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熊本県人権教育・啓発基本計画
情報の種類 地方公共団体関係資料
タイトル 熊本県人権教育・啓発基本計画
時期 2004/03/29
主体名 熊本県
【 内容 】

熊本県人権教育・啓発基本計画 【改訂版】

平成20年(2008年)3月 熊本県


ご あ い さ つ


 本県では、人権に関する総合的な取組みの方向性などを示した「熊本県総合計画パートナーシップ21くまもと」や人権教育の具体的な推進方策をまとめた「『人権教育のための国連10年』熊本県行動計画」に沿って、人権施策に取り組んで参りました。

 県行動計画の策定から5年が経過し、平成12年には「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」が制定され、人権施策の実施が地方公共団体の責務として位置づけられ、地域の実情を踏まえた人権教育・啓発活動をより一層推進していくことが求められています。

 このような状況変化の中で、今般策定しました「熊本県人権教育・啓発基本計画」は、これまでの県行動計画を基本に据えながら、本県における人権の重要課題の動向などを踏まえ、さらに内容を充実発展させております。

 本計画では、「すべての人の人権と基本的自由が尊重され、すべての人がその個性を全面的に開花させること」を人権啓発・教育の目標に掲げておりますが、社会参加の機会の平等が保障され、自己実現できる社会、みんなが幸せに安心して生活していくことができるような地域社会の実現は、県民の皆様一人ひとりの意識と具体的行動にかかっています。

 県といたしましては、行政、学校、企業・民間団体、家庭及び地域とのパートナーシップのもと、それぞれの主体が担うべき役割を踏まえながら、今後とも相互に連携し、人権教育・啓発に積極的に取り組んで参りたいと考えております。

 最後に、今回の基本計画の策定に当たり、熊本県人権教育・啓発基本計画検討委員会の委員の方々をはじめ、それぞれのお立場から貴重な御意見や御提言をいただきました皆様方に、深く感謝申し上げます。


 平成16年3月

                   熊本県知事  潮 谷 義 子   


平成20年3月19日改訂



はじめに

『日本国憲法』第11条には、「国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる」として、この憲法を貫く最も基礎的な原理として人権尊重主義を掲げています。
また第13条では、「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」として、一人ひとりの人間がかけがえのない存在であることを確認するとともに、人が人として生きていくうえで必要不可欠な権利として、幸福を追求する権利を保障しています。

しかしながら、現代日本社会の現状に目を向けると、同和問題をはじめ、女性差別、子どもに対するいじめや虐待、高齢者や障がい者、外国人などに対する偏見や差別など、人権に関する様々な問題が存在しています。

中でも、同和問題は、『同和対策審議会答申』(昭和40年(1965年))(*1)で述べているように、「日本社会の歴史的発展の過程において形成された身分階層構造に基づく差別により、日本国民の一部の集団が経済的、社会的、文化的に低位の状態におかれ、現代社会においても、なお著しく基本的人権を侵害され、特に、近代社会の原理として何人にも保障されている市民的権利と自由を完全に保障されていないという、もっとも深刻にして重大な社会問題」です。この問題の解決を図るため、これまで『同和対策事業特別措置法』(昭和44年(1969年))の制定以来、総合的な同和対策事業が進められてきました。
県としても、この同和問題を、基本的人権の侵害に関わる重大な人権問題として受けとめ、生活環境の改善をはじめとする物的な基盤整備のほか、同和問題を基本とした教育・啓発活動や『熊本県部落差別事象の発生の防止及び調査の規制に関する条例』(平成7年(1995年)3月制定)(*2)の周知などに努めるとともに、就職等についての差別をなくすため、企業等に対し、差別のない適正な採用選考を促進してきました。
同和問題の解決に向けての様々な取組みの結果、物的な基盤整備については着実に成果をあげましたが、その一方で、今なお部落差別事象が発生するなど、県民の差別意識の解消は十分に進んでいない状況にあります。同和問題の解決に向けて、県民の積極的な理解と参加を得られるような啓発活動への取組みが求められています。

また本県では、日本における公害の原点といわれる水俣病という人間の尊厳と生命に関わる重大かつ深刻な問題が発生するとともに、その発生地域の内外で偏見や差別の問題が生じました。現在、その解消に向けて、地域住民間のきずなを取り戻すことを目的とした「もやい直しセンター」(*3)が建設されるなど、地域が一体となった取組みが進められています。平成16年(2004年)10月には、水俣病関西訴訟最高裁判所判決で、水俣病の被害拡大を防げなかったことについて国と熊本県の責任が確定しました。県としては、判決を重く受け止めるとともに、地域の再生・もやい直しを促進するために、偏見や差別の解消のためには正しい知識や情報の提供が必要であるということを十分念頭に置き、今後の取組みに生かしていく必要があります。
さらに本県には、「国立療養所きくちけいふうえん菊池恵楓園」(*4)という全国最大規模のハンセン病療養所があります。平成13年(2001年)5月に出された熊本地方裁判所の判決はハンセン病の歴史を大きく変える契機となるなど、本県とハンセン病との関わりは非常に深いものがあります。現在、ハンセン病に対する県民の偏見や差別の解消に向け、啓発活動を進めているところです。

このような状況の中で、平成6年(1994年)12月の国連総会では、平成7年(1995年)から平成16年(2004年)までの10年間を「人権教育のための国連10年」とする決議がなされ、『人権教育のための国連10年行動計画』が示されるなど、国際的にも人権教育・啓発への積極的な取組みが求められました。このような国際的な動向を踏まえ、県においても、平成11年(1999年)1月に『「人権教育のための国連10年」熊本県行動計画』(以下『県行動計画』という。)を策定し、以来、県としての人権教育・啓発の目指すべき方向を示しながら、様々な分野における人権問題の解決に向けた取組みを着実に進めてきました。
また、平成12年(2000年)6月には『熊本県総合計画パートナーシップ21くまもと』(以下『県総合計画』という。)を策定し、「すべての県民が安全で心豊かに暮らせるためには、お互いの人権を尊重しあう社会をつくることが最も基礎的な条件であり、そのような社会をつくりあげるためには、県民一人ひとりが人権意識を高め、様々な人権問題を一日も早く解決するよう努力しなければならない」として、先の『県行動計画』に沿った取組みを着実に進める必要があるとしたところです。
さらに、平成16年(2004年)12月の国連総会では、「人権教育のための国連10年」の取組みを継承し、世界各地で引き続き人権教育を積極的に推進していくことを目的に、『人権教育のための世界プログラム』が採択されました。その第1段階(当初2005年~2007年、後に2年延長)は初等・中等教育に焦点を絞って設定されており、各国での取組みが求められています。

一方、国内においても、平成8年(1996年)12月に『人権擁護施策推進法』が制定され、人権教育・啓発に関する施策や、人権が侵害された場合の被害者救済に関する施策を進めることは国の責務であると明記されました。また、平成12年(2000年)12月には、人権教育・啓発に関する理念や、国、地方公共団体、国民の責務などを法律として規定する必要があるとして、議員立法により、『人権教育及び人権啓発の推進に関する法律』(以下『人権教育・啓発推進法』という。)が制定されました。
『人権教育・啓発推進法』では、その基本理念として、「国及び地方公共団体が行う人権教育及び人権啓発は、学校、地域、家庭、職域その他の様々な場を通じて、国民が、その発達段階に応じ、人権尊重の理念に対する理解を深め、これを体得することができるよう、多様な機会の提供、効果的な手法の採用、国民の自主性の尊重及び実施機関の中立性の確保を旨として行われなければならない」(第3条)と規定しています。また、第5条には、「地方公共団体は、基本理念にのっとり、国との連携を図りつつ、その地域の実情を踏まえ、人権教育及び人権啓発に関する施策を策定し、及び実施する責務を有する」と規定され、地方公共団体の人権教育・啓発へのより一層の取組みが求められています。

県では、「ユニバーサルデザイン」(*5)を県政運営の理念として位置づけ、「すべての人が暮らしやすい社会のデザイン」の実現を目指し、県民一人ひとりの人権に配慮した取組みを推進しています。
また、平成14年(2002年)10月には、『県行動計画』や『県総合計画』、さらには、その後に制定された『人権教育・啓発推進法』の趣旨に沿って、人権教育・啓発がより実効あるものとなるよう、その推進の拠点として「熊本県人権センター」(*6)を開設しました。県民の人権意識の高揚に向けて、様々な施策を展開しています。
「人権の世紀」といわれる21世紀を迎えました。本県においても、これまでの取組みの成果や手法を踏まえて、行政、学校、企業・民間団体及び県民一人ひとりが人権を大切にするという共通の考え方に立って、お互いに協力しながら、さらに人権意識を高めるための取組みを進める必要があります。県では、『人権教育・啓発推進法』の趣旨を踏まえながら、人権教育・啓発を総合的かつ計画的に進めるため、平成16年(2004年)3月、『熊本県人権教育・啓発基本計画』(以下、『基本計画』という。)を策定しました。そして、この計画を基本に据え、人権教育・啓発を着実に進めてきました。
 
しかしながら、『基本計画』の策定から4年が経過する中で、人権を取り巻く社会の状況が大きく変化してきています。
国においては、様々な分野における国民の人権意識の高まりや社会情勢の変化等に合わせて、新たな法律の制定等がなされています。具体的には、『高齢者虐待防止法』(平成17年(2005年))や『犯罪被害者等基本法』(平成16年(2004年))等の制定、『DV防止法』(平成19年(2007年))や『児童虐待防止法』(平成19年(2007年))の改正などです。また、人権侵害による被害を救済するための新たな制度についても、検討が進められているところです。
 本県においても、『熊本県子ども輝き条例』(平成19年(2007年))の制定をはじめ、『熊本県次世代育成支援行動計画』(平成17年(2005年))や『第3期熊本県高齢者かがやきプラン』の策定(平成18年(2006年))、『熊本県男女共同参画計画』(平成18年(2006年))や『くまもと障害者プラン』(平成19年(2007年))の改定等それぞれの人権課題にかかる条例の制定や各種計画の策定等が行われています。

 このような状況を踏まえ、今般、『基本計画』の見直しを行いました。今後は、この見直し後の『基本計画』に基づいて、人権教育・啓発を総合的かつ計画的に進めていくこととします。


1.『基本計画』策定の意義等について

(1)『基本計画』策定の意義
  『基本計画』を策定することには、次のような意義があります。

 ①人権をめぐる現状を明らかにすること
人権教育・啓発を進めるうえでは、まず、本県における人権をめぐる現状について、行政、学校、企業・民間団体及び県民一人ひとりが共通の認識を持つ必要があります。

 ②人権教育・啓発の取組みの方向を示すこと
人権教育・啓発は、様々な人権問題の解決に向けて、総合的かつ計画的に取り組む必要があります。このため、県として、どういった内容のものに、どのようにして取り組むのか、といった取組みの基本的な方向を明確に示すことが重要です。

 ③行政、学校、企業・民間団体、家庭及び地域などに期待される役割を明らかにすること
人権教育・啓発は、行政、学校、企業・民間団体、家庭及び地域などそれぞれが主体となって、あらゆる場、あらゆる機会をとらえて推進する必要があります。このため、各主体に期待される役割を明らかにするとともに、パートナーシップ(*7)のもと、相互に連携を図りながら、人権教育・啓発に取り組むことが重要です。

(2)『基本計画』の性格
県では『基本計画』を策定するまで、『県行動計画』や、『県総合計画』の基本施策(人権に関する総合的な取組み)に基づいて人権教育・啓発に取り組んできましたが、一方で、これらの計画策定後に制定された『人権教育・啓発推進法』など、国内の動向にも配慮する必要がありました。このため、『基本計画』は次のような性格を有しています。

 ①『人権教育・啓発推進法』の趣旨を踏まえたものであること
『人権教育・啓発推進法』には、地方公共団体が行う人権教育・啓発の基本理念(第3条)や、人権教育・啓発施策の策定及び実施についての地方公共団体の責務(第5条)が規定されています。地方公共団体に求められているこのような理念や責務については、『基本計画』にも的確に反映させる必要があります。
 ②『県行動計画』を基本にしながら、さらに内容を充実発展させたものであること『県行動計画』は、「人権教育のための国連10年」という国際的な動向を背景に策定したものですが、併せて、これまでの県における人権教育・啓発の基本的な考え方や取組みの方向をまとめたものでもあります。また、『県総合計画』においても、その基本施策(人権に関する総合的な取組み)の中では、この『県行動計画』に沿って人権教育・啓発に取り組むとしていたところです。
このため、本『基本計画』についても、『県行動計画』を基本にしていますが、『県行動計画』策定後の『人権教育・啓発推進法』の制定(平成12年(2000年)12月)やこの法律に基づく国の『人権教育・啓発に関する基本計画』の策定(平成 14年(2002年)3月)、本県における人権の重要課題の動向などを踏まえ、さらに内容を充実発展させたものとします。
なお、『県行動計画』の計画期間(平成11年(1999年)から平成16年(2004年))終了後は、『基本計画』が『県行動計画』を引き継ぎ、人権教育・啓発の取組みを着実に進めるものとします。


2.人権教育・啓発の基本的考え方について

(1)人権の基本理念及び人権教育・啓発の定義

 ①人権とは
20世紀前半の二度にわたる世界大戦の悲惨な体験とその反省にたって、地球上に生きるすべての人に対する基本的人権の尊重こそが世界の「永久平和」の基礎であることを確認した『世界人権宣言』が採択(昭和23年(1948年)12月 10日)されてから、既に60年近くが経過しています。

その第1条には、「すべての人間は、生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である」とうた謳われています。人類の長い歴史の中で、皮膚の色や民族の違い、性別・年齢、貧富の差、障がいの有無などを超えて、すべての人に対して、人間の不可侵の権利である「自由、正義及び平和の基礎」としての基本的人権を尊重することが確認され、すべての人が人権と基本的自由を享受するうえで平等であるという普遍的な人権についての原則がここに明示されています。
これは、人権の尊重と擁護が国を超えた共通の課題であることを世界の各国が再認識し、その実現には各国の絶え間ない努力が必要であることを指摘したものであるといえます。
『世界人権宣言』は、続いて第2条において、「すべて人は、人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治上その他の意見、国民的若しくは社会的出身、財産、門地その他の地位又はこれに類するいかなる事由による差別をも受けることなく、この宣言に掲げるすべての権利と自由とを享有することができる」として、権利と自由の享有に関する無差別待遇を挙げています。そして第3条では、「すべて人は、生命、自由及び身体の安全に対する権利を有する」として、生命や自由、身体の安全について明記しています。

『世界人権宣言』の採択以降、地球に住むすべての人の人権の擁護と伸長を目指した国際連合(以下「国連」という。)を中心とする取組みは、『国際人権規約』(昭和41年(1966年))をはじめ、『あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約』(昭和40年(1965年))、『女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約』(昭和54年(1979年))、『児童の権利に関する条約』(平成元年 (1989年))、さらに、平成18年(2006年)には『障害者の権利に関する条約(政府仮訳)』など、法的な拘束力を持つ数々の国際条約を採択・締結してきました。
また、「国際婦人年」(昭和50年(1975年))、「国際児童年」(昭和54年(1979年))、「国際識字年」(平成2年(1990年))、「国連寛容年」(平成7年(1995年))、「国際高齢者年」(平成11年(1999年))、「平和の文化のための国際年」(平成12年(2000年))といった国際年の制定とそのキャンペーンなど、様々な取組みが国連を中心に展開されてきました。
これらの取組みは、いずれも「人権という普遍的文化の構築」という『人権教育のための国連10年行動計画』の究極の目的につながるものです。

「人権とは何か」と聞かれると、多くの人は、「人権は法律的な概念であり、抽象的で難しい」といったように、自分自身とは距離のある概念として受けとめる傾向が見られます。このため、「人権問題」についても「差別の問題」としてしかとらえられず、ほとんどの場合、同和問題をはじめ、女性、障がい者、外国人などに対する差別といった「一部の人々の気の毒な問題」で「私には関係がない」ということになってしまいます。
人は、一人ひとりが、等しく「かけがえのない」「尊い」「大切な」存在であり、人権は、いつでも、どこでも、誰でも、そして平等に保障されるべきものです。人権とは、安心して生きる権利、自分で自由に考える権利、仕事を自由に選んで働く権利、教育を受ける権利や裁判を受ける権利など、人が生まれながらにして持っている基本的で具体的な権利です。
『県行動計画』でも、「人権は、着ること、食べること、住むことが満たされることや健康であること、生命や身体が守られること、自由に発言できることなど、すべての人の日常生活にかかわるものとしてとらえる必要がある」と、具体的に述べています。

現在、県では、「ユニバーサルデザイン」を県政運営の理念として位置づけ、年齢、性別、国籍(言語)や障がいの有無などに関係なく、誰もが利用できる製品、建物や環境のデザイン、さらには「すべての人が暮らしやすい社会のデザイン」の実現を目指しています。
このような「ユニバーサルデザイン」の取組みも、まさに、人権の尊重というすべての人に普遍的な考え方、人が人として生きていくうえで必要不可欠な考え方が根底にあるからこそ、生まれてきた活動といえます。
『日本国憲法』は、基本的人権の尊重を、国民主権、恒久平和とともに、三大原則として大きく掲げています。また、わが国は、国連総会で採択された国際的人権基準にも賛成し、その実現の責務を負っています。
本県も、これらに基づいて、人権が擁護される社会をめざし、さらに教育・啓発に取り組む責務があります。


 ②人権教育・啓発の定義
『人権教育のための国連10年行動計画』では、「人権教育」を「知識と技術の伝達及び態度の形成を通じ、人権という普遍的文化を構築するために行う研修、普及及び広報努力」と定義しています。
さらに「人権教育のための国連10年」の国連決議では、「人権教育はたんなる情報提供にとどまるものではない。人権教育とは、あらゆる発達段階の人々、あらゆる社会層の人々が、他の人々の尊厳について学び、また、その尊厳をあらゆる社会で確立するための方法と手段について学ぶための生涯にわたる総合的な過程である」と述べており、生涯にわたる人権教育の重要性を指摘しています。

一方で、「人権教育のための国連10年」の動向を踏まえて策定した『県行動計画』においては、「人権教育」を「すべての県民を対象として、あらゆる場、あらゆる機会をとらえて行われるものであって、自らの尊厳に気づくとともに、多様性を容認する『共生の心』を育み、物事を人権の視点でとらえ、それを自分のこととして考え、行動できる態度を身につけるための教育」と定義しており、国連の行動計画と同様に、「人権教育」を啓発まで含めた概念として広くとらえています。

『基本計画』における「人権教育・啓発」の定義についても、『県行動計画』の定義を引き継ぐものとしますが、より具体的には、以下のように4つの側面から幅広くとらえておく必要があります。

○人権についての教育(Education on/about human rights)
  人権を知識として身につけ、人間の尊厳を大切にする心を十分に育てること
○人権としての教育(Education as human rights)
  すべての個人が自由な社会に効果的に参加できるよう、教育を受けるという基本的な権利をすべての人に保障すること
○人権のための教育(Education for human rights)
  人権が尊重される社会の確立を目指し、積極的な関心・態度と、人権の擁護・伸長のための的確な技能を持つ人々をつくること
○人権を通じての教育(Education in/through human rights)
  人権について学ぶ環境そのものが人権を大切にする雰囲気を備えていること

(参考1)人権教育・啓発推進法第2条
人権教育・啓発推進法では、その第2条で、「人権教育」と「人権啓発」とを別々に定義し、「人権教育」は「人権尊重の精神のかんよう涵養を目的とする教育活動」であり、「人権啓発」は「国民の間に人権尊重の理念を普及させ、及びそれに対する国民の理解を深めることを目的とする広報その他の啓発活動(人権教育を除く。)」であるとしています。

(参考2)人権教育の4つの側面
①「人権についての教育」とは、人権に関する歴史を教える、差別・偏見が人々の意識、行動、生活にどのような影響を与えるのかということを教える、つまり人権とは何か、知識として伝える、という側面をとらえたものです。
②「人権としての教育」とは、教育を受けること自体が人権であり、様々な理由で教育を受ける機会を奪われてきた人々に対して教育を保障する、という側面をとらえたものです。
③「人権のための教育」とは、人権の問題がなくならないのは、目の前の人権の問題について自分達で解決しようとしていないことによるとして、人権の問題を自ら解決できる技能を身につけた人を育てる、という側面をとらえたものです。
④「人権を通じての教育」とは、学校でいじめがあったり、職場でセクシュアル・ハラスメントがあったりといった状況の下では、人権感覚は本当に根づかない、ということで、人権教育が行われる環境自体で人権が大切にされていなければならない、という側面をとらえたものです。

(2)人権教育・啓発の目標
『世界人権宣言』では、その第26条において、「教育は、人格の完全な発展並びに人権及び基本的自由の尊重の強化を目的としなければならない」としており、また、ユネスコの『人権と民主主義のための教育に関する世界行動計画』では、「人権と民主主義のための教育それ自身が人権であり、(教育は、)人権・民主主義・社会正義が実現される前提として不可欠のものである」としています。
さらに、人権教育は、「調和のとれたコミュニティ間関係、相互の寛容と理解、ひいては平和を実現するために不可欠」なものであるといえます(国連人権高等弁務官報告・第94段落)。
『人権教育のための国連10年(1994~2004年)行動計画』を受けて策定された『人権教育のための世界プログラム 第1段階(2005~2007年)のための修正行動計画』においても、人権教育の背景及び定義に関して、「人権教育が人権の実現に対して重要な形で寄与するということへの同意は、国際社会によってますます頻繁に表明されるようになってきた。人権教育は、それぞれの共同体および社会一般で人権を実現するすべての人の責任に関する理解の向上を目的としたものである。」と述べ、人権教育に関する規定については、『世界人権宣言』(第26条)、『国際人権規約』(第13条)、『子どもの権利条約』(第29条)など、多くの国際文書に盛り込まれてきた定義にしたがい、「人権教育とは、知識及びスキルの伝達ならびに態度の形成を通じて普遍的な人権文化を構築することを目的とした教育、研修および広報である」としたうえで、人権教育を構成する要素として、(a)知識およびスキル:人権およびその保護のための仕組みについて学習し、かつそれらを日常生活の中で適用するスキルを身につけること、(b)価値観、態度および振る舞い:人権を支える価値観を発達させ、かつそのような態度及び振る舞いを強化すること、(c)行動:人権を擁護及び促進するための行動をとること、をあげています。
人権教育・啓発の目標は、すべての人の人権と基本的自由が尊重され、すべての人がその個性を全面的に開花させることにあります。すなわち、すべての人が、出身や門地、性や年齢の違い、障がいの有無や貧富の差に関係なく、独立した人格と「尊厳」をもった一人の人間として尊重され、それぞれが「自立」し、(必要に応じた「ケア」も含め)あらゆる生活分野における処遇や「社会参加の機会の平等」が保障され、「自己実現」できる社会、みんなが幸せに安心して自分らしく生きることができるようなコミュニティを創造することにあります。
このことは、「人権の世紀」を迎えた今日の日本社会の課題でもあり、人権教育・啓発は、このような「人権尊重のまちづくり」の主体(担い手)を育成することです。人権について学ぶことは、そのための第一歩となります。

自己実現と幸福追求が満たされる「人権尊重のまち」をつくりあげることができるかどうかは、一人ひとりの県民の意識と具体的な行動にかかっています。民主主義の基礎概念としての「自由と規律」、「権利と責任」や、研ぎ澄まされた人権感覚、人権と人権問題に対する強い関心と積極的な態度、実効ある行動力と問題解決のための具体的行動につながる技能などを生涯にわたる学習によって育むことにより、自分たちの住むまちを「自己実現と幸福追求のまち」へと築きあげていくためにも、行政や学校、企業・民間団体などに期待される役割を明確に示すことが重要です。

日本の人権教育・啓発を担ってきた同和教育の理念も、すべての子どもの目線に立って、一人ひとりの尊厳を大切にし、社会的身分や門地、性別、障がいの有無に関係なく、すべての子どもに対して、心身の健全な育成や、社会への参加の基礎としての学習権の確立を目指すことにありました。さらに、すべての子どもに対して、他の人々の尊厳と権利を尊重する人権感覚を養い、日本における最も深刻かつ重要な人権問題である同和問題についての正しい理解と問題解決への積極的な関心と態度を育成することを目標としていました。
『基本計画』においても、この同和教育の基本的な理念を引き継いでいく必要があります。『人権教育・啓発推進法』が制定され、県においても人権教育・啓発への着実な取組みが求められている中で、戦後60年余りにわたる同和教育の理念は、様々な人権問題を解決するための人権教育・啓発として充実発展させる必要があります。

(参考)高齢者のための国連原則
平成3年(1991年)12月の国連総会では、「高齢者のための国連原則」として、「自立」(independence)、「参加」(participation)、「ケア」(care)、「自己実現」(self-fulfilment)、「尊厳」(dignity)の5つの原則が採択されました。これは、高齢者のための社会づくりを進めるうえでの高齢者のあるべき姿や理念を掲げたものですが、この5原則は、高齢者だけではなく、すべての人に当てはまる原則でもあります。県においても、すべての人がこの5原則を満たすことのできる社会をつくりあげることを、人権教育・啓発の目標としています。

3.人権教育・啓発の進め方について

(1)人権の重要課題についての現状等
人権教育・啓発には、「個人の尊重」、「法の下の平等」といった人権全般に共通する視点からアプローチする方法と、「同和問題」、「女性の人権」、「子どもの人権」といった個別の視点からアプローチする方法とがあります。人権尊重についての理解を深めるためには、この両者のアプローチはいずれも重要かつ必要不可欠なものであり、単に、人権尊重の重要性を県民に訴えかけるだけでなく、具体的な人権問題をテーマとして取り上げることが重要です。
現在、日本には様々な人権問題が存在していますが、『県行動計画』及び平成16年(2004年)3月に策定した『基本計画』においては、国の『「人権教育のための国連10年」に関する国内行動計画』及び『人権教育・啓発に関する基本計画』に準拠する形で、人権に関する重要な課題を定めてきました。今般、様々な分野における人権意識の高まりや社会情勢の変化等の中で、国の計画等を踏まえつつも、熊本県として取り組んできたものや取り組むべきものをしっかりと課題として取り上げることとし、女性、子ども、高齢者、障がい者、同和問題、外国人、水俣病、ハンセン病回復者等、感染症・難病等、犯罪被害者等、インターネットなどをめぐる人権問題を、重要課題として位置づけるものです。
このような様々な人権問題が生じている背景としては、人々の中に見られる同質性・均一性を重視しがちな性向や非合理的な因習的意識の存在等が挙げられますが、国際化、情報化、高齢化、少子化等の社会の急激な変化なども、その要因になっています。
それぞれの人権問題について正しい知識を身につけるとともに、自らの問題としてとらえ、具体的な行動につなげていくという積極的な姿勢が求められています。

①女性の人権
 【背景・経緯】
◇ 第二次世界大戦後の一連の改革の中で婦人参政権が実現するとともに、昭和21年(1946年)に制定された『日本国憲法』に基づき、家族や教育など女性の地位の向上にとって最も基礎的な分野で法制上の男女平等が明記され、これにより女性の法制上の地位は大きく改善されました。
  その後、「国際婦人年」である昭和50年(1975年)には『世界行動計画』が採択され、昭和54年(1979年)の国連総会において、女子に対する差別を撤廃し、男女平等原則を具体化するための条約として『女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約』が採択されました。日本では、これを契機に『男女雇用機会均等法』などが整備され、昭和60年(1985年)に同条約を批准しました。

◇ 平成7年(1995年)9月の「第4回世界女性会議」で採択された『北京宣言及び行動綱領』や、平成8年(1996年)7月に男女共同参画審議会が答申した『男女共同参画ビジョン』を踏まえ、平成8年(1996年)12月には、国において『男女共同参画2000年プラン-男女共同参画社会の形成の促進に関する平成12年度(2000年度)までの国内行動計画-』が策定されました。
  また、平成11年(1999年)には『男女共同参画社会基本法』が制定され、男女共同参画社会形成を国の最重要課題の一つとして取り上げることが明記されました。国は同法に基づいて、平成12年(2000年)に『男女共同参画基本計画』を、平成17年(2005年)には『第2次男女共同参画基本計画』を策定しています。
 さらに、平成11年(1999年)、『改正男女雇用機会均等法』にセクシュアル・ハラスメント(*8)に関する規定が盛り込まれ、平成18年(2006年)には間接差別の禁止やセクシュアル・ハラスメント(*8)の防止についての規定の強化がなされています。また、平成12年(2000年)には『ストーカー行為等の規制等に関する法律』が、平成13年(2001年)には『配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律』(通称:『DV防止法』)が制定されました。『DV防止法』は、平成16年(2004年)の改正で、「配偶者からの暴力」の定義の拡大等が図られ、さらに平成19年(2007年)の改正では、裁判所の「保護命令」の対象の拡充等が行われるなど、女性の人権に関する法制度は着実に整備されつつあります。

 【本県の現状・課題】
◇ 県では、平成13年(2001年)に『熊本県男女共同参画計画「ハーモニープランくまもと21」』を策定しました。また、平成14年(2002年)4月『熊本県男女共同参画推進条例』(*9)を施行し、併せて男女共同参画社会づくりのための拠点施設「熊本県男女共同参画センター」(*10)を設置しました。
平成17年(2005年)には『DV防止法』に基づき『熊本県配偶者等からの暴力の防止及び被害者の保護に関する基本計画』を策定し、平成18年(2006年)には『熊本県男女共同参画計画「ハーモニープランくまもと21」』を改定しました。

◇ 女性の人権の尊重に当たっては、性差別意識や固定的な性別役割分担意識を解消することが課題となっています。本県においても、男女平等や男女共同参画の理念は浸透しつつありますが、その一方で、平成19年(2007年)に実施した「県民アンケート調査」によれば、依然として県民の約3割が「男は仕事、女は家庭」などと性別によって役割を固定することに「同感する」又は「どちらかといえば同感する」と答えており、一層の対策が求められています。性差別意識や固定的な性別役割分担意識は、女性の人権を侵害する様々な問題につながっており、セクシュアル・ハラスメント(*8)やストーカー行為(*11)、ドメスティック・バイオレンス(DV)(*12)、性犯罪など、女性に対する暴力や人権侵害もこれらの意識に起因すると言われています。
  平成15年(2003年)に県が実施した「男女間における暴力についての意識調査」によれば、DVについては、女性の1割が身体への攻撃被害を体験しており、ストーカー行為については、女性の15%が被害にあっています。女性に対する暴力は、女性の基本的人権を踏みにじるものであり、また、DVが行われている家庭においては、被害者本人のみならず、子どももまた身体的被害や心理的被害を受けている場合が多く、その根絶に向けた取組みは大変重要です。暴力を未然に防ぐための意識啓発活動とともに、被害女性を支援するための相談体制の充実、民間シェルター(緊急避難所)への支援を含めた関係機関との連携強化など、女性の保護と自立支援のための取組みが求められています。併せて、加害者の更生に向けた取組みも必要です。

◇ 性差別意識や固定的な性別役割分担意識は、女性の社会進出や男女それぞれの幅広い生き方の選択も妨げています。本県は全国的にも女性の雇用者の割合が比較的高く、出産・育児期に働く女性の割合も高くなっていますが、年齢階層ごとの女性の就業率を見ると、出産・育児期の就業率が落ち込んでいます。
  その要因としては、育児負担が女性に偏っていることや就業環境などが挙げられます。仕事と家庭・地域生活の両立のため、就業意欲のある女性が継続して働ける就業環境の整備や、育児・介護サービスの充実を図る必要があります。また、職場優先意識の解消や、男性の家庭・地域生活への参画など、男性も含めた働き方の見直しを進める必要があります。
  また、政策や重要な方針を決定する場への女性の参画については、例えば、本県における女性の管理職比率は13.0%(平成17年(2007年)国勢調査)に過ぎず、実態としては、なお男女間の明確な格差が見られます。平均賃金水準についても、男性の約6割に過ぎない状況にあります。さらに、本県における審議会等委員への女性の登用率は、県所管が32.4%、市町村が19.7%(いずれも平成19年(2007年)3月時点)と徐々に増えてきてはいますが、決して十分なものとは言えません。女性がそれぞれの能力を十分に発揮できるよう、県、市町村、企業や各種団体などにおいて、政策、方針決定の場への女性の参画の拡大を図るとともに、女性の進出が少ない分野において新たに活躍の場の拡大を図る必要があります。

◇ 平成12年(2000年)の国連特別総会「女性2000年会議」では、女性の人権を保障するため、すべての男女は肉体的、精神的、社会的にも良好な状態で、安全で満足のいく性生活を送り、子どもを産むか産まないか、いつ生むか、何人産むかを決める自由と権利を持つという「性と生殖に関する健康・権利」(リプロダクティブ・ヘルス/ライツ)(*13)を尊重する取組みの重要性が指摘されています。女性の生涯にわたる健康支援に向け、女性特有の様々な悩みに対し、それぞれの事情に応じた支援策を充実させる必要があります。

◇ マスメディア等による情報が社会に与える影響は非常に強いものがあります。女性の性的側面のみを強調したり、固定的な性別役割分担意識を助長するような表現を見直し、情報の受け手に立って女性の人権に配慮するよう、全県民への周知を図る必要があります。
 この他、明確な差別的意図がなくても、また、表面上は男女異なる取扱いを行っていなくても、一方の性に差別的効果をもたらしたり、差別を容認したと認められる取扱い(間接差別)の撤廃、性差別意識等に基づく地域慣行の見直しに向けた取組みも求められています。

②子どもの人権
 【背景・経緯】
◇ 子どもの人権について、歴史的には、大正13年(1924年)に『児童の権利に関するジュネーブ宣言』が国際連盟で採択され、昭和34年(1959年)には『児童の権利宣言』が国連で採択されています。前者では、主として子どもの生存と発達のための最低限の保護が重視されており、後者では、例えば、教育を受ける権利や差別されない権利といったより具体的な権利が規定されています。
  また、平成元年(1989年)に『児童の権利に関する条約』(以下『子どもの権利条約』という。)が国連で採択され、「児童の最善の利益」の考慮など、子どもの権利保障の基準が「条約」という形で明らかにされています。

◇ 国内においては、既に『日本国憲法』や『児童福祉法』において、子どもの人権の尊重や福祉の保障といった基本理念が示され、また、昭和26年(1951年)に制定された『児童憲章』において、「児童は、人として尊ばれる」、「児童は、社会の一員として重んぜられる」との宣言がなされています。
  その後、子どもの権利については、教育や福祉の分野で発展し、法律の中で明記すべきという考えが強くなってきました。そして、平成6年(1994年)に『子どもの権利条約』を批准した後、平成11年(1999年)制定の『児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律』では、その目的として初めて「児童の権利の擁護」が明記されました。さらに、平成12年(2000年)制定の『児童虐待の防止等に関する法律』においても、その提案理由の中で、「子どもの権利条約の内容を尊重する」ことが盛り込まれており、実質的には子どもの権利を擁護するための法律となっています。

◇ 『児童虐待の防止等に関する法律』では、虐待という重大な権利侵害から子どもを守り、子どもが心身ともに健全に成長し、社会的に自立できるよう、これまでにも法改正が行われ、児童虐待防止対策の強化が図られてきています。
 平成16年(2004年)の改正では、児童虐待の定義の見直しや早期発見等に係る努力義務の強化、通告義務の対象範囲の拡大等が図られました。さらに、平成19年(2007年)の改正では、児童の安全確認等のための家庭内への立ち入り調査等の強化、保護者に対する面会・通信等の制限の強化等を図るための所要の見直しを行うなど、より一層子どもを保護するための体制の強化が行われています。

 【本県の現状・課題】
◇ 少子化の進行、家庭や地域の子育て力の低下など、子どもを取り巻く環境が大きく変化している中、それぞれの家庭はもちろんのこと、子どもを取り巻く地域社会、事業者、行政、県民など、県全体で子どもの育ちを支えていくことが必要となっています。
 子どもの育ちを県民ぐるみで支えることを目的に、県では、平成19年(2007年)10月に『熊本県子ども輝き条例』を公布、施行しました。条例に基づき、子どもの保護者はもちろん、行政、学校、企業、県民が、子どもを地域及び社会全体で育てていくという認識の下、それぞれの立場で相互に協力しあいながら取り組んでいけるよう、子どもの育ちの環境づくり、教育環境の整備、その他子どもに係る施策を計画的かつ総合的に推進していく必要があります。

◇ 家庭においては、子育ての負担が母親一人に集中することなどに伴う育児不安や育児ストレスの増大等により、児童虐待(*14)事案の増加につながっています(県児童相談所への児童虐待相談件数は、平成11年度(1999年度)の 120件から、平成18年度(2006年度)には287件に増加(139%増)しています)。このため、県では、「地域ぐるみで支える、子ども・子育てにやさしいくまもと」をめざした『熊本県次世代育成支援行動計画』(平成17年(2005年)3月策定)の基本施策の一つに児童虐待防止対策の充実を位置付け、要保護児童への対応などきめ細かな取組みを進めています。今後も広く県民に対し、児童虐待の通告義務などの啓発に努めるとともに、児童虐待の発生予防・早期発見や、虐待を受けた児童及びその親に対する迅速かつ適切な保護・支援・アフターケアを図るため、その中心機関としての児童相談所の体制充実や、福祉・医療・教育・警察など関係機関の連携による支援などを引き続き進める必要があります。

◇ 学校においては、いじめや不登校、中途退学などの問題が憂うべき状況にあります。このため、教職員の相談技能の向上を目指した研修や、子ども・保護者・教職員の相談に応じるスクールカウンセラーやいじめ・不登校アドバイザーの配置、子どもについての相談や教職員の研修に対する専門家の派遣など、指導・支援体制を充実させる必要があります。

◇ 地域社会においては、『子どもの権利条約』の周知などの取組みを通じて、子どもの権利に対する県民の意識も徐々に高まっているものの、なお一層啓発に努める必要があります。このため、民生委員・児童委員や主任児童委員、子ども相談員など、子どもの人権問題に対する指導者の資質の向上を通じて、子どもの権利に関する県民への啓発に取り組む必要があります。

◇ 子どもの人権を守り、子どもたちが社会的に自立していけるよう、保護者だけが子育てに関わるのではなく、行政はもちろん、学校、企業、地域社会、県民などがそれぞれの役割を果たし、さらに相互に協力しあい、社会全体で子どもの健全な成長を支えるための体制を充実させる必要があります。

◇ なお、平成19年(2007年)5月から、熊本市内の医療機関において、様々な事情で親が育てられない子どもを匿名で受け入れる窓口として、「こうのとりのゆりかご」が設置・運営されています。その賛否については、「命が救われる」という意見がある一方、「遺棄の助長につながる」、「出自を知る権利が奪われる」等の意見もあり、議論の分かれているところですが、医療法上の許可をした熊本市において、子どもの安全が確保され適切な運用がなされるよう検証が行われるとともに、要保護児童に対する措置権を持つ県においても、子どもの人権を守るという観点等から社会的な課題の検証を行っています。

③高齢者の人権
 【背景・経緯】
◇ 日本の高齢化率(総人口に占める65歳以上の人口の割合)は20.1%(平成 17年(2005年))で、今後も人口構造の高齢化が急速に進展すると予測されています。その一方、国民の意識や社会のシステムの対応は、高齢化の進展の速度に比べて遅れており、高齢社会にふさわしいものとなるよう早急な見直しが求められています。

◇ 国際的な動向としては、今後、先進地域はもとより、開発途上地域においても、高齢化が急速に進展すると見込まれています。このような状況を踏まえ、平成14年(2002年)には、スペインのマドリッドで「第2回高齢化に関する世界会議」が開催され、高齢者の社会参加を促進するなど、高齢化を新たな発展の原動力にするため、あらゆる部門のあらゆるレベルにおいて、姿勢や政策、慣行の変更を求める国連行動計画が採択されました。

◇ 日本においては、平成7年(1995年)12月に『高齢社会対策基本法』が制定され、同法に基づく『高齢社会対策大綱』(平成8年(1996年)7月閣議決定)を基本として、これまで高齢者の雇用、年金、医療、福祉、教育、社会参加、生活環境など、総合的な高齢社会対策が進められてきました。平成13年(2001年)12月には、より一層の対策を推進するため、新しい『高齢社会対策大綱』が閣議決定されています。
また、高齢者への虐待が近年深刻な問題となっており、平成17年(2005年)11月には『高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律』(通称:『高齢者虐待防止法』という。)が成立し、平成18年(2006年)4月に施行されました。

◇ 高齢者の人権に関わる問題に対しては、何よりも高齢者の尊厳が重んじられる社会の構築を図ることを基本とし、身体的・精神的な虐待や高齢者の有する財産権の侵害などを防止する必要があります。また、年齢だけで高齢者を別扱いする制度、慣行等の見直しを図る必要があります。

 【本県の現状・課題】
◇ 本県の高齢化率は23.7%(平成17年(2005年)10月1日現在)となっており、全国平均を相当上回る水準で推移しています。この傾向は今後も続くことが予想され、本県においても高齢社会への早急な対応が必要となっています。その中で、尊厳を持って安心して自立した高齢期を送れるよう支援することが重要な課題となっています。
   そこで、県では、平成18年(2006年)3月に『第3期熊本県高齢者かがやきプラン』を策定し、全ての高齢者が、暮らしたいと思う地域・場所で、快適かつ安心・安全に、生きがいを持ちながら、自立して長寿を全うすることができる「”高齢者がいきいきと輝く”くまもと」をめざして、具体的な取組みを進めています。
◇ 高齢者の虐待については、平成19年(2007年)5月、『高齢者虐待防止法』の施行(平成18年(2006年)4月)から初めて、全国の都道府県・市町村を対象とした調査が実施されました。その結果、県内では、身体的虐待や介護・世話の放棄など168件の虐待事例を確認しました。そのうち約半数が認知症高齢者の事例であったため、認知症高齢者に対する知識を身につけるための啓発活動や、見守り活動等により、市町村や地域包括支援センター(*15)などの身近な機関を核とした地域全体で高齢者虐待の防止を図る必要があります。

◇ 介護保険施設等の利用者に対する身体拘束については、原則禁止とされています。県では、平成19年(2007年)8月、従来から設置していた「熊本県身体拘束ゼロ作戦推進会議(H14(2002)~)」(*16)と「認知症地域支援ネットワーク運営委員会(H16(2004)~」を再編統合し、介護保険関係団体の長や学識経験者を委員とする「熊本県高齢者権利擁護推進会議」を新たに設置し、虐待防止などの高齢者の権利擁護に取り組んでいます。しかし、身体拘束廃止に向けた取組みが十分でない施設等もあり、今後さらに、施設等に対し、身体拘束廃止に向けた指導の強化を図る必要があります。

◇ 高齢者の日常生活に関連する悩みの解消については、「シルバー110番」(* 17)などの相談事業に着実に取り組むとともに、特に、判断能力の不十分な認知症の高齢者等を悪徳商法等の被害から擁護し、財産管理を行うため、成年後見制度(*18)の普及をはじめ、福祉サービスの利用援助や日常的な金銭管理サービスを行う「地域福祉権利擁護センター」(*19)の充実などを引き続き図る必要があります。

◇ 高齢者のまわりには、意識面などをはじめとする様々な障壁が存在しており、高齢者の自立と社会的活動への参加が阻まれている状況があります。県では、平成7年(1995年)3月に『熊本県高齢者、障害者等の自立と社会的活動への参加の促進に関する条例』(以下、『高齢者や障害者等にやさしいまちづくり条例』という。)(*20)を制定しています。引き続き、この条例に沿ってバリアフリー(*21)を進め、高齢者が安心していきいきと暮らせるやさしいまちづくりに取り組む必要があります。

◇ 高齢者の自立と社会参加を図るためには、高齢者を年齢だけで一律に別扱いする制度や慣行等についても見直す必要があります。そのため、高齢者が意欲と能力に応じて働き続けることのできるよう、就労支援のための施策や、ボランティア活動など社会参加へのきっかけとなる事業の充実を図る必要があります。

④障がい者の人権
 【背景・経緯】
◇ 障がい(*22)者の人権については、国連において昭和50年(1975年)に『障害者の権利宣言』が採択されたことを契機として、障がい者の社会への完全参加と平等の確保が各国に呼びかけられました。また、昭和58年(1983年)からの「国連・障害者の10年」によって、「ノーマライゼーション」(*23)の理念が世界各国に広がってきました。

◇ 国際的な動向を踏まえ、日本でも、国において『障害者対策に関する長期計画』(昭和57年(1982年)から10年間)が策定され、また、平成5年(1993年)には『障害者基本法』が制定されました。
  『障害者基本法』では、基本的理念に社会参加の機会均等や障がいを理由とする差別の禁止等が規定されていますが、いまだ現実には、障がい者のまわりには、意識面などをはじめとする様々な障壁が存在しており、その自立と社会参加が阻まれている状況にあります。

◇ 国においては、平成7年(1995年)の『障害者プラン~ノーマライゼーション7か年戦略~』策定により、長期的視点に立った施策の取組みが図られ、平成14年(2002年)12月には新しい『障害者基本計画』が策定されました。
 また、平成17年(2005年)には、身体・知的・精神の3障がいの枠組みでは的確な支援が困難であった発達障がい者(*24)に対して一体的な支援を行う『発達障害者支援法』が制定されました。さらに、同年、精神障がい者に対する雇用対策の強化を図るために『障害者の雇用の促進等に関する法律』が改正されています。
 平成18年(2006年)には、それまで3障がいの種別ごとに異なる法律に基づいて自立支援の観点から提供されてきた福祉サービスや公費負担医療等について、共通の制度の下で一元的に提供する仕組みを創設する『障害者自立支援法』が制定されました。さらに、同年、『高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律』(通称:『バリアフリー新法』)が制定され、また、『教育基本法』の改正で障がいのある者へ教育上必要な支援を講ずるべきことが規定されるなど、障がい者の人権に関する法制度が整備されつつあります。

◇ 平成18年(2006年)12月、『障害者の権利に関する条約(政府仮訳)』が、第61回国連総会本会議において採択され、日本は、平成19年(2007年)9月に署名しています。
 この条約は、障がい者の固有の尊厳、個人の自律及び自立、差別されないこと、社会への参加等を一般原則として規定し、障がい者に保障されるべき個々の人権及び基本的自由について定めた上で、この人権及び基本的自由を確保し促進するための措置を締約国がとること等を定めています。
 今後、この条約の批准に向けて、国の法制度等の見直し・整備が必要となってきます。

 【本県の現状・課題】
◇ 障がい者を取り巻く問題については、これまでも「ノーマライゼーション」の考え方に基づき、様々な取組みを行ってきましたが、関係施設を設置する際の地域住民の反対、障がい者用駐車スペースへの駐車といった障がい者に対する誤解や偏見、理解のない行動など、いまだ多くの課題が存在しています。さらには、障がい者に対する財産の侵害や障がい者を狙った犯罪なども発生しています。
  そのため、障がい者についての正しい理解を得られるような啓発活動に取り組むとともに、権利を擁護するための成年後見制度(*18)の普及や「地域福祉権利擁護センター」(*19)の充実などを引き続き図る必要があります。
  障がい者が地域でともに暮らし、安心して生活できるようにするためには、地域社会全体が障がい者の存在を前提とした地域づくりを考え、推進していかなければなりません。

◇ 県では、平成7年(1995年)3月に『高齢者や障害者等にやさしいまちづくり条例』(*20)を制定していますが、引き続き、この条例に沿ってバリアフリー(*21)を進め、障がい者が安心していきいきと暮らせるやさしいまちづくりに取り組む必要があります。

◇ 平成13年度(2001年度)に実施した障がい者基礎調査においては、全体の8割近くの方が地域での生活を希望しており、施設や病院に入所・入院している人でも約半数以上の人が地域での生活を希望していることから、今後より一層、障がい者が地域で安心して生活できる社会にする必要があります。特に自閉症などの発達障がいや精神障がいについては、社会的認知が不足しており、地域における誤解や偏見が、自立と社会参加の大きな障壁となっていることから、さらに啓発に取り組む必要があります。
  また、障がい者が地域で生活するうえでの大きな課題の一つに就労の問題があります。就労意欲の高い方でも、事業所の障がい特性についての理解不足などにより、働く場所がない、働き始めても長続きしないといった問題があることから、事業所と障がい者の双方へのきめ細やかな支援を行う必要があります。
  県では、IT(情報通信技術)を活用した在宅就労の仕組みを構築する「チャレンジド・テレワーク推進事業」(*25)といった新しい就業形態の創出にも取り組んでいます。また、障がい者の就業と生活を一体的に支援する「障害者就業・生活支援センター」の設置を進めるなど支援体制を充実することにより、就職件数の増加を図っています。

◇ 県では、21世紀の新たな障がい者福祉の確立を目指し、平成15年(2003年)3月、第3期計画となる『くまもと障害者プラン』を策定しました。また、『障害者自立支援法』の施行で、これまでは対象外であった精神障がい者の福祉サービスも含めたサービスの一元化が図られたことを受け、平成19年(2007年)3月に中間見直しを行いました。このプランにおいては、障がい者が、その持てる能力と個性を十分に発揮しながら、生き生きとした生活を送ることができるよう、すべての人がともに社会の構成員として暮らしていける「共生」の考え方を基本としています。
  そのうえで、障がい者の「完全参加と平等」を目標として掲げ、すべての県民が互いに尊重しあうことによって、障がい者の抱える問題を県民全体の問題として認識し、日常生活のあらゆる場面で県民の一人ひとりが障がい者の社会参加を促進するよう考え、それを具現化するよう行動する、「ともに生きる」社会づくりを進めることとしています。
  具体的には、市町村や施設職員、障がい者相談員などへ人権や権利擁護に関する研修を行うなど、権利擁護の考え方の普及を図るとともに、成年後見制度や地域福祉権利擁護事業の普及・活動、苦情解決体制の整備を行っています。また、「ともに生きる」ための啓発として、すべての地域住民が、障がいのことを身近に感じ、理解するため、障がい者週間の各種行事や研修会等の様々な機会を通じて、広報・啓発を展開しています。
  「ともに生きる」社会づくりのためには、何よりもまず地域社会が、障がいに対する差別や偏見をなくし、障がいや障がい者のことを正しく理解しなければなりません。そのためには、正しい知識の普及や日常的なふれあいをとおした相互理解の促進などを図る必要があります。

◇ 教育面については、平成19年(2007年)4月に『学校教育法』等が一部改正され、「特別支援教育」がスタートしました。特別支援教育は、障がいの有無やその他の個々の違いを認識しつつ、様々な人々が生き生きと活躍できる共生社会の基礎となるものです。
 そのため、すべての学校に在籍する教育上特別の支援を必要とする幼児児童生徒が、それぞれの教育的ニーズに応じた支援を受けることができる支援体制の整備を図る必要があります。
 現在、県教育委員会では、福祉・保健・医療・労働の関係機関と連携しながら、支援が困難な事例ほど専門性のある支援が受けられる「段階的な支援体制」を構築することで特別支援教育を推進しています。

◇ 障がいのある児童生徒の就学については、市町村教育委員会が専門的知識を有する者の意見を聴き、保護者の意見を十分尊重し、協議しながら就学する学校を決めています。
 今後とも、県教育委員会としては、市町村教育委員会が保護者の意向を尊重しながら、就学についての第一義的責任を果たしていくよう働きかけていきます。

⑤同和問題
 【背景・経緯】
◇ 同和対策審議会の答申(昭和40年(1965年)8月)では、「いわゆる同和問題とは、日本社会の歴史的発展の過程において形成された身分階層構造に基づく差別により、日本国民の一部の集団が経済的、社会的、文化的に低位の状態におかれ、現代社会においても、なお著しく基本的人権を侵害され、特に、近代社会の原理として何人にも保障されている市民的権利と自由を完全に保障されていないという、もっとも深刻にして重大な社会問題である」と述べています。

◇ 同和問題の解決に向けた取組みは、明治4年(1871年)8月の太政官布告(いわゆる『解放令』)に始まります。しかしながら、この解放令は、単に蔑称を廃止し、身分と職業が平等にあつかわれることを明らかにしたにとどまり、実質的にその差別と貧困から解放するための政策は行われなかったため、その後も差別意識が根強く残り、結婚や就労における厳しい差別や、「心理的差別と実態的差別の悪循環」による差別の結果として、長年にわたって、被差別部落は劣悪な環境をはじめ、産業・労働・教育・生活全般における低位な状況におかれ、「何人にも保障されるべき市民的権利が十分に保障されない」という深刻かつ重大な人権問題を残してきました。

◇ 昭和40年(1965年)8月には、同和対策審議会が、その答申の中で「同和問題の解決は国の責務であると同時に国民的課題である」との基本認識を明らかにし、国や地方公共団体の積極的な対応を促しました。この答申は、その後の同和対策の基礎となっており、この答申が果たした歴史的意義は大きいものがあります。
  この答申を踏まえ、昭和44年(1969年)には、同和対策関係の最初の特別措置法として『同和対策事業特別措置法』が制定されました。その後、この法律も含め3本の特別立法に基づき、33年間にわたって、生活環境の改善、産業の振興、安定就労の促進、教育の充実、人権擁護活動の強化、社会福祉の増進といった基盤整備が総合的に進められるとともに、差別意識をなくすための教育・啓発などの取組みが行われてきました。

◇ 『地域改善対策特定事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律』(以下、『地対財特法』という。)の期限後の方策について、地域改善対策協議会は、平成8年(1996年)5月に『地域改善対策協議会意見具申』(*25)において、「特別対策については、事業の緊急性等に応じて講じられるものであり、従来の対策を漫然と継続していたのでは同和問題の早期解決に至ることは困難である。これまでの特別対策についてはおおむねその目的を達成できる状況になったことから、現行法の期限である平成9年3月末をもって終了することとし、教育、就労、産業等のなお残された課題については、その解決のため、工夫を一般対策に加えつつ対応するという基本姿勢に立つべきである」とし、「同対審答申は、部落差別が現存するかぎり同和行政は積極的に推進されなければならないと指摘しており、特別対策の終了、すなわち一般対策への移行が同和問題の早期解決を目指す取組みの放棄を意味するものではない」旨の意見が示されました。

 【本県の現状・課題】
◇ 同和問題は、日本固有の人権問題であり、憲法が保障する基本的人権の侵害に関わる重大な問題です。
  このため、県においては、同和問題の解決を県政の重要課題として位置づけ、これまで同和問題に対する正しい理解を促進するとともに、県民の人権が守られるよう、市町村や企業等との連携を図りながら、同和問題を基本とした人権教育・啓発活動等の各種施策に積極的に取り組んできました。

◇ 平成14年(2002年)3月、『地対財特法』が失効したことに伴い、同和地区や同和関係者に対象を限定した県の特別対策は、一部の経過措置を除いて、平成14年(2002年)3月末で終了しました。法失効後の施策ニーズに対しては、他の地域と同様、地域の状況や事業の必要性に応じ、各部局が所管する一般施策により対処していくこととしました。

◇ 従前の特別対策の実施により、住宅や道路などの生活環境の改善をはじめとする物的な基盤整備については着実に成果を上げ、生活環境の劣悪さが差別を助長するという状況は大きく改善されました。
  しかしながら、就労の安定や学力保障など残された課題もあり、また、結婚や就職時における差別の問題も、改善はみられるものの、依然として存在しています。
  心理面における偏見や差別意識については、教育や啓発の取組みにより着実に解消に向けて進んでいるところですが、今なお差別落書きや差別発言などが発生しており、その払拭に向けてさらなる教育・啓発が必要です。
  また、近年においては、インターネットを利用した差別情報の掲載なども大きな問題となっています。
  さらに、同和問題の解決に取り組む運動団体と誤解させるような組織名を装って、高額の図書の購入を強要したり、不当な寄付を募ったりするといった行為なども見受けられます。これは、同和問題に対する誤った認識が存在していることが、そのようなえせ同和行為を助長する要因ともなっていることから、引き続き同和問題に対する県民の正しい理解と認識が得られるよう、啓発活動を一層進める必要があります。

◇ 特別措置法は失効しましたが、同和問題は引き続き解決に取り組む県政の重要課題であり、これからも粘り強く解決に向けた取組みを推進していかなければなりません。
  このため、今後の差別意識の解消に向けた教育・啓発の取組みに当たっては、平成8年(1996年)の『地域改善対策協議会意見具申』(*26)を尊重し、これまでの同和問題に関する教育・啓発活動の中で積み上げられてきた成果等を踏まえ、また、同和問題を人権問題の重要な柱としてとらえ、すべての県民の基本的人権を尊重するための人権教育・啓発として充実を図る必要があります。

⑥外国人の人権
 【背景・経緯】
◇ 『日本国憲法』では、権利の性質上、日本国民のみを対象としていると解されるものを除き、日本に在留する外国人についても、等しく基本的人権を保障しています。

◇ 近年における国際化の進展に伴い、日本に在住あるいは訪問する外国人が増えていますが、就労差別や入居・入店拒否など日常生活において差別事例が発生しています。
 これらの差別事例発生の背景としては、日本の歴史的経緯や地理的条件に加え、諸外国の文化や慣習への理解不足からくる外国人に対する偏見や差別意識の存在などが挙げられます。

 【本県の現状・課題】
◇ 本県における外国人登録者数は、平成18年(2006年)末現在で8,926人となっており、年々増加傾向にあります。また、民間団体等により、様々な国々との国際交流も盛んに行われています。併せて、観光やビジネスなどで諸外国から本県を訪れる人数も含めて、諸外国との人的、物的交流の規模は今後とも拡大していくことが予測されます。
  そのため、本県における「地方の国際化」の牽引役となる行政、学校、企業・民間団体、県民などが外国人の人権についての関心をより一層高め、国籍や民族の違いを超えた、外国人が、暮らし、活動しやすい「多文化共生の地域づくり」を進めなければなりません。

◇ 外国人に対する偏見や差別は、異なる民族・国・地域・文化等について正しい理解がなされていないことなどが要因となっています。また、その一方で、伝統的な価値観を有する地域社会の中で、外国人や異文化と接する場合は、閉鎖的になりがちな傾向もあります。
  このため、偏見や差別の解消に向け、県民一人ひとりが広い視野を持ち、外国人との相互理解を深めるために、啓発活動や交流事業を充実させる必要があります。

◇ 外国人が快適に暮らすための支援や、活動しやすい環境づくりを進めることも大切です。そのため、地域における日本語学習機会の確保や医療など、日常生活や緊急時における相談・情報提供機能を充実させるとともに、公共やビジネス、観光の場における外国語表示や、在住外国人と地域住民との交流促進が必要です。併せて、防犯講話・研修会の実施等による防犯・防災対策などを充実させる必要があります。
  県は「国際相談コーナー」(*27)を設置していますが、他の相談機関との緊密な連携を図ることなどにより、外国人からの様々な分野にわたる相談に的確に対応できるよう努める必要があります。

⑦水俣病をめぐる人権
【背景・経緯】
◇ 日本における公害の原点といわれる水俣病は、昭和31年(1956年)に、水俣市でその発生が公式に確認されました。水俣市にあるチッソ(株)(当時「新日本窒素肥料(株)」)水俣工場から、化学製品の原料(アセトアルデヒド)の製造工程で副生したメチル水銀が工場排水とともに排出され、そのメチル水銀を取り込んだ魚介類を人々が知らずに食べたことが原因で、水俣病が発生しました。
 水俣病の主な症状としては、両手両足の感覚障害や視覚・聴覚障害、運動失調等があります。また、妊娠している母親の体内に入ったメチル水銀が、胎盤を通して胎児へ取り込まれ、生まれながらに水俣病の症状を有する胎児性水俣病もあります。

◇ 水俣病問題は、健康被害をもたらしたばかりでなく、いわれのない偏見や差別の問題を生じさせました。
 水俣病の原因がまだはっきりしなかった頃から、水俣病は伝染あるいは遺伝するなどと誤解され、漁村等では魚が売れなくなるとの懸念などから患者を家の中に隠したこともありました。また、患者が出たとわかると、その家には人々が寄りつかなくなり、買い物の時にお金を手渡しで受け取ってもらえなかったり、バスに乗っても患者やその家族を避けるように離れて座るなど、様々な厳しい差別がありました。しかし、後には差別していた人の中からも多くの人が発病し、自らも差別に苦しむということもありました。
 また、水俣は企業城下町とも言われ、チッソという企業に経済的に大きく依存していたため、患者やその家族はチッソと対立するものとして、差別や抑圧・忌避を受けるなど住民間の対立が深まり、地域住民のきずなが損なわれました。患者がチッソから受ける補償金が、中傷やねたみを招くこともありました。
水俣出身であるために結婚や就職を断られたり、水俣の産品が売れないなど、地域外からの差別もありました。このような事情から、水俣病に苦しみながらも、差別を恐れ、自分が水俣病であるということを言えなかった人もいます。

【本県の現状・課題】
◇ 平成16年(2004年)10月に、水俣病関西訴訟最高裁判所判決において、水俣病被害の拡大を防止できなかったことに対し、国と熊本県の責任が確定しました。また、水俣病は、平成18年(2006年)5月1日に公式確認から50年を迎えています。
これまでの間に、水俣・芦北地域の再生と地域住民間のきずなを取り戻すことを目的として、「もやい直しセンター」(*3)が建設され、人々の交流の場、地域保健・福祉の活動拠点として利用されているほか、水俣病問題について学ぶために、「水俣市立水俣病資料館」(*28)や「国立水俣病情報センター」(*29)等が建設され、水俣病に関する資料やパネル・写真の展示などが行われています。水俣病資料館では、実際に水俣病やそれに伴う差別を語り継いでいる「水俣病の語り部」の皆さんの体験談を聞くこともできます。
しかしながら、今なお、「水俣」というだけで特別な目で見られ、県外で水俣出身を語れないなど、水俣病被害者、あるいは水俣病発生地域に対する偏見や差別の問題が存在しています。偏見や差別の解消のためには、水俣病が伝染病・遺伝病・風土病ではないことや、平成9年(1997年)に県が「水俣湾の安全宣言」を行い、仕切網も撤去され、昔のきれいな海がよみがえったことなど、水俣病に関する正しい知識を広め、理解を深めていくことが必要であり、引き続き水俣病の情報や教訓、発生地域の再生状況等を広く発信していくなどの取組みが重要です。

◇ 水俣病問題の長い年月の経過に伴い、水俣病被害者本人やその家族の高齢化が進んでいます。中でも、胎児性・小児性水俣病の被害者は、多くの人が 50歳代を迎えていますが、幼い頃から水俣病ゆえの偏見や差別を受けてきたり、また、家族も高齢の被害者である場合が多く、通院等の外出や食事、あるいは介護者の緊急時の対応等、日常生活において様々な支障や不安が生じています。
これらのことから、被害者やその家族が、地域において安心して日常生活が送れるよう、また、社会参加が促進されるよう、関係機関等と連携しながら、地域における支援を充実する必要があります。
◇ 県が昭和40年代から作成していた疫学調査書に、「無職」の意味で「ブラブラ」と記載していたことが平成12年(2000年)になって判明し、行政の姿勢が厳しく問われました。行政職員として、日常の業務において気にとめずに行っていることの中にも人の心を傷つけたり、あるいは差別をしたりしているようなことが潜んでいるということを、常に意識しながら業務を行う必要があります。

⑧ハンセン病回復者等の人権
 【背景・経緯】
◇ ハンセン病は、「らい菌」という細菌による感染症ですが、飲食・入浴などの日常生活では感染しません。仮に発病した場合であっても、現在では治療方法が確立しています。また、遺伝する病気でないことも判明しています。

◇ ハンセン病患者を隔離する必要は全くありませんが、日本では、明治時代から施設入所を強制する隔離政策が採られてきました。明治40年(1907年)、らい『癩予防ニ関スル件』という法律が制定され、救護者のいない患者を療養所に入所させたのが隔離政策のはじまりですが、この隔離政策は、昭和28年(1953年)に改正された『らい予防法』においても、また、昭和35年(1960年)にWHO(世界保健機関)が外来治療を勧告した後も続けられました。

◇ 平成8年(1996年)の『らい予防法の廃止に関する法律』の施行により、強制隔離政策はようやく終結することとなりました。ハンセン病療養所入所者のほとんどは、ハンセン病は完治していますが、ハンセン病の後遺症として身体に障がいが残っているため、依然として患者であるとの誤解が払拭されていない、という現状があります。
このような社会における根強い偏見に加え、高齢化などにより、療養所を退所することが困難な状況にあり、現在も多くの人が療養所で暮らしています(全国には15の療養所があり、約2,900人(平成19年(2007年)5月1日現在)が療養所で暮らしています)。

◇ 平成13年(2001年)5月11日、ハンセン病元患者等に対する国の損害賠償責任を認める熊本地方裁判所判決が出され、国はこれに控訴せず、判決は確定しました。このことが契機となり、国によるハンセン病元患者等に対する損失補償や名誉回復等の措置が進められることとなりました。

◇ また、平成17年(2005年)3月に出されたハンセン病問題検証会議の最終報告書では、行政はもとより、医療、法曹、マスメディアなど、ハンセン病を取り巻く各界の責任についても言及されており、社会全体で人権侵害の再発防止に向けて取り組むことなどの必要性が指摘されています。

 【本県の現状・課題】
◇ 本県には、全国最大規模のハンセン病療養所である「国立療養所きくちけいふうえん菊池恵楓園」を含め2つの療養所があり、現在、約460人(平成19年(2007年)5月1日現在)が暮らしています。
 また、明治28年(1895年)の「私立かいしゅんびょういん回春病院」(*30)の創設や明治31年(1898年)の「私立たいろういん待労院」(*31)の創設、さらには、ハンセン病の歴史を大きく変えることとなった熊本地方裁判所判決が平成13年(2001年)5月に出されたことなど、本県とハンセン病との関わりは非常に深いものがあります。

◇ ハンセン病問題対策については、社会復帰支援策をはじめ、きめ細かな対応が重要となっています。平成13年(2001年)に実施した「菊池恵楓園等入所者意向調査」の結果からは、必要な県の取組みとして、『「ハンセン病に対する正しい知識」についての県民への普及啓発』や「地域社会との交流活動への支援」などが挙げられています。このような結果を踏まえ、国や市町村との連携を図りながら、必要な施策を展開する必要があります。

◇ 県が実施した「2007年(平成19年)県民アンケート調査」では、「ハンセン病が感染しにくい病気だということを知っていますか」の問に対して、知っている人の割合は80.7%となっていますが、社会参加の妨げとなるような宿泊拒否事件(*32)が県内で発生するなど、偏見や差別が根強く残っているため、引き続き正しい知識の普及啓発に取り組む必要があります。

◇ 現在、菊池恵楓園では、園への訪問者や入所者自治会への講演依頼が増加するなど、県民との交流が進んでおり、園内には、入所者の歴史を伝えるとともに普及啓発や住民との交流を図る社会交流会館が、平成18年(2006年)12月に開館し、今後、啓発の拠点としての積極的な活用が望まれています。

⑨感染症・難病等をめぐる人権
 (ア)HIV感染症等をめぐる人権
  【背景・経緯】
◇ 医学的に不正確な知識や思いこみによる過度の危機意識により、感染症患者に対する偏見や差別意識が生まれ、患者や家族などに対する様々な人権問題が生じています。感染症については、まず、予防及び治療といった医学的な対応が不可欠であることは言うまでもありませんが、それとともに、患者や家族などに対する偏見や差別意識の解消など、人権尊重の視点も重要です。平成10年(1998年)10月には、患者の人権尊重と良質かつ適切な医療の提供、迅速かつ適確な対応を行うため、『感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律』が制定されました。

◇ HIV感染症とは、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)に感染している状態
で、エイズ(後天性免疫不全症候群)とは、HIV感染症が進行し、身体の免疫力が徐々に低下することによって、ニューモシスティス肺炎などのエイズに特徴的な疾患が重複して引き起こされる状態です。HIVに感染しても、多くの場合すぐには発病せず、特に何の症状もない「無症候性キャリア」と呼ばれる期間を過ごすことになります。人によっては、この発病しない期間が数年から十数年、あるいはそれ以上とも言われており、最近では、HIVの増殖を抑える薬の開発により、発病をさらに遅らせることができるようになりました。

◇ エイズは、昭和56年(1981年)、アメリカ合衆国で若い男性同性愛者5人
がニューモシスティス肺炎(当時カリニ肺炎と呼ばれていました。)を起こし、後にエイズと診断されたのが最初の報告です。その後、注射による麻薬の使用者や血液凝固因子製剤を使用している血友病患者、輸血を受けたことがある者や同性愛者ではない者にも同様の症例が見られ、昭和57年(1982年)に、後天的に免疫不全を起こす病気としてエイズの定義が確立されました。
 以来、世界的な広まりを見せ、日本においても、昭和60年(1985年)に最初の患者が発見されてからは、身近な問題として取り上げられるようになりました。

◇ 国際的な取組みの動向としては、昭和63年(1988年)、WHO(世界保健機関)が、エイズの世界的な感染拡大防止とHIV感染者・エイズ患者に対する差別や偏見を解消することを目的に、毎年12月1日を「世界エイズデー」と提唱しました。また、日本においても、平成6年(1994年)、横浜で10回目の「国際エイズ会議」が開催されています。
 一方、国内の法制度としては、平成元年(1989年)に『後天性免疫不全症候群の予防に関する法律』が施行されましたが、この法律は平成11年(1999年)に廃止され、これに代わって、先に述べた『感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律』が施行されました。

  【本県の現状・課題】
◇ 平成18年(2006年)末現在、本県におけるHIV感染者・エイズ患者の届出数は、感染者28人、患者15人となっています(全国では感染者8,344人、患者4,050人)。これらの感染経路を見ると、平成18年(2006年)のエイズ年報では、性的接触によるものが感染者の86.8%、患者の74.9%を占めています。 また、(財)日本性教育協会による青少年の性に関する調査(平成17年(2005年))では、性交経験率が中学生:男子3.6%、女子4.2%、高校生:男子26.6%、女子30.0%、大学生:男子61.3%、女子61.1%と増えており、若者を中心としたエイズ感染防止のための啓発が重要です。

◇ 全国的に、エイズを発症して始めてHIVに感染していることが判明する人の割合が、全体の約3割を占めており、県内でも同様の傾向がみられます。早期発見のための検査を受ける機会を逸していることが原因と考えられています。

◇ 県が実施した「平成14年度(2002年度)県民意識アンケート調査」では、HIV感染に関し、「性行為以外での日常生活ではほとんど感染しないことを知っている」とする県民の割合は84.1%で、例年少しずつ増加しています。県民一人ひとりがエイズに対する正しい知識を身につけ、理解を深めるとともに、HIV感染者・エイズ患者が社会に受け入れられ、自立した生活を送ることができるよう、今後、さらに普及・啓発を進める必要があります。
◇ 学校教育においては、児童生徒に対し、エイズに対する正しい知識やその予防法を正しく理解させることにより、エイズに対する不安や偏見をなくしていくことが大切です。そのため、学校教育活動全体を通じてエイズ教育の目標を明確にするとともに、養護教諭や学校医、産婦人科医などの専門医との連携のもと、児童生徒の発達段階に応じて、計画的・系統的に取り組む必要があります。

 (イ)難病等をめぐる人権
  【背景・経緯】
◇ 難病については、その多くが原因不明で治療法も確立されておらず、生涯にわたって治療を必要とします。
難病は、経過が慢性にわたるため、経済的な問題のみならず介護等を要するために家族の負担が重く、精神的な負担も大きいものがあります。
 また、難病はその種類も多くさまざまな病気の特性があり、個人差があるため一見して病気とわかる場合もあれば、全く健康な人と変わらない場合もあります。そのため、患者の中には、病気に対する無理解や偏見により、心ない言葉をかけられるなど、就学、就労、結婚など社会生活のあらゆる場面で差別を受け、中には、病気を周囲に隠している人も少なくなく、こうした差別や偏見を払拭することが必要になっています。

【本県の現状と課題】
◇ 難病患者等の人権が尊重され、個人の尊厳をもって、地域社会において安心して暮らすことができるような社会を実現するために、難病に関する適切な情報を提供するなど普及啓発に取り組む必要があります。
 また、地域で生活する難病患者やその家族の日常生活における相談・支援 の取組みを始めています。
 特に、難病患者の生活安定のため、就労及び就労継続への取組みとして、労働等関係機関との会議を平成19年(2007年)4月に開催するとともに、ハローワーク等でより相談がしやすくなるよう、「難病者就労相談シート」を作成し、その利用を5月からスタートしました。
今後とも、難病患者に対する理解が深まるよう、それぞれの立場で難病についての正しい知識の普及啓発に取り組む必要があります。

⑩犯罪被害者等の人権
 【背景・経緯】
◇ 国際的な動向としては、昭和60年(1985年)8月の国連総会において、犯罪被害者等への情報提供、適切な援助の提供、プライバシーの保護などを刑事司法機関に求めた『犯罪及び権力濫用の被害者のための司法の基本原則宣言』が採択されています。

◇ 国内においては、三菱重工ビル爆破事件(昭和49年(1974年)8月)(*33)を契機として、犯罪の被害者や遺族に対する経済的救済制度創設の気運が高まり、昭和55年(1980年)5月に『犯罪被害者等給付金支給法』が成立しました。
  また、平成8年(1996年)2月には、警察が推進すべき被害者対策の基本方針を取りまとめた『被害者対策要綱』が制定され、警察による本格的な被害者対策が開始されました。

◇ 平成13年(2001年)4月、『犯罪被害者等給付金支給法』が改正され、「犯罪被害者等早期援助団体の指定」に関する規定などが新たに創設されました。これは、犯罪被害者等を援助し、犯罪被害等を早期に軽減する目的で設立された非営利法人のうち、都道府県公安委員会が一定の要件のもとに指定し、公的認証を与えるものです。

◇ このような取組みにより相当の成果がみられましたが、犯罪被害者等からは依然として経済的支援や医療・福祉サービスの不足、刑事手続での扱いへの不満、二次的被害、民間を含めた支援体制の不十分さ、国民の理解の不足等が訴えられ、各府省庁単位での取組みでは限界がみられました。そこで犯罪被害者等が直面している困難な状況を踏まえ、これを打開し、その権利利益の保護を図るべく、犯罪被害者等のための施策を府省庁横断的に取り組み、総合的かつ計画的に推進していくため、平成16年(2004年)12月、『犯罪被害者等基本法』が制定されました。
 同基本法は平成17年(2005年)4月に施行され、同年12月には総合的かつ長期的に講ずべき犯罪被害者等のための施策の大綱等を盛り込んだ『犯罪被害者等基本計画』が閣議決定され、施策の着実な実施が求められています。

◇ その成果として平成19年(2007年)6月、『刑事訴訟法』等が改正され、被害者が刑事裁判に参加する制度(被害者参加制度)や犯罪被害者等が刑事裁判の手続を利用して民事の損害賠償請求ができる制度(損害賠償命令制度)等が新設されました。平成20年(2008年)中に実施されることとなっています。

 【本県の現状・課題】
◇ 犯罪被害者等は、犯罪等による直接的な被害のみならず、犯罪等の被害後に生じる精神的な被害や治療費の支出などに伴う経済的な被害を受けるほか、近隣住民等周囲の人々の言動や報道機関による取材及び報道により二次的被害を受ける場合があり、更に苦しんでいる状況にあります。
  このため、犯罪被害者等に対しては、刑事司法手続き、保護手続き及び被害回復のための諸制度に関する情報の提供を受けることができるような環境整備が必要であるとともに、二次的被害の防止、軽減及び回復並びに再被害の防止に向けた取組みを強化する必要があります。

◇ 平成15年(2003年)4月には、犯罪被害者等に対する支援活動を専門的に行う団体として「(社)熊本犯罪被害者支援センター」(*34)が設立されました。同センターは、平成17年(2005年)4月に熊本県公安委員会から「犯罪被害者等早期援助団体」の指定を受け、被害直後からの犯罪被害者等に対する支援を実施して被害の軽減を図るとともに、相談員や被害者支援ボランティアの養成、並びに犯罪被害者等が置かれた現状や支援の必要性を社会に周知するための広報・啓発に取り組んでいます。今後は、同センターを中核とした、関係機関・団体による被害者支援ネットワークの更なる活性化が求められています。

◇ 熊本県においても様々な犯罪の発生が後を絶たず、県民誰もが犯罪被害者等
となる可能性がある中で、被害を受けた場合に必要な支援が受けられるよう、また犯罪被害に対する県民の理解が深まるよう平成20年(2008年)3月に『熊本県犯罪被害者等支援に関する取組指針』を策定しました。同取組指針においては、「犯罪被害者等の平穏な日常生活への復帰」、「犯罪被害者等を支える社会環境づくり」、「パートナーシップに基づく施策推進」の3つを重点的な課題及び取組方針として、犯罪被害者等支援に関する施策を総合的・体系的に推進していきます。

◇ 犯罪被害者等の人権が尊重された社会環境を醸成するためには、社会全体が一体となった取組みを行うことが重要です。今後とも、あらゆる機会をとらえて、啓発活動に取り組む必要があります。

⑪インターネットによる人権侵害
 【背景・経緯】
◇ 情報化社会の進展に伴い、近年、インターネットは急速に普及してきました。国内のインターネット利用人口は、約8,700万人(H18年(2006年)末現在)となり、今後、さらに増加していくと予想されています。

◇ インターネットは、国境を越えた自由なコミュニケーションが可能であること、膨大な量の情報を簡単に利用できることなどの利便性をもたらす一方で、同和問題にかかる人名・地名などに関する差別書き込みや個人情報の不正な取り扱い、信用情報等の流出、出会い系サイトに関するトラブル、青少年に有害なサイトの氾濫、誹謗中傷など、いわゆる「情報化の影」の部分が生じています。

◇ 国は、平成14年(2002年)に『特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制
限及び発信者情報の開示に関する法律』(通称:『プロバイダ責任制限法』)を施行し、インターネット等による情報の流通で権利の侵害があった場合の業者の責任範囲や被害者がプロバイダやサーバー管理者などに対して、発信者情報の開示を請求する権利などを定め、インターネット利用者の権利保護に取り組んでいます。

 【本県の現状・課題】
◇ インターネットが急速に普及する中、その匿名性を悪用して、他人を誹謗中
傷したり、差別を助長した情報を載せる、あるいは他人のプライバシーにかかる情報を公開するなどの行為がみられます。
  また、インターネットや携帯電話の児童生徒への普及に伴い、ネット上の掲示板や電子メールを利用した誹謗中傷やいじめ(「ネットいじめ」)、出会い系サイトに関係したトラブルなどの被害が発生しています。

◇ こうした状況を踏まえ、県では、平成17年(2005年)3月に策定した『熊本
県総合情報通信高度化計画「くまもとユニバーサルITプラン」』の中で、解決しなければならない基礎的な課題として、情報モラルの向上を位置付け、県民のモラル向上や情報モラルに関する教育の充実に取り組んでいます。
  また、学校現場においては、教職員の意識や資質の向上を図りながら、家庭とのしっかりとした連携の下、児童生徒の情報モラル教育を推進しています。

◇ 今後も利用者一人ひとりが、情報モラルについて正しい理解と認識を深める
よう、啓発活動の推進に努めるとともに、正しい情報を見極める力(情報リテラシー)を高めていくための取組みが必要です。

⑫様々な人権課題
(ア)刑を終えて出所した人等の人権
刑を終えて出所した人や執行猶予の判決を受けた人に対しては、根強い偏見や差別意識があり、また、高齢化が進行していることなどにより、仮に本人に更生の意欲があったとしても、就職や居住などの面で社会に受け入れられず、現実は極めて厳しい状況にあります。また、その家族の人権が侵害されることもあります。
刑を終えて出所した人等が円滑な生活を営むことができるようにするためには、本人の強い更生意欲と併せて、家族、職場、地域社会など周囲の人々の理解と協力が欠かせません。刑を終えて出所した人等の自立が阻まれることのないよう、また、家族の人権が侵害されることのないよう、偏見や差別の解消に向けた啓発活動に取り組む必要があります。

(イ)アイヌの人々の人権
アイヌの人々は、北海道などに先住していた民族であり、独自の歴史や伝統、文化を持っています。しかし、明治以降のいわゆる同化政策の中で、アイヌの人々の生活を支えてきた狩猟や漁労は制限、禁止され、また、アイヌ語の使用など伝統的な生活慣行の保持が制限されました。このため、アイヌの人々の民族としての誇りである文化や伝統は、十分に保存、伝承されているとは言い難い状況にあり、また、アイヌの人々に対する理解が十分ではないため、偏見や差別の問題が依然として存在しています。
現在は、平成9年(1997年)5月に制定された『アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律』に基づき、アイヌ語を含むアイヌ文化の振興やアイヌの伝統等に関する知識の普及啓発を図るための施策などが進められています。
県においても、民族や生活様式といった文化の違いに対する県民の寛容性を育むためにも、アイヌの伝統等に関する知識の普及啓発に努めるとともに、アイヌの人々に対する偏見や差別の解消に向けた啓発活動に取り組む必要があります。

(ウ)ホームレスの人権
 ホームレスは、公園、河川等を起居の場所として日常生活を営んでいる人々ですが、経済状況の悪化や家族・地域住民相互のつながりの希薄化、社会的な排除等が背景となっていると言われています。自立の意思がありながらホームレスとなることを余儀なくされ、食事の確保や健康面での不安を抱える等、健康で文化的な生活を送ることができない状況にあります。また、中には地域社会とのあつれきが生じ、苦情やいやがらせ等が発生している状況も見受けられます。
 ホームレス自らの意思で安定した生活を送ることができるようになるためには、その人らしい生き方を尊重しながら、住居や就職等の支援と併せて地域社会の理解があることが必要です。そのためには、ホームレスの実態(要因・背景・生活状況等)を住民が理解し、ホームレスに対する偏見や差別意識が解消されるように、広報啓発活動を行うことが必要です。
ホームレスに安定した住居と就労機会を提供・確保し、生活相談などの「自立」につながる総合的な対策を実施することを国や地方公共団体の責務とする『ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法』が、平成 14年(2002年)8月から施行(10年間の時限立法)されています。

(エ)性同一性障がい・性的指向(*35)をめぐる人権
 生物学的な性である「からだの性」と、自分の性をどう認識するかという「こころの性」が一致しない性同一性障がいに関して、また、同性愛などの性的指向に関して、県民の正しい理解が求められています。
 性同一性障がい者は、日常生活の様々な場面において奇異な目で見られるなど精神的な苦痛を受けているとともに、就職をはじめ、自認する性での社会参加が難しいなど、社会の無理解や偏見のため不利益や差別を受けている状況にあります。このため、平成16年(2004年)7月、『性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律』が施行され、性別適合手術を受けているなど一定の要件を満たした場合は、家庭裁判所の審判を経て戸籍上の性別を変更することができるようになりました。
 一方、同性愛者に対する根強い偏見や差別など、性的指向にかかる人権問題も社会生活の様々な場面で発生しています。
 なお、性同一性障がいと同性愛がよく混同されることがありますが、「自分の性をどう認識するか」、と「どの性を性愛の対象とするか」、とはそれぞれ別の問題です。
 このような人々の人権を守るためには、職場、地域社会などの周囲の人々が性に対する多様なあり方を認識し、理解を深めていくことが必要です。
 
(オ)拉致問題その他北朝鮮当局による人権侵害
平成14年(2002年)9月に平壌で行われた日朝首脳会談で、北朝鮮側が初めて当局による日本人の拉致を認めましたが、拉致問題は人間の尊厳、人権及び基本的自由に対する重大な侵害です。平成20年(2008年)1月時点で、政府認定の日本人拉致被害者17人のうち、5人とその家族は帰国が実現しましたが、残りの人々については、安否不明のままです。
この問題に関する国民の認識を深めるとともに、国際社会と連携して対応していくことを目的として、平成18年(2006年)6月に『拉致問題その他北朝鮮当局による人権侵害問題への対処に関する法律』が施行され、国及び地方自治体の責務等が定められるとともに、毎年12月10日から16日までを「北朝鮮人権侵害問題啓発週間」とすることとされました。
また、同年9月には、拉致問題に関する総合的な対策を推進するために、総理大臣を本部長とする「拉致問題対策本部」が設置され、問題解決に向けた体制が整備されました。
さらに、平成19年(2007年)12月の国連総会では、組織的に広範な人権侵害が続く北朝鮮の人権状況を非難する決議案が3年連続で採択され、日本を含む賛成国が、初めて100カ国を超えました。
一方で、無理解や誤解による在日朝鮮人の人々に対する嫌がらせなどの二次的被害も生じています。この問題に対する県民の正しい理解と認識を深めるために様々な啓発活動に取り組んでいく必要があります。

(2)人権教育・啓発の取組みの方向

 ①教  育
 (ア)就学前教育
幼稚園・保育所は、人やもの、自然とのふれあいや様々な遊びを通して、物事に対する興味や関心を養うとともに、基本的な生活習慣を身につけるなど、生涯にわたる人格形成の基礎を培ううえで極めて重要な役割を担っています。このため、すべての幼稚園・保育所等において、人権を大切にする心を育てる就学前教育に努めます。
特に乳幼児期には、その発達過程に即したきめ細かな対応が求められるため、すべての職員が共通理解に立って、一人ひとりの子どもの健全な成長発達を支援するとともに、家庭及び地域における幼児期の教育の支援に努めます。
また、職員の言動が子どもに与える影響は大きいことから、子どもに対して適切な指導・援助がなされるよう、職員自身の豊かな人間性や専門性の確立などを目指し、研修の一層の充実を図ります。

 (イ)学校教育
  (ⅰ)内容
学校教育においては、児童生徒一人ひとりの人権が守られた環境の中で、その発達段階に応じながら、人権尊重の意識を高めていく必要があります。そのため、教職員が、同和問題をはじめ様々な人権問題の解決を自らの課題としてとらえるとともに、すべての教育活動の中で実践していくことにより、人権尊重に対する豊かな感性や、主体的な意識、実践力を持った児童生徒の育成に努めます。
また、児童生徒一人ひとりが、各教科や道徳、特別活動、総合的な学習の時間などすべての学校生活を通して、様々な人権問題についての理解を深め、人権についての認識を高めることができるよう、学校・地域の実情などに十分配慮しながら、一人ひとりを大切にした教育に、総合的かつ計画的に取り組みます。

(ⅱ)方法
   (推進体制の確立)
児童生徒が、心に響く、感性豊かな人間性を育むとともに、他者の気持ちがわかり、自分のこととして考えることのできる技能や態度を培うことができるよう、学校においては、すべての教職員がそれぞれの職責を自覚した推進体制のもと、すべての教育活動を通じて人権に配慮した教育を進めます。

   (研修の充実)
すべての教職員は、人権問題解決に果たす教育の重要性を深く認識するとともに、児童生徒への愛情や教育への使命感を抱きながら、常に指導者としての資質や実践的な指導力専門性の向上に努めることが、強く求められています。
そのため、お互いに教育実践上の課題や情報を交流しあうことのできる研修や、より専門的な見地からの講話、自らの知識や体験をもって積極的に関わる参加体験型学習、人権に関わる各種推進資料の活用などにより、研修の充実を図ります。
また、日本が平成6年(1994年)に批准した『子どもの権利条約』では、生命・生存・発達に対する権利や意見表明権、虐待等から保護される権利など、児童生徒が一人の人間として自立していくうえで必要な権利が規定されています。このため、教職員一人ひとりがこの条約についての理解・認識を深めるとともに、ひいては、児童生徒に対しても十分な周知が図られるよう、一層の研修の充実を図ります。

   (「生きる力」の育成)
人権問題への認識と理解を深め、児童生徒が進んで学習できる効果的・総合的な学習指導計画の確立や、教材・教具等の開発、学習指導方法等を工夫・改善することにより、児童生徒が、自ら学び自ら考え、問題を解決する力や、他人を思いやる心、感動する心などの豊かな人間性、さらには、たくましく生きるための健康や体力(これらを総称して「生きる力」という。)を育成するよう努めます。
また、発達段階に応じた適切な人権学習と各教科等で展開される指導とを相互に有機的に結びつけながら、一人ひとりの学習・生活実態に即した人間としてのあり方や生き方に関わる日常的な指導を粘り強く積み重ねることにより、児童生徒が人権尊重の視点に立った態度を培い、主体的・自発的に行動できるよう支援します。
   (体験・交流活動の重視)
ボランティア活動などの社会奉仕体験活動や自然体験活動をはじめ、高齢者・障がい者等との交流活動などを通して、自他の違いを認め、お互いに尊重しあうとともに、豊かな感性や社会性、人間性をもった児童生徒の育成に努めます。
また、勤労生産活動や職場体験活動などを通して、社会の中で望まれる職業観や勤労観の育成に努めます。

   (学習環境の整備)
各学校が人権に配慮した教育活動や学校運営を行うことにより、また、併せて、教職員自身が常に指導者としての資質の向上を目指して自己けんさん研鑽・意識改革に努めることにより、安心して楽しく学ぶことのできる学習環境を確保し、児童生徒の規範意識を培います。
そのため、児童生徒が誤った世間体や偏見などにとらわれることなく、科学的に判断する力を育む学習教材等の整備や、児童生徒を認め・ほめ・励まし、伸ばすための人権に配慮した教室設営など、学習環境の整備に努めます。

   (家庭・地域との連携)
児童生徒を含め、すべての県民の人権が尊重されるようなまちづくりを実現するためには、県民の生活の場としての家庭や地域における取組みが重要となります。このため、学校が地域に開かれた人権教育・啓発の推進拠点として、その役割が十分に発揮されるよう、学校と家庭・地域との間で、人権問題に関わる様々な情報を受発信するなど、相互に緊密な連携を図ります。

 (ウ)社会教育
  (ⅰ)内容
社会教育においては、すべての人々の人権が尊重される社会の実現を目指し、生涯学習社会の構築に向けた様々な取組みの中で、県民一人ひとりが自発的学習意思に基づき学習ができるよう、社会教育施設を中心とした人権に関する学習環境の整備・充実が求められています。その際、単に人権問題を知識として学ぶだけではなく、身近な日常生活において、県民一人ひとりの中に、互いの人権を尊重する態度や行動を培うことのできる人権感覚を養う必要があります。

  (ⅱ)方法
   (家庭教育に対する支援)
家庭教育は、幼児期から豊かな情操や思いやり、生命を大切にする心、善悪の判断など人間形成の基礎を育む上で重要な役割を担っており、すべての教育の出発点となります。特に、偏見を持たず差別しないということを、親自身が日常生活のあらゆる場面において子どもに示すことが必要です。そのため、親と子がともに人権感覚を養うことのできる家庭教育に関する学習機会の確保や情報の提供、相談体制の整備などにより、家庭教育の支援に努めます。 

   (学習機会の充実及び学校教育との連携)
人権に関する多様な学習機会の充実を図るため、公民館等の社会教育施設を中心として、地域の実情に応じた学級・講座の開設や交流事業などの取組みを促進します。また、学校教育との連携を図りながら、青少年の豊かな人間性を育むため、ボランティア活動・自然体験活動をはじめとする多様な体験活動や高齢者・障がい者等との交流を通じて、お互いの人権を尊重する地域社会づくりに努めます。

   (学習意欲を高める創意工夫)
人権が日常生活の様々な場面で関わってくるものであるということが理解できる学習内容を組み立てるとともに、様々な人とのふれあい体験を通して人権感覚が自然に身につく参加体験型学習プログラム等を開発・提供するなど、内容・手法を創意工夫し、学習意欲が高まるように努めます。

   (指導者の養成)
人権教育・啓発を推進する指導者は、様々な人権問題の解決に向け、地域の実情に即した取組みを進めるうえで重要な役割を担っています。このことから、その養成や資質の向上に努めるとともに、社会教育における指導体制の充実を図る必要があります。指導者養成のための研修については、地域における人権教育・啓発の推進者として広く活動できるよう、企画・運営に関することや体験的・実践的手法を取り入れるなど、研修内容・方法を創意工夫します。

 ②啓  発
人権についての啓発は、広く県民を対象として行われるものであり、その手法についても、研修や広報活動、情報提供など多岐にわたりますが、その目的は、県民一人ひとりが人権の意義や人権尊重の重要性について正しい認識を持つとともに、そういった認識が、日常生活において、自らの態度や行動に現れるようにすることにあります。
また、人権は、県民の意識や心のあり方に直接関わってくる問題です。このため、啓発に当たっては、一人ひとりが自立し、自己実現や幸福追求が図られるよう、その自主性を最大限に尊重する必要があります。県民の間に、人権の考え方や人権問題のとらえ方について多様な意見があることを理解し、異なる意見に対しても、寛容の精神に立って自由な意見交換ができるような環境づくり、言いかえれば、人権について語りあう場そのものが人権を大切にする雰囲気を備えているような環境づくりを進めることが重要です。
さらに、啓発の効果を高めるためには、その内容だけではなく、実施の方法においても、県民から幅広く理解と共感を得られるものであることが求められます。

 (ア)内容
  (人権問題に対する正しい理解と認識の促進)
啓発に当たっては、まず、県民が人権に関する知識を習得し、理解を得られるように促す必要があります。「そもそも人権とは何か」、「人権の尊重とはどういうことか」、といった人権全般に共通する理念について、県民自らが考え、理解するとともに、「女性の人権」、「子どもの人権」といった個別の人権問題について、「何故そのような人権問題が生じてきたのか」、「具体的には何が問題となっているのか」といった内容が、県民に正しく理解・認識されるような啓発を進めます。

  (人権意識の高揚)
昨今の社会状況を見ると、幼児や小学生などが殺されるといった痛ましい事件をはじめ、児童虐待、ドメスティック・バイオレンス、近隣者間でのトラブルなど日常生活の様々な場面において、ささいなことから人が傷つけられたり、殺されたりするような事件が多発しています。その背景には、人の生命を尊重する意識が薄れてきていることがその要因として挙げられます。
このため、一人ひとりが生命の尊さ・大切さを知るとともに、自分自身がかけがえのない存在であると同時に他人もかけがえのない存在であるということ、一人ひとりが独立した人格と尊厳をもった人間であるということを実感できるような啓発を進めます。
また、日本には、世間体を気にしたり、横並び意識があることなどにより、自分自身はそう思っていないとしても、周りの人々の考え方を過度に意識してしまい、安易にそれを受け入れてしまうような風潮があります。世間体などに惑わされることなく、一人ひとりが異なった考え方や価値観を持った存在であるということを認めたうえで、それぞれの個性を尊重できるような啓発を進めます。

  (日常生活における態度や行動への発現)
一人ひとりがかけがえのない存在であり、人間として尊重されるべき存在であるということが意識の中では理解できたとしても、それが日常生活において、自らの態度や行動に現れなければ、真の意味での人権尊重の社会の実現にはつながっていきません。様々な人権問題を他人事として片づけてしまうのではなく、自分自身のこととして真摯に受け止め、考える力を養うとともに、それらを通じて身につけた人権問題への積極的な関心・態度や的確な技能などが日常生活の中で実践できるような啓発を進めます。

 (イ)方法
  (対象者の発達段階に応じた啓発)
啓発は、幼児から高齢者に至るまでの幅広い層を対象としています。啓発を効果的に進めるため、対象者の発達段階に応じて、わかりやすいテーマや表現を用いたり、また、その対象者が家庭や学校、職場などで体験した人権に関わる問題を具体的に取り上げたりするなど、創意工夫を凝らします。

  (具体的な事例を活用した啓発)
啓発を効果的に進めるためには、これまでに発生した差別事象や児童虐待事案など具体的な事例を取り上げることも有効です。単に「現状はこうなっています」とか「こういう課題があります」というだけでは、人の心に響きにくく、どうしても他人事としてしか受け止められないという面も出てきますが、実際に発生した事例を題材にして意見交換を行うことにより、具体的なイメージが湧き、自らの問題としてとらえ易くなるという点で効果があります。
特に、そういった具体的な事例が本県と関連が深いものであるような場合、例えば、本県においては、水俣病やハンセン病を通じて偏見や差別の現実に直面してきましたが、そういった事例を取り上げることで、県民が人権問題を身近に感じるようになり、ひいては、人権への理解をより一層深められるようになるという効果があります。

  (参加型・体験型の啓発)
人権に関する講演会の開催や人権啓発冊子等の作成・配布といった県民に対する発信型の啓発は、人権に関する知識の習得という点では一定の効果がありますが、さらに、県民自らが人権について考え、日常生活における態度や行動に現れるようにする必要があります。
このため、県民が自ら主体的に参加し、参加者による活発な意見交換の中から、課題を発見し、課題解決に向けた提言を行えるような啓発(ワークショップなどの参加型・体験型の研修等)を着実に実施します。
  (地域交流を通じた啓発)
人権が尊重される社会を実現するためには、高齢者、障がい者、外国人を含めすべての人がそれぞれの地域の中で、共に支え合い、助け合いながら生活することができるようなまちづくり、ひいては、すべての人が自立し、社会参加の機会を与えられ、自己実現できるような社会づくりを進める必要があります。このため、地域住民と高齢者・障がい者施設等との交流事業や、そういった施設等でのボランティア活動体験事業などに取り組むなど、県民が自発的・主体的に活動できる機会を増やすことも、啓発の効果を高めることにつながります。

 ③人権に関わりの深い職業等に従事する人に対する研修・啓発
人権教育・啓発を進めるうえでは、対住民サービスの直接の担い手である公務員や、人の命や健康に関わる職業、住民と接する機会の多い職業に携わる人など、人権に関わりの深い職業等に従事する人が、人権の意義や人権尊重の重要性について正しい認識を持つとともに、その認識が日常生活や業務において自らの態度や行動に現れるような、人権感覚を磨くための研修・啓発の取組みが重要になってきます。
また、自ら行っている日常の業務がいかに県民の人権に深い関わりを持っているかということ、さらに、気にとめずに行っていることの中にも人の心を傷つけたり、あるいは差別をしたりしているようなことが潜んでいるということを常に意識しながら業務を行う必要があります。

 (ア)公務員
県職員をはじめとする公務員一人ひとりが、人権尊重の視点に立って職務を遂行できるよう、各職場の状況に応じた研修を行います。
また、研修プログラムや研修教材の充実を図ることなどにより、各職場における自主的な研修の促進を図ります。

 (イ)教職員
幼児・児童・生徒の実態や発達段階に応じて人権教育・啓発を進められるよう、経験年数や担当職務に応じた研修の充実を図ります。

 (ウ)警察職員
県民の生命、身体及び財産を守るため、直接住民等と接する機会が多いことから、人権尊重の視点に立った職務が遂行されるよう研修会等の充実を図ります。
 (エ)保健・医療・福祉関係者
治療、介護、相談など、県民の生命や健康、生活に直接関わる職業に従事しているため、研修会等を通じて、人権尊重の視点に立った判断力や行動力を養います。

 (オ)マスメディア関係者
テレビや新聞などのマスメディアは、県民の人権尊重に関わる意思形成に対して、その生涯にわたり大きな影響力を有しています。
記事や番組等の中で人権に関わる様々な問題等を取り上げ、読者や視聴者の人権意識の高揚に大きな役割を果たしています。しかしその一方で、個人の名誉やプライバシーを侵害したり、偏見や差別を助長する内容の報道がなされた場合などは、その権利侵害は非常に大きなものになる恐れがあります。
マスメディア関連企業においては、これまでも人権教育・啓発について自主的な取組みが行われてきていますが、関係者の人権意識の高揚に向け、積極的な取組みを要請します。


4.実施体制等について

(1)実施体制

 ①県の実施体制
県では、人権教育・啓発がより実効あるものとなるよう、平成14年(2002年)10月に「熊本県人権センター」(以下「人権センター」という。)を開設しています。人権センターは、県の人権教育・啓発の拠点として、庁内の関係部局と一体となった取組みを進めるとともに、市町村や学校、企業・民間団体などにおける人権教育・啓発を積極的に支援するなど、その果たすべき役割は極めて重要であり、今後、さらに機能を充実させる必要があります。
なお、県としては、人権センターを中心とした取組みを着実に進め、『基本計画』にかかる関連施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、庁内の関係部局で構成される「熊本県人権教育・啓発推進本部」を組織しており、相互に緊密な連携を図っているところです。
また、県民に対する人権教育・啓発は、行政、学校、企業・民間団体、家庭及び地域などあらゆる場を通して行われることで、より実効あるものになると考えられます。県としても、パートナーシップのもと、それぞれの主体が担うべき役割を踏まえたうえで、相互の連携を図るものとします。
今後は、人権教育・啓発の目標の中でも述べたように、県民一人ひとりが独立した人格と「尊厳」をもった一人の人間として尊重され、それぞれが「自立」し、(必要に応じた「ケア」も含め)あらゆる生活分野における処遇や「社会参加の機会の平等」が保障され、「自己実現」できる社会を常に念頭に描きながら、人権教育・啓発に取り組むことが重要です。そのような社会の実現に向けて、人権センターを中心とした人権教育・啓発の効果的な実施体制を確立するため、県としては、以下のような取組みを着実に進めます。

【県における取組み】
 (ア)様々な手法による啓発
  (マスメディアの活用)
マスメディアは、県民が身近に自宅等で受信することができるという点で、また、幅広く県民に対する啓発を行うことができるという点で、非常に効果的です。このため、マスメディアを積極的に活用し、新聞、ラジオ、テレビなどそれぞれの性質を考慮しながら、その効果が最大限に発揮できるような啓発を行います。

  (人権に関する講演会等の開催、人権啓発冊子等の作成・配布)
人権についての県民の関心を高めるため、広く県民が参加しやすいような講演会や、パネル展、街頭啓発などの啓発イベント等を実施します。
また、県民が人権に関する知識の習得や理解を深められるよう、発達段階に応じた人権啓発冊子や人権学習資料などを作成し、対象者への配布・周知に努めます。

  (創意工夫を凝らした啓発)
講演会のテーマや啓発冊子の中で、具体的な事例や体験を取り上げたり、また、それぞれの地域において、高齢者や障がい者を含めた地域住民相互間での交流イベント等を検討・実施するなど、県民一人ひとりの自立を促し、社会参加への機会が広げられるよう、創意工夫を凝らした啓発を行います。

 (イ)人材の育成等
  (人権に関する研修会の開催)
県職員、教職員をはじめとする公務員や、住民に接する機会の多い職業等に従事する人が人権尊重の視点に立って業務を遂行できるよう、また、企業等における事業主や人事・労務担当者などが人権に配慮した職場環境づくりを積極的に進めることができるよう、対象職種等の実情に即した研修会を実施します。
また、「人権についてもっと知りたい」、「様々な人権問題についてもっと学びたい」という県民のニーズに対応し、広く県民が参加できるような研修会を検討・実施します。

  (人権教育・啓発を進める指導者の育成)
人権教育・啓発を着実かつ効果的に進めるためには、行政、学校、企業・民間団体、地域などにおいて、人権教育・啓発に率先して取り組む指導者を育成する必要があります。このため、ワークショップ形式などにより、受講者が自ら主体的に参加できるような参加型・体験型の研修を実施するなど、受講者がそれぞれの職場や地域等において人権教育・啓発を実践できるよう支援します。
また、将来的には、県内のそれぞれの地域に参加型・体験型の研修を浸透させるとともに、県民一人ひとりの人としての尊厳が確保され、自己実現に向けての県民の積極的な意思形成を促すことのできる指導者等の育成に向けて、研修プログラムの開発・検討等を進めます。

 (ウ)各種資料・情報の収集及び提供
人権に関する文献や資料、視聴覚教材などは、人権教育・啓発を効果的に進めるうえで必要不可欠であり、その整備・充実に努めるとともに、県民が人権学習の機会を増やせるよう、これら資料の閲覧の場を提供したり、資料の貸出しを行うなど、必要な支援を行います。
また、人権に関する県内外の情勢は時々刻々と変化することから、その動向には常に留意しながら、その都度、必要な情報の収集に努めるとともに、市町村などの関係機関や民間団体、県民などへの適切な情報提供に努めます。
さらに、人権問題が複雑・多様化している中で、人権に関わる関係機関や団体等の相互間において、迅速かつ適切な情報収集・提供が必要不可欠になってきています。このため、今後は、人権に関する情報の体系化なども視野に入れながら、その効果的な情報収集・提供のあり方について検討します。

 (エ)調査・研究
人権教育・啓発を進めるに当たっては、「人権に対する県民の関心を高めるためのより効果的な方法はないか」とか、「どうすれば、人権問題解決に向けての県民の積極的な態度や技能が培われるのか」といったことを常に意識しながら、また、これまでの人権教育・啓発への取組みを反省・評価しながら、その後の人権教育・啓発の中で実践するという改善の姿勢が求められます。
こういったことを総合的・体系的に進めるためにも、これまで県内外で取り組んできた人権教育・啓発手法について調査するとともに、より効果的な人権教育・啓発のあり方を研究することは重要です。
このため、民間団体等における啓発の専門的ノウハウや、外部の有識者等からの意見などを踏まえ、また、これまでの取組みの評価を行いながら、人材の育成を図るための研修プログラムの開発や、効果的な啓発手法の研究を進めます。
また、研究の成果については、実際に啓発イベントや人材育成のための研修会等で実践します。

 (オ)相談体制等の充実
県民の人権意識を高めるという観点から、人権教育・啓発を進めることが重要であることは言うまでもありませんが、その一方で、現実には、児童虐待やドメスティック・バイオレンスなどの様々な人権侵害が発生しています。人権侵害が発生した場合の被害者の救済については、最終的には司法的解決ということになりますが、県においても、被害者救済に向けての一助となるよう、人権に関する各種の相談事業を実施しています。今後とも、人権侵害の発生や拡大を防止するとともに、被害者本人が自立に向けての主体的な意思形成を図っていくことができるよう、身近な相談体制の充実に努めます。併せて、各人権課題に対応した相談窓口の更なる広報を図る必要があります。
また、県では、児童相談所や女性相談センターによる取組みをはじめとして、人権侵害の被害者の保護及び自立支援等に関わる各種支援施策を実施しています。引き続き、各関係機関との間で連携協力を図りながら、被害者の支援等に取り組みます。

 ②国との連携
国においては、『人権教育・啓発推進法』の中で、「人権教育・啓発に関する施策を策定し、実施する責務がある」とされています。現在国は、同法の規定により平成14年(2002年)3月に策定した『人権教育・啓発に関する基本計画』に基づき、関係各府省庁間の緊密な連携のもと、総合的かつ計画的に人権教育・啓発に取り組んでいるところです。なお、国は、国際社会においても、人権分野における国際的取組みに積極的な役割を果たすことが求められています。
このような中で、今後、県としては、熊本地方法務局、熊本県人権擁護委員連合会など国の人権擁護機関との連携をより一層深めながら、本県の実情に即した人権教育・啓発に着実に取り組みます。
また、企業等への就職に際しては、その機会均等が確保される必要があることから、企業等において公正な採用選考が行われるよう、県として、職業安定行政との連携のもと啓発活動に取り組みます。

 ③市町村との連携
人権教育・啓発を進めるうえでは、住民と直接触れあう機会の多い市町村の役割は非常に大きいと考えられます。また、市町村においても、『人権教育・啓発推進法』の中で、「人権教育・啓発に関する施策を策定し、実施する責務がある」とされ、その積極的な取組みが求められています。
こういった点を踏まえ、今後、県としては、市町村における人権教育・啓発への積極的な取組みを促すとともに、人権教育・啓発を担う人材の育成や、研修会等における講師の紹介、出前研修、人権に関する情報の提供を行うことにより、その取組みを支援します。

 ④企業・民間団体との連携
人権教育・啓発に関しては、企業や、民間の人権関係団体などが様々な活動を行っており、今後、人権教育・啓発の実施主体として重要な役割を担うことが期待されています。
このため、県としても、企業や民間団体などを対象に、人権教育・啓発を担う人材の育成や、研修会等における講師の紹介、出前研修、人権に関する情報や啓発資料の提供などを行うことにより、その取組みを支援します。

⑤家庭・地域との連携
県民一人ひとりが、心豊かに人権尊重の精神を育むためには、乳幼児期から、家庭において、また、家庭を取り巻くそれぞれの地域において、共に支え合い、助け合うという「共生の心」を醸成する必要があります。また、人権が尊重される社会づくり、まちづくりを進めるうえでも、県民の生活の場としての家庭・地域における人権教育・啓発は重要といえます。
このため、各地域ごとに、行政や社会教育施設、学校及び民間団体などが緊密な連携を図りながら、また、地域における民生委員・児童委員や人権擁護委員との連携のもと、家庭や地域における人権教育・啓発を支援します。
なお、特に近時においては、NPO法人やボランティア団体といった地域住民レベルで人権問題に取り組む民間非営利団体(NPO)などが現れてきています。このような自発性・主体性に基づく県民主体の活動は、自己実現につながる活動として、公平性や平等性を基本とする行政や、採算性を重視する企業などでは対応できない分野において、その効果的な取組みが期待されています。
このため、県としても、民間非営利団体とのパートナーシップによる施策等を推進するとともに、県民が主体的に学べる学習の場の提供や、必要な情報の提供などを行うことにより、その取組みを支援します。

(2)フォローアップ
  『基本計画』に基づく取組みを実効あるものとするため、次のようなフォロー アップを行います。

 ①施策の推進
『基本計画』の関連施策については、毎年度実施状況を把握し、県の全庁的な政策評価システムの中で評価を行うなど、課題を整理しながら、その着実な推進を図ります。また、評価の過程では、パブリックコメント手続きにより広く県民から意見・提案を募集し、その結果を公表します。
なお、県民から寄せられた意見等については、実施中の事業の改善・工夫に生かすとともに、次年度以降の施策に反映させます。

②『基本計画』の見直し
国内外の人権を取り巻く状況や、本県における人権をめぐる状況及び人権教育・啓発の現状に常に留意しながら、その変化等に適切に対応するため、3年をめどに、『基本計画』は見直しを行います。
なお、見直しに当たっては、この計画に基づいて行われた事業の検証・評価を行いながら、庁内の関係部局だけではなく、広く県民や人権に関わる有識者等の意見も反映されるよう、十分に配慮するものとします。


(用語の解説)

 *1  同和対策審議会答申
昭和35年(1960年)に総理府に設置された同和対策審議会が、内閣総理大臣からの「同和地区に関する社会的及び経済的諸問題を解決するための基本方策」についての諮問を受け、昭和40年(1965年)8月に出した答申のことです。
この答申は、「同和問題の解決は国の責務であると同時に国民的課題である」との基本認識を明確にするとともに、国や地方公共団体に積極的な対応を促すなど、その後の同和対策の基礎となりました。

 *2  熊本県部落差別事象の発生の防止及び調査の規制に関する条例
結婚や就職に際しての部落差別事象をなくすことを目的とした条例であり、差別につながる身元調査を規制しています。
県民や事業者は、部落差別の発生につながるおそれのある図書や地図等の資料を提供することや、また、どこに住んでいるのか、どこに住んでいたのか、といったことを調査したり、調査を依頼したりすることはできません。

 *3  もやい直しセンター
水俣・芦北地域の再生振興と地域住民の「もやい直し」(人と人とのきずな絆を結び直すこと)を進める拠点として整備された施設のことです。平成9年(1997年)から平成10年(1998年)にかけて、3つの施設が建設され、人々の交流の場として、また、保健・福祉の活動拠点としても利用されています。

 *4  国立療養所きくちけいふうえん菊池恵楓園
明治40年(1907年)の「らい癩予防二関スル件」に基づき、全国5カ所に設置された公立療養所のひとつであり、明治42年(1909年)、九州七県連合立第5区九州癩療養所という名称で、現在の合志市に開設されました。昭和16年(1941年)から運営が国に移され、現在の「国立療養所菊池恵楓園」に改称されました。

 *5  ユニバーサルデザイン(Universal design/UD)
「すべての人のためのデザイン」のことであり、年齢、性別、国籍(言語)や障がいの有無などに関係なく、最初から誰もが利用できるような製品、建物や環境のデザインを意味します。また、情報、サービスやコミュニケーションも含む「すべての人が生活しやすい社会のデザイン」といったより広い概念として使われています。
県では、県政運営の理念としてユニバーサルデザインを意識し、21世紀の社会にふさわしい新しい熊本づくりを進めるに当たっては、「すべての人」という視点を大切にしながら、県内の様々な地域や幅広い分野にユニバーサルデザインの理念を取り入れていく必要があると考えています。

 *6  熊本県人権センター
人権教育・啓発を推進するための拠点として開設したものであり、関係機関・団体等との連携を図りながら、県民の人権意識の高揚を図るための広報啓発や人材の育成、情報提供など各種事業に取り組んでいます。

 *7  パートナーシップ
多様化する県民のニーズに対して、県民、企業、学校、ボランティア団体やNPO法人をはじめとする民間非営利団体、市町村などの様々な主体と県が一緒になって公益的な課題の解決に向けて取り組む場合に、それぞれの主体が、お互いの主体性や特性を尊重し、対等な立場で連携していくための行動原理がパートナーシップです。

 *8  セクシュアル・ハラスメント(Sexual harassment)
相手の意に反した性的な性質の言動で、身体への不必要な接触、性的関係の強要、性的なうわさの流布、衆目に触れる場所へのわいせつな写真の提示など、様々な態様のものが含まれます。特に雇用の場においては、「職場(労働者が業務を遂行する場所)において行われる性的な言動に対する女性労働者の対応により、女性労働者がその労働条件につき不利益を受けること又は性的な言動により女性労働者の就業環境が害されること」とされています。

 *9  熊本県男女共同参画推進条例
県、県民、事業者及び市町村が互いのパートナーシップのもとに、男女が互いの人権を尊重しつつ、責任を分かち合い、その個性と能力を十分に発揮できる男女共同参画社会の実現を目指して、平成14年(2002年)4月1日から施行しています。目的・定義や基本理念、県民・事業者の責務や市町村との連携、禁止規定、計画の策定、男女共同参画審議会などについて規定しています。

 *10 熊本県男女共同参画センター
男女共同参画社会づくりのための拠点施設として、男女共同参画に関する啓発、情報収集・提供、人材育成、相談、調査・研究、活動交流支援の各種事業を行っています。

 *11 ストーカー行為
特定の者に対する恋愛感情などの好意の感情、またはそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、特定の者またはその配偶者、その他親族などに対し、つきまといや面会・交際の要求をしたり、名誉を傷つけるような行為などを繰り返し行うことをいいます。

 *12 ドメスティック・バイオレンス(Domestic violence/DV)
日本語に直訳すると「家庭内暴力」となりますが、一般的には「夫や恋人など親密な関係にある、又はあった男性から女性に対して振るわれる暴力」という意味で使用されることが多くなっています。家庭内の出来事で被害が潜在することが多く、公的機関の対応も十分ではなかったことから、この問題に対する取組みが急がれています。身体的なものだけでなく、精神的なものまで含む概念として用いられる場合もあります。「夫・パートナーからの暴力」として記述されることもあります。

 *13 性と生殖に関する健康・権利(リプロダクティブ・ヘルス/ライツ Reproductive health rights)
平成6年(1994年)にカイロで開催された国際人口・開発会議において提唱された概念であり、重要な人権の一つとして認識されています。リプロダクティブ・ヘルス/ライツの中心的課題には、いつ何人子どもを産むか産まないかを選ぶ自由、安全で満足のいく性関係、安全な避妊・出産、子どもが健康に生まれ育つことなどが含まれています。また、これらに関連して、思春期や更年期における健康上の問題など生涯を通じての性と生殖に関する課題が幅広く議論されています。

 *14 児童虐待
保護者がその監護する児童(18歳に満たない者)に対し、次の行為をすることをいいます。
  ①身体的虐待:児童の身体に外傷が生じるか、生じるおそれのある暴行を加えること
  ②性的虐待: 児童にわいせつな行為をしたり、させたりすること
  ③ネグレクト:児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食や長時間の放置など保護者としての監護を著しく怠ること
  ④心理的虐待:児童に、将来まで残るような心の傷を与える言動を行うこと

 *15 地域包括支援センター
平成17年(2005年)の介護保険法改正で創設され、同法に定められた、高齢者の健康の維持、保健・福祉・医療の向上、生活の安定のために必要な援助・支援を包括的に行う中核機関です。設置主体は市町村または市町村から委託を受けた法人になります。センターには、社会福祉士、保健師、主任ケアマネージャーが置かれ、専門性を生かして相互に連携しながら業務にあたります。

 *16 熊本県身体拘束ゼロ作戦推進会議
県で組織している学識経験者、関係団体代表等で構成された会議であり、身体拘束廃止に向けた推進方策の検討を行っています。

 *17 シルバー110番
高齢者やその家族の方々の様々な相談に対応している熊本県高齢者総合相談センター(通称:シルバー110番)のことです。相談には、生活上のいろいろな心配ごとに対して相談員が応じる一般相談と、相談日を決めて法律、税などについて専門家が相談に応じる専門相談とがあります。

 *18 成年後見制度
認知症の人や知的障がい、精神障がいなどにより判断能力が不十分になった方々は、財産管理や身上監護(介護、施設への入退所などの生活について配慮すること)についての契約や遺産分割などの法律行為を自分で行うことが困難であったり、悪徳商法などの被害にあうおそれがあります。このような判断能力の不十分な方々の自己決定権を尊重しながら、保護・支援していくための制度が成年後見制度です。
成年後見制度には、家庭裁判所に後見人などを決めてもらう法定後見制度と、判断能力が十分なうちに自ら後見人を決めておく任意後見制度があります。

 *19 地域福祉権利擁護センター
判断能力が不十分な方々が地域で安心して生活できるよう、福祉サービスの利用等に関する相談、情報の提供や生活支援員による利用手続き、利用料支払いの代行、日常的な金銭管理の支援などを行うため、(社福)熊本県社会福祉協議会に設置されたものです。

 *20 熊本県高齢者、障害者等の自立と社会的活動への参加の促進に関する条例
急速な高齢化の進展や障がい者の社会参加意識の高まりを背景として、平成7年(1995年)3月に制定したものです。高齢者や障がい者等を取り巻く様々な障壁を取り除き、県民誰もがともにいきいきと暮らせる社会を築くことを目的としており、県民や事業者の意識づくりや社会環境の整備、生活環境の整備を基本方針として掲げています。県では、この条例及び推進計画に基づき、様々なバリアフリーにかかる事業を展開しています。

 *21 バリアフリー
高齢者や障がい者が地域社会の中で生活しようとするとき、これを困難にする様々な障壁(バリア)があります。例えば、建物や道路の段差などの目に見えるものから、高齢者や障がい者に対する誤解や偏見、雇用や就労の機会が限られたりするなどの目に見えないものまで存在しています。高齢者や障がい者が自由に社会に参加できるよう、これらのバリアを取り除いていくことを「バリアフリー」といいます。

 *22 障がい
県では、「障害(者)」の「害」という漢字の表記について、「害悪」など負のイメージがあること、また、関係する方々などから「障害」の表記を改めるべきであるとの意見が寄せられたこともあって、ひらがな表記に改めることにしました。
この計画(改訂版)の中には、「障がい(者)」の表記が多数出てきますが、「法令、条例、規則や固有名称等」を除き、すべてひらがな表記としています。
 
 *23 ノーマライゼーション
「ノーマライゼーション」とは、障がい者を特別視するのではなく、障がい者が一般社会の中で普通の生活を送れるように条件が整備された、共に生きる社会こそがノーマルな社会である、という考え方です。
 
 *24 発達障がい者
発達障がいとは、自閉症、アスペルガー症候群その他広汎性発達障がい、学習障がい、注意欠陥多動性障がいその他これに類する脳機能の障がいであって、その症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるものをいい、発達障がい者とは、発達障がいを有するために、日常生活または社会生活に制限を受ける者をいいます。

 *25 チャレンジド・テレワーク推進事業
今日の高度情報通信社会の新しい就労形態であるテレワーク(情報通信技術を活用した遠隔型のワークスタイル)を活用し、障がい者の方々に対し、在宅就労の機会を実験的に提供するプロジェクトのことです。

 *26 地域改善対策協議会意見具申
平成8年(1996年)5月に地域改善対策協議会から出された「同和問題の早期解
決に向けた今後の基本的な在り方について」の意見具申のことです。
この意見具申では、特別措置法失効後の同和問題解決に向けた基本的な在り方を明確にするとともに、差別意識の解消に向けた教育・啓発の推進や、人権侵害による被害の救済等の対応の充実強化など、法失効後においても適切な施策が必要であることを指摘しています。

 *27 国際相談コーナー
県が熊本県国際協会に委託し、平成5年度(1993年度)に開設したものです。
在住外国人に必要な情報を提供し、相談に応じるほか、国際交流に関する県民からの問い合わせに対応しています。

 *28 水俣市立水俣病資料館
水俣病を風化させることなく、公害の原点といわれる水俣病の貴重な教訓を後世に継承・発信していくことを目的として、平成5年(1993年)1月にオープンした施設です。悲惨な公害を繰り返すことのないよう水俣病の教訓を伝えるとともに、水俣病患者の痛みや差別を受けたつらい体験などについて、展示や語り部の方の話などで紹介し、水俣病問題を正しく認識していただけるよう情報を発信しています。

 *29 国立水俣病情報センター
水俣病への理解の促進、水俣病の教訓の伝達、水俣病及び水銀に関する研究の発展への貢献を目的として、平成13年(2001年)に設置されました。水俣病に関する資料、情報を一元的に収集、保管、整理し、広く提供するとともに、水俣病に関する研究や、学術交流等のための会議の開催等を行っています。

 *30 私立かいしゅんびょういん回春病院
イギリスから布教のために来熊したハンナ・リデルは、ハンセン病患者の悲惨な姿をみて衝撃を受けたと言われています。そして、少しでも患者の方々を救いたいという思いから、明治28年(1895年)、熊本市黒髪に私立回春病院を開設しました。昭和7年(1932年)にリデルが亡くなった後は、姪のエダ・ハンナ・ライトがその遺志を引き継ぎました。しかし、時局の悪化に伴い、病院の経営は困難となり、昭和16年(1941年)に閉鎖されました。
病院敷地内のハンセン病病原菌研究所だった建物は、現在、「リデル、ライト両女史記念館」となっています。

 *31 私立たいろういん待労院
フランスから布教のために来熊したカトリック・パリ外国宣教会のジャン・マリー・コール神父は、熊本市手取に教会建設の使命を果たすと、布教の傍ら、本格的にハンセン病患者の救済をはじめたと言われています。そして、明治31年(1898年)、コール神父の要請により、マリアの宣教者フランシスコ修道会から派遣された5人のシスターが来熊し、患者の治療を開始しました。これが、私立待労院の創設とされています。なお、平成8年(1996年)からは、「待労院診療所」と改称されています。

 *32 宿泊拒否事件  
平成15年(2003年)11月、熊本県が実施する「ふるさと訪問事業」において、菊池恵楓園入所者という理由でホテルが宿泊を拒否した事件のことです。

 *33 三菱重工ビル爆破事件
三菱重工ビルが爆破され、8人が死亡、380人が負傷した事件です。この事件では、大勢の人が死傷しましたが、被害者の中には、労働者災害補償保険法などの公的給付を受けられる人々と全く補償を受けられない人々とが生じたことから、国の施策としての補償制度の不均衡が問題視され、犯罪被害補償の必要性が強く意識されることとなりました。

 *34 (社)熊本犯罪被害者支援センター
犯罪等の被害者やその家族・遺族に対して、精神的ケア・付添いといった直接的支援や、支援者の育成、自助グループへの援助などを行うとともに、社会全体の被害者支援意識の高揚を図ることにより、被害者の被害の回復や軽減に資することを目的とした民間団体のことです。

 *35 性的指向
異性愛、同性愛、両性愛の別を指す sexual orientation の訳語です。このほか、性的少数者に位置づけられる性同一性障がい、インターセックス(先天的に身体上の性別が不明瞭であること)を理由とする差別なども問題となっています。