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福岡市人権教育・啓発基本計画
情報の種類 地方公共団体関係資料
タイトル 福岡市人権教育・啓発基本計画
時期 2004/01/01
主体名 福岡市
【 内容 】

福岡市人権教育・啓発基本計画


はじめに

21世紀は人権の世紀といわれています。人権とは、社会において幸福な生活を営むために必要な、人間として当然に持っている固有の権利であるということができます。人類は、長い歴史の中で、人類普遍の原理であるこの人権の確立を目指すとともに、一人ひとりの尊厳が大切にされる社会、つまり人権が尊重される社会の実現に努めてきました。
 昭和23年(1948年)の国連総会では「世界人権宣言」が採択され、世界各国で、人権を確立するための様々な取り組みが進められてきました。そして、平成6年(1994年)の国連総会では、「世界人権宣言」の理念を浸透させること、また、人権尊重の精神にあふれ、暮らしの隅々まで人権が根づいた、人権を尊重することが当たり前であるという状態、いわゆる「人権という普遍的文化」を世界中に築くことを目指し、平成7年(1995年)から平成16年(2004年)までの10年間を「人権教育のための国連10年」とすることが決議され、行動計画が示されました。
 このような国際的な流れのなかで、我が国においても、平成9年(1997年)7月に「人権教育のための国連10年」に関する国内行動計画が策定され、人権問題の解決を図る目的で、人権の尊重・擁護へ向けた取り組みを進展させてきました。また、平成12年(2000年)12月には「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」が施行され、人権教育及び人権啓発に関する各種施策を策定・実施することが、国及び地方公共団体の責務であるとされました。さらには、この法律を受け、人権教育及び人権啓発に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、平成14年(2002年)3月に国の「人権教育・啓発に関する基本計画」が策定されました。
 本市においても、平成11年(1999年)1月に、「人権教育のための国連10年」福岡市行動計画を策定し、この計画を人権教育及び人権啓発分野における基本計画として位置づけ、市民一人ひとりの人権が真に尊重される福岡市の実現を目指した取り組みを、市民とともに積極的に推進してきました。
 しかしながら、現在も差別や偏見による様々な人権侵害が発生しているほか、人権問題も多様化・複雑化してきており、このような人権問題を取り巻く社会情勢の変化に対応することが求められてきています。
 このような背景のもと、本市では、今後の人権教育及び人権啓発についての取り組みをより効果的かつ実効性あるものにするため、これまでの取り組みの成果・課題や社会情勢の変化を踏まえて「人権教育のための国連10年」福岡市行動計画の見直しを行い、新たに人権教育及び人権啓発の基本計画を策定いたしました。
 今後は、「人権を尊重し、人の多様性を認めあうまち」福岡市の実現に向けて、この計画に基づき、市民とともに人権教育及び人権啓発の取り組みを進めていきます。



第1章基本理念

 1.人権教育・啓発基本計画の策定にあたって

(1)福岡市におけるこれまでの人権教育・啓発の取り組み

 市民一人ひとりの人権が真に尊重される福岡市の実現を目指して、すべての人々が人権問題を正しく理解・認識するための総合的な人権教育及び人権啓発に関する施策の推進を図るため、平成11年(1999年)1月に「人権教育のための国連10年」福岡市行動計画(以下「行動計画」という)を策定しました。行動計画の推進にあたっては、実施計画を作成し、各局・区における関連事業を積極的に実施してきました。
 このような取り組みにより、市民の人権問題に関する理解と認識は深まってきているものの、同和問題をはじめ、女性、子ども、高齢者、障害者、外国人などをめぐる差別や偏見などによる人権侵害が現在も発生しており、人権問題は依然として解決されず残されています。また、国際化、IT(情報通信技術)の進展や医療技術の進歩などに伴い、新たな人権問題も発生するとともに、身近なところでも、配偶者からの暴力、児童虐待などが増加しており、人権問題はますます多様化・複雑化しています。
 
(2)行動計画の点検・検証

 このような背景のもと、人権教育及び人権啓発の取り組みを効果的に推進していくためには、これまでの成果や課題を十分認識し、今後の取り組みに生かしていくことが重要です。従って、平成14年度に、行動計画に基づき実施してきたこれまでの取り組みを総合的に点検・検証し、「取り組み内容・成果」と「問題点・今後の課題」について明らかにしました。
<点検・検証結果のポイント>
 点検・検証では、行動計画第3章の項目ごとに「取り組み内容・成果」と「問題点・今後の課題」を整理しました。以下では、そのポイントをまとめました。

ア. 取り組み内容・成果 ◎ 学校、家庭、地域などにおいて、あらゆる機会を捉えて人権問題に関する様々な研修会、セミナーや各種イベントなどを実施してきた。また、同時に、PTAの役員・委員や地域における各種団体の指導者などを対象に研修会や交流会などを実施してきた。その結果、同和問題をはじめとした人権問題に関する市民の理解と認識は深まってきている。
◎ 特定職業従事者、いわゆる市職員、教職員や、公民館職員などの社会教育関係者、民生委員・児童委員などの福祉関係者、市立病院や保健所の医師・保健師などの保健医療関係者に対し、人権に関する研修を実施し、これら特定職業従事者の知識の習得や人権意識の高揚が図られてきている。

  イ. 問題点・今後の課題 ◎ 市民の人権問題に関する理解と認識は深まってきているが、日常的な人権感覚が十分には身に付いていないなどの課題も残されており、今後は、習得された知識を実践に結びつけることができるような取り組みを進める必要がある。
◎ 各種講座やイベントなどにおいては参加者層に偏りがあるなど、人権教育及び人権啓発の取り組みが市民全体に浸透しているとは言い難い状況である。
◎ 特定職業従事者については、地域や学校などにおけるリーダーとしてさらなる資質や実践力の向上を図る必要がある。
 
(3)基本計画の策定
 本市における人権教育及び人権啓発の取り組みをより実効性あるものにするため、社会情勢の変化などを視野に入れ、前述の点検・検証により明らかになった「取り組み内容・成果」と「問題点・今後の課題」を踏まえながら、行動計画の見直しを行い、新たに「人権教育・啓発基本計画(以下「基本計画」という)」を策定しました。


 2.人権教育・啓発の定義及び地方公共団体の責務

 平成12年(2000年)12月に施行された「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」では、人権教育及び人権啓発の概念について、同法第2条で以下のように定義づけています。

◇ 『人権教育とは、人権尊重の精神の涵養を目的とする教育活動』
◇ 『人権啓発とは、国民の間に人権尊重の理念を普及させ、及びそれに対する国民の理解を深めることを目的とする広報その他の啓発活動(人権教育を除く)』
また、人権教育及び人権啓発の基本理念について、同法第3条で以下のように掲げています。
◇ 『国及び地方公共団体が行う人権教育及び人権啓発は、学校、地域、家庭、職域その他の様々な場を通じて、国民が、その発達段階に応じ、人権尊重の理念に対する理解を深め、これを体得することができるよう、多様な機会の提供、効果的な手法の採用、国民の自主性の尊重及び実施機関の中立性の確保を旨として行われなければならない』
さらに、地方公共団体の責務について、同法第5条で以下のように定めています。
◇ 『地方公共団体は、基本理念にのっとり、国との連携を図りつつ、その地域の実情を踏まえ、人権教育及び人権啓発に関する施策を策定し、及び実施する責務を有する。』
従って、この基本計画は、「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」に基づき策定します。


 3.基本計画の目標

 本市は、福岡市基本構想に基づき、将来のあるべき都市像の一つに「自律し優しさを共有する市民の都市」と位置づけ、市民一人ひとりが、互いの人権を重んじ、あたたかく支え合い、生きがいと希望をもって生活できる都市、いたわりや支え合いの心を共有する市民の都市を目指しています。
 さらに、福岡市新・基本計画においても、「人権を尊重し、人の多様性を認め合うまちとなる」という政策目標のもとに、一人ひとりの尊厳と人権が大切にされ、国際都市として多くの人々が集い、暮らし、人の多様性を受入れ、認め合うまちを目指し、同和問題をはじめあらゆる人権問題を解決するための様々な取り組みの必要性を強調しています。
 以上のことを踏まえ、すべての市民*(注釈1)の人権が尊重される、人権感覚豊かな明るい福岡市を実現することが重要です。そのためには、人権尊重の精神にあふれ、暮らしの隅々にまで人権が根づいた、人権尊重が当たり前という状態を築くこと、すなわち、「人権という普遍的文化」を構築していくことが重要であり、日常的な生活の中で、お互いを大切にする心や態度を、ごく自然な形で表現できるような社会を目指していかなければなりません。
 また、国際化や少子・高齢化など、社会情勢が変化している中で、国籍や民族、文化、年齢、性別の違い、障害の有無などにかかわらず、互いの個性や価値観などの違いを理解し認識する、すなわち、お互いの多様性を認め合う「共生社会」の実現を目指すことが必要です。
 従って、基本計画の目標として以下の二つの柱を掲げ、これら目標達成に向けた各種取り組みを推進していきます。

ア. 人権という普遍的文化の構築
 イ. 人の多様性を認め合う共生社会の実現


 4.基本計画の重点課題

 この基本計画では、行動計画の点検・検証結果、特に、「問題点・今後の課題」の内容を踏まえて、これから重点的に取り組むべき事項として、以下の7つの重点課題を整理しました。

ア. 総合的な視点に立った人権教育・啓発の推進
 同和問題や女性、子ども、高齢者、障害者、外国人に関する問題など、個別分野における人権問題の解決を、あらゆる人権問題の解決につなげていくという手法と、「法の下の平等」、「個人の尊重」といった普遍的な理念を踏まえて人権意識の高揚を図ることにより、個別分野における人権問題の解決につなげていくという手法を組み合わせ、総合的な視点に立った人権教育及び人権啓発を推進すること。
  イ. 「市民・行政共働型」人権教育・啓発の推進
 校区の人権啓発地域推進組織*(注釈2)や区人権啓発連絡会議*(注釈3)の活動などの市民が主体となった地域ぐるみの取り組みと、公民館・市民センターでの研修会・講演会や情報提供など様々な機会をとらえた教育・啓発事業や市民主体の活動への支援などの行政の取り組みとを共に充実することにより、人権尊重のまちづくりに向けた「市民・行政共働型」*(注釈4)の人権教育及び人権啓発を推進すること。
  ウ. 生涯学習としての人権学習の推進
 人権を生涯学習の現代的学習課題と位置づけ、市民一人ひとりが幼少期から高齢期に至るまで生涯にわたる自己実現を目指し、人権を確立するための方法と手段について学ぶ学習を推進すること。
  エ. 実践力の養成
 市民一人ひとりが単に知識として学ぶだけではなく、人権問題を自らの課題としてとらえ、日常的な人権感覚や、人権問題を解決するための実践力を養成すること。
  オ. 地域指導者の育成
 人権文化の構築を目指すには、特に、日常生活の中での人権教育及び人権啓発の取り組みが重要であり、PTAや地域で活動している団体の役員など、地域において重要な役割を担う指導者を育成すること。
  カ. 民間の企業や団体への働きかけ
 マスメディア、企業、地域で活動している団体などに対しても、人権教育及び人権啓発の自主的な取り組みが行われるよう積極的な働きかけを行うこと
  キ. 推進体制の強化
 市役所内部においては、人権教育及び人権啓発の推進体制を強化し、全庁体制で各部局と連携を図りながら取り組むとともに、すべての行政施策に人権尊重の視点を採り入れていくこと。


 5.基本計画の性格

ア.  基本計画は、「福岡市基本構想」及び「福岡市新・基本計画」との整合性を持つものであり、今後、本市が実施すべき人権教育及び人権啓発についての基本方針を明らかにし、取り組むべき施策の方向性を示すものです。
  イ.  基本計画の推進にあたっては、第3章に掲げる<具体的施策の方向性>に基づき、すべての部局が連携しながら全庁的に取り組みます。
  ウ.  基本計画は、市民一人ひとりが人権尊重の精神を培い、人権意識に根ざした具体的な実践活動を進めていくための行動指針ともなるものであり、マスメディア、企業、地域で活動している団体などに対しても、この計画の趣旨に沿った自主的な取り組みを求めていきます。このため、様々な機会をとらえてこの計画の周知に努めます。
  エ.  基本計画の目標を達成するためには、ねばり強い人権教育及び人権啓発の取り組みが必要不可欠であるため、福岡市新・基本計画との整合性を図りながら、中・長期的な展望のもと、積極的な推進を図ります。
 なお、「人権教育のための国連10年」の目標年次(平成16年(2004年))までは、「人権教育のための国連10年」福岡市後期行動計画と位置づけます。


第2章 様々な分野における人権問題の現状と課題

 本市においては、人権感覚豊かな明るい福岡市の実現を目指し、積極的な人権教育及び人権啓発を推進しており、これまでに一定の成果を挙げることができましたが、差別や偏見などによる人権侵害が依然として発生しているほか、人権問題に関する無関心層もあり、解決すべき多くの課題が残されています。
 基本計画の推進にあたっては、このような状況を十分認識した上で、人権教育及び人権啓発の取り組みを実施していくことが重要であり、本章では、同和問題をはじめ、女性、子ども、高齢者、障害者、外国人に関する問題など様々な分野における人権問題について、その「現状」と「課題」を整理しました。

 1. 同和問題

(1)現状
 同和問題は、人類普遍の原理である人間の自由と平等に関する問題であり、日本国憲法によって保障された基本的人権にかかわる重大な課題です。本市においては、同和問題を早急に解決するために、「同和対策審議会答申」の精神を踏まえ、昭和51年(1976年)「福岡市同和行政の基本方針」を策定し、その中で同和行政を市政の重要施策と位置づけ積極的に推進してきました。その後、「地域改善対策特定事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律」が失効し、平成13年(2001年)に策定した「福岡市人権・同和行政基本方針」に基づき、残された課題解決のための施策を講じています。また、同和問題の解決をあらゆる人権問題の解決へと広がりをもった取り組みに発展させ、人が人として尊重される社会の実現に取り組んでいます。
 具体的には、市民の同和問題に対する正しい理解と認識を深めるとともに、差別意識の解消を図るため、全市的な啓発事業として、ラジオ番組、テレビCMスポット、新聞広告掲載などマスメディアを活用した啓発や、人権啓発センターを中心とした相談業務、研修などの資料の提供などを行ってきました。
 教育委員会においては、昭和47年(1972年)に策定した「福岡市同和教育基本方針」に基づき「人間尊重の精神に徹し部落差別に対する科学的認識に立って、真に差別をなくしていく意志と実践力をもった人間の形成をめざす」同和教育を推進してきました。
 学校教育では、児童生徒一人ひとりの学力の向上と、人権読本「ぬくもり」などの活用による人権意識の高揚を図るとともに、研修を通して校長・教頭をはじめとする教職員の資質の向上に努めてきました。
 社会教育では、公民館・市民センターにおける各種研修会や、社会教育関係団体における研修の取り組みを様々な機会をとらえて実施してきました。また、市民の自主的・主体的な取り組みである人権啓発地域推進組織*(注釈2)の育成・援助を積極的に行ってきました。さらには、区人権啓発連絡会議*(注釈3)において、区ごとに人権意識の高揚を目指した取り組みを進めてきました。
 このような同和問題に関する教育・啓発の取り組みとともに、人権のまちづくり館や地区集会所の活用により、地域・家庭の教育力を高めるために行われる自主的・主体的な学習活動の支援、市民の人権感覚を深めるための同和地区と周辺地域住民との内外交流、同和地区住民の自立を促進するための相談など、各種事業の推進に努めています。
 また、企業が同和問題をはじめとする人権問題についての正しい理解と認識を深め、公正な採用選考や企業内研修が実施されるよう、公共職業安定所などの関係行政機関と連携を図り、企業事業主などに対する研修会や企業訪問を実施し、企業への積極的な働きかけを行っています。企業においても、同和問題の解決を図るための自主的団体である福岡市企業同和問題推進協議会*(注釈5)が研修会などを開催し、人権意識の高まりがみられるなど一定の成果を挙げています。また、個別企業においても、本市から派遣する企業同和問題推進指導員を活用した企業内研修が開催されています。
 このように、同和問題の解決に向けた教育・啓発の取り組みにより、同和問題に関する市民の知識面での理解はかなり進んできたものの、日常的な人権感覚が十分に身に付いていないという課題が残されています。また、依然として、結婚問題を中心に差別意識が存在するとともに、差別落書きなどが発生しているほか、情報通信技術の進展に伴うインターネットなどの通信手段を利用した新たな差別行為も発生しています。

(2)課題
 今後は、同和問題を本市における人権問題の重要な柱として位置づけ、市民の同和問題に関する誤った認識や偏見をなくすための教育及び啓発の取り組みを進めるとともに、その取り組みにあたっては、日常的な人権感覚が身につくよう、内容の充実を図る必要があります。
 学校教育では、人権に関する学習の取り組みが児童・生徒の確かな人権感覚や自他を尊重する態度や行動力の育成につながっていない面も見られ、学習内容、指導方法の工夫や改善と併せて、教職員の資質の向上をさらに図る必要があります。さらには、同和教育実態調査で明らかになった学力格差や進学率格差などの課題に対して、授業の工夫や改善と進路指導の充実に努めるとともに、学校・家庭・地域が一体となった学力向上のための取り組みを目指す必要があります。
 社会教育では、市民一人ひとりが同和問題を正しく理解し、差別をなくす行動に結びつくよう、今後とも学習内容・形態などの工夫や改善を行い、さらには、社会教育関係職員の資質向上を図っていく必要があります。また、同和地区における地域・家庭の教育力向上や、住民のより一層の自立向上を図るための支援が必要です。
 企業では、事業主や従業員が同和問題をはじめとする人権問題についての正しい理解と認識を深めるため、公共職業安定所などの関係行政機関と連携を図り、より効果的な研修を実施していくとともに、研修教材、情報提供などさらに充実させる必要があります。


 2. 女性に関する問題

(1)現状
 平成7年(1995年)、北京で開催された第4回世界女性会議では、「女性の権利は人権である」と謳われ、「女性と貧困」「女性に対する暴力」「女性と経済」など12の具体的な提案が行動綱領として採択されました。また、平成12年(2000年)には、北京会議で採択された行動綱領に基づく各国施策の実施状況を検討・評価し今後の指針とするために国連特別総会「女性2000年会議」がニューヨークで開催されました。
 国内においては、北京会議の成果などを踏まえた「男女共同参画ビジョン」に基づき平成12年度までの国内行動計画を定めた「男女共同参画プラン」が策定され、平成11年(1999年)6月には、男女共同参画社会基本法が公布・施行されました。これに基づき、次期国内行動計画でもある「男女共同参画基本計画」が平成12(2000年)年12月に策定されています。
 本市においては、平成22年(2010年)を目標年次とする「ふくおか男女共同参画プラン」を策定しており、市民局長を会長とする「福岡市男女共同参画推進協議会」を設置し、同プランに基づく男女共同参画施策の総合的かつ効果的な推進を図っています。男女共同参画推進のための拠点施設である福岡市女性センターや、女性の社会生活の向上を目指す福岡市立婦人会館では、講座、講演会、相談、情報提供、学習の場の提供などの事業を通じ、市民意識の啓発や女性グループなどの活動支援を行っており、市民センターや公民館においても、男女共同参画学習講座などを開催しています。また、地域においては、区・校区で女性協議会を組織し、女性問題講座、講演会などを開催し、性による固定的役割分担意識を解消し、男女共同参画社会を実現するための様々な活動が進められています。
 しかし、女性問題についての市民の関心の高まりは十分ではありません。また、女性問題は女性だけの問題ではなく、男性を含めた社会問題であるといわれていますが、男性の家事や育児などへの参画は依然進んでおらず、性による固定的役割分担意識も、いまだに解消されていません。
 女性が働くための条件整備については、制定から10年余りを経過した男女雇用機会均等法が改正され、雇用の場における募集・採用、配置・昇進等について男女差別が禁止されるとともに、労働基準法の改正も行われ、女性に対する時間外労働及び休日労働の制限や深夜業務の禁止が撤廃されました。しかしながら、女子学生の就職難は続き、男女の賃金格差は縮まらず、中高年の女性の再就職先はほとんどパートしかないという現実が存在しています。
 農業・漁業の分野では、女性は生産の重要な担い手であるにもかかわらず、政策決定の場などへの女性の進出に対し認識不足が見受けられます。
 学校教育においては、日常生活の中で性による固定的役割分担意識が子どもの姿に現れている現実があり、低年齢からの男女平等教育が必要となっています。このことから、小学生向け副読本「はらっぱ」や中学生を対象に男女平等教育副読本「わたしらしく生きる」を活用した指導に取り組んでいます。
 また、男女共同参画施策を推進する上での法的な根拠にするとともに、市民、事業者、福岡市が一体となって取り組むべき課題やその責務を明確にするために、「男女共同参画推進条例(仮称)」を策定します。

(2)課題
 今日、私たちの社会生活において、女性は男性と対等であるとはいえない状況があり、様々な社会制度や慣行を男女共同参画の視点に立ち、見直す必要があります。
 女性があらゆる場に参画し能力を発揮するためには、女性のエンパワーメント*(注釈6)を促進するとともに家庭や地域、職場、学校などにおいて、性による固定的役割分担意識を取り除き、男女平等・対等意識を広めることが大切です。
 女性の政策・方針決定の場への参画の推進については、「福岡市における審議会等委員への女性の登用方針」に基づき、さらに取り組みを強化する必要があります。
 女性が働くための条件整備については、国・県などの関係機関と連携し、男女雇用機会均等法や労働基準法などの周知や、企業・労働者の意識啓発に努めるとともに、セクシュアルハラスメント *(注釈7) の防止に取り組むことが重要です。
 農業・漁業に従事する女性に対する支援策については、農業・漁業の担い手としての能力の向上を図るとともに、社会進出に対し周辺環境の整備と合わせた意識の改革を図る必要があります。
 また、性犯罪、売買春、夫・パートナーからの暴力など、あらゆる形態の女性に対する人権侵害をなくす啓発活動を展開することは重要な課題です。複合的な人権侵害に苦しむ定住アジア女性なども視野に入れた相談体制の充実を図り、行政、警察、NGO(非政府組織)などとの連携のもと問題解決に取り組んでいかなければなりません。女性に対する暴力は人権にかかわる重大な問題であり、男女共同参画社会の実現を著しく阻害するものです。平成13年(2001年)4月「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」が成立し、平成14年(2002年)4月に完全施行されましたが、社会をあげての女性への暴力をなくす取り組みが重要です。
 また、性の商品化、性情報の氾濫が進む中、メディアにおける人権尊重のモラルの確立と自主的な取り組みを促すとともに、市の刊行物については、男女共同参画の視点から適切な表現を行うように配慮することが必要です。
 男女共同参画に関する意識啓発については、拠点施設である女性センターと、婦人会館、市民センター、公民館、区・校区の女性協議会などとの効果的な連携が望まれます。男女がともに社会の対等な構成員として、自らの意思によって社会のあらゆる分野における活動に参画できる男女共同参画社会の実現を目指し、様々な機会を捉え広く市民の意識啓発を図ることが重要です。


 3. 子どもに関する問題

(1)現状
 子どもは、本来、豊かな感性、柔軟で伸びやかな心、未知の世界への探求心や冒険心を持ち、自ら健全な大人へと成長していく可能性を秘めた存在です。また、人々にとって、子どもは未来への希望であり、生きていくうえでの励みでもあり、子どもの心身ともに健やかな成長は、変わることのない願いでもあります。
 子どもの人権については、平成元年(1989年)に国連総会において、子どもの人権を世界規模で守っていこうとする「児童の権利に関する条約」*(注釈8)が採択され、我が国でも平成6年(1994年)に批准しています。本市においては、平成12年(2000年)1月に「福岡市子ども総合計画」を策定し、「子どもが夢を描けるまちをめざして」を基本理念に、「子どもの権利を尊重する社会づくり」、「子どもが生き生きと育つ環境づくり」、「安心して産み育てられる環境づくり」を目標に、子どもに関する施策を総合的に展開しているところです。
 しかしながら、近年の情報化・都市化の進展、少子化・核家族化の進行など社会経済情勢の変化による家庭や地域の教育機能の低下は著しく、家庭の過保護や過干渉、あるいは、放任、児童虐待といった状況をはじめ、いじめ、不登校、体罰などの子どもの人権にかかわる問題を深刻化させています。 乳幼児期においては、生涯にわたる人間形成の基盤を培う極めて大切な時期にあるため、国の「保育所保育指針」「幼稚園教育要領」及び「福岡市同和保育基本方針」に則り、人権を大切にする心を育てる保育の取り組みを、家庭・地域との密接な連携のもとに推進し、また、乳幼児の心身の発達、家庭や地域の実状に応じた適切な保育の実施を推進しているところです。
 学校教育においては、「児童の権利に関する条約」の趣旨・内容の周知などを図るとともに、社会教育においては、公民館・市民センターの各種学級・講座の中で、PTAにおいては成人教育委員会などの学習の中で、子どもの人権や権利条約などを盛り込んだ取り組みを進めています。
 児童相談所では、児童養護施設に入所している子どもの権利擁護を目的とした、「子どもの"けんり"について知ろう」と題する小冊子を作成し、平成9年(1997年)10月に配布しました。
 いじめの問題については、学校において教師向けのいじめ防止資料「いじめをなくすために」や、家庭への啓発のためのリーフレットを作成し、いじめ防止対策委員会を中心とした学校、家庭、地域や関係機関との連携を図るなど、いじめ防止に向けた取り組みを行っています。
 児童の虐待問題については、発生予防と早期発見、早期対応を図るため、全市的なネットワークである「こどもの虐待防止連絡会議」や7区それぞれに「子どもの虐待防止ネットワーク会議」を設置するとともに、平成14年(2000年)4月児童相談所に子ども虐待防止推進担当課を設置し、関係機関との連携を図りながら、虐待防止対策を進めています。
 さらに、子どもに関する様々な相談については、平成15年(2003年)5月に児童相談所、青少年相談センター、教育委員会の教育相談部門を統合した「こども総合相談センター」を開館し、子ども自身や家族が気軽に相談できる窓口の設置や継続的に対応できる専門相談機能の充実・強化を図りました。

(2)課題
 子どもの健全な育成のためには、子どもを「保護の対象」としてだけでなく、「権利の主体」として捉える「児童の権利に関する条約」の理念を踏まえ、子どもを市民の一人として捉え、子どもとしての権利や自由を尊重していくことが大切です。さらには、学校、家庭、地域が連携をとり、それぞれの役割を果たしていく必要がありますが、特に、地域が果たす役割は大きいものがあり、地域で暮らす一人ひとりが子どもを育むという意識を持ち、地域ぐるみで子どもの環境や活動を考えていこうという気運を高めていくことが求められます。
 就学前教育を推進するにあたっては、乳幼児一人ひとりの発達段階や個性に応じた保育を行うことが大切であり、人権の視点に立つ保育をあらゆる保育の場に広めていく必要があります。また、人権を大切にする心を育てる保育を適切に行うため、幼稚園教職員・保育所(園)職員の研修は、経験や職責に応じた内容となるようにさらに検討を加えていくことも重要です。
  学校においては「児童の権利に関する条約」の趣旨・内容を周知するため、教科・特別活動のみならず、学校生活全般の中で指導を行うとともに、他人を思いやる心や生命を大切にし人権を尊重する心などを育成する教育の充実が求められます。また、学校でのいじめは、いじめ自体が発見しにくくなっていることも考えられ、いじめ問題に対する指導体制をさらに強化するとともに、教職員のカウンセリングの力量を高める研修を行う必要があります。
 子どもに関する様々な相談については、児童虐待をした親や受けた子どもへの心の支援など、こども総合相談センターの専門相談機能の一層の充実を図るとともに、地域・関係機関との連携を図り、的確に対応できる相談体制の確立を進めることが重要です。


 4. 高齢者に関する問題

(1)現状
 我が国は、出生率の低下と平均寿命の伸長等を要因として、少子高齢化が急速に進行しており、平成27年(2015年)には、全国民の4人に1人が65歳以上の高齢者となる本格的高齢社会の到来が見込まれています。本市の場合、全国平均に比べると、やや遅れて高齢化が進行しているものの、高齢者人口は着実に増加しています。また、特に75歳以上の後期高齢者が著しく増加すると予測されています。
 さらに、後期高齢者の急速な増大により、寝たきりや痴呆性高齢者の増加が見込まれることから、高齢者に対する介護の放棄や、いじめや虐待、身体拘束の問題をはじめ高齢者の孤独死や自殺の増加、高齢者を対象とした詐欺事件など、深刻な社会現象が生じています。
 本市では、市民、地域、企業、行政が一体となって高齢化社会への対応を進めるための指針として「福岡市高齢化社会対策長期指針」を策定しています。この指針では、高齢者をはじめ市民の一人ひとりが人として尊ばれ、健やかでやすらぎのある人生を送ること、また、地域の主体者としてそれぞれの知識、経験、能力などを最大限に生かし、社会活動の維持向上に主体的・創造的役割を果たしていくことができる「豊かで、ゆとりと生きがいのある高齢化社会」の創造を目指しています。
 また、平成10年(1998年)4月に「福祉のまちづくり条例」を施行するとともに、平成12年(2000年)3月に策定した「福岡市保健福祉総合計画」(計画期間:平成12~22年度)に基づき、すべての市民が住み慣れた地域でともに支え合いながら、生きがいをもって暮らし続けることができるよう、社会参加の促進、健康の保持・増進、要援護者への支援、利用者の保護など、高齢者施策を進めています。
 特に、高齢者の総合相談窓口である在宅ケア・ホットラインでは、介護予防や生活支援に加え権利擁護の相談にも応じるとともに、在宅ケアに必要なネットワークづくりの支援も行っています。 また、高齢者の介護に関する知識、技術の普及を図るための事業を介護実習普及センターで実施するとともに、シルバー手帳や福祉サービスに関する冊子などの発行により高齢者が自立して生活できるよう支援しています。
 高齢者の社会参加についても、地域における高齢者のボランティア活動や健康づくり活動などを支援するとともに、活動拠点となる地域施設の充実に努め、公民館・市民センターや老人福祉センターなどにおいて、高齢者地域参画支援事業、シルバー・カレッジや各種講座を開催し、学習機会の提供を図っています。
 また、高齢化の進展に伴って、増加する寝たきりや痴呆症の人など介護を要する高齢者を社会全体で支援する仕組みとして、平成12年度から介護保険制度がはじまり、さらに、保健・医療・福祉の連携強化を図り、総合的・効率的なサービスを展開するとともに積極的に地域づくりを進めるため、平成13年(2001年)4月には保健部門と福祉部門を統合した保健福祉センターを各区に設置しました。
 一方、学校教育においては、高齢者が培ってきた伝統、文化のすばらしさを理解させるとともに、高齢者に対する敬愛の心情を育成するなどの福祉教育に取り組んでいます。
 世代間交流については、公民館で実施されている講座や高齢者関連イベントの中で交流事業を実施し、世代間の相互理解や連帯感を深める取り組みも行っています。

(2)課題
 高齢者が健康で豊かな生涯を過ごすためには、保健・医療・福祉サービスなどの社会サービスの配慮はもちろんのこと、人間としての尊厳が重んじられ、一人ひとりの人生観や信条が大切にされる差別のない明るい社会を作ることが必要です。また、社会の重要な一員として、その個性や能力を十分に発揮しながら主体的に社会活動に参画し、生きがいをもって生活し活動できるような環境づくりが必要です。
 このため、公民館での高齢者地域参画支援事業や市民センターのシルバーカレッジなどにおいては、趣味的な要素から社会参加的要素へと学習内容を組み替えてきているところですが、今後は、その学習した成果を生かせる機会をつくっていかねばなりません。
 また、世代間交流事業も重要ですが、スポーツ・レクリエーションを通した相互親睦を図るものが中心となっているため、今後は、高齢者の知識や経験を生かした社会奉仕活動や文化伝承活動なども含めた幅広い分野において、高齢者と他世代が連携して交流を進めていくことにより、相互理解を促進していくことが重要です。
 あわせて、学校教育においては、高齢者が地域づくりのために尽くしてきたことを理解するとともに、心と心が触れ合う体験的学習の機会をさらに充実することが必要です。
 一方、高齢者に対する介護者等による肉体的虐待、心理的虐待をはじめ、高齢者の孤独死や自殺、高齢者を対象とした詐欺事件などの増加が懸念されます。医療や福祉だけでなく、高齢者の人権擁護には多方面からの総合的な対応を図るため、ネットワークづくりや、相談窓口の充実が求められます。介護サービスの基盤の整備や介護サービスの向上を推進するとともに、医療・福祉・介護従事者等への高齢者の人権に関する研修や、一般市民の意識の高揚に努めることが重要です。
 高齢者の人権問題については、広く市民が関心を持つよう一層の周知に努め、特に若い世代への周知を進めるとともに、市民全体が高齢者に対する認識と理解を深め、高齢者が社会の重要な一員としていきいきと暮らすことのできる社会の実現を目指して、啓発活動を進めていく必要があります。


 5. 障害者に関する問題

(1)現状
 障害者の福祉は、ライフステージのすべての段階において全人間的復権を目指すリハビリテーションの理念と、障害のある人も地域の中で普通の暮らしができる社会を目指すノーマライゼーション*(注釈9)の理念とを基本としています。これらの理念は、昭和56年(1981年)の「国際障害者年」のテーマである「完全参加と平等」の根底に流れる理念であり、障害者が一人の人間として尊重され、社会を構成する一員として、可能な限り自己の能力を発揮して社会経済活動に参加し、自立した生きがいのある生活を営むことができるように、社会環境や生活環境の整備をしていくことです。
 平成5年(1993年)12月に制定された「障害者基本法」では「すべて障害者は、個人の尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい処遇を保障される権利を有する」、「すべて障害者は、社会を構成する一員として社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会を与えられる」という基本的理念が示されています。そして、平成14年(2002年)には、「新障害者基本計画」(平成15~24年度)及び「重点施策実施5カ年計画」(新障害者プラン・平成15~19年度)が策定されました。
 本市においては、平成12年(2000年)に策定された「福岡市保健福祉総合計画」に基づき様々な施策を推進しています。障害者問題の啓発活動については、12月9日の「障害者の日」を中心に、街頭啓発や障害のある人とない人との交流を目的とする福祉啓発イベント「ときめきフェスタ福岡」などを行っています。障害者団体、施設、作業所、民間福祉活動団体などにおいても、講演会や体験学習、地域交流などが取り組まれており、平成9年(1997年)8月には、障害者施設や作業所で作られた製品の常設販売店舗「ときめきショップ」を開設し、製品紹介を通じての市民啓発にも努めています。
 学校教育においては、養護学校と近隣の小・中学校の児童・生徒と活動を共にする交流教育や地域住民と共同で夏祭りなどを行う地域交流事業を実施し、障害のある子どもやその教育に対する理解と認識を図っています。
 また、学校教育関係者や市民に対する講演会を実施するとともに、「発達教育センターだより」や啓発パンフレット「一人一人の教育的ニーズに応じたきめこまかな教育を」の発行を通して啓発を進めています。
 社会教育においては、知的障害がある青年に対し、学習の場や交流の機会を提供することにより、社会人・職業人としての適応力を養い、社会参加の促進を図ることを目的に、養護学校で青年学級を開催しています。
 精神障害者については、障害者社会参加総合推進事業などに基づき、各区保健福祉センターや精神保健福祉センターを中心に、差別・偏見是正のための啓発を目的とした講演会や研修会などを行うとともに、精神障害者への理解を深めるための精神保健福祉に関係する職員及び関係機関職員などへの研修を行っています。
 また、12月の人権尊重週間での様々な行事や人権啓発地域推進組織*(注釈2)の事業などにより、障害者に対する差別や偏見を解消し、人権意識の高揚を図るための取り組みを進めています。
 しかしながら、近年、障害者の状況を見ると、高齢化及び障害の重度・重複化の傾向が見られます。また、障害や障害者に関する理解と認識の不足から、いじめや虐待を受けたり、本人や家族が差別的な発言を受けるなど、障害者の人権が傷つけられ、自立と社会参画が妨げられているなどの問題も見られます。

(2)課題
 障害者問題についての理解は、これまでの取り組みと近年の人権意識の高揚により、一定の広がりは見せてはいますが、同情的な態度であったり、障害者を対等な一人の人間として認識できていないなど、不十分な面も見られます。障害者が一人の人間として尊重され、誰もが同じように生活し活動できる社会の実現に向け、基本的な理解、認識を深めるための広報・啓発を図り、障害や障害者に対する理解の不足から生じる差別や偏見の解消に努めなければなりません。
 そのためには、子どもから大人まですべての人々が、障害者への理解と思いやりの心を養い、具体的な行動に結びつくような、市民それぞれの発達段階に応じた研修・啓発を進めるとともに、様々な機会を捉えた障害者との交流を図る必要があります。
 また、障害者の地域における生活の場の確保と社会参加を促進するためには、障害者の視点に立った都市環境の整備というハード面を含め、ノーマライゼーション*(注釈9)の理念を広く社会に定着させ、「完全参加と平等」についての理解と認識を深める取り組みを進めていくことが重要です。


 6. 外国人に関する問題

(1)現状
 今日、日本全国に暮らす外国人の数は約178万人にのぼり、総人口の1%を超えています。そのうちの約50万人は特別永住者であり、特別永住者のほとんどが、朝鮮半島を日本が植民地とした歴史的な経緯の中で、日本に住むようになった韓国・朝鮮の人々とその子孫であり、「在日韓国・朝鮮人」と呼ばれる人々です。在日韓国・朝鮮人は、最初に渡日した世代(1世)も日本での暮らしが既に長く、その子孫である2世・3世は日本で生まれ育った人たちです。
 福岡市には、現在、約1万8千人の外国人が居住しており、人口の約1%を越えています。この十年間の、日本全体の外国人の増加と歩調を合わせて本市の外国人も増加しており、外国人数の全人口に占める割合も全国平均とほぼ等しい状況にあります。国籍別では、中国籍と韓国・朝鮮籍とがともに約4割を占めるなど、アジア系の人々が多いという特色があります。また在日韓国・朝鮮人を主とする特別永住者が約5千人暮らしています。
 このような中、異なる文化について相互理解が十分でないことなどから、外国人に対する民間住宅への入居差別、就労に関する不利な扱いなど、様々な人権問題が発生しています。また、在日韓国・朝鮮人については、民族的偏見により、就職・結婚などにおいて差別を受けている事象や、児童・生徒に対するいやがらせなども発生しています。
 このような状況を踏まえ、本市でも、平成15年(2003年)6月に「福岡市国際化推進計画」を策定し、外国人の基本的人権が尊重されるとともに、国籍・文化が異なる人々が共働*(注釈4)でまちづくりを推進する多文化共生の都市を目指した取り組みを進めています。

(2)課題
 現在、日本語教室の実施や都市サイン整備、レインボープラザでの英語による心理カウンセリング、法律相談(通訳つき)など、外国人が生活するうえでの障害の除去とともに、留学生による外国語教室、校区国際交流活動助成など地域レベルでの国際交流活動を幅広く展開しています。これらの市民レベルの交流事業などを通して、相互理解を育み、異なる文化に対する理解、共に生きる意識の醸成に努めていくことが、ますます重要になっていきます。
 学校教育においては、平成9年(1997年)7月に「在日外国人の人権に関する学校教育指導指針」を策定し、市立学校に在籍する在日外国人に対する差別や偏見をなくし、すべての子どもが互いに理解し、敬愛し、協力し合う心と態度を育む学校教育の実現に努めています。
 今後は、さらにその内容の充実を図り歴史や文化に対する認識を深め、人種・民族・国籍を問わず、すべての人々の人権を尊重する真の国際理解・国際協調の精神を養うとともに、多様な文化をお互いに尊重し合う「共生の心」を醸成する教育を推進していくことが必要です。
 また、交流を通じて日本人の異なる文化に対する理解、外国人の日本文化理解を深め、異なる文化と共生できる社会を築いていくとともに、在日韓国・朝鮮人など、外国人の基本的人権に関する諸問題を解決するため、様々な機会を捉えた啓発活動を進めていく必要があります。


 7. HIV感染者などに関する問題

(1)現状
 医療技術の進歩や医療体制の整備が進んでいる一方、今なお、様々な病気に関しての正しい知識と理解が十分に普及しているとはいえません。特に、エイズやハンセン病など疾病に対する正しい認識が不足しているものについては、患者や感染者など*(注釈10)、さらにはその家族に対してまで、差別や偏見及び排除など人権にかかわる問題が発生しています。
 本市では、パンフレットの作成・配布、街頭啓発、各種イベント、マスメディアなどを活用し、疾病及び感染予防に関する正しい知識の普及・啓発を行うとともに、保健所の医師などが、地域、職場、学校などへ出向いて行う、出前講座を実施しています。
 エイズ教育は、人権尊重を基盤として、エイズに関する科学的な認識を深めるとともに、エイズ患者、HIV感染者*(注釈11)への差別や偏見をなくし、共に生きていこうとする意識や行動を育てることを目標に取り組んでいます。
 さらに、教職員については全員を対象とした研修をより専門的な立場で継続的に実施して、教職員の指導力や人権意識の高揚を図るための研修も行っています。

(2)課題
 市民のエイズに関する関心が低下してきており、「エイズは自分には関係ない」といったムードも一部にはあるなど、啓発活動の重要性が増してきています。
 患者や家族の基本的人権が守られ、安心して生活していく社会を実現していくため、市民に対する感染予防のための正しい知識の普及啓発を行うとともに、感染者などに対する差別や偏見をなくすことを目的とした啓発活動が重要であり、今後は、より一層人権尊重の視点に立った教育・啓発活動や、プライバシーに配慮した医療体制の整備やカウンセリング体制の充実を図るとともに、常に最新の情報を入手することにより、実状にあった効果的な教育・啓発活動を展開しなければなりません。
 また、患者、感染者の生活の質の向上を図り、地域で支援するため、保健所、医療機関、NGO(非政府組織)などとのネットワーク化を進める必要があります。
さらに、結核やハンセン病、腸管出血性大腸菌O157、SARSなどエイズ以外の患者や感染者など*(注釈10) 、さらにはその家族に対する差別や偏見をなくす教育・啓発も必要です。


 8. 様々な人権問題

(1)現状
 現在の社会には、これまでに述べてきた人権問題のほか、様々な人権にかかわる問題が存在しています。
 アイヌの人々に対する偏見や差別は、アイヌ民族独自の言語、風俗習慣及び伝統をはじめとする固有の文化に対する知識や理解の不足から生じています。その他、ホームレス、犯罪被害者やその家族、さらには、刑を終えて出所した人やその家族など、様々な人々に対する偏見や差別も根強いものがあります。また、近年の情報通信技術の発達に伴い、自己の意志とは関係なく個人の情報が収集・蓄積・利用され、個人のプライバシーが侵害されるといった、インターネットなどを利用した人権侵害など、社会情勢の変化に伴う新たな人権問題が発生してきています。
 さらに、古くからの伝統的な慣習や風習などの中には、合理的な理由や科学的根拠がないにもかかわらず、日常的に深く浸透し、先入観により無意識のうちに差別意識を植え付けているものがあります。

(2)課題
 このような様々な人権問題や、今後新たに生じてくる人権問題についても、人権を尊重するという視点に立った教育・啓発の取り組みが必要です。


第3章 人権教育・啓発の基本計画

 第2章で整理した様々な分野における人権問題の解決にあたっては、それぞれの現状、課題を見すえながら、人権教育及び人権啓発の取り組みを、効果的かつ計画的に推進していくことが必要です。
 従って、本章では、次の3つの視点から、今後本市が取り組むべき施策の方向性について、<具体的施策の方向性>として示しました。
 ○「あらゆる場における人権教育・啓発の推進」
 ○「特定職業従事者の人権教育・啓発の推進」
 ○「人権教育・啓発の効果的な推進」
 また、本市においては、これまで、人権問題の解決に向け、それぞれ個別分野における取り組みを中心に推進してきましたが、人権問題が多様化・複雑化する中、あらゆる人権問題の解決を図るためには、問題解決に向けた総合的な取り組みを推進していくことも重要です。
 従って、<具体的施策の方向性>に基づく取り組みにあたっては、次の2つの手法を組み合わせながら、総合的な視点に立った人権教育及び人権啓発を推進していきます。
  ◇ 『個別分野における人権問題の解決にあたっては、それぞれの問題を、あらためて「人権」という視点でとらえ直し、他の分野における問題とも関連づけることにより、あらゆる人権問題の解決につなげていく手法。』
  ◇ 『「法の下の平等」、「個人の尊重」など、人権問題に共通する普遍的な理念を踏まえて人権意識の高揚を図ることにより、個別分野における人権問題の解決につなげていく手法。』


 1. あらゆる場における人権教育の推進

 暮らしの隅々にまで人権の意識が根づいた人権尊重が当たり前という社会を築く、すなわち人権という普遍的文化を構築するためには、まずは、子どもから大人まで市民の一人ひとりが、日常生活にある様々な人権問題についての理解を深めることから始まります。
 従って、市民一人ひとりが、学校、家庭・地域及び職場などのあらゆる場面において人権尊重の心を育み、人権意識に根ざした行動ができるような学習を進めていくことが重要であり、そのための、生涯にわたっていつでも気軽に学習できるような場の提供や充実を図る必要があります。

(1)就学前教育機関における人権教育
 乳幼児期は、心身の成長・発達が極めて盛んであり、心豊かに伸びていく可能性に富んだ時期です。この時期の人間形成の基礎づくりにおいては、子どもたちの人権感覚の芽生えを育み、「生きる力」を培うとともに、一人ひとりの違いを認め合い、その違いを個性として尊重することなどを理解させることが重要です。
 本市においても、身近な出来事を取り上げた人権教材を作成し、子どもの保育に活用するとともに、地域での学習会などを開催し、家庭や地域との交流・連携を深めてきました。
 しかしながら、急速な少子・高齢化の進展に伴い、子育ての孤立化や地域における教育力の低下、児童虐待の増加など子どもの将来に対する不安が広がってきています。
 このような中、今後は、乳幼児の発達段階を踏まえつつ、幼稚園教職員や保育所(園)職員が乳幼児期の人権感覚をはじめ、道徳性の芽生えを伸ばし育てるための適正な働きかけをしていくことが必要です。また、人権を基盤にすえた保育を行っていくためには、幼稚園教職員・保育所職員が同和問題をはじめ様々な人権問題に関する正しい理解と認識を深め、自らの人権感覚を高めることが必要です。

<具体的施策の方向性>

ア.  家庭、地域、関係行政機関との交流・連携の強化

○就学前教育の取り組みの充実
 人に対する思いやりの心や相手を尊重する気持ちを育て、自律・協調の態度を培うため、幼稚園・保育所においては、乳幼児一人ひとりの背景を考慮し、地域や親をも巻き込んだ就学前教育の取り組みを一層充実していきます。
○小学校・関係行政機関との積極的な交流・連携
 幼稚園・保育所と、小学校、保健福祉センター、こども総合相談センターなど関係行政機関との積極的な交流・連携を図ります。
     
イ. 幼稚園教職員・保育所職員の資質の向上

○研修内容の充実
 幼稚園教職員・保育所職員の資質の向上を図るため、研修においては、幼稚園・保育所と小学校との連携を図るとともに、内容のより一層の充実を図ります。
 
(2)学校における人権教育
 これまでの学校教育においては、人権読本「ぬくもり」をはじめ、道徳副読本や男女平等教育副読本などを活用するとともに、養護学校と地域の小中学校との交流活動などを実施してきました。また、「福岡市同和教育基本方針」を踏まえ、学校教育のあらゆる分野に同和教育を位置づけ、全教育活動を通して、人間尊重の精神に徹し、真に差別をなくしていく意志と実践力を持った人間の形成に努め、一定の成果が見られています。
 しかしながら、児童・生徒の差別や偏見などによる問題行動や、いじめ・不登校など、解決すべき問題が依然として発生しており、人権意識の高揚を図るための学習指導法の工夫・改善、効果的な教職員研修の実施などが求められています。また、これまでも、国際理解教育*(注釈12)を推進していく中で、人種・民族・国籍・文化などの多様性を互いに尊重しあう「共生の心」を育む教育を行ってきましたが、在日韓国・朝鮮人をはじめとする在日外国人に対する差別や偏見は依然として残されています。
 人権教育は、全教育活動を通して、生命を大切にし人権を尊重する心などの基本的な倫理観をはじめ、正義感や公正さを重んじる心などの「豊かな人間性」を育むことを基盤にして推進されなければなりません。また、児童・生徒の発達段階に応じた適切な指導を行うとともに、指導の系統化を図るため、幼稚園、保育所、小・中・高等学校、養護学校の校種間の連携が必要です。さらに、人権教育の推進にあたっては、教職員の果たす役割は大きく、校長をはじめ教職員一人ひとりが、児童・生徒の実態を踏まえ、学校における教育課題を明確にし、その課題解決にあたることが必要です。

<具体的施策の方向性>

ア.  学習指導法の工夫・改善

○心の教育の充実
 「福岡市教育改革プログラム」*(注釈13)を踏まえた人権教育や道徳教育を推進し、他人を思いやる心や生命を大切にし人権を尊重する心などを育成する教育の充実を図ります。
○学習指導法の工夫・改善 
 児童・生徒が自分で課題を見つけ、自ら学び自ら考える力を身につけられるよう、幼稚園、保育所、小・中・高等学校、養護学校の校種間の連携を図り、それぞれの発達段階に応じた学習指導法の工夫・改善をしながら人権教育を推進するとともに、障害のある児童・生徒が地域における様々な活動に参加し交流を深めることができるような機会の充実に努めます。
○人権教育の内容の充実
 これまでの同和教育の中で培われてきた手法や、その中で得られた成果や課題を踏まえながら、さらに人権教育の内容の充実に努めます。
○効果的な教材の整備・活用
 人権読本、道徳副読本、男女平等教育副読本など、身近なことを題材にし、児童・生徒の関心や意欲を引き出させるような効果的な教材を、それぞれの発達段階に応じて、さらに整備し活用していきます。
     
  イ. 効果的な教職員研修の実施

○研修内容の充実
 教職員が自らの職責を自覚し、豊かな人権感覚を培うなど、教職員としての資質の向上を図るため、研修の実施にあたっては、障害のある人や高齢者などとの交流や、車イス、アイマスク体験などの学習を積極的に行うなど、内容の充実や実施方法の工夫を行うとともに、各学校の実態に応じた効果的な研修となるよう努めます。
     
  ウ. 国際理解教育の推進

○在日外国人の人権に関する教育の充実
 「在日外国人の人権に関する学校教育指導指針」や「在日外国人の人権に関する学校教育指導資料集」の趣旨を踏まえ、在日外国人が在籍する・しないにかかわらず、すべての学校において、発達段階に応じた、在日外国人の人権に関する教育が適切に行われるよう努めます。
○国際理解教育の充実
 国際理解教育を推進していく中で、人種・民族・国籍・文化などの多様性を互いに尊重しあう「共生の心」を育む教育をさらに充実していきます。

(3)家庭・地域における人権教育・啓発
 これまで、公民館、市民センターや人権啓発センターなどにおいて、様々な人権問題に関する研修会・講演会や各種イベント等を実施し、市民の人権に関する知識の習得は進んできましたが、市民一人ひとりが人権問題を自らの課題としてとらえ、生活の中で実践していくこと、すなわち、日常的な人権感覚が十分に身に付いていないなどの課題も残されています。 
 一人ひとりの人権が尊重される社会を実現するためには、人権尊重の視点に立った行政施策を推進し、豊かな人権文化を地域で育てていくことが大切です。そのためには、市民の多様な学習ニーズに対応する学習機会を提供することが必要です。また、家庭で育まれる人権意識や、地域社会の一員としての意識・連帯感の果たす役割が重要であり、人権の尊重を基調とした家庭や地域の教育力の充実に努めることも重要です。
 なお、本市の特徴的な地域ぐるみの取り組みとして、人権啓発地域推進組織*(注釈2)の活動が展開されており、これら組織は、地域での人権問題解決に向けた自主的な取り組みを促進する重要な役割を担っています。今後は、このような市民主体の取り組みが充実されるととともに、本市の取り組みを充実させることにより、人権尊重のまちづくりに向けた、「市民・行政共働型」*(注釈4)の取り組みを推進することが必要です。

<具体的施策の方向性>

ア.  多様な学習ニーズに対応する学習機会の提供

    ○研修会・講演会の積極的な実施
 すべての市民が気軽に身近なところで人権についての理解や認識を深めるとともに、人権を確立するための方法と手段について学習することができるよう、公民館、市民センターや人権啓発センターなどにおいて、研修会・講演会を積極的に実施します。
     
  イ. 家庭や地域の教育力充実のための事業の推進

    ○家庭や地域の教育力充実のための支援
 公民館などで実施される家庭教育学級などの内容・方法の工夫に努めるとともに、地域子ども育成事業を実施するなど、地域の大人一人ひとりが子どもを育むという意識を高め、子どもの主体性や社会性を育む活動を進めていくための支援を行います。
○子どもに関する相談機能の充実・強化 
 「こども総合相談センター」を中心に、子どもの育成に関する悩みなどを抱える家庭に対し気軽に相談できる身近な相談機能を充実・強化するとともに、相談機能相互のネットワークづくりを進めます。
     
  ウ. 市民主体の取り組みの推進

○人権啓発地域推進組織の育成・援助
 地域ぐるみで市民一人ひとりの人権意識の高揚を図るため、人権啓発地域推進組織のすべての小学校区における結成を促進します。また、各組織の状況にあわせて計画的・継続的な活動が行われ、より多くの校区住民の参加が得られるとともに、地域における様々な人権問題に関する意見が反映できる、地域に密着した組織になるよう、その育成・援助に努めます。
○区人権啓発連絡会議の取り組み内容の充実
 人権啓発地域推進組織間の相互連携を促進し、地域レベルでの活動の充実を図るとともに、各区の実情に応じた区レベルでの取り組みを進めるなど、区人権啓発連絡会議*(注釈3)のさらなる充実を図ります。
○市民主体の取り組みの連携強化
 人権啓発地域推進組織、区人権啓発連絡会議と福岡市人権尊重推進委員会*(注釈14)との相互の連携を図ることにより、地域レベルから全市レベルまでが一体となった取り組みを推進していきます。
○市民相互の交流機会の提供
 人権啓発センター登録団体の交流会を積極的に開催するなど、市民相互の情報交換や交流の機会を提供していきます。

 
(4)企業における人権教育・啓発
 企業においては、人権問題の解決をはじめ、地球環境の保全、男女共同参画社会の実現、少子・高齢社会への対応などで果たすべき社会的役割を担っています。
 現在、同和問題をはじめとする人権問題への取り組みとして、公正採用選考人権啓発推進員*(注釈15)を設置している企業では、推進員が中心となり、人権啓発や社内研修が進められております。また、本市においては、公共職業安定所・労働基準監督署など関係行政機関との連携のもと、推進員を対象とした「指導者研修会」や企業事業主に対する「企業事業主研修会」を開催しています。
 しかしながら、依然として企業による「同和地区確認調査」などの問題が発生しており、また、企業によっては、社内研修などの取り組み方に温度差がみられるため、今後も、人権教育及び人権啓発の積極的な取り組みを推進していくことが必要です。
また、同和地区の人々や女性、高齢者、障害者、外国人などのすべての人々の就職の機会均等を保障した公正な採用選考が実施され、配置、昇進、賃金などあらゆる面ですべての人々の基本的人権が尊重された働きやすい職場を実現することが求められています。

<具体的施策の方向性>

ア.  企業内での人権教育・啓発の推進

○企業向け研修の充実
 企業における人権意識の高揚を図るため、企業向け研修の内容の工夫・改善を図り、事業主に対し研修の必要性についての自覚を持つよう働きかけるとともに、公正採用選考人権啓発推進員のさらなる資質の向上が図られるよう努めます。
○社内研修の支援の充実
 研修対象者にあわせた講師の紹介、研修教材の提供など、社内研修の支援の充実に努めます。
○企業への働きかけ
 企業に対し、人権問題に関する情報提供を行うなど、人権教育及び人権啓発の自主的な取り組みが行えるよう積極的な働きかけを行います。
     
  イ. 就職の機会均等の確保と働きやすい職場づくり

○企業に対する法制度の周知
 同和地区の人々や女性、高齢者、障害者、外国人など、すべての人々の就職の機会均等を保障した公正な採用選考が実施され、基本的人権が尊重された働きやすい職場を実現するために、企業に対し「労働基準法」や「男女雇用機会均等法」、「高齢者雇用促進法」、「障害者雇用促進法」などの法制度の周知を図るとともに、企業において人権意識の高揚を目指した取り組みが行われるよう、国・県などの関係行政機関と連携して企業への働きかけを推進していきます。


 2. 特定職業従事者の人権教育・啓発の推進

 すべての市民の人権が尊重される社会を目指すためには、あらゆる人々を対象に人権教育及び人権啓発を進めなければなりませんが、特に、市職員、教職員、社会教育関係者、福祉関係者、保健・医療関係者、マスメディア関係者など、人権の擁護に深いかかわりを持つ職業に従事する人たちに対しては、すべての人に優しいユニバーサルデザインの理念*(注釈16)も踏まえ、重点的な人権教育及び人権啓発が必要です。
 
(1)市職員
 全体の奉仕者である公務員は、憲法の基本理念の一つである基本的人権の尊重の視点に立って、行政を進めていくことが求められており、豊かな人権感覚を身につけた市職員が、人権に配慮した行政を推進することによって、真の意味での市民サービスの提供が行われます。
 本市においても、人権にかかわる研修を、新規採用者から管理・監督者にいたるまで体系的に実施するとともに、各職場においても、研修に取り組んでいますが、今後とも、嘱託員なども含め、すべての職員が、あらゆる人権問題に関する正しい理解と認識を深めるとともに、具体的な職務遂行の中で生かしていくことが重要です。また、これまでは、職員が自らの業務を人権という視点から遂行する意識が十分ではなく、すべての部局のすべての職員が日常業務を常に人権尊重の視点からとらえ直し、必要に応じ工夫・改善を図ることが求められています。

<具体的施策の方向性>
○総合的な研修の実施
 すべての職員が、人権問題を正しく認識したうえで、それぞれの職務に応じたきめ細かい人権感覚を身につけ、日常の職務に生かすとともに、地域における人権啓発活動に生かせるよう、また、すべての部局における日常業務を常に人権尊重の視点からとらえ直し、必要に応じ工夫・改善できるよう、人権問題に関する総合的な研修を積極的に実施していきます。
○消防職員に対する実践的な研修の実施
 消防職員の職務は、市民の生命・財産を守ることであり、それ自体が人権に深いかかわりがあるため、消防学校などにおいて、消防業務における具体的な事例などを踏まえた、より実践的な研修手法の工夫や、内容の充実を図ります。
 
(2)教職員
 21世紀を担う子どもたちの人権尊重の心と態度を育成し、学校における人権教育の推進を図るためには、まず教育活動に携わるすべての者が学校教育の現状や課題を十分に理解し、豊かな人権感覚と科学的認識を身につけ、自らの資質の向上に努めていくことが重要です。
本市においても、教職員を対象とした研修を実施していますが、児童・生徒の差別や偏見などによる問題行動などが依然として発生しており、今後も積極的な取り組みが必要です。

<具体的施策の方向性>
○研修内容の充実
 教職員が自らの職責を自覚し、豊かな人権感覚を培うなど、教職員としての資質の向上を図るため、研修の実施にあたっては、障害のある人や高齢者などとの交流や、車イス、アイマスク体験などの学習を積極的に行うなど、内容の充実や実施方法の工夫を行うとともに、各学校の実態に応じた効果的な研修となるよう努めます。
(*再掲:1-(2)-イ「効果的な教職員研修の実施」)
○各学校における人権教育推進体制の確立
 各学校では、教育課題の明確化・共通理解を図るとともに、家庭・地域及び校種間の連携を図りながら、校長を中心として全教職員が一体となり、人権教育推進体制の確立に努めます。
○私立教育機関への働きかけ
 私立の幼稚園、小・中・高等学校、大学など、私立の教育機関における教職員に対し、人権問題に関する情報提供を行うなど、人権教育及び人権啓発の自主的な取り組みが行えるよう積極的な働きかけを行います。
 
(3)社会教育関係者
 社会教育主事*(注釈17)や、公民館職員などに対し、これまでも人権に関する共通の理解を深めるための研修を実施してきました。
 地域では、リーダーシップを発揮し周りに働きかけていくような人材が求められており、今後も、社会教育関係者のさらなる助言・指導技術の向上を図り、地域における指導者育成につなげていくことが重要です。

<具体的施策の方向性>
○実践的な研修手法の工夫・内容の充実
 社会教育主事や公民館職員に対する研修の実施にあたっては、それぞれの職員の知識や経験に応じ、実践に結びつくような研修手法の工夫や、内容の充実を図ります。

(4)福祉関係者
 地域において日常的に福祉に携わる民生委員・児童委員は、「住民相互が支え合う地域づくり」の中で大きな役割が期待されており、また、福祉施設や事業所の職員は、サービス利用者の生活に直接かかわることが多いことから、人権感覚を磨くことが求められており、これら福祉関係者に対し、人権に関する研修を実施してきました。
 今後も、民生委員・児童委員は、地域における役割についてさらに認識を深めていくこと、また、福祉施設職員については、人間の尊厳と個人のプライバシー保持などの重要性を十分認識し、サービス利用者一人ひとりを尊重する、人権意識に根ざした行動を実践することが求められています。

<具体的施策の方向性>
○福祉関係者相互の交流及び実践的な研修手法の工夫・内容の充実
 これら福祉関係者の人権意識の高揚が一層図られるよう、民生委員・児童委員や福祉施設などの関係機関との交流を深めるとともに、研修の実施にあたっては、実践に結びつくような研修手法の工夫や、内容の充実を図ります。
 
(5)保健・医療関係者
 市立病院や保健所などにおいて診療業務に従事する医師・看護師などの医療関係職員及び様々な人たちの健康問題に関して相談を受け、訪問指導などを行う保健師などについては、市民の健康と生命を守ることを使命とし、個人の生活に深いかかわりを持つ業務を担っています。このため、医師や看護師、保健師などを対象に、研修を実施してきました。
 今後も、保健・医療関係者すべてが人権問題を正しく認識・理解し、患者などを個人として尊重するとともに、プライバシーへの配慮や病歴・相談内容などの個人情報の保護に努めるなど、人権に関してきめ細やかな配慮を行う必要があります。

<具体的施策の方向性>
○市立病院の医師や看護師などに対する研修の積極的な実施
 市立病院や保健所の医師や看護師、保健師などが、人権問題を正しく理解・認識し、一人ひとりの人権意識の高揚を図り、その成果を診療・指導業務及び地域保健活動に生かせるよう、今後も人権に関する研修を積極的に実施します。
 
(6)マスメディア関係者
 情報化社会の進展が著しい今日、新聞、テレビ、ラジオなどのマスメディアからの情報は、市民の意識の形成や価値判断に大きな影響力を持っており、人権尊重の社会を形成するうえで重要な役割を担っています。このため、マスメディア関係者は、常に人権尊重の視点に立った取材活動や報道を行うことが望まれます。

<具体的施策の方向性>
○マスメディア関係者への働きかけ
 マスメディア関係者に対し、人権問題に関する情報提供を行うなど、人権教育及び人権啓発の自主的な取り組みが行えるよう積極的な働きかけを行います。


 3. 人権教育・啓発の効果的な推進

 人権教育及び人権啓発を総合的・体系的な視点からより効果的に推進していくためには、学習の場の提供や学習内容の充実、啓発手法の検討、教材の研究や開発、あるいは講師・指導者の育成などの諸施策を積極的に進めていくとともに、市民の自発的な取り組みを支援する人権啓発センターの機能充実を図っていくことが必要です。

(1) 学習の場の提供
 現在、本市においては、地域における生涯学習施設として、一小学校区一公民館という基本方針のもとに公民館が設置されており、市民が気軽に利用でき、日常生活圏内における身近な学習の場として大きな役割を担っています。また、各区の市民センターにおいては、各種事業の実施や学習活動の援助、公民館の助言・指導などを行うとともに、市民の自主的な各種活動の場を提供し、区毎に特性を生かした様々な学習を推進してきました。他にも女性センター、市民福祉プラザなど、市民に学習する場を提供しており、広汎な、そして専門的な学習活動が展開されています。今後も、このような施設を人権に関する市民の学習の場として積極的に提供していかなければなりません。
 また、人権についての様々な情報提供や、学習、市民交流を行う場として、平成12年(2000年)7月1日に人権啓発センターを開設し、図書・ビデオ・啓発資料などの閲覧及び貸し出し、コミュニティスペースの提供、市民・グループによる情報交換会の実施などを進めてきており、今後も市民の学習の場としてさらなる利用促進を図ることが必要です。
なお、人権のまちづくり館は、同和問題解決のため、行政と住民の接点として重要な役割を果たしてきましたが、今後は、地域レベルでの同和問題をはじめとする人権問題の学習、啓発、情報収集発信の拠点や同和地区内外の住民交流の拠点としての機能を高めていく必要があります。

<具体的施策の方向性>
○公民館、市民センターや人権啓発センターなどの施設利用の促進
 公民館、市民センターや人権啓発センターなど、市民の学習・交流を支援する施設の情報提供を充実するなど、施設の利用促進を図り、人権学習の場の提供に努めます。
○人権のまちづくり館の機能の充実
 公民館などとの緊密な連携のもと、地域における学習、交流の場としての充実を図ります。

(2) 学習内容の充実
 人権学習を効果的に進めていくためには、市民一人ひとりが人権問題を自分自身の問題としてとらえ、日常的な人権感覚を身につけられるような学習内容にすることが必要です。
 また、指導者や専門家から単に「知識を習得する」だけでは十分ではなく、学習者がお互いの考えや体験を交流させ、その中から、積極的に自らの力で新しい発見をすることが重要です。

<具体的施策の方向性>

  ア.  学習内容の充実

○研修会や各種イベントなどの内容や形態の工夫・改善
 研修会・講演会や各種イベントなどの実施にあたっては、市民一人ひとりが人権問題を自分自身の問題としてとらえ、日常的な人権感覚を身につけられるよう、これまで積み上げられてきた成果を踏まえるとともに、様々な思いや願いを抱えている人との交流などにより差別の痛みなどを共有できるような内容や、若年層から高齢者層までより幅広い層の相互交流により市民一人ひとりの相互理解を深められるような内容にするなど、工夫・改善を図ります。
     
  イ. 幼児期における保育内容の充実

    ○就学前教育の取り組みの充実
 人に対する思いやりの心や相手を尊重する気持ちを育て、自律・協調の態度を培うため、幼稚園・保育所においては、乳幼児一人ひとりの背景を考慮し、地域や親をも巻き込んだ就学前教育の取り組みを一層充実していきます。
(*再掲:1-(1)-ア「家庭、地域、関係行政機関との交流・連携の強化」)
     
  ウ. 学校における学習内容の充実

○学習指導法の工夫・改善 
 児童・生徒が自分で課題を見つけ、自ら学び自ら考える力を身につけられるよう、幼稚園、保育所、小・中・高等学校、養護学校の校種間の連携を図り、それぞれの発達段階に応じた学習指導法の工夫・改善をしながら人権教育を推進するとともに、障害のある児童・生徒が地域における様々な活動に参加し交流を深めることができるような機会の充実に努めます。
(*再掲:1-(2)-ア「学習指導法の工夫・改善」)
○人権教育の内容の充実 
 これまでの同和教育の中で培われてきた手法や、その中で得られた成果や課題を踏まえながら、さらに人権教育の内容の充実に努めます。(*再掲:1-(2)-ア「学習指導法の工夫・改善」)
     
  エ. 企業における学習内容の充実

○企業向け研修の充実
 企業における人権意識の高揚を図るため、企業向け研修の内容の工夫・改善を図り、事業主に対し研修の必要性についての自覚を持つよう働きかけるとともに、公正採用選考人権啓発推進員*(注釈15)のさらなる資質の向上が図られるよう努めます。
(*再掲:1-(4)-ア「企業内での人権教育・啓発の推進」)
○社内研修の支援の充実
 研修対象者にあわせた講師の紹介、研修教材の提供など、社内研修の支援の充実に努めます。
(*再掲:1-(4)-ア「企業内での人権教育・啓発の推進」)

(3) 効果的な啓発手法・情報提供の推進
 本市では、公民館、市民センターや人権啓発センターなどを中心として、研修会・講演会や各種イベントなどの啓発事業を実施しています。今後とも、市民一人ひとりの人権が真に尊重される社会を実現するためには、人権教育の積極的な推進とともに、人権意識の高揚を図るための啓発イベントの実施や情報提供、広報活動などの人権啓発を効果的に推進し、市民一人ひとりが人権問題を自分自身の問題としてとらえられるようになることが重要です。
 そのためには、様々な人権啓発の取り組みにおいて、身近な事例を取り上げたり、表現や内容を分かりやすいものにすることや、学校、地域、職場における取り組みの中で積み上げられてきた手法を生かすとともに、新たな手法を開発していくことが必要です。また、子ども、高齢者、障害者、外国人などに十分な配慮を行うなど、受け手の立場に立って進めていくことが大切です。
 さらに、市民への情報伝達の手段として、新聞、テレビ、ラジオなどのマスメディアが果たす役割や影響は大きく、人権教育及び啓発を効果的に推進するにあたっては、マスメディアを活用し、人権に関する様々な情報を一人でも多くの市民に提供していく必要があります。

<具体的施策の方向性>
○各種啓発イベントの積極的な実施
 学校や家庭・地域、関係機関・団体との連携を図りながら、人権啓発フェスティバル*(注釈18)、福岡市人権尊重週間行事*(注釈19)などの各種啓発イベントを積極的に実施します。
○研修会や各種イベントなどへの参加の促進
 「人権のつどい」などの研修会、講演会や各種イベントへの幅広い市民層の参加を促進するため、これら研修会等について、広報誌(紙)やインターネット等の媒体を積極的に活用して適宜・適切に情報提供を行うとともに、広報内容や日程の工夫などを行います。
○研修会や各種イベントなどの内容や形態の工夫・改善
 研修会・講演会や各種イベントなどの実施にあたっては、市民一人ひとりが人権問題を自分自身の問題としてとらえ、日常的な人権感覚を身につけられるよう、これまで積み上げられてきた成果を踏まえるとともに、様々な思いや願いを抱えている人との交流などにより差別の痛みなどを共有できるような内容や、若年層から高齢者層までより幅広い層の相互交流により市民一人ひとりの相互理解を深められるような内容にするなど、工夫・改善を図ります。
(*再掲:3-(2)-ア「学習内容の充実」)
○教材に関する積極的な情報提供
 人権啓発センターや市民センターなどで閲覧・貸出を行っている人権に関する図書、ビデオ、啓発資料などが広く市民に活用されるよう、これらに関する情報提供を積極的に行います。
○学習相談体制などの充実 
 市民の自主的な活動を支援・促進するため、人権啓発センターの学習相談体制を強化し、企画・運営への助言、教材の積極的な提供などに努め、個人、団体、知識・経験などの違いに配慮したより効果的・実践的な人権啓発を行います。
○効果的な情報提供
 市民が容易に情報を入手できるようにするため、インターネットホームページのさらなる充実や広報誌(紙)の積極的な発行などにより、効果的な情報提供を行うとともに、各部局が発行する各種冊子のすべてに、人権尊重の視点を盛り込み、効果的な人権啓発に努めます。
○マスメディアとの連携
 マスメディアとの連携を深めながら、情報提供を行い、様々な形で人権に関する事柄が取り上げられるよう積極的な働きかけを行います。

(4) 人材の育成・活用
 すべての市民の人権が尊重される社会の実現を目指し、幅広い市民への人権教育及び人権啓発を推進していくためには、市民の日常生活の身近なところで人権学習のリーダーとして活動する指導者の役割が重要です。
 本市においても、これまで、PTAの役員・委員や社会教育関係団体の指導者などを対象に研修会や講座を実施してきており、様々な人権問題に関する知識の習得や理解を深めることができましたが、一方で、次世代を担う後継者の育成が進まないといった課題も残されています。
 今後は、市民センター・公民館や人権啓発地域推進組織*(注釈2)などが相互に連携を図り、後継者の育成を含め、地域に密着した人材の育成を推進するとともに、地域における指導者としての実践力を向上させていくことが必要です。

<具体的施策の方向性>
○地域指導者などに対する研修の充実
 地域において人権教育及び人権啓発を担う人材の育成及び指導者としての資質向上を図るため、人権啓発地域推進組織や女性協議会の役員など、地域で活動している指導者や、本市の人権分野の指導員・相談員、人権啓発推進者*(注釈20)、さらには人権分野の講師などを対象に、研修会や交流会を積極的に実施するとともに、実践に結びつくような研修内容などのさらなる充実を図ります。
○新たな地域指導者の人材発掘 
 地域で活動しているNGO(非政府組織)やNPO(非営利団体)などと積極的に交流・連携を図り、次世代を担う新たな地域指導者の人材発掘に努めます。
○実践的な研修手法の工夫・内容の充実
 社会教育主事*(注釈17)や公民館職員に対する研修の実施にあたっては、それぞれの職員の知識や経験に応じ、実践に結びつくような研修手法の工夫や、内容の充実を図ります。
(*再掲:2-(3)「社会教育関係者」)
○人材情報のデータベース化及びその活用
 人材の効果的な活用を図るため、人権啓発センターを中心として、関係機関とのネットワークを構築し、人権分野の講師リストを作成するなど人材情報のデータベース化を進め、その活用を図ります。

(5) 教材の開発・整備
人権教育及び人権啓発を促進するにあたっては、優れた指導者とともに、効果的な教材が必要です。これまでにも、視聴覚教材や人権読本などの様々な教材を整備してきましたが、今後も、これらの教材を含め、人権に関連する様々な教材を人権尊重という視点で見直し、様々な人権課題に対応した教材の開発・整備を進め、一層の活用を図っていくことが必要です。

<具体的施策の方向性>
○パンフレットなどの活用及び体系的な教材の開発・整備
 本市で作成している様々な人権に関する啓発冊子、パンフレット、リーフレットなどを、人権教育及び人権啓発の取り組みの中で積極的に活用していきます。また、関係行政機関や本市の関係部局相互の連携を図りながら、対象者の知識や興味などにあわせた基礎的なものから専門的なものまでの体系的な教材の開発・整備に努めます。
○成長・発達過程に応じた教材の開発・整備 
 就学前教育機関においては、保育の環境に留意しながら、成長・発達過程を十分把握し、それに応じた教材の開発・整備に努めます。
○学校教育における効果的な教材の整備・活用
 学校教育においては、人権読本、道徳副読本、男女平等教育副読本など、身近なことを題材にし、児童・生徒の関心や意欲を引き出させるような効果的な教材を、それぞれの発達段階に応じて、さらに整備し活用していきます。(*再掲:1-(2)-ア「学習指導法の工夫・改善」)
○地域社会や職場における教材の整備・活用及び自主教材の開発
 地域社会や職場における学習用の教材については、新たな教材の整備を行うとともに、その内容を十分吟味して活用していきます。さらに、参加体験型学習が普及する中、学習内容別・学習対象別の自主教材の開発に努めます。

(6) 総合的なネットワークづくり
 人権問題が複雑化・多様化している中、あらゆる人権問題の解決を図るためには、個別分野におけるそれぞれの方針・計画に基づき施策を推進していくだけではなく、個別分野ごとの人権問題相互の関連性なども視野に入れた総合的な取り組みが求められています。

<具体的施策の方向性>
○総合的な取り組みの推進
 人権教育及び人権啓発を効果的に推進していくため、本市の各部局相互の緊密な連携のもと、人権問題の解決に向けた総合的な取り組みを進めていきます。
○市民団体や専門家などとの積極的な連携、ネットワークの形成
 人権問題に関連した活動を行っている市民団体や専門家などと積極的に連携を図り、ネットワークを形成することにより、市民参加による人権教育及び人権啓発の推進体制づくりを目指します。


第4章 基本計画の推進にあたって

 1. 全庁体制での推進

(1)全庁的な推進組織の設置
 この基本計画は、暮らしの隅々まで人権が根づいた、人権尊重が当たり前であるという社会、すなわち、人権という普遍的文化を構築するとともに、お互いの多様性を認め合う共生社会を実現し、「人権を尊重し、人の多様性を認め合うまち」福岡市を目指すために策定するものです。
 本市においては、全庁的な推進組織である「福岡市人権教育・啓発推進本部(仮称)」を設置し、全庁体制での取り組みにより、人権教育及び人権啓発を市政のあらゆる分野で推進し、基本計画の実現を目指します。

(2)個別分野の計画との関連
 第2章で整理した様々な分野における課題解決のために、本市においては、それぞれの分野ごとに個別の計画や方針を策定しています。
 これら個別分野の計画などに基づく各部局の取り組みの中で、様々な教育・啓発事業を推進していくにあたっては、今後は、各部局が常にこの基本計画の趣旨を踏まえながら、その方向性に沿った教育・啓発の取り組みとなっているかを点検しながら推進していくことが必要です。
<個別分野の計画や方針>
○福岡市人権・同和行政基本方針
○ふくおか男女共同参画プラン
○福岡市子ども総合計画
○福岡市保健福祉総合計画
○福岡市国際化推進計画 など

 2. 関係行政機関、地域や民間団体、企業などとの連携

 基本計画に基づく人権教育及び人権啓発を推進するにあたっては、他の行政機関との取り組みとともに、地域や民間団体、企業での自主的な取り組みの展開が必要です。
行政機関との取り組みにあたっては、福岡地域における人権啓発活動を総合的、効果的かつ効率的に実施することを目的とした福岡地域人権啓発ネットワーク協議会*(注釈21)との連携による推進を図っていきます。
地域においては、人権啓発地域推進組織*(注釈2)との連携を図り、その機能や活動の強化に向けての支援を行い、地域に密着した教育・啓発の展開を進めます。
 また、民間団体や企業に対しても、教育・啓発に対する取り組みのさらなる充実を働きかけるとともに、研修教材や情報の提供などの支援を行い、教育・啓発の積極的、効果的な推進が図られるよう連携を深めていきます。
 特に、企業での取り組みについては、同和問題の解決を目指して自主的に取り組みを推進している福岡市企業同和問題推進協議会*(注釈5)、さらには、福岡市同和問題企業研修推進会議*(注釈22)の働きかけのもとに、基本計画の推進を図っていきます。

 3. 基本計画の見直し

 この基本計画は、「福岡市人権教育・啓発推進本部(仮称)」のもと、その進捗状況と効果について定期的な評価を行い、その結果を本市の様々な行政施策の推進に反映させるとともに、必要に応じ見直すものとします。


用語解説

注釈1:市民

 この計画においては、市民を、福岡市に住んでいる人のほか、福岡市に滞在する人、通勤・通学する人などを含めて幅広くとらえている。

 注釈2:人権啓発地域推進組織(校区人権尊重推進協議会など)

 本市独自の取り組みとして、部落差別をはじめ一切の差別をなくすための活動を地域ぐるみで展開する目的で、昭和50年(1975年)以降、自治会、社会教育関係団体、人権擁護委員、民生委員・児童委員、小・中・養護学校及び公民館などにより結成された組織。地域住民による人権尊重の地域推進組織活動が進められ、年々広がりを見せている。
 144小学校区のうち136校区(135組織)において結成されており(平成15年4月現在)、地域の特性を生かして、自主的・主体的に、同和問題をはじめ様々な人権問題に関する研修会・学習会などの開催、広報紙発行による啓発活動などの諸事業が活発に展開されている。

 注釈3:区人権啓発連絡会議

 地域(校区)の自主的な推進組織づくりの促進を図ることを目的に、平成元年に各区毎に設立されたもの。その構成は、区内の各校区自治会や校区に基盤を持つ各種機関・団体をはじめ、人権啓発地域推進組織(校区人権尊重推進協議会等)も参加しており、推進組織づくりの気運の醸成を図るため、意見交換会、研修会・講演会、広報紙の発行などを行っている。

 注釈4:共働

 子どもも高齢者も、障害者も健常者も、女性も男性もすべての人が、また、市民・地域コミュニティ・NPO・企業・大学・行政などあらゆる主体が、お互いの役割と責任を認め合い、相互関係・ パートナーシップを深めながら、知恵や力をあわせ、長所や資源を活かして、共に汗して取り組み、行動すること。

 注釈5:福岡市企業同和問題推進協議会

 同和問題の解決を図るため、企業の社会的責任と自覚のもとに、会員相互が連携して同和問題の正しい理解と認識を深め、同和対策対象地域住民の就職の機会均等を図ることを目的とした協議会で、福岡市内の民間企業約500社で構成されている。

 注釈6:エンパワーメント

 「力をつけること」の意。具体的には、自らの意識と能力を高め、政治的、経済的、社会的及び文化的に力を持った存在となることを意味している。

 注釈7:セクシュアルハラスメント

 性的いやがらせ。特に、労働の場において相手の意に反した性的な性質の言動を行い、その対応によって仕事を遂行する上で一定の不利益を与えたり、それを繰り返すことにより就業環境を著しく悪化させること。

 注釈8:児童の権利に関する条約

 平成元年の国連総会で採択された条約で、18歳未満のすべての者を対象とし、差別の禁止、生存・発達の権利、意見表明権や表現の自由、教育への権利、虐待や放任からの保護、プライバシーの保護など、子どもの幅広い権利を認めたもの。我が国は平成6年(1994年)に批准。

 注釈9:ノーマライゼーション

 障害者や高齢者など心身に障害のある人もない人も、地域社会の中でともに暮らせるような社会が通常であるという考え方。

 注釈10:患者や感染者など

 エイズやハンセン病などの患者や感染者だけではなく、ハンセン病の場合、疾病自体は治癒しているものの、高齢で身寄りがないことや、国の強制隔離政策により長期間にわたり社会との交流が絶たれてきたことなどにより、社会復帰が困難な状況にある人々に対する差別や偏見などの問題も発生しており、このような問題をなくすための取り組みも重要な課題である。

 注釈11:エイズ患者、HIV感染者

 エイズ(後天性免疫不全症候群)とは、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)によって引き起こされる感染症で、HIVに感染すると身体を病気から守る免疫系が破壊されて、様々な感染症や悪性腫瘍(しゅよう)にかかりやすい状態になり、これらの病気が発病した状態(人)をエイズ(患者)という。また、発病はしていないが、HIVに感染した人をHIV感染者という。

 注釈12:国際理解教育

 国際的視野で行動することのできる真の国際人の育成を目指す教育。他の国や民族の主体性を尊重し、文化や伝統を価値のあるものとして認め、理解する態度を育む。

 注釈13:福岡市教育改革プログラム

 21世紀の社会展望や、子どもたちをめぐる現状を踏まえ、豊かな心とたくましく生きる力を持った子どもを育むことを目的に、平成12年(2000年)7月に本市において策定したプログラム。

 注釈14:福岡市人権尊重推進委員会

 人権意識の高揚を図る幅広い市民運動としての「福岡市人権尊重週間行事」を実施するための組織で、本市を含む35の関係機関や団体の代表65名で構成され、同行事について審議し、実施する組織。

 注釈15:公正採用選考人権啓発推進員

 昭和52年(1977年)12月、労働省(現厚生労働省)は、同和問題の正しい理解と認識のもとに、公正な採用が実施され、同和地区住民の雇用の促進とすべての就職の機会均等の確保が図られることを目的に、企業内同和問題研修推進員制度を定めた。その後、「公正採用選考人権啓発推進員」と改称され、公正な採用システムを図る上での企業内の取り組みにおいて中心的な役割を果たしている。福岡県内の従業員数30人以上の事業所に対し、公共職業安定所が「公正採用選考人権啓発推進員」の設置を指導している。

 注釈16:ユニバーサルデザインの理念

 障害の有無や年齢、性別を問わず、すべての人が自由に、快適に利用でき、行動できるような思いやりあふれる配慮を、まちづくりやものづくりなどのあらゆる場面で、ハード・ソフトの両面から行っていこうとする考え方。

 注釈17:社会教育主事

 公民館及びPTAなどの社会教育関係団体に対して、専門的技術的な助言・指導にあたっている職員で、職務の一環として、同和問題をはじめとする様々な人権問題に関する研修の助言・指導を行っている。

 注釈18:人権啓発フェスティバル

 様々な人権問題に取り組んでいるNPOなどと本市が共働して実施している人権啓発行事。コンサートやパネル展、シンポジウムなどを中心に、平成10年度より毎年実施されている。

 注釈19:福岡市人権尊重週間行事

 国連により世界人権宣言が採択されたことを記念して、日本では12月4日から10日までを「人権週間」と定め、人権啓発活動を全国的に展開している。本市においても、昭和47年(1972年)よりこの期間を福岡市人権尊重週間として制定し、各区において人権のつどいなどを実施するほか、人権啓発映画のテレビ放送や街頭啓発など、差別のない明るいまちづくりを推進する取り組みを行っている。

 注釈20:人権啓発推進者

 あらゆる人権問題を早期に解決することを目指し、行政の各分野において啓発活動を積極的に推進するため、その推進役として本市の各局(区)から推薦された職員。

 注釈21:福岡地域人権啓発ネットワーク協議会

 福岡法務局管内区域に所在する国、地方公共団体、人権擁護委員組織体及びその他の人権啓発の実施主体が、地域の実情に応じて相互に連携協力することにより、福岡地域における人権啓発活動を総合的、効果的かつ効率的に実施することを目的として、現在、福岡法務局、福岡人権擁護委員協議会、福岡市ほか16市町村で構成された組織。

 注釈22:福岡市同和問題企業研修推進会議

 福岡市内に所在地を有する企業の事業主及びその従業員に対して、同和問題についての正しい理解と認識を広め、もって、同和対策対象地域住民の就職の機会均等と安定的就労の確保を図ることを目的とした会議で、公共職業安定所、労働基準監督署、福岡市、福岡市教育委員会により構成。