、平成17年(2005年)12月31日現在で
4,448人となっており、10年前の約1.8倍と高い伸びを示しています。
また、佐賀県は、その地理的近接性から、古くから大陸文化の流入窓口として、
朝鮮半島、中国大陸等アジア地域との交流の歴史をもっていましたが、現在でも、
外国人登録者数の約9割がアジア地域からとなっているなど、アジア地域との交
流が盛んに行われています。
佐賀県における外国人の数が増える中で、特に言語、宗教などの文化や生活習
慣といった、人が生活していくうえでの基本的な価値観の相違に基づく理解の欠
如などから、いまだに外国人に対する偏見や差別が見られる場合があり、特に日
本語が不自由な外国人にとっては、日常生活上において、例えば就職や住宅への
入居等に際し困難を感じることは想像に難くないところです。
このような問題をなくすために、同じ地域で暮らす住民であるという視点から、
民族や国籍を越えて、外国人も地域社会の一員として人権を尊重され、安心して
生活できる共生社会の実現のために文化や歴史についての正しい認識を醸成する
など県民の意識啓発を進め、地域レベルでの国際理解と国際化に対応した人材の
育成を積極的に推進するとともに、外国人のための相談体制の充実や日本語・日
本文化理解に対する支援を行っていく必要があります。

【具体的施策の方向】
(1) 地域レベルでの国際理解と国際化に対応した人材の育成
県民の国際理解を深めるため、学校、公民館、団体等への外国人講師の派遣
や国際交流を推進するための講演会の開催、外国人と地域住民との交流機会の
提供を行うとともに、各種民間交流団体が行う事業への助成など、県、市町、
民間団体、県民が一体となって地域レベルでの国際理解の推進と国際化に対応
した人材の育成に取り組みます。

(2) 外国人への情報の提供及び相談体制の整備
外国人と県民の交流の場及び情報収集の場の整備や外国語による情報誌の発
行やテレフォンサービスの実施、日常生活情報を掲載したハンドブック等の作
成、配布をするとともに、外国人の相談窓口に外国語に対応する職員を配置し、
県内で生活する外国人が円滑な生活を送れるような支援体制を整備します。

(3) 外国人の活動及び日本語・日本文化理解に対する支援
国際交流登録ボランティアによる外国人の活動・民間団体が行う国際交流活
動に対する支援を行うとともに、外国人向けの日本語講座や文化講座の開設、
日本の生活文化にふれる機会を提供する事業等を実施し、外国人の活動や日本
語・日本文化理解に対する支援を行います。

(4) 外国人児童生徒に対する支援
学校教育においては、外国人児童生徒を柔軟に受け入れ、文化と言葉の異な
る外国人と日本人の児童生徒が、互いの相違を認識し尊重し合うという、国際
社会での基本姿勢を学ぶことになります。
また、外国人児童生徒が学校生活に適応していけるよう、学校全体の協力体
制づくり、日本語指導と教科指導の連携、学級運営等の充実を図ります。

(5) 学習機会等の充実
国際化へ対応していくためには、まず、県民一人ひとりが国際社会に対する
正しい認識を持ち、国際理解を深めることが必要であり、そのため、地域にお
ける身近な学習機会の場を充実します。
また、学習機会の提供とともに、国際化に関する学習情報提供・学習相談体
制の整備充実を図ることが重要です。
このため、国際化に関する学習情報を、(財)国際交流協会を核として県、市
町、学校、大学、民間団体等幅広い範囲から収集・整理・提供する体制を整備
するとともに、地域住民の多様なニーズに対応するため、きめ細かな学習相談
体制の充実に努めます。

7 患者等
現在、医学的に見て不正確な知識や思いこみ等による理解不足、過度の危機意
識の結果、感染症や難病等を抱え暮らしている方々に対する偏見や差別意識が生
まれ、患者、元患者や家族に対するさまざまな人権問題が生じています。
感染症については、まず、治療及び予防と言った医学的対応が不可欠であるこ
とは言うまでもありませんが、それとともに、患者、元患者や家族に対する偏見
や差別意識の解消など、人権の尊重の視点も重要です。
また、生まれながらに、あるいは人生なかばで原因不明の病気に罹患し、苦し
んでいる大勢の患者・家族がいます。この難病や慢性的な病気の患者やその家族
は、経済的に大きな負担となるばかりでなく、周りの人の病気に対する無理解か
らくる偏見や差別のため、身体的な苦痛の上に、精神的にも苦しみを感じている
人が少なくありません。こうした偏見や差別の解消が課題となっています。

(1) HIV感染者等
【現状と課題】
HIV感染症は、進行性の免疫機能障害を特徴とする疾患であり、HIV(ヒ
ト免疫不全ウィルス)によって引き起こされる免疫不全症候群のことを特にエ
イズ(AIDS)と呼んでいます。エイズは、昭和56年(1981年)にア
メリカ合衆国で最初の症例が報告されて以来,その広がりは世界的に深刻な状
況にあります。
わが国においても昭和60年(1985年)3月に安全対策を怠った非加熱
性血液製剤によるHIV感染被害である薬害事象により最初のエイズ患者が発
見され、国民の身近な問題として表面化し社会問題となりましたが、以後は血
液製剤(輸血を含む)によるHIV感染には十分なチェック体制が取られるよ
うになり血液製剤(輸血を含む)感染の危険は激減しました。
また、HIVは日常的な接触では非常に感染しにくいウィルスにもかかわら
ず、当時、簡単に感染し、発病すれば必ず死亡するという誤った知識が広がり、
患者や感染者等への差別が発生し、これまで多くの偏見や差別意識を生んでき
ました。そして、そのことが原因となって、医療現場における診療拒否や無断
検診のほか、就職拒否や職場解雇、アパートへの入居拒否、立ち退き要求、公
衆浴場への入場拒否など、社会生活のさまざまな場面で人権問題となって現れ
ました。
近年、わが国でのHIV感染者・エイズ患者の報告数は増加する傾向にあり、
また「日常的な性行為による感染」によるものが大部分を占めるなど、深刻な
状況となっています。
本県においては、HIV感染者等の報告は少ないものの、人工妊娠中絶率が
全国的にも高い傾向があり、若い世代がエイズの疾病概念や感染経路、その予
防法を正しく知ることが重要になっています。
しかしながら、「HIV感染症は非常に感染しにくい」、「非日常的な性行為に
よって感染する」など誤った認識や偏見により、特別視する傾向が根強く、こ
のことがHIV感染への無関心、HIV感染者等の偏見や差別につながること
が考えられます。
近時の医学的知識の蓄積と新しい治療薬の開発などによってエイズの発症を
遅らせたり、症状を緩和させたりすることが可能になってきていますが、現時
点では一度感染すると完治することは困難で、HIV感染者等にとって健康を
維持するために、精神的、身体的・経済的にも多大な負担がかかる状況にあり
ます。
HIV感染者等が地域の中で尊厳をもって暮らせる社会づくりのためには、
周囲の人々の理解と支援が欠かせません。
このため、HIV感染者等についての正しい知識の普及を図り、差別や偏見
の解消に努めるとともにHIV感染の予防を行う必要があります。

【具体的施策の方向】
今日、HIV感染症をめぐる諸環境は大きく変化しており、HIV感染者等
の人権に配慮した機運も醸成されています。
HIV感染症については、発生の予防と患者等の人権の尊重の両立を基本と
し、HIV感染者等が個人の尊厳をもって、地域社会において安心して生活で
きる社会づくりが求められています。
このため、次のような施策の推進を図ります。

ア 啓発活動の推進
広く県民を対象とした普及・啓発を実施し、エイズ患者やHIV感染者に
対する差別の解消及び人権尊重への理解を深めます。
また、医療関係者を対象にカウンセリングに関する研修を実施し、HIV
感染者等の人権に配慮した対応等についての普及・啓発を図ります。

イ 学校での教育・啓発
エイズは、児童生徒の発達段階に応じて正しい知識を身につけさせること
により、エイズを予防する能力や態度を育てるとともに、エイズ患者やHIV感染者に対する偏見や差別を払拭し、人権尊重の精神を育てることが重要
です。
パンフレットの配布、講演会を開催するとともに、教職員へのエイズ教育
研修を実施し、指導者の資質向上を図ります。
また、学校・家庭・地域の連携によるエイズを含む性教育を推進します。

ウ 相談体制の充実
県民からのエイズに関する相談窓口を各保健福祉事務所に設置しています。
感染に不安のある人やエイズ患者、HIV感染者に対しては、プライバシー
に配慮した適切な相談を実施する必要があります。
このため、個人情報を保護する観点から、プライバシーの侵害などあらゆ
る人権問題の解決を目指した相談体制の充実を図ります。

(2) ハンセン病元患者等
【現状と課題】
ハンセン病は、「らい菌」という細菌による感染症ですが、「らい菌」に感染
しただけでは発病する可能性は極めて低く、飲食・入浴などの日常生活では感
染することは、ほとんどありません。仮に発病した場合であっても、現在では
治療方法が確立しています。また、遺伝する病気でないことも判明しています。
ハンセン病患者を隔離する必要は全くありませんが、我が国では明治時代か
ら施設入所を強制する隔離政策が採られてきました。この隔離政策は、昭和
28年(1953年)に改正された「らい予防法」においても引き続き維持さ
れ、さらに、昭和30年代に至ってハンセン病に対するそれまでの認識の誤り
が明白となり、WHO(世界保健機構)が外来治療を勧告した後も依然として
続けられました。
平成8年(1996年)に「らい予防法の廃止に関する法律」が施行され、
ようやく強制隔離政策は終結することとなりました。しかし、療養所入所者の
多くは、病気は完治していますが、これまでの長期間にわたる隔離などにより、
家族や親族などとの関係を絶たれ、また、ハンセン病の後遺症である身体の障
害等により、依然として患者であるとの誤解が払拭されていないという現状に
あります。
そのため、このような社会における根強い偏見や差別に加えて、さらには入
所者自身の高齢化等により、現在も多くの人が療養所に残らざるを得ないなど、
社会復帰が困難になっています。
このような状況の下、平成13年(2001年)5月11日、ハンセン病患
者に対する国の損害賠償責任を認める熊本地方裁判所判決が出されましたが、
これが大きな契機となって、ハンセン病問題の重大性が改めて国民に明らかに
され、国によるハンセン病患者及び元患者に対する損失補償や、名誉回復及び
福祉増進等の措置が図られることになりました。

【具体的施策の方向】
今日、ハンセン病患者及び元患者に関しては、ハンセン病に対する正しい知
識や情報が十分には普及していないことにより、社会参加の妨げとなるような
宿泊拒否事件が発生するなど、日常生活における差別や嫌がらせなどの偏見や
差別は根強いものがあります。
このため、このような偏見や差別意識を解消し、ハンセン病患者等が個人の
尊厳をもって、地域社会において安心して暮らすことができるような社会を実
現するため、ハンセン病に対する正しい知識の普及・啓発のなお一層の推進に
努めるとともに、円滑な社会復帰を図れるよう各種支援を行います。
このため、次のような施策の推進を図ります。

ア 啓発活動の推進
啓発資料の作成・配布、各種広報活動や講演会の開催等を通じて、ハンセ
ン病に対する偏見や差別意識を解消し、ハンセン病についての正しい知識の
普及を図ることにより、ハンセン病及びその感染者への理解を深めるための
啓発活動を推進します。
また、学校教育及び社会教育においても、啓発資料の適切な活用を図りま
す。

イ 自立・社会参加への支援
ハンセン病患者・元患者等に対し、県勢の動きを理解してもらい、円滑な
地域社会への復帰や故郷との交流を図ることを目的として、ハンセン病療養
所入所者に対する里帰り支援などを積極的に推進します。

ウ 相談体制の充実
ハンセン病療養所等を退所され、又は入所されたことのない方々などが、
円滑な社会生活を営むために、相談窓口を設置するなど、相談体制の充実を
図ります。

(3) 難病患者等
【現状と課題】
難病については、その多くが原因不明で治療法も確立されておらず、生涯に
わたって治療・闘病を必要とします。また、経済的に大きな負担となるばかり
でなく、介護等に著しく労力を要するため家族にとっては、身体的・精神的な
負担は計り知れないものがあります。難病はその種類も多くさまざまな病気の
特性があり、また個人差があるため、一見して病気とわかる場合もあれば、全
く健康な人と変わらない場合もあります。
さらに、就労については、重症患者など多くの患者が働くことができない上、
軽症の人や症状が回復した人であっても、治療や療養の制約があるため思うよ
うに働くことができず、安定した収入のある就職が困難なこともあります。
そのため患者の中には、病気に対する無理解や偏見により、心ない言葉をか
けられるなど、就学、就労、結婚など社会生活のあらゆる場面で差別を受け、
中には、病気を周囲に隠して生きている人も少なくなく、こうした差別や偏見
を払拭することが必要になっています。

【具体的施策の方向】
難病という病気を持って生きることになっても、その人の意思で普通に生き
ていけるような支援が求められています。
そのため、難病患者等のそれぞれの人権が尊重され、個人の尊厳をもって、
地域社会において安心して暮らすことができるような社会を実現するための環
境整備のほか、適切な情報や必要な医療の提供、さらには患者や家族の支援体
制の整備を推進します。

ア 正しい知識の普及・啓発活動の推進
難病患者等への差別や偏見を解消するため、多様な機会や手法の工夫を図
り、正しい知識の普及・啓発により理解を深めるための広報・啓発活動を推
進します。
また、難病の医療やケアに関する新しい情報を提供するために講演会を開
催したり、医療・福祉サービス等を掲載したパンフレット等を作成し、正し
い情報の提供を積極的に推進します。

イ 相談・支援体制の充実
地域で生活する難病患者やその家族などの精神的、経済的負担を軽減でき
るよう、各保健福祉事務所において、病気等に関する訪問相談や所内での面
接相談のほか、同じ病気を持つ患者や家族等がお互いの不安や悩みを分かち
合い、支え合いながら仲間づくりができるように、患者や家族同士の交流機
会を支援します。
また、県難病相談・支援センターにおいても、難病患者やその家族を支援
する拠点として、難病患者等の日常生活の相談、支援、地域における交流活
動等を通じて、難病患者やその家族が自立し、積極的に地域社会活動に参加
できるように努めます。

8 犯罪被害者等
【現状と課題】
わが国における犯罪被害者数は、平成16年(2004年)における総数は約
256万人となっていますが、犯罪による被害は、直接の被害者だけでなく、そ
の家族などの精神面や生活面にも一生立ち上がれないほどの大きな影響を与える
ものであり、これらの間接的被害も含めると被害を受けている方は相当の数にな
ります。
警察庁において被害者の視点に立った各種施策の推進のため「被害者対策要綱」
が、平成8年 (1996年)2月に制定され、その後犯罪被害者の人権は、頻繁に
取り上げられるようになりました。
犯罪被害者は、犯罪によって生命を奪われたり、身体を傷つけられたり、物を
盗まれるなどの生命、身体、財産上の直接的な被害だけでなく、被害後に生じる
様々な問題にも苦しめられます。例えば、事件に遭ったことによる精神的ショッ
ク、失職・転職などによる経済的困窮、捜査や裁判等の過程での精神的・時間的
負担、周囲の偏見、風評やプライバシーをも侵害しかねない執拗な取材・報道等
による不快感・ストレスなど、被害後に生じる「二次的被害」と言われるもので
す。
特に、大きな精神的・心理的衝撃を受けることにより、トラウマ(心的外傷)や
PTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症し、行動範囲が狭まることにより日
常生活にも支障をきたすなど、次第に孤独感を強くすることになります。こうし
た「二次的被害」によって、被害者は二重三重の苦しみを体験することになって
しまいます。
欧米を中心とする諸外国では、国家が犯罪を防ぐことができなかったという視
点に立ち、犯罪被害者の権利として、①個人として尊重されること、②加害者の
刑事手続等に関与し、知る権利、③被害回復を求める権利、④物質的・精神的・
心理的・社会的支援を受ける権利等を確立し、犯罪被害者の法的地位を充実する
法制度を整備するとともに、多様な支援を提供できる民間の被害者支援機関が組
織され、国と社会全体で総合的な被害者支援対策を推進しています。
近年、わが国でも、犯罪被害者の人権や心に受けた傷に対する社会的関心が高
まる中、刑事訴訟法の一部改正や、「犯罪被害者等の保護を図るための刑事手続に
付随する措置に関する法律」及び「犯罪被害者等給付金の支給等に関する法律」
等が施行され、このような経過の中、犯罪被害者等の権利と利益を保護するため
犯罪被害者等基本法が平成16年(2004年)12月に成立し、平成17年
(2005年)4月1日から施行されています。
しかし、欧米に比べわが国では、犯罪被害者支援対策が相当立ち遅れていると
言えます。犯罪被害者やその家族の人権が侵害されるケースはさまざまですが、
被害者が今どのような支援を必要としているかを正確に見極め、適切に対処する
必要があります。そのためには、被害者の人権の尊重を基本とし、一方的な支援
の押しつけではなく、被害者の置かれている状況や心情を理解することが前提と
なります。

【具体的施策の方向】
犯罪被害者に対する支援のためには、誰もが被害者になる可能性があるとの認
識のうえに立って、被害者の人権を尊重し、被害者を社会全体で支え合うことが
できる社会づくりを推進することが必要です。
このため、県民の人権に対する認識と犯罪被害者に対する理解が深まるよう努
めます。そして、犯罪被害者と最も密接に関わる警察や行政職員においては、高
い人権意識による被害者の視点に立った対応を徹底します。
また、犯罪被害者を総合的に支援するために、犯罪被害者の相談機関、支援関
係の諸機関や民間団体等が相互に連携を強化して支援体制の充実を図り、被害者
支援活動を効果的に推進します。
さらに、再被害防止措置や重大な犯罪の未然防止措置にも取り組みます。

(1) 啓発活動の推進
ア 犯罪被害者が受けている直接的・間接的被害に対する現状や援助の必要性
について、講演等を通じ県民の認識を深めるための啓発活動を推進します。

イ 犯罪被害者と密接に関わる警察職員や行政職員などの研修を継続的に行い、
被害者の人権に添った適切な対応を促進します。

ウ 犯罪被害者等への報道機関の過剰な取材・報道に対し、マスコミの自主規
制を促し理解ある対応を求めます。

(2) 相談・支援体制の充実
ア 犯罪被害者が再び平穏な生活を営むことができるように、警察本部及び全
警察署の相談窓口において相談支援に努めます。
また、警察以外にも、被害者が安心して相談できる相談機関や民間支援組
織等の相互連携の強化による支援体制の充実を図り、被害者が求める救済に
即した総合的な被害者支援活動を効果的に推進します。

イ 保健医療サービスや福祉サービスの提供が必要な場合、住んでいる地域で
適切に専門的医療や福祉サービスを受けられるような支援体制を整えます。

ウ 故意の犯罪行為により不慮の死亡、重傷病、障害という重大な被害を受け
たにもかかわらず、公的救済や加害者側からの損害賠償も得られない被害者
又は遺族に対して、「犯罪被害者等給付金の支給等に関する法律」に基づき、
給付金を支給することにより、その精神的・経済的打撃の緩和を図ります。

(3) 再被害防止措置の確保
犯罪被害者及びその家族が同じ加害者から再度危害を受けることを未然に防
止し、安全確保を徹底するため、警察及び関係機関における防犯指導、警戒措
置等の再被害防止の措置の強化に努めます。

(4) 重大な犯罪の未然防止措置
重大な犯罪を未然に防止することが、犯罪被害者対策としては重要な課題と
言えます。今日、動機不明の犯罪が増えている現状があります。しかし、重大
な犯罪は、地域や家庭内、親密な関係で発生することも多いことから、地域や
家庭内等における犯罪の防止についても取り組みます。

ア 犯罪発生後の捜査だけではなく、ストーカー行為や無言電話、その他不審
な行動等に対する警戒などの防犯活動に努めます。

イ 被害者相談窓口の充実を図るとともに、重大な犯罪による被害発生の未然
防止に努めます。

9 インターネットによる人権侵害
【現状と課題】
高度情報化社会(IT社会)が急速に進展し、誰でも情報の収集・発信ができ
る手軽で便利なメディアとして、わが国のインターネット利用者数は、ここ数年
で急激に増加しており、平成16年度(2004年度)には世帯普及率も80%
近くに達していると言われています。
そして、この近年の急速なインターネットの普及を背景に、電子メールのよう
な特定の利用者間の通信のほかに、ホームページのような不特定多数の利用者に
向けた情報発信や、電子掲示板を利用したネットニュースのような不特定多数の
利用者間の反復的な情報の受発信等により、プライバシーの侵害や差別を助長す
る表現等の流布が増加しています。
いずれも発信者に匿名性があり、情報発信が技術的・心理的に容易にできると
いった面があることから、例えば、他人を誹謗中傷する表現や差別を助長する表
現等によって、個人や団体にとって有害な情報の掲載、また未成年被疑者の実名・
顔写真の掲載等、プライバシーに関わる人権問題が多数発生しています。そして、
その情報は一瞬にして大勢の人々に伝わってしまい、取り返しのつかない事態を
引き起こすこともあります。
また、携帯電話の急速な普及に伴い、いわゆる「出会い系サイト」による児童
買春、インターネット上の過激な暴力シーンや性的な描写を含むサイトなどによ
る子どもに対する人権侵害も深刻な社会問題になっています。

【具体的施策の方向】
県では、インターネットによる人権侵害を防ぐために、利用者一人ひとりが、情
報の収集・発信における個人の責任や情報モラルについて理解が深められるよう、
以下の取組を積極的に進めます。

(1) 啓発活動の推進
平成14年(2002年)5月に施行されたいわゆる「プロバイダー責任制限
法」には、インターネット上など情報の流通において権利の侵害が行われた場合
に、被害者がプロバイダーやサーバの管理者などに対して発信者情報の開示を請
求する権利を与えることが規定されており、こうした法的措置の周知を図ります。
また、憲法の保障する表現の自由に十分配慮しながら、他人の人権を侵害する
恐れのある悪質な差別的な書き込みや個人情報の無断掲載などに対して、プロバ
イダー等に対して当該情報の停止・削除を申し入れて、自主規制を促したり、発
信者が特定できる場合は、本人に対して啓発を通じて侵害状況の排除に努めます。
しかし、違法・有害なインターネット上の差別表現を規制する制度がまだ不十
分なこともあり、なかなか有効な手段がとれない状況にあることを踏まえ、国に
対して、法的措置を含め、適切な対策が講じられるよう要請していきます。
また、広く県民に対し、利用者一人ひとりが人権問題についての正しい理解
のもとに人権を侵害するような情報をインターネット上に掲載しないよう啓発
に努めます。

(2) 学校における情報教育の推進
学校教育の現場においても、インターネット上の誤った情報や偏った情報を
めぐる問題など、情報化の進展が社会にもたらす影響について知り、情報の収
集・発信における個人の責任や情報モラルについて理解させるための教育の充
実を図ります。

1O 人権に関わるさまざまな課題
前述の重点的に取り組むべき分野別人権課題の他にも、次のような課題が存在
します。
(1) 個人情報の保護
高度情報通信社会の進展に伴い、情報通信、金融・信用、医療をはじめとした
各分野で個人情報の利用が著しく拡大しています。個人情報は、いわゆるプラ
イバシーに密接に関わる情報であり、その取扱いによっては、個人の人格的、
財産的な権利利益を損なうおそれがあります。
近年、情報化社会の急速な進展の中で、企業等が保有する顧客情報などの個
人情報が、外部に流出する事件が相次いで発生しており、架空請求などの犯罪
に利用される事態も懸念されています。
このことから、個人情報保護法は、個人情報の適正な取扱いのルールを定め
ることにより、個人情報の有用性に配慮しつつ、個人の権利利益を保護するこ
とを目的として平成15年(2003年)5月に公布され、平成17年(2005
年)4月1日に全面施行されました。
本県においても、県民に対して“自分の情報は自分で守る”意識づくりに努
めるとともに、事業者には個人情報の適正・安全な取得・管理への自律的な取組
を支援します。

(県がお預かりする個人情報の保護について)
県政を進めていく上で、県の各機関で必要最小限の個人情報をお預かりする
ことがありますが、当然、この個人情報についても漏えいなどの危険から保護
する必要があり、また、県の機関が恣意的に他の目的に流用するようなことが
あってはなりません。
このため、県では、国に先がけて平成14年(2002年)4月から、県のお
預かりする個人情報の保護条例を施行し、①個人情報の利用目的を明確にする
こと、②万が一個人情報を漏えいした職員に対しては最高2年の懲役刑を創設
することなどの規制をしています。
また、こういった法令規制事項に加えて、①個人情報をお預かりする際に、
その利用目的を本人にお知らせすること、②個人情報の取扱いに関して疑義が
生じた場合の問い合わせ先の明記といった具体的な対応が重要ですので、こう
したことを徹底するため、「佐賀県個人情報保護の基本方針(プライバシーポリ
シー)」を定めて、内部職員への徹底、県民の皆様へのご案内に努めます。

佐賀県個人情報保護の基本方針(プライバシーポリシー)
http://www.pref.saga.lg.jp/at-contents/privacy

(2) ホームレス
近年のわが国の経済・雇用情勢等を反映し、失業などの経済的要因に加え、
家庭問題等の個人的要因が複合的にからみあって、自立の意思がありながら、
特定の住居を持たずにホームレスとなることを余儀なくさせられている人たち
が都市部を中心に徐々に増えつつあります。
ホームレスの多くは、衛生状況が悪い、十分な食事をとることができないな
どの問題を抱えており、また、一部には地域住民との間にあつれきが生じ、ホ
ームレスに対する嫌がらせや集団暴行による殺傷事件など深刻な人権問題も発
生しています。
平成14年 (2002年)には「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置
法」が施行され、地域社会との協力のもと、職業能力の開発などによる就業機
会や安定した居住空間、保健医療の確保などの施策を通して、ホームレスの自
立を促進していくことや、ホームレスとなることを防止するための生活上の支
援などについて定められています。
ホームレスに関する問題については、県民の理解と協力のもとに、偏見や差
別意識を解消し、国、市町、関係機関等と連携・協力しながら、ホームレスの
社会的自立支援等に関する施策を総合的に推進します。

(3) 性同一性障害者
性同一性障害者は、生まれながらにしてからだの性とこころの性が一致しな
いために自分自身に対し強い違和感を持つと同時に、社会の無理解や偏見ある
いは日常生活のさまざまな場面で奇異な目で見られることで、強い精神的な負
担を受けています。また、就職をはじめ日常生活の中で、自認する性での社会
参加が難しい状況にあるだけでなく、偏見により嫌がらせや侮蔑的な言動をさ
れるなど様々な不利益や差別を受けることがあります。性別適合手術を受けた
人については、戸籍上の性別と外観が一致せず本人確認等で問題が生じている
ため、平成15年(2003年)に「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に
関する法律」を制定し、家庭裁判所の審判によって戸籍上の性別を変更するこ
とが可能となりました。
しかし、今なお公文書の性別記載欄の問題をはじめ、医療の受診、住宅への
入居などさまざまな問題が指摘されています。
そのため、性同一性障害に対する理解不足に基づく偏見や差別意識を解消し、
誰もが自分らしく生きることができる地域社会を実現するため、性同一性障害
のある人の人権に対する正しい理解と認識が深まるための啓発活動の推進に努
めます。

(4) その他の人権課題
その他にも、例えば、本人に更生の意欲があっても、地域住民の根強い偏見
や差別意識が問題となっている刑を終えて出所した人の人権問題や同性愛者へ
の差別といった性的指向に係る問題、さらにはアイヌの人々の人権問題、中国
残留孤児やその家族の人権問題などの人権に関するさまざまな課題があります。
このような、さまざまな人権課題に対しても、あらゆる機会を通して人権意識
の高揚を図り、差別や偏見をなくしていくための施策の推進に努めます。
また、国際化や高度情報化、少子高齢化等の社会の急激な変化に伴い、今後
新たに生じる人権課題についても、それぞれの課題の状況に応じた取組を進め
ます。

第4章 推進体制等
1 推進体制等の整備
人権尊重の基本理念が、県のあらゆる施策の基礎に据えられ、人権施策を着実
に推進するため、全庁的な取組を総合的かつ効果的に進めるとともに、国、市町、
CSO等の民間団体との連携・協働のもと、人権施策の積極的な推進を図ります。
また、各関係本部等においては、この基本方針の趣旨を踏まえ、関係施策を積
極的に推進します。

(1) 県の推進体制
本県では、人権施策を県政の重要な柱と位置づけ、くらし環境本部人権・同
和対策課が核となって総合的に施策の推進を図ることとします。
人権施策の推進に際しては、関係本部等がこの基本方針を踏まえ、必要な予
算の確保に努めながら諸施策を積極的に推進します。なお、全庁的な推進組織
を設置し、関係本部等の緊密な連絡調整を図ることにより、総合的かつ効果的
な推進に努めます。

(2) 国、市町、関係団体等との連携
人権施策は国、県、市町がそれぞれの特性に応じた役割分担のもとで、連携
を図りながら実施することにより効果的に推進することができます。
このため、国(佐賀地方法務局・佐賀労働局)や佐賀県人権擁護委員連合会
など人権に関わる機関と連携・協力して啓発事業の実施や相互の人権教育・啓
発に関する取組を推進します。
また、国に対しては、県や市町が人権施策を推進するために必要な財政面で
の適切な支援等の要請も行っていきます。
さらに、市町は地域に密着した住民にとって最も身近な自治体であり、市町
が取り組む人権に関わるさまざまな施策は大変大きな影響力を持っています。
本県では、人権に関わる情報を市町と共有し施策の連携を強化するとともに、
市町が取り組む人権施策について必要な助言等に努めます。

(3) 県民、企業、CSO等との連携
人権が尊重される社会づくりを推進するためには、県民一人ひとりがその担
い手として、人権意識の高揚に努めるとともに、互いの人権を尊重し、人権が
尊重される社会の実現に寄与することが必要です。
ドメスティック・バイオレンス(DV)や児童虐待、いじめなど、外からは
見えにくく表面化しにくい人権侵害の早期発見や保護を図るためには、地域住
民の協力が不可欠です。また、企業やNPO法人、市民活動・ボランティア団
体等のCSO(市民社会組織)が行う人権に関わる広範な自主的活動は、機動
性、柔軟性に優れるという特性を持っており、さまざまな人権の各個別課題の
解決にとって大変重要なものです。
このことから、今後さらに県が行う人権啓発事業において、県民や企業、CSO等の企画への参画や事業の共催などの連携・協働を図ることによって、人
権教育・啓発や相談・支援などの取組を推進し、県民参加型の効果的な啓発活
動を行います。
また、これらの自主的・主体的な取組を促進するため、人権に関する情報や
活動の場の提供など、その支援に努めます。

2 人権施策の公表と基本方針の見直し
(1) 人権施策の公表
この基本方針に則った人権施策が適正に遂行されるよう、あらゆる機会を通
じてこの基本方針の周知を図ります。
また、県民の参加により人権施策を推進するため、県が実施した人権施策に
ついて定期的に公表し、人権施策についての県民意識の把握に努めます。

(2) 施策の点検・評価
人権施策を総合的、効果的に推進するためには、取組の実施状況だけでなく、
どのような成果があったかという視点で、分野ごとに点検・評価し、これを今
後の施策の適正な実施に反映させるよう努めます。

(3) 基本方針の見直し
この基本方針は、今後の人権問題を取り巻く国の動向や国内の社会経済情勢
の変化、国際的潮流の動向等を踏まえ、また価値観の変化などによる新たな課
題に適切に対応するため、必要に応じて見直しを行います。


※注 前回策定後の新たな動きである法令や計画等(1ページ記載)

・人権教育・啓発推進法の制定(H12.12月)

・国の人権教育・啓発基本計画の制定(H14.3月)

・男女共同参画社会基本法(H11.6月)

・佐賀県男女共同参画推進条例(H13.10月)

・配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律(H13.10月)

・佐賀県DV被害者支援基本計画(H18.3月)

・佐賀県新エンゼルプラン(H16.3月)

・次世代育成支援対策推進法(H15.7月)

・佐賀県次世代育成支援地域行動計画(H17.3月)

・介護保険制度(H12.4月)

・高齢者の虐待防止、高齢者の養護者の支援等に関する法律(18.4月)

・佐賀県新障害者プラン(H16.3月)

・ハンセン病に関する熊本地裁判決(H13.5月)

・犯罪被害者等の保護を図るための刑事手続きに付随する措置に関する法律

(H12.11月)

・特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関す
る法律(ブロバイダー責任制限法)(H14.5月)

・個人情報の保護に関する法律(H15.5月)

・佐賀県個人情報保護条例(H17.4月)

・ホームレスの自立支援等に関する法律(H14.8月)

・性同一性障害者の性別の取扱の特例に関する法律(H15.7月)


新たに設けた分野と項目

・同和問題に関して「差別による被害者の救済」 P-25

・子どもに関して「子どもの安全・安心の確保」 P-34

・高齢者に関して「高齢者の虐待防止への取組」 P-37

・患者等「ハンセン病元患者等」「難病患者等」 P-45~47

・「犯罪被害者等」 P-48

・「インターネットによる人権侵害」 P-50

・「人権に関するさまざまな課題」中「個人情報の保護」、

「ホームレス」、「性同一性障害者」 P―53 , 54